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平成30年3月28日判決言渡
平成29年(行ケ)第10076号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年1月31日
判決
原告株式会社コスメック
同訴訟代理人弁護士井上裕史
冨田信雄
田上洋平
被告パスカルエンジニアリング株式会社
同訴訟代理人弁理士深見久郎
佐々木眞人
高橋智洋
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
特許庁が無効2015-800126号事件について平成29年2月28日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,①訂
正要件違反の有無及び進歩性の有無(①本件発明と引用発明との対比判断,②相違
点に係る判断)についての判断の当否である。
1特許庁における手続の経緯
被告は,名称を「クランプ装置」とする発明についての特許(特許第57006
77号。以下,「本件特許」という。)の特許権者である(甲28)。
本件特許は,平成15年6月2日(以下,「本件出願日」という。)に出願した特
願2003-156187号の一部を,平成20年6月19日に新たな出願とし(特
願2008-160212号),さらにその一部を,平成23年10月6日に新たな
特許出願とした特願2011-222200号に係るものであり,平成27年2月
27日に設定登録された(甲28)。
原告は,平成27年5月19日付けで本件特許の請求項1~3に係る発明につい
て無効審判請求をし(無効2015-800126号),被告は,平成28年11月
17日付けで訂正請求をした(甲33。以下,「本件訂正」という。)。特許庁は,平
成29年2月28日,「特許第5700677号の明細書及び特許請求の範囲を,訂
正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1
-2〕,〔3〕について訂正することを認める。本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし,その謄本は,同年3月9日,原告に送達された。
2本件訂正後の本件特許の請求項1~3に係る発明の要旨
本件訂正後の本件特許の請求項1~3に係る発明(以下,「本件発明1」,「本件発
明2」などといい,まとめて「本件発明」という。)の要旨は,以下のとおりである。
(本件発明1)
シリンダ穴が形成されたクランプ本体と,
前記シリンダ穴に内嵌され,前記クランプ本体に進退可能に設けられた出力ロッ
ドと,
該出力ロッドの先端部に連結されワークにクランプ力を出力するクランプアーム
と,
前記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダとを備え,
前記クランプ本体は,その上部にフランジ部と,前記フランジ部から下方へ延び
ベースの収容穴に収容される部分とを有し,該フランジ部の外周部の下面には前記
ベースの上面に当接する据付け面が形成され,
該据付け面には,油圧ポートが設けられ,
前記クランプ本体の内部には,前記油圧ポートから前記油圧シリンダを構成する
前記シリンダ穴に至る油路が設けられ,
該油路は,前記油圧ポートに接続された第1油路と,該第1油路に接続されて前
記出力ロッドの移動方向に直交する方向を指向して前記シリンダ穴に至る第2油路
とを有し,
一端が前記フランジ部の外周面から突出し,他端が前記第1油路と第2油路との
接続部に至る流量調整弁が,前記一端から前記他端に向かう方向が前記第2油路の
前記指向方向と同じ向きになるように設けられ,
前記流量調整弁は,
前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,
前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部
および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部
が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態
に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能
な弁部材と,
前記油圧シリンダの油室側の小径部と,前記フランジ部の側面側の基部とを有し,
前記小径部が前記フランジ部に形成された装着穴に内嵌状に螺合される弁ケースと,
前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間をシールする第1シール部材
と,
前記弁ケースと前記装着穴との間をシールする第2シール部材とを備え,
前記弁ケースの前記基部に,前記弁部材の前記軸部が前記出力ロッドの長手方向
と交差する方向に内嵌状に螺合され,
前記基部および前記軸部は前記フランジ部の側面から外側に露出し,前記基部の
基端にロックナットが装着され,
前記弁部材における前記軸部の基端側部分に,前記弁部材をクランプ本体に対し
て前記接近/離隔方向に相対移動させる為の操作部に相当し,工具を係合させて前
記軸部を回転させることが可能な穴が形成され,
前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる
溝部が形成され,
前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパス流路
と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を閉止し,前記シ
リンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を開放する逆止弁とを有し,
前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記他
端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路と
を含み,
前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能
に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,
前記シリンダ穴から油圧を排出するときには,排出される前記油圧により前記鋼
球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,
前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外
周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油
圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前
記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第
2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて
前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように前記
装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記
第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される,ク
ランプ装置。
(本件発明2)
前記クランプ本体は,水平な前記据付け面を外部のベース部材に当接させて固定
され,
前記第1油路および前記第2油路は前記フランジ部に形成されたことを特徴とす
る請求項1に記載のクランプ装置。
(本件発明3)
クランプ本体と,
該クランプ本体に進退可能に装着された出力ロッドと,
該出力ロッドの先端部に連結されワークにクランプ力を出力するクランプアーム
と,
前記出力ロッドを進出側に駆動するアンクランプ用の油圧シリンダとを備え,
前記クランプ本体は,その上部にフランジ部と,前記フランジ部から下方へ延び
ベースの収容穴に収容される部分とを有し,該フランジ部の外周部の下面には前記
ベースの上面に当接する据付け面が形成され,
該据付け面には,油圧ポートが設けられ,
前記クランプ本体の内部には,前記油圧ポートから前記油圧シリンダに至る油路
が設けられ,
該油路は,前記油圧ポートに接続された第1油路と,該第1油路に接続されて前
記出力ロッドの移動方向に直交する方向を指向する第2油路とを有し,
一端が前記フランジ部の外周面から突出し,他端が前記第1油路と第2油路との
接続部に至る流量調整弁が,前記一端から前記他端に向かう方向が前記第2油路の
前記指向方向と同じ向きになるように設けられ,
前記流量調整弁は,
前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,
前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部
および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部
が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態
に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能
な弁部材と,
前記油圧シリンダの油室側の小径部と,前記フランジ部の側面側の基部とを有し,
前記小径部が前記フランジ部に形成された装着穴に内嵌状に螺合される弁ケースと,
前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間をシールする第1シール部材
と,
前記弁ケースと前記装着穴との間をシールする第2シール部材とを備え,
前記弁ケースの前記基部に,前記弁部材の前記軸部が前記出力ロッドの長手方向
と交差する方向に内嵌状に螺合され,
前記基部および前記軸部は前記フランジ部の側面から外側に露出し,前記基部の
基端にロックナットが装着され,
前記弁部材における前記軸部の基端側部分に,前記弁部材をクランプ本体に対し
て前記接近/離隔方向に相対移動させる為の操作部に相当し,工具を係合させて前
記軸部を回転させることが可能な穴が形成され,
前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる
溝部が形成され,
前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパス流路
と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を開放し,前記シ
リンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を閉止する逆止弁とを有し,
前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記他
端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路と
を含み,
前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能
に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,
前記シリンダ穴に油圧を供給するときには,供給される前記油圧により前記鋼球
が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,
前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外
周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油
圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前
記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第
2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて
前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように前記
装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記
第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される,ク
ランプ装置。」
3審決の理由の要旨
(1)本件訂正請求について
ア請求項1及び2からなる一群の請求項に係る訂正
(ア)訂正事項
(訂正事項1)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1において,
「前記クランプ本体は,その上部にフランジ部を有し,該フランジ部の外周部の
下面には据付け面が形成され,」を,
「前記クランプ本体は,その上部にフランジ部と,前記フランジ部から下方へ延
びベースの収容穴に収容される部分とを有し,該フランジ部の外周部の下面には前
記ベースの上面に当接する据付け面が形成され,」と訂正する。
(訂正事項2)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1において,
「前記流量調整弁は,
前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,
前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部
および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部
が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態
に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能
な弁部材とを備え,
前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる
溝部が形成され,」を,
「前記流量調整弁は,
前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,
前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部
および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部
が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態
に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能
な弁部材と,
前記油圧シリンダの油室側の小径部と,前記フランジ部の側面側の基部とを有し,
前記小径部が前記フランジ部に形成された装着穴に内嵌状に螺合される弁ケース
と,
前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間をシールする第1シール部材
と,
前記弁ケースと前記装着穴との間をシールする第2シール部材とを備え,
前記弁ケースの前記基部に,前記弁部材の前記軸部が前記出力ロッドの長手方向
と交差する方向に内嵌状に螺合され,
前記基部および前記軸部は前記フランジ部の側面から外側に露出し,前記基部の
基端にロックナットが装着され,
前記弁部材における前記軸部の基端側部分に,前記弁部材をクランプ本体に対し
て前記接近/離隔方向に相対移動させる為の操作部に相当し,工具を係合させて前
記軸部を回転させることが可能な穴が形成され,
前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる
溝部が形成され,」と訂正する。
(訂正事項3)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1において,
「前記シリンダ穴から油圧を排出するときには,排出される前記油圧により前記
鋼球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放される,クランプ装
置。」を,
「前記シリンダ穴から油圧を排出するときには,排出される前記油圧により前記
鋼球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,
前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外
周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油
圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前
記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第
2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて
前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように前記
装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記
第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される,ク
ランプ装置。」と訂正する。
(訂正事項4)
本件特許の明細書の段落【0010】に
「請求項1のクランプ装置は,シリンダ穴が形成されたクランプ本体と,前記シ
リンダ穴に内嵌され,前記クランプ本体に進退可能に設けられた出力ロッドと,該
出力ロッドの先端部に連結されワークにクランプ力を出力するクランプアームと,
前記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダとを備え,前記クラ
ンプ本体は,その上部にフランジ部を有し,該フランジ部の外周部の下面には据付
け面が形成され,該据付け面には,油圧ポートが設けられ,前記クランプ本体の内
部には,前記油圧ポートから前記油圧シリンダを構成する前記シリンダ穴に至る油
路が設けられ,該油路は,前記油圧ポートに接続された第1油路と,該第1油路に
接続されて前記出力ロッドの移動方向に直交する方向を指向して前記シリンダ穴に
至る第2油路とを有し,一端が前記フランジ部の外周面から突出し,他端が前記第
1油路と第2油路との接続部に至る流量調整弁が,前記一端から前記他端に向かう
方向が前記第2油路の前記指向方向と同じ向きになるように設けられ,前記流量調
整弁は,前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,前記クラン
プ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部および前記弁
体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部をを有し,前記弁体部が前記弁孔
に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態に至るまで
前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能な弁部材と
を備え,前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に
延びる溝部が形成され,前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイ
パスするバイパス流路と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス
流路を閉止し,前記シリンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を開
放する逆止弁とを有し,前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁
の前記一端から前記他端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周
側に延びる第2流路とを含み,前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,
前記第1流路内に移動可能に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する
部材とを含み,前記シリンダ穴から油圧を排出するときには,排出される前記油圧
により前記鋼球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放されるこ
とを特徴としている。」と記載されているのを,
「請求項1のクランプ装置は,シリンダ穴が形成されたクランプ本体と,前記シリ
ンダ穴に内嵌され,前記クランプ本体に進退可能に設けられた出力ロッドと,該出
力ロッドの先端部に連結されワークにクランプ力を出力するクランプアームと,前
記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダとを備え,
前記クランプ本体は,その上部にフランジ部と,前記フランジ部から下方へ延び
ベースの収容穴に収容される部分とを有し,該フランジ部の外周部の下面には前記
ベースの上面に当接する据付け面が形成され,該据付け面には,油圧ポートが設け
られ,前記クランプ本体の内部には,前記油圧ポートから前記油圧シリンダを構成
する前記シリンダ穴に至る油路が設けられ,該油路は,前記油圧ポートに接続され
た第1油路と,該第1油路に接続されて前記出力ロッドの移動方向に直交する方向
を指向して前記シリンダ穴に至る第2油路とを有し,一端が前記フランジ部の外周
