弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

     主      文
1 被告は,原告Aに対し,380万2500円及びこれに対する平成11年12
月11日から,原告Bに対し,1152万7000円,原告Cに対し,50万円,
原告Dに対し,137万1333円,原告Eに対し,142万0831円,原告F
に対し,151万9375円,原告Gに対し,59万8040円,並びにこれらに
対する平成12年1月30日から,各支払済みまでいずれも年6分の割合による金
員をそれぞれ支払え。 
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
  事実及び理由
第1 請求
  主文同旨
第2 事案の概要
 1 本件は,被告に雇用されていて自己都合退職したとする原告ら(ただし,原
告Cを除く。)が,被告に対し,退職金支給規定に基づき,退職金を請求し,ま
た,被告株式を保有する原告B及び原告Cが,被告に対し,株式買取代金立替払合
意に基づき,株式買取代金の立替払をそれぞれ求めるものであり,原告Aは,退職
金380万2500円及びこれに対する弁済期経過後である訴状送達の日の翌日で
ある平成11年12月11日から,原告Bは,退職金1052万7000円及び株
式買取代金100万円の合計1152万7000円,原告Cは,株式買取代金50
万円,原告Dは,退職金137万1333円,原告Eは,退職金142万0831
円,原告Fは,退職金151万9375円,原告Gは,退職金59万8040円,
並びにこれらに対する
各弁済期経過後である訴状送達の日の翌日である平成12年1月30日から,各支
払済みまでいずれも商事法定利率年6分の割合による各遅延損害金の支払を求める
ものである。
   これに対し,被告は,取締役であった原告Bについては,退職金支給規定の
適用がなく,また,原告Cを除くその余の原告らのいずれにも退職金不支給事由が
あり,さらに,原告B及び原告Cが主張する株式買取代金立替払合意は存在しない
などと主張して争っている。
 2 争いのない事実
  (1) 被告は,タオル等の販売を目的とする株式会社である。
(2)ア 原告Aは,昭和39年3月7日から平成11年9月20日までの35年6か
月間被告に雇用され,自己都合退職した。
イ 原告Bは,昭和27年4月21日,被告に雇用され,昭和55年10月31
日,被告の取締役に就任し,昭和57年1月1日,被告の常務取締役に就任し,平
成7年8月31日までの43年4か月間被告に在籍し,自己都合退職した。
ウ 原告Cは,昭和26年4月1日,被告に雇用され,昭和60年10月31日,
被告の取締役に就任し,平成8年7月25日までの45年3か月間被告に在籍し,
自己都合退職した。
エ 原告Dは,昭和53年4月1日から平成7年12月21日までの17年8か月
間被告に雇用され,自己都合退職した。
オ 原告Eは,昭和55年4月1日から平成9年10月15日までの18年6か月
間被告に雇用され,自己都合退職した。
カ 原告Fは,昭和51年11月26日から平成8年2月末日までの19年3か月
間被告に雇用され,自己都合退職した。
キ 原告Gは,昭和60年4月1日から平成7年12月末日までの10年9か月間
被告に雇用され,自己都合退職した。
(3) 被告が定めている就業規則中の退職金支給規定(以下「本件退職金支給規定」
という。)の内容は,以下のとおりである。
ア 支給される退職金額は,基本給に勤続年数ごとに定められている支給率を乗じ
た金額とされている。
イ 基本給は,退職時の前月までの3か年の基本給の平均月額とされている。
ウ 退職金支給率は,勤続年数マイナス3年である。
エ 自己都合による退職の場合は,支給表の支給基準の半額とされている。
オ 退職金の支払時期については,退職時(退職手続完了時)に半額を,残り半額
をその3か月以内に支払うこととされている。
(4)ア 原告Aの退職時の前月まで3か年の基本給平均月額は,23万4000円で
ある。
イ 原告Bの退職時の前月まで3か年の受給平均月額は,52万2000円であ
る。
ウ 原告Dの退職時の前月まで3か年の基本給平均月額は,18万7000円であ
る。
エ 原告Eの退職時の前月まで3か年の基本給平均月額は,18万3333円であ
る。
オ 原告Fの退職時の前月まで3か年の基本給平均月額は,18万7000円であ
る。
カ 原告Gの退職時の前月まで3か年の基本給平均月額は,15万4333円であ
る。
(5)ア 本件退職金支給規定により計算すると,原告Aの退職金の額は,380万2
500円(23万4000円×(35+6÷12-3)÷2)となる。
イ 本件退職金支給規定により計算すると,原告Dの退職金の額は,137万13
33円(18万7000円×(17+8÷12-3)÷2(円未満四捨五入))と
なる。
ウ 本件退職金支給規定により計算すると,原告Eの退職金の額は,142万08
31円(18万3333円×(18+6÷12-3)÷2(円未満四捨五入))と
なる。
エ 本件退職金支給規定により計算すると,原告Fの退職金の額は,151万93
75円(18万7000円×(19+3÷12-3)÷2)となる。
オ 本件退職金支給規定により計算すると,原告Gの退職金の額は,59万804
0円(15万4333円×(10+9÷12-3)÷2(円未満四捨五入))とな
る。
(6) 本件退職金支給規定は,以下のとおり規定する。
第2条 退職金は円満な手続により退職し完全に所管の業務の引継を完了した者
に支給する。
第7条  退職希望者は自己の都合と言えども,その勤務年数に応じた自己の会社
内における立場および会社の状況を考慮して業務の引継ぎを適格に完了しなければ
ならない。
第11条 次の各号の一つに該当する者には退職金を支給しない。
一 懲戒解雇を受けた者
二 業務の引継ぎをなさずして退職した者
三 予め会社の承認を得ず一方的に退職した者
四 退職前後において上長に反抗するか上長の指示に従わない者または著しく社内
の秩序を乱した者
五 不正,不都合な行為や会社の信用を傷つける行為のあった者,ただし,勤続1
5カ年以上の者に対しては特に事情を考慮して支給額の半額以内において退職金を
支給することがある。ただし,役員の承認を得る事が必要である。
  (7) 被告の従業員は,被告の株式(株券は不発行)を額面金額(1株50円)
で購入したことがあり,原告Bは2万株,原告Cは1万株の被告株式をそれぞれ取
得している。
3 争点
(1) 本件の争点は,①原告Bにつき,本件退職金支給規定の適用があるか,②原告
Cを除くその余の原告らにつき,退職金不支給事由があるか,③原告B及び原告C
につき,被告との間の株式買取代金の立替払合意に基づく立替払請求が認められる
か,という点にある。
(2) 争点に関する当事者の主張
ア 争点①について
(ア) 原告Bの主張
原告Bは,被告の取締役に就任しているが,その就任の際,それまでの従業員
時代の退職金の支給はなく,取締役就任後も従業員たる地位を兼ねた扱いをされ続
けたものであり,退職金支給の基となる在職期間は,被告退職すなわち取締役辞任
の時点まで通算されるものである。
  したがって,本件退職金支給規定により計算すると,原告Bの退職金の額は,
1052万7000円(52万2000円×(43+4÷12-3)÷2(円未満
四捨五入))となる。
(イ) 被告の主張
原告Bは,昭和55年10月31日に被告の取締役に就任し,営業の責任者で
ある取締役営業部長として業務を担当した。そして,その後昭和57年1月1日か
ら常務取締役に就任し,以後営業及び商品管理の最高責任者として,営業部門及び
商品管理部門のある被告守山幸心営業センターの業務全般を統括し,常務取締役と
して行動してきた。取締役若しくは常務取締役である原告Bは,被告取締役会か
ら,被告の機関としての取締役の職務として,通常の業務の執行を決定し,かつ実
行すべき職務権限が与えられており,原告Bは,専らその職務にだけ専念すべきで
あるとともに,原告Bが被告の業務につき決定し執行する行為は,すべて被告の機
関としての行為というべきものである。原告Bは,このような地位と権限を有して
いたものであるから,
その地位は,被告との間の雇用契約に基づき被告から指揮命令を受け業務に従事す
る従業員の地位とは明らかに異なり,また,原告Bが従業員としての地位を兼ねて
いたとはいえない。現に,報酬面においては,原告Bが取締役に就任後は,その報
酬は役員報酬として支給されるようになり,また,常務取締役に就任後退職するま
では,代表取締役と全く同様に,本給名目の役員報酬一本として支給されている。
原告Bについては,従業員とは異なり,その勤務時間は定められておらず,同人が
常務取締役に就任した以降は雇用保険に加入していない。したがって,原告Bは,
取締役に就任すると同時に,仮にそうでないとしても常務取締役に就任すると同時
に,被告の従業員としての地位を喪失したものというべきである。
  原告Bは,退職時の前月まで平均月額52万2000円の支給を受けていた
が,前記のとおり,原告Bが取締役に就任後は,その報酬は役員報酬として支給さ
れるようになり,また,常務取締役に就任後退職するまでは,代表取締役と全く同
様に,本給名目の役員報酬一本として支給されていたものであって,前記金員は取
締役の報酬として支給を受けていたものである。
  被告の本件退職金支給規定は,雇用契約に基づく従業員の退職金について定め
たものであるところ,前記のとおり,原告Bは,取締役に就任すると同時に,仮に
そうでないとしても常務取締役に就任すると同時に,被告の従業員としての地位を
喪失したものであるから,従業員たる地位を有しない原告Bに本件退職金支給規定
の適用はない。
イ 争点②について
(ア) 被告の主張
 a 原告Aについて
(a) 原告Aは,平成5年11月から被告営業一部次長の地位にあったが,平成1
1年4月から退職の意向を示し,被告の再三の慰留にかかわらず,同年9月20日
