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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
芝税務署長が,原告に対し,平成17年11月28日付けでした次の各更正処
分(以下「本件各更正処分」という。)及び各賦課決定処分(以下「本件各賦課
決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)をいずれ
も取り消す。
1原告の平成11年1月1日から平成11年12月31日までの事業年度(以
下「平成11年12月期」という。)の法人税の更正処分のうち所得金額5億
7843万8966円,納付すべき法人税額1億9879万9300円を超え
る部分及び過少申告加算税の賦課決定処分
2原告の平成12年1月1日から平成12年12月31日までの事業年度(以
下「平成12年12月期」という。)の法人税の更正処分のうち所得金額マイ
ナス24億6310万0861円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金24
億6310万0861円を下回る部分
3原告の平成13年1月1日から平成13年12月31日までの事業年度(以
下「平成13年12月期」という。)の法人税の更正処分のうち所得金額マイ
ナス35億8186万6130円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金60
億4496万6991円を下回る部分
4原告の平成14年1月1日から平成14年12月31日までの事業年度(以
下「平成14年12月期」という。)の法人税の更正処分のうち翌期へ繰り越
す欠損金44億1446万6869円を下回る部分
5原告の平成15年1月1日から平成15年12月31日までの事業年度(以
下「平成15年12月期」という。)の法人税の更正処分のうち所得金額0円
を超える部分,納付すべき税額マイナス1802円を超える部分及び翌期へ繰
り越す欠損金32億9998万3912円を下回る部分並びに過少申告加算税
の賦課決定処分
6原告の平成16年1月1日から平成16年12月31日までの事業年度(以
下「平成16年12月期」という。)の法人税の更正処分のうち所得金額0円
を超える部分,納付すべき税額マイナス1260円を超える部分及び翌期へ繰
り越す欠損金28億1599万1546円を下回る部分並びに過少申告加算税
の賦課決定処分
第2事案の概要
本件は,原告が,原告に対してバナナを販売しているバハマ法人で租税特別措
置法66条の4にいう国外関連者に該当するP1からエクアドル共和国(以下
「エクアドル」という。)産バナナを輸入した取引(以下「本件国外関連取引」
という。)について,原告がP1に支払った対価の額が同条にいう独立企業間価
格を超えているとして,芝税務署長が,平成11年12月期ないし平成13年1
2月期について,上記独立企業間価格と本件国外関連取引の対価の額との差額を
原告からP1に対する所得移転額であると認定し,平成11年12月期ないし平
成16年12月期の法人税について本件各更正処分を行うとともに,平成11年
12月期,平成15年12月期及び平成16年12月期の過少申告加算税に係る
本件各賦課決定処分をしたことに対し,本件各処分は,寄与度利益分割法を用い
て独立企業間価格を算定したこと,寄与度利益分割法を用いるに当たり日本市場
の特殊要因により生じた原告の営業損失を分割対象利益から控除しなかったこ
と,原告とP1が支出した販売費及び一般管理費(以下「販管費」という。)の
額の割合により分割対象利益を分割したこと,理由付記に不備があることを理由
に違法であると主張して,本件各更正処分のうち確定申告に係る所得金額,納付
すべき法人税額を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金額を下回る部分並びに当
該部分に係る過少申告加算税に係る本件各賦課決定処分の取消しを求めた事案で
ある。
1関係法令等の定め
本件に関係する法令等の定めは,別紙1「関係法令等の定め」記載のとおり
である。
なお,以下では,租税特別措置法(ただし,平成11年12月期ないし平成
13年12月期については平成13年法律第7号による改正前のもの,平成1
4年12月期については平成14年法律第79号による改正前のもの,平成1
5年12月期及び平成16年12月期については平成16年法律第14号によ
る改正前のものをいう。以下同じ。)を「措置法」という。
また,租税特別措置法施行令(ただし,平成11年12月期ないし平成13
年12月期については平成13年政令第141号による改正前のもの,平成1
4年12月期については平成14年政令第271号による改正前のもの,平成
15年12月期及び平成16年12月期については平成16年政令第105号
による改正前のものをいう。以下同じ。)を「措置法施行令」という。
2争いのない事実等
(1)当事者等
ア原告は,農産物の輸入及び卸売販売を目的とし,日本に本店を有する株
式会社であり,英国領バミューダ諸島に本店を置く法人であるP2が原告
の発行済株式の全部を保有している。
P1は,バハマに本店を置く法人であり,原告と同様,P2がその発行
済株式の全部を保有している。
すなわち,原告とP1は,いずれもP2によって発行済株式の全部を保
有されている兄弟会社の関係にあり,P1は,本件各事業年度において,
措置法66条の4第1項,措置法施行令39条の12第1項2号に規定す
る原告の国外関連者に該当する。
イP3は,P2の発行済株式の全部を保有するとともに,エクアドルに本
店を置く法人であるP4の発行済株式の過半数を保有している。
(2)本件国外関連取引の概要等
ア原告,P1,P2,P3及びP4らは,「P5・グループ」を形成し,
エクアドルを拠点としてエクアドル産バナナの輸出業務に携わっており,
エクアドルの農園で生産されたバナナをP4が購入し,P1に輸出販売し
た上,P1が原告に販売し,原告が日本国内で卸販売している。
イエクアドルでは,バナナの生産及びマーケティングの促進並びに規制の
ための法律の改正法(以下「バナナ管理法」という。)により,バナナ生
産者からの買取価格及び同国からのバナナの輸出価格にそれぞれ下限が設
定されている(以下,これらの価格をそれぞれ「最低買取価格」及び「最
低輸出価格」といい,エクアドル政府によるバナナ管理法に基づくこれら
の価格規制を「エクアドル政府規制」という。)。
(3)本件各処分等の経緯
ア本件各事業年度に係る原告の確定申告及び各更正処分等の経緯は,別表
1-1ないし1-6記載のとおりである。
イ処分行政庁による本件各処分等の経緯について
(ア)同業者に対する調査等の実施
処分行政庁は,本件国外関連取引に係る独立企業間価格(以下「本件
独立企業間価格」という。)の算定に当たり,措置法66条の4第2項
1号イが定めている「独立価格比準法」,同号ロが定めている「再販売
価格基準法」又は同号ハが定めている「原価基準法」の3種類の方法
(以下,これらの方法を総称して「基本三法」という。)を用いること
ができるか検討するために,本件国外関連取引と比較可能な取引を選定
するため同業者に対する調査を行うこととし,まず,バナナの輸入に関
する同業者団体に臨場し,各団体の加入各社の状況から調査対象とすべ
きバナナの輸入業者と考えられる法人が25社あることを把握した。
処分行政庁は,上記25社に対し,①果実の輸入販売に係る取引商品
の種類及び年間取扱高,②取引上位3商品に係る商品別の仕入先,住
所,国外関連者該当の有無及び仕入価格算定方法,③取引上位3商品に
係る商品別の売上先,住所及び売上価格算定方法,④直近の6事業年度
に係る全社損益,輸入バナナの取引損益,その他取扱輸入青果の損益に
ついて,回答を求めたところ,当該25社全社から回答を得たが,その
うち7社は,実際にはバナナの輸入仕入れを行っていないことが判明し
たことから,これを除外することとした。
残る18社のうち4社は,台湾産バナナを取り扱う業者であることが
判明したところ,台湾産バナナの輸入取引は,エクアドル産バナナの輸
入取引と異なり,季節商品として取引期間が限定されているため継続的
な契約と異なり取引価格が固定されにくく,取引数量も大きく異なる
上,台湾産バナナは,固有のブランド力ともいうべき付加価値があると
評価されており,その取引価格はエクアドル産バナナに比べて高値であ
ったことから,このような取引時期や取引数量,商品の持つ固有のブラ
ンド力の違いは,台湾産バナナとエクアドル産バナナの各輸入取引にお
ける取引価格や利益率に大きな影響を与えているが,その差異を数値化
して調整することは困難であるとして,これら4社を検討の対象から除
外することとした。
残る14社のうち4社は,国外関連者との間でバナナの輸入取引を行
う業者であることが判明したところ,そもそも独立企業間価格は,支配
従属関係にない独立した企業間において取引条件その他の事情が同一又
は類似の状況の下で行われたとした場合に成立するであろう対価の額を
算定しようとするものであるから,国外関連者との取引を比較対象取引
とすることは意味がないとして,これら4社を検討の対象から除外する
こととした。
また,上記14社のうち別の3社は,原告と比較してバナナの販売規
模が約40分の1から約400分の1と極端に小規模であることが判明
したところ,かかる取引規模の差異が取引価格や利益率に与える影響に
ついて,その差異を調整するには困難が生じる可能性が高いとして,こ
れら3社を検討の対象から除外することとした。
さらに,上記14社のうち別の3社は,バナナの仕入販売ではなく,
その輸入金額に応じて手数料を収受するという輸入代行取引を行う業者
であり,輸入販売業者である原告とは事業形態や取引上果たす機能が異
なることが判明したため,検討の対象から除外することとした。
残る4社のうち1社は,平成16年4月頃からエクアドル産バナナの
輸入取引を開始した新規参入業者であったところ,同社によるエクアド
ル産バナナの取引は,仕入販売ではなく,輸入代行取引であり,原告と
は事業形態や取引上果たす機能が異なる上,一般に事業の立上げ時期は
事業が効率化しておらず,取引数量も少ない等の事情により,継続的に
活動している法人と比べて取引価格や利益率に看過できない差異が生
じ,取引規模にも大きな差異があるとして,検討の対象から除外するこ
ととした。
残る3社のうち2社は,自社の責任における輸入販売取引を事業内容
としているものの,仕入価格が販売価格から一定の手数料,関税その他
経費を控除して決定され,日本の市況変動リスクを負担せず,実質的に
販売数量の一定率が利益となるような形で設定されており,原告とは利
益構造について差異があり,商品の売残り値引き等による損失発生リス
クについて差異を数値化して調整することは困難であるとして,検討の
対象から除外することとした。
以上の結果,処分行政庁は,残ったフィリピン産バナナの輸入取引を
行う1社(以下「A社」という。)に絞り,同社の取引を比較対象とす
ることとした。
(イ)基本三法を用いた比較対象取引の選定の検討
処分行政庁は,独立価格比準法(措置法66条の4第2項1号イ)に
おける比較対象取引は,国外関連取引と「同種の棚卸資産」について
「同様の状況」でなされたものである必要があるところ,A社が取り扱
う商品はフィリピン産バナナであり,エクアドル産バナナの輸入取引で
ある本件国外関連取引とは,棚卸資産の種類,生産地,輸出国等の点で
差異が認められるとして,独立価格比準法を用いて本件独立企業間価格
を算定することはできないと判断した。
また,原価基準法(措置法66条の4第2項1号ハ)は,内国法人の
再販売機能に着目し,棚卸資産の取得原価に通常の利潤を加算すること
で独立企業間価格を算定する方法であり,内国法人が棚卸資産を非関連
者から仕入れて関連者に再販売した場合を想定した算定方法であるが,
原告は棚卸資産であるエクアドル産バナナを国外関連者から仕入れ,非
関連者に再販売しているため,原価基準法を採用することもできないと
判断した。
再販売価格基準法(措置法66条の4第2項1号ロ)は,国外関連取
引に係る棚卸資産の買手が非関連者に対して当該棚卸資産を再販売した
対価の額から通常の利潤の額を控除して計算した金額をもって当該国外
関連取引の対価の額とする方法であり,この通常の利潤の額は,非関連
者から購入した国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産
を非関連者に販売した取引に基づいて算定する(措置法施行令39条の
12第6項)ところ,エクアドル産バナナには,バナナ管理法に基づ
き,バナナ生産者からの買取価格及びバナナの輸出価格にそれぞれ最低
買取価格及び最低輸出価格が設定されており,かかるエクアドル政府規
制は,通常の利潤の額の算定等に影響を及ぼすことが客観的に明らかで
あり,その差異の調整が必要である(措置法施行令39条の12第6項
ただし書)が,最低買取価格及び最低輸出価格の算出方法や計算式等は
明らかでなく,実際にエクアドル政府により定められた最低輸出価格の
推移からも,その算定根拠を推認させるような何らかの規則性を認める
ことはできず,結局,エクアドル政府規制が本件国外関連取引の対価や
利益率に及ぼす影響額を具体的,客観的に算定して数値化することがで
きず,その差異を調整できないとして,再販売価格基準法を用いて本件
独立企業間価格を算定することはできないと判断した。
(ウ)寄与度利益分割法(措置法施行令39条の12第8項)の適用
処分行政庁は,原告及びP1は,エクアドル産バナナの取引価格につ
いて交渉することもなく,日本の市況動向や原告及びP1の財務状況を
掌握しているP4がこれを一方的に決定し,原告及びP1は,エクアド
ルで生産されたバナナが日本で販売されるまでの事務作業を分担し,そ
のために要する費用をそれぞれ負担していると認められ,いわばP4を
含むP5・グループが日本にエクアドル産バナナを販売するための手足
として流通段階における各々の業務を担っているに過ぎないとして,原
告及びP1との間の本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定に当
たっては,双方の営業利益の合計を,その利益を生むために要した費用
に応じて分割するという寄与度利益分割法により算定することが最も適
していると判断した。
(エ)分割要因の選択
処分行政庁は,措置法施行令39条の12第8項は,寄与度利益分割
法に用いる分割要因について,「支出した費用の額,使用した固定資産
の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに
足りる要因」と規定しており,具体的な分割要因としてどのようなもの
を用いるべきかは,取引両当事者の果たす機能を正確に分析し,様々な
行為に妥当なウェイト付けを行い得る基準である必要があるところ,本
件国外関連取引は,エクアドル産バナナという1種類のみを仕入れたま
まの状態で売買するという単純な取引であり,本件国外関連取引に関
し,原告及びP1が行う業務は,いずれもエクアドル産バナナの仕入販
売業務及びこれを支える一般管理業務のみであり,研究開発や製造など
他の業務を伴うものではなく,これらの業務は,製造設備等の固定資
産,重要な無形資産等を使用するものではなく,専ら両社の役員,従業
員による仕入販売活動及びこれを支える管理業務に支出された費用によ
り実現されたものであるから,原告とP1がそれぞれ行った上記業務の
利益獲得に対する相対的寄与度は,両社の仕入販売活動及びこれを支え
る管理業務に関して発生した全ての費用の額,すなわち両社の販管費の
額が指標となるものといえるとして,寄与度利益分割法により,原告及
びP1との間の独立企業間価格を算定するに当たっては,その分割要因
を両社が支出した販管費とするのが最適であると判断した。
(オ)本件独立企業間価格の算定
処分行政庁は,以上の判断に基づき,本件各事業年度の本件独立企業
間価格は,P1の原告に対する取引に係る営業利益を円換算した額(別
表8⑦欄)及び原告の営業利益の額(別表8⑭欄)の合計額,すなわ
ち,分割対象利益の額(別表8⑯欄)に,P1の原告に対する取引に係
る販管費の額(別表8⑥欄)及び原告の販管費の額(別表8⑬欄)の合
計額に占める原告の販管費の額の割合(別表8⑰欄)を乗じた額(別表
8⑱欄)が,原告の税務上の調整後営業利益の額となり,原告の売上高
(別表8⑨欄)から,当該原告の税務上調整後営業利益(別表8⑱欄)
及び原告の販管費の額(別表8⑬欄)の合計額を減算した金額が,本件
国外関連取引に係る独立企業間価格(別表8⑲欄)となり,原告の申告
上の売上原価(別表8⑩欄)から原告の本件独立企業間価格(別表8⑲
欄)を減算した額が,国外関連者であるP1への所得移転額(別表8⑳
欄)であるとして,本件各処分をした。
ウ本件各処分の根拠及び適法性について
本件各処分の根拠及び適法性についての被告の主張は,別紙2「本件各
処分の根拠及び適法性に関する被告の主張」記載のとおりである。
エ原告は,平成18年1月26日,本件各処分を不服として,東京国税局
長に対し,異議申立てをしたが,平成19年6月22日付けでこれを棄却
する旨の決定を受けたため,同年7月23日,国税不服審判所長に対し,
審査請求をしたが,平成21年5月28日付けでこれを棄却する旨の裁決
を受けたことから,同年11月27日,本件各処分の取消しを求めて本件
訴訟を提起した。
3本件の争点
本件の争点は,本件各処分の適法性に関する以下の4点である。
(1)本件独立企業間価格を算定するに当たり,寄与度利益分割法を用いたこ
との違法性(寄与度利益分割法は,基本三法を用いることができない場合に
限り,これを用いることができる(措置法66条の4第2項1号柱書)とこ
ろ,本件国外関連取引について,基本三法のうち再販売価格基準法を用いる
