弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人を免訴する。
         理    由
 弁護人杉之原舜一の上告趣意は、末尾添附のとおりである。
 裁判官真野毅、同小谷勝重、同島保、同藤田八郎、同谷村唯一郎及び裁判官井上
登、同栗山茂、同岩松三郎、同河村又介、同小林俊三の意見は、本件は、原判決後
に刑が廃止されたときにあたるとするにあるから、刑訴四一一条五号、四一三条但
書、三三七条二号により主文のとおり判決する。
 裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎は上告棄却の意見である。
 弁護人杉之原舜一の上告趣意について。
 裁判官真野毅、同小谷勝重、同島保、同藤田八郎、同谷村唯一郎の意見は次のと
おりである。
 職権をもつて調査すると昭和二五年政令三二五号「占領目的阻害行為処罰令」は、
わが国の統治権が連合国の管理下にあつた当時は、日本国憲法にかゝわりなく、憲
法外において法的効力を有したのであるが、平和条約発効と共に当然失効し、昭和
二七年法律八一号により前記政令の効力を維持することは憲法に違反し、同年法律
一三七号の規定は、事後立法であつて、違憲無効であり、また本件のごとき場合に
限時法理論を用いることが憲法上許されないことは、昭和二七年(あ)第二八六八
号同二八年七月二二日言渡大法廷判決記載の真野、小谷、島、藤田、谷村各裁判官
の意見のとおりである。それ故に、本件については、原判決後の法令により刑が廃
止された場合にあたるから原判決を破棄しなければ著しく正義に反する。よつて論
旨について判断するまでもなく原判決及び第一審判決を破棄し被告人を免訴すべき
ものである。
 裁判官真野毅の補足意見は、前記昭和二七年(あ)第二八六八号(被告人A)同
二八年七月二二日言渡大法廷判決及び昭和二七年(あ)第六六九号(被告人B)同
二八年一二月一六日言渡大法廷判決中各記載の同裁判官の補足意見のとおりである。
 裁判官井上登、同栗山茂、同岩松三郎、同河村又介、同小林俊三の意見は次のと
おりである。
 職権をもつて調査すると昭和二五年政令三二五号の内容を充足する指令であり、
且つ本件に適用ある昭和二〇年九月一〇日附連合国最高司令官の「言論及び新聞の
自由」と題する覚書第三項の「連合国に対する虚偽又は破壊的批評及び風説」を「
論議すること」を禁止し処罰する部分及び第一審判決が本件に適用した同年九月一
九日附同司令官の「新聞規則」と題する覚書第三項の「連合国に対する虚偽又は破
壊的批評」を「行う」ことを禁止し処罰する部分は、憲法二一条に違反するから右
指令を適用する限りにおいては、右政令は、昭和二七年法律八一号及び同年法律一
三七号にかかわらず、平和条約発効と同時に国法たる効力を失うものと解するを相
当とする。従つて本件は原判決後の法令により刑の廃止があつた場合にあたるから、
原判決を破棄しなければ著しく正義に反する。よつて原判決及び第一審判決を破棄
し被告人を免訴すべきものである。
 裁判官井上登、同岩松三郎の補足意見は次のとおりである。
 連合国が初めて日本を占領した当時「占領の目的は日本における軍国主義、全体
主義を排除し、日本を平和国家、民主国家にする為めである」という様なことがい
われ、従つてその目的の為めに種々の指令が発せられた。例えば本件の如き犯罪に
適用せらるべき覚書昭和二〇年九月一〇日附「言論及新聞の自由に関する件」又は
第一審が本件に適用ありとした同年九月一九日附「新聞規則」と題する覚書の各第
一、二項の如きはそれであつて、「占領目的に反する行為」とは右の目的に反する
行為という意味にも用いられて居たのである。しかるに又一方占領そのものの為め
に不利益となり得べき行為を禁ずる指令も数多く発せられ、これに違反する行為も
亦占領目的に反する行為として所罰せらるるに至つたのであつて、この場合は占領