をもって退職する旨の退職願を提出し,当日は,被告の営業会議が開かれていた
が,その途中で退席してそのまま出社しなくなったものであって,次長職の担当業
務の引継を全くしないのみか,被告の承認を得ずして一方的に退職したものであ
り,また,営業会議中の突然の退社という行動は,部下等に対し動揺を与える等社
内の秩序を著しく乱したものと評価されてしかるべきである。
(b) 原告Aが被告営業一部次長として担当していた取引先の一つに東京都内の有
限会社むさしやがあった。同会社については,支払手形のサイトが延期されたこと
や,売上が落ち込んでいる等により,かねてからその信用管理が問題となってお
り,被告代表取締役としても,原告Aに対し,十分の注意を払うよう告げていた。
ところが,原告Aが退職の申入れをなす直前の平成11年8月31日に前記会社振
出の140万円の手形が不渡りとなった。同140万円のうちの大半が同不渡りの
直近に出荷した代金であることが判明した。原告Aは,前記のとおり,前記会社の
信用管理について万全を期すよう指示されていたにもかかわらず,これを怠り,し
かも,前記会社の倒産という事態の発生後も,何ら事後処理に当たることもなく,
無責任に放置する態度
であり,職務放棄と評されても仕方のない勤務態度であった。
(c) 同じく原告Aが担当していた取引先に東京都内のタキトミ株式会社があっ
た。被告は,前記会社に対し,121万円の売掛債権を有しているところ,現在同
債権の存否をめぐって被告と前記会社とで見解の対立が生じている。被告では,毎
月の支払明細を経理がチェックし,請求額と入金額に違算がある場合(例えば,返
品,値引き等)には,違算処理をすべきことを経理が担当者に指示し,担当者は当
然それに従って違算処理すべきことが義務付けられている。原告Aは,前記会社と
の取引に当たり,売掛金を照合し,処理すべきであったのにこれを怠り,担当者と
しての職責を果たさずこれを放置した結果,前記のような事態を発生させたもので
ある。
(d) 同様のことは,同じく東京都内の城東タオル株式会社についても当てはま
り,同社に対しては合計243万1208円の売掛金の存否をめぐり問題化してい
る。
(e) さらに,原告Aは,神奈川県内の小島タオルも担当していたが,同社に対し
ては現在566万円の未回収金が発生している。被告は,前記会社に対するそれま
での未回収金が多額となったことから,平成9年に出荷をストップし,以後,原告
Aに対し,未収金の回収を指示してきたところ,原告Aは,回収の努力をせず,放
置していた。そのため,被告代表取締役は,原告Aと同行の上前記会社を訪問し,
毎月15万円の支払方を提示し,原告Aに対し,その後の代金回収に万全を期すよ
う指示していたが,原告Aはこれに反し回収努力を全くしなかった。
(f) 以上のとおり,原告Aの勤務態度は,上長の指示に従わないものであり,ま
た,原告Aは,退社時においてこれらの案件の処理についての引継を一切していな
い。
(g) 以上によれば,原告Aは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者に該当
せず,また,同第7条に規定する引継をなしていない。そして,原告Aに対して
は,本件退職金支給規定第11条二ないし四号に該当する者として,その退職金は
支給されない。
b 原告Bについて
(a) 仮に,原告Bについて,本件退職金支給規定が適用されるとしても,原告B
は,常務取締役として営業部門及び商品管理部門の最高責任者であるにもかかわら
ず,以下のとおり,その責務を怠ったものであり,退職金不支給事由に該当する。
(b) 原告Bは,昭和62年ころから,その担当していた取引先の提案によるセラ
ミックタオルの開発,企画,仕入れを担当していたものであるが,同セラミックタ
オルは非常にコストの高い商品であることから,慎重な販売計画のもとにその仕入
れの発注を行うことが要請されていた。それにもかかわらず,原告Bが無計画な発
注を行った結果,被告は大量な在庫を抱えることになった。しかも,原告Bは,前
記商品を率先して販売するどころか,被告代表取締役の販売の奔走努力を意に介せ
ず,これを無責任に放置した。そして,その退職時には,前記商品在庫は約329
0万円に及び,被告代表取締役及び従業員の努力により現在ではこれが約1942
万円まで減縮されたが,その影響により被告は現在でも決算期に多額の欠損を計上
している。その間,
被告代表取締役は,資金繰りのため,その私財を被告に提供してきた。
(c) 原告Bは,被告がこのような状態にありながら,その職務に専念することを
怠っていたほか,勤務態度の面において,その職務に対し不熱心な態度をとり,従
業員の勤務時間と比較して短い時間しか職務に従事しないなど,従業員の士気を削
ぐ勤務態度を続け,後記の恣意的な行動と相まって,被告の社内の秩序を著しく乱
した。
(d) 原告Bは,その在職中,職権を濫用し,その部下である被告営業一部所属の
従業員Hを自ら担当する得意先訪問活動に運転手として従事させていた。そして,
原告BがHに集金業務を命じていたところ,Hが集金した現金を使い込むなどの不
祥事が生じたにもかかわらず,自らの監督責任をとることなく,被告代表取締役の
解雇すべきとの意見を無視し,漫然とHを従前の業務に従事させた結果,Hは得意
先訪問と称して出張し,その得意先を訪問することなく,日中からパチンコ遊戯を
行い,出張旅費を使い果たしたあげくに,金銭を紛失したとして得意先から借金を
するなどしたため,被告は著しくその信用を失墜した。
(e) 原告Bは,営業を統括する立場にありながら,自らの気に入った特定の得意
先四,五社のみを訪問し,また,特定の取引先との交際のため交際費,協賛金等を
過剰に支出するなど,非常に偏った恣意的な営業活動を行っていた。
(f) 原告Bは,その在職中の平成6年11月,被告の取引先である大阪所在の吉
野昌の商品の販売に際して,仕入先の商品の確認を怠り,見本と異なる商品を納入
したことから,被告は前記取引先から約223万円に及ぶペナルティ値引を余儀な
くされた。このとき,原告Bは自己の責任を認め,被告に対して同値引分を補填支
払うことを約したが,現在もその実行はなされていない。
(g) 原告Bは,その平成7年8月31日の退職前の同年4月2日から病気を理由
に休職していたものであるが,その後復職することなく,一方的に退職するに至っ
たものであり,被告における自己の地位及び責任を全く無視した退職であった。
(h)以上によれば,原告Bは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者に該当
せず,また,同第7条に規定する引継をなしていない。そして,原告Bに対して
は,本件退職金支給規定第11条二ないし五号に該当する者として,その退職金は
支給されない。
c 原告Dについて
(a) 原告Dは,平成5年11月に被告営業一部課長に昇進した後,被告の得意先
である静岡地区24社,高崎地区3社,浜松地区10社,北陸地区6社及び名古屋
市内の1社の合計44社の営業担当をし,具体的には,得意先を訪問しての営業活
動,受注・手配業務,売掛金の回収業務,得意先の信用管理等の業務を行ってい
た。ところで,営業社員は全員,月に最低1回は得意先を訪問し,その職務を全う
すること,訪問後には,報告書を作成し,上司に報告・連絡することが義務づけら
れており,また,訪問の際には,社内規定として,出張予定表及び出張報告書の提
出,直行直帰の禁止が定められている。しかるに,原告Dは,これらの規定・義務
に違反し,得意先への訪問を履行せず,特に,退職前の平成7年7,8月にあって
は,得意先訪問を全く
なしていない状況にあった。また,その後も,同年9月から退職までの間も訪問し
ていない得意先地区があった。
(b) 原告Dは,腰痛を理由に要求されている営業活動の拒否を続け,また,上司
より社有車による訪問でなく,公共交通機関を利用すること,宿泊でなく日帰りで
あっても営業活動を続けるべきとの指示を受けていたのにこれを全く無視し,職務
放棄を続けていたものである。退職前の平成7年4月から同年6月までの営業活動
については,訪問予定表を提出するのみで,報告書の提出は一切なく,訪問後の報
告義務を全く果たしていない状況にあったにもかかわらず,日当のみは請求すると
いった勤務態度であった。
(c) 結果として,原告Dは,毎期営業成績を悪化し続け,毎期営業欠損を続けて
きたものである。原告Dのこのような勤務態度に対し,営業会議の際ないしはその
都度厳重注意をしていたが,原告Dは指示を全く無視したのみか,上司に対し反抗
的態度を示し,ついには営業会議への出席すら拒否するといった行動をとっていた
ものである。また,原告D担当の名古屋市内の唯一の得意先(株式会社日本趣味の
店)への訪問についても,同社への訪問と称して午後に被告を出たまま帰社せず,
直帰する勤務態度であり,毎日のごとく訪問していたはずの得意先は,原告D退職
後間もなく倒産し,被告は1000万円を超える売掛金の損失を蒙ったのである。
また,原告Dが売掛金の照合を怠っていたためにその回収が著しく困難となってい
る得意先が数社存在
している。
(d) 原告Dが,前記得意先への訪問を実際になしていたか否かについて多大の疑
問があり,また,仮になしていたものとしても,売掛金の回収,信用管理は無責任
と評せざるを得ず,原告D訪問後の報告が全くなかったため,被告は前記損失を蒙
ったものである。原告Dのこのような勤務態度は,社内秩序を著しく乱し,他の従
業員の士気を著しく低下させるものであった。
(e) 原告Dは,平成7年10月30日に退職願を提出しているが,担当業務の引
継については,そのための訪問すらなされていない地区があり,引継においても,
顧客引き継ぎ表の作成・提出もなく,同年12月21日に上司と共に市内得意先訪
問に出掛けた後出社しなくなったものである。
(f)以上によれば,原告Dは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者に該当