面から突出し,他端が前記第1油路と第2油路との接続部に至る流量調整弁が,前
記一端から前記他端に向かう方向が前記第2油路の前記指向方向と同じ向きになる
ように設けられ,前記流量調整弁は,前記第1油路と前記第2油路との接続部に形
成された弁孔と,前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移
動可能な弁体部および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有
し,前記弁体部が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離
間した全開状態に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の
隙間を調節可能な弁部材と,前記油圧シリンダの油室側の小径部と,前記フランジ
部の側面側の基部とを有し,前記小径部が前記フランジ部に形成された装着穴に内
嵌状に螺合される弁ケースと,前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間
をシールする第1シール部材と,前記弁ケースと前記装着穴との間をシールする第
2シール部材とを備え,前記弁ケースの前記基部に,前記弁部材の前記軸部が前記
出力ロッドの長手方向と交差する方向に内嵌状に螺合され,前記基部および前記軸
部は前記フランジ部の側面から外側に露出し,前記基部の基端にロックナットが装
着され,前記弁部材における前記軸部の基端側部分に,前記弁部材をクランプ本体
に対して前記接近/離隔方向に相対移動させる為の操作部に相当し,工具を係合さ
せて前記軸部を回転させることが可能な穴が形成され,前記弁体部の外周部には,
先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる溝部が形成され,前記弁部材
は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパス流路と,前記シリ
ンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を閉止し,前記シリンダ穴から
油圧を排出するときには前記バイパス流路を開放する逆止弁とを有し,前記バイパ
ス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記他端に向かう方
向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路とを含み,前記
逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能に設け
られた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,前記シリンダ穴か
ら油圧を排出するときには,排出される前記油圧により前記鋼球が前記弁座と反対
側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,前記第1シール部材に対して前記油
圧シリンダの油室側において前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に
第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着
穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前記第1油路,前記第2油路,および前
記バイパス流路は前記第1隙間および前記第2隙間に連通し,前記第1油路は前記
油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて前記油室側に近づく斜め方向に延在す
るとともに前記第2隙間に面するように前記装着穴の内周面に開口し,前記バイパ
ス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する
同一面内に位置できるように配置されることを特徴としている。」と訂正する。
(イ)判断
a訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の「クランプ本体」について,「前記フランジ部から下方
へ延びベースの収容穴に収容される部分」を有することを付加し,「据付け面」が
「前記ベースの上面に当接する」ことを付加したものであるから,特許請求の範囲
の減縮を目的とするものである。
そして,本件特許の明細書(以下,図面と併せて「本件明細書」という。)の【0
016】には,「クランプ本体2は,据付け用フランジ部2fから下方へ延びる下
半部がベース10の収容穴に収容され,据付け面2bをベース10を上面に当接さ
せた状態で,図示しない複数のボルトによりベース10に固定されている。」とい
う記載があるから,訂正事項1は本件明細書に記載されたものである。
したがって,訂正事項1が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範
囲内で行われたことは明らかであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は
変更するものでもない。
b訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の「流量調整弁」について,上記(ア)にそれぞれ記載された
構成を備える「弁ケース」,「第1シール部材」及び「第2シール部材」を備える
ことを付加するとともに,弁ケース及び弁部材の構造を限定するものであるから,
特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,流量調整弁の上記構成を備えた「弁ケース」や,弁ケース及び弁部材の
構造については,本件明細書の【0024】~【0026】に記載されており,「第
1シール部材」及び「第2シール部材」については,本件明細書の【図6】に記載
があるから,上記訂正事項2は本件明細書に記載されたものである。
したがって,訂正事項2が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範
囲内で行われたことは明らかであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は
変更するものでもない。
c訂正事項3について
訂正事項3は,訂正前の「クランプ装置」に,上記(ア)にそれぞれ記載された構成
を備える「第1隙間」及び「第2隙間」が形成されていることを付加し,第1油路,
第2油路及びバイパス流路と「第1隙間」及び「第2隙間」との配置関係を限定す
るものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,上記構成を備えた「第1隙間」,「第2隙間」及び当該配置関係につい
ては,本件明細書の【図6】に明示されているから,上記訂正事項3は本件明細書
に記載されたものである。
したがって,訂正事項3が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範
囲内で行われたことは明らかであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は
変更するものでもない。
d訂正事項4について
訂正事項4は,上記訂正事項1~3に係る特許請求の範囲の訂正と整合させるた
めに,明細書を訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするもの
である。
そして,訂正事項4が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内
で行われたことは明らかであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更
するものでもない。
イ請求項3に係る訂正
(ア)訂正事項
(訂正事項5)
本件特許の特許請求の範囲の請求項3において,
「前記クランプ本体は,その上部にフランジ部を有し,該フランジ部の外周部の
下面には据付け面が形成され,」を,
「前記クランプ本体は,その上部にフランジ部と,前記フランジ部から下方へ延
びベースの収容穴に収容される部分とを有し,該フランジ部の外周部の下面には前
記ベースの上面に当接する据付け面が形成され,」と訂正する。
(訂正事項6)
本件特許の特許請求の範囲の請求項3において,
「前記流量調整弁は,
前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,
前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部
および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部
が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態
に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能
な弁部材とを備え,
前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる
溝部が形成され,」を,
「前記流量調整弁は,
前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,
前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部
および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部
が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態
に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能
な弁部材と,
前記油圧シリンダの油室側の小径部と,前記フランジ部の側面側の基部とを有し,
前記小径部が前記フランジ部に形成された装着穴に内嵌状に螺合される弁ケース
と,
前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間をシールする第1シール部材
と,
前記弁ケースと前記装着穴との間をシールする第2シール部材とを備え,
前記弁ケースの前記基部に,前記弁部材の前記軸部が前記出力ロッドの長手方向
と交差する方向に内嵌状に螺合され,
前記基部および前記軸部は前記フランジ部の側面から外側に露出し,前記基部の
基端にロックナットが装着され,
前記弁部材における前記軸部の基端側部分に,前記弁部材をクランプ本体に対し
て前記接近/離隔方向に相対移動させる為の操作部に相当し,工具を係合させて前
記軸部を回転させることが可能な穴が形成され,
前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる
溝部が形成され,」と訂正する。
(訂正事項7)
本件特許の特許請求の範囲の請求項3において,
「前記シリンダ穴に油圧を供給するときには,供給される前記油圧により前記鋼
球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放される,クランプ装
置。」を,
「前記シリンダ穴に油圧を供給するときには,供給される前記油圧により前記鋼
球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,
前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外
周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油
圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前
記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第
2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて
前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように前記
装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記
第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される,ク
ランプ装置。」と訂正する。
(訂正事項8)
本件明細書の【0010】に
「請求項3のクランプ装置は,クランプ本体と,該クランプ本体に進退可能に装
着された出力ロッドと,該出力ロッドの先端部に連結されワークにクランプ力を出
力するクランプアームと,前記出力ロッドを進出側に駆動するアンクランプ用の油
圧シリンダとを備え,前記クランプ本体は,その上部にフランジ部を有し,該フラ
ンジ部の外周部の下面には据付け面が形成され,該据付け面には,油圧ポートが設
けられ,前記クランプ本体の内部には,前記油圧ポートから前記油圧シリンダに至
る油路が設けられ,該油路は,前記油圧ポートに接続された第1油路と,該第1油
路に接続されて前記出力ロッドの移動方向に直交する方向を指向する第2油路とを
有し,一端が前記フランジ部の外周面から突出し,他端が前記第1油路と第2油路
との接続部に至る流量調整弁が,前記一端から前記他端に向かう方向が前記第2油
路の前記指向方向と同じ向きになるように設けられ,前記流量調整弁は,前記第1
油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,前記クランプ本体に対して前
記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部および前記弁体部の基端に連な
る前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部が前記弁孔に挿入された全閉状
態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態に至るまで前記弁体部を移動さ
せて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能な弁部材とを備え,前記弁体部
の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる溝部が形成さ
れ,前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパス流
路と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を開放し,前記
シリンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を閉止する逆止弁とを有
し,前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記
他端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路
とを含み,前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に
移動可能に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,前
記シリンダ穴に油圧を供給するときには,供給される前記油圧により前記鋼球が前
記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放されることを特徴としてい
る。」と記載されているのを,
「請求項3のクランプ装置は,クランプ本体と,該クランプ本体に進退可能に装着
された出力ロッドと,該出力ロッドの先端部に連結されワークにクランプ力を出力
するクランプアームと,前記出力ロッドを進出側に駆動するアンクランプ用の油圧
シリンダとを備え,前記クランプ本体は,その上部にフランジ部と,前記フランジ
部から下方へ延びベースの収容穴に収容される部分とを有し,該フランジ部の外周
部の下面には前記ベースの上面に当接する据付け面が形成され,該据付け面には,
油圧ポートが設けられ,前記クランプ本体の内部には,前記油圧ポートから前記油
圧シリンダに至る油路が設けられ,該油路は,前記油圧ポートに接続された第1油
路と,該第1油路に接続されて前記出力ロッドの移動方向に直交する方向を指向す
る第2油路とを有し,一端が前記フランジ部の外周面から突出し,他端が前記第1
油路と第2油路との接続部に至る流量調整弁が,前記一端から前記他端に向かう方
向が前記第2油路の前記指向方向と同じ向きになるように設けられ,前記流量調整
弁は,前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,前記クランプ
本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部および前記弁体
部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部が前記弁孔に挿
入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態に至るまで前記
弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能な弁部材と,前
記油圧シリンダの油室側の小径部と,前記フランジ部の側面側の基部とを有し,前
記小径部が前記フランジ部に形成された装着穴に内嵌状に螺合される弁ケースと,
前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間をシールする第1シール部材
と,前記弁ケースと前記装着穴との間をシールする第2シール部材とを備え,前記
弁ケースの前記基部に,前記弁部材の前記軸部が前記出力ロッドの長手方向と交差
する方向に内嵌状に螺合され,前記基部および前記軸部は前記フランジ部の側面か
ら外側に露出し,前記基部の基端にロックナットが装着され,前記弁部材における
前記軸部の基端側部分に,前記弁部材をクランプ本体に対して前記接近/離隔方向
に相対移動させる為の操作部に相当し,工具を係合させて前記軸部を回転させるこ
とが可能な穴が形成され,前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記
弁体部の軸方向に延びる溝部が形成され,前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔と
の間の隙間をバイパスするバイパス流路と,前記シリンダ穴に油圧を供給するとき
には前記バイパス流路を開放し,前記シリンダ穴から油圧を排出するときには前記
バイパス流路を閉止する逆止弁とを有し,前記バイパス流路は,前記弁体部の内部
に前記流量調整弁の前記一端から前記他端に向かう方向に延びる第1流路と,前記
第1流路から外周側に延びる第2流路とを含み,前記逆止弁は,前記第1流路上に
形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能に設けられた鋼球と,前記鋼球を前
記弁座側に付勢する部材とを含み,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには,供
給される前記油圧により前記鋼球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流
路が開放され,前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前
記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケ
ースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が
形成され,前記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間
および前記第2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向
かうにつれて前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面す
るように前記装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第
1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配
置されることを特徴としている。」と訂正する。
(イ)判断
a訂正事項5について
訂正事項5は,訂正前の「クランプ本体」について,「前記フランジ部から下方
へ延びベースの収容穴に収容される部分」を有することを付加し,「据付け面」が
「前記ベースの上面に当接する」ことを付加したものであるから,特許請求の範囲
の減縮を目的とするものである。
そして,本件明細書の【0016】には,「クランプ本体2は,据付け用フラン
ジ部2fから下方へ延びる下半部がベース10の収容穴に収容され,据付け面2b
をベース10を上面に当接させた状態で,図示しない複数のボルトによりベース1
0に固定されている。」という記載があるから,訂正事項5は本件明細書に記載さ
れたものである。
したがって,訂正事項5が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範
囲内で行われたことは明らかであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は
変更するものでもない。
b訂正事項6について
訂正事項6は,訂正前の「流量調整弁」について,上記(ア)にそれぞれ記載され
た構成を備える「弁ケース」,「第1シール部材」及び「第2シール部材」を備え
ることを付加するとともに,弁ケース及び弁部材の構造を限定するものであるから,
