弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の申立て
一 原告
1 療育手帳の交付処分に関するもの
(一)  主位的請求
 被告が原告に対してした療育手帳(埼玉県第○○○○○号、「平成一〇年一二月
七日交付」と記載のあるもの)の交付処分のうち、「総合判定C」とある部分を取
り消す。
(二)  予備的請求
 被告が原告に対してした療育手帳(埼玉県第○○○○○号、「平成一〇年一二月
七日交付」と記載のあるもの)の交付処分のうち、「総合判定C」とある部分は無
効であることを確認する。
2 裁決に関するもの
 被告が原告に対してした平成一一年五月一三日付け裁決(障福第五五七号)は無
効であることを確認する。
二 被告
1 本案前の申立て
 主文と同旨
2 本案の申立て
 原告の請求をいずれも棄却する。
第二 事案の概要
一 原告の被告に対する療育手帳の交付申請につき、被告が原告の知的障害の程度
を「C」(軽度)と判定した上で療育手帳を交付した。
 これに対し、原告側が右判定を不服として、被告に対する審査請求をしたとこ
ろ、被告は、右審査請求を却下する旨の裁決をした。
 そこで、原告が被告に対し、右判定「処分」に関し、主位的にその取消しを、予
備的にその無効確認を求め、かつ、右裁決の無効確認を求めたのが本件である。
 本件の争点としては、(一) 前記判定の処分性、(二) 前記判定処分取消の
訴えの出訴期間の遵守、(三) 原告を名宛人とする前記裁決の存否及び右裁決無
効確認訴訟の訴えの利益、(四) 前記判定処分及び裁決の各違法性の有無があ
る。
二 基本的事実関係(争いない事実及び証拠並びに弁論の全趣旨により容易に認め
られる事実)
1 原告は、その父母(法定代理人)であるa及びb夫婦の長男として、昭和五六
年○月○日に出生した者で、知的障害を有する。
2 被告は、埼玉県に居住する知的障害者に対して療育手帳を交付する権限を有す
る。
3 a及びbは、平成一〇年一一月五日、療育手帳交付事務を担当する埼玉県α市
役所障害福祉課(以下「担当課」という。)を経由して、被告に対し、原告に対す
る療育手帳の交付申請を行った。
4 右申請に基づき、同月一八日には埼玉県児童相談所心理判定員による調査が、
同月二〇日には担当医師による診察がされた。
5 担当課から平成一一年一月二〇日付けの書面
で原告(a)に対し、原告に対する療育手帳を交付するので、受領のため担当課に
出頭するようにとの通知がされ、右書面は、同月二一日に原告方に到達した。
6 bは、同年二月一日に担当課に出頭し、被告が発給した療育手帳(埼玉県第○
○○○○号、「平成一〇年一二月七日交付」と記載がある。以下「本件療育手帳」
という。)を受領した。
 本件療育手帳の「総合判定」欄には「C」と記載されていた。この判定C(以下
「本件判定」という。)は、知的障害の程度が軽度であることを意味する(重度の
場合はA、中度の場合はBの判定となる。)。
7 bは、同年三月一八日、被告に対し、本件療養手帳の本件判定に不服があると
して、「審査請求」(以下「本件審査請求」という。)をした。
8 被告は、同年五月一三日、bに対し、本件審査請求は不適法であるとして、こ
れを却下する旨の「裁決」をし(以下「本件裁決」という。)、本件裁決書は、間
もなく、bに到達した。
 なお、本件裁決書には、本件判定の根拠を説明する同日付担当課長名義の書簡が
添えられていた。
9 原告は、平成一二年四月二四日、当裁判所に本件訴えを提起した。
三 争点に関する当事者の主張
1 原告
(一) 本件判定の処分性について
 療育手帳における知的障害の程度に関する判定は、特別児童扶養手当、障害者年
金等の受給に実質的に関係し、原告の権利又は法的に保護されるべき利益に重大な
影響を及ぼすものであるから、これをC(軽度)とした本件判定は、行訴法上の処
分に当たるものというべきである。
(二) 本件判定取消の訴えの出訴期間の遵守について
  被告の主張は争う。
(三) 原告を名宛人とする本件裁決の存在について
 本件審査請求は、親権者であるbが原告の法定代理人として行ったものと評価す