に当たり,エクアドル政府規制が「通常の利益率」(同号ロ)の算定に当た
って必要な調整を加えるべき「差異」(措置法施行令39条の12第6項)
に当たるにもかかわらず,その調整が不可能であるとして,再販売価格基準
法を用いることができないとしたことは違法か否か。)(以下「争点1」と
いう。)。
(2)寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり,原
告が平成12年12月期及び平成13年12月期において計上した営業損失
の全額を分割対象利益としたことの違法性(上記各事業年度における原告の
営業損失の全部又は相当部分は,日本市場におけるエクアドル産バナナの市
場価格の下落などの日本市場の特殊要因により生じたものであって,本件国
外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから,これを分割対象利益か
ら除外すべきであったのにそれをせず,営業損失の全額を分割対象利益とし
たことは違法か否か。)(以下「争点2」という。)。
(3)寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり,分
割要因として,原告及びP1が支出した販管費を用いたことの違法性(措置
法施行令39条の12第8項は「支出した費用の額,使用した固定資産の価
額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要
因」を分割要因とすべき旨規定しているところ,本件において,原告及びP
1が支出した販管費がこれに当たるとしたことは違法か否か。)(以下「争
点3」という。)。
(4)本件各処分に係る理由付記の不備の有無(以下「争点4」という。)
4本件の争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件独立企業間価格を算定するに当たり,寄与度利益分割法を
用いたことの違法性)について
(原告の主張)
ア再販売価格基準法を適用するに当たり,国外関連取引に係る棚卸資産の
買手が当該棚卸資産を非関連者に対して販売した取引と比較対象取引との
間に,その売手の果たす機能その他において差異がある場合でも,両者の
間に存在する全ての差異を調整しなければならないものではなく,「通常
の利益率」(措置法66条の4第2項1号ロ,措置法施行令39条の12
第6項)に客観的に明らかな重大な影響を与える差異についてのみ調整す
れば足りる。
イ(ア)措置法施行令39条の12第6項が,調整すべき差異として「売手
の果たす機能」を明示していることからすれば,比較対象取引との比較
においては,「売手の果たす機能」が最も重視されるところ,原告とA
社の果たす機能は類似しており,A社の売上総利益率は原告にも当ては
まるべきものであるから,A社の売上及び原価並びにA社と原告の機能
の類似性の判断について,エクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はな
い。
(イ)バナナ輸入業者による加工業者等に対する再販売は,需要と供給に
よって定まる市場価格である浜値で取引されており,フィリピン産バナ
ナとエクアドル産バナナは競争関係にあるから,原告のエクアドル産バ
ナナの再販売価格にエクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はない。
(ウ)したがって,再販売価格基準法を適用するに当たり必要な要素であ
るA社の売上及び原価,A社と原告の機能の類似性の判断,原告の再販
売価格のいずれについても,エクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はな
い。
ウ(ア)最低輸出価格は,平均すると,本件独立企業間価格を基に算定した
バナナ1カートン当たりの独立企業間価格の2分の1未満であるとこ
ろ,この両者の金額の差異が日本にエクアドル産バナナを輸出する際の
輸送費及び保険費用並びにP1と同様の機能を果たす独立企業の通常の
利益率をカバーするのに十二分なものであれば,エクアドル政府規制は
日本への輸出価格,すなわち,日本の輸入業者による輸入価格に影響を
及ぼすものではないことになる。
(イ)卸売業は,他の業種に比べて売上総利益率が安定することを前提と
すれば,エクアドル産バナナの日本での浜値の値動きと独立の類似業者
の売上原価の動きは,大きく乖離することはないと推測されるところ,
浜値の値動きと最低輸出価格の値動きとの間には全く関連性が認められ
ないと推測され,その結果,独立の類似業者の売上原価の動きと最低輸
出価格の値動きとの間にも関連性が認められず,最低輸出価格と「通常
の利益率」との間にも関連性は認められないと推測される。よって,エ
クアドル政府規制が「通常の利益率」に重大な影響を及ぼしていると解
することはできない。
エ以上によれば,エクアドル政府規制の有無は,バナナ輸入業者の「通常
の利益率」の算定に客観的に明らかな重大な影響を与える差異であるとは
認められないから,再販売価格基準法の適用に当たり,調整を行うべき差
異であるとはいえないところ,被告は,他に再販売価格基準法を用いるこ
とができない理由を主張立証していない。よって,基本三法を用いること
ができないことにつき立証がないことになるから,寄与度利益分割法を用
いたことは違法である。
(被告の主張)
ア(ア)エクアドル政府規制は,バナナ生産者からの買取価格の最低価格で
ある最低買取価格及びバナナの輸出価格の最低価格である最低輸出価格
を設定するものであり,これらの価格は,エクアドル政府による厳格な
規制,監視下にあるため,エクアドルのバナナ生産者から直接バナナを
買い取る業者が最低買取価格を下回る価格でバナナを仕入れること及び
日本にエクアドル産バナナを輸入仕入れする者が最低輸出価格を下回る
価格で仕入れることは,いずれも事実上不可能である。
(イ)日本にエクアドル産バナナを輸入する際の仕入原価は,バナナ自体
の価格に運送費,保険料等のその他の原価及び売手の利益等の積上げか
らなるものであるところ,最低輸出価格の設定によるバナナの価格の上
昇分は,その他の原価等と共に積み上げられ,日本の輸入価格に加算さ
れ,エクアドル政府規制が存在しない場合に比べて日本の輸入価格を引
き上げる要素となるものであるから,エクアドル政府規制は,本件国外
関連取引に係る取引価格に大きな影響を及ぼし,取引当事者による自由
な価格の設定を阻害する要因となっていたことが認められる。
(ウ)したがって,エクアドル以外の国からバナナを輸入する取引を本件
国外関連取引の比較対象取引とする場合,当該国にエクアドル政府規制
と同様の政府規制が存在しないことは,比較対象取引に係る売上原価に
影響を及ぼす要因であるといえ,売上原価は,「通常の利益率」の重要
な算定要素であるから,エクアドル政府規制が「通常の利益率」に影響
を及ぼす規制であることは明らかである。
イ原告は,比較対象取引との比較においては「売手の果たす機能」が最も
重視されるところ,原告とA社の果たす機能は類似しているからA社の売
上総利益率は原告にも当てはまるべきものであると主張する。
しかし,措置法施行令39条の12第6項は,比較対象取引との間で差
異を調整することが必要な場合について,「売手の果たす機能その他にお
いて差異がある場合」と規定しており,「売手の果たす機能」は,調整が
必要な差異の例示にすぎず,棚卸資産の種類や役務の内容等,取引段階,
取引数量,契約条件,取引時期,売手又は買手の果たす機能,売手又は買
手の負担するリスク,売手又は買手の使用する無形資産,売手又は買手の
事業戦略,売手又は買手の市場参入時期,政府の規制及び市場の状況等に
着目して,広く差異調整の要否を判断すべきものとしていることは明白で
ある。
ウ(ア)原告は,最低輸出価格と本件独立企業間価格を基に算定したバナナ
1カートン当たりの独立企業間価格との差額が日本にエクアドル産バナ
ナを輸出する際の輸送費及び保険費用並びにP1と同様の機能を果たす
独立企業の通常の利益率をカバーするのに十二分なものであれば,エク
アドル政府規制は日本の輸入業者による輸入価格に影響を及ぼさないこ
とになる旨主張する。
しかし,原告は,本件国外関連取引の当事者であり,その実態につい
て十分な情報を有しているはずであるにもかかわらず,最低輸出価格と
上記のバナナ1カートン当たりの独立企業間価格との差額が輸送費及び
保険費用等をカバーするのに十二分なものであるか否かについて,その
根拠も示していないのであるから,そもそも主張自体失当である。
また,国外関連取引と比較対象取引に係る差異の調整の要否は,独立
企業間価格を算定するに当たり,基本三法を適用できるか否かを判断す
る過程で検討すべき問題であるから,処分行政庁が基本三法を適用でき
ないと判断した上で,寄与度利益分割法を適用して算出した独立企業間
価格から概算した価格を根拠に,エクアドル政府規制に係る差異の調整
の要否を論ずることは,そもそも前提を誤っている。
(イ)また,原告は,卸売業の利益率が他の業種に比べて安定することを
前提とすれば,エクアドル産バナナの浜値の値動きと独立の類似業者の
売上原価の動きは大きく乖離することはないと推測されるところ,エク
アドル産バナナの浜値の値動きと最低輸出価格の値動きとの間に全く関
連性が認められないから,エクアドル政府規制が「通常の利益率」に重
大な影響を及ぼしているとは解することはできない旨主張する。
しかし,卸売業の利益率が他業種に比べて安定するとの一般論から,
各時期における商品の卸売価格の指標である浜値と輸入価格の推移が連
動するとの結論が直ちに導かれるものではなく,原告の主張はその前提
に論理の飛躍がある。
エ以上によれば,エクアドル政府規制は,「通常の利益率」に影響を及ぼ
す規制であることは明らかであるところ,エクアドル政府規制により本件
国外関連取引に係る対価の額や利益率にどのような影響があるかを数値化
して特定し,その差異を適正に調整することは不可能であったため,再販
売価格基準法を用いることはできなかった。そして,基本三法のうち他の
方法を用いることもできなかったから,寄与度利益分割法を用いたことは
適法である。
(2)争点2(寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当
たり,原告が平成12年12月期及び平成13年12月期において計上した
営業損失の全額を分割対象利益としたことの違法性)について
(原告の主張)
ア(ア)移転価格税制は,独立企業原則の下,「特殊の関係」が認められる
法人と国外関連者間の国外関連取引について,その価格設定が独立企業
間価格から乖離することにより所得が国外に移転することに対処するた
めの制度であるから,当該価格設定と無関係な取引対象商品に対する需
要の大幅な変動等といった当事者が支配できない市場の特殊要因が,国
外関連取引の一方当事者のみならず非関連取引を行う類似企業にも同様
の損失をもたらしている場合には,かかる営業利益の減少に対して移転
価格税制を適用することは,独立企業原則及び移転価格税制の趣旨に反
するため許されず,独立企業間価格を算定するに当たっては,その影響
を排除しなければならない。
(イ)1995年に経済協力開発機構(OECD)が公表した「多国籍企
業と税務当局のための移転価格算定に関する指針」(以下「OECD新
移転価格ガイドライン」という。)3.4も,「独立企業原則の下で
は,失敗の原因が商業上の要因に帰せられる場合に平均より成功してい
ない企業に追加的な税負担を課すことは正当化されない。」と述べ,特
殊の関係による移転価格の設定及び利益の歪み以外の商業上の要因によ
る利益の減少を理由に移転価格課税を行ってはならないとしている。
イ(ア)寄与度利益分割法以外の独立企業間価格の算定方法,すなわち,基
本三法及び基本三法に準ずる方法,取引単位営業利益法,比較利益分割
法及び残余利益分割法においては,移転価格の設定とは無関係な市場の
特殊要因が売上総利益又は営業利益に影響を及ぼしているときは,適切
な非関連者間の比較対象取引を選定し,これと比較することにより,そ
の影響を排除すべきものとされている。これは,独立企業原則及び移転
価格税制の趣旨に基づくものであるから,比較対象取引を使用して独立
企業間価格を算定する基本三法等に限定されるものではなく,寄与度利
益分割法の場合にも同様に当てはまる。
(イ)また,営業利益は,粗利益や価格に影響を及ぼさない種々の要因に
よって影響を受けるため,取引単位営業利益法や残余利益分割法におい
ては,独立の類似法人との比較により,移転価格の設定以外の要因によ
る営業利益への影響を排除すべきものとされているところ,寄与度利益
分割法も,これらの方法と同じく営業利益を用いる方法であるから,独
立の類似法人も同様に受けた移転価格の設定以外の要因による営業利益
への影響を排除すべきことは同様である。
ウ(ア)平成12年12月期及び平成13年12月期において原告が多額の
営業損失を計上した理由は,バナナの輸入量が急増した後の需要の大幅
な減少,エクアドル産バナナの競合品であるフィリピン産ハイランドバ
ナナの輸入量の急増,エクアドル産バナナの輸送中の品質管理方法を切
り替えたことに対する顧客からの誤解に基づくクレーム及びエクアドル
産バナナの残留農薬に係る風評問題の発生等により,日本市場における
エクアドル産バナナの浜値が大幅に下落し,又は顧客が原告との取引を
減少させたことにある。
これらは,国外関連取引の当事者が支配できない日本市場の特殊要因
であり,他のバナナ輸入販売業者にも当てはまるものであって,移転価
格の設定とは無関係であるから,移転価格税制を適用するに当たって
は,これらの要因により生じた営業損失は,当該市場,すなわち日本側
の輸入販売業者である原告に帰属させ,その影響を排除する必要があ
る。
(イ)平成12年12月期及び平成13年12月期において原告が計上し
た営業損失が日本市場の特殊要因によるものであることは,平成11年
12月期,平成14年12月期ないし平成16年12月期における本件
国外関連取引に係る原告の営業利益率が他のバナナ輸入販売業者よりも
極めて高いこと,平成14年12月期及び平成15年12月期には,原
告が多額の営業利益を計上する一方,P1が多額の営業損失を計上して
おり,本件国外関連取引による所得の国外移転がなかったといえること
からも示されている。
(ウ)また,平成12年12月期及び平成13年12月期には,エクアド
ル産バナナを取り扱う原告のみならず,フィリピン産バナナを取り扱う
A社の売上総利益率及び営業利益率も大幅に低下しているところ,原告
とA社は,類似の機能を果たし,類似のリスクを負っており,上記各事
業年度においては,フィリピン産バナナの浜値もエクアドル産バナナと
ほぼ同じ比率で下落しており,原告の売上総利益率及び営業利益率とエ
クアドル産バナナの浜値との間,A社の売上総利益率及び営業利益率と
フィリピン産バナナの浜値との間には,それぞれ非常に高い相関関係が
認められるから,上記各事業年度における原告及びA社の売上総利益率
及び営業利益率の低下は,バナナの浜値の大幅な低下によるものである
と合理的に認められる。
エこのように,平成12年12月期及び平成13年12月期においては,
独立企業間取引か国外関連取引か,フィリピン産バナナかエクアドル産バ
ナナかにかかわらず,バナナの輸入業者は大幅に利益を減少させたのであ
るから,その利益の減少は,移転価格の設定とは無関係な日本市場の特殊
な要因によるものというべきである。よって,移転価格税制を適用するに
当たり,日本市場の特殊な要因により生じた営業損失は,日本の輸入販売
業者である原告に帰属させることにより,その影響を排除する必要があ
る。
したがって,原告が平成12年12月期及び平成13年12月期におい
て計上した営業損失の全額を分割対象利益としたことは違法である。
(被告の主張)
ア(ア)原告は,平成12年12月期及び平成13年12月期において原告
が計上した営業損失は,日本市場の特殊要因に起因するものであるか
ら,寄与度利益分割法を適用するに当たり,当該損失を分割対象利益か
ら除外すべき旨主張する。
しかし,寄与度利益分割法について定めた我が国の租税法規に,市場
の特殊要因に起因する損失を分割対象利益から除外する旨を定めた規定
は存在しないから,原告の主張は,租税法規により定められた独立企業
間価格の算定方法を逸脱した独自の見解というほかない。
(イ)そもそも取引価格は,需要の状況,生産者側の供給動向,消費者等
の購買動向等の市況の状況,為替の動向,経済情勢等の取引当事者がそ
の価格や利益への影響を完全にコントロールすることができない種々の
要素の影響を受けて形成されるものであり,取引当事者は,これらの
種々の要素の存在を踏まえつつ,具体的な取引価格を決定するなどの経
済活動を行い,そうした種々の要因が作用した結果が営業利益となって
現れるものである。
そして,国際取引においては,特定の地域で生じた要因に基づき需給
等の環境に変化が生じた場合,取引にかかわる全ての者が,その影響を
受けることが一般的であるところ,寄与度利益分割法は,関連者間の国
外関連取引から生じる所得を,当該所得の発生に寄与した程度を推測す
るに足りる要因に応じて当該各関連者に帰属するものとして計算した金
額を当該国外関連取引の対価の額とする方法であり,その所得には,こ
のような市場の状況変化の影響を受けた結果生じたものも反映されてい
るのであるから,仮に,非関連取引を行う当事者も同様の影響を受けて
いるとしても,そのことは国外関連取引の当事者に生じた国外関連取引
に係る所得をその寄与度に応じて帰属させる過程において,何ら影響を
及ぼすものでないから,分割対象利益から市場の特殊要因を除外すべき
理由にはならない。
(ウ)OECD新移転価格ガイドライン3.4は,その前段において「平
均より低い利益を上げているということを主な理由として企業を過大に