特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,流量調整弁の上記構成を備えた「弁ケース」や,弁ケース及び弁部材の
構造については,本件明細書の【0024】~【0026】に記載されており,「第
1シール部材」及び「第2シール部材」については,本件明細書の【図6】に記載
があることから,上記訂正事項6は本件明細書に記載されたものである。
したがって,訂正事項6が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範
囲内で行われたことは明らかであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は
変更するものでもない。
c訂正事項7について
訂正事項7は,訂正前の「クランプ装置」に,上記(ア)にそれぞれ記載された構成
を備える「第1隙間」及び「第2隙間」が形成されていることを付加し,第1油路,
第2油路及びバイパス流路と「第1隙間」及び「第2隙間」との配置関係を限定す
るものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,上記構成を備えた「第1隙間」,「第2隙間」及び当該配置関係につい
ては,本件明細書の【図6】に明示されているから,上記訂正事項7は本件明細書
又は図面に記載されたものである。
したがって,訂正事項7が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範
囲内で行われたことは明らかであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は
変更するものでもない。
d訂正事項8について
訂正事項8は,上記訂正事項5~7に係る特許請求の範囲の訂正と整合させるた
めに,明細書を訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするもの
である。
そして,訂正事項8が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内
で行われたことは明らかであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更
するものでもない。
(2)原告の主張した無効理由の要旨
ア無効理由1
本件訂正前の本件特許の請求項1~3に係る発明(以下,「本件訂正前発明1」,
「本件訂正前発明2」などという。)は,特開2001-198754号公報(甲
1。以下,「甲1文献」という。)に記載された発明(以下,「甲1発明」という。)
に甲3~7に記載された技術的事項の一つ又は二つ以上,及び,周知技術を適用し
て,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法29条2項に違反した無効
理由が存在する。
イ無効理由2
本件訂正前発明1~3は,米国特許第5695177号明細書(甲2。以下,「甲
2文献」という。)に記載された発明(以下,「甲2発明」という。)に,甲1文
献及び甲3~7に記載された技術的事項の一つ又は二つ以上,及び,周知技術を適
用して,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法29条2項に違反した
無効理由が存在する。
ウ訂正請求により訂正した事項について
訂正事項1,2,5及び6は,甲1文献又は甲2文献に開示された技術事項,甲
7,18,23~25に記載された周知の技術事項であるから,当業者は,甲1発
明又は甲2発明に,この周知技術を適用して,容易に想到するものである。
エ「第1隙間」及び「第2隙間」について
訂正に係る第1隙間及び第2隙間に関連する記載は,本件明細書に一切なく,技
術的意義は全く存在しない。したがって,当該構成は,当業者が適宜選択可能な設
計事項にすぎず,容易に想到するものである。
オなお,甲3~7,18,23~25は,以下のとおりのものである。
甲3:実公昭47-7330号公報(以下,「甲3文献」という。)
甲4:特公平6-60693号公報
甲5:独国特許出願公開第3433704号明細書
甲6:実願昭54-114708号(実開昭56-32177号)のマイクロフ
ィルム
甲7:米国特許第3086749号明細書
甲18:実願昭50-54858号(実開昭51-134219号)のマイクロ
フィルム
甲23:特許第2987681号公報
甲24:実願昭61-42224号(実開昭62-153406号)のマイクロ
フィルム
甲25:実公昭39-18634号公報
(3)甲1発明及び甲2発明の認定
ア(ア)甲1記載事項
「油圧式クランプ装置において,油圧ポート252,253を,クランプ装置2
50をベース板260に固定するフランジ251の据付け面に形成した」点。
(イ)甲1発明
「シリンダ穴が形成されたシリンダ本体と,
前記シリンダ穴に内嵌され,前記シリンダ本体に昇降移動可能に設けられたピス
トンロッドと,
該ピストンロッドの先端部に連結されワークにクランプ力を出力するアームと,
前記ピストンロッドを昇降駆動するクランプ用の油圧シリンダとを備え,
前記シリンダ本体は,その上部にフランジ251と,前記フランジ251から下
方へ延びベース板260の取付穴に内嵌させる部分とを有し,該フランジ251の
下端部には前記ベース板260の上面に当接する据付け面が形成され,
該据付け面には,油圧ポート252,253が設けられ,
前記フランジ251内には,前記油圧ポート252,253から油路が設けられ
る,クランプ装置。」
イ甲2発明
「ピストン収納室32が形成されたシリンダ本体18と,
前記ピストン収納室32に収納され,前記シリンダ本体18に伸縮自在に収納さ
れたピストン20と,
該ピストン20の先端に取り付けられワークピース12をクランプするクランプ
ヘッド22と,
油圧流体がピストン収納室32の小径部分36へ供給されると前記ピストン20
が伸長リリース位置から後退クランプ位置へ移動される構造とを備え,
前記シリンダ本体18は,上側のフランジ部分30と,下側の長いシャンク部分
28とを有し,該フランジ部分30の水平な下面には前記固定台14の上面に接触
する面が形成され,該シャンク部分28は固定台14に形成された穴に螺合し,
該フランジ部分30の一方側に第1油圧ポート24が設けられ,
前記シリンダ本体18の内部には,前記第1油圧ポート24から前記ピストン収
納室32に連通する油路が設けられ,
該油路は,前記第1油圧ポート24に接続され水平方向にピストン収納室32へ
延びる油路を有し,
一端が前記フランジ部分30から突出し,他端が前記油路に至る流量制御弁54
が設けられる,油圧クランプ16」
(4)無効理由2について
ア本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
(一致点)
「シリンダ穴が形成されたクランプ本体と,
前記シリンダ穴に内嵌され,前記クランプ本体に進退可能に設けられた出力ロッ
ドと,
該出力ロッドの先端部に連結されワークにクランプ力を出力するクランプアーム
と,
前記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダとを備え,
前記クランプ本体は,その上部にフランジ部と,前記フランジ部から下方へ延び
ベースの収容穴に収容される部分とを有し,該フランジ部の外周部の下面には前記
ベースの上面に当接する据付け面が形成され,
該フランジ部には,油圧ポートが設けられ,
前記クランプ本体の内部には,前記油圧ポートから前記油圧シリンダを構成する
前記シリンダ穴に至る油路が設けられ,
該油路は,前記油圧ポートに接続されて前記出力ロッドの移動方向に直交する方
向を指向して前記シリンダ穴に至る油路を有し,
一端が前記フランジ部から突出し,他端が前記油路に至る流量調整弁が設けられ
る,クランプ装置。」である点。
(相違点1)
本件発明1では,油圧ポートがフランジ部の「据付け面」に設けられていて,「前
記油圧ポートに接続された第1油路と,該第1油路に接続されて前記シリンダ穴に
至る第2油路とを有し」ているのに対し,甲2発明では,油圧ポートはフランジ部
分30の一方側に設けられていて,第1油圧ポート24に接続された油路が水平方
向にそのままピストン収納室32へ延びている点。
(相違点2)
流量調整弁の配置構成について,本件発明1では,流量調整弁の一端が前記フラ
ンジ部の「外周面」から突出し,他端が「前記第1油路と第2油路との接続部に至
る」ようにされ,「前記一端から前記他端に向かう方向が前記第2油路の前記指向
方向と同じ向きになるように設けられ」ているのに対し,甲2発明の流量制御弁5
4は,一端が前記フランジ部分30から突出しているものの,上下方向に配置され
ている点。
(相違点3)
本件発明1の流量調整弁は,
「前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,
前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部
および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部
が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態
に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能
な弁部材と,
前記油圧シリンダの油室側の小径部と,前記フランジ部の側面側の基部とを有し,
前記小径部が前記フランジ部に形成された装着穴に内嵌状に螺合される弁ケース
と,
前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間をシールする第1シール部材
と,
前記弁ケースと前記装着穴との間をシールする第2シール部材とを備え,
前記弁ケースの前記基部に,前記弁部材の前記軸部が前記出力ロッドの長手方向
と交差する方向に内嵌状に螺合され,
前記基部および前記軸部は前記フランジ部の側面から外側に露出し,前記基部の
基端にロックナットが装着され,
前記弁部材における前記軸部の基端側部分に,前記弁部材をクランプ本体に対し
て前記接近/離隔方向に相対移動させる為の操作部に相当し,工具を係合させて前
記軸部を回転させることが可能な穴が形成され,」た構造であるのに対し,甲2発
明の流量制御弁54がそのような構造であるかは不明である点。
(相違点4)
本件発明1の流量調整弁が,「前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,
前記弁体部の軸方向に延びる溝部が形成され」ているのに対し,甲2発明の流量制
御弁54は,ニードル弁56の外周部の溝部については不明である点。
(相違点5)
本件発明1の流量調整弁は,
「前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパス流
路と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を閉止し,前記
シリンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を開放する逆止弁とを有
し,
前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記他
端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路と
を含み,
前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能
に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,
前記シリンダ穴から油圧を排出するときには,排出される前記油圧により前記鋼
球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,
前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外
周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油
圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前
記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第
2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて
前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように前記
装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記
第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される」構
造であるのに対し,甲2発明の流量制御弁54がそのような構造であるかは不明で
ある点。
(イ)相違点についての判断
a相違点1について
油圧を用いたクランプ装置において,油圧ポートをクランプ装置のフランジ部の
据付け面に設ける構造は,甲1事項として示されているように従来周知の構造にす
ぎないものである。そして,甲1文献の【0002】~【0004】,【図12】
の「油圧配管216」の「ガイド部材215」への接続及び【0009】,【図1
6】,【図17】の「フランジ251の下端部に1対の油圧ポート252,253
が形成され」ていることからも理解されるように,油圧を用いたクランプ装置にお
いて,油圧ポートを据付け面側に設けて鉛直方向に油路を形成するものも,側面側
に設けて水平方向に油路を形成するものも,一般的な構成にすぎず,どちらを採用
するかは,配置の際のレイアウトの制限や,装置のコンパクト化の要求等に応じて,
当業者が適宜選択する事項である。そうすると,甲2発明において,フランジ部分
30の一方側に設けられている油圧ポートを,フランジ部分30の固定台14と接
する据付け面に設けるようにすることは,上記従来周知の配管構造に代えて,同様
に従来周知のものに単に置換したにすぎず,当業者であれば容易に想到する事項と
いうべきである。また,油圧ポートを据付け面に設けた際に,油圧ポートと接続し
てフランジ部分30内を鉛直方向に延びる油路を設け,水平方向にピストン収納室
32へ延びる油路と接続する構造とすることは,甲2発明のフランジ部分30とピ
ストン収納室32の位置関係を有するものに,上記油圧ポートの配管構造を採用し
たのであれば当然に取り得る配置にすぎない。
そうすると,上記相違点1に係る発明特定事項は,甲2発明に上記甲1事項とし
て示された従来周知の構造を適用することで,当業者が容易に想到する事項という
べきである。
b相違点2~4について
油圧等の流体圧シリンダに用いる流量調整弁において,相違点3に係る構造のよ
うに,弁孔,弁部材,弁ケース,第1及び第2シール部材,ロックナット,弁部材
を相対移動させる為の操作部を備えた構造のものは,例えば,甲18,23~25
に示されているように従来周知の事項であると認められる。
また,油圧等の流体流れを調節するニードル弁について,感度をより適切にする
ために弁体部の外周部に先端側ほど深さが深い溝部を形成した構造も,例えば,甲
7及び14に示されているように従来周知の事項であると認められる。
そして,油圧クランプにおいて,クランプ位置又はリリース位置へピストンを移
動させる作動速度は,クランプ動作や他の製造動作に合わせて適宜調節変更される
設計的事項にすぎないものであり,甲2発明において,リリース位置へのピストン
移動の速度を,クランプ位置へのピストン移動の速度よりも高速にして,ワークピ
ースの取り外しの効率化を図ることも,当業者が必要に応じて適宜成し得る設計変
更程度の事項であって,格別なものではない。
そうすると,甲2発明の油圧クランプにおいて,上記効率化を図るため,リリー
ス位置へのピストンの移動速度を高速化する,すなわち,ピストン収納室32から
の油圧流体の排出を速やかに行わせようとして,上記甲18,23~25に示され
た従来周知の流量調整弁の構造を適用し,流量調整弁54であるニードル弁56に
ついて,弁孔,弁部材,弁ケース,第1及び第2シール部材,ロックナット,弁部
材を相対移動させる為の操作部を備えた構造として,上記相違点3に係る発明特定
事項のように構成するとともに,流量調整弁54の感度をより高めるために,甲7
及び14に示された従来周知の構造を適用し,ニードル弁56の外周部に先端側ほ
ど深さが深い溝部を形成することで,上記相違点4に係る発明特定事項のように構
成することは,当業者であれば,容易に想到する事項というべきである。
そして,甲2発明に上記の適用を行う場合,ピストン収納室32からの油圧流体
の排出を速やかに行わせようとして逆止弁を設けるのであれば,流量調整弁はピス
トン収納室側に向けて水平方向に配置された油路に沿わせて配置すべきであること
は当業者が当然考えることであり,その際,鉛直方向に配置された油路が形成され
ていれば,水平方向の油路と鉛直方向の油路との接続部に流量調整弁の端部が至る
ようになることも,当然認識される事項にすぎないから,上記相違点2に係る発明
特定事項についても,当業者が容易に想到する事項というべきである。
そうすると,上記相違点2~4に係る発明特定事項は,甲2発明に上記従来周知
の事項を適用することで,当業者が容易に想到する事項というべきである。
c相違点5について
相違点5に係る発明特定事項のうち,「前記第1シール部材に対して前記油圧シ
リンダの油室側において前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に第1
隙間が形成され,前記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の
内周面との間に第2隙間が形成され,前記第1油路,前記第2油路,および前記バ
イパス流路は前記第1隙間および前記第2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧
ポートから前記装着穴に向かうにつれて前記油室側に近づく斜め方向に延在すると
ともに前記第2隙間に面するように前記装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流
路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一
面内に位置できるように配置される」構造については,請求人(原告)が示した証
拠には記載されておらず,また,油圧等の流体圧シリンダに用いる流量調整弁に係
る技術分野において周知技術であるとも認められない。
甲18の流量調節弁16は,バイパス流路に相当する通路22及び孔23と,逆
止弁21とを有し,第1隙間に相当する隙間18が形成されているが,弁ケースに
相当する接手固定ねじ6の先端には第2隙間に相当するものが形成されていない。
甲23の図1及び2に示されるニードル弁81は,バイパス流路及び逆止弁に相
当するものが流路形成筒83,保持体84及び弾性ダイヤフラム85であり,これ
らにより形成されるバイパス流路は筒部材80の先端に形成された隙間とは連通し
ない。
甲24のニードル弁(絞り弁)14及び23は,そもそもバイパス流路及び逆止
弁に相当するものを有していない。
甲25のチェックバルブ4が有する通路7,導通孔9,弁座10,導通孔8,通
路6による液体の流通路は,弁体と弁孔との間の隙間に相当するものであって,当
該隙間をバイパスするバイパス流路に相当するものではない。
そして,本件発明1は,上記の構造を有することにより,「前記バイパス流路の
前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内
に位置できるように配置される」ことになり,弁ケースまわりの限られた空間を有
効に利用して第1油路と第2油路との連通を確保しながら,弁ケースと弁体との摺
動面を長くして流量調整の調整代を大きくすることができることは明らかであるか
ら,装置全体を指向方向に小型化(コンパクト化)しつつ,作動油の流量を容易か
つ確実に調整できるという,本件明細書の【0009】にも記載された効果を奏す
るものである。
したがって,甲2発明において,相違点5に係る発明特定事項を備えたものとす
ることは,当業者であっても容易に想到するものとはいえない。
(ウ)小括
したがって,本件発明1は,甲2発明,甲1事項及び従来周知の事項を適用する
ことで,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ本件発明2について
本件発明2は,本件発明1にさらに,「前記クランプ本体は,水平な前記据付け
面を外部のベース部材に当接させて固定され,前記第1油路および前記第2油路は
前記フランジ部に形成された」という発明特定事項を付加したものである。
そうすると,本件発明1で特定された事項を全て含み,さらなる限定事項を付加
したものである本件発明2は,本件発明1と同様に,当業者が甲2発明,甲1事項
及び従来周知の事項を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたも
のであるとはいえない。
ウ本件発明3について
(ア)本件発明3と甲2発明との対比
前記アの相違点1~4で相違し,かつ,以下の相違点5’で相違する。
(相違点5’)
本件発明3の流量調整弁が,
「前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパス流
路と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を開放し,前記
シリンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を閉止する逆止弁とを有
し,
前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記他
端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路と