せず,また,同第7条に規定する引継をなしていない。そして,原告Dに対して
は,本件退職金支給規定第11条二ないし四号に該当する者として,その退職金は
支給されない。
d 原告Eについて
(a) 原告Eは,被告営業二部に配属され,中部地区の百貨店を担当していたが,
その主な職務内容は,得意先への訪問による営業活動,得意先からの受注及び手配
業務,得意先への売掛金の回収業務,得意先の信用管理等であった。ところで,被
告の営業社員はすべて得意先へ訪問し営業活動を行い,その職務を全うすることが
義務づけられており,また,訪問後は必ず上司に報告書を提出し,その結果を報
告・連絡することが義務づけられている。さらに,得意先への訪問においては,日
報の提出,直行直帰の禁止が社内規定となっている。しかるに,原告Eは,毎日午
後,得意先への訪問と言って出掛けた後は,所在が不明となり,訪問先であるはず
の得意先から連絡が欲しい旨の電話が入ることが度々であり,被告から原告Eに対
して連絡をとるにもと
れないことが日常茶飯事といってよい勤務態度であった。このため他の従業員から
の不信感も強く,社内規定である直帰の禁止を全く無視し,社内秩序を著しく乱す
ものであった。
(b) 原告Eは,名古屋及び豊橋市内の百貨店を担当していたが,毎期営業成績は
低迷し続け,自らの給与も稼ぐことができないほど悲惨なものであった。また,仕
入業務担当の折には,無計画な生産を工場に依頼したため,被告は,各仕入先に対
し,数百万円に及ぶ不良在庫が生じ,現在その引取に対し,対応に苦慮している状
態である。さらに,原告Eが在職中に担当していた得意先への売掛金の未照合が未
だ数百万円存在しており,現従業員がその照合を行っているところである。また,
在職中に無計画に仕入・生産された在庫として残っている商品の処理に関し,現担
当者は欠損販売をし,その処理に当たっている。
(c) 被告代表取締役は,原告Eに対し,厳重注意を繰り返していたが,原告Eは
全くこれを無視する態度を続け,社内秩序を著しく乱すものであった。原告Eのこ
のような勤務態度は,被告の就業規則の懲戒解雇事由である第18条三号に該当す
るものとの判断の下,被告代表取締役は,原告Eへの指導を続けていたが,平成9
年10月14日の個人面談の際に厳重注意を与えたところ,他の従業員の面前で暴
言を吐き,そのまま退社してしまった。
(d) そこで,被告代表取締役は,原告Eを被告の風紀・秩序を乱し続けたことを
理由に懲戒解雇することを決定し,原告Eに同解雇の意思表示を伝えるべく,平成
9年10月14日夜,原告Eに対し,翌15日に出頭するよう電話連絡した。
(e) 翌15日に原告Eが出頭したので,被告代表取締役は,原告Eに対し,懲戒
解雇の意思表示をしようとしたところ,原告Eは,自ら退職願を提出した。被告代
表取締役は,退職願が提出されたことから,原告Eを自己都合による退職として扱
うこととし,同日原告Eは退職した。
(f) しかし,原告Eが,自ら退職願を提出して退職したにもかかわらず,勤務の
継続を強く希望したため,被告は,その後平成9年12月末日まで,日給によるア
ルバイト雇用として,勤務地を変更して原告Eの希望を受け入れてきたが,原告E
の勤務態度は従前と同じであり,被告代表取締役・上司等の指導にもかかわらず,
全く是正されなかった。
(g) 原告Eのこのような無責任・無秩序な仕事の結果,原告Eのかつての部下の
従業員はその事後処理を余儀なくされている。原告Eは,被告従業員として職場秩
序を維持すべきであるにもかかわらず,職務に対し無責任なばかりか,被告の備品
設備を故意に損壊し,素行不良により社内の風紀を乱し,業務上の指示命令に従わ
ず職場秩序を乱し続けた者である。
(h) 以上によれば,原告Eは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者に該当
しない。そして,原告Eに対しては,本件退職金支給規定第11条四号に該当する
者として,その退職金は支給されない。
e 原告Fについて
(a) 原告Fは,平成6年4月に被告商品管理課長に昇進した後は,商品の物流に
かかわる業務の管理を担当していたものであり,その具体的内容としては,主に,
入出庫の商品管理,加工所・作業所の加工管理,仕入売上の計上管理,在庫商品の
商品管理,物流にかかわる業務管理であった。
(b) 原告Fは,商品管理課長として,その統括責任者であったものであり,商品
管理にあっては,日常の整理整頓を必ず行い,当然のことながら入出庫業務の処理
を正しく行うことが要請されているところ,原告Fは全くこの責任を果たさなかっ
た。具体的には,商品在庫については,台帳在庫と実際在庫が食い違っていること
が日常茶飯事であり,全く改善されず,毎期の棚卸において数百万円のロスが発生
することが続く状態であった。商品の移動等については管理課の職務であるにもか
かわらず,無秩序に商品の移動がなされ,ロスの発生に対しても,自らの責任につ
いて営業への責任転嫁を行い,全く無責任な勤務態度に終始した。
(c) 原告Fの突然の退職により,商品管理課の業務は混乱し,部下の従業員は,
原告Fの在職中に全く整理されていなかった商品管理のために,原告F退職後,毎
晩夜中までその整理に当たらざるを得ない状況にあった。
(d) 原告Fは,出社しなくなった前日である平成8年2月29日に,被告代表取
締役に対し,電話で退職の意思を伝えたものであり,被告の承認を得ない一方的な
ものであった。当時の被告の就業規則によれば,自己都合による退職の場合,少な
くとも14日前までに退職願を総務まで提出しなければならず,提出後も,被告の
承認があるまでは従前どおり業務に従事し,業務の引継を完了しなければならない
とされていたが,原告Fの退職手続はその条件を充足していないものであった。
(e)以上によれば,原告Fは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者に該当
せず,また,同第7条に規定する引継をなしていない。そして,原告Fに対して
は,本件退職金支給規定第11条二ないし四号に該当する者として,その退職金は
支給されない。
f 原告Gについて
(a) 原告Gは,営業を担当していたが,平成7年の年末終令後,突然年明けから
出社しなくなったものであり,退職願も提出せず,被告の承認を得ることなく一方
的に退職したものである。
(b) 原告Gの在職中の勤務ぶりについては,そのタイムカード記録が示すよう
に,直帰を繰り返す勤務であり,また,業務の引継については,顧客引き継ぎ表の
作成,提出もなく,何ら責任も義務も果たさず退職したものである。
(c) 原告Gは,その担当得意先からの別注商品の作成について,これを全く無責
任に生産し,その販売等の処理をすることなく,引継の書類の作成もなく放置して
退職した。原告Gは,前記別注商品について,いかなる得意先のいかなる担当者か
ら受注したのか,その商品の在庫が何故残っているのか,販売に当たってどのよう
に処理すべきか等の記録を全く残していない。原告Gが担当していた得意先との売
掛金未照合により違算も残っており,原告Gがこれらの業務の引継をなさずして退
職した結果,現在も被告はその処理に苦慮している。
(d)以上によれば,原告Gは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者に該当
せず,また,同第7条に規定する引継をなしていない。そして,原告Gに対して
は,本件退職金支給規定第11条二ないし四号に該当する者として,その退職金は
支給されない。
(イ) 原告Cを除くその余の原告らの主張
a 原告Aについて
 原告Aは,被告代表取締役から,営業会議から退席せよ,もう今日から出なくて
よいと指示され,その命令に従って,営業会議から退席し,退職したものである。
引継書も作成して提出しており,引継に関しても何ら問題はない。原告Aが担当し
ていた有限会社むさしや,タキトミ株式会社,城東タオル株式会社,小島タオルに
関しても,原告Aの在職中の勤務態度に何ら問題はない。その他原告Aには何ら退
職金支給に支障を来す事由はない。
b 原告Bについて
原告Bの勤務ぶりに対する被告の非難は全く失当であり,原告Bに退職金不支給
事由は存しない。
c 原告Dについて
  原告Dに対する被告の非難は事実に反するもので,原告Dの勤務ぶり,退職に
際しての引継について,何ら非難される点はない。
d 原告Eについて
  被告において,直帰禁止の取扱いはなされておらず,原告Eは,事前に電話で
上司の了解をとってから直帰していたものである。また,営業成績も悪くはない。
さらに,一時金支給が1か月分である旨個人面談で通告された際に,それに対する
不満を同僚の前で述べたにすぎず,到底暴言とはいえないものである。
e 原告Fについて
  原告Fは,商品管理課長として,入出庫業務の処理を正しく行うべく最善を尽
くして業務を遂行してきたものである。また,原告Fは,詳細な引継書を作成して
おり,原告Fの退職後も商品管理の業務に何ら混乱はなかった。さらに,原告F
は,退職の意思表示及び退職届を退職時の14日前までに被告に提出している。被
告の主張は全く事実に反するものであり,到底退職金不支給なり減額事由になり得
ないものである。
f 原告Gについて
  原告Gは,平成7年10月の個人面談の際,退職したい旨の意思表示をし,同
時に退職願も被告に提出しており,原告Gの退職手続には何ら問題がなく,被告主
張のような事実はなく,退職金不支給事由はない。
ウ 争点③について
 (ア) 原告B及び原告Cの主張
 被告は,従業員に被告の株式(株券は不発行)を額面金額(1株50円)で購入
させてきたものであり,その際,従業員との間で,退職時には被告が責任をもって
株式の譲受人を確保し,額面による買取代金を被告が立て替えて支払う旨の合意
(以下「本件合意」という。)をしたものであって,原告Bは2万株,原告Cは1
