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裁判例


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○ 主文
一 原判決主文第一、第二項を次のとおり変更する。
1 控訴人の被控訴人A及び被控訴人Bに対する本件各訴えのうち八街町中央公民
館の使用料免除による金六万二九〇〇円の各請求に関する部分並びに被控訴人C及
び被控訴人Dに対する本件各訴えをいずれも却下する。
2 控訴人の被控訴人A及び被控訴人Bに対する各請求のうち前項記載の各請求を
除くその余の各請求をいずれも棄却する。
二 控訴人が当審において拡張した各請求に関する本件各訴えをいずれも却下す
る。
三 訴訟費用は、第一、第二審を通じて、控訴人の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人の被控訴人Bに対する本件訴えのうち補助金の交付による金二〇〇万円
の請求に関する部分並びに被控訴人Dに対する本件訴えのうち補助金の交付による
金二〇〇万円の請求に関する部分及び八街町中央公民館の使用料免除による金六万
二九〇〇円の請求に関する部分をいずれも千葉地方裁判所に差し戻す。
3 被控訴人A及び被控訴人Cは、連帯して八街町に対し、金二八五万二四一六円
を支払え。
4 被控訴人Bは、八街町に対し、金八五万二四一六円を支払え。
5 被控訴人Dは、八街町に対し、金七八万九五一六円を支払え。
6 訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人らの負担とする。
(控訴人の被控訴人らに対する以上の各請求のうち香典、花輪代の支出による金四
万円及び減額すべき給与の支給による金五〇万円の各請求部分は、当審で追加され
た。)
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人の被控訴人C及び被控訴人Dに対する本件各訴えのうち控訴人が当審で
拡張した各請求に関する部分をいずれも却下する。
3 控訴人が当審で拡張した各請求をいずれも棄却する。
4 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 控訴人は、千葉県印旛郡<地名略>(以下、単に「町」ともいう。)の住民で
ある。また、昭和五九年当時、被控訴人Aは同町町長、被控訴人Cは同町助役、B
は同町収入役、
被控訴人Dは同町総務課長であった。
2 昭和五九年一一月三日、八街町の元町長Eが死去し、町では葬儀委員会が設置
され、同月一六日、八街町中央公民館において右葬儀委員会による町民葬が執り行
われた。また、同年一二月一〇日、元町長Fが死去し、その際にも町では葬儀委員
会が設置され、同月二四日、右公民館において右葬儀委員会による町民葬が執り行
われた。(以下、以上の二回の町民葬をあわせて「本件各町民葬」という。)
3 本件各町民葬に当たり、八街町は、各葬儀委員会に対し、補助金各一〇〇万円
を交付し(以下「本件補助金交付」という。)、香典各金一万円及び花輪代各金一
万円を支出し(以下「本件香典等の支出」という。)、町の職員をのべ一〇〇名
(E分として管理職二九名、一般職員一二名、F分として管理職二五名、一般職員
三四名)を勤務時間中及び勤務時間外に右各町民葬の準備、執行のために派遣した
(以下「本件職員派遣行為」という。)。そして、町は、右各町民葬のために派遣
された職員らの勤務時間中の給与はその間公務に従事しなかったものとしてこれを
減額すべきであり、また、勤務時間外の手当はこれを支給すべきでないにもかかわ
らず、右職員らに対し、減額すべき給与相当額合計金五〇万円(一名当たり一日金
五〇〇〇円)の給与を支給するとともに、時間外手当合計金二四万九六一六円を支
給した(以下、両者をあわせて「本件給与等の支給」という。)。さらに、町は、
右各葬儀のための公民館の使用料合計金六万二九〇〇円(E分金三万〇四〇〇円、
F分金三万二五〇〇円)を徴収しなかった(以下「本件公民館使用料免除」とい
う。そして、以上の各公費の支出、免除を全部をあわせて「本件支出行為等」とい
う。)。
4 しかしながら、本件支出行為等は、次のとおり違憲、違法である。
(一) 本件支出行為等の違憲性
(1) 前記各葬儀委員会は、町の条例上の根拠や町議会の議決なくして設けられ
た町の附属機関である。
すなわち、Eの葬儀における葬儀委員会は、町の特別会議室において、町長である
被控訴人Aが招集し、総務課長である被控訴人Dや議会事務局長らが職務上出席し
た会議において、被控訴人Aが委員長に就任し、事務局を町役場の総務課に設け、
また、
右葬儀委員会において本件補助金の額や町職員による仕事の分担を相談し、職員の
出向を求めたものであるから、右葬儀委員会は町の附属機関である。
また、Fの葬儀における葬儀委員会は、右Eの葬儀における葬儀委員会がそのまま
存続しているものとして、右と同様の構成で、右と同様のことを行った。
(2) ところで、人の死亡から埋葬に至るまでのすべての宗教儀式(通夜、密
葬、火葬、告別式、埋葬等)を総括したものが葬式であるから、葬式は宗教儀式で
あり、宗教行事である。
本件各町民葬は、このような葬式のうちの告別式に該当するものであるところ、E
及びFの各葬儀は、いずれもそれぞれの遺族の希望する仏教宗派の祭壇を設け、僧
侶が経文を唱え、焼香をし、法名を与えて成仏を祈り、会葬者が故人の冥福を祈っ
たものであって、宗教行事そのものであった。
(3) このような宗教行事を町の機関である葬儀委員会が執り行ったことは、国
及びその機関はいかなる宗教的活動をもしてはならないとした憲法二〇条、特定の
者に法の下の平等に反して特権を与えることを禁止した同法一四条及び公務員が特
定の一部の者に対し奉仕することを禁止した同法一五条にそれぞれ違反する。した
がって、右各葬儀のために町が行った本件支出行為等はいずれも違憲である。
(4) 本件補助金交付及び本件香典等の支出は、公金を宗教上の組織に支出する
ものであるから、憲法八九条に違反する。
(5) 本件職員派遣行為は、町の職員を宗教上の行事に参加することを強制した
ものであるから、憲法二〇条に違反する。また、町職員に町民葬に係る事務を担当
させたことは、公務員が一部の者の奉仕者となったことであるから、憲法一五条に
違反する。
(6) 本件公民館使用料免除は、公の財産を宗教上の団体の利用に供したもので
あるから、憲法八九条に違反する。
(二) 本件支出行為等の違法性
(1) 本件補助金交付について
ア 地方自治法二三二条の三は、普通地方公共団体の支出負担行為は、法令又は予
算の定めるところに従い、これをしなければならないと規定するところ、本件補助
金交付の決定は、八街町補助金交付規則に則した手続がなされていないから、同法
条に違反する。
イ 地方自治法二三二条の二は、普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合
においては、寄付又は補助をすることができると規定するところ、
本件補助金交付は、私人の葬式という私事に対する寄付又は補助であるから、公益
上必要がある場合には該当しないので、同法条に違反する。
ウ 葬儀委員会は、前記のとおり町の附属機関であり、町の附属機関の設置には町
議会の議決が必要であるところ、これを経ていない前記各葬儀委員会の設置は無効
であり、したがって、右各葬儀委員会に対する本件補助金交付も無効である。
(2) 本件香典等の支出について
本件香典等は、交際費、消耗品等には該当せず、また、香典等の支出に関する条例
は存在しないから、本件香典等の支出は、条例に基づかない支出であり、地方自治
法一四条に違反する。
(3) 本件給与等の支給について
本件各町民葬に係る事務処理は、地方自治法二条の範囲を逸脱した事務の処理であ
り、違法であるから、本件給与等の支給は違法である。また、勤務時間外における
町民葬への職員の派遣は、時間外勤務には該当しないから、本件時間外手当の支給
は違法である。
(4) 本件公民館使用料免除について
社会教育法二三条は、公民館は、特定の宗教を支持し、又は特定の教派、宗派もし
くは教団を支援してはならないと規定し、八街町公民館の設置及び管理に関する条
例八条は、社会教育法二三条に違反したときは、使用許可を取り消し、又は停止を
命ずることができると規定しているところ、本件公民館を本件各町民葬に使用させ
たことは、私人の宗教儀式である葬式、すなわち私的かつ特定の宗教を支持、支援
したものであるから、同法二三条、同条例八条に違反する。
また、本件公民館使用料免除は、八街町公民館使用料徴収条例に定める使用料の免
除基準に該当しないから、違法である。
5 (一)被控訴人Aは、町長として、本件補助金交付を決定し、本件香典等の支
出決定をなし、本件各町民葬に対し、職員の派遣を命して本件給与等を支給するこ
とを命令し、中央公民館長に対し、同公民館の使用及び使用料免除を命じたもので
あるから、それらの違憲、違法行為により、八街町に対し、補助金相当額金二〇〇
万円、香典及び花輪代合計金四万円、減額すべき給与相当額金五〇万円、時間外手
当相当額金二四万九六一六円、公民館使用料相当額金六万二九〇〇円の合計金二八
五万二五一六円の損害を与えた。
(二) 被控訴人Cは、町長の補助機関である町助役として、地方自治法一六七条
及び八街町役場事務決裁規程三条、四条に基づき同規程別表助役専決事項に掲げら
れた権限を有するものであるところ、その権限に基づき本件支出行為等を遂行さ
せ、その結果、八街町に対し、右(一)と同額の合計金二八五万二五一六円の損害
を与えた。
(三) 被控訴人Bは、町収入役として、被控訴人A等のなした前記各支出負担行
為についてそれが違憲、違法な支出命令であるか否かを確かめる義務があったにも
かかわらず、これを怠り、本件公民館使用料免除を除く本件支出行為等について違
法な支出をなし、また、本件支出行為等について被控訴人Aの命令遂行を補佐し、
その結果、八街町に対し、右(一)と同額の合計金二八五万二五一六円の損害を与
えた。
(四) 被控訴人Dは、町総務課長として、地方公務員法三〇ないし三三条、三五
条に違反して、葬儀委員会事務局を町役場の総務課に設け、部下職員に命じて補助
金交付申請書作成等補助金交付についての手続、本件香典等の支出手続、公民館使
用についての一切の手続及び葬儀の執行に係る総ての事務を被控訴人Aの命令に従
