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平成28年2月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(ネ)第10115号著作権侵害差止等請求控訴事件
平成27年(ネ)第10134号同附帯控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成26年(ワ)第3539号)
口頭弁論終結日平成28年1月20日
判決
控訴人兼附帯被控訴人株式会社メディアジャパン
(以下「控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士松谷栄士
附帯被控訴人X
被控訴人兼附帯控訴人有限会社アートステーション
(以下「被控訴人」という。)
主文
1本件控訴を棄却する。
2附帯被控訴人に対する附帯控訴を却下する。
3その余の附帯控訴を棄却する。
4控訴費用は控訴人の,附帯控訴費用は被控訴人の,各負担とす
る。
事実及び理由
第1控訴の趣旨及び附帯控訴の趣旨
1控訴の趣旨
⑴原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
⑵上記の部分につき,被控訴人の請求をいずれも棄却する。
⑶訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2附帯控訴の趣旨
⑴原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。
⑵控訴人は,被控訴人に対し,389万7000円及びこれに対する平成26
年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を附帯被控訴人と連帯して
支払え。
⑶附帯被控訴人は,被控訴人に対し,405万円及びこれに対する平成26年
3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を,うち389万7000円
及びこれに対する平成26年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員
は控訴人と連帯して支払え。
⑷訴訟費用は,第1,2審とも控訴人及び附帯被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1訴訟の概要
⑴本件は,被控訴人が,控訴人及び附帯被控訴人は,原判決別紙被告商品目録
記載の各DVD商品(以下「控訴人商品」という。)を輸入,複製及び頒布し,被控
訴人の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害していると主張して,控訴人及び附帯被
控訴人に対し,著作権法112条1項に基づき,控訴人商品の輸入,複製及び頒布
の差止めを求めるとともに,民法709条に基づき,連帯して,前記著作権侵害に
係る著作権法114条2項による損害賠償金405万円及びこれに対する訴状送達
の日の翌日である平成26年3月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延
損害金の支払を求めた事案である。
⑵原判決は,控訴人による控訴人商品の輸入,複製,頒布行為は,被控訴人の
著作権の侵害行為に該当するとして,被控訴人の控訴人に対する請求のうち,控訴
人商品の輸入,複製及び頒布の差止めを認めるとともに,15万3000円及びこ
れに対する遅延損害金の限度で損害賠償金の支払を認め,その余の請求をいずれも
棄却した。
また,原判決は,附帯被控訴人自身が控訴人商品を輸入,複製,頒布した事実は
これを認めるに足りず,控訴人の法人格を否認すべき事情も見当たらないとして,
被控訴人の附帯被控訴人に対する請求を,全て棄却した。
⑶控訴人は,原判決を不服として,控訴を提起した。
被控訴人は,控訴人及び附帯被控訴人に対し,附帯控訴を提起した。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によ
り認められる事実を含む。)
⑴当事者
ア被控訴人は,映像ソフトの企画,製作,販売及び輸出入等を業とする有限会
社である(甲1)。
イ控訴人は,平成12年7月6日に設立されたビデオテープ等の記録媒体の企
画,製造,販売及び輸出入等を業とする株式会社である。控訴人は,平成27年8
