弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成18年7月21日決定
平成18年(む)第149号
主文
本件請求を棄却する。
理由
本件裁定請求の趣旨及び理由は,弁護人A,同B,同C共同作成の「類
型証拠開示に関する裁定申立書」に記載されたとおりであるから,これを
引用する。その要旨は,検察官は,警察官作成の取調べ状況報告書3通及び
検察官作成の取調べ状況等報告書3通(以下本件各報告書」という。)中の
各一部について,「相当性の要件を満たさない。」とのみ述べて,不開示
としたが,開示による弊害のおそれが明白でない限り,原則として全て開
示するべきである,というのである。
そこで検討すると,当裁判所が検察官に対して提示を求めた本件各報告
書及び一件記録によれば,検察官が不開示とした部分は,警察官作成の取
調べ状況報告書3通中の「逮捕又は勾留の理由となっている犯罪事実に係る
不開示希望被疑者供述調書作成事実」の有無及び通数欄と,検察官作成の
取調べ状況等報告書3通中の「被疑者等がその存在及び内容の開示を希望し
ない旨の意思を表明した被疑者供述調書等作成の事実」の有無及び通数欄
(以下,前記被疑者供述調書等を「不開示希望調書」といい,不開示希望
調書の作成事実の有無及び通数欄を「不開示希望調書の有無及び通数欄」
という。)であることが認められる。
弁護人は,被告人は捜査段階から一貫して本件犯行を否認しているとこ
ろ,既に開示されている被告人の供述調書(乙1,2)の証明力を判断する
ためには,被告人の取調べ状況を記録した書面の開示を受けて,逮捕,勾
留中の取調べ状況を検討することが重要であり,被告人の防御のために必
要であるから,本件各報告書の不開示部分の開示を命じるべきである,と
主張する。
本件各報告書は,取調べ年月日,取調べ担当者氏名,取調べ場所,取調
べ時間,被疑者氏名,逮捕・勾留罪名,不開示希望調書の作成事実の有無
及び通数,不開示希望調書以外の被疑者供述調書等の作成事実の有無及び
通数,その他参考事項など,被告人の取調べの状況を記録した書面である
から,刑訴法316条の15第1項8号の書面に該当し,かつ,それ自体は,検察
官が取調べを請求している被告人の供述調書(乙1,2)の証明力を判断す
るために重要であると認められる。
しかし,本件では,本件各報告書のうち,不開示希望調書の有無及び通
数欄以外の全てが開示されているから,弁護人は,不開示希望調書の作成
事実の有無及び通数を被告人自身から聴取し,確認することが十分可能で
ある。また,不開示希望調書の有無及び通数欄の記載がまさに被告人の供
述調書(乙1,2)の証明力に関わってくるような特段の事情についての具
体的な主張もない。そうすると,被告人の供述調書(乙1,2)の証明力を
判断する上で,不開示希望調書の有無及び通数欄の記載の重要性,必要性
が高いとはいえない。他方,不開示希望調書の有無及び通数欄が開示され
ると,一般に,不開示希望調書が存在する場合には,不開示希望調書の内
容が詮索されたり,供述者や関係者の安全,名誉,プライバシー等が損な
われたり,捜査の秘密を保持することが困難になったりするなどの弊害が
生じるおそれがある。不開示希望調書が存在しない場合には,不開示希望
調書の有無及び通数欄を開示する取扱いをすると,不開示希望調書の有無
及び通数欄の開示,不開示の区別によって,不開示希望調書の有無等が明
らかになってしまい,結局,前記弊害の発生を防止することができなくな
り,ひいては,捜査機関が被疑者の不開示の希望に応じた上で,その供述
を得て供述調書等を作成すること自体を困難ならしめることになる。
以上を総合して考慮すれば,本件において,不開示希望調書の有無及び
通数欄を開示することが相当であるとは認められない。
よって,本件請求は理由がないから,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・原田保孝,裁判官・駒井雅之,裁判官・秋田志保)

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