目的という語が占領そのものを目的とする意味に用いられたのである。前者の場合
は昭和二七年法律第八一号によつて法律と同じ効力を与えられた以上、その内容が
(例えば行き過ぎ等の為めに)憲法に違反せざる限り、日本の主権が恢復し占領と
いうことが無くなつたというだけでこれを無効とすることは出来ない。しかし後者
の場合は占領そのものの便宜、利益の為めにのみ発せられたものである(吾国の公
の福祉の為めに発せられたのではない)から、その性質上占領という事実が消滅す
ると共に失効すべきものである。(そのいずれに属するか又前者であるとすればそ
の内容が違憲であるか否かは一々各指令の内容について検討して見なければならな
いとする点において私達の意見は真野外四名の裁判官の意見と異なるのであつてこ
れは従来度々書いたとおりである)そして本件に適用された前記各覚書第三項は以
下に記す理由により前記後者に属するものであり、従つて占領終了と共に失効すべ
きものであるのみならず、その内容も憲法下においては許されないものと考えるの
である。
 本件各覚書は昭和二〇年九月一〇日附若くは同月一九日附で、即ち終戦直後に発
せられたものであり「連合国に対する……」云々といつて居て「外国に対する」と
はいつていない。そして「虚偽又は破壊的」云々といつて一応相当の制限をつけて
居る様だけれども虚偽のことをいえばそれが如何につまらない小さなことでも罰せ
られるのであり、又連合国の噂をすればどんな噂でも罪となるのである。(「言論
及び新聞の自由」の覚書の日本文では「虚偽又は破壊的批判及び風説」とあるから
「虚偽又は破壊的」が「風説」にもかかる様にも読み得る様だけれども覚書の原文
で見ると「虚偽又は破壊的」は「批判」にのみかかるので「風説」にはかからない
ものであること明である)極端にいうと連合国の為めに有利なことであつても苟く
も虚偽又は噂を論議すれば罪を構成するのである。かくの如きことが不当に(公の
福祉の為め必要な限度を越えて)表現の自由を圧迫し憲法に違反することはいう迄
もない。又破壊的批判であつてもそれが真実に基くものであるならば敵国(連合国
は当時においては日本を占領して居る敵国である)に対しかかる批判をすることは
必しも罰せられるべき行為とはいえない。例えば或る国の軍隊が強姦強盗ばかりや
つて居て仕方がないといつた様な事実が万一あつたとすれば、それを摘発して国民
に警告することは寧ろ新聞の使命に合うことかも知れない。これに刑罰を以てのぞ
むが如きは不当であるこという迄もあるまい。しかのみならず当時は「破壊的」な
どとは到底いえない軽微な事実迄「破壊的批判」の名の下に起訴された実例が多く
存するのであつて、何等の制限もなく単純に「破壊的」というが如きは頗る不明確
で危険なものであることは小林裁判官のいうとおりでありこの点については同裁判
官の、他の刑罰法規を例に引いての詳細な意見書を引用したい。要するに無制限に
「虚偽又は破壊的批判」「風説」というが如きは犯罪構成要件を規定する字句とし
ては余りに広汎且不明確でありかかる字句を以て表現の自由を制限することは不当
に言論を圧迫するものであり憲法に違反するものというべきである(小林裁判官の
意見書中に例に引いてある他の類似刑罰法規の様に種々必要な制限をつけなければ
ならない)。のみならず上述の様な実例、広汎不明確な内容と本覚書が終戦直後に
発せられたものであること及批判の対象を一般外国又は友交国とせず連合国即占領
国に限つたこと等を併せ考えると本件各覚書第三項は苟くも占領国に対する反感を
惹起して占領の為の不利益となり得べき言論を封じ、よつて少しでも占領の妨害と
なる虞ある行為を弾圧する目的に出たものと見るの外なく冒頭記載の「後者」の部
類に属するものであつて吾国公の福祉の為めに発せられた指令とは到底考えられな
い。この点から見ても占領の終了と共に失効すべきものといわなければならない。
 裁判官井上登、同岩松三郎の各補足意見は、前記昭和二七年(あ)第二八六八号