って指揮し、本件職員派遣行為及び本件給与等の支給を行い、その結果、八街町に
対し、右(一)と同額の合計金二八五万二五一六円の損害を与えた。
6 そこで、控訴人は、本件支出行為等(但し、香典及び花輪代の支出による合計
金四万円並びに減額すべき給与の支給による金五〇万円の各請求については、監査
請求をしていない。)につき、前記の違憲、違法理由があるとして、昭和六〇年一
〇月三一日付けで八街町監査委員に対し、地方自治法二四二条に基づく監査請求を
したが、同町監査委員は、同年一二月二七日付け書面をもって、控訴人に対し、右
監査請求に係る措置は必要がない旨の監査結果を通知した。
7 よって、控訴人は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、八街町に代
位して被控訴人らに対し、同人らが連帯して前記損害金のうち金二八五万二四一六
円を八街町に支払うことを求める(右各請求のうち、減額すべき給与相当額金五〇
万円及び香典、花輪代金四万円の合計金五四万円の各請求は、控訴人が当審でこれ
を追加した。)。
二 被控訴人らの本案前の主張
1 本件支出行為等の権限について
(一) 補助金の交付について
八 街町補助金交付規則四条一項は、補助金交付の決定権限を町長に与えている反
面、同規則、地方自治法その他の法規上、町の助役、収入役又は総務課長に対し補
助金交付の決定権限を与えた規定は存在しない。
(二) 職員の派遣及び時間外手当の支給について
八 街町役場事務決裁規程四条及び同規程別表各課共通課長専決事項4は、町の課
長の専決できる事項として、時間外勤務及び特殊勤務の命令に関することを挙げて
いるから、総務課長である被控訴人Dは、専決事項として職員の時間外勤務及び特
殊勤務を命ずることができた。そして、同規程二条二号によれば、専決とは、町長
がその責任において、その権限に属する特定の事務の処理について、補助機関に意
思決定させることをいうと規定しているから、課長の専決できる事項は、本来町長
の権限に属するものである。
(三) 公民館の使用料免除について
八 街町公民館の設置及び管理に関する条例七条は、公民館の使用の許可は教育長
が行うことを規定し、同条例一一条は、使用料については別に定めると規定してお
り、八街町教育委員会教育長の所掌事務の一部を八街町中央公民館長に委任する規
程二条一一号は、教育長は使用料の徴収の事務を館長に委任すると規定し、さら
に、八街町公民館使用料徴収条例五条は、八街町(町の各機関を含む。)、国又は
公共団体が公務上使用するときは使用料を免除することができ、それ以外にも、特
に町長が認めたときは、使用料を減免することができると規定している。したがっ
て、公民館の使用料の免除は、館長の権限であり、ただ免除決定をするには、町長
がこれを認める必要があるにすぎない。
2 被控訴人Aについて
本件公民館使用料免除は、館長の権限に属するから、町長であった被控訴人Aはそ
の権限を有しておらず、したがって、同被控訴人は地方自治法二四二条の二第一項
四号にいう「当該職員」には該当しないから、同被控訴人に対する本件訴えのうち
本件公民館使用料免除による請求に関する部分は不適法である。
3 被控訴人Cについて
被控訴人Cは、当時助役であったところ、八街町役場事務決裁規程五条によれば、
助役は、町長が不在のときはその事務を代決する権限を有し、さらに同規程四条に
よれば、同規程別表の助役専決事項についてもこれを専決する権限を有したが、控
訴人の主張する各行為時には、いずれも町長は不在でなかったから、助役には代決
する権限はなかったし、また、これらの行為は助役専決事項にも該当しない。した
がって、同被控訴人は右にいう「当該職員」には該当しないから、同被控訴人に対
する本件訴えは全部不適法である。
4 被控訴人Bについて
当時収入役であった被控訴人Bは、本件公民館使用料免除の権限を全く有しておら
ず、右にいう「当該職員」には該当しないから、同被控訴人に対する本件訴えのう
ち本件公民館使用料免除による請求に関する部分は不適法である。
5 被控訴人Dについて
被控訴人Dは、当時総務課長であったが、本件補助金交付及び本件公民館使用料免
除については、全く権限を有しておらず、また、職員の派遣及び時間外勤務を命ず
ることについては、これを専決する権限を有していたが、専決は、町長がその責任
において、その権限に属する特定の事務の処理につき、補助機関に意思決定させる
ことであり、したがって、同被控訴人が総務課長として職員の派遣等を命じたこと
は、町長の責任において町長の権限としてなしたものにすぎないから、同被控訴人
は右にいう「当該職員」には該当せず、同被控訴人に対する本件訴えは全部不適法
である。
6 監査請求を経由していないことについて
控訴人の各請求のうち、香典及び花輪代合計金四万円の支出並びに減額すべき給与
相当額金五〇万円の支給による各請求については、地方自治法二四二条に基づく監
査請求を経由しでいない。したがって、控訴人の被控訴人らに対する右香典及び花
輪代合計金四万円の支出及び右給与相当額金五〇万円の支給による各請求に関する
本件各訴えは、いずれも不適法である。
三 請求原因に対する被控訴人らの認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 請求原因2の事実は認める。
3 請求原因3のうち、本件各町民葬に派遣された職員の勤務時間中の給与合計金
五〇万円を減額すべきであり、勤務時間外の手当合計金二四万九六一六円を支給す
べきでないとの主張は否認し、その余の事実は認める。
4 請求原因4の冒頭の主張は争う。
(一) (1)請求原因4(一)(1)のうち、各葬儀委員会が町の附属機関であ
るとの主張は否認するが、その余の事実は認める。
(2) 請求原因4(一)(2)のうち、本件各町民葬が広義の葬式のうちの告別
式に該当するものであること、E及びFの各葬儀において、それぞれの遺族の希望
する仏教宗派の祭壇を設け、僧侶が経文を唱え、焼香をし、法名を与えて成仏を祈
り、会葬者が故人の冥福を祈ったことは認めるが、その余の主張は争う。
(3) 請求原因4(一)(3)の主張は争う。
町民葬の実施については、法令、条例上の根拠はないが、町の発展に数多くの業績
や功績を残した人に対し、それに報いるため各葬儀委員会が設置され、同委員会の
呼びかけで、町、各種団体、町民各層が合同で故人及びその遺族を慰めるために行
ったものである。それは、町のために功績のあった人が故人になったとき、町とし
てもその功績に応えるべきであるとの一般の認識に支えられて慣習化してきたもの
であって、町による宗教的活動としての認識は弱い。そして、町民葬は、特定の宗
教の儀式で行われ、宗教的な色彩を帯びる部分もあるが、これは遺族の選択による
ものであり、葬儀委員会自体は、宗教的儀式や僧侶等の援助を目的とするものでは
ない。
最高裁判所昭和五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻四号五三三頁によれば、
憲法の政教分離の原則は、国が宗教となんらかの関わり合いを持つことを全く許さ
ないものでなく、宗教との関わり合いをもたらす行為の目的及び効果に鑑み、その
関わり合いがわが国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保と
いう制度の根本的目的との関係で、相当とされる限度を超えるものと認められる場
合にこれを許さないとするものと解すべきであり、ある行為が宗教的活動に該当す
るか否かは、当該行為の主宰者、順序作法などの外形的側面のみにとらわれず、当
該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該
行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人
に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断す
べきものである。
本件の場合、Eは、八街町に合併前の川上村村長を勤めた後、八街町町長を三期一
二年勤め、町の生活環境、産業振興、福祉の増進、教育文化、スポーツの充実に尽
くし、昭和五八年に勲四等瑞宝章の栄誉を受けているものであり、また、Fは、八
街町町長を五期、県議会議員を二期勤め、水道事業、農業協同組合の体制整備等を
通じて、農業経営の発展に尽くし、昭和四七年に勲四等瑞宝章、昭和四八年に町の
名誉町民の栄誉を受けているものである。そして、このように、EもFも、町の発
展に尽くしたことから、葬儀委員会が設置され、これが主催者となって町民葬を執
り行うことになったのである。町民葬は仏式で行われたが、それは、遺族の希望に
よりその方式で行われたにすぎないから、町が葬儀委員会に補助金を出したり、町
民葬の設営、準備のために職員を派遣して、その職員に給与及び時間外手当を支給
したり、公民館の使用料を免除したりしても、一般人の宗教的評価からすれば、こ
れが憲法二〇条、八九条に違反するものではない。
(4) 請求原因4(一)(4)ないし(6)の主張はいずれも争う。
(二) 請求原因4(二)の主張はいずれも争う。
(1) 本件補助金交付について
地方自治法二三二条の二は、普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合にお
いては寄付又は補助をすることができることを想定し、これに基づき、八街町で
は、八街町補助金交付規則を定めているところ、本件補助金は、右法条及び右規則
に基づき交付されたものであり、かつ、本件補助金交付は、公益上必要がある場合
に該当するから、本件補助金交付は、適法である。
(2) 本件香典等の支出について
香典は町長交際費から、花輪は総務課の消耗品として、いずれも公職関係者弔慰金
等贈呈要綱に基づき、支出されたものであり、その支出は適法である。
(3) 町職員の派遣及び本件給与等の支給について
本件各町民葬への町職員の派遣は、八街町役場事務決裁規程四条及び同規程別表各
課共通課長専決事項4に基づき、総務課長であった被控訴人Dの命令によってなさ
れたものであり、適法である。したがって、右各町民葬へ派遣された職員に対する
給与等の支給も適法である。
(4) 本件公民館使用料免除について
八 街町公民館使用料徴収条例五条は、八街町(町の各機関を含む。)国又は公共
団体が公務上使用するときは使用料を免除することができ、それ以外にも、特に町
長が認めたときは、使用料を減免することができると規定しているところ、本件公