べきであるから、本件裁決は、原告を名宛人とするものというべきである。
(四) 本件裁決の無効確認請求の訴えの利益について
 本件判定については、審査請求が可能というべきであるから、本件裁決の無効が
確認されれば、原告は、本件判定につき改めて審査請求を行うことによって、権利
ないし法的利益の回復が可能であるから、右訴えには、訴えの利益があるものとい
うべきである。
(五) 本件判定の違法性について
 知的障害者の障害の程度の判定は、社会生活への適応が極めて困難であるという
事情を十分に考慮してなされるべきところ、本件判定は、一般的な知能
テストによるIQのみに準拠してされており、療育手帳制度事務取扱要領に反する
もので、違法であることは明らかである。
(六) 本件裁決の違法性について
 本件裁決は、審査請求することができない処分に対する審査請求を受けて裁決を
行ったものであって違法であり、無効である。
2 被告
(一)本件判定の処分性について
 療育手帳制度は、法令によって定められたもの又は法令に根拠を置くものではな
く、被告の定めた「療育手帳制度要綱」に基づき知的障害者に対する一貫した指
導、相談を行うことを目的とした非権力的な役務提供行為であって、療育手帳にお
ける知的障害の程度の判定は,対象者が知的障害者であることの証明を事実上容易
にすることはあるものの、療育手帳の交付自体によって対象者に援助措置を受けら
れる権利ないし資格が生じるものではなく、したがって、知的障害の程度の判定を
含む療育手帳の交付は、対象者の権利義務又は法律上の地位に影響を及ぼすものと
はいえない。
 したがって、本件判定の取消しを求める原告の訴えは、行訴法上の処分に該当せ
ず、不適法というべきである。
(二) 本件判定取消の訴えの出訴期間の遵守について
 原告が本件判定を知った日は、原告の親権者であるbが療育手帳を受領した平成
一一年二月一日であるところ、本件判定取消に係る本件訴えは、右日時から三か月
以上経過した平成一二年四月二五日に提起された。本件判定について、審査請求は
できないから、行訴法一四条四項の適用はなく、そうすると、原告の本件判定取消
しの訴えは、同条一項の出訴期間を経過した後にされた不適法な訴えである。
(三) 原告を名宛人とする本件裁決の不存在について
 本件判定処分に対し本件審査請求をしたのは、原告の母親であるbであり、本件
裁決も、bに対してされたものであって、原告に対するものではない。
 そうすると、原告を名宛人とする被告の裁決は存在しないから、本件裁決の無効
確認を求める原告の訴えは、存在しない裁決の無効確認を求めるものであって、不
適法である。
(四) 本件裁決の無効確認請求の訴えの利益について
 本件判定については、もともと審査請求ができないのであるから、本件裁決の無
効が確認されたとしても、原告は改めて本件判定について審査請求をする余地はな
い。そうすると、本件裁決の無効確認によって、原告の権利ないし法的利益が回復
されることはないから、結局、本件裁決
の無効確認を求める原告の訴えは、訴えの利益を欠き、不適法である。
(五) 本件判定の違法性について
 本件判定は、IQのみに準拠してされているものではなく、日常生活能力及び社
会生活への適応能力をも知的障害の程度の判定基準として行われたものであって、
正当なものである。
(六) 本件裁決の違法性について
 被告は、実質的には本件判定に対する異議申立てに相当するものを、本件審査請
求として受理し、これに対する判断を本件裁決という形式で決定したものであっ
て、行政不服審査法の許容する適法なものというべきである。・第三 当裁判所の判
断・一 本件判定の処分性について・1 療育手帳制度とは、昭和四八年九月二七日
厚生省発児第一五六号厚生事務次官通知「療育手帳制度について」の別紙「療育手
帳制度要綱」(甲一二号証)及び同日児発第七二五号厚生省児童家庭局長通知「療
育手帳制度の実施について」(甲一三号証)によって、知的障害児(者)に対して
一貫した指導相談を行うとともに、これら者に対する各種援助措置(特別児童扶養