月31日,株主総会の決議により解散し,附帯被控訴人は,同年9月1日付けで,
控訴人の代表清算人として登記された(甲27,弁論の全趣旨)。
ウ附帯被控訴人は,平成22年当時,控訴人の代表取締役を務めていたもので
あるが,平成25年5月23日に辞任し,附帯被控訴人の長女であるAが控訴人の
代表取締役に就任した。
同人は,平成26年3月18日に控訴人の代表取締役を辞任し,附帯被控訴人が
控訴人の代表取締役に就任したが,同年7月25日に辞任し,再びAが控訴人の代
表取締役に就任した。
⑵被控訴人の著作権
被控訴人は,著作権の保護期間が満了した外国の映画作品である「トムとジェリ
ー」30作品(以下「本件各作品」という。)につき,日本語音声を収録し直して,
原判決別紙原告商品目録記載の各DVD商品(以下「被控訴人商品」という。)を
制作,販売している。
被控訴人商品に収録されている日本語音声の台詞(以下「本件著作物」という。)
は,著作権法2条1項1号所定の著作物であり,被控訴人は,その著作権(以下「本
件著作権」という。)を有している。
⑶控訴人商品
控訴人は,本件著作物が収録されている控訴人商品を,製造,販売している。
3争点
⑴本件各作品に係る共同事業の合意の成否
⑵附帯被控訴人に対する請求の可否
⑶被控訴人の損害額
第3当事者の主張
1争点⑴(本件各作品に係る共同事業の合意の成否)について
〔控訴人の主張〕
以下のとおり,共同事業合意書(乙1。以下「本件合意書」という。)に記載され
た共同事業(以下「本件共同事業」という。)のうち,本件各作品に係る共同事業の
合意が成立したのであり,控訴人商品の製造,販売は,同合意に基づくものである。
⑴本件共同事業に関する経緯
ア本件各作品に係る共同事業の合意成立までの経緯
(ア)被控訴人代表者は,平成22年8月頃,当時控訴人の代表取締役を務めて
いた附帯被控訴人に対し,本件合意書を持参して,「ミッキーマウス」16作品及び
本件各作品に関する本件共同事業への出資を求めた。本件共同事業の具体的な内容
は,被控訴人が原版映像の取得及び日本語字幕の制作を担い,控訴人が日本語吹替
えの費用等を負担し,商品に関する著作権等の権利は,被控訴人と控訴人とで共有
するというものであり,費用の総額は544万円になる予定であった。
(イ)しかし,附帯被控訴人は,本件共同事業の将来性が不透明であり,かつ,
出資額が高額であることから,本件共同事業への出資をちゅうちょした。
そこで,後日,被控訴人代表者は,有限会社イーエックス・キュー(以下「イー
エックス」という。)とのコンテンツ提供契約書(乙2。以下「本件コンテンツ提供
契約書」という。),株式会社ヤマシロ(以下「ヤマシロ」という。)との業務委託契
約書(乙3)及びヤマシロによる見積書(乙4)を附帯被控訴人に交付し,本件各
作品がイーエックスに売れたこと,本件共同事業の費用総額が276万円に減額さ
れたことを伝え,改めて,その半額の138万円を本件共同事業に出資するよう求
めた。なお,上記費用総額については,前記業務委託契約書及び見積書によれば,
本件各作品の制作費が180万円,「ミッキーマウス」16作品の制作費が96万円
であることから,これらを合算したものである。
(ウ)被控訴人は,控訴人に対し,本件各作品と「ミッキーマウス」16作品の
日本語吹替え制作費の半金として132万円(消費税込み138万6000円)の
請求書を送付した。
被控訴人代表者は,附帯被控訴人に対し,本件各作品の制作費である180万円
の半額のみでもすぐに出資してほしいと求めてきた。被控訴人代表者は,本件各作
品の制作費が180万円になることにつき,前記見積書によれば,制作費用は合計
270万円であるが,「字幕製作値引き」及び「音響製作費値引き」の1作品当たり
の値引額が各1万5000円であることから,30本で合計90万円値引きされ,
これを前記270万円から控除した残額の180万円が本件各作品の制作費になる
旨を説明した。
控訴人は,被控訴人に対し,本件各作品に関する共同事業にのみ出資する旨連絡
し,これらの作品の制作費の半額として,平成22年9月21日に21万5000
円,同月22日に69万円の合計90万5000円を振込送金した。これによって,
被控訴人と控訴人との間には,本件共同事業のうち,本件各作品に係る共同事業の
合意が成立した。
被控訴人は,前記振込送金につき,甲第11号証に関する支払金である旨主張す
るが,被控訴人代表者から上記支払金に係る債権を譲り受けたという株式会社は,