万株の被告株式をそれぞれ取得した。原告Bと原告Cは,それぞれ被告を退職した
ことにより,本件合意に基づき,被告に対し,原告Bにつき100万円の,原告C
につき50万円の各株式買取代金立替払請求権を取得した。
(イ) 被告の主張
a 本件合意がなされたことはない。過去において被告代表取締役若しくは第三者
が被告従業員の株式を買い取っている事実は,その時々における状況判断によるも
のであり,同事実をもって,本件合意が推認されるものではなく,特に原告B及び
原告Cは,被告の取締役の地位にあったものであることが留意されるべきである。
b 原告B及び原告Cの本件合意にかかる主張は,被告に対して買受人未決定のま
ま株式の買取代金の立替払を求めるものであり,かかる請求は,被告に自己株式の
取得を強制するものとして許されないというべきである。
第3 判断
1争点①(原告Bにつき,本件退職金支給規定の適用があるか)について
(1) 前記争いのない事実に証拠(原告B本人尋問の結果,甲3,6,7の1,1
8,21,24の1,40,44,51の1・2,52の1ないし3,57,6
2,乙14,24,40の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を
認めることができる。
ア 原告Bは,昭和27年4月21日被告に雇用され,昭和55年10月31日被
告の取締役に就任し,昭和57年1月1日被告の常務取締役に就任したが,従業員
から取締役に就任する際に従業員としての退職金の支給は受けなかった。従業員と
取締役の在職期間を通算して退職金を支払うというのが被告における従前の取扱例
であり,被告が生命保険会社と締結した企業年金保険契約(乙14)においても,
被保険者として「甲(被告)の使用人(使用人兼務役員を含む)」とされており,
取締役を兼務していた原告C(甲18)やI(甲24の1)なども,従業員期間と
取締役を兼ねた期間を通算した期間に対応した退職一時金の支給を受けている。
イ 原告Bは,取締役に就任した後も,役員報酬としてではなく,従前と同様に,
賃金台帳(乙40の1,2)に記載された各種手当を含む賃金の支払を受けていた
ものであり,取締役就任により給与の支払形態が変わったということはなく,常務
取締役に就任した後は,支給額が上がり,各種手当の加算されない基本賃金ないし
基本給のみが支給されるようになり,雇用保険料の控除もなくなったが,その後も
なお,「(常時使用される労働者に対するもの)」と付記された賃金台帳(乙40
の3,4)及び給料計算書(甲3の別紙)に記載された基本賃金,基本給ないし本
給名目の金員の支給を受けていたものである。
ウ 原告Bは,取締役に就任した後,取締役としての職務も行うようになったが,
常務取締役となった後も従前の販売の仕事を受け持っており,被告代表取締役の指
示の下,個人としての売上のノルマも設定されており(甲44),一般従業員と同
様に販売のための出張も行う(甲51の1・2,52の1ないし3)などして就労
し,営業成績考課表(甲40),営業成績表(乙24)などには,原告Bら取締役
も含む全営業担当者の営業成績が記載され,労働時間についてはタイムカードの打
刻によって管理され,有給休暇も与えられていた。
(2) 被告の本件退職金支給規定は,雇用契約に基づく従業員の退職金について定め
たものであるところ,前記認定事実によれば,原告Bは,取締役あるいは常務取締
役に就任した後も,被告の従業員としての地位を併有していたものというべきであ
り,本件退職金支給規定の適用があると認めるのが相当である。
  そして,退職金算定の基礎となる在職期間については,原告Bが取締役に就任
した時点で退職金の支払がなく,他の従業員と取締役の地位を併有していた者に対
して従業員期間と取締役を兼ねた期間を通算した期間に対応した退職一時金が支払
われている事実に鑑みれば,取締役辞任の時点まで通算されるものと認めるのが相
当である。
  また,退職金算定の基礎となる給与額については,原告Bが常務取締役に就任
した後は,基本賃金ないし基本給のみの支給となり,各種手当や賞与の支払もな
く,雇用保険料の控除もなくなったことが認められるものの,基本賃金ないし基本
給名目の金員に占める労働対価部分と取締役報酬部分を截然と区分することはでき
ず,「(常時使用される労働者に対するもの)」と付記された賃金台帳に基本賃金
と記載された金員ないし給料計算書に本給と記載された金員の支給を受けていたも
のである以上,その額である月額52万2000円をもって退職金算定の基礎とな
る給与額と認めるのが相当である。
(3) そうすると,本件退職金支給規定により計算すると,原告Bの退職金の額は,
1052万7000円(52万2000円×(43+4÷12-3)÷2(円未満
四捨五入))となる。
(4) これに対し,被告は,取締役若しくは常務取締役である原告Bは,取締役の職
務にだけ専念すべきものとされ,報酬も役員報酬一本として支給され,勤務時間も
定められておらず,同人が常務取締役に就任した以降は雇用保険への加入もないか
ら,被告の従業員としての地位を喪失したものであり,本件退職金支給規定の適用
はない旨主張し,被告代表者本人はこれに沿う供述をし,乙38,48にはこれに
沿う記載がある。 しかし,前記認定事実に反する部分は,前掲証拠に照らしたや
すく採用することができず,原告Bに本件退職金支給規定の適用がないとの被告の
主張を採用できないことは,前記説示のとおりである。
2 争点②(原告Cを除くその余の原告らにつき,退職金不支給事由があるか)に
ついて
(1) 本件退職金支給規定において,退職金の支給について具体的定めがある以上,
従業員の退職金請求権は具体的権利として保護されるべきものであり,退職金不支
給事由の存否を判断するに当たっては,従業員の永年の勤続の功労を抹消してしま
うほどの著しく信義に反する行為と評価できる事由が存することを要すると解すべ
きである。
  以下,前記のとおりの見解に立って,原告Cを除くその余の原告らにつき,永
年の勤続の功労を抹消してしまうほどの著しく信義に反する行為と評価できるよう
な退職金不支給事由があるか否かを判断することとする。 
(2) 原告Aについて
ア 被告は,原告Aが,被告の再三の慰留にかかわらず,退職願を提出し,被告の
営業会議が開かれていた途中で退席してそのまま出社しなくなったものであって,
担当業務の引継を全くしないのみか,被告の承認を得ずして一方的に退職したもの
であり,営業会議中の突然の退社という行動は,部下等に対し動揺を与える等社内
の秩序を著しく乱したものと評価されてしかるべきである旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙4,21ないし23にはこれに
沿う記載がある。
  しかし,証拠(原告A本人尋問の結果,甲2,4,15の3,25の1・2,
32,65)によれば,以下の事実が認められ,これに反する被告申請の前掲証拠
は採用することができない。
  すなわち,原告Aは,被告に35年以上勤務していたが,3期分にわたり賞与
の支給がなく,住宅ローンの支払にも窮する状態となったことから,退職を決意
し,平成11年4月末に退職届を提出した。被告代表取締役からは,同年8月末の
決算まで在職することを要請されたので,原告Aは,それまでに引継が行われるこ
とを要求し,同年8月末まで在職することとした。しかし,その間,被告代表取締
役から引継についての指示はなかったので,原告Aは,同年9月20日まで在職を
延長し,その間に引継をすることとし,同月4日,被告代表取締役に対し,後任者
を得意先に紹介することについての指示を要請した(甲15の3)。しかし,被告
代表取締役から後任者の指定がなかったため,後任者を得意先に紹介することはで
きなかったが,原告A
としては,引継書(甲25の1・2)を作成して,同月13日,被告代表取締役と
営業員全員に渡した。なお,乙9の引継書用紙は,原告Bが作成したもので,引継
書の作成について乙9の書式に従わなければならないとの指示はなかった。そし
て,同月20日の定例の営業会議において,原告Aが,自分の退職の件を議題とし
て提出したところ,被告代表取締役から,そのことはいいから営業会議から退席せ
よ,もう今日から出なくてよいと言われたので,その命令に従って,営業会議から
退席し,同日をもって被告を退職した。
以上認定の事実によれば,原告Aが,担当業務の引継を全くせず,被告の承認
を得ずに一方的に退職し,社内の秩序を著しく乱したとする被告の主張は採用する
ことができない。
イ 被告は,原告Aが担当していた取引先の一つに有限会社むさしやがあり,かね
てからその信用管理が問題となっていたが,原告Aが退職の申入れをなす直前に同
会社振出の140万円の手形が不渡りとなり,その大半が同不渡り直近に出荷した
代金であったから,原告Aは,同会社の信用管理を怠り,その倒産後も無責任に放
置し,職務放棄と評されても仕方のない勤務態度であった旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙10にはこれに沿う記載があ
り,乙11の1ないし4によれば,有限会社むさしやに対する被告の売掛金が,平
成11年6月30日にはゼロであったが,同年8月31日までに141万円余りに
なったことが認められる。
  しかし,証拠(原告A本人尋問の結果,甲5,8)によれば,原告Aは,被告
代表取締役から,どんどん売り込めと言われ,有限会社むさしやに対する売り込み
に力を入れていたものであり,多いときには月額200万円近くもの販売があった
が,原告Aが,同会社の経営状態について警戒し,集金に気を遣っていたことか
ら,負債額が140万円程度で済んだものと認められるのであって,これに反する
被告申請の前掲証拠は採用することができず,平成11年6月30日にはゼロであ
った同会社に対する売掛金が,同年8月31日までに141万円余りに増え,これ
が同会社の倒産により回収できなくなったことについて,原告Aの職務懈怠,職務