課税…する結果をもたらすように用いられてはならない。」と規定して
いるとおり,当該企業の利益が平均より低いことを主たる理由として過
大に課税することを禁止しているにすぎないところ,本件において,処
分行政庁は,原告の申告利益が平均的企業より低いことを主たる理由と
して移転価格税制を適用したものではないから,上記OECD新移転価
格ガイドライン3.4の趣旨に反するものではない。
イ(ア)原告は,寄与度利益分割法以外の独立企業間価格の算定方法におい
ては,適切な比較対象取引を選定し,これと比較することにより,市場
の特殊要因による売上総利益又は営業利益への影響を排除すべきものと
されているから,寄与度利益分割法においても,同様に市場の特殊要因
による影響を排除する必要があると主張する。
しかし,基本三法等は,比較対象取引が存在することを前提に,その
取引価格,売上総利益率又は営業利益率を用いて独立企業間価格を算定
する方法であるため,比較対象取引に該当するかどうかの判断におい
て,差異の調整が可能か否かを含め,市場の状況など種々の要素の類似
性が考慮されることになるのに対し,寄与度利益分割法は,分割対象利
益を国外関連取引の内容に応じて,関連者が当該分割対象利益の発生に
寄与した程度を推測するにふさわしい要因により分割する方法であり,
比較対象取引が存在しない場合であっても独立企業間価格を算定する方
法であるから,そもそも他の独立企業間価格の算定方法とは根本的に異
なる。
(イ)取引単位営業利益法,残余利益分割法及び寄与度利益分割法の各算
定方法が営業利益を用いる点で共通するとしても,寄与度利益分割法
は,取引単位営業利益法及び残余利益分割法とは異なり,比較対象取引
が存在しないのであるから,その算定に当たって比較対象取引が存在す
ることを前提として独立企業間価格を算定する上で必要な移転価格以外
の要因による営業利益への影響を排除すべきとする理由はない。
ウ(ア)原告は,平成12年12月期及び平成13年12月期において原告
が多額の営業損失を計上した理由は,日本市場におけるバナナの浜値が
大幅に下落したことなどの日本市場の特殊要因のためであり,これら
は,他のバナナ輸入販売業者にも当てはまるものであって,移転価格の
設定とは無関係であるから,これらの要因により生じた営業損失は,日
本側の輸入販売業者である原告に帰属させ,その影響を排除する必要が
あると主張する。
しかし,そもそも浜値等の市場価格の変動による損失は,青果の卸売
業界に限らず自由主義経済下においては常に発生し得るものであり,何
ら特殊の要因による特殊の損失ではない。また,なぜ独立企業間であれ
ば,日本の市場価格の下落により生じた損失の全てを日本法人が当然に
負担すべきであるのか,すなわち,なぜ日本の市場価格の下落が独立企
業間価格に影響しないといえるのか,その理論的根拠も不明である。
(イ)また,バナナの市場価格は,平成10年から平成11年にかけて既
に下落し始めているところ,原告は,平成10年12月期には営業損失
を計上したものの,バナナの市場価格が更に下落したとされる平成11
年12月期には,正反対に営業利益が好転している。逆に,バナナの市
場価格が再度上昇したとされる平成12年から平成13年にかけて,A
社の売上総利益率が回復しているのに対し,原告は,バナナの市場価格
の動きと正反対に営業損失が大幅に拡大している。
これらによれば,原告の営業損益が日本国内のバナナの市場価格と連
動しているとは到底いえないから,両者が連動していることを前提とす
る被告の主張は,その前提を欠く。
エ以上によれば,原告が平成12年12月期及び平成13年12月期にお
いて計上した営業損失の全額を分割対象利益としたことは適法である。
(3)争点3(寄与度利益分割法を用いて本件国外関連取引に係る独立企業間
価格を算定するに当たり,分割要因として,原告及びP1が支出した販管費
を用いたことの違法性)について
(原告の主張)
ア措置法施行令39条の12第8項は,分割要因について,「当該所得の
発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」と規定し,これを受けて,
租税特別措置法関係通達(法人税編)(昭和50年2月14日直法2-2
(例規)国税庁長官通達。ただし,平成16年課法2-14による改正前
のもの。以下「措置法通達」という。)66の4-2は,「国外関連取
引の内容に応じ法人又は国外関連者が支出した人件費等の費用の額,投下
資本の額等これらの者が当該分割対象利益の発生に寄与した程度を推測す
るにふさわしいものを用いることに留意」し,「当該要因が複数ある場合
には,それぞれの要因が分割対象利益の発生に寄与した程度に応じて合理
的に計算する」と規定している。
したがって,分割要因には,国外関連取引の各当事者の事業内容の実態
や機能及びリスクの内容等の個別具体的な客観的事実から,特定の分割要
因が分割対象利益の発生に寄与していること,すなわち,当該分割要因が
分割対象利益の発生の主要な原因であり,分割要因が増加すれば分割対象
利益が増加すること(定性的関係)及びその寄与の程度との関連性につい
て合理的に推測されること,すなわち,分割要因が分割対象利益の発生に
寄与した程度を合理的に推測するに足り,又は寄与した程度を推測するに
ふさわしいこと(定量的関係)のいずれも満たすと認められるものを選定
しなければならない。
イ(ア)他のバナナの輸入販売業者の販管費と営業利益との関係を検討した
ところによれば,およそバナナの輸入販売業界において,販管費の支出
が増加すれば営業利益が増加するという定性的関係は認められず,まし
てや両者の間に定量的関係は認められない。
(イ)また,前記のとおり,平成12年12月期及び平成13年12月期
において原告が計上した営業損失は,移転価格の設定とは無関係な日本
市場の特殊要因によって生じた損失であるところ,原告の営業損失とP
1の営業利益の絶対値を比較すると,原告の営業損失の方が大きいか
ら,上記各事業年度における分割対象利益は,その全てがエクアドル産
バナナの浜値の大幅な下落及び顧客による原告との取引量の減少という
日本市場の特殊要因により生じた原告の損失から構成されることにな
る。したがって,原告の販管費との間に関連性はなく,また,P1の損
益は一切含まれていないことになるから,P1の販管費との間にも関連
性はない。
(ウ)P1は,P4からエクアドル産バナナを購入し,唯一の顧客である
原告に販売し,その関連の輸送を行うものであり,顧客の維持,開拓等
の必要が一切ないのに対し,原告は,長期間をかけてエクアドル産バナ
ナの販売,流通網を構築,維持し,自己名義で商標登録を行い,顧客か
らの代金回収リスクも負っているから,両者の活動を仕入販売業務とし
て同列に論じることはできない。
(エ)原告の販管費には,広告宣伝費,従業員等の給与,賃借料,減価償
却費,貸倒引当金繰入額等が計上されているのに対し,P1の販管費に
は,従業員等の給与のほか,多額の弁護士費用,会計事務所及びコンサ
ルタントへの支払が計上されているところ,このような多種多様な個別
の販管費のそれぞれが所得の発生に対する寄与度は異なるから,それぞ
れの費用が分割対象利益の発生にどのように寄与しているか明らかにす
べきである。
ウ(ア)寄与度利益分割法は,恣意的結果をもたらしやすく,分割要因の選
定次第では非常識又は不合理な結論を生じかねないことから,当該分割
要因を用いて独立企業間取引を行う同業他社の利益を分割した場合の結
果と実際の同業他社の財務データが一致しているか,国外関連取引に当
該分割要因を用いて寄与度利益分割法を適用した結果に基づく営業利益
率や売上総利益率が同業他社の営業利益率や売上総利益率と著しく乖離
していないかなどの検証を行うことが不可欠であって,寄与度利益分割
法を適用した結果が不合理なものとなっている場合には,当該寄与度利
益分割法の適用は違法となる。
(イ)本件各更正処分を反映させた平成11年12月期における原告の営
業利益率は,他のバナナ輸入販売業者4社の営業利益率の約12倍から
約50倍となっており,明らかに異常かつ非常識な結果である。
また,本件各更正処分を反映させた平成11年12月期及び平成12
年12月期における原告の売上総利益率は,バナナの輸入販売事業とい
う原告と同様の事業を行い,類似の機能を果たし,バナナの浜値の大幅
な下落という日本市場の特殊要因の影響を受けたA社の売上総利益率を
大きく上回っており,不合理である。
これらのことは,販管費が分割対象利益の発生に寄与した程度を合理
的に推測するに足りる要因でないことを明確に示している。
(ウ)これに対し,被告が比較対象として選定したバナナ輸入販売業者9
社は,いずれも原告に比べて販売規模が極端に小規模であったり,仕入
販売ではなく輸入代行取引を行う業者であったり,原告と利益構造につ
いて差異があるなど,原告との比較可能性を欠くから,これらのバナナ
輸入販売業者の売上総利益率及び営業利益率と,原告の本件各更正処分
後の売上総利益率及び営業利益率を比較することは意味がない。
エ以上によれば,本件国外関連取引において,原告とP1が支出した販管
費は,「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」とはい
えないから,販管費を分割要因としたことは違法である。
(被告の主張)
ア(ア)分割要因として何を用いるべきかは,取引両当事者の果たす機能を
正確に分析し,製造,輸送,販売等の当該取引に係る行為に妥当なウェ
イト付けを行い得る基準である必要があり,一般的には費用に着目して
選定すべきものであるが,企業グループ内部の取引において,取引両当
事者が果たす機能の形態は様々であるため,研究開発,製造,販売,役
務提供等の寄与の性格や程度,企業グループの特殊事情及び入手可能な
情報等に応じ,個々の事案に即して決定すべきである。
また,国外関連取引に係る所得発生に対する「寄与の程度」(措置法
施行令39条の12第8項)とは,法人と国外関連者との間で営業利益
を分配するに当たり前提とすべき各取引当事者の行為の寄与度をいうの
であるから,当然,法人と国外関連者の関係における相対的なものであ
り,具体的な利益又は損失との数学的な比例関係を指すものではない。
(イ)本件国外関連取引に関し,原告及びP1が行う業務は,いずれもエ
クアドル産バナナの仕入販売業務及びこれを支えるための一般管理業務
のみであり,これらの業務は,製造設備等の固定資産,重要な無形資産
等を使用するものではなく,専ら両社の役員,従業員による仕入販売活
動及びこれを支える管理業務に支出された費用により実現されたもので
あるから,原告及びP1がそれぞれ行った上記業務の利益獲得に対する
相対的寄与度は,両社の仕入販売活動及びこれを支える管理業務に関し
て発生した全ての費用の額,すなわち両社の販管費の額が指標となる。
イ(ア)原告は,分割要因と分割対象利益との間に,定性的関係及び定量的
関係があることが必要であると主張する。
しかし,措置法施行令39条の12第8項は,分割要因について,法
人及び国外関連者が「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足り
る要因」と定めているにとどまるのであって,原告がいうような「定性
的関係」や「定量的関係」があることを要件とする法文上の規定は存在
しない。したがって,分割要因は,国外関連取引に係る所得の発生に対
する各取引当事者の果たした役割の相対的寄与度を推測するに足りる要
因であれば足りる。
(イ)そもそも,ある取引により当該取引の両当事者が得る利益の合計や
一方当事者が得る利益は,取引両当事者がどれだけ利益発生に寄与する
活動を行ったかという要因のほか,市況の状況,為替の変動,経済情勢
など種々の様々な要素の影響を受けて増減するものであるから,取引両
当事者による寄与の程度とその利益の発生との間に,寄与の程度が増え
れば利益も増えるという単純な連動関係が存在しないことは明らかであ
る。
(ウ)また,分割要因とする費用と所得との間に厳密な因果関係を要求す
ると,事実上,費用を分割要因とすることはできなくなり,結局,「所
得に寄与した程度を推測するに足りる要因」を見つけ出すこと自体が不
可能になるところ,措置法66条の4第2項1号ニ,措置法施行令39
条の12第8項がこのような不可能を要求するものであるはずがない。
ウ(ア)原告は,平成12年12月期及び平成13年12月期における分割
対象利益は,その全てが日本市場の特殊要因により生じた原告の損失か
ら構成されるから,原告及びP1の販管費との間には関連性がない旨主
張する。
しかし,寄与度利益分割法は,国外関連取引の両当事者に生じた当該
国外関連取引に係る損益全体を分割対象利益とした上で,両当事者がそ
の所得の発生に寄与した程度に応じて利益の配分を受ける結果となるよ
うな価格を算定しようとする方法であるから,本件のように国外関連取
引の一方当事者に利益が生じ,他方当事者に損失が生じている場合,分
割対象利益の計算上,当該利益と当該損失が相殺されたことを根拠に,
分割対象利益が一方の者の利益ないし損失から構成されているものと評
価し,他方の者はその発生に全く寄与していないと断じるのでは何の意
味もなく,このような分割対象利益の算定方法が寄与度利益分割法の考
え方から逸脱したものであることは明らかである。
(イ)原告は,本件国外関連取引において,原告とP1との間には,顧客
の維持・開拓等の必要の有無,代金回収リスクの有無という差異がある
から,両者の活動を同列に論じることはできないと主張する。
しかし,仮に,上記のような差異があるとすれば,その差異は,双方
の販管費に顧客の開拓・維持に要する費用及び代金回収リスクに係る費
用が計上されるか否か又はその金額の多寡という形で現れるから,販管
費を分割要因とすることで,上記差異が本件国外関連取引における合算
利益の発生に対する両社の寄与度の違いとして適正に評価され,反映さ
れたものとなる。
(ウ)原告は,原告とP1の販管費を構成する個別の費用の内容に差異が
あるから,それぞれの費用が分割対象利益の発生にどのように寄与して
いるか明らかにすべきであると主張する。
しかし,販管費として計上される費用は,その全ての費用が販売及び
販売のための一般管理業務に関して発生した費用であるところ,原告及
びP1は,いずれもエクアドル産バナナの仕入販売しか行っておらず,
両者の業務内容には販管費を構成する個々の費用に応じたウェイト付け
をすべき差異は認められないから,両者が販管費として計上した金額全
体が原告とP1の本件国外関連取引に係る獲得利益に対する相対的寄与
度を示す指標として最適である。
エ(ア)原告は,寄与度利益分割法の適用結果が同業他社の営業利益率や売
上総利益率と比較して著しく乖離し,不合理なものとなっている場合に
は,当該寄与度利益分割法の適用は違法となる旨主張する。
しかし,寄与度利益分割法は,比較対象取引の営業利益率等を用いず
に独立企業間価格を算定する方法であって,同業他社の営業利益率等と
の比較によって検証することは,もとより想定していないし,これを義
務付ける趣旨の法令の規定も存在しない。
(イ)念のため,原告の同業者の財務データと比較するに,自らバナナの
輸入取引を行う法人10社のうち,全社損益及び輸入バナナの取引損益
について回答を得た9社の平成11年12月期ないし平成13年12月
期の3事業年度に対応する売上総利益率及び営業利益率(加重平均)と
原告の損益計算書に記載されている売上総利益率及び営業利益率,原告
の調整後の売上総利益率及び営業利益率を比較すると,原告の調整後の
売上総利益率及び営業利益率は,原告の損益計算書上の売上総利益率及
び営業利益率に比較して,比較対象企業の売上総利益率及び営業利益率
に近似している。
(ウ)これに対し,原告は,本件各更正処分を反映させた平成11年12
月期における原告の営業利益率が他のバナナ輸入販売業者4社の営業利
益率に比べ,約12倍から約50倍となっており,明らかに異常かつ非
常識な結果である旨主張するが,原告が比較対象企業として挙げる4社
は,いずれも複数の事業を行い,又は複数の青果物を取り扱う企業であ
り,専らエクアドル産バナナの輸入卸事業のみを行う原告とはその事業
内容が大きく異なるから,その営業利益率を単純に比較することはでき
ない。
また,原告は,本件各更正処分を反映させた平成11年12月期及び
平成12年12月期における原告の売上総利益率がA社の売上総利益率
を上回っており,不合理であると主張するが,平成10年12月期から
平成15年12月期の両者の売上総利益率を比較すると,総じて原告の
売上総利益率はA社のそれを大きく下回っており,本件国外関連取引に
A社の売上総利益率を用いて再販売価格基準法を適用して算出した所得
移転の額は,本件各更正処分に係る国外所得移転の額を上回っているか
ら,本件における寄与度利益分割法の適用結果が著しく不合理なもので
ないことは明らかである。
(4)争点4(本件各処分に係る理由付記の不備の有無)について
(原告の主張)
平成11年12月期ないし平成13年12月期に係る法人税額等の更正通
知書及び加算税の賦課決定通知書(以下「本件各通知書」という。)には,
販管費が分割対象利益の発生に寄与したと判断した具体的根拠及び理由が全
く記載されていないから,本件各処分は,法人税法130条2項の趣旨に反
し,違法である。
(被告の主張)
本件各通知書には,処分行政庁が当該所得移転額を益金に算入した理由に
ついて法律上及び事実上の根拠を具体的に示しており,処分行政庁として
は,それを記載することにより各更正処分における自己の判断過程を逐一検
証することができるのであって,その判断の慎重性及び合理性を確保すると
いう点において欠けるところはなく,課税庁の恣意抑制という理由付記制度
の趣旨目的を損なうものではないと認められ,また,原告による不服申立て