民館使用料免除は、この規定により、町長が使用料を免除することを認めたため、
これに基づいて館長が使用料を免除したものであり、所走の手続を経てなされたも
のであるから、適法である。
5 請氷原因5の主張はいずれも争う。
6 請求原因6の事実は認める。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
第一 被控訴人らに対する本件各訴えの適否について
一 監査請求前置の有無について
成立に争いのない甲第六号証の一、二によれば、控訴人は、昭和六〇年一〇月三一
日付けで町監査委員に対し、監査請求をなし、その中で本件各町民葬に当り、町が
各葬儀委員会に対し各金一〇〇万円の補助金を支出したこと、右各葬儀に町職員を
派遣してその手当を支給したこと及び右各葬儀の場所として中央公民館を無料で使
用させたことはいずれも違憲、違法であるとして、当該行為に関与した町長、助
役、収入役及び職員等が右各支出金を町へ返還し、中央公民館の使用料を町へ支払
う措置をとるよう請求したこと、町監査委員は、右請求について監査をした上、昭
和六〇年一二月二七日付けで控訴人に対し、右監査請求については措置をとる必要
がない旨の監査結果を通知したことを認めることができる。そうすると、本件各請
求のうち、当審で拡張された各請求を除くその余の各請求については、適法な監査
請求を経由しているものと認めることができる。
しかしながら、当審で拡張された各請求については、適法な監査請求を経由してい
るとは認められない。すなわち、控訴人は、当審で請求を拡張して、被控訴人らが
本件各町民葬に当り、香典及び花輪代合計金四万円を違法に支出するとともに、勤
務時間中であるにもかかわらず右町民葬の準備、執行のため派遣した町職員の給与
相当額合計金五〇万円を減額せず違法に支出したとして、これらの支出による損害
賠償の請求をも追加しているが、右追加請求に係る各支出行為についての監査請求
を経由していないことは、当事者間に争いがないとともに、前掲甲第六号証の一、
二によれば、前記の監査手続においても、右追加請求に係る各支出行為についての
監査はなされていないことが明らかである。そうすると、当審で拡張された右各請
求に関する本件訴えは、適法な監査請求を経由していない不適法な訴えであるとい
うべきである。
二 「当該職員」への該当性の有無について
1 本件各訴えは、いずれも地方自治法二四二条の二第一項四号所定の「当該職
員」に対する損害賠償の請求として提起されたものと解されるところ、右にいう
「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行
為を行う権限を法令上本来的に有する者又はこれらの権限を有する者から適法な委
任を受けるなどしてその権限を有するに至った者を指すと解するのが相当であるか
ら、被告とされている者がこのような権限を有する者に該当しない場合には、その
者に対する訴えは、法により特に出訴が認められる住民訴訟の類型に属しないもの
として、不適法な訴えであると解すべきである(最高裁判所昭和六二年四月一〇日
第二小法廷判決・民集四一巻三号二三九頁参照。)。また、被告とされている者が
抽象的には右のような権限を有する場合であっても、その者が、その権限に基づ
き、自ら又は補助職員を介して、当該訴訟においてその適否が問題とされている具
体的な財務会計上の行為を行った(権限の行使を怠る場合を含も。以下同じ。)と
認められないときには、その者は、当該財務会計上の行為については、右にいう
「当該職員」に該当しないものといわざるを得ないから、その者に対する訴えも、
右の場合と同様に、不適法な訴えであると解すべきである。
2 そこで、まず、被控訴人A及び同Bに対する本件各訴えの適否について判断す
るに、本件各町民葬が行われた当時、被控訴人Aが八街町町長であり、被控訴人B
が同町収入役であったことは、当事者間に争いがない。そして、後記第二の一で認
定の事実関係からすれば、本件補助金交付及び本件時間外手当の支給については、
右被控訴人らがそれぞれ町長又は収入役として財務会計上の権限を有し、かつ、そ
の支出行為に関与したことは明らかである。
しかしながら、本件公民館使用料免除については、右被控訴人らには財務会計上の
権限はなかったものと解すべきである。すなわち、成立に争いのない乙第二七号証
によって認められる八街町公民館の設置及び管理に関する条例七条によれば、公民
館の使用の許可は教育長が行うことを規定し、同条例一一条によれば、使用料につ
いては別に定めると規定しており、成立に争いのない乙第二八号証によって認めら
れる八街町教育委員会教育長の所掌事務の一部を八街町中央公民館長に委任する規
程二条一一号によれば、教育長は、使用料の徴収に関する事務を館長に委任すると
規定しており、さらに、原本の存在及び成立に争いのない乙第二六号証によって認
められる八街町公民館使用料徴収条例五条は、使用料の免除は、八街町(町の各機
関を含む。)、国又は公共団体が公務上使用するときにできるとし、それ以外に
も、特に町長が認めたときは、使用料を減免することができると規定している。そ
して、右各規定によれば、八街町の町長は、公民館の使用科の減免につきこれを認
めるかどうかの認定権限を有するが、財務会計上の行為である公民館の使用料免除
自体についての最終的決定権限は教育長または教育長から権限の委任を受けた館長
がこれを有しているといわざるを得ないから、本件公民館使用科免除については、
町長は財務会計上の権限を有していなかったものというほかない。また、右各規定
からすれば、収入役が右権限を有していなかったことも明らかである。
そうすると、被控訴人A及び同Bは、本件補助金交付及び本件時間外手当の支給に
よる損害賠償請求に関する本件訴えについては、いずれも地方自治法二四二条の二
第一項四号にいう「当該職員」に該当するが、本件公民館使用料免除による損害賠
償請求に関する本件訴えについては、右にいう「当該職員」に該当しないものとい
うべきであり、したがって、右被控訴人らに対する本件各訴えのうち、本件公民館
使用科免除に関する部分については、いずれも法により特に出訴が認められる住民
訴訟の類型に属しないものとして、不適法な訴えであると解すべきである。
3 次に、被控訴人Cに対する本件訴えの適否について判断するに、本件各町民葬
が行われた当時被控訴人Cが八街町の助役であったことは、当事者間に争いがな
い。
そして、地方自治法一五二条一項によれば、助役は、普通地方公共団体の長に事故
があるとき、又は長が欠けたときは、その職務を代理すると規定しており、また、
原本の存在及び成立に争いのない乙第二三号証によって認められる八街町役場事務
決裁規程五条は、町長が不在のときは、助役がその事務を代決すると定めている。
さらに、右規程二条、四条及び同別表は、専決とは、町長がその責任において、そ
の権限に属する特定の事務の処理について、補助機関に意思決定をさせることをい
うと定めたうえ、助役の専決事項として、手数料及び使用料の減免に関すること、
国・県負担金、補助金及び委託金の請求に関することなどを定めており、また、弁
論の全趣旨によって認められる八街町財務規則は、助役は、その専決事項として、
一定額以内の経費の流用、予備費の充当、支出負担行為の確認、支出命令をなし得
ることを定めるとともに、長が不在のときは、長の権限に属する事務について代決
し得ることを定めている。
しかしながら、被控訴人Cが、当時町の助役として有していた右各権限に基づき、
本件訴訟においてその適否が問題とされている本件支出行為等の財務会計上の行為
の全部又は一部を行ったとの事実、すなわち、同被控訴人が、町長の事故、不在等
に基づく町長の職務の代理ないし代決行為として、又は助役の専決事項の執行行為
として右財務会計上の行為の全部又は一部を行ったとの事実は、控訴人の請求原因
においてもこれを具体的に主張していないのみならず、本件の全証拠によってもこ
れを認めることができない。
そうすると、被控訴人Cは、本件支出行為等の財務会計上の行為については、地方
自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」には該当しないというべきであ
るから、同被控訴人に対する本件訴えは、いずれも法により特に出訴が認められる
住民訴訟の類型に属しないものとして、不適法な訴えであると解すべきである。
4 最後に、控訴人Dに対する本件訴えの適否について判断するに、本件各町民葬
が行われた当時被控訴人Dが八街町の総務課長であったことは、当事者間に争いが
ない。
しかしながら、本件の全証拠によっても、当時町の総務課長にすぎなかった被控訴
人Dが、本件訴訟においてその適否が問題とされている本件支出行為等の財務会計
上の行為の全部又は一部について、これを行う権限を法令上本来的に有していたこ
と、又はこれらの権限を有する者から適法な委任を受けるなどしてその権限を有し
ていたことを認めるに足りる証拠はない。
なお、前記の八街町役場事務決裁規程四条及び同別表によれば、町の総務課長は、
その専決事項として、時間外勤務及び特殊勤務の命令に関する権限を有していたこ
とが認められ、被控訴人Dによる本件職員派遣行為はその権限に基づいてなされた
ものと解すべきである。しかしながら、本件職員派遣行為自体は、地方自治法二三
二条の三所定の支出負担行為等の財務会計上の行為に当るとは解し得ない。
そうすると、被控訴人Dは、本件支出行為等の財務会計上の行為については、地方
自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」には該当しないというべきであ
るから、同被控訴人に対する本件訴えは、いずれも法により特に出訴が認められる
住民訴訟の類型に属しないものとして、不適法な訴えであると解すべきである。
第二 被控訴人A及び同Bに対する本件各請求の当否について
一 本件各町民葬及び本件支出行為等の経緯
1 請求原因1及び2の事実並びに本件各町民葬において、八街町が、葬儀委員会
に対し、それぞれ補助金各一〇〇万円を交付し、町の職員のべ一〇〇名(E分につ
いては管理職二九名、一般職員一二名、F分については管理職二五名、一般職員三
四名)を勤務時間中及び勤務時間外に本件各町民葬の準備、執行のために派遣し、
右職員らに対し、時間外手当合計金二四万九六一六円を支給したこと、Eの葬儀に
おける葬儀委員会は、町の特別会議室において、町長である被控訴人Aが招集し、