放棄によるものと認めることはできない。
ウ 被告は,原告Aが担当していた取引先にタキトミ株式会社があり,被告は12
1万円の売掛債権を有しているところ,現在同債権の存否をめぐって同会社との間
で見解の対立が生じているが,これは,原告Aが,同会社との取引に当たり,売掛
金を照合し,処理すべきであったのにこれを怠り,担当者としての職責を果たさず
これを放置した結果によるものである旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙10にはこれに沿う記載があ
る。
  しかし,証拠(原告A本人尋問の結果,甲5,8)によれば,被告の営業会議
において配付される回収予定表にタキトミ株式会社に対する売掛残高があると記載
されたことはなく,原告Aとしては,違算が生じるような手続処理をしたこともな
いことから,全額入金済みと考えていたことが認められるのであって,これに反す
る被告申請の前掲証拠は採用することができず,原告Aにおいて売掛金の照合等の
職責を果たさなかったために被告とタキトミ株式会社との間で売掛債権の存否をめ
ぐって対立が生じていると認めることはできない。
エ 被告は,タキトミ株式会社と同様のことは,城東タオル株式会社についても当
てはまり,同会社に対しては合計243万1208円の売掛金の存否をめぐり問題
化している旨主張する。
  しかし,証拠(原告A本人尋問の結果,甲5)によれば,城東タオル株式会社
との商談はほとんど被告代表取締役がしており,原告Aとしては,売掛金の食い違
いについて心当たりはないことが認められるのであって,原告Aの怠慢や不注意に
より,城東タオル株式会社に対する売掛金の存否が問題化したものと認めることは
できない。
オ 被告は,原告Aが担当していた小島タオルに対して,566万円の未回収金が
発生しているが,被告としては,同会社に対する未回収金が多額となったことか
ら,平成9年に出荷をストップし,以後,原告Aに対し,未収金の回収を指示して
きたところ,原告Aは,回収の努力をせず,放置していたものであり,そのため,
被告代表取締役は,原告Aを同行して前記会社を訪問し,毎月15万円の支払方を
提示し,原告Aに対し,その後の代金回収に万全を期すよう指示していたが,原告
Aはこれに反し回収努力を全くしなかった旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙10にはこれに沿う記載があ
る。
  しかし,証拠(原告A本人尋問の結果,甲5,8,30)によれば,原告A
は,小島タオルからの集金を主に担当していたものであり,同会社に対する売掛残
高は,原告Aが担当するようになった時点から増えてはおらず,原告Aとしては,
同会社に対し,多少の納品をしつつ,売掛金を回収することを目指し,被告代表取
締役と共に交渉し,その後も,原告Aにおいて,同会社に対し,月々5万や10万
の入金では困る等の申し入れをし,集金に力を入れていたことが認められるのであ
って,これに反する被告申請の前掲証拠は採用することができず,原告Aが回収努
力を全くせず,放置していたものと認めることはできない。
カ 被告は,原告Aの勤務態度が,上長の指示に従わないものであり,また,原告
Aは,退社時において前記案件の処理についての引継を一切していないものであっ
て,原告Aは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者に該当せず,また,同第
7条に規定する引継をなしていないから,原告Aに対しては,本件退職金支給規定
第11条二ないし四号に該当する者として,その退職金は支給されない旨主張す
る。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙4,10,21,22,23に
はこれに沿う記載がある。
  しかし,証拠(原告A本人尋問の結果,甲2,4,8,16,17,19ない
し22,23の1・2,26,27の1ないし5)によれば,原告Aは誠実に勤務
してきたものと認められるのであって,その勤務態度が,上長の指示に従わないも
のであり,著しく社内の秩序を乱したと認めることはできず,また,原告Aが退職
するに至る経緯は前記認定のとおりであって,業務の引継をしなかったとか,被告
の承認を得ずに一方的に退職したとかいうことはできず,これに反する被告申請の
前掲証拠は採用することができない。そうすると,原告Aについて,本件退職金支
給規定の第2条に規定する者に該当しないとか,同第7条に規定する引継をなして
いないとかいうことはできず,原告Aが本件退職金支給規定第11条二ないし四号
に該当する者として
退職金が支給されないとする被告の主張は採用することができない。
(3) 原告Bについて
ア 被告は,仮に,原告Bについて,本件退職金支給規定が適用されるとしても,
原告Bは,常務取締役として営業部門及び商品管理部門の最高責任者であり,昭和
62年ころから,セラミックタオルの開発,企画,仕入れを担当していたものであ
るが,無計画な発注を行った結果,被告は大量な在庫を抱えることになったが,率
先して販売するどころか,被告代表取締役の販売の奔走努力を意に介せず,無責任
に放置したため,その退職時には,在庫は約3290万円に及び,被告代表取締役
及び従業員の努力により現在ではこれが約1942万円まで減縮されたが,その影
響により被告は現在でも決算期に多額の欠損を計上している旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙38,48,49にはこれに沿
う記載があり,乙44の1ないし9,45の1ないし4によれば,セラミックタオ
ルの在庫が昭和62年8月には2308万円余りであったものが,その後増加し,
平成元年9月には5117万円余りとなり,その後も4000万円台で推移した
が,売上は年間1000万円に達していなかったことが認められる。
  しかし,証拠(原告B本人尋問の結果,甲3,7の1,45,46,48,5
0,57)によれば,以下の事実が認められ,これに反する被告申請の前掲証拠は
採用することができない。
  すなわち,セラミックタオルは,先代のJが被告の代表取締役であった時代
に,抗菌作用の高いタオルとして開発し,原告Bらの名前で特許(甲50)を取得
した商品で,先代の被告代表取締役も当時企画室長であった現被告代表取締役もそ
の企画の推進に関与し,平成5年ころまでは多大の売上が上がり,原告Bは先代の
被告代表取締役から表彰されるなどした。その後,売上が落ち込むようになり,売
れ残りが出て損失を計上したが,仕入額については,被告の企画会議を経て,被告
代表取締役の了解の下に毎年計画を立てていたものであり,損失の計上について専
ら原告Bに責任があるということはできない。
イ 被告は,原告Bが,被告が前記のような状態にありながら,その職務に専念す
ることを怠っていたほか,その職務に対し不熱心な態度をとり,従業員の勤務時間
と比較して短い時間しか職務に従事しないなど,従業員の士気を削ぐ勤務態度を続
け,被告の社内の秩序を著しく乱した旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙38にはこれに沿う記載があ
る。
  しかし,証拠(原告B本人尋問の結果,甲7の1,45,46,48,57)
によれば,原告Bは熱心に職務を行っていたものと認められるのであって,これに
反する被告申請の前掲証拠は採用することができず,原告Bが従業員の士気を削ぐ
勤務態度を続け,被告の社内の秩序を著しく乱したと認めることはできない。
ウ 被告は,原告Bが,その在職中,職権を濫用し,その部下のHを自ら担当する
得意先訪問活動に運転手として従事させ,集金業務を命じていたところ,Hが集金
した現金を使い込むなどの不祥事が生じたにもかかわらず,自らの監督責任をとる
ことなく,被告代表取締役の解雇すべきとの意見を無視し,漫然とHを従前の業務
に従事させた結果,Hは得意先訪問と称して出張し,その得意先を訪問することな
く,日中からパチンコ遊戯を行い,出張旅費を使い果たしたあげくに,金銭を紛失
したとして得意先から借金をするなどしたため,被告は著しくその信用を失墜した
旨主張し,乙38には同主張のとおりであるとの記載がある。
  しかし,甲7の1によれば,原告Bとしては,引継や特別な商談等にはHや他
の従業員を当然に同行していたものであって,Hを自己の運転手として従事させて
いたわけではなく,Hの一度目の不祥事に対しては,原告Bと被告代表取締役とで
事情聴取の上,訓戒処分とし,二度目の不祥事発覚の際には,被告代表取締役が,
原告BやHの上司に相談することなくHを解雇したものであることが認められるの
であって,Hの行為に関して,原告Bに退職金不支給事由に該当するような著しく
信義に反する行為があったものと認めるに足りる的確な証拠はない。
エ 被告は,原告Bが,営業を統括する立場にありながら,自らの気に入った特定
の得意先四,五社のみを訪問し,また,特定の取引先との交際のため交際費,協賛
金等を過剰に支出するなど,非常に偏った恣意的な営業活動を行っていた旨主張
し,乙38には同主張のとおりであるとの記載がある。
  しかし,証拠(原告B本人尋問の結果,甲7の1,45,55ないし57)に
よれば,原告Bは,得意先の接待ゴルフも,年休を取って,個人負担で参加し,得
意先関係の結婚式に参列するための費用も自己負担していた(甲55,56)こと
が認められるのであって,原告Bが非常に偏った恣意的な営業活動を行っていたも
のと認めるに足りる的確な証拠はない。
オ 被告は,原告Bが,その在職中,取引先である吉野昌の商品の販売に際して,
仕入先の商品の確認を怠り,見本と異なる商品を納入したことから,被告は約22
3万円に及ぶペナルティ値引を余儀なくされ,原告Bは自己の責任を認め,被告に
対して同値引分を補填支払うことを約したが,現在もその実行はなされていない旨