控訴人に対してその支払を求める訴訟(東京地方裁判所平成25年(ワ)第292
65号。以下「別件訴訟」という。)を提起しているところ,同訴訟において,請求
額から90万5000円を控除しておらず,このことに鑑みれば,前記主張は,理
由がない。
イ本件各作品に係る共同事業の合意成立後の経緯
その後,控訴人は,本件各作品の営業活動をしたものの,本件各作品が既に他社
から販売されていたこともあって,結局,全く売れなかった。また,被控訴人は,
控訴人に対し,本件合意書の3項に反して,この時点で既に成立していたイーエッ
クスとの間のコンテンツ提供契約に関する販売数量等の報告及び利益の折半を怠っ
た。
そこで,附帯被控訴人は,被控訴人代表者に対し,控訴人が本件各作品に係る共
同事業から撤退する旨伝えた。被控訴人代表者は,本件各作品に係る共同事業を解
約して,控訴人が被控訴人に送金した前記90万5000円を返金してもよいと回
答したが,返金はされなかった。
附帯被控訴人が,被控訴人代表者に対して返金を催促したところ,被控訴人代表
者は,返金はしなかったが,当時被控訴人の関連会社の代表取締役を務めていたB
を介して,附帯被控訴人に対し,本件各作品に係るマスター(量産用プレスをする
ための原盤)であるDVD-Rを交付し,これを自由に使用してよい旨を伝えた。
⑵被控訴人代表者が附帯被控訴人に交付したDVD-R(以下「本件DVD」
という。)について
ア前記⑴のとおり,本件DVDは,本件各作品に係るマスターであるDVD-
Rであり,被控訴人代表者は,附帯被控訴人に対し,自由に使用してよい旨を伝え
た。
そこで,控訴人は,本件DVDを複製して控訴人商品を製造し,販売した。
このように,被控訴人が控訴人に対してマスターである本件DVDを渡したこと
自体,本件各作品に係る共同事業の合意が成立していることの証左ということがで
きる。
イ被控訴人は,本件DVDは検証版DVD-Rであった旨主張するが,検証版
DVD-Rは,リージョンコード,コピープロテクト等が施されていないものであ
るから,プレスして製品化することは不可能である。
控訴人は,前記アのとおり,本件DVDを複製(プレス)して控訴人商品を製造
したのであるから,本件DVDは,マスターにほかならない。
⑶乙第6号証のメール(以下「本件メール」という。)について
本件メールの内容は,①前記⑴のとおり,被控訴人と控訴人との間において,本
件各作品に係る共同事業の合意が成立しており,本件合意書3項に基づき,イーエ
ックスから入金された78万7000円の半額に相当する39万3500円が控訴
人の取り分となり,②これを,本件共同事業のうち,「ミッキーマウス」16作品に
係る共同事業についての控訴人の負担分に充当したことによって,控訴人において
更に14万5000円を出資すれば,上記共同事業の合意も成立していたが,上記
出資がされなかったために,成立しなかったという趣旨に解釈するのが自然である。
確かに,本件メールには,上記14万5000円の根拠が不明であるなど不明確
な点が存在するが,本件メールが平成24年4月9日に作成されたことに鑑みると,
上記の不明確な点は,時間の経過等によって被控訴人代表者の記憶があいまいにな
ったことによるものと思われる。
以上によれば,本件メールは,被控訴人と控訴人との間において本件各作品に係
る共同事業の合意が成立していたことを直接立証するものということができる。
⑷本件共同事業の合意の成立を否定した原判決の誤り
ア原判決は,本件共同事業の合意の成立を否定した理由の1つとして,被控訴
人が本件共同事業に係る資金の支払の振込先として指定していたのは,被控訴人代
表者個人の口座であったのに,控訴人が90万5000円を振り込んだのは被控訴
人の口座であったことを指摘する。
しかし,被控訴人と控訴人との共同事業に係る資金の振込先としては,被控訴人
の口座とするのが自然であり,被控訴人代表者個人の口座とするのはむしろ不自然
であることから,附帯被控訴人は,上記振込送金の際,Bに対して振込先,振込額
等を問い合わせた。すると,Bは,被控訴人の口座に90万5000円を振り込む
ように指示してきたので,附帯被控訴人は,それに従った。また,本件メールの記
載によれば,被控訴人代表者が本件メールを送付した平成24年4月9日の時点に
おいて,前記90万5000円の振込先口座について問題視していなかったことは,
明らかである。
したがって,原判決の前記指摘に係る点は,本件共同事業の合意の成立を否定す
