弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人青柳盛雄の被告人Aに関する上告趣意について。
 原判決が、憲法一九条、二一条について、これらの規定は、公共の福祉に反しな
い限り、立法その他官憲の国務に関する行為により、国民の思想、集会、結社、言
論、その他表現の自由等の抑圧、制限、禁止等をなし得ない趣旨を定めたものであ
つて、一私人の行為による右自由権の侵害に対する保障を含むものではない旨の解
釈を示すとともに、Bの本件行為は、一私人としての立場において非公開の帰国者
大会を傍聴したに過ぎない旨の事実を認定していることは、所論のとおりである。
しかし、原判決は、さらにBが本件当時舞鶴引揚援護局非常勤職員という公務員た
る身分を有していたが故に、同女の本件行為が、仮に官憲の国務に関する行為とし
て帰国者等の右のような憲法上の自由権を侵害したものというべきであるとしても、
なおその侵害の程度は、被告人等が同女に加えた身体の自由の侵害の程度に比して
軽微なものと認められるから、被告人等の本件行為の違法性を阻却する事由とはな
らない旨判示しているのである。従つて、原判決の前記憲法解釈の正否は、原判決
によれば本件の違法性に関する原判決の結論に影響しないことが判示自体において
明らかであつて、所論違憲の主張は原判決の結論に影響のない憲法解釈を非難する
ものであるから適法な上告理由とならない。
 弁護人伊達秋雄の上告趣意について。
 所論は、違憲をいう点もあるが、実質は、原判決がBを政府当局の命を受けて帰
国者の思想ないし動静を探査していたいわゆるスパイではないものと認定し、これ
を前提として帰国者等が同女の行為によつて受けた法益侵害の程度は、被告人等が
同女に対して加えた法益侵害の程度に比し、頗る抽象的でかつ軽微なものであると
したことを非難するものであつて、単なる法令違反ないし事実誤認の主張に帰し適
法な上告理由とならない。
 その余の論旨は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつていずれも刑訴四〇五
条の上告理由に当らない。
 弁護人海野普吉、同宮里松正の上告趣意について。
 論旨第一点は、単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らな
い。
 同第二点中違憲をいう点については、原判決がBは官憲のスパイではないから、
同女の所為により帰国者等が所論の憲法上の自由権を侵害されたものとは認め難い
旨判示していることは所論のとおりであるが、前述のように原判決はさらに同女の
本件行為が仮に帰国者等の右の憲法上の自由権を侵害したものというべきであると
しても、なお被告人等の本件行為の違法性を阻却する事由とはならない旨判示して
いるのであるから、所論違憲の主張が適法な上告理由とならないことは、前記弁護
人青柳盛雄の上告趣意について述べたとおりである。その余の論旨は、事実誤認、
単なる法令違反の主張であつていずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 同第三点は、違憲をいうが、具体的な主張がないから、適法な上告理由とならな
い。
 弁護人小林直人、同青柳盛雄、同大塚一男、同中田直人、同杉山茂顕、同芦田浩
志、同田原俊雄の上告趣意について。
 論旨第一点は、事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 同第二点は、判例違反をいうが、所論中原判決が東京高等裁判所の判例(昭和二
九年(う)第二三七四号同三一年五月八日判決)に違反するという点は、原判決は、
前記の如く、本件において帰国者等が防衛しようとした法益は、被告人等が侵害し
た法益に比して軽微であると認定しているのであるから、論旨引用の右判例の如く、
防衛せられる法益が侵害排除行為によつて害せられる法益に比して著しく優越する
ものと認定された場合とは、前提事実を異にし、結局、所論は原判示にそわない事
実を前提とする判例違反の主張であつて適法な上告理由とならない。また論旨の引
用するその余の判例は、いずれも刑訴四〇五条所定の判例に当らないことが明らか
であるから、所論は前提を欠き適法な上告理由とならない。
 同第三点は、判例違反をいうが、論旨引用の判例は、本件の如く、既になされた
法益の侵害の回復と将来における法益の侵害の予防を目的とした場合とは、事案の
内容を異にし本件に適切でないから、所論は前提を欠き適法な上告理由とならない。
 同第四点(第三点とあるは第四点の誤記と認める)は、単なる法令違反の主張で
あつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 なお、記録に徴するに、原判決が、Bに対する前記援護局第二寮二階食堂及び階
下六区室における各抑留は終極的には同一の目的遂行のために同一の客体に対して
継続して行われた一個の監禁罪の各部分をなすものであつて、これを分割して観察
すべきものではないとして、包括的に全体として一個の監禁罪を構成するものと判
断したこと、並びに被告人Aが本件犯行のすべてについて共謀した事実及びBが政
府当局の命を受けて帰国者の思想ないし動静を探査していたいわゆる官憲のスパイ
ではないという事実を認定したことは、いずれも相当であると認められる。されば、
帰国者大会が非公開とせられた後も秘かに会場内に残留してこれを傍聴した原判示
の如きBの行為が、仮に所論の如く帰国者等の集会、思想、表現等の自由を侵害し、
憲法一九条、二一条等の規定に違反するものであるとしても、右法益に対してなさ
れた侵害を回復し、かつ将来における同種の法益の侵害を予防しようとしてなされ
た原判示の如き被告人等の同女に対する行為は、本件における原判示の如き具体的
事態の下において社会通念上許容される限度を超えるものであつて、刑法三五条の
正当の行為として違法性が阻却されるものとは認め難い。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三九年一二月三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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