主張し,乙38にはこれに沿う記載があり,乙39によれば,被告が吉野昌に対し
約223万円に及ぶ値引をしていることが認められる。
  しかし,証拠(原告B本人尋問の結果,甲7の1,57)によれば,吉野昌に
対する約223万円の値引は,本来はメーカーの責任によるものであるが,被告の
責任分として値引に応じたものであり,被告代表取締役からは,原告Bに対し,被
告の損害負担分については被告で全額持つから,原告Bはこの件に関して一切交渉
するなとの指示があったものであり,原告Bにおいて,その責任が自己にあるもの
として被告に補填を約束したことはないことが認められるのであって,これに反す
る被告申請の前掲証拠は採用することができず,被告において吉野昌に対し約22
3万円の値引をしたが,原告Bがその補填をしていないことをもって,退職金不支
給事由に該当するような著しく信義に反する行為ということはできない。
カ 被告は,原告Bが,その退職前から病気を理由に休職していたが,その後復職
することなく,一方的に退職するに至ったものであり,被告における自己の地位及
び責任を全く無視した退職であった旨主張し,乙38,48,49にはこれに沿う
記載がある。
  しかし,証拠(原告B本人尋問の結果,甲7の1ないし3,45,46,4
8,54,57,62)によれば,以下の事実が認められ,これに反する被告申請
の前掲証拠は採用することができない。
  すなわち,原告Bは,平成6年11月ころ,被告総務部長同席の場で被告代表
取締役と話し合い,退職の意思を表明したのに対し,被告代表取締役から,幕を引
くという発言があり,平成7年1月には,原告B担当の得意先に対し,原告Bの退
職を認めた旨の説明がされた。そこで,原告Bとしては,退職が認められるものと
考え,糖尿病と肝機能障害により早期の入院が必要であると言われていたが,被告
を退職するための引継書の作成等を終えた上で,同年4月から同年6月まで入院し
た(甲54)。被告は,同年5月,原告Bが被告を退職する旨の挨拶状を被告と原
告Bの各名義で得意先に送付した(甲7の2・3)。
以上認定の事実によれば,原告Bは,引継等の責任も果たした上で被告を円満退職
したものと認められるのであって,原告Bの退職が一方的なもので,被告における
自己の地位及び責任を全く無視したものということはできない。
キ 被告は,原告Bが,本件退職金支給規定の第2条に規定する者に該当せず,ま
た,同第7条に規定する引継をなしておらず,原告Bに対しては,本件退職金支給
規定第11条二ないし五号に該当する者として,その退職金は支給されない旨主張
する。
しかし,以上認定の事実によれば,被告の主張は理由がないというべきであ
る。
(4) 原告Dについて
ア 被告は,営業社員は月に最低1回は得意先を訪問し,訪問後は報告書を作成す
ることが義務づけられており,また,訪問の際には,出張予定表及び出張報告書の
提出,直行直帰の禁止が定められていたにもかかわらず,原告Dは,これに違反
し,腰痛を理由に要求されている営業活動の拒否を続け,また,上司より社有車に
よる訪問でなく,公共交通機関を利用すること,宿泊でなく日帰りであっても営業
活動を続けるべきとの指示を受けていたのにこれを全く無視し,退職前の営業活動
については,訪問後の報告義務を全く果たさず,結果として,毎期営業欠損を続
け,そのような勤務態度に対する厳重注意を全く無視し,上司に対し反抗的態度を
示し,ついには営業会議への出席すら拒否するといった行動をとっていたものであ
って,毎日のごとく訪問
していたはずの得意先は,原告D退職後間もなく倒産し,被告は1000万円を超
える売掛金の損失を蒙ったほか,原告Dが売掛金の照合を怠っていたためにその回
収が著しく困難となっている得意先が数社存在しており,原告Dの売掛金の回収,
信用管理は無責任と評せざるを得ず,訪問後の報告が全くなかったため,被告は前
記損失を蒙ったものであって,原告Dのこのような勤務態度は,社内秩序を著しく
乱し,他の従業員の士気を著しく低下させるものであった旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙27にはこれに沿う記載があ
る。
  しかし,証拠(原告D本人尋問の結果,甲11,26,33,34,60,6
1)によれば,以下の事実が認められ,これに反する被告申請の前掲証拠は採用す
ることができない。
  すなわち,原告Dは,平成5年11月に営業成績を評価されて,係長職を飛ば
して主任から課長職に抜擢され,その後も平成7年上期(甲26別紙)まではトッ
プクラスの成績を上げていたが,同年7月ころから腰痛のため成績が上がらないよ
うになった。被告において,営業社員は月に最低1回は得意先を訪問することが義
務づけられていたということはなく,1回でも多く得意先を訪問することが売上向
上のためによいということは営業社員の常識であったにすぎず,原告Dとしては,
腰痛が発症するまでは熱心に得意先を訪問し,訪問できない得意先には,電話やフ
ァックス等による営業活動を行っていた。そして,得意先訪問のための出張で夜遅
くなったりした場合は,上司に電話等で連絡の上,そのまま帰宅することもあっ
た。出張予定表及び出
張報告書の提出も,これをしなければ旅費の前払金の受給とその精算ができないこ
とから,毎回提出していたものであり,そのため未精算金はなかった。営業会議へ
の出席を拒否したということもなかった。その後,腰痛が発症してからは,被告に
診断書を提出の上,遠方への出張はできないので担当を替えてほしいと申し出て,
社内業務に従事していたが,1泊でもよいから出張に行くようにとの指示があった
ことから,腰への負担を少なくするため,公共交通機関ではなく,自己の車を利用
した出張を再開したものの,腰痛が悪化し,同年10月30日,退職願を提出し,
同年12月で退職するに至った。原告Dが担当していた得意先の株式会社日本趣味
の店が原告Dが退職した約10か月後に倒産したが,原告Dが在職中に訪問してい
た時点では集金もき
ちんとできており,同会社の経営状態が悪化していることは把握できなかった。
以上の認定事実によれば,原告Dの勤務態度が,被告の社内秩序を著しく乱
し,他の従業員の士気を著しく低下させるものであったと認めることはできない。
イ 被告は,退職願を提出した原告Dの担当業務引継のための訪問すらなされてい
ない地区があり,引継においても,顧客引継表の作成・提出もなく,上司と共に市
内得意先訪問に出掛けた後出社しなくなったものである旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙27,49にはこれに沿う記載
がある。
  しかし,証拠(原告D本人尋問の結果,甲11,33,61)によれば,原告
Dが平成7年10月30日に退職願を提出してから退職するまで約2か月あり,そ
の間に,原告Dは,引継書を作成して後任の担当者に手渡すとともに,同人を得意
先へ紹介することも行っていたものであり,平成7年12月21日ころ,被告代表
取締役から,引継が完了したかと尋ねられ,株式会社日本趣味の店の引継が完了し
ていないと答えたところ,昼からでも行って引継を完了して辞めろと言われたこと
から,後任の担当者と共に同会社に赴き挨拶をするなどして引継を完了し,被告代
表取締役の前記言動から,これにより退職が承認されたものと考え,そのまま帰宅
して以後出社することはなかったことが認められるのであって,これに反する被告
申請の前掲証拠は採
用することができない。
ウ 被告は,以上によれば,原告Dは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者
に該当せず,また,同第7条に規定する引継をなしておらず,原告Dに対しては,
本件退職金支給規定第11条二ないし四号に該当する者として,その退職金は支給
されない旨主張する。
しかし,以上認定の事実によれば,被告の主張は理由がないというべきであ
る。
(5) 原告Eについて
ア 被告は,営業社員はすべて得意先へ訪問し営業活動を行い,その職務を全うす
ることが義務づけられており,また,訪問後は必ず上司に報告書を提出し,その結
果を報告・連絡することが義務づけられており,さらに,得意先への訪問において
は,日報の提出,直行直帰の禁止が社内規定となっているにもかかわらず,原告E
は,毎日午後,得意先への訪問と言って出掛けた後は,所在が不明となり,訪問先
であるはずの得意先から連絡が欲しい旨の電話が入ることが度々であり,被告から
原告Eに対して連絡をとるにもとれないことが日常茶飯事といってよい勤務態度で
あったものであり,このため他の従業員からの不信感も強く,社内規定である直帰
の禁止を全く無視し,社内秩序を著しく乱すものであった旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙34,48にはこれに沿う記載
がある。
  しかし,証拠(原告E本人尋問の結果,甲10,36の2,39,64)によ
れば,以下のとおりの事実が認められ,これに反する被告申請の前掲証拠は採用す
ることができない。
  すなわち,原告Eは,被告に入社してから,主に百貨店担当の営業に当たって
いたものであり,宿泊を伴う出張はなく,通常は,被告営業センターに出社し,百
貨店からの注文品について,出荷伝票を作成し,値札を貼り付けるなどした上で,
納品代行業者に渡し,その後は,担当の百貨店に赴き,商品の仕分け,陳列,販
売,配送の手配などの業務を行っていた。百貨店閉店後も,注文のあった商品の梱
包,配送の手続などのため,毎日9時ころまで残業をしていた。それから被告営業
センターに帰っても仕事はないので,直接帰宅する場合にはその旨上司に電話で連
絡しており,直帰について被告から注意を受けたことはなかった。また,百貨店か
らの要請により,被告営業センターに出社することなく,直接百貨店に赴く場合に
も,被告に電話で連絡
しており,直行について被告から注意を受けたこともなかった。他の百貨店や量販