を含み,
前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能
に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,
前記シリンダ穴に油圧を供給するときには,供給される前記油圧により前記鋼球
が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,
前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外
周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油
圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前
記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第
2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて
前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように前記
装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記
第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される」構
造を有するのに対し,甲2発明の流量制御弁54は上記の構造については不明であ
る点。
(イ)判断
a相違点1~4について
上記相違点1~4については,甲2発明,甲1事項及び従来周知の事項に基づい
て,当業者が容易に想到するものと認められる。
b相違点5’について
流体圧駆動ピストンにおいて,流入側流体を制御するメータイン方式及び排出側
流体を制御するメータアウト方式のどちらも周知の事項であり,逆止弁の構成にお
いて,流入側流体又は排出側流体のどちらによりバイパス回路を開放又は閉止する
かは,当業者が必要に応じて適宜選択する設計事項にすぎないものと認められる。
しかし,相違点5’に係る発明特定事項のうち,「前記第1シール部材に対して
前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面と
の間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前
記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前記第1油路,前記第2油路,お
よび前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第2隙間に連通し,前記第1油路
は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて前記油室側に近づく斜め方向に
延在するとともに前記第2隙間に面するように前記装着穴の内周面に開口し,前記
バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直
交する同一面内に位置できるように配置される」構造については,請求人(原告)
が示した証拠には記載されておらず,また,油圧等の流体圧シリンダに用いる流量
調整弁に係る技術分野において周知技術であるとも認められない。
そして,本件発明3は,上記の構造を有することにより,「前記バイパス流路の
前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内
に位置できるように配置される」ことになり,弁ケースまわりの限られた空間を有
効に利用して第1油路と第2油路との連通を確保しながら,弁ケースと弁体との摺
動面を長くして流量調整の調整代を大きくすることができ,ひいては装置全体を指
向方向に小型化(コンパクト化)しつつ,作動油の流量を容易かつ確実に調整でき
るという,本件明細書【0009】にも記載された効果を奏するものである。
そうすると,甲2発明において,相違点5’に係る発明特定事項を備えたものと
することは,当業者が容易に想到するものとはいえない。
(ウ)小括
したがって,本件発明3は,甲2発明,甲1事項及び従来周知の事項を適用する
ことで,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)無効理由1について
ア本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
(一致点)
「シリンダ穴が形成されたクランプ本体と,
前記シリンダ穴に内嵌され,前記クランプ本体に進退可能に設けられた出力ロッ
ドと,
該出力ロッドの先端部に連結されワークにクランプ力を出力するクランプアーム
と,
前記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダとを備え,
前記クランプ本体は,その上部にフランジ部と,前記フランジ部から下方へ延び
ベースの収容穴に収容される部分とを有し,該フランジ部の外周部の下面には前記
ベースの上面に当接する据付け面が形成され,
該据付け面には,油圧ポートが設けられ,
前記クランプ本体の内部には,前記油圧ポートから油路が設けられる,クランプ
装置。」である点。
(相違点1)
クランプ本体の内部に油圧ポートから設けられる油路について,本件発明1では,
「前記油圧シリンダを構成する前記シリンダ穴に至る」もので「前記油圧ポートに
接続された第1油路と,該第1油路に接続されて前記シリンダ穴に至る第2油路と
を有し」ているのに対し,甲1発明では,油圧ポート252,253からどのよう
に油路が延びるか不明である点。
(相違点2)
本件発明1では,
「一端が前記フランジ部の外周面から突出し,他端が前記第1油路と第2油路と
の接続部に至る流量調整弁が,前記一端から前記他端に向かう方向が前記第2油路
の前記指向方向と同じ向きになるように設けられ,
前記流量調整弁は,
前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,
前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部
および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部
が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態
に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能
な弁部材と,
前記油圧シリンダの油室側の小径部と,前記フランジ部の側面側の基部とを有し,
前記小径部が前記フランジ部に形成された装着穴に内嵌状に螺合される弁ケース
と,
前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間をシールする第1シール部材
と,
前記弁ケースと前記装着穴との間をシールする第2シール部材とを備え,
前記弁ケースの前記基部に,前記弁部材の前記軸部が前記出力ロッドの長手方向
と交差する方向に内嵌状に螺合され,
前記基部および前記軸部は前記フランジ部の側面から外側に露出し,前記基部の
基端にロックナットが装着され,
前記弁部材における前記軸部の基端側部分に,前記弁部材をクランプ本体に対し
て前記接近/離隔方向に相対移動させる為の操作部に相当し,工具を係合させて前
記軸部を回転させることが可能な穴が形成され,
前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる
溝部が形成され,
前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパス流路
と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を閉止し,前記シ
リンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を開放する逆止弁とを有
し,
前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記他
端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路と
を含み,
前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能
に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,
前記シリンダ穴から油圧を排出するときには,排出される前記油圧により前記鋼
球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,
前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外
周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油
圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前
記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第
2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて
前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように前記
装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記
第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される」の
に対し,甲1発明では流量制御弁は設けられていない点。
(イ)相違点についての判断
a相違点1について
油圧を用いたクランプ装置において,油圧ポートから設けられる油路を油圧シリ
ンダのシリンダ穴まで導通させることは,例えば,甲2文献にも,第1の油圧ポー
ト24から水平方向に延びてピストン収納室32の小径部分36に連通する流路と
して示されているように,従来周知の事項にすぎない。
そして,フランジ251内に油圧ポート252,253から油路が設けられてい
る甲1発明に,上記従来周知の事項を適用して,当該油路を油圧シリンダのシリン
ダ穴に至るように構成することは,当業者にとって格別困難なことではない。
そうすると,上記相違点1に係る発明特定事項は,甲1発明に従来周知の事項を
適用することで,当業者が容易に想到するものと認められる。
b相違点2について
相違点2に係る発明特定事項には,「前記第1シール部材に対して前記油圧シリ
ンダの油室側において前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙
間が形成され,前記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内
周面との間に第2隙間が形成され,前記第1油路,前記第2油路,および前記バイ
パス流路は前記第1隙間および前記第2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポ
ートから前記装着穴に向かうにつれて前記油室側に近づく斜め方向に延在するとと
もに前記第2隙間に面するように前記装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路
の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面
内に位置できるように配置される」構造が含まれている。そして,当該構造は,上
記無効理由2の検討における相違点5に含まれていたものと同じであるから,請求
人(原告)が示した証拠には記載されておらず,また,油圧等の流体圧シリンダに
用いる流量調整弁に係る技術分野において周知技術であるとも認められない。
そして,本件発明1は,上記の構造を有することにより,「前記バイパス流路の
前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内
に位置できるように配置される」ことになり,弁ケースまわりの限られた空間を有
効に利用して第1油路と第2油路との連通を確保しながら,弁ケースと弁体との摺
動面を長くして流量調整の調整代を大きくすることができることは明らかであるか
ら,装置全体を指向方向に小型化(コンパクト化)しつつ,作動油の流量を容易か
つ確実に調整できるという,本件明細書【0009】にも記載された効果を奏する
ものである。
そうすると,甲1発明においても,相違点2に係る発明特定事項を備えたものと
することは,当業者であっても容易に想到するものとはいえない。
イ本件発明2について
本件発明2は,本件発明1にさらに,「前記クランプ本体は,水平な前記据付け
面を外部のベース部材に当接させて固定され,前記第1油路および前記第2油路は
前記フランジ部に形成された」という発明特定事項を付加したものである。
そうすると,本件発明1で特定された事項を全て含み,さらなる限定事項を付加
したものである本件発明2は,本件発明1と同様に,甲1発明及び従来周知の事項
から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ本件発明3について
(ア)本件発明3と甲1発明との対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると,上記アの相違点1で相違し,かつ,以下
の相違点2’で相違する。
(相違点2’)
本件発明3では,
「一端が前記フランジ部の外周面から突出し,他端が前記第1油路と第2油路と
の接続部に至る流量調整弁が,前記一端から前記他端に向かう方向が前記第2油路
の前記指向方向と同じ向きになるように設けられ,
前記流量調整弁は,
前記第1油路と前記第2油路との接続部に形成された弁孔と,
前記クランプ本体に対して前記第2油路の前記指向方向に相対移動可能な弁体部
および前記弁体部の基端に連なる前記弁体部よりも大径の軸部を有し,前記弁体部
が前記弁孔に挿入された全閉状態から前記弁体部が前記弁孔から離間した全開状態
に至るまで前記弁体部を移動させて前記弁体部と前記弁孔との間の隙間を調節可能
な弁部材と,
前記油圧シリンダの油室側の小径部と,前記フランジ部の側面側の基部とを有し,
前記小径部が前記フランジ部に形成された装着穴に内嵌状に螺合される弁ケース
と,
前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間をシールする第1シール部材
と,
前記弁ケースと前記装着穴との間をシールする第2シール部材とを備え,
前記弁ケースの前記基部に,前記弁部材の前記軸部が前記出力ロッドの長手方向
と交差する方向に内嵌状に螺合され,
前記基部および前記軸部は前記フランジ部の側面から外側に露出し,前記基部の
基端にロックナットが装着され,
前記弁部材における前記軸部の基端側部分に,前記弁部材をクランプ本体に対し
て前記接近/離隔方向に相対移動させる為の操作部に相当し,工具を係合させて前
記軸部を回転させることが可能な穴が形成され,
前記弁体部の外周部には,先端側ほど深さが深い,前記弁体部の軸方向に延びる
溝部が形成され,
前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパス流路
と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を開放し,前記シ
リンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を閉止する逆止弁とを有
し,
前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記他
端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路と
を含み,
前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能
に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,
前記シリンダ穴に油圧を供給するときには,供給される前記油圧により前記鋼球
が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,
前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外
周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油
圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前
記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第
2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて
前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように前記
装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記
第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される」の
に対し,甲1発明では流量制御弁は設けられていない点。
(イ)相違点についての判断
a相違点1について
上記相違点1については,甲1発明に従来周知の事項を適用することで,当業者
が容易に想到するものと認められる。
b相違点2について
流体圧駆動ピストンにおいて,流入側流体を制御するメータイン方式及び排出側
流体を制御するメータアウト方式のどちらも周知の事項であり,逆止弁の構成にお
いて,流入側流体又は排出側流体のどちらによりバイパス回路を開放又は閉止する
かは,当業者が必要に応じて適宜選択する設計事項にすぎないものと認められる。
しかし,相違点2’に係る発明特定事項のうち,「前記第1シール部材に対して
前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面と
の間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前
記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,前記第1油路,前記第2油路,お
よび前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第2隙間に連通し,前記第1油路
は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれて前記油室側に近づく斜め方向に
延在するとともに前記第2隙間に面するように前記装着穴の内周面に開口し,前記
バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直
交する同一面内に位置できるように配置される」構造については,請求人(原告)
が示した証拠には記載されておらず,また,油圧等の流体圧シリンダに用いる流量
調整弁に係る技術分野において周知技術であるとも認められない。
そして,本件発明3は,上記の構造を有することにより,「前記バイパス流路の
前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内
に位置できるように配置される」ことになり,弁ケースまわりの限られた空間を有
効に利用して第1油路と第2油路との連通を確保しながら,弁ケースと弁体との摺
動面を長くして流量調整の調整代を大きくすることができることは明らかであるか
ら,装置全体を指向方向に小型化(コンパクト化)しつつ,作動油の流量を容易か
つ確実に調整できるという,本件明細書【0009】にも記載された効果を奏する
ものである。
そうすると,甲1発明において,相違点2’に係る発明特定事項を備えたものと
することは,当業者であっても容易に想到するものとはいえない。
第3原告主張の審決取消事由等
1取消事由1(訂正要件違反)
(1)本件明細書の発明の詳細な説明においては,「第1隙間」「第2隙間」との
用語は存在せず,それらに関する説明は一切ない。したがって,「前記バイパス流路
の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面
内に位置できるように配置され」という構成が,どのような作用効果を奏するかの
記載はない。
(2)また,「前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間
とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置され」という構成で
は,装置全体を指向方向に小型化(コンパクト化)するとの作用効果を得ることは
できない。装置全体を指向方向に小型化(コンパクト化)するためには,第1隙間
と第2隙間だけではなく,「第1油路40a」を含む流路全体が位置する「指向方向
と直交する面」をできるだけ狭くすることが必要である。
そして,バイパス流路と第1油路の位置関係を「指向方向と直交する同一面内」
として装置全体を指向方向に小型化することは,甲3文献の図2などにも示されて
いるとおり,当業者において周知の技術事項である。
(3)以上のとおり,訂正請求に関する審決の判断は,技術的にも誤っているし,
また,訂正で追加された第1隙間や第2隙間などの位置関係に,何らかの技術意義
を読み込むことは,本件出願日当時の本件明細書に開示も示唆もない新規な技術事
項を導入するものであるから,本件訂正は,明細書又は図面に記載した事項の範囲
内においてするものということはできない。
(4)本件訂正後の特許請求の範囲においては,「連通」について,「前記第