の便宜の要請に対しても必要な材料を十分に提供するものということができ
るから,法人税法130条2項の要求する更正の理由付記として欠けるとこ
ろはない。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件独立企業間価格を算定するに当たり,寄与度利益分割法を用い
たことの違法性)について
(1)本件各処分は,寄与度利益分割法(措置法66条の4第2項1号ニ,措
置法施行令39条の12第8項)を用いて算定した本件独立企業間価格に基
づいてされたものであるところ,寄与度利益分割法は,基本三法,すなわ
ち,独立価格比準法(措置法66条の4第2項1号イ),再販売価格基準法
(同号ロ)及び原価基準法(同号ハ)を用いることができない場合に限り用
いることができる方法である(措置法66条の4第2項1号柱書)。したが
って,本件国外関連取引について,基本三法を用いることができないと認め
られなければ,本件各処分は違法となる。
(2)この点につき,原告は,基本三法のうち再販売価格基準法について,本
件国外関連取引と被告が比較対象として選定したA社のフィリピン産バナナ
の輸入取引との間には,エクアドル政府規制の有無という差異があるが,こ
れは「通常の利益率」(措置法66条の4第2項1号ロ,措置法施行令39
条の12第6項)に客観的に明らかな重大な影響を与える差異ではなく,当
該差異により生じる通常の利益率の差を調整することを要するものではない
から,再販売価格基準法を用いることができないとは認められないと主張す
る。
これに対し,被告は,エクアドル政府規制の有無という差異が「通常の利
益率」に影響を及ぼすことは明らかであり,当該差異により生じる通常の利
益率の差を調整することを要するものであるが,その影響を具体的,客観的
に算定することができず,その差を調整することはできないため,再販売価
格基準法を用いることはできなかったと主張する。
そこで,まず再販売価格基準法の適用の可否について検討する。
(3)再販売価格基準法の適用の可否について
ア(ア)再販売価格基準法とは,国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊
の関係にない非関連者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額である
再販売価格から通常の利潤の額(当該再販売価格に通常の利益率を乗じ
て計算した金額をいう。)を控除して計算した金額をもって当該国外関
連取引の対価の額とする方法をいう(措置法66条の4第2項第1号
ロ)。
そして,上記にいう「通常の利益率」とは,国外関連取引に係る棚卸
資産と同種又は類似の棚卸資産を,非関連者から購入した再販売者が非
関連者に対して販売した比較対象取引に係る当該再販売者の売上総利益
の額(当該比較対象取引に係る棚卸資産の販売による収入金額の合計額
から当該比較対象取引に係る棚卸資産の原価の額の合計額を控除した金
額をいう。)の当該収入金額の合計額に対する割合をいう(措置法施行
令39条の12第6項本文)。
ただし,比較対象取引と当該国外関連取引に係る棚卸資産の買手が当
該棚卸資産を非関連者に対して販売した取引とが売手の果たす機能その
他において差異がある場合には,その差異により生じる割合の差につき
必要な調整を加えた後の割合をいう(同項ただし書)。
(イ)そこで,通常の利益率を算出するに当たり,いかなる「差異」があ
る場合に調整を加えることを要するか検討するに,措置法施行令39条
の12第6項ただし書が「売手の果たす機能その他において差異がある
場合には,その差異により生じる割合の差につき必要な調整を加え」る
と規定していることからすれば,調整を加えることを要する差異は,売
手の果たす機能に限られるものではなく,棚卸資産の種類や役務の内
容,取引の段階,取引数量,契約条件,取引時期,売手又は買手の果た
す機能,売手又は買手の負担するリスク,売手又は買手の使用する無形
資産,売手又は買手の事業戦略,売手又は買手の市場参入時期,政府の
規制及び市場の状況等の「通常の利益率」に影響を及ぼし得る種々の要
素について,調整を要するというべきである。
もっとも,同項ただし書が「その差異により生じる」差について調整
を加えると規定していることからすれば,およそ全ての差異について調
整を行う必要はなく,当該差異が通常の利益率に影響を及ぼすものでは
ない場合には,当該差異について調整を行う必要はない一方,通常の利
益率に影響を及ぼす差異が存在する場合には,当該差異により生じる通
常の利益率の差について調整を行わなければならず,その調整ができな
いのであれば,当該比較対象取引に基づいて独立企業間価格を算定する
ことは許されないと解するのが相当である。
イ(ア)そこで,エクアドル政府規制の有無が,通常の利益率を算出するに
当たり調整を加えることを要する差異に当たるか否か,すなわち,通常
の利益率に影響を及ぼすものか否かについて検討するに,証拠(乙7,
32)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
aバナナ管理法1条は,農畜産省,外務省及び観光商工業開発省の各
大臣が署名した内局合意を受けて,当該行政機関は,バナナの輸出業
者がバナナの生産者に対して支払うべき最低価格(最低買取価格)及
びバナナの輸出業者が請求する輸出価格の下限(最低輸出価格)を定
期的に設定する旨規定している。
また,同条は,バナナの輸出業者は,バナナの生産者に支払う最低
買取価格の保証として,担保を設定するものとし,当該担保は財務部
の当局が管理する旨規定している。
bバナナ管理法3条は,輸出用のバナナに対する支払を清算する際,
生産者に対して未承認の控除を行うことを禁止し,バナナの輸出業者
がこれに違反した場合には,罰金が科される旨規定している。
cバナナ管理法4条は,バナナの輸出業者は,出荷の48時間以上前
に当局に対して出荷仮案を提出するとともに,出荷後72時間以内に
当局に対して出荷最終案を提出するものとし,輸出業者が書類を提出
しなかったり,改ざんした書類を提出した場合には罰金が科される旨
規定している。
dバナナ管理法5条は,最低買取価格を不正に支払わなかった場合,
又はかかる支払の不履行を首謀,共謀,幇助又は教唆した場合には,
1年ないし3年の懲役及び罰金が科される旨規定している。
e平成10年から平成15年におけるエクアドル政府の告示に係るバ
ナナのタイプごとの最低輸出価格及びP4からP1に対する輸出価格
(FOB単価)の推移は,別表9のとおりであり,いずれも最低輸出
価格と同額か,それを上回っている。
(イ)上記(ア)aないしdの事実によれば,エクアドル産バナナについて
は,バナナ管理法に基づき,エクアドル政府が輸出業者によるバナナ生
産者からの買取価格及びバナナの輸出価格にそれぞれ最低買取価格及び
最低輸出価格を定期的に設定し,バナナ輸出業者には,最低買取価格の
支払のために担保を設定することや輸出に係る出荷案をエクアドル政府
に提出することなどが義務付けられるとともに,生産者に対する支払の
際に未承認の控除をすることが禁止され,最低買取価格を不正に支払わ
なかった者には懲役刑も含めた刑罰が科されるなど,最低買取価格及び
最低輸出価格を遵守すべきことが法的に義務付けられていることが認め
られ,バナナ輸出業者が生産者から最低買取価格を下回る価格でバナナ
を買い取ること及びバナナ輸出業者が最低輸出価格を下回る価格でバナ
ナを輸出することは事実上不可能であると認められ,現に,P4からP
1に対する輸出価格の推移を見ても,上記(ア)e(別表9)のとおり,
最低輸出価格を下回ることはない状況であった。
そうすると,エクアドル政府規制,すなわち,エクアドル政府による
最低買取価格及び最低輸出価格の設定は,バナナ輸出業者によるバナナ
生産者からの買取価格及び輸出価格の下限を定めるものであって,当該
規制が存在しない場合に比べ,バナナ生産者からの買取価格及び輸出価
格を上昇させる方向に作用する要因であることは明らかというべきであ
る。
(ウ)そして,一般的に,日本の輸入業者がバナナを日本に輸入する際の
仕入原価は,バナナ自体の価格に,輸送費や保険料,売手の利益等の積
上げからなるところ,証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば,原告が
エクアドル産バナナを日本に輸入する際の仕入原価も,バナナ自体の価
格及び梱包,出荷,保険等の費用に基づいて計算されていることが認め
られる。
そうすると,最低輸出価格が設定されていることによるバナナの輸出
価格の上昇分は,上記のような各種費用や売手の利益等と共に,日本の
輸入業者がエクアドル産バナナを日本に輸入する際の仕入原価として積
み上げられ,ひいてはその輸入価格に反映されることになるのであるか
ら,エクアドル政府規制は,当該規制が存在しない場合に比べ,エクア
ドル産バナナの日本への輸入価格を上昇させる方向に作用する要因であ
ることも,また明らかというべきである。
(エ)そして,前記ア(ア)のとおり,「通常の利益率」とは,比較対象取引
に係る再販売者の売上総利益の額,すなわち,当該比較対象取引に係る
棚卸資産の販売による収入金額の合計額から当該棚卸資産の原価の合計
額を控除した金額の当該収入金額の合計額に対する割合をいうところ,
エクアドル産バナナの日本への輸入価格は,ここでいう当該棚卸資産の
原価に当たるから,エクアドル産バナナの輸入価格が上昇すれば,その
分だけ原価の合計額が上昇し,売上総利益の額が減少することになるの
であって,その割合である「通常の利益率」にも影響が及ぶことは明ら
かというべきである。
以上によれば,エクアドル政府規制は,「通常の利益率」に影響を及
ぼすものというべきであるから,当該規制の有無という差異は,通常の
利益率を算出するに当たり,それにより生じる通常の利益率の差につい
て調整することを要する差異というべきである。
ウ(ア)aこれに対し,原告は,措置法施行令39条の12第6項が「売手
の果たす機能」を明示していることからすれば,比較対象取引との比
較においては,「売手の果たす機能」が最も重視されるとした上で,
原告とA社の果たす機能は類似しており,A社の売上総利益率は原告
にも当てはまるべきものであるから,A社の売上及び原価についてエ
クアドル政府規制の影響が及ぶ余地はないと主張する。
しかし,上記アで検討したように,措置法施行令39条の12第
6項ただし書は「売手の果たす機能その他において差異がある場合」
と規定しているのであって,売手の果たす機能に限らず,政府の規制
その他の種々の要素について,「通常の利益率」に影響を及ぼす差異
があるか否かを検討すべき旨を規定していると解すべきから,原告と
A社の果たす機能が類似していたとしても,そのことから直ちにA社
の売上総利益率が原告にも当てはまるべきなどとは到底いえない。
bまた,原告は,フィリピン産バナナとエクアドル産バナナは競争関
係にあるから,バナナの輸入業者による再販売価格は,市場価格であ
る浜値にならざるを得なくなるのであって,原告のエクアドル産バナ
ナの再販売価格にエクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はないと主張
する。
しかし,上記イで検討したように,エクアドル政府規制は,輸出業
者によるエクアドル産バナナの輸出価格を上昇させる方向に作用する
要因であって,その上昇分は日本の輸入業者の仕入原価として積み上
げられ,ひいては,日本の輸入価格も上昇させる方向に作用する要因
であると認められる。
そして,原告が主張するように,フィリピン産バナナとエクアドル
産バナナが競争関係にあるためにバナナ輸入業者による再販売価格が
市場価格である浜値にならざるを得なくなるとするならば,原告とし
ては,エクアドル政府規制による仕入原価の上昇分を再販売価格に転
嫁することができず,原告の売上総利益の額は,エクアドル政府規制
による仕入原価の上昇分だけ減少することになり,フィリピン産バナ
ナの輸入業者の売上総利益の額は相対的に増加することになる。そう
すると,まさにエクアドル政府規制の有無は,比較対象取引であるA
社のフィリピン産バナナの輸入取引に係る原価の額や売上総利益の額
に直接的な影響を生じさせることになるのであって,原告が主張する
ようにエクアドル政府規制が,原告の再販売価格に影響を及ぼさない
としても,「通常の利益率」そのものに影響を及ぼすことになる。
(イ)a次に,原告は,最低輸出価格と本件独立企業間価格を基に算定し
たバナナ1カートン当たりの独立企業間価格の差額が,日本にエクア
ドル産バナナを輸出する輸送費及び保険費用並びにP1と同様の機能
を果たす独立の類似事業者の通常の利益率をカバーするのに十二分な
ものであれば,エクアドル政府規制は日本の輸入業者による輸入価格
に影響を及ぼすものではないことになると主張する。
しかし,そもそも上記の差額が輸送費及び保険費用並びにP1と同
様の機能を果たす独立の類似事業者の通常の利益率をカバーするのに
十二分なものであるとの前提を認めるに足りる証拠がないことはもと
より,エクアドル政府規制が通常の利益率に影響を与えるか否かは,
独立企業間価格の算定に当たり,基本三法を用いることができるか否
かを判断する際に検討すべき事項であるから,基本三法を用いること
ができないことを前提として寄与度利益分割法を用いて算定した本件
独立企業間価格を根拠として,エクアドル政府規制が通常の利益率に
重大な影響を与えるものであるか否かを判断することは,そもそも不
合理であるといわざるを得ない。
bまた,原告は,卸売業が他の業種に比べて売上総利益率が安定する
ことを前提とすれば,エクアドル産バナナの日本での浜値の値動きと
独立の類似業者の売上原価の動きは,大きく乖離することはなく,エ
クアドル政府が決める最低輸出価格の値動きと浜値の値動きとの間に
は全く関連性が認められないから,独立の類似業者の売上原価の動き
と最低輸出価格の値動きとの間にも関連性が認められず,その結果,
最低輸出価格と「通常の利益率」との間にも関連性は認められず,エ
クアドル政府規制が「通常の利益率」に重大な影響を及ぼしていると
解することは困難であると主張する。
しかし,そもそもバナナの浜値は,いわゆる市場価格であり,主と
して需要と供給のバランスにより定まるものであって,その値動きが
必ずしも供給者であるバナナの輸入業者の仕入原価の値動きに連動す
るものであるとはいえないから,仮に,一般的に,卸売業が他の業種
に比べて売上総利益率が安定する傾向にあるとしても,そのことから
直ちにバナナの浜値の値動きと独立の類似業者の売上原価ないし最低
輸出価格の値動きとが関連性を有するべきものであるとはいえないの
であって,この点についての原告の主張に与することはできない。
(ウ)以上によれば,原告が,エクアドル政府規制は「通常の利益率」に
影響を及ぼすものではないとして主張する点は,いずれも採用すること
ができない。
エ(ア)そこで,次に,エクアドル政府規制の有無により「通常の利益率」
に生じる差について,調整することが可能か否かについて検討するに,
証拠(乙7,8)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ
る。
aバナナ管理法1条は,最低買取価格及び最低輸出価格は,農畜産省
が3か月ごとに開く交渉会議において,生産者と輸出者の各代表者が
大臣らと協力して決定するが,合意に達しなかった場合,それから7
日以内に2人の大臣が国内生産の平均費用を基に上記各価格を設定す
る旨規定している。
bバナナ管理法1条は,最低買取価格は,国内生産の平均費用に妥当
な収益を足した額とする旨規定している。
c農畜産省が発行した最低買取価格及び最低輸出価格に係る通知に
は,バナナの種類ごとに合意された上記各価格が記載されているもの
の,その算定方法や根拠となった数値等は一切記載されていない。
(イ)上記(ア)a,bの事実によれば,最低買取価格及び最低輸出価格は,
バナナ管理法に基づき,農畜産省が3か月ごとに開く交渉会議におい
て,生産者と輸出者の各代表者が大臣らと協力して決定され,合意に達
しなかった場合には,2人の大臣が国内生産の平均費用を基に設定する
こと,最低買取価格は,国内生産の平均費用に妥当な収益を足した額と
するとされていることが認められるものの,同法の規定をみても,最低
買取価格及び最低輸出価格を算出する具体的な方法や計算式等は明らか
ではなく,上記にいう「国内生産の平均費用」や「妥当な収益」という
のも,いかなる資料に基づく,いかなる数値であるかは不明である。
また,上記(ア)cのとおり,農畜産省による最低買取価格及び最低輸
出価格に係る通知(乙8別紙A)を見ても,具体的な算出方法や根拠と
なった数値等は一切記載されておらず,その記載から具体的な算出方法
や計算式等をうかがい知ることはできず,平成10年から平成15年に
おけるエクアドル政府の告示に係るバナナのタイプごとの最低輸出価格
の推移(別表9参照)を見ても,その算出方法等をうかがわせるような
何らかの規則性等を認めることはできない。
そして,他に,最低買取価格及び最低輸出価格の具体的な算出方法や
根拠となる数値等を把握する手掛かりとなる資料はない。
(ウ)そうすると,最低買取価格及び最低輸出価格は,その具体的な算出
方法や根拠となる数値等が不明であるから,それらがエクアドル産バナ
ナの取引価格に与える具体的な影響を数値化して特定することは不可能
であるといわざるを得ない。したがって,エクアドル政府規制の有無と
いう差異により生じる「通常の利益率」の差について,これを調整する
ことは不可能であるというべきである。
オ以上によれば,エクアドル政府規制は「通常の利益率」に影響を及ぼす
ものであるから,再販売価格基準法を適用するに当たり,当該規制の有無
により通常の利益率に生じる差について調整する必要があるところ,その
