弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの連帯負担とする。
      事実
第一 申立て
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らは、大阪府に対し、連帯して金二億四六三八万六一五九円、及びこ
れに対する平成八年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 主張
一 二に当審における当事者の主張(補充)を付加し、次のとおり訂正するほか、
原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決四頁八行目の「なお」から一〇行目の末尾までを「なお、吉見ポンプ場
工事は、汚水ポンプ場工事と雨水ポンプ場工事とに分かれるところ、前者の費用は
大阪府田尻町が負担し、後者の費用四億九四四〇万円は大阪府が負担する。」に改
める。
2 原判決五頁四行目の「四億一一〇三万三〇〇〇円」を「四億一一〇七万三〇〇
〇円」に改める。
3 原判決一〇頁三行目から四行目の「請負代金中、府負担分」を「請負代金」に
改める。
二 当審における当事者の主張(補充)
1控訴人ら
(一) 監査請求期間の遵守
 大阪府の長その他の財務会計職員は、被控訴人らが行った談合に関与しておら
ず、職務違反行為がない。したがって、大阪府と被控訴人日本下水道事業団との間
の吉見ポンプ場工事及び中部ポンプ場工事の各建設工事委託に関する協定の締結、
右協定に基づく費用の支出及び右協定に基づく精算における差額の還付は、いずれ
も、地方自治法二四二条一項に規定する「違法な財務会計上の行為」を構成しな
い。
 普通地方公共団体の損害が外部からの不法行為によって生じ、その長その他の財
務会計職員に「違法な財務会計上の行為」に該当する行為が認められないときに
は、住民監査・住民訴訟の対象になるのは、不法行為者に対し適切な損害回復措置
を怠っていることであり、これが「怠る事実」(真正怠る事実)となるのである。
 真正怠る事実には、住民監査請求について監査請求期間の制限はない。
(二) 大阪府の被った損害
 大阪府と被控訴人日本下水道事業団とは、吉見ポンプ場工事及び中部ポンプ場工
事の各建設工事委託に関する協定において、建設工事の施行に要する費用の直接費
よりも被控訴人日本下水道事業団が注文した請負金額が低額になったときには、被
控訴人日本下水道事業団が大阪府に対しその差額を還付するとの精算の合意をして
いる。
 被控訴人らが談合をしなければ、被控訴人日本下水道
事業団が行った吉見ポンプ場工事及び中部ポンプ場工事の指名競争入札における入
札価格は二割以上低額になっていたから、右各工事の請負金額も二割以上低額にな
っていた。したがって、被控訴人日本下水道事業団は、大阪府に対し、右請負金額
の二割以上の金員を還付していたことになる。
 ところが、被控訴人らが行った談合により、右各工事の請負金額は、右協定で定
められた建設工事の施行に要する費用の直接費と同額となったため、大阪府は右金
員の還付を受けることができなかった。
 したがって、大阪府が還付を受けることができなかった右請負金額の二割に相当
する金員が損害となる。
 なお、大阪府が被控訴人日本下水道事業団に対し請求権を有するとしても、その
余の被控訴人らの不法行為が成立しないものではなく、同被控人らに対し損害賠償
を求めることができる。
2 被控訴人ら
(一) 監査請求期間の徒過
 普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして地方自治法
二四二条一項の規定による住民監査請求があった場合に、右監査請求が、その普通
地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であると
し、その行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行
使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときには(不真正怠る事
実)、その監査請求については、右怠る事実にかかる請求権の発生原因であるその
行為のあった目又は終わった日を基準として同条二項を適用すべきものである(最
高裁判所昭和五七年(行ツ)第一六四号・昭和六二年二月二〇日第二小法廷判決・
民集四一巻一号一二二頁)。
 監査請求において違法に財産の管理を怠る事実の対象とされている請求権が、普
通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為が違法、無効
であることに基づいて発生する実体法上の請求権であるか否かを判断するに当たっ
ては、控訴人らの主張に従うべきではなく、その請求権の発生原因事実等から客観
的に判断すべきである。
 また、地方自治法二四二条二項が適用される違法に財産の管理を怠る事実の監査
請求を、特定の財務会計上の行為の違法、不当を主張する監査請求と表裏の関係に
ある監査請求に限られるものと限定して解釈すべきではない。
 控訴人らが大阪府監査委員に対してした、大阪府知事が被控訴人らに対する不法
行為に基づく損害賠償請求権の行使を
怠っているので、右損害補填の措置を講ずべきことを勧告することを求める旨の監
査請求は、大阪府と被控訴人日本下水道事業団との間の吉見ポンプ場工事及び中部
ポンプ場工事の各建設工事委託に関する協定の締結及び右協定に基づく支出等の財
務会計上の行為が不可欠に介在している。そして、控訴人らの主張を前提として
も、右財務会計上の行為は違法である。
 したがって、控訴人らの右監査請求は、大阪府の長その他の財務会計職員の右財