(被告人A)の大法廷判決記載の井上裁判官の補足意見及び前記昭和二七年(あ)
第六六九号(被告人B)の大法廷判決記載の井上裁判官の補足意見中本件政令三二
五号の平和条約発効後の効力に関する部分のとおりである。
 裁判官栗山茂、同河村又介の補足意見は次のとおりである。
 連合国司令官は一九四五年九月一〇日言論及び新聞の自由と題する覚書を発して、
日本国政府に対し言論の自由に関しては最少限度の制限を為すべき旨を命じ(第二
項)、次いで同月二七日更に新聞及び言論の自由えの追加措置と題する覚書を発し
て、日本帝国政府は最高司令官の命令による場合の外、新聞あるいはその発行人ま
たはその使用職員等に対し、その如何なる政策ないし意見の発表に関しても、如何
なる処罰的行為をも為すことを得ずとし(第四項)、同時に同覚書で日本国政府に
対し新聞紙法、国家総動員法、新聞紙等掲載制限令、新聞事業令、言論出版集会結
社臨時取締法等の従来の新聞紙に対する諸制限を撤廃せしめたのである(第七項)。
これら一連の連合国司令官の指令は、民主々義に則りポツダム宣言の政策の一つで
ある言論および出版の自由(同宣言第一〇項)を確立せしめることを目的としてい
るものであつて日本国憲法二一条の保障と同一精神に出ていること明である。それ
にもかかわらず、他方において、前記言論および新聞の自由と題する覚書(一九四
五年九月一〇日附)は、その第三項において「連合国に対する虚偽又は破壊的批評
及び風説は之を論議することを得ず」と規定しており、更に同月一九日連合国の新
聞に対する取締方針を一層具体化し、強化するために発せられたと認められる日本
新聞規則に関する覚書も、その第三項において「連合国に対する虚偽又は破壊的批
評を行わざるべし」と規定している。ところで、これらの規定はポツダム宣言の実
現を目的とした連合国の一連の政策とは異なり、専ら占領軍または連合国の利益を
擁護することのみを目的としたものであつて、結局において連合国に対する不利益
な批評を一切禁止するのと同一に帰し、被占領国たるわが国における言論および出
版の自由を不当に制限せんとするものであり、日本国憲法二一条の精神と相容れな
いものである。それ故、これらの規定は占領下においてこそ日本国憲法にかかわり
なくその効力を保持し得たとしても、占領の終了と共に当然違憲の規定としてその
効力を失うべき性質のものといわなければならない。
 されば、昭和二五年政令三二五号は、平和条約発効後においては、前記一九四五
年九月一〇日附覚書第三項及びこれと同趣旨の同月一九日附覚書第三項を適用する
限りにおいては、これが効力を認めることができないものであるから、本件は原判
決後の法令により刑の廃止があつた場合に準ずべきものである。
 裁判官栗山茂の補足意見は、前記昭和二七年(あ)第六六九号(被告人B)の大
法廷判決記載の同裁判官の意見中本件政令三二五号の平和条約発効後の効力に関す
る部分のとおりである。
 裁判官河村又介の補足意見は、前記昭和二七年(あ)第二八六八号(被告人A)
の大法廷判決記載の同裁判官の補足意見及び前記昭和二七年(あ)第六六九号(被
告人B)の大法廷判決記載の同裁判官の補足意見中本件政令三二五号の平和条約発
効後の効力に関する部分のとおりである。
 裁判官小林俊三の補足意見は次のとおりである。
 本件被告人は免訴すべきものである。
 政令第三二五号と平和条約及び昭和二七年法律第八一号との関係について、私の
とる意見は、右政令違反に問うところの連合国最高司令官の指令(以下単に指令と
いい、本件の指令は覚書として発せられているからこの場合は覚書という)の内容
が、平和条約成立後現にわが憲法に適合するかどうかによつて法律たる効力がある
かないかが定まると解するにあることは、すでに昭和二八年七月二二日言渡の大法
廷判決において述べたとおりであるから、ここにこれを引用する(集七巻七号一五
六二頁以下)。ところで本件において原判決の支持する第一審判決の判示するとこ
ろによれば、被告人は、判示のような「連合国に対する破壊的批判をした」記事を