具体的な影響を数値化して特定することは不可能であり,エクアドル政府
規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整することがで
きないから,本件国外関連取引について,A社のフィリピン産バナナの輸
入取引を比較対象取引として,再販売価格基準法を用いて独立企業間価格
を算定することは許されない。
(4)独立価格比準法及び原価基準法の適用の可否について
上記(3)で検討したとおり,本件国外関連取引について,再販売価格基準
法を用いて独立企業間価格を算定することは許されないが,上記(1)のとお
り,寄与度利益分割法は,基本三法を用いることができない場合に限り用い
ることができる方法であるから,次に,独立価格比準法及び原価基準法の適
用の可否について検討する。
ア独立価格比準法の適用の可否について
(ア)独立価格比準法とは,特殊の関係にない売手と買手が,国外関連取
引に係る棚卸資産と同種の資産を当該国外関連取引と取引段階,取引数
量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額(当該同種の資産
を当該国外関連取引と取引段階,取引数量その他に差異のある状況の下
で売買した取引がある場合において,その差異により生じる対価の額の
差を調整できるときは,その調整を行った後の対価の額を含む。)に相
当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう(措
置法66条の4第2項1号イ)。
(イ)このように,独立価格比準法における比較対象取引は,国外関連取
引と「同種の資産」を「取引段階,取引数量その他が同様の状況の下」
でなされたものである必要があるから,本件国外関連取引の比較対象取
引としては,エクアドル産バナナを原告と同程度の規模で,自己の計算
で行う仕入販売取引を選定しなければならないことになる。
そこで,検討するに,証拠(乙13,43,44)及び弁論の全趣旨
によれば,原告以外にエクアドル産バナナを日本に輸入している業者は
1社しか存在しないところ,当該業者は,平成16年4月以降に新たに
エクアドル産バナナの輸入事業に参入したものであって,その取引規模
は,原告が1週間当たり約20万カートンであるのに対し,当該業者は
1週間当たり数千カートンであり,取引形態も,原告が仕入販売である
のに対し,当該業者は輸入金額に応じて手数料を収受する輸入代行であ
ることが認められる。
そうすると,上記業者によるエクアドル産バナナの輸入取引は,およ
そ本件国外関連取引と「取引段階,取引数量その他が同様の状況の下」
でなされたものとはいえず,その差異により生じる対価の額の差を調整
することは困難であると認められるから,当該業者によるエクアドル産
バナナの輸入取引を比較対象取引とすることはできない。
(ウ)したがって,本件国外関連取引について,独立価格比準法における
適切な比較対象取引は存在しないから,独立価格比準法を用いて,その
独立企業間価格を算定することはできないと認められる。
イ原価基準法の適用の可否について
(ア)原価基準法とは,国外関連取引に係る棚卸資産の売手の取得原価の
額に通常の利潤の額(当該原価の額に通常の利益率を乗じて計算した金
額をいう。)を加算して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価
の額とする方法をいう(措置法66条の4第2項1号ハ)。
そして,上記にいう「通常の利益率」とは,国外関連取引に係る棚卸
資産と同種又は類似の棚卸資産を,非関連者から購入した販売者が当該
同種又は類似の棚卸資産を非関連者に対して販売した比較対象取引に係
る当該販売者の売上総利益の額の当該原価の額の合計額に対する割合を
いうが,比較対象取引と当該国外関連取引とが売手の果たす機能その他
において差異がある場合には,その差異により生じる割合の差につき必
要な調整を加えた後の割合をいう(措置法施行令39条の12第7
項)。
(イ)このように,原価基準法における比較対象取引は,国外関連取引と
「同種又は類似の棚卸資産」を,非関連者から購入した販売者が当該資
産を非関連者に対して販売したものである必要があるから,本件では,
非関連者から購入したエクアドル産バナナ又は類似の棚卸資産を,非関
連者に輸出する取引を比較対象取引として選定しなければならないとこ
ろ,証拠(乙43,44)及び弁論の全趣旨によれば,処分行政庁が行
った原告及び他のバナナの輸入業者に対する調査等によっても,上記の
ような取引の存在を把握することができなかったことが認められ,他
に,上記のような取引が存在することをうかがわせる事情もない。
(ウ)したがって,本件国外関連取引について,原価基準法における適切
な比較対象取引が存在しないというべきであるから,原価基準法を用い
てその独立企業間価格を算定することはできないと認められる。
(5)小括
以上によれば,本件国外関連取引について,基本三法のいずれも用いるこ
とができないと認められるから,本件独立企業間価格を算定するに当たり,
寄与度利益分割法を用いたことは適法である。
2争点2(寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当た
り,原告が平成12年12月期及び平成13年12月期において計上した営業
損失の全額を分割対象利益としたことの違法性)について
(1)本件各処分は,平成11年12月期ないし平成13年12月期における
P1の原告に対する取引に係る営業利益を円換算した額及び原告の営業利益
(損失)の額の合計額を分割対象利益として,寄与度利益分割法を用いて算
定した本件独立企業間価格に基づいてされたものであるところ,原告は,平
成12年12月期及び平成13年12月期において原告が計上した営業損失
は,日本市場におけるエクアドル産バナナの市場価格の下落等の当事者が支
配できない日本市場の特殊要因により生じたものであって,本件国外関連取
引に係る対価の設定とは無関係であるから,これを分割対象利益から除外す
べきであると主張する。
そこで,以下,この点について検討する。
(2)ア寄与度利益分割法における分割対象利益について,措置法施行令39
条の12第8項は,「国外関連取引に係る棚卸資産の…法人又は当該法人
に係る…国外関連者による購入,製造,販売その他の行為に係る所得」と
規定している。
しかし,措置法及び措置法施行令その他関係法令をみても,上記規定以
外に寄与度利益分割法における分割対象利益について定めた規定は見当た
らない。
また,通達についてみても,措置法通達66の4(4)-1は,措置法施
行令39条の12第8項に規定する方法は,原則として,国外関連取引に
係る棚卸資産の販売等により法人及び国外関連者に生じた営業利益の合計
額を措置法施行令39条の12第8項に規定する要因により分割する方法
をいうことに留意する旨規定しているが,上記規定以外に,寄与度利益分
割法における分割対象利益について定めたものは見当たらない。
イそうすると,平成12年12月期及び平成13年12月期において原告
が計上した営業損失は,日本市場におけるエクアドル産バナナの市場価格
の下落等の当事者が支配できない日本市場の特殊要因により生じたもので
あって,本件国外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから,寄与
度利益分割法を用いるに当たり,上記損失を分割対象利益から除外すべき
であるとの原告の主張は,法令上はもちろん,通達上の根拠も欠くもので
あるといわざるを得ない。
(3)ア(ア)これに対し,原告は,移転価格税制は,独立企業原則の下,「特殊の
関係」が認められる法人と国外関連者間の国外関連取引について,その価
格設定が独立企業間価格から乖離することにより所得が国外に移転するこ
とに対処するための制度であるから,当該価格設定と無関係な当事者が支
配できない市場の特殊要因が,非関連取引を行う類似企業にも同様の損失
をもたらしている場合に移転価格税制を適用することは,移転価格税制の
趣旨に反する旨主張する。
そこで,検討するに,証拠(甲23,乙1ないし5)及び弁論の全趣旨
によれば,移転価格税制は,国際間の経済交流の進展に伴い,多国籍化し
た企業グループの内部における商品の移転,サービスの提供,融資,技術
の移転といった様々な形態の取引が増加する中で,このようなグループ内
取引に付される価格は,様々な理由により自由市場における価格とは異な
るものとなることが少なくなく,その結果として,一方の企業の所得が減
少し,一方の国の租税収入が減少することになることから,このような特
殊な関連企業間の取引(国外関連取引)を通じた所得の海外移転が認めら
れる場合に,その取引価格を正常な価格(独立企業間価格)に引き直して
課税所得を計算することにより,所得の海外移転を防止し,関係各国の適
正な税収の確保を目的とする制度であると認められる。そして,グループ
内取引の価格設定を通じて脱税ないし租税回避が図られることがあるもの
の,移転価格税制自体は,それらの防止を目的とするものではなく,当事
者の租税回避の意図等を考慮することなく,現実の取引価格を独立企業間
価格に修正する制度であり,我が国の移転価格税制については,そのよう
な前提で解釈がされるべきである。
このように,移転価格税制は,結果として,国外関連取引を通じた所得
の海外移転があると認められる場合には,当事者の意図等を考慮すること
なく,その取引価格を独立企業間価格に引き直して課税所得を計算するこ
とにより,国外関連取引を通じた所得の海外移転を防止し,関係各国の適
正な税収を確保することを目的とした制度であるところ,国外関連取引を
通じた所得の海外移転は,国外関連取引に付された価格が独立企業間価格
と異なること自体により当然に生じるものであって,国外関連取引に付さ
れた価格が独立企業間価格と異なることになった理由により所得の海外移
転の有無やその額等が左右されるものではない。そうすると,国外関連取
引に付された価格が独立企業間価格と異なることにより,国外関連取引を
通じて所得が海外に移転していると認められる場合であれば,国外関連取
引に付された価格が独立企業間価格と異なることになった理由いかんを問
わず移転価格税制が適用されるべきであり,そのことは我が国の移転価格
税制の制度趣旨に沿うものである。
(イ)また,原告は,OECD新移転価格ガイドライン3.4が,特殊の関
係による移転価格及び利益の歪み以外の商業上の要因による利益の減少を
理由に移転価格課税を行ってはならないとしていると主張する。
しかし,OECD新移転価格ガイドライン3.4は,寄与度利益分割法
は,「どのような場合であっても,…平均より低い利益をあげていること
を主な理由として企業を過大に課税したり,平均より高い利益をあげてい
る企業を過少に課税したりする結果をもたらすように用いられてはならな
い。独立企業原則の下では,失敗の原因が商業上の要因に帰せられる場合
に平均より成功していない企業に追加的な税負担を課すことは正当化され
ない。」と規定している(甲10)のであって,平均より成功していない
企業に対し,その利益が平均より低いことを主な理由として,寄与度利益
分割法を適用して追加的な税負担を課すことは許されない旨を規定してい
るにすぎず,およそ商業上の要因による利益の減少がある場合には寄与度
利益分割法を適用することができない旨を規定していると解することはで
きない。
イ(ア)次に,原告は,寄与度利益分割法以外の独立企業間価格の算定方法,
すなわち,基本三法及び基本三法に準ずる方法,取引単位営業利益法,比
較利益分割法及び残余利益分割法においては,移転価格の設定とは無関係
な市場の特殊要因が売上総利益又は営業利益に影響を及ぼしているときに
は,適切な非関連者間の比較対象取引を選定し,これと比較することによ
り,その影響を排除すべきものとされているところ,これは,独立企業原
則及び移転価格税制の趣旨に基づくものであるから,寄与度利益分割法に
ついても同様に当てはまると主張する。
しかし,上記の寄与度利益分割法以外の各方法において,市場の状況そ
の他の要因による影響を考慮すべきとされているのは,これらの方法が,
比較対象取引が存在することを前提として,その取引価格,売上総利益率
又は営業利益率を用いて独立企業間価格を算定する方法であることから,
適切な比較対象取引を選定するためには,取引価格,売上総利益率又は営
業利益率に影響を及ぼし得る種々の要素を比較し,それらに差異がある場
合には,その調整を要することになるためであると解される。これに対
し,寄与度利益分割法は,基本三法を用いることができない場合,すなわ
ち,適切な比較対象取引を選定することができない場合に,分割対象利益
を国外関連取引の各当事者が当該分割対象利益の発生に寄与した程度を推
測するにふさわしい要因により分割して帰属させる方法であり,比較対象
取引が存在することを前提とする方法ではないから,市場の状況その他の
要因による影響を考慮すべき前提を欠くものといわざるを得ない。
よって,寄与度利益分割法以外の各方法において,市場の状況その他の
要因の影響を考慮すべきとされているからといって,寄与度利益分割法に
ついても同様に解すべきとはいえない。
(イ)また,原告は,営業利益は,粗利益や価格に影響を及ぼさない種々の
要因によって影響を受けるため,取引単位営業利益法や残余利益分割法に
おいては,独立の類似法人との比較により移転価格の設定以外の要因によ
る営業利益への影響を排除すべきものとされているところ,寄与度利益分
割法も,同じく営業利益を用いる方法であるから,同様にその影響を排除
すべきであると主張する。
しかし,取引単位営業利益法とは,国外関連取引における売手と買手の
獲得した営業利益率と比較対象となる非関連者間取引における売手と買手
の営業利益率を比較する方法をいい,残余利益分割法とは,法人又は国外
関連者が重要な無形資産を有する場合に,分割対象利益のうち重要な無形
資産を有しない非関連者間取引において通常得られる利益に相当する金額
を当該法人及び国外関連者にそれぞれ配分し,その配分した金額の残額を
当該法人又は国外関連者が有する当該重要な無形資産の価値に応じて合理
的に配分する方法をいうところ,いずれも比較対象となる非関連者間取引
が存在することを前提とした方法であり,適切な比較対象取引を選定する
ためには,営業利益率や通常得られる利益に相当する金額に影響を及ぼし
得る種々の要素を比較し,その差異を調整することが必要となるのに対
し,寄与度利益分割法は,前記のとおり適切な比較対象取引を選定するこ
とができない場合に用いる方法であって,比較対象取引の存在を前提とす
るものではないから,やはり市場の状況その他の要因による影響を考慮す
べき前提を欠くものといわざるを得ない。
ウ(ア)そして,原告は,上記のような,寄与度利益分割法を用いるに当たっ
ては,国外関連取引の当事者が支配できない市場の特殊要因による営業利
益への影響を排除すべきであるとの主張を前提として,平成12年12月
期及び平成13年12月期において原告が計上した営業損失は,バナナの
輸入量が急増した後の需要の大幅な減少や競合品であるフィリピン産バナ
ナの輸入量の急増等により日本市場におけるエクアドル産バナナの浜値が
大幅に下落したこと及び顧客が原告との取引を減少させたことなどの当事
者が支配できない日本市場の特殊要因により生じたものであるから,移転
価格税制を適用するに当たり,これらの日本市場の特殊要因により生じた
営業損失は,日本側の輸入業者である原告に帰属させる必要があると主張
する。
(イ)この点,寄与度利益分割法を用いるに当たり,国外関連取引の当事者
が支配できない市場の特殊要因による営業利益への影響を排除すべきであ
るとの原告の主張に根拠がないのは,上記ア,イのとおりであるが,この
点を措くとしても,そもそも原告が主張するような市場における需給の増
減や競合品との競争等による市場価格の変動やそれに伴う損益の発生は,
市場主義経済の下では常に生じ得るものであるから,そのような損失をも
って,直ちに市場の特殊要因により生じた損失とはいい難い。
また,日本市場の特殊要因により生じた営業損失を日本側の輸入業者で
ある原告に帰属させる必要があるとする点についても,通常の独立企業間
の取引であれば,一方の市場における需給等の状況に大きな変化が生じた
ことにより,一方の当事者のみに多額の営業損失が生じるような場合,取
引価格を改定し,取引量を減少させ又は取引自体を終了させるなどするこ
となく,従前の条件のままで漫然と取引を継続することは通常は考え難い
から,その影響は少なからず他方の当事者にも及ぶものと考えられるとこ
ろ,その損失を専ら日本側の輸入業者である原告に帰属させるべきとする
合理的根拠も不明であるといわざるを得ない。
(4)小括
以上によれば,寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定する
に当たり,原告が平成12年12月期及び平成13年12月期において計上
した営業損失は,日本市場の特殊要因により生じたものであって,本件国外
関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから,これを分割対象利益から
除外すべきであるとの原告の主張は,法令上の根拠を欠くものであって,そ
の理由として述べるところもいずれも採用することはできない。そして,他
に,原告の主張するように解すべき理由を見出すこともできない。
よって,本件国外関連取引について,平成11年12月期ないし平成13
年12月期におけるP1の原告に対する取引に係る営業利益を円換算した額
及び原告の営業利益(損失)の額の合計額を分割対象利益として,寄与度利
益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定したことは適法である。
3争点3(寄与度利益分割法を用いて本件国外関連取引に係る独立企業間価格