手当、心身障害者扶養共済、国税、地方税の諸控除及び減免税、公営住宅の優先入
居、NHK受信料の免除、旅客鉄道会社等の旅客運賃の割引等)(以下「本件援助
措置」という。)を受けやすくするために、右手帳を交付し、右の者の福祉の増進
を目的とするものであるところ、埼玉県は、右各通知を受け、右目的を達成するた
め、その頃、「療育手帳制度要綱」(乙一号証)及び「療育手帳(みどりの手帳)
制度事務取扱要領」(乙二号証)を定め、昭和四九年一月一日から実施している
((以下「本件要綱等」という。)。・2 そして、本件要綱等によると、埼玉県に
おける療育手帳(「みどりの手帳」と呼称される。)は、埼玉県に居住する知的障
害者又はその保護者の申請に基づき、埼玉県知事(被告)が、児童相談所又は知的
障害者更生相談所の判定結果に基づき、当該知的障害者の知的障害の程度に応じ
て、重度a、中度b及び軽度(C)に区分判定して交付するものとされている。
 しかしながら、本件要綱等は、文字通り埼玉県が定めた「要綱」等に過ぎず、
「法令」「条例」「規則」のいずれにも当たらないことは明らかであるから(本件
要綱が厚生事務次官通知を受けて定められたからといって,その性質は変わらな
い。)、これを法令等として、知的障害者又はその保護者に対し、何らかの権利な
いし法的利
益を付与する効力を認めることはできないものというべきであり、したがって、こ
れらに基づいて埼玉県知事が行う知的障害の程度の判定を伴う療育手帳の交付につ
いて、行訴法上の処分を観念するわけにはいかないのである。 
 証拠(甲一六号証、乙六号証)によると、療育手帳の交付を受けた者に対して
は、その判定の程度に応じて一定の本件援助措置を受ける便宜が図られていること
が認められるが、療育手帳の判定は、手帳所持者の知的障害の程度を事実上証明す
る手段として用いられるものであることが認められるにとどまり、その判定を受け
ること自体が本件援助措置の受給要件とされているものとは認めることができな
い。・3 以上によると、本件判定が行訴法上の処分に当たることを前提として、そ
の取消し又はその無効確認を求める原告の訴えは、その前提を欠き、いずれも不適
法というべきである。
 よって、その余の点につき判断を加えるまでもなく、右各訴えは、却下を免れな
い。
二 本件裁決無効確認の訴えの訴えの利益について
 前示のとおり、本件判定は、行訴法上の処分に該当せず、ひいては、行政不服審
査法所定の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するというこ
とはできないのであるから、これを同法による審査請求の対象とすることはできな
いものというべきである。
 そうすると、本件審査請求は、もともと同法に基づく不服申立てをすることので
きないものを対象とするものであって、明らかに不適法な申立てであり、補正の余
地もないものというべきであるから、原告は、前記の経緯でされた本件裁決を違法
として、その無効確認を求める法律上の利益を有しないものというべきである。す
なわち、仮に、本件裁決に瑕疵があったとして、これを判決によってその無効を確
認し、再度不服申立てについて審理させたとしても、その結果は、右不服申立てを
却下すること以外にはあり得ないからである。
 そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本件裁決の無効確認
を求める訴えは、法律上の利益を欠き、不適法であって、却下すべきものである。
三 結語
 よって、本件各訴えは、いずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき、行
訴法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
浦和地方裁判所第四民事部
裁判長裁判官 田中壯太
裁判官 都築民枝
裁判官蛭川明彦は、研修中のため、署名押印することができ
ない。
裁判長裁判官 田中壯太

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