る理由となるものではない。
イ原判決は,本件共同事業の合意の成立を否定した理由として,控訴人が被控
訴人に振込送金した90万5000円につき,本件共同事業に要する費用の総額が
544万円であることから,およそ本件共同事業の合意の成立を推認させるに足り
ない旨を判示する。
しかし,前記⑴のとおり,本件共同事業の費用は,当初は確かに544万円であ
ったが,その後,276万円に減額されたのであるから,前記判示は,前提におい
て誤りがある。
ウまた,原判決は,控訴人の主張によっても,前記90万5000円という金
額は,被控訴人代表者から支払を求められた金額である90万円と完全に一致して
おらず,この点について合理的な説明もされていない旨を指摘する。
しかし,前記アのとおり,90万5000円という金額はBから指示された額で
あり,また,本件メールの記載によれば,被控訴人代表者が,本件メールを送付し
た平成24年4月9日の時点において,上記金額を問題視していなかったことは,
明らかであるから,原判決の前記指摘の点は,本件共同事業の合意の成立を否定す
るものということはできない。
エ原判決は,被控訴人と控訴人との間に,本件各作品に係る共同事業について
のみ合意が成立したのであれば,両者間で折半されるべき利益は,「PSG」(イー
エックス)から入金された78万7000円全額ではなく,本件各作品についての
部分に限られるはずである旨指摘する。
しかし,上記入金は,被控訴人とイーエックスとの間の本件各作品に関するコン
テンツ提供契約による利益であるから,被控訴人と控訴人において折半されるべき
利益は,上記78万7000円の全額であり,上記指摘は,誤りである。
オ原判決は,被控訴人は,控訴人に対し,これまで被控訴人商品の販売等で得
た利益の分配,販売数量等の報告をしておらず,控訴人も,被控訴人に対し,控訴
人商品の販売等で得た利益の分配,販売数量等の報告をしていないのであって,両
者のいずれも共同事業が成立したことを前提とした行動を取っていない旨指摘する。
しかし,前記⑴のとおり,被控訴人がイーエックスとの間のコンテンツ提供契約
に関する販売数量等の報告及び利益の折半を怠ったことから,控訴人は,被控訴人
との間の信頼関係を維持できない状況に陥ったので,被控訴人に対し,控訴人商品
の販売等で得た利益の折半や販売数量等の報告を行わなかったにすぎず,共同事業
の成立自体を否定していたわけでない。
カ原判決は,控訴人は,本件DVDを受領してからわずか数か月後の平成23
年4月に,第三者に対し,何らの枚数制限等も設けずに本件DVDの複製,販売の
権利を許諾し,その対価として1タイトル10万円のみを受領しており,このこと
は,多額の投資をして本件著作権を正当に取得した者の行動としては,不自然であ
る旨判示する。
しかし,前記⑴のとおり,控訴人は,本件各作品の営業活動をしたものの,全く
売れず,附帯被控訴人は,必死で少しでも投資を回収しようとしたが,販売力が弱
いことから,自ら取り付けることができた契約は,原判決のいう「第三者」である
株式会社コスミック出版(以下「コスミック出版」という。)への使用許諾及び株式
会社サイドエーネットワーク(以下「サイドエーネットワーク」という。)へのOE
M供給のみであり,採算を度外視したものであった。よって,控訴人がコスミック
出版に安価で本件DVDの複製,販売の権利を許諾したことにつき,不自然な点は
ない。
キ原判決は,控訴人商品には,著作権が控訴人に帰属する旨の記載がないばか
りか,控訴人の名称等さえ記載されておらず,この点においても,控訴人自身,自
己に著作権が正当に帰属するとは考えていなかったのではないかとの疑問を差し挟
まざるを得ない旨判示する。
しかし,前記カのとおり,附帯被控訴人自ら取り付けることができた契約は,コ
スミック出版への使用許諾及びサイドエーネットワークへのOEM供給であり,そ
の結果,コスミック出版及びサイドエーネットワークのいずれが販売する商品にお
いても,控訴人の名称等さえ記載されていなかったにすぎない。
〔被控訴人の主張〕
以下のとおり,本件共同事業の合意は成立していない。
⑴本件共同事業に関する経緯について
ア本件共同事業の合意について
被控訴人代表者は,平成22年8月末,附帯被控訴人に対し,具体的な収支予測
を記載した提案書(甲10。以下「本件提案書」という。),本件合意書,本件コン
テンツ提供契約書,ヤマシロとの業務委託契約書及びヤマシロによる見積書を渡し