を算定するに当たり,分割要因として,原告及びP1が支出した販管費を用い
たことの違法性)について
(1)本件各処分は,平成11年12月期ないし平成13年12月期における
原告の販管費の額及びP1の原告に対する取引に係る販管費の額を分割要因
として寄与度利益分割法を用いて算定された本件独立企業間価格に基づいて
されたものであるところ,原告は,およそバナナの輸入販売業においては,
販管費の支出が増加すれば営業利益が増加するという関係がなく,また,平
成12年12月期及び平成13年12月期における分割対象利益は,その全
てがエクアドル産バナナの浜値の大幅な下落等の日本市場の特殊要因により
生じた原告の営業損失から構成され,原告及びP1の販管費との間に関連性
はないから,原告及びP1が支出した販管費は,措置法施行令39条の12
第8項にいう「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」に
当たらない旨主張する。
そこで,以下,この点について検討する。
(2)ア寄与度利益分割法について,措置法施行令39条の12第8項は,
「国外関連取引に係る棚卸資産の…法人又は…国外関連者による購入,製
造,販売その他の行為に係る所得が,当該棚卸資産に係るこれらの行為の
ためにこれらの者が支出した費用の額,使用した固定資産の価額その他こ
れらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じ
て,当該法人及び国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもって
当該国外関連取引の対価の額とする方法とする」と規定している。すなわ
ち,寄与度利益分割法とは,国外関連取引の各当事者が支出した人件費等
の費用の額,使用した固定資産の価額,投下資本の額その他国外関連取引
の各当事者の行為が当該国外関連取引に係る所得(分割対象利益)の発生
に対して寄与した相対的な程度を推測するに足りる要因(分割要因)を事
案に応じて選定し,その割合に応じて利益を按分することにより,独立企
業間価格を算定する方法である。
したがって,分割要因の選定に当たっては,国外関連取引の内容に応じ
て各当事者が果たす機能を分析し,その機能に差異があるときは,それぞ
れの機能が分割対象利益の発生に寄与する程度や性格等を考慮し,各当事
者が分割対象利益の獲得に寄与した相対的な程度を推測するに足りる要因
を選定すべきと解するのが相当である。
イ(ア)そこで,本件国外関連取引の内容,原告及びP1の果たす機能等に
ついて検討するに,前記争いのない事実等(第2の2),証拠(乙2
6)及び弁論の全趣旨によれば,本件国外関連取引は,原告がその国外
関連者であるP1からエクアドル産バナナを輸入仕入れする取引であ
り,本件国外関連取引に関し,P1は,P4が輸出するエクアドル産バ
ナナを同社から購入し,輸送及び保険の手配をした上で,そのままの状
態で原告に輸出販売するという業務を行い,原告は,P1からエクアド
ル産バナナをCIF価格(運賃・保険料込み価格)で輸入し,そのまま
の状態で複数の顧客に卸売販売するという業務を行っていたことが認め
られる。
(イ)このように,本件国外関連取引は,エクアドル産バナナという1種
類の棚卸資産につき,P1がP4から仕入れ,特に加工することなく,
そのままの状態で原告に販売し,原告も,P1から仕入れたエクアドル
産バナナを特に加工することなく,そのままの状態で顧客に販売すると
いうものであって,いずれも仕入販売業務以外の製造加工や研究開発等
の他の業務を伴うものではない。また,本件国外関連取引に関し,いず
れか一方の有する製造設備等の固定資産や重要な無形資産等を使用する
ものでもない。
そうすると,本件国外関連取引に関し,原告及びP1が行う業務は,
いずれもエクアドル産バナナの仕入販売業務及びこれを支えるための一
般管理業務のみであるということができ,本件国外関連取引に関し,両
者の果たす機能に見るべき差異があるとはいえない。
(ウ)ところで,上記のような仕入販売業務及びこれを支えるための一般
管理業務に関して支出された費用は,財務会計上,販管費として計上さ
れるものであるところ,販管費は,財務会計上,営業利益を算出するに
当たり,売上原価と並んで売上からこれを差し引くことが認められてい
る。これは,営業利益が企業の主目的である営業活動の結果を示す指標
であるところ,販管費は,売上原価と並んで企業が営業活動を行う上で
必要不可欠な費用であり,企業が営業活動により利益を獲得するための
源泉というべきものであることから,営業活動に必要な経費として,売
上から差し引くことが認められたものと解される。そうすると,販管費
は,一般的に,企業の営業利益の獲得に寄与する性質を有するものとし
て認められている費用ということができる。
(エ)このように,販管費は,一般的に,企業の営業利益の獲得に寄与す
る性質を有するものとして認められている費用であることに加え,本件
国外関連取引に関し,原告及びP1が行った業務は,仕入販売業務及び
これを支える一般管理業務のみであり,両者がこれらの業務のために支
出した費用は,販管費として計上され,その他に,原告及びP1が,本
件国外関連取引に関して何らかの業務を行い,そのために費用を支出し
たとは認められないことからすれば,本件国外関連取引に関し,原告及
びP1が支出した販管費は,両者が本件国外関連取引に係る営業利益の
獲得に寄与した相対的な程度を推測するに足りる要因と認められるとい
うべきである。
(3)アこれに対し,原告は,措置法施行令39条の12第8項の規定等を根
拠に,分割要因には,当該分割要因が分割対象利益の発生の主要な原因で
あり,その分割要因が増加すれば分割対象利益が増加すること(定性的関
係)及び分割要因が分割対象利益の発生に寄与した程度を合理的に推測す
るに足り,又は寄与した程度を推測するにふさわしいこと(定量的関係)
のいずれも満たすものを選定しなければならないと主張する。
しかし,措置法施行令39条の12第8項は,分割要因について,法人
又は国外関連者が「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要
因」と規定しており,「当該所得の発生に寄与した要因」とは規定してい
ないことからすれば,同項が,分割要因と分割対象利益との間に原告が主
張するような定性的関係,すなわち,分割要因が分割対象利益の発生の主
要な原因であるというような直接的な因果関係や分割要因が増加すれば分
割対象利益が増加するというような比例関係が存在することまでも要求し
ていると解することはできない。
そうすると,分割要因は,当該国外関連取引の内容に応じ,各当事者が
果たす機能を分析し,各当事者が分割対象利益の発生に寄与した相対的な
程度を推測するに足りると認められる要因を選定すべきであり,かつ,そ
れで足りると解すべきである。
イ(ア)原告は,平成12年12月期及び平成13年12月期における分割
対象利益は,その全てがエクアドル産バナナの浜値の大幅な下落等の日
本市場の特殊要因により生じた原告の損失から構成されるから,原告の
販管費との間に関連性はなく,また,P1の損益は一切含まれていない
から,P1の販管費との間にも関連性はないと主張する。
しかし,前記2(3)ウで検討したように,そもそも原告が主張するよ
うな市場における需給の増減等による市場価格の変動に伴う損失をもっ
て,市場の特殊要因により生じた損失とはいい難い上,措置法施行令3
9条の12第8項が,分割要因と分割対象利益との間に直接的な因果関
係が存在することまで要求していると解することができないことは,前
記アのとおりである。
また,これらの点を措くとしても,寄与度利益分割法とは,国外関連
取引の各当事者に生じた当該国外関連取引に係る損益全体を分割対象利
益とした上で,各当事者がその発生に寄与した程度に応じて,それぞれ
に帰属するものとして計算した額をもって独立企業間価格とする方法で
あるところ,本件のように一方の当事者には利益が,他方の当事者には
損失が生じ,その結果,分割対象利益が専らいずれかの当事者に生じた
利益又は損失から構成されることとなる場合に,他方の当事者はその発
生に寄与していないとすることは,結局のところ,一方の当事者に生じ
た利益又は損失の発生には,他方の当事者は寄与していないとすること
に等しく,このような考え方は,寄与度利益分割法の考え方と根本的に
相容れないといわざるを得ない。
(イ)次に,原告は,P1は,顧客の維持,開拓等の必要は一切ないのに
対し,原告は,エクアドル産バナナの販売,流通網を構築,維持してお
り,自己名義で商標登録を行い,顧客からの代金回収リスクも負ってい
るから,両者の活動を仕入販売業務として同列に論じることはできない
旨主張する。
しかし,顧客の維持,開拓等の業務も,商品の仕入販売に関する業務
であるから,そのために支出した費用は,販管費として計上されること
になるところ,原告とP1との間に,これらの業務を行ったか否かとい
う差異があるのであれば,その差異は,それぞれの販管費に顧客の維
持,開拓等の業務のために要した費用が計上されるか否かという形で現
れ,販管費の多寡に反映されることになる。
また,代金回収リスクについては,証拠(乙26)によれば,原告
は,処分行政庁の調査担当者に対し,P1も顧客からの代金回収リスク
を負うと述べていたことが認められるから,そもそも原告とP1との間
に代金回収リスクを負うか否かという差異があるとの前提自体にも疑問
があるが,その点を措くとしても,通常の取引に基づいて発生した債権
に対する貸倒損失又は貸倒引当金繰入額は,異常なものを除いて販管費
として計上されることとされている(乙16)から,原告とP1との間
に,代金回収リスクを負うか否かという差異があるのであれば,その差
異は,それぞれの販管費に貸倒損失等の代金回収リスクに係る費用が計
上されるか否かという形で現れ,やはり販管費の多寡に反映されること
になる。
そうすると,本件国外関連取引に関し,原告及びP1が行う業務又は
負担するリスクについて,原告が主張するような差異があるとしても,
それらの差異は,販管費の金額の多寡に反映されているのであるから,
販管費を分割要因とすることにより,本件国外関連取引に係る分割対象
利益の発生に対する寄与度の差異として反映されることになるというべ
きである。
なお,商標登録の点は,本件各事業年度における原告の財務諸表(乙
9の7ないし11)をみても,原告の貸借対照表に上記商標が価値のあ
る無形資産として計上されているとは認められないから,原告が自己名
義で商標登録していることが,本件国外関連取引に関し,原告及びP1
が果たす機能に見るべき差異を生じさせる要因であるとは認め難い。
(ウ)また,原告は,原告の販管費には,広告宣伝費,役員等の給与,賃
借料,減価償却費等が計上されているのに対し,P1の販管費には,多
額の弁護士費用や会計事務所等への支払が計上されており,個別の販管
費が所得の発生に対する寄与度は当然に異なるから,それぞれの費用が
分割対象利益の発生にどのように寄与しているか明らかにすべきである
旨主張する。
しかし,証拠(乙10,49,50,乙51の1,2,乙52の1,
2)によれば,原告は,処分行政庁の調査担当者から,移転価格税制の
適用を検討するために必要な資料として,P1の事業全体に係る財務諸
表,P1の対日取引に係る販管費の内訳に関する資料,販管費の支払を
証明する証憑の写し等の提出を繰り返し要請されたが,P1の平成10
年から平成15年までの各事業年度に係る対日切出損益表(乙10)及
び「対日本取引に係る販管費の配分」と題する書面(乙51の2)を提
出したのみであり,更なる追加の資料の提出や説明を拒否したことが認
められるところ,原告が提出した上記資料からは,販管費の各科目の事
業年度別の金額や割合,弁護士や会計事務所が行った具体的な業務の内
容,全体の約20パーセントを占める「その他」の科目の詳細等を把握
することは困難といわざるを得ない。
そして,前記(2)イのとおり,本件国外関連取引に関する原告及びP
1の業務は,いずれもエクアドル産バナナの仕入販売及びそのための一
般管理業務のみであり,これらの業務のために支出された費用は,全て
販管費として計上されることになるから,本件国外関連取引に関し,原
告及びP1が支出した費用は,販管費のみということになる。
そうすると,このような本件における事実関係を前提とすれば,処分
行政庁が,販管費のうち特定の科目を切り出したり,科目ごとに軽重を
付けたりすることなく,その全体の額をもって分割要因としたことに
も,合理性が認められるというべきである。
ウ(ア)原告は,寄与度利益分割法は,分割要因の選定次第では非常識又は
不合理な結論を生じかねないことから,国外関連取引に当該分割要因を
用いた寄与度利益分割法を適用した結果を反映した営業利益率や売上総
利益率が同業他社の営業利益率や売上総利益率と著しく乖離していない
かの検証等を行うことが不可欠であり,その結果が不合理なものとなっ
ている場合には,当該寄与度利益分割法の適用は違法となるとした上
で,本件各更正処分を反映させた平成11年12月期における原告の営
業利益率が他のバナナ輸入販売業者4社の営業利益率の約12倍から5
0倍となり,また,本件各更正処分を反映させた平成11年12月期及
び平成12年12月期における原告の売上総利益率は,A社の売上総利
益率を上回っており,その結果が不合理なものとなっている旨主張す
る。
(イ)しかし,措置法及び措置法施行令その他関係法令を見ても,寄与度
利益分割法について,原告が主張するような同業他社の営業利益率等と
比較して検証することを義務付け,その結果が同業他社の営業利益率等
と乖離している場合には,当該寄与度利益分割法の適用が違法となる旨
を定めた規定は見出すことはできない。
そもそも寄与度利益分割法は,同業他社の営業利益率や売上総利益率
を用いることなく,国外関連取引に係る所得が当該法人と国外関連者が
その発生に寄与した相対的な程度に応じて帰属するものとして計算した
金額をもって独立企業間価格とする方法であって,基本三法を用いるこ
とができない場合,すなわち,適切な比較対象取引が存在しない場合に
限り用いることができる方法であるから,寄与度利益分割法を適用した
結果を反映した営業利益率等について,適切な比較対象取引とはいえな
い同業他社の営業利益率等と比較し,これを上回っていたからといっ
て,直ちにその分割要因が不適切であるとはいえない。
(ウ)aまた,上記の点を措くとしても,原告が平成11年12月期にお
ける営業利益率について比較対象としたバナナ輸入販売業者4社と
は,P6株式会社,P7株式会社,P8株式会社,株式会社P9の4
社であるところ,証拠(乙30,31,33)によれば,P6株式会
社及びP7株式会社は,青果物の輸入卸業以外の複数の事業を営むも
のであること,P8株式会社は,青果物の輸入卸業を営むものである
が,パイナップルやキウイ等のバナナ以外の青果物も取り扱っている
ことがそれぞれ認められ,専らエクアドル産バナナの輸入取引のみを
行っている原告とは,その事業内容が大きく異なるから,これらの業
者の営業利益率と乖離しているからといって,販管費が分割要因とし
て適当ではないとは到底いえない。
また,証拠(乙32)によれば,株式会社P9は,フィリピン産バ
ナナの輸入取引を国外関連者との間で行っているものであることが認
められるところ,独立企業間価格を求めるために行う寄与度利益分割
法を適用した結果が妥当なものであるかを検証するに当たり比較対象
とするには,やはり不適当といわざるを得ない。
b次に,A社についても,そもそもA社は,フィリピン産バナナの輸
入取引を行う業者であって,前記1のとおり,原告が取り扱うエクア
ドル産バナナとフィリピン産バナナとの間には,エクアドル政府規制
の有無という「通常の利益率」に影響を及ぼすべき差異があるから,
両者の営業利益率を単純に比較することはできない。
また,この点を措くにしても,本件各更正処分を適用した結果につ
いてみるに,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,平成11年
12月期ないし平成15年12月期における本件各更正処分前の原告
の売上総利益率,A社の売上総利益率,A社の売上総利益率を用いて
算出した本件国外関連取引に係る所得移転額は,下記の表のとおりで
あることが認められる。

平成11年
12月期
平成12年
12月期
平成13年
12月期
平成14年
12月期
平成15年
12月期
合計
本件各更正処分前の
原告の売上総利益率9.9%-14.7%-22.2%8.6%7.8%
A社の売上総利益率8.9%-10.7%0.7%15.5%14.6%
所得移転額(百万円)05112,6451,0358525,043
※所得移転額=(原告の売上原価-(原告の売上-原告の売上×A社の売上総利益率))
このように,本件各更正処分前の原告の売上総利益率は,平成11
年12月期を除き,A社の売上総利益を下回っており,A社の売上総
利益を用いて算出した上記5事業年度における本件国外関連取引に係
る所得移転額の合計額は,約50億4300万円となるところ,本件
各更正処分後の上記5事業年度における本件国外関連取引に係る所得
移転額の合計額は約39億9226万円であって,これを下回るもの
であるから,本件各更正処分後の原告の売上総利益率が,A社の売上
総利益率と比較して,著しく不合理なものであるとはいえない。
(4)小括
以上によれば,原告及びP1の支出した販管費は,措置法施行令39条の
12第8項にいう「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要
因」に当たるというべきであって,この点の原告の主張,すなわち,およそ
バナナの輸入販売業においては,販管費の支出が増加すれば営業利益が増加