務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不
行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるから、その行為のあった
日又は終わった日を基準として地方自治法二四二条二項を適用すべきものである。
(二) 損害の不発生
 大阪府が被控訴人日本下水道事業団に対し支払った吉見ポンプ場工事及び中部ポ
ンプ場工事の各建設工事委託に関する協定に基づく委託費の金額は、被控訴人日本
下水道事業団と被控訴人日新電機株式会社及び被控訴人株式会社明電舎との間で締
結された右各工事の請負契約の請負金額とは無関係に定められているから、右委託
費の支払いが大阪府の損害となることはない。
 右協定で定められた建設工事の施行に要する費用の直接費よりも右請負金額が低
額となっても、大阪府が被控訴人日本下水道事業団に対しその差額の還付請求権を
取得するものではないから、右差額が大阪府の損害となるものではない。
       理由
 当裁判所も、控訴人らの請求は、適法な訴えではあるものの、大阪府が被った損
害が認められないから、棄却すべきものと判断する。
 その理由は、二に当審における当事者の主張に対する判断を付加するほか、原判
決理由説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決四二頁末行の
「決定されており」から四三頁四行目までを「決定されている。」に改める。
二 当審における当事者の主張について
1 監査請求期間の遵守について
(一) 普通地方公共団体の住民が、当該普通地方公共団体において違法又は不当
に財産の管理を怠る事実があるとの理由で、地方自治法二四二条一項の規定により
適当な措置を求めた住民監査請求については、原則として、同条二項の適用がない
と解するのが相当である(最高裁判所昭和五二年(行ツ)第八四号損害賠償請求上
告事件・昭和五三年六月二三日第三小法廷判決・判例時報八九七号五四頁、裁判集
民事一二四
号一四五頁。以下、「昭和五三年判決」という。)。なぜなら、普通地方公共団体
が現に財産の管理を怠る事実が存在する以上、その怠った期間の長短にかかわら
ず、普通地方公共団体はその事実を是正すべき義務があるので、当該普通地方公共
団体の住民にその是正を求める住民監査請求を認めるのが相当だからである。
(二) しかし、普通地方公共団体において違法又は不当に財産の管理を怠る事実
があるとして地方自治法二四二条一項の規定による住民監査請求があった場合であ
っても、右監査請求が、その普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の
財務会計上の行為を違法であるとし、その行為が違法、無効であることに基づいて
発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているもの
であるときは、その監査請求については、右怠る事実にかかる請求権の発生原因で
あるその行為のあった日又は終わった日を基準として同条二項を適用すべきもので
ある(最高裁判所昭和五七年(行ツ)第一六四号・昭和六二年二月二〇日第二小法
廷判決・民集四一巻一号一二二頁。以下「昭和六二年判決」という。)。なぜな
ら、地方自治法二四二条二項の規定により、当該行為のあった日又は終わった日か
ら一年を経過した後にされた監査請求は不適法とされ、当該行為の違法是正等の措
置を請求することができないものとしているにもかかわらず、監査請求の対象を当
該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行為とい
う怠る事実として構成することにより同項の定める監査請求期間の制限を受けずに
当該行為の違法是正等の措置を請求し得るものとすれば、法が同項の規定により監
査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるからである。
(三) ところで、前記認定のとおり、控訴人らがした住民監査請求(以下、「本
件監査請求」という。)は、被控訴人日本下水道事業団を除く被控訴人らが工事の
入札価格を調整する談合という共同不法行為をして、契約金額を不当につり上げた
ため、これによって工事委託者として最終的にこの契約代金を負担した大阪府に対
して損害を与えたものであるから、大阪府は不法行為者らに対して損害賠償請求権
を行使すべきであるにもかかわらず、大阪府が右請求権の行使を怠っているとし
て、大阪府が被った損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを求めたもの
である。
 本件監査請求が地方自治法
二四二条一項に規定する「普通地方公共団体が不当又は違法に財産の管理を怠る事
実」の是正を求めるものであることは、明らかである。
(四) 被控訴人らは、本件監査請求が、大阪府の財務会計上の行為である大阪府
と被控訴人日本下水道事業団との間の吉見ポンプ場工事及び中部ポンプ場工事の各
建設工事委託に関する協定の締結及び右協定に基づく支出が違法、無効であること
に基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とし
ているものであるから、本件監査請求については、右怠る事実にかかる請求権の発
生原因であるその行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法二四二条
二項を適用すべきものであると主張する。
 しかし、控訴人らは、本件監査請求において、被控訴人日本下水道事業団を除く
被控訴人らが工事の入札価格を調整する談合という共同不法行為をして、契約金額
を不当につり上げたことにより大阪府が被った損害の賠償請求権の不行使をもって
