弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決中控訴人勝訴部分を除いた部分を取り消す。被控訴人両
名の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人両名の負担とする。」と
の判決を求め、被控訴人ら代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。
 当事者双方の主張、証拠の提出援用認否は、被控訴人ら代理人において甲第一号
証中「二、四阡参拾円夜具一組」とあるのは、Aの遺骸とともに棺に入れたもので
あると述べ、控訴代理人において、当審証人Bの証言、当審における控訴人本人尋
問の結果を援用すると述べた外、被控訴人らと控訴人に関する原判決の事実記載及
び更正決定と同一(但し、原判決二枚目表一二行目に「c番町」とあるのを「c番
丁」と、同二枚目裏一行目に「脳挫減」とあるのを「脳挫滅」と、同四行目に「舗
道」とあるのを「歩道」と、同三枚目表一一行目に「非嘆」とあるのを一悲嘆」
と、同三枚目裏末行及び同五枚目裏五行目に「C」とあるのを「C」と、同五枚目
表三行目に「捨つて」とあるのを「拾つて」とそれぞれ訂正する。同五枚目裏六行
目から七行目に「、被告会社代表者D」とあるのを削除する。)であるから、これ
を引用する。
         理    由
 控訴人が昭和二八年七月三一日午後五時三五分頃丸京運輸株式会社所有の普通貨
物自動車(大ー二〇六一一号)を運転して、大阪市a区bc番丁d番地先の道路を
西進中被控訴人らの末女Aに右自動車を接触させ、そのため同女が脳挫滅の創傷を
受け即死したことは、当事者間に争がない。
 成立に争のない甲第二ないし第四号証、乙第一ないし第五号証(乙第一ないし第
三号証中後記信用しない部分を除く。)、原審証人C、Eの各証言、原審及び当審
証人Bの証言の一部(後記信用しない部分を除く。)、原審における被控訴人ら両
名各本人尋問の結果、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果の一部(後記信
用しない部分を除く。)、原審における検証の結果を総合すると、本件事故発生の
前記場所は東西に通ずる通称溝の川筋を御堂筋から西へ約八二メートル余入つた道
路上で、右道路は、巾約八メートルの平坦な直線道路で、道路の両端はそれぞれ
一、五メートルの石畳で舗装され、中央部分約五メートルがアスファルトにより舗
装されている人道と車道の区別のない道路であつて、道路の両側には各種商店、飲
食店が並んでいるが見透しは良く、歩行者、自転車の通行は相当あるが、自動車の
往来は比較的閑散な場所である。控訴人は、前記貨物自動車を運転して同日午後五
時三五分頃時速約一〇キロメートルの速力で前記道路を東から西に向い進行中、前
方注視の義務を怠つたため、たまたま本件事故現場の北側の被控訴人ら方から大人
用の下駄を履いて出て来て近所の駄菓子屋へ行くため右道路の北側中央寄りを西に
向つて歩いていた被控訴人らの六女A(満四才)の姿に気がつかず、自己の運転し
ていた前記貨物自動車の右前泥除けの部分を同女の後から突き当てて顛倒させ、右
側後車輪で頭の部分を轢き、脳挫滅により同女を即死させた。当日は晴天で現場附
近には見透しを妨げるものや反対側から進行してくる自動車もなかつた。以上の事
実を認めることができる。乙第一ないし第三号証の各記載、原審及び当審における
証人Bの証言、控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲の他の証拠と
対比して信用しない。控訴人は、被害者Aは、事故発生当時大人の下駄を履き自宅
表の道路で遊んでいたが、控訴人の操縦する貨物自動車が東から進行して来てその
場を通り過ぎた瞬間、アスファルトの窪地に足を踏み入れて顛倒し、右貨物自動車
の後車輪に触れて死亡するに至つたと主張し、原審における検証の結果によると、
本件事故により被害者Aが顛倒させられた附近にはアスファルトのはがれたところ
や凹んだところがあつたことを認めることができるが、被害者Aが控訴人主張のよ
うに顛倒したため本件事故が発生したとの主張にそう原審証人Bの証言、原審及び
当審における控訴人本人尋問の結果は、原審証人C、Eの各証言、原審における被
控訴人F本人尋問の結果と対比して信用できないし、他に右主張事実を認めて前記
認定をくつがえすに足る証拠はないから、右主張は採用することはできない。そう
すると、控訴人は自動車の運転者として当然なすべき前方注視義務を怠り、自己の
運転する貨物自動車の進路を歩いて居たAを認めることができず、従つて何ら危険
を防止する手段をとらなかつたため本件事故を発生させたことが明らかであるか
ら、控訴人には過失の責があるといわなければならない。
 控訴人が、被害者A及びその両親である被控訴人両名に与えた精神的損害及び被
控訴人Fに対して加えた財産的損害を賠償する義務があると認めるその余の理由、
被控訴人両名の請求する慰謝料及び損害金の金額中、原判決の認定した限度で正当
として認容すべきものとする理由及び控訴人の被控訴人両名に幼児の監護義務を尽
さなかつた過失かあるとの主張を排斥すべきものとする理由は、次に掲げるものを
付加する外、原判決の理由記載と同一(原判決七枚目裏八行目から同九枚目まで。
但し丸京運輸株式会社に関する部分を除く。)であるから、これを引用する。
 被控訴人らは、被控訴人らの六女Aの被つた精神的損害に対する慰謝料請求権を