て,本件共同事業を提案した。しかし,附帯被控訴人は,ちゅうちょし,結局,本
件合意書は,押印されないままであり,締結に至らなかった。
したがって,本件共同事業の合意は,成立していない。
イ控訴人の主張について
控訴人は,本件共同事業のうち,本件各作品に係る共同事業の合意が成立してお
り,控訴人商品の製造,販売は,同合意に基づくものである旨主張するが,以下の
とおり,そのような合意は成立していない。
(ア)そもそも,本件共同事業は,「トムとジェリー」及び「ミッキーマウス」と
いう2つのコンテンツに係る作品に関する共同事業であり,それらのうちの1つで
ある「トムとジェリー」に係る作品のみでは成り立たない。
(イ)控訴人が被控訴人に送金した90万5000円は,本件共同事業とは別の,
甲第11号証に関する支払金である。別件訴訟において控訴人が請求されているの
は,上記支払金に係る債権全額ではなく,同債権のうち金額が確定したもののみで
ある。
被控訴人は,控訴人との別の取引に係る振込み等と混同するのを避けるために,
本件共同事業に関する資金の振込先口座として被控訴人代表者個人の口座を指定し
た。しかし,前記90万5000円は被控訴人の口座に振り込まれており,このこ
とは,同振込送金が本件共同事業に関するものではないことの証左である。
(ウ)本件共同事業は,前記(ア)のとおり,2つのコンテンツに係る作品に関する
共同事業であり,各コンテンツに係る作品の制作費を厳密に分けることはできない。
すなわち,本件共同事業において,スタジオ費,声優やスタッフ等のギャラは,2
つのコンテンツに係る作品の兼用であり,また,これらを共に制作することによっ
て費用が安くなっている。
したがって,控訴人が被控訴人に送金した90万5000円が本件共同事業に関
するものであったとしても,それをもって,「トムとジェリー」というコンテンツに
係る作品のみの制作費の半額を控訴人において負担したとして,本件各作品に係る
共同事業の合意が成立することは,あり得ない。
(エ)控訴人は,被控訴人に対し,売上げの報告も利益折半もしておらず,また,
無断で本件DVDを廉価でコスミック出版に売却した。これは,控訴人自身,共同
事業という認識を有していなかったことの証左である。
(オ)控訴人及び附帯被控訴人において発売する控訴人商品が被控訴人との共同
事業に基づくものであるならば,控訴人商品に発売元として被控訴人及び控訴人の
社名が表示されているはずであるところ,実際には,控訴人の社名さえ表示されて
いない。
この事実は,控訴人及び附帯被控訴人が,正当な権限なく,いわゆる海賊版を製
造して販売していたことの証左である。
⑵本件DVDについて
アDVDをプレスする際に用いる,映像や字幕素材等をオーサリングしたDV
Dの原盤,すなわち,マスターとなるのは,磁気テープであるDLT及びプラント
ダイレクトディスクと呼ばれるDVD-Rのいずれかである。現在,商品としての
クオリティーを保つ場合には,DLTを用いるが,簡便に済ませる場合には,プラ
ントダイレクトディスクを用いる。
被控訴人代表者が附帯被控訴人に交付した本件DVDは,検証版DVD-Rであ
り,マスターとなるプラントダイレクトディスクと呼ばれるDVD-Rではない。
被控訴人が作成した本件各作品に係るマスターは,イーエックスに納品したDLT
のみであり,プラントダイレクトディスクは作成しておらず,したがって,本件各
作品のプラントダイレクトディスクは,存在しない。
従前から,被控訴人は,自ら販売するDVDのプレスについては,控訴人の関連
会社に発注しており,本件共同事業の際も,控訴人に依頼するつもりであった。し
かし,本件共同事業の作品は,日本語吹替え及び日本語字幕に加えて,中国語字幕
による視聴も可能なものであり,中国語字幕が加わるバージョンは過去に製造した
ことがなかったので,検証版のDVD-Rを附帯被控訴人に交付した。その検証版
のDVD-Rは,中国語字幕が完璧ではないなど商品としては未完成のものであっ
た。
イ検証版のDVD-Rは,字幕の誤字脱字の有無,チャプターの作動の確認等
のチェックをするために作成されるものであり,市販のプレーヤーやパソコンによ
って視聴することができる。
プラントダイレクトディスクと呼ばれるDVD-Rには,リージョンコードやコ
ピープロテクト等が施されており,通常プレス原盤として使用されるDLTという
磁気テープと同様に,プレス工場が使用している特殊な機材がなければ視聴するこ
とができない。これは,複製防止の趣旨によるものである。
