弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
被告人を懲役1年に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
理     由
(罪となるべき事実)
被告人は,名古屋市a区bc丁目d番e号所在のfを拠点として,株式会
社Aの名称で,Bの仏舎利宝塔における永代供養権と称するものの販売名下
に金銭を受け入れる無限連鎖講類似の事業を主宰し,同社代表取締役社長の
肩書で同事業の業務全般を掌理統括していた分離前の相被告人Cを補佐し
て,同社名古屋支社長の肩書で同事業に係る会員からの入金の管理及び配当
金の支払い等の業務全般を統括していたものであるが,上記C並びに同事業
に係る会員の勧誘及びパンフレットの発送等の業務に従事していた分離前の
相被告人D,同E及び同Fと共謀の上,法定の除外事由がないのに,1口3
5万円をA名義の指定口座に入金すれば,後続会員を入会させることにより
所定の配当金を支払うとともに,中途退会の場合においても,当該入金額の
元本を返還するとの約旨のもとに,別紙一覧表記載のとおり,平成11年2
月9日から同年3月24日までの間,前後53回にわたり,不特定かつ多数
の者であるGほか47名から,上記永代供養権と称するものの販売名下に,
同区gh丁目i番j号所在の株式会社H銀行本店のA代表C名義の普通預金
口座に,70口分合計2450万円の現金を振り込ませてこれを預かり受
け,もって,業として預り金をなしたものである。
(弁護人の主張に対する判断)
なお,弁護人は,判示口座に振り込まれた別紙一覧表記載の70口合計2
450万円(以下「本件金員」という。)は,被告人らが,永代供養権の販
売代金として会員から受け入れたものであり,このような金員は,預金等と
はその経済的性質を異にするので,平成11年法律第32号(金融業者の貸
付業務のための社債の発行等に関する法律)による改正前の出資の受入れ,
預り金及び金利等の取締りに関する法律2条1項の「預り金」には該当しな
いと主張する。
しかしながら,同項にいう「預り金」とは,不特定かつ多数の者からの金
銭の受入れで,預金等と同様の経済的性質を有するものをいい(同条2
項),そこにいう「預金等と同様の経済的性質」とは,①元本の返還を約す
る金銭の受入れで,②金銭の価値ないし価額の保管の目的をもって,主とし
て金銭を提供した者の便宜のためになされるものをいうと解されるところ,
本件金員は,判示のとおり,被告人らが,不特定かつ多数の者に対し,永代
供養権と称するものの販売名下に,後続会員を入会させた場合には,「紹介
料」や「構築料」などと称する所定の配当金を支払うとともに,仮に中途退
会した場合でも「元本保証」すなわち当該会員の入金額の元本を返還すると
の約旨のもと,入会金を同会代表名義の指定口座に入金させたというもので
あるから,これが,①の元本の返還を約する金銭の受入れであることは明ら
かである。また,ラミネート加工された「御札」を準備したり,その安置場
所を整備するなどの,永代供養事業を実施するのに必要な作業が全く行われ
ておらず,同会がパソコンで管理していた会員情報をみても,「永代法要」
や「宗派」などの永代供養権に関する項目については情報が全く入力されて
いないこと,入会を勧誘するための説明会や会員らが新規会員を勧誘するに
際しても,その大半が高額の配当収入を得られる仕組みの説明に割かれてお
り,永代供養事業の具体的内容に関する説明や質疑がなされた様子がないこ
となどの事情からすると,被告人らにおいて,永代供養事業等同会の事業の
用途に供する目的で本件金員を受け入れたものではないことはもとより,本
件金員の預け入れ者らにおいても,これを同会の事業の用途に供することを
目的としたものではなく,元本額の保証を前提にこの「紹介料」等を得る目
的で入金したものであることが明らかというべきであるから,本件金員の受
入れは,②の金銭の価値ないし価額の保管の目的をもって,主として金銭を
提供した者の便宜のためになされたものということができる。したがって,
かかる被告人らの行為が,同条1項の業として「預り金」をしたことに該当
することは明らかである。
 弁護人は,本件金員は,あくまで永代供養権の販売代金として振り込まれ
たものであるから「預り金」には該当しないと主張する。しかし,被告人ら
は,入会希望者らに対して,預け入れ金の元本を保証するとの約旨で金員を
受け入れているのであり,通常このような返還約束のある金員を売買代金と
見るのは困難である。その上,上記のとおりラミネート加工された「御札」
を準備したり,その安置場所を整備するなどの,永代供養事業を実施するの
に必要な作業が全く行われておらず,これについて会員らが不満を述べた形