総務課長である被控訴人Dや町議会事務局長らが職務上出席した会議において、被
控訴人Aが委員長に就任し、事務局を町役場の総務課に設け、また、右葬儀委員会
において本件補助金の額や町職員による仕事の分担を相談し、職員の出向を求めた
こと、Fの葬儀における葬儀委員会は、右Eの葬儀における葬儀委員会がそのまま
存続しているものとして、右と同様の構成で、右と同様のことを行ったことは、当
事者間に争いがない。
2 そして、右争いのない事実に原本の存在及び成立に争いのない甲第一、第二号
証の各一、二、乙第一、第二号証、第四、第五号証、第九ないし第一二号証、第一
六号証、第一九ないし第二二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められ
る乙第一七、第一八号証の各一、二並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を
認めることができる。
(一) 昭和五九年一一月三日午前、元町長のEが死去した。そこで、同日午後、
町役場の特別会議室に町長の被控訴人A、助役の被控訴人C、収入役の被控訴人
B、町議会議長、同副議長、議長経験者三名、総務課長の被控訴人Dと町議会事務
局長が集まって協議した結果、Eの葬儀を町民葬で行うこと、葬儀の日時は一一月
一六日午後一時、場所は中央公民館とすること、その葬儀のために葬儀委員会を設
置し、構成員は、町長、助役、収入役、町教育長、町議会議長、同副議長、町教育
委員会委員長、町農業委員会会長、八街商工会議所会頭、町農業協同組合長、町区
長会長、町消防団長、町連合婦人会長、民生委員総務の一四名とすることを決め
た。そして、右葬儀委員会は、町役場の特別会議室で会議を開き、葬儀委員長に町
長の被控訴人A、副委員長に町議会議長と助役の被控訴人Cを選任し、町からは葬
儀委員会に補助金を出してもらい、これを委員会の予算として執行すること、葬儀
は遺族の希望に従い遺族が依頼した僧侶七名で行うこと、香典は遺族に全額を渡
し、香典返しは遺族で用意すること、葬儀社は遺族の希望する会社に依頼するこ
と、通知文、会葬礼状の発送は葬儀委員長、副委員長と喪主らの共同で行うことな
どを決めた。
(二) 右葬儀委員会は、委員長の被控訴人A名で一一月一二日町教育委員会教育
長に対し、町中央公民館の使用申請書を提出し、町中央公民館長は、同日、被控訴
人Aに対し、使用料を無料として公民館の使用を許可する旨を通知した。なお、公
民館の使用料は有料の場合には金二万八四〇〇円であった。
(三) 同月一六日、町中央公民館においてEの町民葬が執り行われたが、同葬儀
には、県内の国会議員、県知事(代理)、市町村長、遺族をはじめ約七〇〇人が参
列した。そして、葬儀は仏式で進められ、導師式衆入場、開式の辞、総礼、読経、
引導、追悼のことば、弔辞、弔電奉読、焼香、唱題、回向、葬儀委員長挨拶、親族
代表謝辞、閉式の辞、導師退場の順序で行われた。
(四) 右葬儀委員会は、同月一九日に町長に対し、補助金として金一〇〇万円の
交付申請書を提出し、町長である被控訴人Aは、同日専決処分により金一〇〇万円
の補助金を交付する旨の決定をした。そして、収入役である被控訴人Bは、これを
右葬儀委員会に交付して、支出した。また、そのころ、被控訴人Bは、被控訴人A
の命令に基づき、Eの町民葬への派遣職員に対し、前記時間外手当を支給して、支
出した。
(五) さらに、同年一二月一〇日、元町長のFが死亡した。そこで、同月一一日
午後、町役場の特別会議室で、葬儀委員会が開かれ、葬儀は町民葬で行うこと、日
時場所としては、同月二四日午後一時から町中央公民館で行うこと、町からの補助
金の交付、葬儀の方式等はEの葬儀の場合に準じて行うことなどを決定し、委員長
には町長の被控訴人A、副委員長には町議会議長と町農業協同組合長を選任した。
なお、今回の葬儀委員会は、Eの葬儀のための葬儀委員会がそのまま存続している
ものとして行われ、その構成員は、Eの葬儀委員会の構成員のうち、町農業委員会
会長が同会長代理と交代したほか、町農業協同組合専務が新たに加わり、一五名で
あった。
(六) 右葬儀委員会は、委員長の被控訴人A名で同月二〇日町教育委員会教育長
に対し、町中央公民館の使用申請書を提出し、町中央公民館長は、同日、被控訴人
Aに対し、使用料を無料として公民館の使用を許可する旨を通知した。なお、公民
館の使用料は有料の場合には金二万八四〇〇円であった。右葬儀委員会は、さらに
同日、町長に対し、金一〇〇万円の補助金の交付申請書を提出し、町長である被控
訴人Aは、同月二四日右葬儀委員会に対し金一〇〇万円の補助金を交付する旨の決
定をした。そして、収入役である被控訴人Bは、これを右葬儀委員会に交付して、
支出した。また、そのころ、被控訴人Bは、被控訴人Aの命令に基づき、Fの町民
葬への派遣職員に対し前記時間外手当を支給して、支出した。
(七) 同月二四日、町中央公民館においてFの町民葬が執り行われたが、同葬儀
には、県内の国会議員、県知事(代理)、市町村長、遺族をはじめ約一〇〇〇人が
参列した。そして、葬儀は仏式で進められ、導師式衆入場、開式の辞、総礼、嘆
徳、追悼のことば、弔辞、弔電奉読、焼香、回向、葬儀委員長挨拶、親族代表謝
辞、閉式の辞、導師退場の順序で行われた。
(八) なお、町においては、昭和五四年に元商工会議所会頭で、名誉町民になっ
ていたGが死去した際、初めて町民葬と称する葬儀が行われた。そして、その際に
も、当時の町長を委員長とする葬儀委員会が設置されるとともに、町からの補助金
が交付され、町の中学校体育館において仏式による葬儀が行われた。
二 憲法違反の主張について
控訴人は、本件各町民葬の際に設置された葬儀委員会は、町の附属機関であり、右
各町民葬は、町が行う宗教儀式に該当するから、これに対する本件補助金交付等の
支出行為は、憲法一四条、一五条、二〇条、八九条に違反し、無効であると主張す
るので、以下これらの主張について検討する。
1 葬儀委員会の性格について
前記認定のとおり、Eの町民葬を主催した葬儀委員会は、町長ら町役場の三役と町
議会議長、同議長経験者らが協議して、その設置及び構成員を決定したものであ
り、その構成員は、町役場及び町議会の関係者が半数を占め、町長が委員長となっ
ており、事務局を町役場の総務課に設け、また、右葬儀委員会において本件補助金
の額や町職員の仕事の分担を相談し、職員の出向を求めたものである。しかしなが
ら、町には、町民葬の施行や葬儀委員会の設置に関する条例、規則上の定めは存在
しないうえ、右葬儀委員会が設置されるにいたった経緯、葬儀委員会の目的、内
容、構成員の顔ぶれ等に照して考えると、右葬儀委員会は法形式的には私的な組織
ないし団体であるとみるべきであって、右葬儀委員会を公的な町の附属機関と解す
ることはできない。そして、このことは、Fの町民葬を主催した葬儀委員会につい
ても、同じことがいえるから、その葬儀委員会も法形式的には町の附属機関と解す
ることはできない。
したがって、前記各葬儀委員会が町の附属機関であり、町自身が本件各町民葬を執
り行ったことを前提として、本件補助金交付等の支出行為が憲法二〇条、一四条、
一五条に違反する旨の控訴人の主張はその前提を欠くものであり、理由がないとい
うべきである。
2 憲法二〇条違反の主張について
法形式的には、町自身が本件各町民葬を執り行ったものでないことは、右に述べた
とおりであるが、前記各葬儀委員会は、前記認定のとおり、本件各町民葬を実施す
る目的で、町長、助役や町議会議長らが構成員となり、町長が委員長となって、結
成されたものであり、しかも、町は、本件各町民葬のために本件補助金を交付し、
町中央公民館の使用を許可するとともに、その使用料を免除し、さらに、本件各町
民葬の準備、執行のために町職員を派遣したものであるから、実質的には、町が本
件各町民葬の実施を積極的に支持し、援助したことが明らかである。そこで、本件
各町民葬の実施が、憲法二〇条三項にいう「宗教的活動」に該当するか否かについ
て検討する。
(一) 憲法二〇条及び八九条が定める政教分離の原則は、国家が宗教的に中立で
あることを要求するものであるが、国家が宗教となんらかの関わり合いをもつこと
を全く許さないとするものではなく、宗教との関わり合いをもたらす行為の目的及
び効果に鑑み、その関わり合いがわが国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の
自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で、相当とされる限度を超えると
認められる場合にこれを許さないとするものであると解すべきである。そして、憲
法二〇条三項は、国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしては
ならないと規定するが、ここでいう宗教的活動とは、右政教分離の原則に照らして
みれば、およそ国及びその機関が宗教との関わり合いをもつすべての行為をさすも
のではなく、その関わり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られる
というべきであって、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対す
る援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきであ
る。そして、ある行為が右にいう宗教的活動に該当するかどうかを検討するにあた
っては、当該行為の主宰者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が宗
教の定める方式に則ったものであるかどうかなどの当該行為の外形的側面のみにと
らわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評
価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程
度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従
って、客観的に判断しなければならないものと解すべきである(最高裁判所昭和五
二年七月一三日大法廷判決参照。)。
(二) そこで、右の見地に立って、本件各町民葬の実施が憲法二〇条三項によっ
て禁止されている宗教的活動に当るかどうかについて検討する。
