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平成14年(ワ)第13321号 不当利得返還請求事件
口頭弁論終結日 平成14年7月19日
              判       決
原      告    X
訴訟代理人弁護士濱 岡   計
補佐人弁理士  石 川 泰 男
同       塩 島 利 之
被      告    日本電信電話株式会社
訴訟代理人弁護士     本 間   崇
              主       文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
(原告)
 被告は,原告に対し,金1億2500万円及びこれに対する平成14年6月
25日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
(被告)
1 主位的答弁
  主文同旨
2 予備的答弁
  請求棄却
第2事案の概要
原告は,原告が実用新案権の持分を有しており,テレホンカードを製造販売
した被告の行為は,同実用新案権を使用した不当利得行為に該当すると主張して,
被告に対し不当利得金の返還を求めた。
本訴は,実用新案権の仮保護の権利に基づく請求であり,平成8年2月21
日(出願公告日)から平成11年9月5日(存続期間満了日)までに発生した不当
利得金66億円余の一部である1億2500万円の返還請求であって,原告は,本
訴請求は,後記記載の前訴請求の残部請求であると主張している。
1 前提となる事実(当事者間に争いはない。)
(1) 原告の有していた実用新案権
 原告がその持分(3分の1)を有していたと主張する実用新案権(以下
「本件実用新案権」といい,その考案を「本件考案」という。)は,次のとおりで
ある。
ア 考案の名称   テレホンカード
イ 出願日     昭和59年9月5日
(分割の表示   実願昭59-134611の分割)
ウ出願公告日平成8年2月21日
エ 登録日  平成12年3月17日
オ 登録番号   第2150603号
カ 実用新案登録請求の範囲
 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおい
て,このカード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形部からな
る指示部を設けてなり,該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向
にくぼんでいると共にカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれ
てカード本体に配置されており,且つ,該指示部は目の不自由な者がカード本体を
電話機に差し込む際,目の不自由な者の指がふれる位置に配置されていることを特
徴とするテレホンカード。
(2) 被告の行為
被告は,目の不自由な者でも電話機へ差し込む方向が確認できる凹み(切
欠部)を設けたテレホンカード(以下「被告テレホンカード」という。)を製造,
販売している。
被告テレホンカードには,カードの表裏及び差込み方向の確認をすること
ができる切欠部が存する。
(3)関連請求の内容
ア 第1次訴訟(以下「前訴」という。)
原告及びOは,被告に対して,本件実用新案権及びその親出願の実用新案
権に基づく不当利得返還請求訴訟(平成11年(ワ)24280号)を提起した。平
成12年7月26日,当裁判所は原告らの請求を棄却し,平成13年4月17日,
東京高等裁判所は控訴を棄却し(平成12年(ネ)第4209号),平成13年10
月16日,最高裁判所は上告棄却及び受理しないとの決定をした(平成13年(オ)
第1182号,同年(受)第1161号)。(裁判所に顕著な事実)。前訴におい
て,原告らは,各実用新案権の出願日である昭和59年9月5日から10年間分の
不当利得金合計570億円のうちの一部である125億円の支払を求めた。
イ 第2次訴訟
 原告は,被告に対して,本件実用新案権の親出願に係る実用新案権に基
づく不当利得返還請求訴訟(平成13年(ワ)27511号)を提起した。平成14
年2月18日,当裁判所は原告の請求を棄却し,同判決は確定した(裁判所に顕著
な事実)。第2次訴訟において,原告は,上記実用新案権の出願日である昭和59
年9月5日から10年間分の不当利得金合計570億円のうちの一部である1億2
500万円の支払を求めた。
2争点
(1) 本訴請求は,金銭債権の明示的一部請求に対する請求棄却判決が確定した
後の残部請求として,不適法なものか(本案前の抗弁)。
(被告の主張)
 金銭債権の明示的一部請求を棄却する旨の判決が確定した後に,敗訴当事
者が残部について請求することは,信義則違反ないし権利濫用の法理により不適法
と解すべきである。本件について見てみると,①本訴請求は,本件実用新案権に基
づく不当利得返還請求であって,同一の実用新案権に基づく数量的可分な金銭債権
である不当利得返還請求について棄却された前訴の残部請求であること,②本訴請
求は,前訴において審理判断され,排斥された,本件実用新案権の侵害の有無とい
う争点について,再度の審理を求める蒸し返しの訴訟であること等の経緯に照らす
ならば,本訴請求は,信義則違反ないし権利濫用に当たると解すべきである。した
がって,本件の訴えは不適法であって却下されるべきである。
(原告の反論)