財産の管理を怠る事実としているのであるから、右協定の締結及び右協定に基づく
支出が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもっ
て財産の管理を怠る事実としていると認めることはできない。このように解して
も、地方自治法二四二条二項により監査請求に期間制限を設けた趣旨を没却するも
のではない。
 控訴人らが本件監査請求において主張する損害賠償請求権が認められるために
は、右協定の締結及び右協定に基づく支出という大阪府の財務会計上の行為が不可
欠に介在することになるが、控訴人らが被控訴人らによる談合という共同不法行為
を主張し、右財務会計上の行為の違法、無効であることに基づいて発生する実体法
上の請求権の不行使を主張していない以上、右財務会計上の行為が不可欠に介在す
るとしても、これを理由に本件監査請求に地方自治法二四二条二項を適用すべきで
あると解することはできない。
 また、控訴人らが本件監査請求において被控訴人らによる談合という共同不法行
為による損害賠償請求権の不行使を主張し、右財務会計上の行為の違法、無効であ
ることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使を主張していない以上、本件
監査請求について右財務会計上の行為の違法、無効であることに基づいて発生する
実体法上の請求権の発生原因であるその行為のあった日又は終わった日を基準とし
て同条二項を適用することは
できない。なぜなら、監査請求は普通地方公共団体の住民によってその違法又は不
法の行為又は不行為の内容を特定してなされるのであるから、普通地方公共団体の
長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為が違法、無効であることに基づ
いて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としている
ものであるか否かを判断するに当たっても、右住民が監査請求で主張しているとこ
ろに従って判断すべきである。
(五) したがって、本件監査請求は、昭和六二年判決とは事案が異なるというべ
きであるから、昭和五三年判決が判示したとおり、地方自治法二四二条二項に規定
する監査請求期間の制限は適用されないというべきである。
2 大阪府の被った損害について
(一) 前記認定のとおり、大阪府が被控訴人日本下水道事業団との閲で締結した
吉見ポンプ場工事及び中部ポンプ場工事の各建設工事委託に関する協定に基づいて
支払った委託料は、被控訴人日本下水道事業団が指名競争入札によって被控訴人日
新電機株式会社及び被控訴人株式会社明電舎との間で締結した右各建設工事の請負
契約の請負金額とは別個に定められ、その影響は受けない。
 したがって、仮に右指名競争入札について、被控訴人らの間で受注予定者を決定
し、入札価格を調整するという談合をし、被控訴人日本下水道事業団と被控訴人日
新電機株式会社及び被控訴人株式会社明電舎との間で締結された右各建設工事の請
負契約の請負金額がつり上げられたとしても、右談合によって大阪府が支払う委託
料が増額することはないから、大阪府が委託料を支払ったことによって損害を被っ
たとは認められない。
(二) 甲第一八号証、乙1第四号証、第五号証の一、調査嘱託の結果によれば、
以下の事実を認めることができる。
(1) 大阪府と被控訴人日本下水道事業団は、その間で締結された吉見ポンプ場
工事及び中部ポンプ場工事の各建設工事委託に関する協定に定められた建設工事の
施行に要する費用の直接費よりも被控訴人下水道事業団が注文した請負金額が低額
になったときには、被控訴人日本下水道事業団が大阪府に対しその差額を還付する
旨の精算の合意をしていた。ただし、右協定で委託された建設工事には、吉見ポン
プ場工事及び中部ポンプ場工事以外の工事も含まれており、右還付がなされるの
は、それらの工事の直接費の合計額よりも請負金額の合計額が低額になったときで
ある。

2) 大阪府は、被控訴人日本下水道事業団が被控訴人日新電機株式会社及び被控
訴人株式会社明電舎との間で締結した右各建設工事の請負契約の請負金額に容喙す
ることはできない。
(3) 精算は、被控訴人日本下水道事業団がその精算事務処理要領に従い実施す
るものであって、被控訴人日本下水道事業団が行った精算報告の内容について大阪
府が諾否を決めることはできない。
(三) 前記(二)認定の事実によれば、仮に被控訴人らの談合によって被控訴人
日本下水道事業団が被控訴人日新電機株式会社及び被控訴人株式会社明電舎との間
で締結した右各建設工事の請負契約の請負金額が二〇パーセント以上高額になって
いたとしても、大阪府と被控訴人日本下水道事業団との間で締結された右協定に定
められた右各工事以外の工事の請負金額が明らかではないから、右談合によって、
大阪府と被控訴人日本下水道事業団との間で締結した右協定で委託された建設工事
の直接費の合計額よりも請負金額の合計額が低額であったとまで認めることはでき
ない。また、大阪府は、被控訴人日本下水道事業団が被控訴人日新電機株式会社及
び被控訴人株式会社明電舎との間で締結した右各建設工事の請負契約の請負金額に
容喙することはできず、精算報告の内容に諾否を決めることができないから、右談
合と大阪府の損害との間に因果関係を認めることにも疑問がある。
三 よって、控訴人らの請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却
することとする。
大阪高等裁判所第五民事部
裁判長裁判官 井関正裕
裁判官 前坂光雄
裁判官 牧賢二

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