1油路,前記第2油路,及び前記バイパス流路は前記第1隙間および前記第2隙間
に連通し」とされるだけであり,「第1隙間と第2隙間の連通がどの箇所でされ
ているか」が特定されていない。また,本件明細書の図6では,バイパス流路,
第1隙間,第2隙間のみならず,隙間同士の連通部や第1油路が,指向方向に直
交する同一平面にある場合のみが開示されているにもかかわらず,「上記の連通部
(隙間同士)や第1油路の位置関係」が特定されていない。
そのため,本件訂正後の特許請求の範囲を,文言どおり解釈すると,どのような
場所で第1隙間と第2隙間が連通してもよく,また,どのような場所で第2隙間
と第1油路(40a)が連通してもよいことになり,その結果,下図の右図のような構
成も含むことになる。
しかし,下図の右図の場合には,流量調整弁全体及び装置全体の大きさが大きく
なってしまい,流量調整弁を含む装置全体のコンパクト化という作用効果を奏さな
いことは明らかである。
本件訂正後の特許請求の範囲に記載された構成において,第1隙間と第2隙間
[甲28図6を清書したもの][甲28図6の油路40aを左側に移動させたもの]
第1油路40a第1油路40a
の連通位置と,第2隙間と第1油路の連通位置が上図の左図に限定して解釈され
るならばともかく,本件訂正後の特許請求の範囲に記載された文言どおりの構成で
あるとするならば,本件明細書の図6に開示されていない発明(上図の右図)を
含むことになり,「新たな技術的事項を導入した」ものとなる。
2取消事由2(無効理由2に関する認定判断の誤り)
(1)取消事由2-1(相違点5の認定の誤り)
審決が認定した相違点5は,前段の構成(弁部材内にバイパス流路を設ける構成)
と後段の構成(バイパス流路の第1流路・第1隙間・第2隙間の位置関係)を含み,
前段の構成と後段の構成は,技術的に別個のものであり,不可分一体ではないのみ
ならず,相互に関係性がない。
したがって,相違点5は,以下のとおり,前段部分と甲2発明との相違(相違点
5-1)と,後段部分と甲2発明との相違(相違点5-2)に分けて認定されるべ
きものである。
(相違点5-1)
本件発明1の「前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスす
るバイパス流路と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を
閉止し,前記シリンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を開放する
逆止弁とを有し,
前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記他
端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路と
を含み,
前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能
に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,
前記シリンダ穴から油圧を排出するときには,排出される前記油圧により前記鋼
球が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され」た構造であるの
に対し,甲2発明の流量制御弁54がそのような構造であるかは不明である点。
(相違点5-2)
本件発明1では「①前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側にお
いて前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前
記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2
隙間が形成され,②前記第1油路,前記第2油路,及び前記バイパス流路は前記第
1隙間及び前記第2隙間に連通し,③前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着
穴に向かうにつれて前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間
に面するように前記装着穴の内周面に開口し,④前記バイパス流路の前記第1流路
と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できる
ように配置される」構造であるのに対し,甲2発明の流量調整弁54がそのような
構造であるかは不明である点。
そして,このような相違点の認定の誤りは,相違点の判断に影響を与えるもので
あることは明らかであり,本件発明1及び2に関する審決の結論に影響を与える重
大な誤りである。
(2)取消事由2-2(相違点5の判断の誤り)
ア相違点5-1について
油圧等の流体圧シリンダに用いる流量調整弁において,弁体部と弁孔との間の隙
間を調整可能な絞り弁と前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパ
ス流路を鋼球により開放閉止する逆止弁とを組み合わせて一体化した構造のものは,
例えば,甲3文献に示されているように従来周知のものにすぎないから,当業者が
容易に想到する。
したがって,相違点5-1は,甲2発明に甲3文献に記載されている事項を適用
して,当業者が容易に想到するものである。
イ相違点5-2について
相違点5-2の「①前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側にお
いて前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前
記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2
隙間が形成され,」との部分は,単なる用語の定義であり,技術的な意味はない。
相違点5-2の「②前記第1油路,前記第2油路,及び前記バイパス流路は前記
第1隙間及び前記第2隙間に連通し,」との構成は,作動油が,バイパス流路から弁
部材の外周面と弁ケースの内周面との間(第1隙間)を通り,弁ケースと装着穴の
内周面との間(第2隙間)を経て,第1油路40aに流れることから,流量調整弁
に第1隙間や第2隙間が存在すれば「これらが連通すること」は当然の構成である。
ところで,弁ケースを用いて「第1隙間」と「第2隙間」が生じた場合,これ
らを連通させるには,当業者としては,本件発明のように「弁ケース先端部と装着
穴との間に隙間を設けて連通させる」か,「弁ケースの環状の周壁の一部に連通孔
を設ける」かしか選択肢はない。弁ケースと装着穴との間に隙間を設けて連通させ
る構成は,甲28(特許第5700677号公報),甲34(実公昭59-766
7号公報。以下「甲34文献」という。),甲36(実公昭60-9853号公
報),甲37(特開2001-165113号公報),甲38(実公昭51-28
657号公報)などに記載されている周知の構成である。以上のとおり,「弁ケー
ス先端部と装着穴との間に隙間を設けて連通させる」ことは,二者択一の構成にす
ぎず,また,当業者に周知の技術事項であるから,当業者が適宜選択可能な設計事
項にすぎない。
流量調整弁において「第1隙間」と「第2隙間」が存在するかどうかは,流量調
整弁に「弁ケース」を採用するかどうかによる。油圧等の流体圧シリンダに用いる
流量調整弁において,相違点3に係る構造のように,弁孔,弁部材,弁ケース,第
1及び第2シール部材,ロックナット,弁部材を相対移動させる為の操作部を備え
た構造のものは,例えば,甲18,甲23~25に示されているように従来周知の
事項である。そして,本件明細書の図6の「弁ケース」と同様の構成を有するもの
も,従来周知の事項である(甲34文献)。
相違点5-2の「③前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつ
れて前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように
前記装着穴の内周面に開口し,」との構成については,第2隙間は第1油路に連通す
るのであるから,第1油路が第2隙間に面するように開口しているのは当然である。
そして,斜め方向に連通させるかどうかは,単なる設計事項にすぎない。
相違点5-2の「④前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2
隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される」の構成
は,甲34文献に記載された弁ケースが,甲3文献に記載された事項の「逆止弁内
蔵式の流量調整弁」とともに適用された場合,充足される。
相違点5-2におけるバイパス流路の第1流路・第1隙間・第2隙間の位置関係
からは,本件発明の作用効果を奏することはないし,その他の予期しない効果を奏
するものでもない。したがって,当該構成は,技術的意義を伴わず,当業者が必要
に応じて適宜選択できる設計事項にすぎないものである。
以上から,当業者は,必要に応じて適宜選択し,又は,甲34文献に記載された
周知の弁ケースを適用して,相違点5-2に容易に想到する。
ウよって,本件発明1及び2は,甲2発明から容易に想到し得るものであ
る。
(3)取消事由2-3(相違点5’の認定の誤り)
前記(1)と同様に,相違点5’は下記前段部分(A’)と甲2発明の相違(相違点5’
-1)と下記後段部分(B’)と甲2発明の相違(相違点5’-2)に分けて認定さ
れるべきである。
「本件発明3の流量調整弁が,
(A’)前記弁部材は,前記弁体部と前記弁孔との間の隙間をバイパスするバイパス
流路と,前記シリンダ穴に油圧を供給するときには前記バイパス流路を開放し,前
記シリンダ穴から油圧を排出するときには前記バイパス流路を閉止する逆止弁とを
有し,
前記バイパス流路は,前記弁体部の内部に前記流量調整弁の前記一端から前記他
端に向かう方向に延びる第1流路と,前記第1流路から外周側に延びる第2流路と
を含み,
前記逆止弁は,前記第1流路上に形成された弁座と,前記第1流路内に移動可能
に設けられた鋼球と,前記鋼球を前記弁座側に付勢する部材とを含み,
前記シリンダ穴に油圧を供給するときには,供給される前記油圧により前記鋼球
が前記弁座と反対側に押圧されて前記バイパス流路が開放され,
(B’)前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁部材
の外周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケースの前
記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され,
前記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路は前記第1隙間および前記
第2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴に向かうにつれ
て前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に面するように前
記装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前
記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される」
構造を有するのに対し,甲2発明の流量制御弁54は上記の構造については不明で
ある点
(4)取消事由2-4(相違点5’の判断の誤り)
相違点5’と相違点5の差異は,油圧の供給及び排出に伴う逆止弁の開放及び閉
止の関係が,本件発明1と逆になったものにすぎない。
油圧の供給時に逆止弁を閉止して流量を調整する方式(メータイン方式)及び,
油圧の排出時に逆止弁を閉止して流量を調整する方式(メータアウト方式)は,い
ずれも周知の制御方法である。したがって,逆止弁の構成において,供給側流体又
は排出側流体のどちらによりバイパス回路を開放又は閉止するかは,当業者が必要
に応じて適宜選択する設計事項にすぎない。
よって,相違点5’の判断の誤りについては,相違点5の判断の誤りの主張がその
まま妥当するから,当業者は,甲2発明に,甲3文献や甲34文献の記載事項を適
用して,相違点5’に容易に想到する。
3取消事由3(無効理由1に関する認定判断の誤り)
(1)取消事由3-1(相違点2の認定の誤り)
相違点2は,流量調整弁の構成という技術事項と,第1隙間や第2隙間などの関
係という技術事項とを包含したものであり,技術的に不可分一体ではない。
そして,このような相違点の認定の誤りは,相違点の判断に影響を与え,審決の
結論に影響を与える重大な誤りである。
(2)取消事由3-2(相違点2の判断の誤り)
審決の無効理由2の検討における相違点5の判断が誤っていることは前記のと
おりであるから,審決の無効理由1の相違点2の判断も,同様に,誤っている。
(3)取消事由3-3(相違点2’の認定の誤り)
相違点2’と相違点2の差異は,油圧の供給及び排出に伴う逆止弁の開放及び閉
止の関係が,本件発明1と逆になったものにすぎない。
したがって,本件発明1の相違点2の認定の誤りと同様,相違点2’は,流量調整
弁の構成という技術事項と,第1隙間や第2隙間などの関係という技術事項とを包
含したものであり,技術的に不可分一体でないばかりか,本件発明3と甲1発明と
が異なると断言しているにすぎない。
このような相違点の認定の誤りは,審決の結果に影響を与えるものである。
(4)取消事由3-4(相違点2’の判断の誤り)
流体圧駆動ピストンを有する流体圧シリンダにおいて,供給側流体を制御するメ
ータイン方式及び排出側流体を制御するメータアウト方式のどちらも周知の事項で
あり,逆止弁の構成において,供給側流体又は排出側流体のどちらによりバイパス
回路を開放又は閉止するかは,当業者が必要に応じて適宜選択する設計事項にすぎ
ない。
したがって,審決の相違点2の判断が誤っているのと同様,相違点2’の判断も誤
っている。
4被告の主張に対する反論
(1)無効理由2の相違点3について
ア甲2文献の「図3における流量制御手段26は,シリンダ本体18内に
直接に形成されて,クランピング位置とリリース位置とにピストン20が移動され
るときの速度を選択的に制御できるように,上記シリンダ本体に給排される油圧流
体の流量を選択的に変化させるために設けられる。好適な流量制御手段26は,弁
孔52と,その弁孔に移動可能に収納された流量制御弁54とを含む。」(4欄48
行~55行)及び「ノブ58は,時計回り又は反時計回りに工具を使用せずに手動
で回転でき,ニードル弁56を非閉鎖位置と閉鎖位置との間で無段階に移動させる
ことができる。上記のニードル弁56を非閉鎖位置に移動させたときには,そのニ
ードル弁56が第1油圧ポート又は第2油圧ポートから完全に取り外されて上記シ
リンダ本体に給排される油の流量が比較的に大流量になる。これとは逆に,上記の
ニードル弁56を閉鎖位置に移動させたときには,そのニードル弁56の少なくと
も一部分が弁孔52のテーパ部分55を通って第1油圧ポート24又は第2油圧ポ
ートに突入され,上記シリンダ本体に給排される油圧流体の流量が比較的に小流量
になる。」(5欄11行~24行)の記載(訳文は甲19による。),並びに,甲2文
献には,クレームに記載された範囲を逸脱しない範囲で,同等のものを採用したり
置き換えを行ってもよいことが記載されていること(6欄25行~29行)に照ら
すと,ピストンロッドの作動速度を制御するべく,甲2発明のクランプシリンダの
シリンダ本体の内部に,周知の流量調整弁を取り付ける動機付けがある。
また,甲3文献記載の流量調整弁であるユニット6の機能と上記周知の流量調整
弁の機能の共通性に鑑みると,本件出願日当時,当業者において,甲2発明に上記
周知技術及び甲3文献に記載された技術的事項を適用して,相違点3に係る構成は
容易に想到することができた。
そして,甲24,25,甲39(USP3202060),甲40(特開平6-2
49214号公報),甲41(USP3122063)及び甲42(実開昭53-7
1198号公報)に記載されているように,クランプ装置の中核部分としての流体
圧シリンダに弁ケースを介して流量調整弁を設けることは当業者の周知・慣用技術
であり,そのような構成を採用し得ることは当業者に自明な事柄にすぎない。
以上より,相違点3に係る構造のように,弁孔,弁部材,弁ケース,第1及び第
2シール部材,ロックナット,弁部材を相対移動させる為の操作部を備えた構造の
ものは,例えば,甲18,23~25,37,39~42,45~49に示されて
いるように従来周知の事項である。
イ本件発明においては,流量調整弁の配置を,「側面から操作する構造」に
限定する構成はない。
流量調整弁と第2油路との配置構成は,相違点2で容易想到であるとされたもの
である。流量調整弁を第2油路と同じ向きに配置することは,多数の公知文献に記
載されており(甲3,20,21,23,25,37,39~42),周知技術であ
った。
「クランプ装置」とは,「油圧シリンダ」により進退駆動される出力ロッドに,ワ
ーク等を固定する「クランプ部材」を取り付けたものにすぎない。本件発明は,「油
圧シリンダに給排する作動油の流量を調整可能なもの」に関するものであり,油圧
シリンダにおける「流量調整」に関する周知技術を適用することを阻害する事情は
ない。
(2)無効理由1の相違点2について
無効理由1の相違点2のうち,無効理由2の相違点3に係る構成と同様の構成に
ついては,上記(1)と同様である。
第4被告の主張
1取消事由1について
(1)「隙間」とは,「物と物との間の少しあいているところ」(広辞苑)を意味
するものであるところ,「前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側
において前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間」と,「前記弁ケースの
前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間」に隙間が形成され
ていることは,本件明細書の記載から明らかである。二つの隙間に便宜上「第1隙
間」,「第2隙間」と名付けることは適宜なし得ることにすぎない。また,「バイパス
流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同
一面内に位置できるように配置される」ことも,本件明細書の図6等に明示されて
いるとおりである。
(2)「前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において前記弁
部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され,前記弁ケース
の前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成
され」ることにより,「第1シール部材」に対して油室側における「弁ケース」と「弁
体」との摺動面を長くして流量調整の調整代を大きくすることができる。また,本
件発明1においては,「第1隙間」及び「第2隙間」のみならず,「前記油圧シリン
ダの油室側の小径部と,前記フランジ部の側面側の基部とを有し,前記小径部が前
記フランジ部に形成された装着穴に内嵌状に螺合される弁ケースと,前記弁部材の
外周面と前記弁ケースの内周面との間をシールする第1シール部材と,前記弁ケー
スと前記装着穴との間をシールする第2シール部材とを備え,前記弁ケースの前記
基部に,前記弁部材の前記軸部が前記出力ロッドの長手方向と交差する方向に内嵌
状に螺合され,前記基部および前記軸部は前記フランジ部の側面から外側に露出し,
前記基部の基端にロックナットが装着され,前記弁部材における前記軸部の基端側
部分に,前記弁部材をクランプ本体に対して前記接近/離隔方向に相対移動させる
為の操作部に相当し,工具を係合させて前記軸部を回転させることが可能な穴が形
成され」ることも規定している。「弁ケース」の「基部」と「弁部材」の「軸部」を
「フランジ部」の側面から外側に露出させることにより,「弁部材」の相対移動量を
確保しながら,「装着穴」の深さを抑制することが可能となる。結果として,「クラ
ンプ本体」をコンパクトに形成できる。
このように,本件発明1の明示的な構成から,当業者であれば,本件明細書の【0
009】に記載の「作動油の流量を容易且つ確実に微調整可能に構成すること,流
量調整の為の構成を簡単化してその構成を含むクランプ本体をコンパクトにするこ
と,作動油の流量を調整するために操作される部材の操作性を向上させる」という
作用効果を認識することが可能である。
(3)審決は,「コンパクト化」のみを本件発明の作用効果として認定したもの
ではない。
原告が主張する上図のうち,左側のものが「コンパクト化」したものであること
は,原告も認めるところ,本件発明によると,他の制約がなければ上図の左側のよ
うな「コンパクト化」された構成を実現できる。
また,仮に,何らかの制約により上図の右側のような構造にする必要があるとし
ても,本件発明の構成によると,「第1油路」の「装着穴」への「開口」の位置とは
関係なく,「弁ケース」と「弁部材」又は「第1シール部材」との摺動面を長くして
流量調整の調整代を大きくすることができ,本件発明の構成を備えない場合と比較
して,装置全体を指向方向に小型化(コンパクト化)しつつ,作動油の流量を容易
かつ確実に調整できる。
2取消事由2について
(1)相違点5(5’)の認定について(取消事由2-1,2-3)
相違点5に係る構成は,クランプ本体のフランジ部に設けられる流量調整弁及び
その周辺の構造を規定するものである。原告が主張する相違点5-1及び5-2の
[甲28図6を清書したもの][甲28図6の油路40aを左側に移動させたもの]
第1油路40a第1油路40a
事項は,いずれも「バイパス流路」の「第1流路」の構成を含み,相違点5-1の
部分において「第1流路」の構造を詳細に規定した上で,相違点5-2の部分にお
いて「第1流路と第1隙間と第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置