前訴における原告の主張は,被告テレホンカードの短辺に形成された切欠
部は,カードの端縁からカード本体の内方に凹んだ押形部であるということを根拠
とするものである。
 他方,本訴における原告の主張は,「押形部はテレホンカードの機能に影
響を与えない任意の一に形成できる」との明細書の記載を根拠にして,「押形部」
とは,カード本体の厚み方向に押圧したものであることを認め,この「押圧部」が
カード短辺の外周縁に形成する底のある凹みであり,この「凹み」と「切り欠き」
とは,作用効果が実質上同一であることを根拠とするものである。
このように,原告が本件実用新案権の侵害であると主張する理由が前訴と
本訴とで異なる以上,本訴請求が,数量的一部請求を全部棄却する旨の判決が確定
した後の残部請求に該当しても,不適法なものとはいえない。
(2) 被告テレホンカードは本件考案の技術的範囲に属するか(請求原因)。
(原告の主張)
 被告テレホンカードは,本件考案の技術的範囲に属する。
 本件考案に係るテレホンカードは,主として目の不自由な者が指で触れる
ことにより,カードの裏表,差込み方向を認識できる「押形部からなる指示部」が
形成されているものである。実用新案登録請求の範囲には,「押形部」は,カード
本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると記載されているが,本件明
細書には,「尚,かかる指示部2はカード本体1上に,テレホンカードの機能に影
響を与えない位置に設けられている。」と記載されていることから明らかなとお
り,本件明細書の実施例の形成位置に限定されず,外周縁上に押形部が形成されて
いてもよいと解すべきである。そして,「押形部」のくぼみ方向は厚み方向と捉え
るのが当業者からみて自然であることを考慮すると,カード本体の外周縁からカー
ド本体の内方向にくぼんでいる押形部は,本件明細書の実施例のものに加えて,外
周縁に平面形状が半円をなすように厚さ方向にくぼんでいるくぼみを包含すると解
すべきである。
 他方,被告テレホンカードにおける「切欠部」は,カード本体の裏表及び
差込み方向の検出という効果の観点から,本件考案における「押形部」と実質的な
差はなく,両者は技術的思想上実質的に同一であり,被告テレホンカードは本件考
案の技術的範囲に属する。
(被告の反論)
被告テレホンカードは,「切欠部」からなる指示部を有し,本件考案の
「押形部からなる指示部」を備えていないので,本件考案の技術的範囲に属しな
い。
 本件考案における「指示部」は「押形部」からなるものを意味するのに対
し,被告テレホンカード中の「指示部」に相当する部分は「切欠部」であるから,
両者は「指示部」の形状を異にする。本件考案における「押形部」の指示部は,カ
ード本体の表裏(厚さ)方向に貫通しておらず底面を有するくぼみなので,例えば
カード本体の表面にくぼみがあり,その裏面にはくぼみがないことから,手,指で
「指示部」にふれることによりカード本体の表裏が確認できる。他方,「切欠部」
及び「穴部」の指示部は,カード本体の表裏(厚さ)方向に貫通しているため,
手,指で「指示部」に触れることによってはカード本体の表裏も差込み方向も確認
できない。両者は,その有する機能が相違し,技術思想を異にする。
さらに,本件考案の親出願の出願当初明細書には,「指示部」の構成とし
て「切欠部」「穴部」及び「押形部」の3つの構成が図面とともに記載されていた
(乙1)が,その後,この中から「切欠部」及び「穴部」のものが親出願の出願人
により除外されて,出願公告に至り,同公告後,本件実用新案権に係る分割出願が
された。よって,「切欠部」を本件考案の構成要件である「押形部」に含まれるよ
うな原告の主張は,包袋禁反言の法理に照らしても許されない。
(3)不当利得の額はいくらか。
(原告の主張)
 被告は,被告テレホンカードを,本件実用新案権の出願公告日である平成
8年2月21日から存続期間満了日である平成11年9月5日までの約3年半の
間,年間2億枚の割合で製造,販売しており,その売上高は年間平均約1900億
円を超える。本件実用新案権の実施料相当額は,売上高の3パーセントが相当であ
るので,被告は少なくとも年間57億円を不当に利得しており,上記3年半分の不
当利得額は約200億円である。そして,本件実用新案権に係る原告の持分は3分
の1であるので,原告が請求し得る不当利得の額は約66億円となる。原告は,こ
のうち,内金として金1億2500万円の支払を求める。
(被告の反論)
原告の主張は争う。
第3 争点に対する判断
1争点(1)(本訴請求は,金銭債権の明示的一部請求を棄却する旨の判決が確定
した後の残部請求として,不適法なものか。)について
(1) 前訴の内容は,以下のとおりである。
 原告及びOは,被告に対して,本件実用新案権及びその親出願の実用新案権
に基づく不当利得返還請求訴訟(平成11年(ワ)24280号)を提起した。平成
12年7月26日,当裁判所は原告らの請求を棄却し,平成13年4月17日,東
京高等裁判所は控訴を棄却し(平成12年(ネ)第4209号),平成13年10月
16日,最高裁判所は上告棄却及び受理しないとの決定をした(平成13年(オ)第
1182号,同年(受)第1161号,以上は裁判所に顕著な事実)。前訴におい
て,原告らは,各実用新案権の出願日である昭和59年9月5日から10年間分の
不当利得金合計570億円のうちの125億円の支払を求めた(当事者間に争いは
ない)。