店担当の従業員にも直行直帰をしていた者がいたが,そのことについて被告から注
意を受けた者はいなかった。さらに,泊まりがけの出張の場合と異なり,名古屋市
周辺の顧客を訪問する場合,報告書を提出するようにと被告から指示されたことは
なく,報告書を提出しないことで苦言を呈されたこともなかった。また,原告Eが
訪問予定の得意先担当者と会えないうちに,同担当者から被告宛に原告Eからの連
絡が欲しい旨の電話が入ることがあったとしても,そう多いことではなく,原告E
が,訪問予定の得意先に赴かないで仕事をサボっていたということはない。
 以上の認定事実によれば,原告Eの勤務態度について,他の従業員からの不信
感が強く,社内規定である直帰の禁止を全く無視したことにより,社内秩序を著し
く乱すものであったと認めることはできない。
イ 被告は,原告Eの毎期の営業成績は低迷し続け,自らの給与も稼ぐことができ
ないほど悲惨なものであったのであり,また,仕入業務担当の折には,無計画な生
産を工場に依頼したため,各仕入先に対し,数百万円に及ぶ不良在庫が生じ,被告
は,現在その引取に苦慮している状態であり,さらに,原告Eが在職中に担当して
いた得意先への売掛金の未照合が未だ数百万円存在し,現従業員がその照合を行っ
ており,原告Eが在職中に無計画に仕入・生産された在庫商品の処理に関し,欠損
販売して,その処理に当たっている旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙34にはこれに沿う記載があ
る。
  しかし,証拠(原告E本人尋問の結果,甲10,36の2,39,乙24,3
0,31)によれば,百貨店が得意先の場合,売上高は低くても宣伝効果等がある
ため,営業成績を単純に売上高で比較することはできないものであって,原告Eの
営業成績は,平成7年下半期の総括貢献点は第1位(乙24),平成9年上半期と下
半期の総括貢献点はそれぞれ第3位(乙30,31)であり,被告から,他の従業員
に比べて特に成績が悪いと指摘されたことはなかったこと,原告Eが被告から仕入
れの権限を与えられたことはなかったことが認められ,これに反する被告申請の前
掲証拠は採用することができない。
 なお,被告は,原告Eが,仕入業務担当の折に,無計画な生産を工場に依頼し
たため,数百万円に及ぶ不良在庫が生じ,被告は,現在その引取に苦慮している状
態であり,さらに,原告Eが在職中に担当していた得意先への売掛金の未照合が未
だ数百万円存在し,現従業員がその照合を行っており,原告Eが在職中に無計画に
仕入・生産された在庫商品の処理に関し,欠損販売して,その処理に当たっている
旨主張するが,そのような事態が原告Eの責に帰すべき事由により生じているもの
と認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ 被告は,原告Eが被告代表取締役の厳重注意を全く無視する態度を続け,社内
秩序を著しく乱したことは,被告の就業規則の懲戒解雇事由である第18条三号に
該当すると判断し,指導を続けていたが,個人面談の際に厳重注意を与えたとこ
ろ,他の従業員の面前で暴言を吐き,そのまま退社してしまったものであり,被告
の風紀・秩序を乱し続けたことを理由に懲戒解雇の意思表示をしようとしたとこ
ろ,原告Eは,自ら退職願を提出して退職したが,その後も勤務の継続を強く希望
したため,日給によるアルバイト雇用としたが,その勤務態度は従前と同じであ
り,被告の指導にもかかわらず,全く是正されなかったものであって,原告Eは,
職務に対し無責任なばかりか,被告の備品設備を故意に損壊し,素行不良により社
内の風紀を乱し,業務上の
指示命令に従わず職場秩序を乱し続けた者である旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙34,48,49にはこれに沿
う記載がある。
  しかし,証拠(原告E本人尋問の結果,甲10,36の2,38,39,6
4)によれば,以下のとおりの事実が認められ,これに反する被告申請の前掲証拠
は採用することができない。
  すなわち,原告Eは,くわえたばこで値札の貼り付け作業をしたことがあった
が,勤務中は禁煙とされていたものではなく,上司から注意されたことはなかっ
た。また,原告Eが,故意に被告事務所の床やテーブルを傷つけたということもな
かった。さらに,原告Eは,平成9年10月14日,被告代表取締役と個人面談を
した際,被告代表取締役から,原告Eの成績は悪くないが,被告全体の成績が悪い
からボーナスは一律1か月であると言われ,個人面談を終えた後,原告Aに対し,
1か月しかない,馬鹿にしてると話したところ,これを聞きつけた被告代表取締役
から,馬鹿にしているのはお前のほうだと言われた。その日の夜,被告総務部長か
ら,原告Eに対し電話があり,被告代表取締役が怒っているがどうしてかと聞かれ
たので,その日の出来
事について説明した。そして,原告Eは,被告代表取締役が成績が良ければ賞与も
与えると言っていたのに裏切られたという思いから,被告を退職することを決意
し,翌15日,退職願を提出した。しかし,原告Eが担当していた百貨店は歳暮が
近く,そのまま退職するのでは不都合があると思い,引継が終わるまで日給のアル
バイトとして雇用してもらうこととし,同年12月まで勤務を続け,その間に後任
の担当者に対する引継を行った。
以上の認定事実によれば,原告Eが,職務に対し無責任なばかりか,被告の備
品設備を故意に損壊し,素行不良により社内の風紀を乱し,業務上の指示命令に従
わず職場秩序を乱し続けたとする被告の主張は採用することができず,原告Eに退
職金不支給事由に該当するような著しく信義に反する行為があったものと認めるこ
とはできない。
エ 被告は,以上によれば,原告Eは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者
に該当せず,原告Eに対しては,本件退職金支給規定第11条四号に該当する者と
して,その退職金は支給されない旨主張する。
しかし,以上認定の事実によれば,被告の主張は理由がないというべきであ
る。
(6) 原告Fについて
ア 被告は,原告Fが,商品管理,物流管理等を担当していたが,商品在庫につい
て,台帳在庫と実際在庫が食い違っていることが日常茶飯事であり,毎期の棚卸に
おいて数百万円のロスの発生が続き,無秩序な商品の移動がなされ,ロスが発生し
ても,営業への責任転嫁を行い,全く無責任な勤務態度に終始した旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙35,48,49にはこれに沿
う記載がある。
  しかし,証拠(原告F本人尋問の結果,甲12,35,36の1,37,6
3,68)によれば,以下の事実が認められ,これに反する被告申請の前掲証拠は
採用することができない。
  すなわち,原告Fは,被告に入社以来,一貫して商品管理の業務に携わってお
り,被告から勤務態度について特に問題点を指摘されたことはなく,平成6年4月
には商品管理課長に昇進した。課長昇進後も,前任の課長はしていなかったが,営
業倉庫にある在庫と台帳に載っている在庫とが一致するかについて現地調査を行
い,食い違いがある場合にはその原因究明を行い,台帳を修正整理して,食い違い
をなくすよう熱心に仕事に励んだ。しかし,営業倉庫に被告の従業員を配置するに
は人件費がかかることから,同倉庫に搬入される荷物について被告の従業員がその
都度立ち会うことはせず,倉庫業者はケースの中身までは検品しないことから,食
い違いを完全になくすことはできなかった。
以上の認定事実によれば,原告Fに無責任な勤務態度があったということはで
きず,原告Fの責に帰すべき事由により被告の毎期の棚卸において数百万円のロス
の発生が続いたものと認めることはできない。
イ 被告は,原告Fが,被告の承認を得ずに一方的に電話で退職の意思を伝えた
が,当時の被告の就業規則によれば,自己都合による退職の場合,少なくとも14
日前までに退職願を総務まで提出しなければならず,提出後も,被告の承認がある
までは従前どおり業務に従事し,業務の引継を完了しなければならないとされてい
たものであり,原告Fの退職手続はその条件を充足していないものであり,原告F
の突然の退職により,業務は混乱し,部下の従業員は,原告Fの在職中に全く整理
されていなかった商品管理のために,毎晩夜中までその整理に当たらざるを得ない
状況にあった旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙35,48,49にはこれに沿
う記載がある。
  しかし,証拠(原告F本人尋問の結果,甲12,35,36の1,37,6
3,68)によれば,以下の事実が認められ,これに反する被告申請の前掲証拠は
採用することができない。
  すなわち,原告Fは,被告代表取締役の方針と合わなくなり,体調も悪くなっ
たことから,被告を退職することを考えるようになり,平成7年のうちから,直属
の上司である原告Cに相談し,被告総務部長にもその意思を表明し,平成8年1月
ころ,被告総務部長に退職届を提出した。被告総務部長が,直接被告代表取締役に
提出してくれと言って,退職届を受理しなかったことから,原告Fは,同年2月初
めころ,被告代表取締役に退職届を提出した。しかし,被告代表取締役は,4月こ
ろまで待てと言って,退職届を受理しなかったので,原告Fは,同年2月9日,上
司の原告Cに同月23日付けで退職する旨の退職届を提出して受理してもらった。
その後,同月26日,被告代表取締役と電話で話した中で,仕事を続けるよう要望
されたが,自分の退
職の意思は変わらないので今月一杯で辞めさせてもらうと述べて,同月末日まで仕
事を続けた。そして,原告Fは,最後の勤務日の仕事を終えた後,被告代表取締役
に対し,申し訳ないと言って頭を下げたところ,被告代表取締役から,今更謝って
もらってもしようがないわ,頑固もんだなと半分笑いながら言われたことから,退