掲載したC新聞一部を頒布論議したというのであるから、覚書の内容によつて法律
たる効力を定める意見の立場から当然右判決の摘示事実に適用すべき昭和二〇年九
月一〇日附同司令官の「言論及び新聞の自由」と題する覚書第三項の「連合国に対
する虚偽又は破壊的批評及び風説はこれを論議することを得す」という規定並びに
本件第一審判決が本件に適用した、同年九月一九日附同司令官の「新聞規則」と題
する覚書第三項の「連合国に対する虚偽又は破壊的批評を行わざるべし」という規
定が現にわが憲法に適合するかどうかを考えなければならないのである。そして右
各覚書第三項にいう「連合国」は、すでに平和条約成立とともになくなつたのであ
るから、この関係を現在に置き換えると単なる外国となるのであるが、仮りにその
外国がわが国と友交関係に在るとしても、それらの外国に対し「虚偽又は破壊的批
評」というような表現により刑罰制裁を附して一般に言論を制限する立法が現にわ
が憲法上可能であるかどうかが結局本件の問題となるのである。(この判断によつ
て単なる「風説」の問題は自ら解決されると思うから特に触れない。またわが国と
安全保障条約のような関係にある外国は別な考察をすべき面があるからこれを除外
する。なお参考としてかかる外国との関係につき昭和二七年(あ)第六六九号同二
八年一二月一六日大法廷判決において述べた私の意見をここに引用する。)
 (一) そこで順序として覚書にいう「虚偽又は破壊的批評」の「批評」という
ことを考えてみるに、これは本来全く自由な言論の一形式であつて、それ自体に可
罰性ある何ものをも含まないことはもちろんまたいかなる限度方法においても、そ
れ自体を制限することの許されないことは、わが憲法を引くまでもなく近代憲法に
通ずる自明の理であろう。覚書の規定は、この本来全く自由な「批評」という言論
を「虚偽又は破壊的」という限界のきわめて広い抽象的文字だけで抑えこれを罪と
するのであるが、まずこの文言自体からは、適確に構成要件を観念することが困難
であるから、その結果としてその解釈は独断専恣に陥り易く国民にとつてきわめて
危険である。批評ということが、前示のような本質をもつているから、これを制限
しかつ違反する者に刑罰制裁を科するためには、その制限のよつて立つ余程の理由
があることを要しかつそれが明確でなければならない。すなわちかかる言論の自由
を特に制限して特に守らなければならない公共の福祉はいかなる内容を有するもの
であるか、またこれに対する言論の限界は最少限度においていかなる線にあるか、
さらに目的又は結果についていかなる認識を必要とするか等を能うかぎり明らかに
することを必要とする。これを刑罰法規の面からいえば、言論を制限してこれに反
する行為を罪とする法規は、それ自体に、かかる行為に対し保護しようとする法益
とこれに対する侵害の態様をできるかぎり明確にし、よつて行為者がこれらの点に
関しいかなる主観的意思又は認識を必要とするかを明らかに表示しなければならな
いのである。このことは言論の自由が民主主義的国家構造の基本の一部を形成する
本質的な人権であることから出て来る当然の要請である。なるほど他の見解によれ
ば、「虚偽」とか「破壊的」とかいうだけでそれ自体不正ないし不当の意義を含む
のであるから、具体的な特定の行為が社会的危険性又は反道義性ある社会悪として
可罰性を認むべきかどうかは、それぞれの行為につき裁判により定められれば足り、
刑罰規範としては右のような表現だけで十分であるとの説も考えられないことはな
い。しかし刑罰法規の一般的抽象的表現にも限度があり、特に言論の自由の一方法
である「批評」というようなことは、殺人や強窃盗のごとき自然犯罪とは全く性質
を異にするのであるから、これらと同一に論ずることはできない。かえつて現行法
中から例をとつてみても、言論に関するかぎり、右覚書の規定のような一般的な不
明確な規制をしている法規は見当らない。すなわち「虚偽」という語についていえ