 これに対して,本訴の内容は,以下のとおりである。
本訴は,実用新案権の仮保護の権利に基づく請求であり,平成8年2月2
1日(出願公告日)から平成11年9月5日(存続期間満了日)までに発生した不
当利得金約66億円余の一部である1億2500万円の返還請求であって,原告
は,本訴請求は,後記記載の前訴請求の残部請求である旨主張している。
(2) ところで,「一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその
額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,
債権の特定の一部を請求するものではないから,このような請求の当否を判断する
ためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわ
ち,裁判所は,当該債権の全部について当事者の主張する発生,消滅の原因事実の
存否を判断し,債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除し
て口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁平成2年(オ)第1146
号同6年11月22日第3小法廷判決・民集48巻7号1355頁参照),現存額
が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し,現存額が請求額に満たないとき
は現存額の限度でこれを認容し,債権が全く現存しないときは右請求を棄却するの
であって,当事者双方の主張立証の範囲,程度も,通常は債権の全部が請求されて
いる場合と変わるところはない。
 数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,このように債権の全
部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないか又は一部
として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって,言
い換えれば,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほ
かならない。したがって,・・・判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起
することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであ
り,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の
合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上
の点に照らすと,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴え
を提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないと解するの
が相当である」(最高裁第2小法廷判決平成10年6月12日民集52巻4号11
47頁参照)。
(3) 本件について検討する。
 本訴は仮保護の権利に基づくものではあるが,仮保護の権利については特
許権又は実用新案権の権利侵害に関する規定が準用され(平成6年法律第116号
による改正前の特許法52条2項及び平成5年法律第26号による改正前の実用新
案法12条2項),その請求権の内容,性質は,算定方法が異なるものの,特許権
又は実用新案権に基づく不当利得請求権と実質的に同一であると解して差し支えな
いことに照らすと,本訴は,本件実用新案権に基づく不当利得金の一部請求をした
前訴に対して,訴訟の対象を同一とし,請求期間のみを別異にした残部請求と解す
べきである。
 前訴において,原告らの本件実用新案権に基づく不当利得返還請求権とし
ての数量的一部請求のすべてを棄却する旨の判決がされたことにより,本件実用新
案権に基づく不当利得返還請求権について,当該債権が全く現存しないと判断され
たものであるから,同判決が確定した後に原告が,実用新案権の仮保護の権利に基
づいて,前訴と異なる期間に発生した不当利得金の支払を求めて訴えを提起するこ
とは,実質的には前訴で認められなかった本件実用新案権に基づく不当利得返還請
求及び主張を蒸し返すものに他ならないというべきである。したがって,本訴は,
特段の事情がない限り,信義則に反して許されないものと解される。そして,特段
の事情とは,一部請求訴訟における審理の範囲が必ずしも債権全部に及ばなかった
ような事情がある場合をいうと解すべきところ,本件全証拠によるも,そのような
特段の事情を認めることはできない。
以上によれば,本訴は,数量的一部請求を全部棄却する旨の判決が確定し
た後の残部請求であり,信義則に反して許されず,不適法として却下されるべきで
ある。
2結論
よって,主文のとおり判決する。
     東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官  飯  村  敏  明
裁判官今  井  弘  晃
裁判官石村智は,転補のため,署名押印することができない。
 裁判長裁判官  飯  村  敏  明

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