本件各町民葬は、いずれも仏教の僧侶が所定の服装で、仏教に固有の方式に則って
行ったものであるから、それが宗教と関わり合いをもつものであることは明らかで
ある。
しかしながら、本件各町民葬は、本来遺族の行う葬儀について、町としても、E及
びFがその生前町の発展に尽くした功績を讃えるために、町長をはじめ広く町内の
各種団体、委員会等の代表者が構成員となって結成された葬儀委員会が主催者とな
って行う形式をとることにより、葬儀の格式を高め、規模を拡大するとともに、こ
れに全町的な意義、性格をもたせようとしたものにすぎない。そして、本件各町民
葬を執り行った場所も仏教の寺院ではなく、一般町民によって広く利用される八街
町中央公民館であり、かつ、右各葬儀中の宗教的儀式の部分も、町が積極的に勧め
たものではなく、いずれも遺族の要望により仏式と決めたものにすぎないのであっ
て、本件各町民葬実施の意図ないし目的の重点は、宗教的儀式を実施するというこ
とよりは、E及びFの生前の功績を顕彰することにあったものということができ
る。
また、葬儀は、通常何らかの宗教の方式に則って行われることが多く、その中に
は、故人又はその遺族が特定の宗教を信仰するがゆえに、特定の宗教儀式によって
行われることもあると考えられる。しかしながら、現代においては、葬儀が特定の
宗教の方式で行われても、その宗教的活動を行うこと自体を目的としてではなく、
単に一般の習俗又は慣習に従い宗教の方式をとるにすぎない場合も少なくなく、こ
れに対する一般人の宗教的評価ないし宗教的関心は稀薄化してきている。そして、
葬儀が特定の宗教固有の方式で行われても、それは、必ずしも当該宗教に関する布
教、教化、宣伝に寄与する目的、性格を有するものとはいえず、また、それによっ
て参列者及び一般人の宗教的関心ないし意識が特に高められることになるものとも
考えられない。したがって、このような葬儀の実施により、特定の宗教を援助、助
長、促進するような効果をもたらすことになるものとは必ずしも認めがたいし、ま
して、他の宗教的活動に圧迫、干渉を加えるものとは認められない。
以上の諸事情を総合的に考察して判断すると、本件各町民葬は、宗教の一つである
仏教と関わり合いをもつものであることは否定しえないが、それを実施する意図、
目的は、E及びFの生前の功績を顕彰するため一般的慣習によって行われる私人の
葬儀の格式を高め、規模を拡大するとともに、これに全町的な意義、性格をもたせ
ようとすることにあったものであり、その効果においても、仏教における宗教的活
動を援助、助長、促進したり、仏教以外の他の宗教に圧迫、干渉を加えたりするこ
とになるものとは到底考えられないから、本件各町民葬の実施は、憲法二〇条三項
によって禁止されている宗教的活動には当たらないものと解するのが相当である。
3 本件補助金交付の違憲性について
控訴人は、本件補助金交付は、公金を宗教上の組織に支出したものであるから、憲
法八九条に違反すると主張する。しかしながら、前記認定したような本件各町民葬
の目的、性格、効果及び支出金の性質、金額等から考えると、本件補助金交付が特
定の宗教上の組織ないし団体に対する財政援助的な支出に当るとはいえないから、
憲法八九条に違反するものとは解し得ない。したがって、控訴人の右主張は理由が
ない。
4 本件職員派遣行為の違憲性について
控訴人は、本件職員派遣行為は、町の職員を宗教上の行事に参加することを強制し
たものであるから、憲法二〇条に違反し、また、憲法一五条にも違反すると主張す
る。しかしながら、前示のとおり本件各町民葬の実施が宗教的活動に当らないもの
である以上、本件職員派遣行為が憲法二〇条に違反すると解する余地はなく、ま
た、前記認定の事実関係からすれば、憲法一五条に違反する事実があったとも認め
られない。したがって、控訴人の右主張は理由がない。
三 法令違反の主張について
本件支出行為等が法令に違反するとの主張についての当裁判所の認定、判断は、次
のとおり訂正、付加するほかは、原判決二二枚目表一行目の冒頭から同二六枚目裏
二行目の末尾までに説示するところと同一であるから、これを引用する。
1 原判決二二枚目裏七行目から同八行目にかけての「同年一二月一四日」を「後
日」と改め、同九行目の「町長に対し」の次に「同月一九日付けで」を、同二三枚
目表一行目の「町長に対し」の次に「同月二〇日付けで」をそれぞれ加える。
2 原判決二三枚目表一一行目の「前掲の」の前に「前記認定の事実と、」を、同
行目の「前掲の」の次に「甲第一号証の一、二、」をそれぞれ加え、同行目の「第
一八号証の一、二、」から同末行の「甲第一号証の一、二に」までを「第一八号証
の一、二及び弁論の全趣旨に」と、同裏三行目の「昭和二七年」を「昭和二三年」
と、同一一行目から同末行にかけての「受けた。」を「受け、正六位に叙せられ
た。」と、同二四枚目表一〇行目の「なった。」を「なり、昭和五九年には従五位
に叙せられた。」とそれぞれ改める。
3 原判決二五枚目表一〇行目と同一一行間の間に改行して次のとおり加える。
「(三)なお、控訴人は、葬儀委員会は町の附属機関であるところ、附属機関の設
置には町議会の議決が必要であるから、これを経ていない前記各葬儀委員会の設置
は無効であると主張するが、右各葬儀委員会が町の附属機関といえないことは前記
認定のとおりであるから、控訴人の右主張は、その前提を欠くものであり、理由が
ない。」
4 原判決二五枚目表末行の「原告は、」の次に「本件各町民葬に係る事務処理は
地方自治法二条の範囲を逸脱した事務の処理であるから、違法であり、また、」を
加え、同行の「参加は」を「派遣は」と改める。
第三 結論
以上に認定、考察したところからすれば、控訴人の被控訴人A及び被控訴人Bに対
する本件各訴えのうち、八街町中央公民館の使用料免除による金六万二九〇〇円の
請求に関する部分並びに被控訴人C及び被控訴人Dに対する本件各訴えはいずれも
不適法であるから、これを却下し、控訴人の被控訴人A及び被控訴人Bに対する各
請求のうち右金六万二九〇〇円の請求を除くその余の各請求はいずれも理由がない
から、これを棄却し、さらに、控訴人が当審において拡張した各請求に関する本件
各訴えはいずれも不適法であるから、これを却下すべきである。
よって、これと一部結論を異にする原判決主文第一、第二項を本判決主文第一項の
とおりに変更し、さらに、控訴人が当審において拡張した各請求に関する本件各訴
えをいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条
を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 奥村長生 前島勝三 富田善範)
(原裁判等の表示)
○ 主文
一 原告の被告Bに対する訴のうち、二〇〇万円の補助金交付に関する部分及び被
告Dに対する訴のうち、右同補助金交付に関する部分、六万二九〇〇円の八街町中
央公民館使用料免除に関する部分をいずれも却下する。
二 原告の被告B、被告Dに対する訴のうち、その余の請求及び被告A、被告Cに
対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは八街町に対し連帯して金二三一万二四一六円を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は千葉県印旛郡<地名略>(以下「町」という)の住民であり、昭和五九
年当時、被告Aは同町町長、被告Cは助役、被告Bは収入役、被告Dは総務課長で
あった。
2 昭和五九年一一月三日、町の元町長Eが死去し、町では葬儀委員会が設置さ
れ、同月一六日八街町中央公民館(以下「公民館」という)において右葬儀委員会
により町民葬が執り行われた。
また、その後の同年一二月一〇日、
元町長Fが死去し、その際も、右の葬儀委員会により同月二四日、公民館において
町民葬が執り行われた。
そして、右二回の町民葬において、町は、葬儀委員会に対し、それぞれ補助金一〇
〇万円ずつを交付し(以下これを「本件補助金交付」という)、町の職員を町民葬
の準備、執行のために派遣し、その時間外手当として合計二四万九六一六円を支給
し(以下これを「本件時間外手当支給」という)、公民館の使用料計六万二九〇〇
円(E分三万〇四〇〇円、F分三万二五〇〇円)を徴収しなかった(以下これを
「本件公民館使用料免除」という、なお以下、本件補助金交付、本件時間外手当支
給、本件公民館使用料免除を一括して「本件支出行為等」ということがある)。
3 しかしながら、本件支出行為等は以下に述べるとおり違憲、違法である。
(一) 本件支出行為等の違憲性
(1) 葬儀委員会は、条例上の根拠や議会の議決なくして設けられた町の機関で
ある。
すなわち、Eの葬儀における葬儀委員会は、町の特別会議室において、町長たる被
告Aが招集し、総務課長たる被告Dや議会事務局長らが職務上出席した会議におい
て、葬儀委員会の設置及び委員の選任がなされ、町長たる被告Aが委員長に就任
し、町の公印を使用し、また、葬儀委員会において本件補助金の額や町職員の仕事
の分担を決定し、職員の出向を命じたのであるから、葬儀委員会は町の附属機関で
ある。
そしてFの葬儀における葬儀委員会は、右Eの葬儀における葬儀委員会が存続して
いるものとして行われた。
(2) ところで、人の死亡から埋葬に至るまでのすべての宗教儀式(通夜、密
葬、火葬、告別式、埋葬等)を総括したものが葬式であるから、葬式は宗教儀式、
宗教行事である。
本件の各町民葬はこのような葬式のうちの告別式に該当するものであるところ、
E、Fの各葬儀は、いずれもそれぞれ両家の遺族の希望する仏教宗派の祭壇を設
け、僧侶が経文を唱え、焼香をし、法名を与えて成仏を祈り、会葬者が故人の冥福
を祈ったのであって、宗教的行事そのものであった。
(3) このような宗教的行事を町が執り行なうことは違憲であり、かかる行事へ
の補助金の支出、町職員の派遣、公民館の使用は、憲法一四条、一五条、二〇条、
八九条、九九条に違反する。
(二) 本件支出行為等の違法性
(1) 本件補助金交付は、地方自治法(以下「法」という)二三二条の二に適合
せず、また、八街町補助金交付規則に即した手続きもなされていないから、法二三
二条の三にも違反する違法な公金の支出である。
(2) 町民葬への職員の参加は時間外勤務に該当せず、したがって、職員に対す
る本件時間外手当支給は違法である。
(3) 本件公民館使用料免除は、八街町公民館使用料徴収条例に基づく免除に該
当しないから違法である。
4 被告Aは、町長として補助金の交付、職員の手当、公民館の使用料金の徴収に