職を承認されたものと考えた。原告Fは,被告を退職するに当たり,ノートに詳細
な引継事項を記載し,退職後1週間以内に被告宛に提出した。商品管理課の全員が
このノートを回覧した結果,仕事に支障がなかったことから,原告Fの引継に感謝
した。
  以上の認定事実によれば,原告Fの退職手続に退職金不支給事由に該当するよ
うな著しく信義に反する行為があったものと認めることはできない。
ウ 被告は,以上によれば,原告Fは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者
に該当せず,また,同第7条に規定する引継をなしておらず,原告Fに対しては,
本件退職金支給規定第11条二ないし四号に該当する者として,その退職金は支給
されない旨主張する。
しかし,以上認定の事実によれば,被告の主張は理由がないというべきであ
る。
(7) 原告Gについて
ア 被告は,営業を担当していた原告Gが,突然出社しなくなったものであり,退
職願も提出せず,被告の承認を得ることなく一方的に退職したものであって,業務
の引継については,顧客引き継ぎ表の作成,提出もなく,何ら責任も義務も果たさ
ず退職したものである旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙36,48,49にはこれに沿
う記載がある。
  しかし,証拠(原告G本人尋問の結果,甲9,41ないし43,59,67)
によれば,以下の事実が認められ,これに反する被告申請の前掲証拠は採用するこ
とができない。
  すなわち,原告Gは,父親から同人が役員をしている会社に転職することを誘
われていたが,同人が胃ガンに罹患したことから,親孝行のためにこれに応ずるこ
ととし,被告を退職することを考え,平成7年10月の賞与に関する被告代表取締
役との面談の際,退職届を持参し,退職の意向を示した。しかし,被告代表取締役
からは,ちょっとそのことは伏せておけと言われ,退職届を戻された。その後,原
告Gは,仕事の後に被告代表取締役と一緒にサウナに行った時に,同人から本当に
辞める気なのかと聞かれ,ほぼ辞職の意思が固まっている旨答えた。そして,原告
Gは,同年11月の初めころ,改めて同年12月末で退職する旨の退職届を直属の
上司に提出し,御用納めまで仕事をして,同日被告代表取締役に退職の挨拶をした
上で被告を辞めた。
原告Gは,被告を退職するに当たり,上司の承認を得た上で,後任の担当者を得意
先に紹介して退職の挨拶をし,また,退職後,従来から顧客ごとに作成していた取
引関係等を記載したノートを引継書として後任の担当者に渡した。
以上の認定事実によれば,原告Gが,退職願も提出せず,被告の承認を得るこ
となく,業務の引継もせずに,一方的に退職したものと認めることはできない。
イ 被告は,原告Gの在職中の勤務ぶりについては,そのタイムカード記録が示す
ように,直帰を繰り返す勤務であり,また,その担当得意先からの別注商品の作成
について,無責任に生産し,その販売等の処理をすることなく,引継の書類の作成
もなく放置し,得意先の売掛金未照合による違算も残したまま退職したものであっ
て,被告はその処理に苦慮している旨主張する。
  被告代表者本人は上記主張に沿う供述をし,乙36,48にはこれに沿う記載
がある。
  しかし,証拠(原告G本人尋問の結果,甲41,42,59,67)によれ
ば,以下の事実が認められ,これに反する被告申請の前掲証拠は採用することがで
きない。
  すなわち,原告Gは,出先での仕事が夜遅くまでかかることが多く,被告事務
所に戻ることなく直接帰宅する直帰が多かったが,基本的にはその都度被告に連絡
を入れており,直帰を止めるよう被告から指示されたことはなかった。また,原告
Gが,得意先から,別注商品の発注を受けたが,後にその注文数が減少となって,
残りが出てしまい,何とかこれを換金しようと努力したが売れ残ってしまったこと
があるが,同様のことは他の営業担当者においてもあり,得意先別注商品に関し
て,被告代表取締役から注意を受けたということはない。さらに,原告Gが退職し
た時点で,同人の得意先に対する売掛金について,伝票ミスによる違算があったこ
とを裏付ける資料は存在しておらず,原告Gとしては全部処理済みであると思って
いた。
以上の認定事実によれば,原告Gの勤務状況について,退職金不支給事由に該
当するような著しく信義に反する行為があったものと認めることはできない。
ウ 被告は,以上によれば,原告Gは,本件退職金支給規定の第2条に規定する者
に該当せず,また,同第7条に規定する引継をなしておらず,原告Gに対しては,
本件退職金支給規定第11条二ないし四号に該当する者として,その退職金は支給
されない旨主張する。
しかし,以上認定の事実によれば,被告の主張は理由がないというべきであ
る。
3 争点③(原告B及び原告Cにつき,被告との間の株式買取代金の立替払合意に
基づく立替払請求が認められるか)について
(1)前記争いのない事実に証拠(原告A,同B,被告代表者各本人尋問の結果,甲
3,14の3,57,58,65,66,68)及び弁論の全趣旨によれば,以下
の事実を認めることができる。
ア 被告は,Jが代表取締役であった当時,在籍5年以上の従業員に対し,被告の
株式(株券は不発行)を額面金額(1株50円)で購入するよう要求し,給料から
の天引や社内預金からの差引によりその購入代金を支払わせてきたものであり,増
資の際にも,従業員に株式の購入をさせており,原告Bは2万株,原告Cは1万株
の被告株式をそれぞれ購入取得した。
イ 被告は,従業員が被告株式を購入するに際し,当時の代表取締役や総務部長に
おいて,株式は退職時に額面で買い上げるから他人に絶対譲渡してはならない旨申
し述べていた。
  原告Bとしては,被告の上記申出について,被告が自己株式を取得することが
困難であることから,被告が一時株式の買取代金を立替払し,他の者に転売する形
をとるものと理解していた。
ウ 被告株式を保有している従業員は,被告から株主総会の招集通知を一切受けて
おらず,配当も増資分の購入に回されており,現実に株主として扱われたことはな
かった。
エ 原告Bが,被告を退職した後,被告総務部長に対し,株式の買取か株券の支給
を要求したところ,株券は発行しておらず,株式の買取については,買取約束があ
ったことは認めるが,買取の財源がないとの回答であった。
オ 昭和59年12月に被告を退職したKは,被告から,1株当たり50円で計算
した7935株分の39万6750円の株式代金の支払を受けた(甲58)。
  平成5年9月に被告を退職したLは,被告から,1株当たり50円で計算した
2000株分の10万円の株式代金の支払を受けた(甲14の3)。
  平成11年9月に被告を退職した原告Aは,1株当たり50円で計算した40
00株分の20万円の株式代金の振込を受けたが,これは,被告代表取締役のMが
購入したものについて,被告が代金を振り込んだものである。
  そのほかの被告退職従業員の保有株式についても,被告から代金が支払われて
いるが,退職従業員としては,誰が株式を購入するのかは被告に一任して,被告か
ら代金の支払を受け,その後,買手であるMやその弟のNが被告に代金を支払うと
いう形がとられていた。
(2) 以上認定の事実によれば,被告従業員は,被告代表取締役の要求に応じて,被
告の株式を額面で購入してきたものであるが,実質的に株主と扱われたことはない
のであって,従業員が株式を購入するに当たって,退職時の買取約束がなければ購
入することはなかったものと認めるのが相当である。そして,現実に行われてきた
退職従業員からの株式買取方法に照らせば,上記買取約束とは,退職時には被告が
責任をもって株式の譲受人を確保し,額面で買取代金を被告が立て替えて支払う旨
の本件合意であったものと認めることができる。
(3) これに対し,被告は,過去において被告代表取締役若しくは第三者が被告従業
員の株式を買い取っているのは,その時々における状況判断によるものであり,本
件合意がなされたことはない旨主張し,被告代表者本人はこれに沿う供述をし,乙
28,38,49にはこれに沿う記載がある。
  しかし,被告代表者自身,被告の先代代表取締役のJが従業員に株式の購入を
勧めたものであり,従業員が退職するに当たって,株式を売却したいという意思で
あれば,被告が買手を見つけるという処置は当然図るべきであり,Mが代表取締役
となった後は,従業員が購入する被告株式については,退職時にMにおいて買い取
ることを明らかにしており,従業員からの株式買取代金については,取りあえず被
告において仮払していた旨供述しており,Jが約束した本件合意の存在を窺わせる
供述ということができる。
  したがって,前記認定に反する被告代表者本人尋問の結果,乙28,38,4
9はたやすく採用することができない。
(4) また,被告は,本件合意に基づく請求は,被告に対して買受人未決定のまま株
式の買取代金の立替払を求めるものであり,被告に自己株式の取得を強制するもの
として許されない旨主張する。
  しかし,前記認定によれば,本件合意は,退職従業員の保有株式の買取を保障
するため,被告が自己株式を取得することなく,被告の責任で買受人を確保し,代
金の立替払をするというものであるから,本件合意が自己株式の取得を強制するも
のということはできない。
(5) 以上によれば,原告Bと原告Cは,それぞれ被告を退職したことにより,本件
合意に基づき,被告に対し,原告Bにつき,2000株,100万円の,原告Cに
つき,1000株,50万円の各株式買取代金立替払請求権を取得したものと認め
ることができる。
第4 結論
   以上によれば,原告らの請求はいずれも理由があるから,これを認容するこ
ととし,主文のとおり判決する。
 名古屋地方裁判所民事第1部
    裁判官橋本昌純

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