弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鈴木多人の上告趣意第一点について。
 一、原判決が被告人の原審公判廷における自白のみを証拠として、原判示の犯罪
事実を認定したことは所論のとおりであるが、当該公判廷における自白は刑訴応急
措置法第一〇条第三項にいわゆる自白に包含せられないことは当裁判所の判例とす
るところである。(昭和二三年七月二九日言渡、同年(れ)第一六八号大法廷事件
判決)故に、原判決は右法条に違背するとの論旨は理由がない。
 二、被告人に対する逮捕状に逮捕日時として昭和二二年九月二二日午後九時と記
載せられていることは所論のとおりであるが、右は同年九月二九日の誤記であるこ
とは、本件犯罪は同月二十七、八日に亘つて行われたものであること、同年九月三
十日附逮捕状請求書には、右逮捕日時を同月二九日と記載せられていること、その
他、一件記録に徴し、明瞭である。従つて、論旨にいうがごとき不法拘禁の事実は
認められない。
 三、原判決が、その証拠にとつた原審における被告人の自白は、六ケ月余の長期
拘禁後の自白であることも所論のとおりであるけれども、被告人は警察および検察
庁の取調べ以来本件犯行を自白し、つゞいて被告人の勾留後約五十日で開かれた第
一審公判においても、同様自白をしている。しかして右期間の勾留は本件の罪状そ
の他諸般の事情からみて、不当に長い拘禁とはいえないのであるから、右第一審公
判における自白を繰り返しているに過ぎない原審公判における自白は、特段の事情
の認められない本件においては、前記長期の拘禁が原因となつて自白するに至つた
ものでないことは、明らかであるといわなければならぬ。たとえ、長期拘禁後の自
白であつても、その拘禁と自白との間に因果関係のないことのあきらかな場合は、
刑訴応急措置法第一〇条第二項にいわゆる不当に長い拘禁後の自白にあたらぬとす
ることは、当裁判所の判例である。(昭和二三年六月三〇日言渡、同二二年(れ)
第二七一号事件大法廷判決)従つて、原判決に所論のごとき同条違反の違法ありと
いうことはできない。論旨はいずれも理由がない。
 同第二点について。
 いかなる限度において、証人の訊問を行うかは、事実審たる原裁判所の自由裁量
により決すべきところであつて、本件において、被害物件の帰属その他、論旨主張
のような事柄について、原審が弁護人申請にかゝる被告人妻の証人訊問を採用せず、
また、特に職権をもつて、窃盗被害者を証人として喚問しなかつたからといつて、
所論のごとく条理に反し、実験則を無視した違法のかどありとは認められない。ま
た、憲法第三七条第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは組織構成等におい
て偏頗のおそれなき裁判所の裁判という意味であつて、同条が弁護人の主張するご
とき意義を有するものでないことは、当裁判所の既に判例とするところに徴し明瞭
である。(昭和二三年七月一四日言渡、同二三年(れ)第二五三号事件大法廷決)
論旨は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 以上は論旨第一点中刑訴応急措置法第一〇条第三項にいわゆる自白の意義に関す
る裁判官塚崎直義、同沢田竹治郎、同井上登、同栗山茂の少数意見(昭和二三年七
月二九日言渡、同年(れ)第一六八号大法廷事件判決参照)を除き、全裁判官一致
の意見である。
 検察官十蔵寺宗雄関与。
  昭和二三年一二月一日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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