相続したと主張するので考える。大審院の判例によると、身体傷害により死亡した
者の慰謝料請求権は、被害者がその生前に請求の意思を表明した場合に限つて相続
の対象となり(大審院昭和二年(オ)第三七五号、同年五月三〇日判決参照。)、
他人の不法行為により身体を傷害されたため精神上の苦痛を受けた者が加害者に対
し有する慰謝料請求権は、被害者の一身に専属し、被害者の死亡とともに消滅し、
相続人はこれを相続すべきものでなく、たた被害者がその慰謝料請求の意思を表明
した場合には該請求権は金銭の支払を目的とする債権となるから、移転性を有し被
害者が死亡した場合相続人がこれを承継するものとされている(大審院昭和二年
(オ)第七一一号、同年一二月一四日判決、大正八年(オ)第八〇号、同年六月五
日判決、大正二年(オ)第一七二号、同年一〇月二〇日判決参照)。本件の場合に
は被害者Aが慰謝料請求の意思を表明したことを認めることができないから、右判
例に従えば、Aの慰謝料請求権は相続性を欠くこととなる。しかし、右解釈は正当
なものでな<要旨>く、いやしくも精神的利益の侵害があれば慰謝料請求権は当然発
生し、被害者が行使の意思を表明しないで死亡した場合、放棄、免除等の特
別の事情のない限り慰謝料請求権は相続されるものと解するのを相当とする。その
理由は次のとおりである。
 (1)、 不法行為によつて傷害を被りそのために死亡(即死)した場合、得べ
かりし利益の喪失による損害に対する賠償請求権はその傷害の瞬間被害者に発生
し、その相続人がこれを承継することは、大審院判例(大審院昭和一六年(オ)第
八四三号、同年一二月二七日判決、民集第二〇巻一四七九頁、大正一四年(オ)第
七三二号、同一五年二月一六日判決、民集第五巻一五〇頁、大正九年(オ)第八八
号、同年四月二〇日判決参照)の判示するところであり、もとより正当な解釈であ
る。そして、民法は不法行為による損害賠償につき財産上の損害賠償と精神上の損
害賠償とを別異に取り扱つていない(第七一〇条参照)のであるから、慰謝料請求
権についても、傷害の瞬間に当然被害者に発生し、被害者が右請求権の不行使の意
思を表明をしない限り、相続人により相続されうるものと解するのを相当とする。
 (2)、 もし最初に掲げた判例のように、被害者がその生前に請求の意思を表
明した場合に限り相続の対象となるとの見解に従えば、被害者が幼少又は精神病等
による意思無能力者である場合には慰謝料請求権の発生を否定しなければならない
こととなり、その不当なことは明らかであろう。また慰謝料請求権が一身専属的な
ものであると解し、一身専属性を強調すれば、被害者の死亡により慰謝されるべき
主体が存在しないこととなり、たとえ被害者がその生前権利行使の意思を表明した
場合でも慰謝料の相続性を否認すべきであろう。もつとも最初に掲げた判例の立場
をとつても、慰謝料請求権の不承継の事実は、民法第七一一条の規定による被害者
の近親者の固有の慰謝料の額を定める場合に増額の資料として考慮されるから、実
際上慰謝料請求権の当然相続性を認める場合とほぼ同一の結果となり、公平及び妥
当性を欠くことはないとの見解もあろうが、民法第七一一条は被害者の父母、配偶
者及び子が固有の慰謝料請求権を有することを規定したものであつて相続の対象で
ある慰謝料請求権とは被害法益を異にするばかりでなく、同条に列記されない被害
者の祖父母や孫が相続人である場合には当然相続を認めるか否かにより重大な差異
を生ずることとなり、公平、妥当を欠く場合があることとなる。
 (3)、 最初に掲げた判例の見解によると、被害者が傷害を受け死亡するまで
意識があつた場合には、請求権行使の意思を表明することができるが、即死の場合
や人事不省に陥つたまま死亡した場合には権利を行使することができないで慰謝料
請求権の相続性を欠くこととなり、不法行為により被害者が傷害を受けたが死亡す
るまで意識があつた場合よりも、即死又は人事不省に陥らせたまま死亡させたよう
な重大な結果を与えた場合にかえつて被害者やその相続人に不利益な結果を生ずる
こととなり、きわめて不当である。
 既に認定したところにより明らかなように、被害者Aは本件事故当時満四才の幼
児であつたが、満四才の幼児であつても、本件事故がなけれは将来永く生存し得た
であろうに、本件事故により若い生命を奪われたのであるから、重大な精神的損害
を被つたものというべきであつて慰謝料請求権を取得することは勿論であり、被控
訴人両名は父母として右請求権を当然相続したものというべきである。
 被控訴人両名は、前認定のように本件事故により愛児を無惨な死により失つたの
であるから、これにより精神上重大な苦痛を被つたものというべく、前に説明した
とおり、相続による慰謝料請求権とは別に、控訴人に対し民法第七一一条による固
有の慰謝料請求権を有することは明らかである。又被控訴人Fは、被害者Aの扶養
義務者であるから、同人がAのため営んだ葬式に要した費用は、本件事故により被
つた財産上の損害というべきであるから、控訴人に対しその損害の賠償を求めるこ
とができるものといわなければならない。
 以上と同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却す
ることとし、民訴法第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決す
る。
(裁判長裁判官 熊野啓五郎 裁判官 岡野幸之助 裁判官 山内敏彦)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