弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張と証拠の提出、援用、認否は、次のように訂正、付加
するほか、原判決の事実摘示(但し原判決一枚目裏二行目に「岡山地方裁判所」と
あるのは「岡山地方裁判所倉敷支部」の誤記と認める。)のとおりであるから、こ
れを引用する。
 控訴人の陳述
 一、 原判決二枚目裏四行目から同九行目までの答弁ならびに抗弁を次のとおり
改める。
 「請求原因一の事実及び同二の事実中控訴人が本件建物を占有していることは認
めるが、その余は争う。
 控訴人は、本件抵当権設定登記前の昭和四二年五月一日訴外Aから本件建物を期
間三年、賃料月額一万五、〇〇〇円と定めて賃借し、その引渡を受けてこれを占有
しているものて、同賃借権は期間満了後更新され今日に至つているから、これをも
つて抵当権者および競落人である被控訴人に対抗できるものである。
 二、 被控訴人主張の再抗弁事実を否認する。
 被控訴人の陳述(再抗弁)
 訴外Aと控訴人間に締結された本件建物の賃貸借契約は、通謀虚偽表示に基づく
ものであつて無効である。即ち当時本件建物は山陽タイピスト専門学校倉敷分校の
校舎に使用されており、訴外Aは同分校長、控訴人は同分校の使用人の地位にあ
り、このような職務上の地位、身分関係にある両者間において控訴人主張の如き本
件賃貸借契約を結ぶが如きことはあり得ず、右は抵当権の実行を妨害する手段とし
て右両者通謀のうえ賃貸借契約を仮装したものである。
 証拠関係(省略)
         理    由
 一、 請求原因一の事実及び控訴人が本件建物を占有している事実は当事者間に
争いがない。
 二、 そこで控訴人の抗弁についてみるに、原審証人A、当審証人Bの各証言、
原審及び当審における控訴人本人尋問の各結果と右各供述により、成立を認め得る
乙第一、二、三号証を綜合すれば、控訴人は、本件抵当権設定登記(昭和四三年一
一月二一日)より前である昭和四二年五月一日訴外Aから本件建物を敷金三万円、
期間は同四五年四月三〇日まで、賃料は月額一万五、〇〇〇円とし、毎月五日限り
支払う約定て賃借し、その旨の契約書(乙第一号証)を作成し、本件建物の引渡を
受けて現在に及んでいること、その間右両名は合意のうえ、昭和四五年四月三〇日
右期間満了の際、敷金を二万円追加して五万円とし、期間を同四六年四月三〇日ま
でと改め、乙第一号証の契約書中該当欄をその旨訂正し、ついで同四六年一月五
日、期間を同四九年一月五日までとし、賃料を月額一万八、〇〇〇円と改め、その
他の条件は従前どおりとし、その旨の契約書(乙第二号証)を作成したこと、本件
建物はもと岡山市所在の山陽タイピスト専門学校(経営者C)の倉敷分校として使
用されていたものであるが、昭和四二年春頃控訴人が両分校の経営を一任され専任
教師として赴任するに際し、自らの責任において本件建物を賃借し、これを同分校
の校舎ならびに自己の住居として使用し、翌四三年九月には同分校の経営権を買取
つたもので、右賃借当初より今日に至るまで本件建物の態様ならびに使用状況に変
るところはなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。
 右認定の事実に徴すれば、本件賃貸借契約は、昭和四五年五月一日及び同四六年
一月五日の両度にわたり当事者の合意により更新されたものと認めるのが相当であ
る。前記認定の昭和四六年一月五日の契約書(乙第二号証)が従前の契約書(乙第
一号証)と別個に作成されていること、それが従前の契約期間満了前であることを
捉えて、従前の契約関係が消滅しこれと別個の新たな契約が成立したものと解する
のは、前記認定の事実関係の下においては、当事者の意思に合致するものとはいえ
ない。
 <要旨>ところで、抵当権設定登記前にその目的建物について設定された対抗力あ
る賃借権がその後当事者の合意により更新された場合には、右賃借権が民法
六〇二条に定める期間をこえない短期賃借権にあたると否とを問わず、また右更新
の時期が抵当権の実行による差押の効力発生の前であると後であるとに拘らず、賃
借権者は、右更新後の賃借権をもつて抵当権者ないし競落人に対抗することができ
ると解するのが相当である。
 けだし、賃貸借契約の更新は従前の契約関係を期間満了後もそのまま維持継続さ
せようとするものであるから、更新前後の賃貸借関係は原則として同一性を失わな
いと解すべきであるのみならず、抵当権はその設定当時における目的物の状態にお
いてその交換価値を把握するものであり、その設定当時目的物たる建物に期間の定
めのある賃借権が存するときは、抵当権者としでは借家法の規定により右賃借権が
法定更新されることを予期しうべきものであるから、更新後の賃借権をもつて抵当
権者に対抗せしめても、それにより抵当権者に不測の不利益を蒙らしめるとはいえ
ず、このような場合右更新が当事者の合意によつてなされたとしても、右と別異に
解すべき理由はなく、この観点からすれば、右更新が抵当権の実行による差押の効
力発生(競売開始決定の記入登記)の後になされたとしても、実質上差押の効力た
る処分禁止に抵触するとはいえないからである。そうすると、控訴人が昭和四二年
五月一日設定を受けた本件建物賃借権は、本件抵当権設定登記に先だち対抗力を具
えていたものであるから、控訴人は、前認定の更新後の本件建物賃借権をもつて前
記抵当権の実行によつて右建物を競落した被控訴人に対抗しうるものといわなけれ
ばならない。この点に関する被控訴人の主張は理由がない。
 なお、前記認定によれば、控訴人の本件建物賃借権は、昭和四九年一月五日をも
つて一応期間か満了したことになるけれども、被控訴人側の正当事由にもとづく更
新拒絶もしくは解約の主張立証のない本件においては、借家法の規定により更新さ
れ引きつづき存続するものというべきである。
 三、 次に、被控訴人主張の控訴人と訴外A間の本件賃貸借契約か通謀虚偽表示
によるものであるとの点は、原審における被控訴本人の供述はたやすく措信しがた
く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 四、 以上によれば、控訴人の本件建物占有は被控訴人に対抗しうべき権原にも
とづくものというべきであるから、被控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。
 よつて、右請求を認容した原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから民訴
法三八六条により原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につ
き同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 山下進 裁判官 篠森眞之)

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