できるように配置される」ことが規定されている。したがって,上記相違点5-1
及び相違点5-2の事項は相互に関連性がある。
よって,相違点5及び相違点5’の認定に関する原告の主張は成り立たない。
(2)相違点5(5’)の容易想到性の判断について(取消事由2-2,2-4)
ア前記(1)のとおり,相違点5を二つに分割して認定しなければならない理
由はない。
イ仮に,相違点5を「相違点5-1」と「相違点5-2」とに分けて認定
したとしても,「相違点5-1」及び「相違点5-2」の容易想到性の判断は便宜上
別々に行なわれるにすぎず,他の相違点に係る構成を考慮しながら行われるもので
あるから,一つの「相違点5」として認定された場合と判断が異なるものでもない。
ウ甲34文献は審判段階では提出されていなかったから,甲34文献によ
って認定される公知事実との対比は,当審での主張として許されるものではない。
甲34文献との対比を行うとしても,甲34文献は「弁部材」に設けられた「バ
イパス流路」を開示するものではなく,「バイパス流路の『第1流路』と,弁部材の
外周面と弁ケースの内周面との間に形成される『第1隙間』と,油圧シリンダの油
室側の先端と装着穴の内周面との間に形成される『第2隙間』とが,『第2油路』の
指向方向に直交する同一平面内に位置できる」ことが甲34文献に示されていると
いうことはできない。
仮に甲3文献の「流量調整弁」を甲2発明に適用する動機付けがあるとしても,
その際に甲34文献に基づき「弁ケース」,「第1隙間」及び「第2隙間」までも同
時に適用する動機付けがあるとは到底いえず,これを容易想到であると判断するこ
とはできない。甲3発明の目的は「一つのシリンダヘッドに一つのネジ付き孔を設
けてこれに逆止弁と絞り弁を一体化したものを組み込むことにより,部品の数とシ
リンダヘッドに於けるドリル加工を減少させる」ことにあり,甲3発明の「逆止弁
と絞り弁を一体化したもの」を適用する際に,甲34文献の「弁ケース」を同時に
適用することは,甲3発明において「逆止弁と絞り弁を一体化した」ことの目的に
反して部品点数を増やすことになり,このような適用には阻害要因がある。
(3)相違点3の容易想到性の判断について
ア本件発明1の「弁部材」は「弁体部と弁孔との間の隙間をバイパスする
バイパス流路」を有し,「弁ケース」は「小径部がクランプ本体のフランジ部に形成
された装着穴に内嵌状に螺合」され,「弁ケースの油圧シリンダの油室側の先端と装
着穴の内周面との間に第2隙間が形成される」構成について,甲18,23~25
には,本件発明の「弁部材」及び「弁ケース」に相当し得る構成は開示されていな
い。すなわち,甲18の「流量調整弁」は「吸排管を接続した接手体」に設けられ
るものであり,クランプ本体のフランジ部に設けられるものではない。甲18の「流
量調整弁」において,「固定ねじ6」は装着穴の内周面との間に隙間(第2隙間)が
形成されるものではない。したがって,甲18には本件発明1の「弁ケース」に相
当し得る構成は記載も示唆もされていない。甲23~25において「(弁部材に形成
される)バイパス流路」は示されていない。甲23は「ブロック状の継手主体」に
設けられるものであり,クランプ本体のフランジ部に設けられるものではない。甲
24,25においては「油圧シリンダ」が開示されているが,「弁ケース」がクラン
プ本体のフランジ部に設けられるものではない。また,甲23~25には,「第2隙
間」に相当し得る事項も全く示されていない。
よって,甲18,23~25には,本件発明の「弁部材」及び「弁ケース」に相
当し得る構成は記載も示唆もされていない。
本件発明1の相違点3に係る構成は,相違点5の構成の前提となる「弁部材」や
「弁ケース」を規定するものであり,その容易想到性を判断にするに当たっては,
相違点5に係る構成との関係やそれらの相乗効果も考慮すべきである。相違点5の
「前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方
向に直交する同一面内に位置できるように配置される」との構成は当業者が容易に
想到し得ないものであり,この前提としての相違点3に係る構成についても,相違
点5に係る構成と同様,容易想到でないというべきである。
イ従来のクランプ装置における「流量調整弁」は,油圧ポートを据付け面
に設ける場合,フランジ部の側面に設ける場合のいずれにおいても,操作性が良い
こと及び装着穴の加工性の観点から,上方から操作されるように設けることしか想
定されていない(甲2,11)。したがって,甲2発明を出発点として,フランジ部
の側面側から操作可能な流量調整弁を設けようとする動機付けはない。
また,甲3発明はクランプ装置に係るものではなく,「ベース上面に当接する据付
け面を有するフランジ部と,フランジ部から下方に延びベースに収容される部分と
をクランプ本体が有する」ものではない。したがって,甲3発明を参照しても,フ
ランジ部の側面側から操作可能な流量調整弁の構成を得る動機付けはない。
ウ甲3発明の「弁ユニット6」は,「ピストン棒8」の作動領域の全体にわ
たって作動するものではなく,「ピストン棒8」の行程端付近に限ってクッション作
用を生じさせるために作動するものである。これに対して,甲2発明の「弁58」
は,ピストンのストローク全域にわたって流量調整を行い,複数個所のクランプの
タイミングのばらつきを抑制するためのものであって,甲3発明の「弁ユニット6」
とは機能を異にするものである。したがって,甲2発明の「弁58」を甲3発明の
「弁ユニット6」に置き換えて本件発明を得ようとする動機付けはない。
3取消事由3について
(1)相違点2(2’)の認定について(取消事由3-1,3-3)
相違点2に係る構成は,クランプ本体のフランジ部に設けられる流量調整弁及び
その周辺の構造を規定するものであり,相互に関連性がない事項の集まりとはいえ
ない。
(2)相違点2(2’)の容易想到性の判断について(取消事由3-2,3-4)
ア取消理由2における相違点5と同様に,原告の主張は失当である。
イ相違点2には,無効理由2の相違点3に係る構成と同様の構成が含まれ
ているから,前記2(3)と同様の議論が当てはまる。
第5当裁判所の判断
1本件発明について
(1)本件明細書には,以下の記載がある(甲28)。なお,以下に引用する記
載は,本件訂正の前後を通じて変更されていない(甲30,33)。
【技術分野】【0001】本発明は,クランプ装置に関し,特に,出力ロッドを進
退駆動する油圧シリンダに給排する作動油の流量を調節可能なものに関する。
【背景技術】【0002】従来より,機械加工に供するワーク等のクランプ対象物
を固定するクランプ装置としては,種々の型式のものが提案され,あるいは実用化
されている。その中でも,クランプ本体と,このクランプ本体に進退可能に装着さ
れた出力ロッドを有し,クランプ本体内に配設された油圧シリンダにより出力ロッ
ドを進退駆動することにより,ワーク等のクランプ対象物をクランプし,また,そ
のクランプ状態を解除するように構成されたものがある。
【0003】ところで,サイズの大きなワーク等のクランプ対象物を固定する場
合には,前述のクランプ装置が複数個同時に使用されて,複数箇所でクランプ対象
物を固定するのが一般的である。しかし,このような場合に,例えば,複数のクラ
ンプ装置間で油圧シリンダへの作動油の供給速度(供給流量)が異なっていると,
夫々のクランプ装置によりクランプ対象物をクランプするタイミングにばらつきが
生じ,その間にクランプ対象物が外部からの衝撃等により所定の位置からずれたり
して,サイズの大きなクランプ対象物を確実にその所定の位置に固定できなくなる
虞がある。
【0004】そこで,作動油の供給流量あるいは排出流量を調整可能なクランプ
装置が提案されている。例えば,特許文献1に記載のクランプ装置は,出力ロッド
を所定角度回転させてこの出力ロッドの先端部に固定されたクランプアームを旋回
させてから,クランプアームでクランプ対象物をクランプする,いわゆる,スイン
グ式のクランプ装置であるが,クランプ本体にニードルバルブが上下方向に移動可
能に装着されており,このニードルバルブの先端部をクランプ本体内で水平に延び
る油路内に突入させることにより,油路を流れる作動油の流量を調整できる。
【0005】特許文献2に記載のクランプ装置においては,油圧供給用の油路及
び油圧排出用の油路に夫々流量調整弁が設けられており,各流量調整弁は,クラン
プ本体内の油路の途中部に形成された弁座と,この弁座に水平方向に対向して設け
られ弁座と協働して油路を開閉する弁体としての鋼球と,クランプ本体に螺着され
鋼球を下方へ押圧可能な調整スロットルとを備えている。前記調整スロットルを操
作して鋼球を所定量下方へ押し下げることにより,鋼球と弁座との間の隙間を調整
して,油路を流れる作動油の流量を調整できる。
【先行技術文献】【特許文献】【0006】
【特許文献1】米国特許第5695177号公報(第4-5頁,図3)
【特許文献2】特開2000-145724号公報(第5-6頁,図6-7)」
【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0007】前記特許文献1に記
載のクランプ装置においては,水平に延びる油路に対して垂直方向にニードルバル
ブを突入させるために,出力ロッドの近傍部にニードルバルブが上方から装着され
ている関係上,作動油の流量を調整する際にニードルバルブを操作しにくいという
欠点がある。
【0008】一方,特許文献2に記載のクランプ装置においては,弁体としての
鋼球を別部材の調整スロットルで下方へ押圧して,鋼球を弁座から水平方向に離隔
させて流量を調整するため,必然的に部品数が多くなって作動油の流量調整の為の
構成が複雑になるし,このような構成を含むクランプ本体のサイズをコンパクトに
することが困難な場合もある。また,鋼球を,弁座に接近/離隔する方向と交差す
る方向へ押圧して,鋼球と弁座との間の隙間を調整するように構成されているが,
このような構成では,鋼球を弁座側へ直接移動させる場合に比べて作動油の流量の
微調整が困難である。さらに,この調整スロットルは出力ロッドの近傍部に上方か
ら装着されるため,特許文献1のクランプ装置と同様に操作性の面で不利な場合が
ある。
【0009】本発明の目的は,作動油の流量を容易且つ確実に微調整可能に構成
すること,流量調整の為の構成を簡単化してその構成を含むクランプ本体をコンパ
クトにすること,作動油の流量を調整するために操作される部材の操作性を向上さ
せること,等である。
【発明の効果】【0011】本発明によれば,クランプ本体に対して相対移動可能
な弁部材を備え,弁体部と弁孔との隙間を調整することで流量を調節することがで
きるため,油圧の流量を容易且つ確実に調整できる。
【図1】【図2】
【実施例1】…【0015】図1,図2に示すように,クランプ装置1は,クラ
ンプ本体2と,このクランプ本体2に進退可能に装着された出力ロッド3と,この
出力ロッド3の先端部に連結されワークWにクランプ力を出力するクランプアーム
4と,出力ロッド3を退入側へ駆動するクランプ用の油圧シリンダ5と,出力ロッ
ド3を進出側へ駆動するクランプ解除用の油圧シリンダ6と,出力ロッド3の進退
動作の一部をクランプ本体2に対する回転動作に変換する変換機構7とを備えてい
る。そして,複数のクランプ装置1によりワークWを固定するように構成されてい
る。
【0016】まず,クランプ本体2について説明する。
クランプ本体2は,その上部に据付け用フランジ部2fを有し,この据付け用フ
ランジ部2fの外周部の下面には水平な据付け面2bが形成されている。クランプ
本体2は,据付け用フランジ部2fから下方へ延びる下半部がベース10の収容穴
に収容され,据付け面2bをベース10を上面に当接させた状態で,図示しない複
数のボルトによりベース10に固定されている。
【0017】クランプ本体2の内部には,出力ロッド3のロッド部3aが挿通さ
れるロッド挿通孔11と,2つのシリンダ穴12,13とが上から順に直列的に形
成されている。ロッド挿通孔11の上端付近部には,切削屑等の異物がクランプ本
体2内に侵入するのを防ぐダストシール14が装着されている。クランプ本体2の
下端部には,シリンダ穴13を下方から塞ぐキャップ部材15が装着されている。
図1~図3に示すように,クランプ本体2の内部には,油圧シリンダ5,6の油
室20,22に接続された油路40,41が設けられ,クランプ本体2の後端部に
は,図示外の油圧供給源から油路40,41に油圧を供給する油圧ポート21,2
3が設けられている。さらに,クランプ本体2には,これら油路40,41を流れ
る油圧の流量を夫々調節可能な後述の流量調整弁42,43が左右に並べて設けら
れている。
【図3】【図4】
【図5】
【0018】次に,出力ロッド3について説明する。
図1~図5に示すように,出力ロッド3は,上側2/3部分のロッド部3aと,
このロッド部3aの下端に連なりロッド部3aよりもやや大径の筒部3bと,筒部
3bの下端に連なる環状のピストン部3cとを一体形成したものである。ロッド部
3aはロッド挿通孔11に摺動自在に挿通されており,ロッド部3aとロッド挿通
孔11との間にはシール部材16が装着されている。ロッド部3aの上端部にはク
ランプアーム4が装着されナット17で固定されている。筒部3bは,シリンダ穴
12に摺動自在に内嵌され,一方,ピストン部3cは,シリンダ穴13に摺動自在
に内嵌されている。
【0019】クランプアーム4は,出力ロッド3の回転動作に連動して旋回し,
出力ロッド3の退入動作の際にワークWに当接してワークWをクランプする。図2
に示すように,クランプアーム4の先端部の下面部には,クランプ状態でワークW
に当接してワークWにクランプ力を出力する出力部4aが設けられている。
【0020】次に,油圧シリンダ5,6について説明する。
出力ロッド3を下方へ駆動するクランプ用の油圧シリンダ5は,シリンダ穴12,
13と,出力ロッド3のピストン部3cと,ピストン部3cの上側に形成された油
室20とを備えている。前記油室20は,クランプ本体2に形成された油路40及
び油圧ポート21に接続されており,図示外の油圧供給源から,据付け面2bに形
成された油圧ポート21,油路40を介して油室20に油圧が供給されると,油室
20に出力ロッド3を下方へ駆動するクランプ力が発生する。
【0021】一方,出力ロッド3を上方へ駆動するクランプ解除用の油圧シリン
ダ6は,シリンダ穴13と,出力ロッド3のピストン部3cと,筒部3bの内側及
びピストン部3cの下側に形成された油室22とを備えている。油室22は,クラ
ンプ本体2に形成された油路41及び据付け面2bに形成された油圧ポート23に
接続されており,図示外の油圧供給源から油圧ポート23,油路41を介して油室
22に油圧が供給されると,油室22に出力ロッド3を上方へ駆動するクランプ解
除力が発生する。
【0022】ところで,図1~図3に示すように,クランプ本体2内に設けられ
た油路40,41には,夫々油路40,41を流れる油圧の流量を調整可能な流量
調整弁42,43が設けられている。複数のクランプ装置1でワークWを固定する
場合に,複数のクランプ装置1の出力ロッド3の退入速度をほぼ等しくして,複数
のクランプ装置1によりほぼ同時にワークWをクランプすることができるように,
流量調整弁42,43により油圧シリンダ5,6に供給される作動油の流量を調整
するようになっている。
【0023】2つの流量調整弁42,43は夫々同じ構成を有するため,クラン
プ用の油圧シリンダ5の油圧系に設けられた流量調整弁42について以下説明する。
【図6】【図7】
【図8】【図9】
【0024】図6~図9に示すように,流量調整弁42は,クランプ本体2の据
付け用フランジ部2fの側壁部に横向き水平に形成された装着穴48(ネジ孔に相
当する)に螺着された筒状の弁ケース45と,油路40の途中部に形成され装着穴
48の前端に連なる弁孔46と,弁ケース45に前後方向(出力ロッド3の長手方
向と交差する方向)に移動可能に螺着された弁部材47とを備えている。
【0025】弁ケース45は,前側の小径部45aと後側の断面六角形状の基部
45bとを有し,小径部45aが装着穴48に内嵌状に螺合されるとともに,小径
部45aと基部45bとの間の段部がクランプ本体2の後面部に当接している。装
着穴48は油圧ポート21と第1油路40aにより接続され,一方,弁孔46は,
その穴径が装着穴48よりも小さく形成され,この弁孔46に油圧シリンダ5の油
室20に連なる第2油路40bが接続されている。
【0026】弁部材47は,先端部に形成された筒状の弁体部47aと,この弁
体部47aの基端に連なり弁体部47aよりもやや大径の軸部47bとを有する。
軸部47bの基端側部分の外周部にはネジ部が形成されており,軸部47bが弁ケ
ース45に内嵌状に螺合されて,弁部材47は,クランプ本体2に固定された弁ケ
ース45に対して前後に相対移動可能に装着されている。図6~図8に示すように,
軸部47bの基端側部分には,前方へ延びる六角穴47c(操作部に相当する)が
形成されており,この六角穴47cに六角レンチ等の工具を係合させて軸部47b
を回転させて,弁部材47を前後に移動させることができる。尚,基部45bの基
端には抜け止め用のロックナット49も装着されている。
【0027】弁体部47aは,弁孔46に前後摺動自在に挿入可能であり,弁体
部47aには,装着穴48と弁孔46との間の段部に係合してそれ以上の弁体部4
7aの前方への移動を係止する係止部50が形成されている。
【0028】図6,図7,図9に示すように,弁体部47aの外周部の上端部に
は,先端側ほど溝の深さが深い切欠状(正面視V字状)の溝部47dが形成されて
いる。弁体部47aが最も後側の位置にある全開状態(図6参照)と,弁体部47
aが最も前側の位置にある全閉状態(図7参照)の間で,弁体部47aを前後に移
動させると,弁体部47aと弁孔46との間の隙間が変化してその間を流れる作動
油の流量が調整される。さらに,弁体部47aの溝部47dにより,弁体部47a
と弁孔46との間の隙間,つまり,油圧の流路面積を細かく調節することができる
ため,その隙間を流れる作動油の流量の微調整を容易に行うことができる。
【0029】さらに,弁部材47には,前記の弁体部47aと弁孔46との隙間
をバイパスするバイパス流路51,52と,バイパス流路51を油室20に油圧を
供給する方向にのみ閉止する逆止弁53が設けられている。バイパス流路51は,
弁体部47aの内側に前後に延びるように形成され,バイパス通路52は,バイパ
ス通路51の基端から放射状に径方向外側へ延びるように形成されている。
【0030】逆止弁53は,バイパス流路51の基端部に形成された弁座55と,
この弁座55と協働してバイパス流路51を閉止する鋼球56と,この鋼球56を
前方へ付勢するコイルバネ57とを有する。軸部47bには,バイパス流路51,
52に連通して後方へ延びる鋼球収容孔58が形成されており,鋼球56は鋼球収
容孔58と弁座55とに亙って前後方向へ移動可能に構成されている。鋼球収容孔
58にはコイルバネ57も配設されており,鋼球56はコイルバネ57により弁座
55側へ付勢されている。
【0031】従って,油圧ポート21から油室20に油圧を供給する場合には,
鋼球56が弁座55に密着してバイパス流路51が閉止されているため,油圧は弁
体部47aと弁孔46との隙間のみを流れることになる。一方,油室20から油圧
を排出する場合には,図7の鎖線で示すように,油圧により鋼球56が後方へ押圧
されてバイパス流路51が開放されるため,前記隙間に加えてバイパス流路51,
52からも油圧が油圧ポート21へ流れることになる。
【0039】次に,クランプ装置1の作用について説明する。
ワークWをクランプする場合には,図1のクランプ解除状態から,図示外の油圧
供給源から油圧ポート21を介して油圧を供給する。その際,油圧は流量調整弁4
2を通って油路40を流れ油室20へ供給されることになる。このとき,流量調整
弁42において,バイパス流路51は逆止弁53により閉止されるため,油圧は弁
体部47aと弁孔46の間の隙間を流れることになる。ここで,弁部材47を前後
方向に移動させて前記隙間を適切に調整しておくことで,油路40を流れる油圧が
所定の流量に調整される。
【0040】油路40を介してクランプ用の油圧シリンダ5の油室20に油圧が
供給されると,油室20に発生したクランプ力により出力ロッド3のピストン部3
cが下方へ駆動される。このとき,変換機構7により出力ロッド3の進退動作の一
部がクランプ本体2に対する回転動作に変換され,出力ロッド3がクランプ本体2
に対して回転しつつ下方へ退入する。この出力ロッド3の回転動作に連動して,ク
ランプアーム4も平面視で時計回りの方向に90度旋回して,クランプアーム4の
出力部4aがワークWの上側に位置する。
【0041】クランプアーム4が所定位置まで旋回した後は,出力ロッド3が直
線的に退入し,図2に示すように,クランプアーム4の出力部4aがワークWに当
接して,出力部4aからクランプ力がワークWに出力されてワークWがクランプさ
れる。
【0042】ここで,複数のクランプ装置1によりワークWが固定されるが,各々
の油圧シリンダ5の油室20に供給される油圧を流量調整弁42により適切な流量
に調整することができるため,ワークWをクランプする際に,複数のクランプ装置
1において,ほぼ同時にクランプアーム4を旋回させ,続けて,同時に出力部4a
をワークWに当接させることができ,ワークWを所定の位置に確実にクランプでき
るようになる。
【0043】一方,図2のクランプ状態を解除する場合には,クランプ用の油圧
シリンダ5の油室20から油圧を排出するとともに,クランプ解除用の油圧シリン
ダ6の油室22に油圧を供給する。まず,クランプ用の油室20から排出される油
圧は,油路40及び流量調整弁42を介して油圧ポート21へ流れるが,流量調整
弁42において,第1油路40aの油圧により鋼球56が後方へ移動して逆止弁5
3がバイパス流路51を開放するため,油圧がバイパス流路51,52を通って迅
速に油圧ポート21へ排出される。
【0044】一方,クランプ解除用の油圧ポート23からは,油路41及び流量
調整弁43を介してクランプ解除用の油室22へ油圧が供給される。この場合は,
