弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
      事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、
(一) 平成四年三月四日付でした控訴人の昭和六三年分所得税について所得金額
を六三九万〇二七一円とする更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、総
所得金額を四二八万二〇〇八円として計算した額を超える部分
(二) 右同日付でした控訴人の平成元年分所得税について所得金額を七八六万六
六〇三円とする更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち総所得金額を六一
六万九〇一八円として計算した額を超える部分
(三) 右同日付でした控訴人の平成二年分所得税について所得金額を八七九万七
〇一六円とする更正処分(ただし、審査請求における裁決により一部取り消された
後のもの)及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、審査請求における裁決によ
り一部取り消された後のもの)のうち総所得金額を六二三万九〇八一円として計算
した額を超える部分をいずれも取り消す。
3 被控訴人が控訴人の平成二年一月一日から平成二年一二月三一日までの課税期
間の消費税について平成四年三月四日付でした決定処分(ただし、審査請求で取り
消された部分を除く)及び無申告加算税の賦課決定処分(ただし、審査請求で取り
消された部分を除く)をいずれも取り消す。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
控訴棄却
第二 事案の概要
 本件は、大工工事業を営む白色申告者の控訴人が、昭和六三年から平成二年分
(以下、「本件各係争年分」という。)の所得税について確定申告をし、平成二年
一月一日から同年一二月三一日まで(以下、「本件課税期間」という。)の消費税
について確定申告をしなかったところ、被控訴人が、本件各係争年分について、控
訴人の売上金額を基に同業者比率により推計してその事業所得金額を算出し、控訴
人に対し、所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、合わせて「本
件所得税更正処分等」という。)をし、本件課税期間について、控訴人の右課税期
間における課税資産の譲渡等の対価の額を基に課税標準額を算出し、控訴人に対
し、消費税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分(以下、合わせて「本件消費税
決定処分等」という。)をしたことに対し、控訴人が、右所得税更正処分等は、推
計の必要
性も合理性もなく、また、推計により算出した事業所得金額は控訴人の実際の事業
所得金額(実額)を上回っているとして、それを超える本件所得税更正処分等の取
消しを求め、また、右消費税決定処分等は、控訴人が仕入税額控除に係る帳簿等を
保存しているのに、仕入税額控除を認めなかった違法があるなどとして、本件消費
税決定処分等の取消しを求めている事案である。
 原審裁判所は、本件所得税更正処分等及び本件消費税決定処分等はいずれも適法
であり、そこに控訴人の主張するような違法はないとして、控訴人の本訴請求をい
ずれも棄却したことから、控訴人がこれを不服として、控訴した。
一 争いのない前提事実
 本件における争いのない前提事実は、原判決書六頁八行目から同二二頁六行目ま
でに記載するとおりであるから、これを引用する。
二 争点
 本件の主要な争点は、(一) 本件所得税更正処分等に推計の必要性があるか
(争点1)、(二) 被控訴人の推計課税に合理性があるか(争点2)、(三) 
控訴人の実額反証の成否(争点3)、(四) 昭和六三年分についての控訴人の推
計課税の主張の当否(争点4)、(五) 本件消費税決定処分の根拠の有無(争点
5)、(六) 被控訴人の調査当時、控訴人が消費税の課税期間の課税仕入れ等の
税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しなかったといえるか(争点6)、であ
る。
三 双方の主張
 右争点についての双方の主張は、原判決書二二頁八行目から同一一七頁六行目ま
でに記載するとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決書三二頁一行目
の「例え」を「たとえ」と、同五三頁六行目の「わけはなく」を「わけではなく」
と、同一〇八頁四行目の「本件消費税決定処分」を「本件消費税決定処分等」とそ
れぞれ改め、同一〇九頁一行目の「消費税法」の次に「(平成六年法律一〇九号改
正前のもの。以下「消費税法」という。)」を加え、同一一二頁末行から一一三頁
一行目にかけての「(平成六年法律一〇九号改正前のもの。以下「消費税法」とい
う。)」を削除する。)。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、本件所得税更正処分等及び本件消費税決定処分等はいずれも適法
であり、そこに控訴人の主張するような違法はないと判断する。その理由は、次の
とおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第三争点に対する判断」欄
の記載と同旨であるから、これを引用する(ただし、原判決書一
四〇頁八行目の「A係官について」を「A係官の証言について」と、同一五四頁五
行目の「もっともと」を「もともと」とそれぞれ改める。)。
1 争点1(推計の必要性)について
 控訴人は、A係官が控訴人宅に臨場した際、控訴人はその都度領収書の綴りをテ