ば、刑法の信用毀損罪(二三三条前段)における「虚偽ノ風説ヲ流布シ」は、よつ
て「人ノ信用ヲ毀損」するという結果又は危険を生ずることを必要とするのであり、
選挙の公正を害する罪(公職選挙法一四八条一項但書及び二二五条の二第一項一号)
における新聞紙又は雑誌に「虚偽の事項を記載」することは、これによつて「選挙
の公正を害してはならない」のである。その他同法二三四条二三五条に定める言論
の規制も、それぞれ定まつた目的を明らかにしている。さらに「破壊的」という語
についていえば、成立について多くの論議のあつた破壊活動防止法(以下破防法)
というにおいても、その第四条に定める「暴力主義的破壊活動」として言論を罪と
する場合は、「せん動」が主たる例であるが(同条一項二号ヌ)、その第二項に「
せん動」の意義として、「文書若しくは図画又は言動」により、人に対し「特定の
行為を実行させる目的」をもつて「その行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生
じている決意を助長させるような勢のある刺激を与える」という結果を生ずること
を必要とする旨の明確な表示をしている。(なおここでは破防法その他ここに引用
する特別法の言論に関する諸規定の合憲性については一切触れない。)また主とし
て言論その他の表現による方法と認められる「そそのかす」「あおる」を罪とする
国家公務員法九八条五項末段(同一一〇条一七号)の規定も、行為の対象を具体的
に明確にしている(地方公務員法三七条一項末段六一条四号参照)。「煽動」とい
う文字を用いている国税犯則取締法も同様にその目的を明確に定めている(二二条)。
これらの例から考えてみても、言論を罪とする場合の刑罰法規は、常に侵害の対象
となる法益とこれに対する目的又は結果について明確な規制をしていることが解る
のであり、また右のように明確な定めをしなければ、言論を罪とすることは許され
ないという前提に立つものと解されるのである。すなわち本件についていえば、「
批評」という言論の対象がわが国と友交関係にある外国であるとしても、単に「虚
偽」とか「破壊的」という限界のきわめて不明な抽象的表示のみによりこれに対し
刑罰制裁をもつて臨むことは、言論の自由を不当に制限するものであり、憲法二一
条に違反するものといわなければならない。
 (二) 以上に述べるところはまた「虚偽」又は「破壊的」というきわめて広い
一般的な表示だけでは罪刑法定主義の原則にも適合しないことの理由としても十分
である。
 (三) 次に一般に指令の内容は当時の連合国又は占領軍の便宜利益のために発
せられたものが多いであろうが、それのみでなくわが国の秩序を維持し公共の福祉
を増進するために発せられたものも多く存在し、後者に属する指令は、その内容が
わが憲法に適合しかつこれを存続せしめる必要を認めるかぎり、わが国が平和条約
の成立により独立した後、独自の意思をもつてこれを国法とすることをなんら妨げ
るものでないことはすでに述べているところである(前示昭和二八年七月二二日大
法廷判決参照)。しかるに前示の覚書の条項は、(一)に述べたように批評という
言論を制限する規定としてきわめて独断専恣であり国民にとつて著しく危険である
点にかんがみるときは、全く当時の連合国又は占領軍の便宜利益のためのみに発し
たものと解するのほかなく、当時わが国わが国民が課せられていた指令に対する服
従義務によつてのみこのような言論に対する刑罰法規の効力を是認することができ
るのである。すなわち平和条約成立後においては、わが国としてかかる指令の内容
をそのまま国法として存続せしめる必要がないのみならず、またかかる言論の制限
について憲法上の根拠を欠き、かつ規定自体からいつて罪刑法定主義の要請にも副
わざること前示のとおりであつて、この見地から考えても前示覚書の条項のごとき
は、法律第八一号によつてもわが国法たる効力を与えることはできないといわなけ