前述のクランプ時と同様に,流量調整弁43において,バイパス流路51は逆止弁
53により閉止されるため,油圧は弁体部47aと弁孔46の間の隙間を流れるこ
とになり,油路41を流れる油圧が所定の流量に調整される。
【0045】そして,油室22に発生したクランプ解除力によりピストン部3c
が上方へ駆動される。このとき,出力ロッド3が直線的に所定量進出した後,変換
機構7により出力ロッド3の進出動作の一部がクランプ本体2に対する回転動作に
変換され,出力ロッド3がクランプ本体2に対して回転しつつ上方へ進出する。こ
の出力ロッド3の回転動作に連動して,クランプアーム4も平面視で反時計回りの
方向に90度旋回して,図1に示すクランプ解除状態となる。
【0046】以上説明したクランプ装置1によれば,次のような効果が得られる。
1)流量調整弁42,43において,弁部材47を弁孔46に対して接近/離隔
する方向に移動させて,弁体部47aを弁孔46内に突入させることにより,弁体
部47aと弁孔46との間の隙間を調節して,油路40を流れる作動油の流量を調
整することができる。つまり,弁体部47aを有する弁部材47を直接弁孔46に
接近/離隔する方向に移動させることができ,作動油の流量を容易に且つ確実に調
整できるし,流量調整弁42,43の部品数を少なくしてその構成を簡単化するこ
とも可能である。
【0047】2)弁体部47aには,油圧を微調整するための切欠状の溝部47
dが設けられ,この溝部47dは先端側ほど溝の深さが深く形成されているため,
弁体部47aを弁孔46に挿入したときの弁体部47aの突入量を調整することで,
油路40を流れる作動油の流量を微調整することができる。
【0048】3)弁部材47の内部に,隙間をバイパスするバイパス流路51を
一方向にのみ閉止する逆止弁53が設けられているため,油圧シリンダ5,6に油
圧を供給する場合にはその流量を調整し,逆に油圧を排出する場合には,流量を調
整することなく迅速に油室20,22から排出するように構成できる。さらに,逆
止弁53を流量調整弁42,43とは別に設ける場合に比べてクランプ装置1をコ
ンパクトにすることができる。
【0049】次に,前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明す
る。但し,前記実施形態と同様の構成を有するものについては,同じ符号を付して
適宜その説明を省略する。
【図11】
【0052】3]図11に示すように,油圧を排出する場合の流量のみを調整す
る流量調整弁42Bに本発明を適用することもできる。この流量調整弁42Bにお
いては,弁部材81の内部に,油室20から油圧ポート21へ油圧を排出する方向
にのみバイパス流路51を閉止する逆止弁82が設けられている。
【0053】逆止弁82は,バイパス流路83のうちの放射状に延びるバイパス
流路84との接続部よりもやや前側の部分に形成された弁座85と,この弁座85
と協働してバイパス流路83を閉止する鋼球86と,この鋼球86を後方へ付勢す
るコイルバネ87とを有する。
【0054】従って,油圧ポート21から油室20に油圧を供給する場合には,
油圧により鋼球86が後方へ押圧されてバイパス流路83が開放されるため,油圧
は,弁体部81aと弁孔46との隙間に加えてバイパス流路83,84からも油室
20へ流れ,流量が調整されることなく迅速に油室20に流れ込む。一方,油室2
0から油圧を排出する場合には,鋼球86が弁座85に密着してバイパス流路83
が閉止されているため,油圧は弁体部81aと弁孔46との隙間のみを流れること
になり,油圧が所定の流量に調整される。
(2)本件発明の概要
前記(1)の記載によると,本件発明について以下のとおり認められる。
ア本件発明は,出力ロッドを進退駆動する油圧シリンダに給排する作動油
の流量を調整可能なクランプ装置に関する(【0001】)。
イ従来,機械加工に供するワーク等のクランプ対象物を固定するクランプ
装置には,クランプ本体とクランプ本体に進退可能に装着された出力ロッドとを有
し,クランプ本体内に配設された油圧シリンダで出力ロッドを進退駆動することに
より,クランプ対象物をクランプしたり,そのクランプ状態を解除したりするもの
がある(【0002】)。
クランプ対象物が大きい場合は,一般に,このようなクランプ装置を複数個同時
に使用し,複数個所でクランプ対象物を固定するが,これら複数のクランプ装置間
で油圧シリンダへの作動油の供給速度(供給流量)が異なると,それぞれのクラン
プ装置でクランプ対象物をクランプするタイミングにばらつきが生じ,その間にク
ランプ対象物が外部からの衝撃などによって所定の位置からずれてしまい,クラン
プ対象物を所定の位置に確実に固定できなくなるおそれがあるので,作動油の供給
流量又は排出流量を調整可能なクランプ装置が提案されている(【0003】,【00
04】)。
そのようなクランプ装置には,特許文献1(米国特許第5695177号明細書,
甲2)に記載されたクランプ装置のように,クランプ本体にニードルバルブを上下
方向に移動可能に装着し,ニードルバルブの先端部をクランプ本体内で水平に延び
る油路内に突入させて,油路を流れる作動油の流量を調整できるようにしたものが
ある(【0004】)。
また,特許文献2(特開2000-145724号公報,甲11)に記載された
クランプ装置のように,油圧供給用の油路及び油圧排出用の油路のそれぞれに流量
調整弁を設け,各流量調整弁はクランプ本体内の油路の途中部に形成された弁座と,
弁座に水平方向に対向して設けられ,弁座と協働して油路を開閉する弁体としての
鋼球と,クランプ本体に螺着され鋼球を下方へ押圧可能な調整スロットルとを備え
るものとし,調整スロットルを操作して鋼球を所定量下方へ押し下げることにより
鋼球と弁座との間の隙間を調整して,油路を流れる作動油の流量を調整できるよう
にしたものもある(【0005】)。
ウ特許文献1に記載されたクランプ装置は,水平に延びる油路に対して垂
直方向にニードルバルブを突入させるため,出力ロッドの近傍部にニードルバルブ
が上方から装着されるので,作動油の流量を調整するニードルバルブが操作しにく
いという欠点がある(【0007】)。
エ特許文献2に記載されたクランプ装置は,①弁体としての鋼球を別部材
の調整スロットルで下方に押圧して弁座から水平方向に離隔させて流量を調整する
ので,必然的に部品数が多くなって作動油の流量調整のための構成が複雑になり,
この複雑な構成を含むクランプ本体をコンパクトにすることが困難である,②鋼球
が弁座に対して移動する方向と交差する方向に鋼球を押圧して鋼球と弁座との間の
隙間を調整するので,鋼球を弁座側へ直接移動させる場合に比べて作動油の流量の
微調整が困難である,③調整スロットルが出力ロッドの近傍部に上方から装着され
るので,操作性の面で不利がある,といった問題がある(【0008】)。
オ本件発明は,①作動油の流量を容易かつ確実に微調整可能にすること,
②流量調整のための構成を簡単化して,その構成を含むクランプ本体をコンパクト
にすること,③作動油の流量を調整するための操作部材の操作性を向上させること,
などを目的とするものである(【0009】)。
カ本件発明は,前記オの目的を達成するために,本件訂正後の請求項1~
請求項3に記載された構成を備えるものであり,①弁体部を有する弁部材を直接弁
孔に接近したり弁孔から離隔したりする方向に移動させることができるので,作動
油の流量を容易にかつ確実に調整できるし,流量調整弁の部品数を減らして構成を
簡単にすることができる(【0011】,【0046】),②弁体部に切り欠き状の溝部
が設けられ,その溝は弁体部の先端側が深くなっているので,弁体部の弁孔への挿
入量を調整することで,油路を流れる作動油の流量を微調整することができる(【0
047】,【0052】~【0054】),③弁部材の内部に,隙間をバイパスするバ
イパス流路を一方向にのみ閉止する逆止弁が設けられているので,油圧シリンダに
油圧を供給(油圧シリンダから油圧を排出)する場合にはその流量を調整し,逆に
油圧シリンダから油圧を排出(油圧シリンダに油圧を供給)する場合には迅速に排
出(供給)することができる(【0048】),④弁部材の内部に,隙間をバイパスす
るバイパス流路を一方向にのみ閉止する逆止弁が設けられているので,逆止弁を流
量調整弁とは別に設ける場合に比べてクランプ装置をコンパクトにすることができ
る(【0048】),という効果を奏する。
2取消事由1(訂正要件違反)について
(1)「第1隙間」及び「第2隙間」について
本件明細書の図6を参照すると,弁部材47の弁体部47aの外周面と弁ケース
45の小径部45aの内周面との間に隙間があることが見て取れる。同様に,弁ケ
ース45の小径部45aの先端と装着穴48の内周面との間に隙間があることも見
て取れる。また,本件明細書の「油圧ポート21から油室20に油圧を供給する場
合には,鋼球56が弁座55に密着してバイパス流路51が閉止されているため,
油圧は弁体部47aと弁孔46との隙間のみを流れることになる。」(【0031】)
という記載は,油圧の流路としては弁体部47aと弁孔46との隙間だけではなく,
バイパス流路51もあることを前提として,そのバイパス流路51が閉止されてい
るため,油圧は弁体部47aと弁孔46との隙間のみを流れることをいうものであ
るから,この記載と図6とを照らし合わせると,第1油路40aからバイパス流路
52及びバイパス流路51を経て第2油路40bに至る油圧の流路が存在すること
が理解できる。そして,この流路が存在する以上,弁部材47の弁体部47aの外
周面と弁ケース45の小径部45aの内周面との間,及び弁ケース45の小径部4
5aの先端と装着穴48との間には隙間がなければならないことが理解できる。
そうすると,「前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油室側において
前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成され」という
記載における「第1隙間」及び「前記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端
と前記装着穴の内周面との間に第2隙間が形成され」という記載における「第2隙
間」は,本件明細書の記載から理解することができるものである。また,「前記バイ
パス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交す
る同一面内に位置できるように配置され」という記載は,本件明細書の図6に示さ
れた弁部材47の弁体部47aの外周面と弁ケース45の小径部45aの内周面と
の間の隙間,弁ケース45の小径部45aの先端と装着穴48の内周面との間の隙
間,及びバイパス流路51の位置関係に合致するものであって,同図から理解する
ことができる。
したがって,本件訂正によって追加された「前記第1シール部材に対して前記油
圧シリンダの油室側において前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に
第1隙間が形成され,前記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着
穴の内周面との間に第2隙間が形成され,」「前記バイパス流路の前記第1流路と前
記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるよう
に配置され」という記載は,本件明細書に記載された事項に基づくものであり,本
件訂正は,新たな技術的事項を導入するものではない。
(2)原告の主張について
ア原告は,「前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2
隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置され」という構
成では装置全体を指向方向に小型化(コンパクト化)するという作用効果を得るこ
とはできない,と主張する。
本件発明は,装置のコンパクト化を作用効果の一つとするものであるが,その意
味は,前記1(2)カのとおり,本件発明は,弁部材の内部に,隙間をバイパスするバ
イパス流路を一方向にのみ閉止する逆止弁が設けられているので,逆止弁を流量調
整弁とは別に設ける場合に比べてクランプ装置をコンパクトにすることができると
いうものであって,「前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2
隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置される」との構
成は,この装置をコンパクト化する上記構成と関連するものではあるが,「前記バ
イパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交
する同一面内に位置できるように配置される」との構成のみでコンパクト化が実現
されているものではない。
したがって,原告の主張は,失当である。
イ原告は,本件訂正後の特許請求の範囲には下図の右図のような構成も本
件発明の構成に含むことになるから,本件明細書の図6に開示されていない発明を
含むことになり,新たな技術的事項を導入したことになると主張する。
しかし,本件明細書の図6に「前記バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間
と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置できるように配置され
る」ものが記載されているから,右図のような構成が本件発明の構成に含まれるか
らといって,新たな技術的事項を導入したものということはできないし,そのこと
から直ちにコンパクト化が実現されていないということもできない。
したがって,原告の主張は,失当である。
3取消事由2(無効理由2に関する認定判断の誤り)について
(1)甲2発明の認定,本件発明1及び本件発明3との一致点・相違点
ア甲2文献には,以下の記載がある(訳文は,甲19による。)。
①「油圧クランプのクランプ作動を他の製造動作に適合させるために,その油圧
クランプのピストンがクランプ位置とリリース位置との間を移動される際に,上記
ピストンの作動速度を調節することが頻繁に望まれる。」(第1欄34行~37行)
[甲28図6を清書したもの][甲28図6の油路40aを左側に移動させたもの]
第1油路40a第1油路40a
②「特には,ある種の取付け及び取外しの操作を調節するため,1つ以上のクラ
ンプを他のクランプよりも早く又は遅くクランプ位置またはリリース位置へ移動さ
せるのが望ましいことがある。」(第1欄59行~62行)
③「上記の油圧クランプ16は,好ましくは,スイング式クランプであり,単動
または複動であってもよい。上記クランプ16は,互いに同一であり,図3に示さ
れたように,各クランプは,大まかにいえば,シリンダ本体18と,そのシリンダ
本体に伸縮自在に収納されたピストン20と,そのピストンの上端部に固定された
クランプヘッド22と,シリンダ本体に対して油圧流体を給排するために上記シリ
ンダ本体に形成された少なくとも1つの油圧ポート(翻訳注記:油圧流路)24と,
参照数字26で示された流量制御手段であって,シリンダ本体に対して給排される
油圧流体の流量を選択的に変化させる流量制御手段と,を含む。」(第3欄18行
~30行)
④「上記シリンダ本体18は,下側の長い中空シャンク部分28と,上側の拡大
されたフランジ部分30とを含む。長くて中空のピストン収納室32は,シャンク
部分28及びフランジ部分30の中心を通って形成されて,上記シリンダ本体18
の全長に延びる。」(第3欄33行~38行)
⑤「図2に示されたように,シャンク部分28の外周は,固定台14に形成され
た前記穴に螺合するようにネジが形成される。図1に示されたように,クランプ1
6の上記シャンク部分28は上記穴に螺合され,上記クランプ16のフランジ部分
30が上記固定台14の上面に概ね接触される。」(第3欄44行~49行)
⑥「前記の第1油圧ポート(翻訳注記:第1油圧流路)24は,前記フランジ部
分30の一方側内に水平方向へ延びて,ピストン収納室32の小径部分36に連通
する。そのポート24は,図2に示す油圧配管40によって油圧流体源(図示せず)
に連通され,ピストン収納室32の小径部分36に対して油圧流体を給排させる。
その油圧流体がポンプによって第1油圧ポート24を介してピストン収納室32の
小径部分36へ供給されると,前記ピストン20が伸長リリース位置から後退クラ
ンプ位置へ移動される。
図示の複動式の油圧クランプは第2油圧ポート(翻訳注記:第2油圧流路,参照
数字なし)を含み,その第2油圧ポートは,図2に示すように,油圧配管42によ
って前記第1油圧ポート24と同じ油圧流体源に接続される。上記の第2油圧ポー
トは,前記フランジ部分30内に水平方向へ延びた後,下向きに方向転換してシャ
ンク部分28を通り,ピストン収納室32の大径部分34に連通する。その第2油
圧ポートは,ピストン収納室32の大径部分34に対して油圧流体を給排させる。
その油圧流体がポンプによって第2油圧ポートを介してピストン収納室32の大径
部分34へ供給されると,前記ピストン20が後退クランプ位置から伸長リリース
位置へ移動される。」(第3欄56行~第4欄15行)
⑦「前記ピストン20は,シリンダ本体18に対して,図1の後退クランプ位置
と図3の伸長リリース位置との間で移動されるように,そのシリンダ本体18のピ
ストン収納室32に伸縮可能に収納される。図3に示されたように,ピストン20
は,下側の比較的に大径の部分46と上側の比較的に小径の部分48とを含む。
ピストン20の上記の下側部分46は,ピストン収納室32の第1の大径部分3
4に収納される。そのピストン20の上記の上側部分48は,ピストン収納室32
の第2の小径部分36に収納され,シリンダ本体18の外側に上方へ延びる。ピス
トン20の上記の両部分46,48の断面は,好ましくは概ね円形である。
前記クランプヘッド22は,ピストン20の先端に取り付けられて,そのピスト
ン20の後退クランプ位置で前記の固定台14に前記ワークピース12を係合およ
びクランプする。」(第4欄26行~44行)
⑧「図3における流量制御手段26は,シリンダ本体18内に直接に形成されて,
クランピング位置とリリース位置とにピストン20が移動されるときの速度を選択
的に制御できるように,上記シリンダ本体に給排される油圧流体の流量を選択的に
変化させるために設けられる。好適な流量制御手段26は,弁孔52と,その弁孔
に移動可能に収納された流量制御弁54とを含む。
前記の弁孔52は,好ましくは,シリンダ本体18のフランジ部分30のうちの
容易にアクセス可能な上面を貫通するように形成されて,上記シリンダ本体内を下
方へ延び,前記の第1油圧ポート24または第2油圧ポートへ連通される。」(第
4欄48行~60行)
⑨「前記の流量制御弁54は,下側のニードル弁56と,上側の手動操作ノブ5
8と,連結ステム60とを含む。上記ニードル弁56は,弁孔52のテーパ部分5
5に収納され,上記ノブ58は,フランジ部分30の上面を通って上方へ延びる。
上記ステム60は,弁孔52の拡径部分53内に螺合される。そして,上記ノブ5
8が回転されたときに,弁孔52のテーパ部分55に対してニードル弁56が移動
される。これにより,上記ニードル弁56は,第1油圧ポート又は第2油圧ポート
に対して進退され,シリンダ本体18に対する油圧流体の給排流量が制御される。」
(第4欄66行~第5欄10行)
イ上記の甲2文献の記載によると,甲2文献には,前記第2,3(3)イの
甲2発明が記載されていると認められる。
ウ本件発明1と甲2発明を対比すると,前記第2,3(4)ア(ア)のとおり,一
致点及び相違点があることが認められる。
また,本件発明3と甲2発明を対比すると,前記第2,3(4)ウ(ア)のとおり,一致
点及び相違点があることが認められる。
(2)取消事由2-1(相違点5の認定の誤り)につき
原告は,上記(1)ウの相違点5は,相違点5-1と相違点5-2に分けて認定すべ
きであると主張する。
しかし,相違点5は,本件発明1における,①「バイパス流路」が存在すること,
②シリンダ穴に油圧を供給するときには「バイパス流路」を閉止し,シリンダ穴か
ら油圧を排出するときには「バイパス流路」を開放する逆止弁が存在すること,③
弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に形成される第1隙間と,弁ケース
の油圧シリンダの油室先端と装着穴の内周面との間に形成される第2隙間と,「バ
イパス流路」の第1流路とが「指向方向に直交する同一面内に位置できるように配
置される」ことなどについて,甲2発明との相違点を相違点5としたものであって,
相互に関連する事項を一つの相違点としており,相違点5-1と相違点5-2に分
けるべき理由はない。
したがって,取消事由2-1(相違点5の認定の誤り)に関する原告の主張を採
用することはできない。
(3)取消事由2-2(相違点5の判断の誤り)につき
ア甲3文献に記載された発明
(ア)甲3文献の記載
甲3文献には,以下の記載がある。
①「この考案はピストン行程の一端又は他端に於てピストンにクッション作用を
与えるため逆止弁と絞り弁を有するクッション装置付き流体圧シリンダに関するも
ので,特に逆止弁と絞り弁が一体化されたクッション装置に関するものである。」
(1欄24行~28行)
②「第1図および第2図,特に第2図を参照すると一体化された逆止弁および絞
り弁6は一つの孔の中に収容されている。その孔の外方開口部22はネジが切られ
ており,中間部23はその上端部24が内側へ向うテーパ状になっており,上部孔
25は全長にわたってテーパ状で弁座を形成しその上端はシリンダヘッド4内の室
10と連通する。側方に設けられた通路26は孔の中間部23とシリンダ体2およ
びシリンダヘッド4の右端に於てピストン3の左側とを連通する。」(3欄40行
~4欄4行)
③「一体化された逆止弁および絞り弁6は孔22,23および25に於て選択的
に軸方向に動き得るように組込まれており,一対の中空円筒状部材27および28
が互にはまり合った形でその内部に逆止弁室29を有する一つの絞り弁となってい