ーブルの上に並べ、調査に協力する態度を示していたのであるから、A係官は、こ
れを手にして確認することにより、実額を把握することが十分に可能であったとし
て、本件において、推計の必要性があったとはいえないと主張する。
 しかし、前記認定のとおり、控訴人は、A係官からの帳簿等の提示要請に対し、
第一回目及び第二回目の調査日には一切これに応じず、第三回目及び第四回目の調
査日においては、接待交際費の領収書の一部のみを提示しただけでその余の帳簿等
の提示を拒否し、結局、本件調査を不可能ならしめているものであって、控訴人
に、領収書の綴りを示すなどの、本件調査に協力する態度があったと認めることは
できない。もっとも、B事務局長は、第二回目の調査日に、領収書の綴りをテーブ
ルの上に差し出しているが、これは、控訴人が、A係官の帳簿等の提示要求に対
し、あくまで協力しないという態度をとり続ける中で、B事務局長が、「卑怯者呼
ばわりされたことを謝らないと調査協力できないよ。」などと言いながら領収書の
綴りをテーブルの上に差し出したというものであって、およそ調査に協力するとい
う前提で差し出したものとはいえない。しかも、控訴人は、終始本件調査に非協力
的な態度をとり続けていたものであって、このことは、原審証人Aの証言に照らし
て明らかである。この点、控訴人は、右A証言には、あいまいな点や矛盾した点が
多く、信用できないと主張するが、格別、A証言に、その信用性に影響を与えるよ
うなあいまいな点や矛盾した点は見受けられない。したがって、本件において、推
計の必要性があったとはいえないとする控訴人の前記主張は、採用することができ
ない。
2 争点2(推計の合理性)について
 控訴人は、被控訴人が控訴人の業種を日本標準産業分類に準じて大工工事業と分
類したことについて、日本標準産業分類は、大工工事と造作工事をまとめた大工工
事業と型枠工事業に分類しているから、右分類に準じて同業者を抽出したとすれ
ば、少なくともその中には、造作工事のほかいわゆる大工工事が含まれることにな
るところ、控訴人は、造作工事専門業者で
あり、大工工事は全く行っていないから、被控訴人は、控訴人の所得を推計するに
足りる類似性のある同業者を抽出したとはいえない旨主張する。
 しかし、同業者の類似性を余りに厳格に解すると、業種によっては類似した業者
が存在しないことにもなりかねない。したがって、日本標準産業分類に準じて業種
を分類し、同業者を抽出することは、一応の合理性を有するものといわなければな
らない。本件の場合、前記認定のとおり、被控訴人は、この日本標準産業分類に準
じて、控訴人を大工工事業と分類し、類似同業者を抽出しているところ、右分類に
よれば、大工工事業は、建設工事を直接請け負うのではなく、大工工事部分を下請
けするものであるというのであり、しかもこの大工工事業は、型枠大工工事業と木
造建築工事業とが除かれているのであるから、控訴人のいう造作工事は、基本的に
は、右の大工工事業と同種の事業であり、それと類似性を有するということができ
る。したがって、被控訴人が、控訴人を大工工事業と分類して類似同業者を抽出し
たことには合理性があり、控訴人が主張するような違法はないものというべきであ
る。控訴人の右主張は採用することができない。
 また、控訴人は、本件において、被控訴人は、抽出された同業者が控訴人と類似
性を有することについての判断材料を一切提出していないから、果たして真に控訴
人と類似性のある同業者が抽出されたのかについて検証のしょうがないと主張す
る。
 しかし、乙一、二、六、原審証人Cの証言、弁論の全趣旨によれば、C調査官
は、上司であったD統括から、関東信越国税局長が被控訴人に宛てた「訴訟事件に
関する資料の報告について(一般通達)」(乙一)を示され、これに従って控訴人
と類似性を有する一定範囲の同業者を抽出し、その収入金額、所得金額等を調査
し、報告するよう命じられ、右通達に記載された抽出基準を一つ一つ確認したう
え、業種別名簿記載の同業者の各確定申告書、青色申告決算書等に基づいて、機械
的かつ事務的に抽出作業を行い、右抽出条件を満たす者を漏れなく抽出して、報告
書(乙二)を作成したことが認められる。そして、D統括がC調査官に示した右通
達は、控訴人と類似性のある同業者の抽出基準として合理的であり、相当であると
認められる。右の事情に照らせば、C調査官が抽出した同業者は、控訴人と類似性
を有するものであり、そこに格別不自然、不合理な点があ
るものとは窺われない。したがって、本件において、被控訴人が、格別同業者の類
似性を証する資料を提出していないからといって、これにより右同業者の類似性に
疑問があるということはできない。控訴人の前記主張は採用することができない。
3 争点3(実額反証)について
 控訴人は、実額反証はあくまで反証であり、民事訴訟の一般的な証明の程度と何
ら異なることはなく、証拠の優劣で足りるとして、合理的な疑いを容れない程度の
証明を要求するものではない旨主張する。
 しかし、実額反証は、「反証」とはいっても、実質的には、いわゆる間接反証事
項であり、その主張立証責任は、納税者が負担すべきものと解するのが相当であ
る。このことは、課税庁の証拠の収集が、確認すべき個々の経済取引がなされてか
ら相当の年月を経過してなされるため、関係資料の保存期間の経過や取引関係者の
転出、所在不明などによって限界があり、著しく困難であるのに反し、実額反証を
主張する納税者は、もともと経済取引の当事者であって、自己に有利な証拠を提出
するのは容易であることからすると、実質的な公平にもかなうものというべきであ
る。そして、右のような事情を考えれば、実額反証といえるためには、その主張す
る収入及び経費の各金額が存在し、経費については事業との関連性が認められるこ
と、右収入金額が全ての取引先から発生した全ての収入金額であること、右経費が