するという関係がなく,平成12年12月期及び平成13年12月期におけ
る分割対象利益は,その全てがエクアドル産バナナの浜値の大幅な下落等の
日本市場の特殊要因により生じた原告の営業損失から構成され,原告及びP
1の販管費との間に関連性はないから,販管費は,「当該所得の発生に寄与
した程度を推測するに足りる要因」に当たらないという主張は,採用するこ
とができない。よって,本件各処分が,販管費を分割要因として寄与度利益
分割法を用いて算定された独立企業間価格に基づいてされた点に,何ら違法
な点はない。
4争点4(本件各処分に係る理由付記の不備の有無)について
(1)原告は,平成11年12月期ないし平成13年12月期に係る法人税額
等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書(本件各通知書)には,販管費
が分割対象利益の発生に寄与したと判断した具体的根拠及び理由が全く記載
されていないから,本件各処分は,法人税法130条2項の趣旨に反し,違
法であると主張する。
(2)そこで,検討するに,法人税法130条2項は,税務署長は,内国法人
の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準,欠損金額等の更正をする場
合には,その更正に係る国税通則法28条2項に規定する更正通知書にその
更正の理由を付記しなければならない旨規定しているところ,その趣旨は,
法人税法が青色申告制度を採用し,青色申告に係る所得の計算については,
それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上,その帳簿
の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑
み,更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するととも
に,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあると
解される。
したがって,更正通知書に付記すべき理由としては,帳簿書類の記載自体
を否認して更正をする場合においては,そのような更正をした根拠を帳簿記
載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを
要するが,帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合におい
ては,更正の根拠を上記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜とい
う理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限
り,法人税法130条2項の要求する更正理由の付記として欠けるところは
ないというべきである(最高裁判所昭和60年4月23日第三小法廷判決・
民集39巻3号850頁参照)。
(3)アこれを本件についてみるに,平成11年12月期ないし平成13年1
2月期に係る各処分は,上記各事業年度に係る確定申告において,原告
が,本件国外関連取引が独立企業間価格で行われたものとして,その所得
金額の計算上益金の額に算入しなかったという法的評価を修正したにすぎ
ず,原告の帳簿書類の記載自体を否認したものではないから,更正をした
根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に
明示する必要はない。
そこで,本件各通知書の更正理由の記載が,更正処分庁の恣意抑制及び
不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的
に明示するものであるかどうか検討する。
イ証拠(甲1ないし3)によれば,本件各通知書には,その更正の理由と
して,①原告とP1は,その発行済株式の全てをP2によって直接所有さ
れているため,P1は,原告の措置法66条の4第1項に規定する国外関
連者に該当すること,②原告がP1からエクアドル産バナナを輸入してい
る取引は,同項に規定する国外関連取引に該当すること,③独立企業間価
格の算定について,原告とP1との間の本件国外関連取引は,エクアドル
では農園からのバナナの買入価格及びエクアドルからの輸出価格に規制が
課されており,また,他の地域からバナナを輸入する法人の取引は産地か
ら直接バナナを輸入しているのに対し,P4と原告の間にP1が介在して
いることなどから,基本三法を用いることができず,措置法66条の4第
2項1号ニ,措置法施行令39条の12第8項に規定する寄与度利益分割
法を用いることとし,原告とP1に発生した営業利益の合計額を分割対象
利益とし,その獲得に寄与したのは,原告とP1の販売費及び一般管理費
と認められることから,当該販管費及び一般管理費を分割要因とし,独立
企業間価格を算定したこと,④本件国外関連取引に係る対価の額は,上記
で算定された独立企業間価格を超えるため,当該取引が独立企業間価格で
行われたものとみなして各事業年度の所得金額を再計算し,本件国外関連
取引の対価の額と独立企業間価格との差額をP1への所得移転額として各
事業年度の所得金額に加算したことが,それぞれ具体的な金額や計算過程
を示した上で記載されていることが認められる。
ウこのような本件各通知書の理由付記の記載は,処分庁が上記各処分をし
た法律上及び事実上の根拠並びにその判断過程を具体的に記載したものと
いうことができるのであって,処分庁としては,上記のような内容の理由
を記載することにより上記各処分における自己の判断過程を検証すること
ができ,その判断の慎重及び合理性を確保し,その恣意を抑制するという
理由付記制度の趣旨を損なうものとは到底いえない。また,原告による不
服申立ての便宜という面から見ても,必要かつ十分な材料を提供するもの
ということができる。
(4)以上によれば,本件各通知書の理由付記の記載は,法人税法130条2
項が求めている更正の理由付記として何ら欠けるところはない。
第4結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟
費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官定塚誠
裁判官渡邉哲
裁判官波多江真史は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官定塚誠
別紙1
関係法令等の定め
1平成13年法律第7号による改正前の租税特別措置法66条の4
(1)1項
法人が,昭和61年4月1日以後に開始する各事業年度において,当該法
人に係る国外関連者(外国法人で,当該法人との間にいずれか一方の法人が
他方の法人の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50以上の株式の
数又は出資の金額を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊
の関係(以下この条において「特殊の関係」という。)のあるものをいう。
以下この条において同じ。)との間で資産の販売,資産の購入,役務の提供
その他の取引を行った場合に,当該取引(当該国外関連者が法人税法第14
1条第1号から第3号までに掲げる外国法人のいずれに該当するかに応じ,
当該国外関連者のこれらの号に掲げる国内源泉所得に係る取引のうち政令で
定めるものを除く。以下この条において「国外関連取引」という。)につ
き,当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格
に満たないとき,又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企
業間価格を超えるときは,当該法人の当該事業年度の所得及び解散(合併に
よる解散を除く。以下この条において同じ。)による清算所得(清算所得に
対する法人税を課される法人の清算中の事業年度の所得及び同法第103条
第1項第2号の規定により解散による清算所得とみなされる金額を含む。第
7項において同じ。)に係る同法その他法人税に関する法令の規定の適用に
ついては,当該国外関連取引は,独立企業間価格で行われたものとみなす。
(2)2項
前項に規定する独立企業間価格とは,国外関連取引が次の各号に掲げる取
引のいずれに該当するかに応じ当該各号に掲げる方法により算定した金額を
いう。
一法人税法第2条第21号に規定する棚卸資産(以下この項において「棚
卸資産」という。)の販売又は購入次に掲げる方法(ニに掲げる方法
は,イからハまでに掲げる方法を用いることができない場合に限り,用い
ることができる。)
イ独立価格比準法(特殊の関係にない売手と買手が,国外関連取引に係
る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階,取引数量
その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額(当該同種の棚卸資
産を当該国外関連取引と取引段階,取引数量その他に差異のある状況の
下で売買した取引がある場合において,その差異により生じる対価の額
の差を調整できるときは,その調整を行った後の対価の額を含む。)に
相当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をい
う。)
ロ再販売価格基準法(国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係
にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額(以下この項におい
て「再販売価格」という。)から通常の利潤の額(当該再販売価格に政
令で定める通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を控除して計
算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
ハ原価基準法(国外関連取引に係る棚卸資産の売手の購入,製造その他
の行為による取得の原価の額に通常の利潤の額(当該原価の額に政令で
定める通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を加算して計算し
た金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
ニイからハまでに掲げる方法に準ずる方法その他政令で定める方法
二前号に掲げる取引以外の取引次に掲げる方法(ロに掲げる方法は,イ
に掲げる方法を用いることができない場合に限り,用いることができ
る。)
イ前号イからハまでに掲げる方法と同等の方法
ロ前号ニに掲げる方法と同等の方法
(3)8項
国税庁の当該職員又は法人の納税地の所轄税務署若しくは所轄国税局の
当該職員は,法人と当該法人に係る国外関連者との間の取引に関する調査
について必要があるときは,当該法人に対し,当該国外関連者が保存する
書類若しくは帳簿又はこれらの写しの提示又は提出を求めることができ
る。この場合において,当該法人は,当該提示又は提出を求められたとき
は,当該書類若しくは帳簿又はこれらの写しの入手に努めなければならな
い。
2平成13年政令第141号による改正前の租税特別措置法施行令39条の1

(1)1項
法第66条の4第1項に規定する政令で定める特殊の関係は,次に掲げる
関係とする。
一(略)
二二の法人が同一の者(当該者が個人である場合には,当該個人及びこれ
と法人税法第2条第10号に規定する政令で定める特殊の関係のある個
人)によつてそれぞれその発行済株式等の100分の50以上の株式の数
又は出資の金額を直接又は間接に保有される関係(前号に掲げる関係に該
当するものを除く。)
三(略)
(2)6項
法第66条の4第2項第1号ロに規定する政令で定める通常の利益率は,
同条第1項に規定する国外関連取引(以下この条において「国外関連取引」
という。)に係る棚卸資産(法第66条の4第2項第1号に規定する棚卸資
産をいう。以下この条において同じ。)と同種又は類似の棚卸資産を,特殊
の関係(法第66条の4第1項に規定する特殊の関係をいう。)にない者
(以下この項及び次項において「非関連者」という。)から購入した者(以
下この項において「再販売者」という。)が当該同種又は類似の棚卸資産を
非関連者に対して販売した取引(以下この項において「比較対象取引」とい
う。)に係る当該再販売者の売上総利益の額(当該比較対象取引に係る棚卸
資産の販売による収入金額の合計額から当該比較対象取引に係る棚卸資産の
原価の額の合計額を控除した金額をいう。)の当該収入金額の合計額に対す
る割合とする。ただし,比較対象取引と当該国外関連取引に係る棚卸資産の
買手が当該棚卸資産を非関連者に対して販売した取引とが売手の果たす機能
その他において差異がある場合には,その差異により生じる割合の差につき
必要な調整を加えた後の割合とする。
(3)7項
法第66条の4第2項第1号ハに規定する政令で定める通常の利益率は,
国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を,購入(非関連者
からの購入に限る。),製造その他の行為により取得した者(以下この項に
おいて「販売者」という。)が当該同種又は類似の棚卸資産を非関連者に対
して販売した取引(以下この項において「比較対象取引」という。)に係る
当該販売者の売上総利益の額(当該比較対象取引に係る棚卸資産の販売によ
る収入金額の合計額から当該比較対象取引に係る棚卸資産の原価の額の合計
額を控除した金額をいう。)の当該原価の額の合計額に対する割合とする。
ただし,比較対象取引と当該国外関連取引とが売手の果たす機能その他にお
いて差異がある場合には,その差異により生じる割合の差につき必要な調整
を加えた後の割合とする。
(4)8項
法第66条の4第2項第1号ニに規定する政令で定める方法は,国外関連
取引に係る棚卸資産の同条第1項の法人又は当該法人に係る同項に規定する
国外関連者による購入,製造,販売その他の行為に係る所得が,当該棚卸資
産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額,使用した固
定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測する
に足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計
算した金額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法とする。
別紙2
本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張
1本件各更正処分の根拠
被告が本訴において主張する原告の本件各事業年度の所得金額及び納付すべ
き税額は,次のとおりである。
なお,金額の頭部に「△」を付したものは,所得金額については当該金額が
欠損金額であることを,税額については当該金額が還付金額であることを,そ
れぞれ表す。
(1)平成11年12月期
ア所得金額(別表2③欄)8億1142万4289円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)の金額を加算した金額である。
(ア)確定申告における所得金額(別表2①欄)5億7843万8966円
上記金額は,原告が平成12年2月29日付けで処分行政庁に提出し
た原告の平成11年12月期の法人税の確定申告書に記載された所得金
額である。
(イ)国外関連者への所得移転金額(別表2②欄)
2億3298万5323円
上記金額は,原告が平成11年12月期において原告の国外関連者で
あるP1との間で行った本件国外関連取引について,原告がP1に支払
った対価の額が,当該取引に係る措置法66条の4第1項に規定する独
立企業間価格(以下「平成11年12月期分独立企業間価格」とい
う。)を超えていることから,同項の規定に基づき,当該取引が平成1
1年12月期分独立企業間価格により行われたものとみなして原告の当
期の所得金額に加算すべき金額である。
イ課税所得金額に対する法人税額(別表2④欄)
2億7918万1280円
上記金額は,前記アの所得金額(国税通則法(以下「通則法」とい
う。)118条1項の規定に基づき1000円未満の端数を切り捨てた後
のもの)に法人税法66条(平成18年法律第10号による改正前のも
の。以下同じ。)に規定する税率を乗じて計算した金額である。
ウ法人税額から控除される所得税額等(別表2⑤欄)1773円
上記金額は,法人税法68条(平成15年法律第8号による改正前のも
の)に規定する法人税額から控除される所得税の額であり,原告の平成1
1年12月期の法人税の確定申告書に記載された法人税額から控除される
所得税等の金額である。
エ納付すべき法人税額(別表2⑥欄)2億7917万9500円
上記金額は,前記イの金額から前記ウの金額を差し引いた金額(通則法
119条1項の規定に基づき100円未満の端数を切り捨てた後のもの)
である。
オ既に納付の確定した法人税額(別表2⑦欄)1億9879万9300円
上記金額は,原告の平成11年12月期の法人税の確定申告書に記載さ
れた納付すべき法人税額である。
カ差引納付すべき法人税額(別表2⑧欄)8038万0200円
上記金額は,前記エの金額から前記オの金額を差し引いた金額(通則法
119条1項の規定に基づき100円未満の端数を切り捨てた後のもの)
であり,平成11年12月期の更正処分により原告が新たに納付すべき法
人税額である。
(2)平成12年12月期