る下部部材27は外径にネジを有し孔22内で軸方向に移動でき,その上部は外径
が小さくなって孔23に滑合し,Oリング30で周縁をシールされている。上部部
材28は,フランジ31が下部部材27にあたるまで部材27にはまりこんでおり
その外径は孔23の直径よりも相当小さく,その間に後述するように流体の通路と
なる空所がある部材28の最上端部32は外周が孔25のテーパーに相当する角度
のテーパー状になっており,部材27が孔22内に一ぱいにネジ込まれた時,孔2
5のテーパー状弁座に着座する絞り弁となっている。孔33は部材28の軸心にあ
り,弁室29とピストン棒8の周囲の室10との間を孔25を通って連絡している。
孔33は室29の直径よりも小さくその両者のつなぎ目の部分で弁座を形成してい
る。球弁34はその直径が孔33よりも大きく室29よりも小さいので,弁室29
におかれてばね35により上に押しつけられ,孔33を密封している。ばね35は
球弁34と部材27の間に置かれている。一個又は数個の通路36が部材28の側
面に設けられ弁室29と孔23との間を連絡し,室10が圧力供給源に連通した時,
圧力流体は室10から孔33,球弁34,通路36から通路26を通りピストン面
に供給される。シリンダヘッド5にある一体化された逆止弁および絞り弁6は上述
のものと全く同じもので上述と同様の方法でシリンダヘッド5に組込まれる。」(4
欄5行~36行)
④「この装置を操作するには逆止弁および絞り弁ユニット6を孔22の中で部材
27の端面にある切込み37によりねじ調整する。即ちこの切込み37に適合する
工具を用いて弁32を弁座25に対して開閉することができる。この弁32が適当
な量だけ開いた位置に於て,ピストン3が左方へ運動するとクッションリング13
が行程終端近くで孔10にはまりこみ,シリンダ室から孔7を通る流体の排出通路
を閉じる。しかしながら流体は尚シリンダ室から通路26,部材28の周囲,開い
ている弁32,および孔25を通り室10へ流れこの時排出通路となっている給排
通路12から排出される。かくしてピストン3のクッション作用は絞り弁32の設
定開度に応じて所望の程度になし得る。ピストン3が戻り行程を行うため給排通路
12が供給通路として作用する時は圧力流体は室10,孔25,孔33に入り球弁
34を押し上げ,通路36および26を通ってピストン3に作用し右方へのピスト
ン運動を開始させる。」(4欄37行~5欄10行)
⑤第1図
⑥第2図
(イ)甲3文献に記載された発明の認定
甲3文献の「一体化された逆止弁および絞り弁6は孔22,23および25に於
て選択的に軸方向に動き得るように組込まれており,一対の中空円筒状部材27お
よび28が互にはまり合った形でその内部に逆止弁室29を有する一つの絞り弁と
なっている。」との記載(前記(ア)③)及び第2図(前記(ア)⑥)からは,中空円筒
状部材28が孔25の指向方向に相対移動可能に構成されていることが理解され
る。
そうすると,甲3文献の前記(ア)の記載によると,甲3文献には以下の発明(以下,
「甲3発明」という。)が記載されている。
「シリンダ体2に対して通路26との接続部に形成された孔25の指向方向に相
対移動可能な中空円筒状部材28及び前記中空円筒状部材28の基端に連なる前記
中空円筒状部材28よりも大径の中空円筒状部材27を有し,前記中空円筒状部材
28が前記孔25に挿入された全閉状態から前記中空円筒状部材28が前記孔25
から離間した全開状態に至るまで前記中空円筒状部材28を移動させて前記中空円
筒状部材28と前記孔25との間の隙間を調節可能な逆止弁及び絞り弁ユニット6
であって,
前記中空円筒状部材27の外周面と前記逆止弁及び絞り弁ユニット6が装着され
る孔22,23の内周面との間をシールするOリング30を有し,
前記中空円筒状部材27の端面に,前記逆止弁及び絞り弁ユニット6を操作する
ための切込み37が形成され,
前記中空円筒状部材28は,前記中空円筒状部材28と前記孔25との間の隙間
をバイパスする孔33及び通路36と,室10に圧力流体を排出するときには前記
孔33及び通路36を閉止し,前記室10から圧力流体を供給するときには前記孔
33及び通路36を開放する逆止弁とを有し,
前記孔33及び通路36は,前記中空円筒状部材28の内部に前記逆止弁及び絞
り弁ユニット6の一端から他端に向かう方向に延びる孔33と,前記孔33から外
周側に延びる通路36とを含み,
前記逆止弁は,前記孔33上に形成された弁座と,前記孔33内に移動可能に設
けられた球弁34と,前記球弁34を前記弁座側に付勢するばね35とを含み,
前記室10から圧力流体を供給するときには,供給される前記圧力流体により前
記球弁34が前記弁座と反対側に押圧されて前記孔33が開放される逆止弁及び絞
り弁ユニット6。」
イ甲2発明のクランプ装置に甲3発明を適用して,相違点3及び相違点5
の構成とすることの動機付けの有無
(ア)前記(1)ア認定のとおり,甲2文献には,クランプ装置において,ク
ランピング位置とリリース位置とにピストン20が移動される速度を選択的に制御
できるように,シリンダ本体18に給排される油圧流体の流量を選択的に変化させ
る流量制御手段26をシリンダ本体18内に設けることが記載されているが,その
流量制御手段26について,甲2文献には,次の記載がある。
「ノブ58は,時計回り又は反時計回りに工具を使用せずに手動で回転でき,ニ
ードル弁56を非閉鎖位置と閉鎖位置との間で無段階に移動させることができる。
上記のニードル弁56を非閉鎖位置に移動させたときには,そのニードル弁56が
第1油圧ポート又は第2油圧ポートから完全に取り外されて上記シリンダ本体に給
排される油の流量が比較的に大流量になる。これとは逆に,上記のニードル弁56
を閉鎖位置に移動させたときには,そのニードル弁56の少なくとも一部分が弁孔
52のテーパ部分を通って第1油圧ポート24又は第2油圧ポートに突入され,上
記シリンダ本体に給排される油圧流体の流量が比較的に小流量になる。」(第5欄
11行~24行)
(イ)上記(ア)で述べたところによると,甲2文献に記載されている流量制
御手段26は,「水平に延びる油路に対して垂直方向にニードルバルブを突入させ
るため,出力ロッドの近傍部にニードルバルブが上方から装着される」もの(本件明
細書【0007】)であって,甲3発明の逆止弁及び絞り弁ユニット6とは,その構
造が大きく異なるものである。しかも,甲2発明においては,流量制御手段26の
流量制御弁54は,フランジ部分30の上面を通って上方へ延びるノブ58を有し
ており(甲2文献の第4欄66行~5欄10行),上記ノブ58を時計回り又は反
時計回りに工具を使用せずに手動で回転できることを特徴としており,甲3発明の
逆止弁及び絞り弁ユニットにはそのような特徴はないから,甲3発明の逆止弁及び
絞り弁ユニット6と甲2文献の流量制御手段26の流量調整弁としての機能の共通
性に鑑みても,甲2発明の流量制御弁54に代えて甲3発明の逆止弁及び絞り弁ユ
ニット6を適用する動機付けがあるとは認められない。そうすると,甲2発明に甲
3発明を適用して,本件発明1の相違点3及び相違点5の構成とすることについて
動機付けがあるということはできない。そして,そのことは,本件発明1の構成の
一部を備える周知技術(甲18,23~25,34,37,39~42,45~49
など)があるとしても左右されるものではない。
したがって,本件発明1は,甲2発明に甲3に記載された事項及び周知技術を適
用して,当業者が容易に発明することができたとは認められない。
ウ甲1文献には,後記4(1)アの記載があり,また,甲4には,油圧回路に
用いられる流量制御弁が,甲5には,ネジ込み絞り弁セットが,甲6には,絞り機
構と逆止弁機構からなる流量調整器が,甲7には,高圧用のニードル弁が,それぞ
れ記載されているが,さらに,これらの記載を考慮しても,本件発明1について,
当業者が容易に発明することができたとは認められない。
エ原告は,甲2文献には,クレームに記載された範囲を逸脱しない限り同
等のものを採用したり置き換えを行ってもよいことが記載されていると主張する。
しかし,甲2文献から本件発明と対比すべき発明として認定できるのは,甲2発
明であって,甲2文献に原告が主張する上記記載があるからといって,他の構成の
発明を認定することはできないから,原告の上記主張は,前記ア~ウの判断を左右
するものではない。
オよって,本件発明1は,甲2発明に甲1,3~7に記載された事項及び
周知技術を適用して,当業者が容易に発明することができたとは認められないので,
審決の判断は,結論において誤りがない。
本件発明2は,本件発明1に,さらに,「前記クランプ本体は,水平な前記据付
け面を外部ベース部材に当接させて固定され,前記第1油路および前記第2油路は
前記フランジ部に形成された」という発明特定事項を付加したものであるから,甲
2発明に甲3~7に記載された事項及び周知技術を適用して,当業者が容易に発明
することができたとは認められない。したがって,審決の判断は,結論において誤
りがない。
(4)取消事由2-3(相違点5’の認定の誤り)について
原告は,上記(1)ウの相違点5’は,相違点5’-1と相違点5’-2に分けて認
定すべきであると主張する。
しかし,相違点5’は,油圧の供給及び排出に伴う逆止弁の開放及び閉止の関係
が相違点5と逆になったものであって,他の構成は相違点5と変わらないから,前
記(2)で述べたと同様の理由により,原告の主張を採用することはできない。
(5)取消事由2-4(相違点5’の判断の誤り)について
本件発明3は,油圧の供給及び排出に伴う逆止弁の開放及び閉止の関係が,本件
発明1と逆になったものであって,他の構成は本件発明1と変わらないから,前記
(3)で述べたと同様の理由により,甲2発明に甲3~7に記載された事項及び周知
技術を適用して,当業者が容易に発明することができたとは認められない。
したがって,審決の判断は,結論において誤りがない。
4取消事由3(無効理由1に関する認定判断の誤り)について
(1)甲1発明の認定,本件発明1及び本件発明3との一致点・相違点
ア甲1文献には,以下の記載がある。
【0002】【従来の技術】従来,一般的なワーク固定用のクランプシステムに
おいては,例えば,図12に示すように,ベース板200とこのベース板200に
取付けられた複数の油圧式クランプ装置210が設けられ,これらクランプ装置2
10によりベース板200に載置されたワークWaが固定解除可能に固定され,こ
の状態で,ワークWaに種々の機械加工等が施される。
【0003】クランプ装置210は,シリンダ本体211と,シリンダ本体21
1から上方へ延びるピストンロッド213とこのピストンロッド213の先端部分
に固定されたアーム214を有する出力部材212と,シリンダ本体211のロッ
ド側シリンダエンド壁を構成するとともにピストンロッド213を昇降移動可能に
ガイドするガイド部材215を有する。ガイド部材215に油圧配管216や油圧
ホースが接続され,この油圧配管216を介してシリンダ本体211に油圧供給装
置(図示略)から油圧が供給される。すると,ピストンロッド213が下降駆動さ
れ,アーム214がワークWaの被クランプ部をベース板200の受台202に押
圧してクランプする。
【0004】左側のクランプ装置210は,シリンダ本体211をベース板20
0に形成された取付穴201に内嵌させてボルト217で固定され,右側のクラン
プ装置210は,シリンダ本体211とベース板200との間にベースプレート2
18を介在させ,このベースプレート218とともにボルト219でベース板20
0に固定されている。つまり,種々の厚さのベースプレートを用いることにより,
ワークWaのサイズや形状で決まる被クランプ部をクランプする高さ位置をある高
さ範囲で調節可能である。
【図12】
【0009】図16,図17のクランプシステムでは,ベース板260の縁部付
近に沿って複数のクランプ装置250が並設されている。各クランプ装置250の
フランジ251の下端部に1対の油圧ポート252,253が形成され,ベース板
260の内部には,複数のクランプ装置250をクランプ動作させる為に,複数の
クランプ装置250の一方の油圧ポート252に接続されたクランプ側油路261
と,複数のクランプ装置250のクランプ状態を解除させる為に,複数のクランプ
装置250の他方の油圧ポート253に接続されたアンクランプ側油路265が形
成されている。
【図16】
【図17】
イ以上より,前記第2,3(3)ア(イ)のとおりの甲1発明を認定することが
できる。
ウ本件発明1と甲1発明とを対比すると,前記第2,3(5)ア(ア)のとおり,
一致点及び相違点があることが認められる。
また,本件発明3と甲1発明を対比すると,前記第2,3(5)ウ(ア)のとおり,一
致点及び相違点があることが認められる。
(2)取消事由3-1(相違点2の認定の誤り)について
原告は,審決が認定した相違点2は流量調整弁の構成という技術的事項と,第1
隙間及び第2隙間の関係という技術的事項とを包含しており,技術的に一体不可分
でないから,誤りである,と主張する。
しかし,本件発明1は流量調整弁を備えており,しかも,その流量調整弁の構成
を具体的に特定しているのに対し,甲1発明は流量調整弁それ自体を備えていない。
そして,本件発明1の流量調整弁の構成は,その全てが一体となり,互いに協働す
ることで,流量調整弁という技術的に意味のある構造物を形成し,かつそれを機能
させているのであるから,その全てを一つの相違点として把握したことに誤りがあ
るということはできない。
したがって,取消事由3-1(相違点2の認定の誤り)に関する原告の主張を採
用することはできない。
(3)取消事由3-2(相違点2の判断の誤り)について
ア前記3(1)アのとおり,甲2文献には,「図3における流量制御手段26
は,シリンダ本体18内に直接に形成されて,クランピング位置とリリース位置と
にピストン20が移動されるときの速度を選択的に制御できるように,上記シリン
ダ本体に給排される油圧流体の流量を選択的に変化させるために設けられる。」(第
4欄48行~53行)との記載があり,特開2000-145724号公報(甲1
1)には,「【0037】前提として,本実施の形態のシリンダ装置1の流体の流
量の制御の仕方は,図8に示すように,上記安全プレート30に矢印で図示されて
いるために,作業者は,上記表示に従って操作する。まず,一般に,研削盤のテー
ブル送りやフライス盤用オイルモータなどでは,メータイン側の制御を行う。この
ような装置の場合には,図1に示すように,安全プレート30の工具用の穴30a
からドライバ等の専用の工具で調整スロットル25のネジ頭25aを回すと,調整
スロットル25の開閉部材21,31に対する押圧状態を調節することにより,図
示しないポンプから吐出された液体(油)の流量を調節することができる。すなわ
ち,上記調整スロットル25により吸入側の鋼球24が押圧されると,上記フラン
ジ11の吸入側の流路13(第2の流路13b)が開けられるために,上記シリン
ダ本体の流路3aに対する流量が多くなり上記ピストンロッド2を早く押し出すこ
ととなる。」,「【0041】【発明の効果】本発明の請求項1記載のシリンダ装
置は,上記フランジに開閉部材と調整スロットルが内蔵されているので,従来の外
付けの流量制御弁のように,この流量制御弁を接続するための作業が一切不要で,
治具等の装置のスペースを広くとることが可能となり,ワーク品の大きさが制限さ
れるようなことがなくなる。したがって,従来の外付けの流量制御弁の接続作業の
際に生じる油の漏れ等の危険を防止することが可能となる。」との記載がある。こ
れらの記載に照らすと,ピストンロッドの作動速度を制御するべく,甲1発明のフ
ランジ251の内部に,何らかの流量調整弁を取り付ける動機付けがあるものと認
められる。そして,油圧を用いたクランプ装置において,油圧ポートから設けられ
る油路を油圧シリンダのシリンダ穴まで導通させることは,周知の事項であって,
フランジ251内に油圧ポート252,253から油路が設けられている甲1発明
に,上記の周知の事項を適用して,当該油路を油圧シリンダのシリンダ穴に至るよ
うに構成することは,当業者にとって格別困難なことではなく(相違点1),そのよ
うな構成とする際,油圧ポート252,253から上に向かって延びる油路と水平
方向にシリンダ穴に向かう油路とが接続する構造とすることは,当業者にとって自
明である。そうすると,甲3発明の逆止弁及び絞り弁ユニット6と上記周知の流量
調整弁の機能の共通性に鑑み,甲1発明において,前記油圧ポート252,253
から上に向かって延びる油路と水平方向にシリンダ穴に向かう油路とが接続する部
分に甲3発明の逆止弁及び絞り弁ユニット6を装着する動機付けはあるものと認め
られる。
しかし,相違点2のうち,「前記第1シール部材に対して前記油圧シリンダの油
室側において前記弁部材の外周面と前記弁ケースの内周面との間に第1隙間が形成
され,前記弁ケースの前記油圧シリンダの油室側の先端と前記装着穴の内周面との
間に第2隙間が形成され,前記第1油路,前記第2油路,および前記バイパス流路
は前記第1隙間および前記第2隙間に連通し,前記第1油路は前記油圧ポートから
前記装着穴に向かうにつれて前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記
第2隙間に面するように前記装着穴の内周面に開口し,前記バイパス流路の前記第
1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直交する同一面内に位置
できるように配置される」構造(以下,「本件構造」という。)については,油圧
等の流体圧シリンダに用いる流量調整弁の技術分野における周知技術であると認め
るに足りる証拠はなく,当業者がそのようにすることを検討するのが通常であると
もいえないから,甲1発明に甲3発明を適用して,本件発明1の相違点2の構成を
備えたものとすることはできない。そして,そのことは,本件発明1の構成の一部
を備える周知技術(甲18,23~25,34,37,39~42,45~49など)
があるとしても左右されるものではない。
したがって,本件発明1は,甲1発明に甲3に記載された事項及び周知技術を適
用して,当業者が容易に発明することができたとは認められない。
イ甲4には,油圧回路に用いられる流量制御弁が,甲5には,ネジ込み絞
り弁セットが,甲6には,絞り機構と逆止弁機構からなる流量調整器が,甲7には,
高圧用のニードル弁が,それぞれ記載されているが,さらに,これらの記載を考慮
しても,本件発明1について,当業者が容易に発明することができたとは認められ
ない。
ウ原告は,本件構造を細分化し,①「前記第1油路,前記第2油路,及び
前記バイパス流路は前記第1隙間及び前記第2隙間に連通し,」との構成は,当然の
構成である,②弁ケースを用いて「第1隙間」と「第2隙間」が生じた場合,これ
らを連通させるには,本件発明のように「弁ケース先端部と装着穴との間に隙間を
設けて連通させる」か,「弁ケースの環状の周壁の一部に連通孔を設ける」かしか選
択肢はなく,ケースと装着穴との間に隙間を設けて連通させる構成は,周知の構成
であり,設計事項にすぎない,③「前記第1油路は前記油圧ポートから前記装着穴
に向かうにつれて前記油室側に近づく斜め方向に延在するとともに前記第2隙間に
面するように前記装着穴の内周面に開口し,」との構成については,第2隙間は第1
油路に連通するのであるから,第1油路が第2隙間に面するように開口しているの
は当然であり,斜め方向に連通させるかどうかは,設計事項にすぎない,④「前記
バイパス流路の前記第1流路と前記第1隙間と前記第2隙間とが前記指向方向に直
交する同一面内に位置できるように配置される」の構成は,甲34文献に記載され
た弁ケースが,甲3文献に記載された事項の「逆止弁内蔵式の流量調整弁」ととも
に適用された場合,充足される,バイパス流路の第1流路・第1隙間・第2隙間の
位置関係からは,本件発明の作用効果を奏することはないし,その他の予期しない
効果を奏するものでもないから,設計事項にすぎない,と主張する。
しかし,本件発明1は,これらの構成が一体となって前記1(2)カのとおりの効果
を奏する発明を構築しているといえるから,本件構造に至ることが,容易であると
いうことはできない。
エよって,本件発明1は,甲1発明に甲3~7に記載された事項及び周知
技術を適用して,当業者が容易に発明することができたとは認められないので,審
決の判断は,結論において誤りがない。
本件発明2は,本件発明1に,さらに,「前記クランプ本体は,水平な前記据付
け面を外部ベース部材に当接させて固定され,前記第1油路および前記第2油路は
前記フランジ部に形成された」という発明特定事項を付加したものであるから,甲
1発明に甲3~7に記載された事項及び周知技術を適用して,当業者が容易に発明
することができたとは認められない。したがって,審決の判断は,結論において誤
りがない。
(4)取消事由3-3(相違点2’の認定の誤り)について
原告は,審決が認定した相違点2’は流量調整弁の構成という技術的事項と,第
1隙間及び第2隙間の関係という技術的事項とを包含しており,技術的に一体不可
分でないから,誤りである,と主張する。
しかし,相違点2’は,油圧の供給及び排出に伴う逆止弁の開放及び閉止の関係
が相違点2と逆になったものであって,他の構成は相違点2と変わらないから,前
記(2)で述べたと同様の理由により,原告の主張を採用することはできない。
(5)取消事由3-4(相違点2’の判断の誤り)について
本件発明3は,油圧の供給及び排出に伴う逆止弁の開放及び閉止の関係が,本件
発明1と逆になったものであって,他の構成は本件発明1と変わらないから,前記
(3)で述べたと同様の理由により,甲1発明に甲3~7に記載された事項及び周知
技術を適用して,当業者が容易に発明することができたとは認められない。
したがって,審決の判断は,結論において誤りがない。
第6結論
以上のとおり,審決には,結論において誤りがないから,原告の請求を棄却する
こととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
永田早苗
裁判官
古庄研

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