ればならない。
 以上の理由により、政令第三二五号は、前記覚書の条項を充足するかぎり平和条
約発効とともに失効したのであり、その以後は右条項違反を理由として被告人を処
罰することはできないのである。されば本件は原判決後の法令により刑の廃止のあ
つた場合に準ずべきものと解するを相当とし、被告人を免訴すべきものである。
 裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎の反対意見は、次のとおりである。
 職権により調査すると原判決の是認した第一審判決の確定した犯罪事実は、被告
人は、連合国最高司令官の昭和二〇年九月一九日附日本新聞規則に関する覚書の趣
旨に反し、昭和二六年一月七日頃空知郡a町b所在D寮において、同寮長Eに対し、
惨虐死のキヤンプ朝鮮と題し「(前略)負け戦でヤケクソになつたアメリカ帝国主
義者共は、朝鮮人という朝鮮人は皆ゲリラと思い、片つぱしから殺し、婦女子を集
めてスツパダカにし、爪を抜き、エグリトリ、油をかけて焼殺すなど、至れりつく
せりの残虐をつづけている」云々と連合国に対する破壊的批判をした記事を掲載し
た昭和二六年一月三日附F機関紙C新聞一部を頒布論議し、以つて占領目的に有害
な行為をなしたものであるというのである。されば、被告人の所為は、右犯行当時
法的に有効に存在した昭和二五年政令三二五号一条、昭和二〇年九月一〇日附連合
国最高司令官の「言論及び新聞の自由」と題する覚書三項又は同年九月一九日附同
司令官の「新聞規則」と題する覚書三項に違反し、同令二条一項に該当すること明
らかであるから、被告人は、同条項所定の処罰を免れないものといわなければなら
ない。
 そして、刑訴三三七条二号の「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。」とは、
その明文の示すとおり、犯罪後発布された法令により積極的に既成の刑罰権を放棄
したとき、換言すれば、犯罪後特に刑を廃止する旨の国家意思の発現があつたとき
を指すものであつて、刑罰を規定した法規そのものが単に将来に向つて失効したと
き(その失効と同時に既成の刑を廃止する暗黙の国家意思があつたと見られない限
りは)をいうものでないこと、とくに、単なる事情の変更又は時間の経過によつて
単に将来に向つて失効するに過ぎない、いわゆる限時法的性格の法令は、その失効
と同時に刑を廃止する旨の明文がない以上、刑を廃止する暗黙の国家意思の発現が
あるものといえないものであること、竝びに、本件政令三二五号は、初めから占領
中だけ有効に存在する、いわゆる、限時法的性格の法令であつて、しかも、本件犯
罪後これが刑罰を廃止する旨の法令が発布されていないこと、ことに、本件覚書の
趣旨に反する右政令違反の犯罪につき特に大赦から除外したこと(昭和二七年政令
一一七号一条二三号(イ)、(ロ)参照)、昭和二七年法律八一号、同法律一三七
号一連の法律は、逆に本件のごとき犯罪の刑罰を特に廃止しない旨の明確な国家意
思を表明していると見るべきこと等については、すべて、昭和二七年(あ)二八六
八号昭和二八年七月二二日宣告当裁判所大法廷判決中の弁護人上田誠吉の上告趣意
第三点についてのわれわれの意見において説明したとおりである。されば、本件に
ついては、犯罪後の法令により刑の廃止はないものといわなければならない。
 裁判官斎藤悠輔の補足意見は、前記昭和二七年(あ)第二八六八号(被告人A)
の大法廷判決及び昭和二七年(あ)第六六九号(被告人B)の大法廷判決各記載の
同裁判官の補足意見のとおりである。
 裁判官霜山精一は退官につき評議に関与しない。
 検察官 佐藤藤佐、安平政吉、福原忠男出席
  昭和三〇年四月二七日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
裁判官井上登は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