ついて全責任があり、被告Cは補助機関である助役として、前記違法行為を遂行さ
せ、被告Bは収入役として、支出負担行為について違法な支出であるかどうか確か
める義務があり、被告Dは総務課長として前記違法行為を指揮すると同時に、八街
町法令審査委員会の委員長として、町及び町職員が法令に違反した事務をとらない
ように注意する義務があったにもかかわらず、被告らは前記のような違法な行為を
行い、あるいはその義務に違反して違法行為を阻止しなかったのであり、これによ
り、町に対して補助金相当額二〇〇万円、時間外手当金相当額二四万九六一六円、
公民館使用料相当額六万二九〇〇円、合計二三一万二五一六円の損害を与えた。
5 原告は、本件支出負担行為等につき前記違法理由により、昭和六〇年一〇月三
一日八街町監査委員に対し法二四二条に基づいて監査請求をしたが、同監査委員は
同年一二月二七日付書面をもって、原告に対し、右監査請求は措置の必要がない旨
の監査結果を通知した。
6 よって、原告は法二四二条の二第一項四号に基づき、八街町に代位して被告ら
に対し、前記損害金二三一万二五一六円の内金二三一万二四一六円を町に対して支
払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2のうち、E分の公民館の使用料は否認するが、その余の事実は認める。
3 同3のうち、葬儀委員会設置に至る経緯は認めるが、その余は争う。
本件補助金支出は、町の補助金交付規則に基づいて支出されたものであり、また後
記するところから明らかなようにそれは公益に沿うものであったから違法はない。
また町の公民館使用料徴収条例五条二項によれば、「特に町長が認めたときは、使
用料を減免することができる」旨規定されているところ、本件公民館使用料免除は
これに基づき、所定の手続を得てなされたものであるから違法ではない。
更に、町民葬は、法令、条例上の根拠はないが、町の発展に数多くの業績や功績を
残した人に対し、それに報いるため葬儀委員会が結成され、同会の呼びかけで町、
各種団体、町民各層が合同で故人及びその家族を慰めるため行ったものである。そ
れは功績のあった人が故人になったとき、町も何か応えるべきであるとの一般の認
識に支えられ慣習化してきたもので、町の宗教活動としての認識は弱い。そして葬
儀は特定の宗教の儀式で行われたり、宗教的な色彩を帯びる部分もあるが、これは
遺族の選択によるものであり、葬儀委員会は宗教的儀式や僧侶等の援助を目的とす
るものではない。
最高裁判所昭和五二年七月一三日大法廷判決によれば、国が宗教となんらかのかか
わり合いを持つことをまったく許さないものではなく、宗教とのかかわり合いをも
たらす行為の目的及び効果に鑑み、そのかかわり合いが我が国の社会的、文化的諸
条件に照し信教の自由の保障の確保という制度の根本的目的との関係で、相当とさ
れる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないと解すべきであり、ある
行為が宗教的活動に該当するか否かは、当該行為の主宰者、順序作法など外形的側
面のみにとらわれず、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的
評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、
程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し社会通念にし
たがって客観的に判断すべきものである。
本件の場合Eは八街町に合併前の川上村村長及び八街町町長三期一二年を勤め、町
の生活環境、産業振興、福祉の増進、教育文化、スポーツの充実に尽くし、昭和五
八年に勲四等瑞宝章の栄誉を受けているものであり、また、Fは八街町町長五期、
県議会議員二期を勤め、水道事業、農業共同組合の体制整備等を通じ農業経営の発
展に尽くし、昭和四七年に勲四等瑞宝章、昭和四八年に町の名誉町民の栄誉を受け
ているものであって、このように、EもFも、町の発展に尽くしたことから、葬儀
委員会が設置され、これが主催者となって町民葬を執り行うこととなったのであ
る。葬儀は仏式で行われたが、それは遺族の希望によりその方式で行われたにすぎ
ないから、町が葬儀委員会に補助金を出したり、町民葬の設営、準備のため職員を
派遣し時間外手当を支給したり、公民館の使用料を免除したりしても、一般人の宗
教的評価からして、これが憲法二〇条、八九条に反するものではない。また町がこ
のような時間外手当を支給することは憲法一五条にも違反しない。
4 請求原因4は争う。
5 請求原因5の事実は認める。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 本件支出行為等がなされるに至った経緯
1 請求原因1の事実及び同2の事実のうち、昭和五九年一一月三日町の元町長E
が死去し、葬儀委員会が設置され、同月一六日公民館において右葬儀委員会により
町民葬が執り行われたこと、同年一二月一〇日元町長Fが死去し、同月二四日右同
様に葬儀委員会により公民館において町民葬が執り行われたこと、右二回の町民葬
において、町から葬儀委員会に対し、それぞれ補助金一〇〇万円ずつが交付された
こと、町の職員が町民葬に関連するさまざまな準備、執行等を手伝い、町から右職
員に対して、時間外手当として計二四万九六一六円が支払われたこと、町は公民館
の使用料を徴収しなかったこと、ならびに同3のうち葬儀委員会設置に至る経緯に
ついては当事者間に争いがない。
2 右争いない事実に、原本の存在と成立に争いのない甲第二号証の一、二、乙第
一、第二、第四、第五、第九ないし第一二号証、第一六号証、第一七号証の一、
二、第一八号証の一、二、第一九ないし第二二号証及び弁論の全趣旨によると、次
の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
(一) 昭和五九年一一月三日午前、元町長のEが死去し、町会議員等から町の対
応を求める声が出たため、同日午後、町役場特別会議室に、町長の被告A、助役の
被告C、収入役の被告B、総務課長の被告Dと町議会議長、副議長、議会事務局
長、および議長経験者三名が集まり、葬儀委員会を設置して町民葬を行うこと、葬
儀の日時は同月一六日午後一時、場所は公民館とすること、葬儀委員会の構成員は
町長、助役、収入役、町教育長、議長、副議長、町教育委員会委員長、町農業委員
会会長、八街商工会議所会頭、町農業協同組合組合長、区長会長、町消防団長、町
連合婦人会長、民生委員総務の一四名とすること、を決めた。
(二) そして同月七日、右特別会議室において、右構成員全員が集合して葬儀委
員会々議が開かれ、委員長に町長の被告A、副委員長に助役の被告Cと町議会議長
が選出された後、葬儀の執行のために町から補助金の交付を受けて、これを葬儀委
員会の予算として執行すること、式場の準備等は町職員が手伝うこと、香典は全額
遺族側へ渡すこと、等を決定し、また遺族側と協議した上、その希望を容れて、葬
儀は遺族側で依頼した僧侶七名により仏式で行うこと、祭壇は花祭壇とし、葬儀社
も遺族側の希望する葬儀社に依頼すること、香典返しは遺族側で用意すること、葬
儀の通知、会葬礼状は葬儀委員長、同副委員長と遺族側の喪主らの共同で行うこと
等を了承した。
(三) 右葬儀委員会は、同月一二日に町教育委員会教育長に対し公民館使用申請
書を提出し、同日、同公民館長から使用料無料による公民館使用許可通知がなされ
た。許可された公民館の使用時間は、大会議室、和室三部屋及び青年団体室が同月
一五、一六日合計一二時間三〇分、中会議室、視聴覚室が八時間三〇分、小会議室
が四時間であり、これに相当する使用料金は二万八四〇〇円であった。
また、右葬議委員会は、同月一九日に町長宛一〇〇万円の補助金交付申請書を提出
し、同日町長の被告Aから補助金交付決定通知(八街町指令第一八四号)が出され
た。
(四) 同月一六日、公民館においてEの町民葬が執り行われたが、同葬儀は祭壇
を設け、開会の辞に続いて僧侶により読経、引導が行われ、追悼の言葉、弔辞、弔
電奉読をはさんで焼香、唱題、回向が行われ、その後葬儀委員長挨拶、親族代表謝
辞が行われて、閉会となった。
(五) 同年一二月一〇日に元町長のFが死去し、翌一一日前記特別会議室におい
て葬儀委員会々議が開催されたが、構成員は町農業委員会長に代って同代理、新た
に町農業協同組合専務が加わった以外はEの葬儀における構成員と同じであり、委
員長には前回同様に町長の被告A、副委員長には町議会議長と町農業協同組合組合
長が選出された。
(六) そして右葬儀委員会々議において、同月二四日午後一時に公民館において
町民葬を行うこと、Eの場合と同じく町から補助金を出してもらうこと、町の職員
に準備等を手伝ってもらうこと等が決定されたほか、葬儀方法については遺族とも
相談の上、Eの町民葬の場合と概ね同様の方法で行うこととなった。
(七) 右葬儀委員会は、同月二〇日、前記教育長に対し、公民館使用申請書を出
し、同日、同公民館長から使用料無料による公民館使用許可通知がなされた。更
に、同月二〇日町長に対し、一〇〇万円の補助金交付申請書を提出し、同月二四日
町長から補助金決定通知(八街町指令第一九三号)が出された。
(八) 同月二四日Fの町民葬が執り行われ、Eの場合と同様に僧侶により読経、
焼香及び回向などが行われ、仏式で進められた。
(九) なお、町においては、昭和五四年に元商工会議所会頭で、名誉町民になっ
ていた者が死去した際、初めて町民葬と称する葬儀が行われたが、その際も時の町
長を委員長とする葬儀委員会が構成され、町から補助金が交付され、町中学校にお
いて、仏式で行われた。
二 被告適格について
本件訴は、法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」に対する損害賠償請求で
あると解されるが、ここに「当該職員」とは、「当該訴訟においてその適否が問題
とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされてい
る者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者」
を広く意味し、一方、右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない
者はこれに該当せず、被告適格を欠き、そのような者に対する訴は不適法であると