跡もないことなどに照らすと,本件金員を永代供養権の販売代金とみる余地
はないというべきである。また,弁護人は,受け入れた金員につき,保管・
運用するとの性質がなかった点を指摘して,預金等とは経済的性質を異にす
るとも主張するが,既に説示したところに照らし理由のないことは明らかで
ある。弁護人の主張は採用することができない。
(法令の適用)
被告人の判示所為は包括して刑法60条,平成11年法律第32号(金融
業者の貸付業務のための社債の発行等に関する法律)附則3条により同法に
よる改正前の出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律8条1
項1号,2条1項に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑
期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数
中60日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書
を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,Bの仏舎利宝塔における永代供養権の販売名下に金銭
を受け入れる無限連鎖講類似の事業を主宰していたC他3名と共謀して,後
続会員を入会させることにより所定の配当金を支払い,かつ,受け入れた金
銭の元本を保証するとの約旨のもとに,上記永代供養権を販売するとの名目
で合計2450万円の預り金をしたという,出資法違反の事案である。
 本件は,利殖目当ての顧客心理につけ込み,安易に巨額の利益を得る目的
で敢行されたものであり,動機に酌むべきところが全くないことはもとよ
り,その犯行態様も,顧客をしてあたかも高額かつ安定した収入が得られる
かのように思わせる巧妙なプログラム等を開発した上,新規会員の募集に行
き詰まれば,早晩破綻に至ることが避けられないのに,勧誘用のパンフレッ
トに「民法契約による元本保証」と明記するなど,元本が確実に返還される
旨を謳って各地で説明会を開催するなどして会員を募り,総額2450万円
もの多額の預り金をするに至ったという,大規模かつ組織的,計画的に敢行
された悪質な犯行である。その挙げ句,資金繰りに行き詰まるや一方的に解
約制限を設け,結局本件金員の預け入れ者の相当数が,払い込んだ金員の返
還を受けられないという財産的な実害を被るに至ったというものであり,こ
れら被害者の被害感情は厳しく,また,その社会的影響も看過できないとこ
ろであって,この種事犯の再発防止のため,一般予防の観点も軽視すること
ができないところである。
 被告人は,主宰者であるCの指示の下,それまでに蓄えた知識,経験等を
生かして,ほとんど一人で上記プログラムを考案したり,パンフレットを作
成するなど,本件犯行において不可欠かつ重要な役割を果たしている上,会
員の勧誘活動や預け入れ金の管理等,本件の実務面全般にわたって統括的立
場にもあったものである。また,被告人自身,給料や配当料として相当多額
の利益を得ているにもかかわらず,平成13年3月1日に保釈を許された後
も,被害者らに対してわずかの被害弁償すらなし得ていないところである。
更に,被告人は,本件犯行の前にも無限連鎖講類似の事業にかかわり,その
破綻を経験しながら,共犯者Cに誘われるや再度同種事業にかかわり本件犯
行に至ったのであって,この種事案に対する規範意識は相当に低減している
といわざるを得ない。
 以上によれば,被告人に対してはその刑責を厳しく問う必要があるという
べきであり,被害者の中には高配当目当てに無限連鎖講類似の事業であるこ
とを理解しながら金銭を預け入れた者も多く,この点,被害者らにも落ち度
がないとはいえず,また,被害者の中には元本の返還を受けた者や配当金を
受け取った者も少なからず存在すること,被告人は,本件事業の主宰者であ
るCの指示の下,その意向に沿ってプログラム開発をしたに止まり,Cとの
関係ではなお従属的な立場にあったといえること,事実関係については概ね
認め,当公判廷において,反省の弁を述べ,今後の更生を誓うに至っている
こと,被告人には前科・前歴がないこと,その他家庭の状況等量刑上被告人
に有利に斟酌すべき事情を十分考慮しても,本件が刑の執行を猶予すべき事
案とは認められず,主文程度の実刑に処するのが相当と判断した次第であ
る。
(求刑 懲役2年)
平成13年9月14日
大阪地方裁判所第6刑事部
裁判長裁判官   水  島  和  男
   裁判官   池  上  尚  子
   裁判官   三  輪  篤  志
別紙一覧表省略

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