ア所得金額(別表3④欄)△5億9493万7372円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)の金額を加算し,(ウ)の金額を減算し
た金額である。
(ア)確定申告における所得金額(別表3①欄)
△24億6310万0861円
上記金額は,原告が平成13年2月15日付けで処分行政庁に提出し
た原告の平成12年12期の法人税の確定申告書に記載された所得金額
である。
(イ)国外関連者への所得移転金額(別表3②欄)
18億9379万1789円
上記金額は,原告が平成12年12月期において原告の国外関連者で
あるP1との間で行った本件国外関連取引について,原告がP1に支払
った対価の額が,当該取引に係る措置法66条の4第1項に規定する独
立企業間価格(以下「平成12年12月期分独立企業間価格」とい
う。)を超えていることから,同項の規定に基づき,当該取引が平成1
2年12月期分独立企業間価格により行われたものとみなして原告の当
期の所得金額に加算すべき金額である。
(ウ)事業税の損金算入額(別表3③欄)2562万8300円
上記金額は,平成11年12月期の更正処分により増加した所得金額
に対応する事業税相当額の損金算入額である。
イ納付すべき法人税額(別表3⑦欄)△167円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を控除するに当たり,控除し
きれなかった金額であり,法人税法78条1項の規定に基づき,原告に還
付すべき金額である。
(ア)課税所得金額に対する法人税額(別表3⑤欄)0円
(イ)法人税額から控除される所得税額等(別表3⑥欄)167円
上記金額は,法人税法68条(平成15年法律第8号による改正前の
もの)に規定する法人税額から控除される所得税の額であり,原告の平
成12年12月期の確定申告書に記載された法人税額から控除される所
得税等の金額である。
ウ既に納付の確定した法人税額(別表3⑧欄)△167円
上記金額は,原告の平成12年12月期の法人税の確定申告書に記載さ
れた還付金額である。
エ差引納付すべき法人税額(別表3⑨欄)0円
上記金額は,前記イの金額から前記ウの金額を差し引いた金額である。
オ翌期へ繰り越す欠損金額(別表3⑩欄)5億9493万7372円
上記金額は,原告の平成12年12月期の法人税の確定申告書に記載さ
れた翌期へ繰り越す欠損金の額24億6310万0861円から前記ア
(イ)の所得金額に加算すべき金額18億9379万1789円を減算し,
同(ウ)の所得金額から減算すべき金額2562万8300円を加算した金
額である。
(3)平成13年12月期
ア所得金額(別表4③欄)△17億1637万9730円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)の金額を加算した金額である。
(ア)確定申告における所得金額(別表4①欄)
△35億8186万6130円
上記金額は,原告が平成14年2月23日付けで処分行政庁に提出し
た原告の平成13年12期の法人税の確定申告書に記載された所得金額
である。
(イ)国外関連者への所得移転金額(別表4②欄)
18億6548万6400円
上記金額は,原告が平成13年12月期において原告の国外関連者で
あるP1との間で行った本件国外関連取引について,原告がP1に支払
った対価の額が,当該取引に係る措置法66条の4第1項に規定する独
立企業間価格(以下「平成13年12月期分独立企業間価格」とい
う。)を超えていることから,同項の規定に基づき,当該取引が平成1
3年12月期分独立企業間価格により行われたものとみなして原告の当
期の所得金額に加算すべき金額である。
イ納付すべき法人税額(別表4⑥欄)△187円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を控除するに当たり,控除し
きれなかった金額であり,法人税法78条1項の規定に基づき,原告に還
付すべき金額である。
(ア)課税所得金額に対する法人税額(別表4④欄)0円
(イ)法人税額から控除される所得税額等(別表4⑤欄)187円
上記金額は,法人税法68条(平成15年法律第8号による改正前の
もの)に規定する法人税額から控除される所得税の額であり,原告の平
成13年12月期の法人税の確定申告書に記載された法人税額から控除
される所得税等の金額と同額である。
ウ既に納付の確定した法人税額(別表4⑦欄)△187円
上記金額は,原告の平成13年12月期の法人税の確定申告書に記載さ
れた還付金額である。
エ差引納付すべき法人税額(別表4⑧欄)0円
上記金額は,前記イの金額から前記ウの金額を差し引いた金額である。
オ翌期へ繰り越す欠損金額(別表4⑨欄)23億1131万7102円
上記金額は,原告の平成13年12月期の法人税の確定申告書に記載さ
れた翌期へ繰り越す欠損金の額60億4496万6991円から,前記ア
(イ)の所得金額に加算すべき金額18億6548万6400円及び平成1
2年12月期の更正処分に伴い減少する翌期へ繰り越す欠損金額18億6
816万3489円(別表3②欄の金額から同③欄の金額を減算した金
額)の合計額37億3364万9889円を減算した金額である。
(4)平成14年12月期
ア確定申告における所得金額(別表5①欄)0円
上記金額は,原告が平成15年2月24日付けで処分行政庁に提出した
原告の平成14年12期の法人税の確定申告書に記載された所得金額であ
る。
イ納付すべき法人税額(別表5④)△48円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を控除するに当たり,控除し
きれなかった金額であり,法人税法78条1項の規定に基づき,原告に還
付すべき金額である。
(ア)課税所得金額に対する法人税額(別表5②欄)0円
(イ)法人税額から控除される所得税額等(別表5③欄)48円
上記金額は,法人税法68条(平成15年法律第8号による改正前の
もの)に規定する法人税額から控除される所得税の額であり,原告の平
成14年12月期の法人税の確定申告書に記載された法人税額から控除
される所得税等の金額である。
ウ既に納付の確定した法人税額(別表5⑤欄)△48円
上記金額は,原告の平成14年12月期の法人税の確定申告書に記載さ
れた還付金額である。
エ差引納付すべき法人税額(別表5⑥欄)0円
上記金額は,前記イの金額から前記ウの金額を差し引いた金額である。
オ翌期へ繰り越す欠損金額(別表5⑦欄)6億8081万6980円
上記金額は,原告の平成14年12月期の法人税の確定申告書に記載さ
れた翌期へ繰り越す欠損金の額44億1446万6869円から,平成1
2年12月期の更正処分に伴い減少する翌期へ繰り越す欠損金額18億6
816万3489円(別表3②欄の金額から同③欄の金額を減算した金
額)及び平成13年12月期の更正処分に伴い減少する翌期へ繰り越す欠
損金額18億6548万6400円(別表4②欄の金額)を減算した金額
である。
(5)平成15年12月期
ア所得金額(別表6③欄)4億3366万5977円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)の金額を加算した金額である。
(ア)確定申告における所得金額(別表6①欄)0円
上記金額は,原告が平成16年2月27日付けで処分行政庁に提出し
た平成15年12月期の法人税の確定申告書に記載された所得金額であ
る。
(イ)繰越欠損金の損金算入過大額(別表6②欄)
4億3366万5977円
上記金額は,原告が平成15年12月期の法人税の確定申告書におい
て損金の額に算入した繰越欠損金11億1448万2957円と平成1
2年12月期の更正処分及び平成13年12月期の更正処分に伴って減
少した所得金額から減算すべき正当な繰越欠損金の当期控除額6億80
81万6980円(別表5⑦欄)の金額との差額であり,平成15年1
2月期の損金の額に算入されない金額である。
イ課税所得金額に対する法人税額(別表6④欄)
1億2945万9500円
上記金額は,前記アの所得金額(通則法118条1項の規定に基づき1
000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に法人税法66条に規定する
税率(ただし,経済社会の変化等に対応して早急に構ずべき所得税及び法
人税の負担軽減措置に関する法律16条1項(平成16年法律第14号に
よる改正前のもの)による置き換え後のもの。以下同じ。)を乗じて計算
した金額である。
ウ法人税額から控除される所得税額等(別表6⑤欄)1802円
上記金額は,法人税法68条に規定する法人税額から控除される所得税
の額であり,原告の平成15年12月期の法人税の確定申告書に記載され
た法人税額から控除される所得税等の金額である。
エ納付すべき法人税額(別表6⑥欄)1億2945万7600円
上記金額は,前記イの金額から前記ウの金額を差し引いた金額(通則
法119条1項の規定に基づき100円未満の端数を切り捨てた後のも
の)である。
オ既に納付の確定した法人税額(別表6⑦欄)△1802円
上記金額は,平成15年12月期の法人税の確定申告書に記載された還
付金額である。
カ差引納付すべき法人税額(別表6⑧欄)1億2945万9400円
上記金額は,前記エの金額から前記オの金額を差し引いた金額(通則法
119条1項の規定に基づき100円未満の端数を切り捨てた後のもの)
であり,平成15年12月期の更正処分により原告が新たに納付すべき法
人税額である。
(6)平成16年12月期
ア所得金額(別表7⑤欄)4億4236万0566円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)及び(ウ)の金額を加算し,(エ)の金額を
減算した金額である。
(ア)確定申告における所得金額(別表7①欄)0円
上記金額は,原告が平成17年3月31日付けで処分行政庁に提出し
た原告の平成16年12月期の法人税の確定申告書に記載された所得金
額である。
(イ)繰越欠損金の損金算入過大額(別表7②欄)
4億1973万1882円
上記金額は,原告が平成16年12月期の法人税の確定申告書におい
て損金の額に算入した繰越欠損金4億1973万1882円と平成12
年12月期ないし平成15年12月期の各更正処分に伴って減少した所
得金額から減算すべき正当な繰越欠損金の当期控除額0円との差額であ
り,平成16年12月期の損金の額に算入されない金額である。
(ウ)在庫評価損のうち損金の額に算入されない金額(別表7③欄)
6426万0484円
上記金額は,原告が平成16年12月期の法人税の確定申告において
棚卸資産の評価損として損金の額に算入した金額であり,法人税法33
条(資産の評価損の損金不算入等)の規定に基づき,平成16年12月
期の損金の額に算入されない金額である。
(エ)事業税の損金算入額(別表7④欄)4163万1800円
上記金額は,平成15年12月期の更正処分により増加した所得金額
に対応する事業税相当額の損金算入額である。
イ課税所得金額に対する法人税額(別表7⑥欄)
1億3206万8000円
上記金額は,前記アの所得金額(通則法118条1項の規定に基づき1
000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に法人税法66条に規定する
税率を乗じて計算した金額である。
ウ法人税額から控除される所得税額等(別表7⑦欄)1260円
上記金額は,法人税法68条に規定する法人税額から控除される所得税
の額であり,原告の平成16年12月期の法人税の確定申告書に記載され
た法人税額から控除される所得税等の金額である。
エ納付すべき法人税額(別表7⑧欄)1億3206万6700円
上記金額は,前記イの金額から前記ウの金額を差し引いた金額(通則法
119条1項の規定に基づき100円未満の端数を切り捨てた後のもの)
である。
オ既に納付の確定した法人税額(別表7⑨)△1260円
上記金額は,原告の平成15年12月期の法人税の確定申告書に記載さ
れた還付金額である。
カ差引納付すべき法人税額(別表7⑩欄)1億3206万7900円
上記金額は,前記エの金額から前記オの金額を差し引いた金額(通則法
119条1項の規定に基づき100円未満の端数を切り捨てた後のもの)
であり,平成16年12月期の更正処分により原告が新たに納付すべき法
人税額である。
2本件各更正処分の適法性
前記1のとおり,被告が本訴において主張する原告の本件各事業年度におけ
る①所得金額又は欠損金額,②納付すべき法人税額又は還付金額及び③翌期へ
繰り越す欠損金額は,それぞれ次のとおりである。
なお,翌期へ繰り越す欠損金額がない事業年度については,③の記載をして
いない。
(1)平成11年12月期
①8億1142万4289円,②2億7917万9500円
(2)平成12年12月期
①△5億9493万7372円,②△167円,③5億9493万737
2円
(3)平成13年12月期
①△17億1637万9730円,②△187円,③23億1131万7
102円
(4)平成14年12月期
①0円,②△48円,③6億8081万6980円
(5)平成15年12月期
①4億3366万5977円,②1億2945万7600円
(6)平成16年12月期
①4億4236万0566円,②1億3206万6700円
本件各更正処分における所得金額又は欠損金額,納付すべき法人税額又は還
付金額及び翌期へ繰り越す欠損金額は,上記の各金額と同額であるから,本件
各更正処分はいずれも適法である。
3本件各賦課決定処分の根拠
前記2のとおり,本件各更正処分はいずれも適法であるところ,平成11年
12月期,平成15年12月期及び平成16年12月期の各更正処分により原
告が新たに納付すべき法人税額については,その基礎となった事実について,
原告がこれを計算の基礎としなかったことに,通則法65条4項に規定する
「正当な理由」があるとは認められない。
したがって,本件各更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税
額を基礎として課されるべき過少申告加算税の金額は,次のとおりである。
(1)平成11年12月期の賦課決定処分の額803万8000円
上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,原告が平成11年12月
期の更正処分により新たに納付すべきこととなった税額8038万円(ただ
し,通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数金額を切り捨てた
後のもの)に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。
(2)平成15年12月期の賦課決定処分の額1939万2500円
上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,原告が平成15年12月
期の更正処分により新たに納付すべきこととなった税額1億2945万円
(ただし,通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数金額を切り
捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて算出した金額1294万
5000円に,通則法65条2項の規定に基づき,平成15年12月期の更
正処分により新たに納付すべきこととなった税額1億2945万9400円
のうち,同条3項に規定する期限内申告税額に相当する金額0円と50万円
とのいずれか多い金額である50万円を超える部分の額1億2895万円
(ただし,通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数金額を切り
捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて算出した金額644万75
00円を加算した金額である。
(3)平成16年12月期の賦課決定処分の額1978万4000円
上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,原告が平成16年12月
期の更正処分により新たに納付すべきこととなった税額1億3206万円
(ただし,通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数金額を切り
捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて算出した金額1320万
6000円に,通則法65条2項の規定に基づき,平成16年12月期の更
正処分により新たに納付すべきこととなった税額1億3206万7900円
のうち,同条3項に規定する期限内申告税額に相当する金額0円と50万円
とのいずれか多い金額である50万円を超える部分の額1億3156万円
(ただし,通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数金額を切り
捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて算出した金額657万80
00円を加算した金額である。
4本件各賦課決定処分の適法性
被告が本訴において主張する平成11年12月期,平成15年12月期及び
平成16年12月期の各更正処分に伴って賦課されるべき過少申告加算税の額
は,前記3のとおり,それぞれ,①平成11年12月期については803万8
000円,②平成15年12月期については1939万2500円,③平成1
6年12月期については1978万4000円であるところ,本件各賦課決定
処分における過少申告加算税の金額は,上記の各金額と同額であるから,本件
各賦課決定処分はいずれも適法である。

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