解するのが相当である。
本件の場合、町の収入役については公民館使用料に関して、また総務課長について
は補助金交付及び公民館使用料に関して、いずれもその権限を有する旨定めた規定
はなく、他にその権限を有すべき根拠も見当らないから、被告Bに対する訴のう
ち、本件公民館使用料免除に関する部分及び被告Dに対する訴のうち、本件補助金
交付と本件公民館使用料免除に関する部分は、その余の点について判断するまでも
なく不適法であり、いずれも却下を免れない。
三 憲法違反の主張について
原告は、本件葬儀委員会は町の附属機関であり、町民葬は町が行う宗教的儀式、行
事に該当するから、これに対する本件支出行為等は憲法一四条、一五条、二〇条、
八九条、九九条に違反し、無効である旨主張するので、まず、この点について検討
する。
1 憲法二〇条、八九条違反の主張について
(一) 憲法は、二〇条一項において「いかなる宗教団体も、国から特権を受
け・・・・・・てはならない」、同条三項において「国及びその機関
は、・・・・・・いかなる宗教活動もしてはならない」、八九条において「公金そ
の他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のた
め、・・・・・・これを支出し、又はその利用に供してはならない」と規定し、い
わゆる政教分離の原則を明らかにしている。
しかしながら、宗教も信仰という個人の内心的な事象にとどまらず、教育、文化、
民俗、風習等広汎な面において社会事象と接触するのであり、一方国又は地方公共
団体も社会的に存在する団体として様々な社会事象を通じて宗教と何らかのかかわ
り合いを生ずることを免れ得ない。
このような点に鑑みると、憲法が定めた右のような規定の趣旨は、国又は地方公共
団体が宗教とかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教と
のかかわり合いの程度がわが国の社会的、文化的諸条件に照らし、国民の宗教の自
由を保障することを確保するという制度の根本目的との関係で相当とされる限度を
超えるものと認められる場合に限り、これを許さないとするものであると解するの
が相当である。
したがって、同法二〇条三項により禁止される「宗教的活動」とは国、地方公共団
体及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものでは
なく、そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られるとい
うべきであって、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援
助、助長、促進又は圧迫、干渉などになるような行為をいうものと解すべきであ
る。よって、ある行為が右にいう「宗教的活動」に該当するか否かを検討するにあ
たっては、当該行為の主催者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が
宗教の定める方式に則ったものであるかどうかなど、当該行為の外形的側面のみに
とらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的
評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、
程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に
従って、客観的に判断されなければならない(最高裁判所昭和五二年七月一三日大
法廷判決民集三一巻四号五三三頁参照)。
また、同法二〇条一項後段の「宗教団体」、同法八九条の「宗教上の組織若しくは
団体」(以下これを一括して「宗教団体等」という)も宗教的活動を本来の目的と
した組織、団体をいうものと解すべきであるからこのような目的を有しない団体
が、その運営上たまたま宗教に関わりのある行為を企画実行したからといって、こ
れが直ちに右の「宗教団体等」に該当すると解すべきではない。
(二) 以上のような見地から、本件支出行為等が憲法二〇条、八九条に違反する
ものであるかどうかについて検討する。
(1) 本件町民葬の性格
原告は、E、Fの各町民葬(以下これを一括して単に「本件町民葬」という)は宗
教的儀式、行事に該当すると主張する。
(イ) 葬儀は、通常何らかの宗教の方式に則って行われることが多いけれども、
本来、葬儀それ自体は死者を葬るための儀式に過ぎず、宗教の布教や伝道を目的と
したものでも、宗教に特有の儀式、行事でもなく、また必ず宗教の方式に則って行
われるべきものとも解されない。その方式は、国、地方、民族等によって異なる場
合があり、また確立された普遍の方式がある訳のものでもないから、独自の方式に
よって行うことも妨げないであろうし、宗教色を一切払拭して行うことも可能であ
る。
従って、葬儀それ自体が本来的に宗教上もしくは宗教的な儀式または行事であると
は考えられない。
(ロ) ところで、本件町民葬は、前示のとおり、E、Fの死亡に際し、町議会議
員らから町の対応を求める声が出たことから、町長の被告Aや町議会議長らの町、
町議会幹部や町議会経験者らが会して、葬儀委員会を組織して町民葬を行うことの
基本方針を決め、これに基づいて結成された葬儀委員会が主催者となって、これを
行ったものであるが、右葬儀委員会は独自の立場で本件町民葬を行ったのではな
く、遺族らと協議した上、主催者は右葬儀委員会とすること、しかしながら案内状
や会葬礼状は喪主らと共同で行い、葬儀の方式、祭壇の設置等は遺族側の要望を容
れて、遺族側で依頼した僧侶、その希望する葬儀社によって行うこと、香典返しは
遺族側で準備することなどを了解して行われたのであり、その方式も、仏式による
一般的な方式で行われたものであるから、本件町民葬は、世上、人の死に際して行
われる一般的な葬儀と実質的に異るものでないことは疑いなく、ただそれは町内各
界各層の代表者らによって組織された葬儀委員会が主催者となったこと、町公民館
において行われたことの点において特色があったものである。
もっとも本件町民葬は仏教の方式により行われたのであるから、宗教的色彩を有し
ていたことは明らかである。
(ハ) 以上のような点に鑑みると、本件町民葬は、本来遺族が行うべき葬儀を、
E、Fの功績を讃えるために、町の統括代表者である町長を始めとして、広く町内
各種団体、委員会等の代表者が構成員となって結成された葬儀委員会が主催者とな
って行う形式をとることによって、格式を高め、規模を拡大するとともに、これに
全町的な意義、性格をもたせようとしたものと理解される。
(2) 本件葬儀委員会の性格
原告はE、Fの本件町民葬を主催した各葬儀委員会(以下これを一括して単に「本
件葬儀委員会」という)は町の附属機関であると主張する。
(イ) しかしながら、前示のとおり、Eの町民葬を主催した葬儀委員会は、町長
や町議会議長、議長経験者らが参集した会合において、これを結成することおよび
その構成員となるべき者の範囲が決定され、これに基づき構成員となるべき者が集
合して結成されたものであるが、右町長らの会合は、それが開かれるに至った契
機、会合の目的、内容、出席者の顔ぶれ等に照らし、私的な会合とみるべきである
し、また町には町民葬や葬儀委員会の施行、設置等に関する条例や規則もないか
ら、右葬儀委員会は町の機関に属せず、更に附属機関ともいえない、私的、独立の
存在とみるほかはない。
またFの町民葬を主催した葬儀委員会は、Fの町民葬を行う目的で結成されたもの
であるから、Eの町民葬を主催した葬儀委員会と構成員が二名異るほかは同一であ
り、委員長も同じく町長の被告Aが選任され、町民葬の日時も近接していたとして
も、団体としては別個の存在であるといわざるを得ない。そしてその性格はEの町
民葬における葬儀委員会と同じく、町とは関係のない私的かつ独立の団体とみるべ
きである。
(ロ) ところで、前示の事実関係から明らかなとおり、本件葬儀委員会は常設さ
れていたのではなく、E、Fの町民葬を行うことのみの目的で、その都度結成さ
れ、またその限りで存続した団体であり、仏教その他の特定の宗教の方式による葬
儀の執行を目的としたものでもない。本件町民葬が仏式で行われたのは、遺族の希
望に従った結果であって、本件葬儀委員会が殊更にその方式で行うことを求めたも
のでもなかった。そして、本来、葬儀それ自体に宗教性はないと解されることは前
示のとおりである。
以上のような点からすると、本件葬儀委員会が、仏教その他の特定の宗教の布教伝
道等の宗教的活動を本来の目的とした団体に該当しないことは明らかである。
したがって、本件葬儀委員会が、憲法二〇条一項後段、八九条に定める宗教団体等
に該当するものでないことも明らかである。そして本件葬儀委員会が主催者として
行った本件町民葬がたまたま仏教の方式で行われたからといって、そのことから本
件葬儀委員会が右憲法に定める宗教団体等に該当すると解すべきものでもない。
(3) 町と本件町民葬とのかかわり合いについて
(イ) 原告は、本件町民葬は町が行ったと主張するけれども、既に認定説示した
とおり、本件町民葬を主催者として行ったのは、町ではなく、本件葬儀委員会であ
る。町は本件葬儀委員会に対して、補助金を交付し、町公民館の使用を許可すると
ともにその使用料を免除し、また本件町民葬の準備、執行のために、町職員を従事
させただけであって、町自らが本件町民葬を行った訳ではない。
しかしながら、前示の本件葬儀委員会結成に至る経緯、ことにそれは元町長等の要
職にあったE、Fの葬儀を全町的な意義、目的で行うため、町長、助役ら町幹部職
員が中心となって推進し、結成されたものであること、および町は、本件町民葬が
宗教である仏教の方式により行われるものであることが明らかであったのに、本件
町民葬の執行を積極的に支持し、援助する意図で本件支出行為等を行ったものであ
ること、ならびに本件町民葬は、町長が本件葬儀委員会の委員長となり、町公民館
を使用し、町職員がその準備、執行に従事する等町自身がこれに深く関与している
ような外観を呈していたこと等からすると、町は宗教的な色彩を有する本件町民葬
の執行を支持し援助する意図で本件支出行為等の行為を行った点において宗教との
かかわり合いを持つに至ったことは否定しえない。
(ロ) そこで次に、そのかかわり合いの程度について考察する。
前記認定説示のとおり、本件町民葬が仏式で行われたのは遺族の希望に従った結果