右収入と対応するものであり、直接費用については個別的な対応の事実、間接費用
については期間対応の事実があることの三点につき、合理的な疑いを容れない程度
に証明されなければならないものと解するのが相当である。したがって、実額反証
をもって単なる反証であり、合理的な疑いを容れない程度の証明まで要求されるも
のではないとすることはできない。控訴人の右主張は採用することができない。
4 争点6(仕入税額控除の可否)について
 控訴人は、消費税法三〇条七項にいう帳簿等の保存の規定は、まさに納税者が自
分で申告して税額を確定するという申告納税制度に由来するものであり、税務調査
の便宜のための規定ではないから、納税者は、帳簿等を保存している事実がありさ
えずれば、たとえ税務署の調査に際し帳簿等を提示しなくとも、仕入税額控除の適
用が受けられると主張する。
 しかし、消費税法三〇条七項が、帳簿等の保存がない場合には、当該保存がない
課税仕入れ又は課税貨
物に係る課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の適用が受けられないもの
とした趣旨は、単に物理的な意味で帳簿等の保存がない場合に限るというのではな
く、帳簿等が物理的には保存されていたとしても、税務職員による適法な帳簿等の
提示要求に対し、当該事業者がその帳簿等の保存の有無及びその記載内容を確認し
得る状態に置くのでなければならないものと解するのが相当である。その理由とし
て、原判決が説示しているところのほか、以下の諸点を指摘することができる。す
なわち、消費税法は、事業者の納付する消費税について、申告納税制度を採用して
おり、事業者に課税標準額、課税標準額に対する消費税額及び右消費税額から控除
されるべき課税仕入れ等に係る消費税額等を記載した申告書を税務署長に提出する
ことを義務付けているから(四五条)、税務署長等が納税者のした申告内容が正確
であることを確認するためには、課税要件事実に関する資料の入手が必要不可欠で
ある。そこで、消費税法は、消費税に関する調査について必要があるときには、税
務署長は納税義務がある者等に対し、質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類
その他の物件を検査することができる旨を定め(六二条)、質問に対する不答弁並
びに検査の拒否、妨害等に対しては、刑罰をもってこれに臨んでいる(六八条一
号)。また、消費税法は、課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿には、それが課税
仕入れに係るものである場合には、イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称、ロ 
課税仕入れを行った年月日、ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容、二 課税
仕入れに係る支払対価の額を記載することを(三〇条八項一号)、また、課税仕入
れ等の税額の控除に係る請求書等には、それが課税仕入れに係るものである場合に
は、イ 書類の作成者の氏名又は名称、ロ 課税資産の譲渡等を行った年月日、ハ
 課税資産の譲渡等の対象とされた資産又は役務の内容ニ 課税資産の譲渡等の対
価の額、ホ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称を記載することを(三〇条
九項一号)それぞれ求めている。さらに、消費税法施行令五〇条は、事業者が消費
税法三〇条一項の仕入税額控除の適用を受けるためには、仕入税額控除に係る帳簿
等を整理し、帳簿についてはその閉鎖の目の属する課税期間の末日の翌日、請求書
等についてはその受領した目の属する課税期間の末日の翌日から各二月を経過した
日か
ら七年間、納税地又はその取引に係る事務所、事業所等の所在地に保存しなければ
ならないことを規定している。このような消費税法が採用している消費税の制度内
容及び関連諸規定にかんがみると、消費税法三〇条七項が仕入税額控除の適用を受
けるための要件として帳簿等の保存を要求しているのは、税務職員が税務調査にお
いて納税者の保存している右帳簿等を検査し、申告の正確性を確認することができ
るようにするためであると解されるのである。右のような趣旨からすると、税務職
員が消費税の調査に当たって質問検査権を行使して、単に帳簿等が保存されている
ことさえ確認されれば、それだけで仕入税額控除が認められるというわけでなく、
税務職員が保存されている帳簿等を調査し、その結果と申告書類及び計算明細書の
記載内容とが一致していることを確認することができてこそ、仕入税額控除が認め
られるものと解するのが合理的である。したがって、消費税法三〇条七項にいう
「帳簿等の保存」とは、単なる物理的な帳簿等の保存にとどまるものではなく、税
務職員による適法な帳簿等の提示要求に対し、当該事業者がその保存の有無及びそ
の記載内容を確認し得る状態に置くことをも意味する趣旨であると解するのが相当
である。控訴人の前記主張は採用することができない。
二 よって、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却を免れず、これと同旨の原判
決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用
の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとお
り判決する。
東京高等裁判所第一四民事部
裁判長裁判官 小川英明
裁判官 近藤壽邦
裁判官 川口代志子

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