であって、これを主催した本件葬儀委員会は「宗教団体等」に属するものではな
く、これが行われた場所も宗教上の施設でない町公民館であり、またその対象も特
定の宗教人や宗教の信仰者ではなく、広く町内外の一般人であったのである。そし
て本件町民葬の意義、目的も、それが宗教色を有することや宗教の方式で行われる
ことにあったのではなく、遺族が行うべき葬儀に全町的な性格を持たせて行うこと
にあったのであるる。
町がこのような町民葬の執行のために本件支出行為等を行った意図、目的も、右の
ような意義、性格を有する本件町民葬を支持し、援助することにあったのであり、
それが宗教色を有することあるいは宗教の方式で行われることに着目し、これを支
持し、援助することにあったとは認め難い。また町の右行為が宗教に対する援助、
助長、促進又は圧迫、干渉などの効果、影響を及ぼし、あるいは一般人をしてその
ように評価せしめるものとも考えられない。
以上のような点に鑑みると、町の行った本件支出行為等は、前示の憲法解釈の基準
に照らし、宗教とのかかわり合いの程度が相当とされる限度を超えるものではな
く、したがって憲法が禁止する宗教活動には該当しないと解するのが相当である。
そうすると、町が宗教色を有する本件町民葬とかかわり合いを持ったことの当否は
別論としで、これが憲法二〇条、八九条に違反するものとはいえない。
2 その余の憲法違反の主張について
原告は、本件支出行為等が憲法一四条、一五条、九九条に違反すると主張するが、
それに該当するような事実は認められず、他にその点に関する具体的主張、立証も
ないから、右主張は失当である。
四 法令違反の主張について
1 本件補助金交付の違法性について
原告は、本件補助金交付は法二三二条の二に適合せず、また、八街町補助金交付規
則に即した手続きがなされておらず、法二三二条の三にも違反している旨主張する
ので、この点について検討する。
(一) まず、本件補助金交付手続に違法があったか否かについてみるに、八街町
補助金交付規則によると、補助金の交付の申請をしようとするものは、補助金等交
付申請書に所定の事項を記載して町長に提出し(同規則三条一項)、町長は、補助
金等の交付の申請があったときは、書類の審査等をして補助金を交付するかどうか
を決定すること(同規則四条一項)と定められている。
前記認定の事実と前掲の乙第一、第四号証、第一九ないし第二二号証ならびに原本
の存在及び成立に争いのない乙第三、第六、第七号証によると、Eの葬儀に関する
補助金については昭和五九年一一月一〇日補助金支出に関する補正予算につき町長
である被告Aが法一七九条一項の専決処分を行い(これについては同年一二月一四
日町議会において報告、承認された)、その後、葬儀委員会から町長に対し補助金
交付申請書が提出され、これに対して町長が補助金交付決定をしてその交付がなさ
れ、またFの葬儀に関する補助金については、同年一二月一四日補助金支出に関す
る補正予算につき町議会の議決がなされた後、同じく葬儀委員会から町長に対し補
助金交付申請書が提出され、これに対して町長が補助金交付決定をしてその交付が
なされた事実が認められるから、右事実によれば本件補助金交付は予算に基づき、
かつ町補助金交付規則に則した手続によってその支出がなされたと認めることがで
きる。
したがって、本件補助金交付手続に違法があるという原告の主張は採用することが
できない。
(二) 次に、本件補助金交付に法二三二条の二に定める公益性があったかどうか
について検討する。
(1) 前掲の乙第一七号証の一、二、第一八号証の一、二、原本の存在と成立に
争いのない甲第一号証の一、二によると、次の事実を認めることができ、これに反
する証拠はない。
(イ) Eは、昭和二七年から昭和二九年まで合併前の川上村の村長を勤め、町と
川上村の合併のために尽力し、同年から昭和三三年まで町の助役、翌三四年から昭
和三七年までは町議会議員、同年から昭和五七年までのうち三期一二年間は町長を
勤め、その間、母子健康センターの設置、町中央公民館の完成、八街東小学校の新
設など福祉の増進、教育文化の向上などに貢献し、昭和五八年には勲四等瑞宝章を
授与され、更に、昭和五九年には町特別功労表彰を受けた。
(ロ) Fは、昭和一二年以来、合併前および合併後の町議会議員二期、町長五
期、千葉県議会議員二期、町農業協同組合長などを勤め、教育施設の充実に努力し
て町立八街高等女学校の設立、県立高等学校への昇格に尽力したり、上水道事業を
開始したりしたほか、落花生の生産性向上と流通の安定を通じて畑作経営の改善向
上に寄与し、農業協同組合の合併、農業共済事業の発展に貢献し、昭和四七年には
勲四等瑞宝章を授与され、昭和四八年には町名誉町民となった。
(ハ) Eの町民葬においては国会議員、県知事代理、県内各市町村の長、遺族な
ど町内外から約七〇〇人が参列し、Fの町民葬においても同様に約一〇〇〇人が参
列して盛大に行われた。
(2) 以上の事実及び前記認定した事実を総合すると、E及びFは元町長であっ
たというだけでなく、町の教育文化の向上、福祉の増進、産業の発展などに多大に
貢献し、広く町民に慕われていたことが認められるから、このようなEやFの功績
を讃えるとともに、死者を追悼する目的で広く町内各界各層の代表者らが一体とな
って結成された本件葬儀委員会が主催者となり、いわば全町的な意義、目的、規模
で、広く町内外の一般人の参加、出席を求めて行われた本件町民葬を、町が財政面
からこれを援助し、これに協力することは、普通地方公共団体に属する町の性格、
存在に照らしても公益上有益であるということができる。
そうだとすると、本件町民葬の挙行費用の一部に充てられる目的で、葬儀委員会に
対してなされた本件補助金交付は公益性が認められ、またその金額もE、Fの功
績、本件町民葬の規模等に照らし、相当なものであったと認められる。
したがって、本件各補助金交付は法二三二条の二に違反するものではないから、こ
の点に関する原告の主張も採用しえない。
2 本件時間外手当支給の違法性について
原告は、本件町民葬への職員の参加は時間外勤務に該当せず、職員に対する時間外
手当の支給は違法である旨主張するので、この点について検討する。
(一) 原告主張のとおり、町が本件町民葬の準備、執行のために町職員を従事さ
せ、時間外手当を支給したことは前記認定のとおりである。
(二) ところで、町も社会的に実在する団体として、社会的な儀礼行為や行事を
行い、またはそのような儀礼行為や行事に参加し、協力をすることは許されるので
あり、その場合にはそうした行為を遂行することは町の事務に属するものというこ
とになる。
(三) これを本件についてみるに、本件町民葬の前示のような意義、目的等に照
らすと、町がこれを援助し、これに協力する意図で、町職員をその準備、執行の役
務に従事させることは、普通地方公共団体に属する町においても許されるべき範囲
内の行為であり、したがって右の役務は町の事務に属するものと解するのが相当で
ある。
そうだとすると、町職員を右役務に従事させることは適法であり、これに従事した
町職員に対して所定の時間外手当を支給することも適法である。
ただ、前示のとおり、本件町民葬は宗教性を帯びていたから、これに職員をその意
に反し、職務命令をもって参加を強制し、特定の宗教に対する礼を尽くさせるよう
なことは許されないものといわねばならないけれども、本件の場合そのような事実
は認められないから、この点に違法はないというべきである。
よってこの点に関する原告の主張も採用できない。
3 本件公民館使用料免除の違法性について
原告は、公民館の使用料については、町公民館使用料徴収条例に基づく免除には該
当しない旨主張するので、この点について検討する。
右条例五条一項によると、公民館の使用料の減額(五割)基準として、町の機関以
外の官公署が使用する場合及び教育又は社会福祉に関する団体が、その目的を達成
するために使用する場合が、またその免除基準として、町(町の機関を含む)、国
又は公共団体が公務上使用するときが、それぞれ例示されており、同条二項におい
て、「前項に規定する場合のほか、特に町長が認めたときは、使用料を減免するこ
とができる。」とされている。
右規定の趣旨に照らすと、同条二項により町長が使用料を免除することができる場
合には、町や国その他の公共団体が自らその事務を執行するために使用する場合に
準ずるような公益性の高い場合を含むものと解するのが相当である。
本件の場合、前示の事実によると、本件葬儀委員会から使用料を無料とする公民館
使用申請書が提出され、これに対して、公民館長から右申請のとおり使用料を無料
としてその使用を許可することの通知書が交付されたのであるから、その許可の手
続において欠けるところはなく、また前示のような本件町民葬の意義、目的、これ
に対する町の援助、協力の意図、程度等に照らすと町が自ら公務上使用する場合に
準ずべき公益性があったものということができるから、本件公民館使用料免除に、
原告主張のような違法があったということはできない。
よって右主張も失当である。
五 以上の次第で、本件訴のうち、被告Bに対する本件公民館使用料免除に関する
部分並びに被告Dに対する本件補助金交付、本件公民館使用料免除に関する部分は
不適法であるから、これをいずれも却下し、右被告両名に対するその余の請求及び
被告A、同Cに対する請求は理由がないから、これをいずれも棄却することとし、
訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文
のとおり判決する。

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
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答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
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興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
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学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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