DVDの製造を業とする控訴人及び附帯被控訴人において,検証版のDVD-R
とプラントダイレクトディスクと呼ばれるDVD-Rとの区別がつかないというこ
とは,あり得ない。
ウ正規の商品を制作する際は,リージョンコードやコピープロテクトを施して
品質を保つ必要があるので,プレス原盤として検証版のDVD-Rを使用すること
はない。
もっとも,検証版のDVD-Rをプレスして製品化することは,技術的には可能
である。
⑶本件メールについて
本件メールは,被控訴人代表者が,附帯被控訴人に対し,「ドナルドダック」に係
る新たな共同事業を提案した際,控訴人において,不参加に終わった本件共同事業
に関して犯したのと同じ誤りを繰り返さないように,DVD商品の制作や販売につ
いて分かりやすく説明することを念頭において作成したものにすぎず,本件メール
によって本件共同事業の合意の成立が立証されるということはできない。
2争点⑵(附帯被控訴人に対する請求の可否)について
〔被控訴人の主張〕
本件の首謀者は,附帯被控訴人であり,控訴人は,税務対策上の名義会社にすぎ
ない。
すなわち,控訴人は,DVDのプレスを業務とする会社であるが,実際の作業は
全て台湾の会社が行っている。控訴人の実際の業務は,その台湾の会社と発注会社
との間に入って仲介マージンを得るというものであり,全て附帯被控訴人の判断に
基づいて行われ,利益についても,その全額を附帯被控訴人が吸い上げている。こ
のように,控訴人の実際の業務は,実質において附帯被控訴人個人の仕事として成
り立っており,この点に鑑みれば,附帯被控訴人に対する請求は可能である。
〔附帯被控訴人の主張〕
附帯被控訴人と被控訴人との間には何らの法律関係も存在せず,本件訴訟のうち,
附帯被控訴人に対する請求に係る部分は,不当な訴訟である。
3争点⑶(被控訴人の損害額)について
〔被控訴人の主張〕
控訴人及び附帯被控訴人は,控訴人商品を少なくとも各5000枚(計1万50
00枚)は販売している。この点に関し,被控訴人の調査によれば,控訴人及び附
帯被控訴人は,書店のチェーン店等にも控訴人商品を販売している。
そして,控訴人商品の小売販売価格は1枚500円であるが,控訴人及び附帯被
控訴人による卸価格はその65%に当たる325円となるほか,1枚当たりの製
造・販売に要する経費の額は55円を上回らないことからすると,控訴人商品1枚
当たりの利益額は,270円を下回らない。
以上によれば,控訴人及び附帯被控訴人による本件著作権侵害行為によって被控
訴人が被った損害の額は,405万円(270円×1万5000枚)を下回らない
(著作権法114条2項)。
〔控訴人の主張〕
控訴人は,サイドエーネットワークに対し,控訴人商品合計9000枚(原判決
別紙被告商品目録記載1から3の各DVD商品を各3000枚ずつ)を1枚当たり
97円で販売し,控訴人商品1枚当たりの原価は80円である。
したがって,上記販売に係る利益額の総額は,合計15万3000円((97円-
80円)×9000枚)である。
第4当裁判所の判断
1争点⑴(本件各作品に係る共同事業の合意の成否)について
⑴認定事実
ア本件合意書(乙1)について
(ア)本件合意書の記載
本件合意書は,被控訴人が原文を作成したものであるところ(弁論の全趣旨),以
下の記載がある。
a前文:「有限会社アートステーション(以下甲という)と株式会社メディアジ
ャパン(以下乙という)とは,パブリックドメイン名作アニメの日本語吹替え版D
VD(以下本件商品という)を制作・製造・販売するに当たって,以下の如く取り
決めを行い甲・乙がこれに合意した。
本件商品は,「ミッキーマウス」2巻(16作品),「トムとジェリー」3巻(30
作品)で,英語・日本語・中国語の字幕切替,並びに原語・日本語吹替えの音声切
替が可能なものとする。(作品名は別途目録参照)」
b第1条:「甲と乙は,共同して本件商品を活用する事業を行う。」
c第2条:「総額費用は544万円(製造費を除く,税抜き)とする。」
d第3条:「甲と乙は,各自半額を負担し,売り上げから製造費等の経費を除い
た利益を折半するものとする。」
e第4条:「甲は,本件商品の基となる原版映像の取得並びに日本語字幕の制作
を負担する。乙は,日本語吹替えの為の制作費等を負担する。但し,本件商品に関
する著作権等の権利は共同で所有するものとする。」
f第5条:「制作に関しては,甲が主体となり,責任を持って行う。」
g第6条:「販売に関しては,共同で行うが窓口は乙とする。但し,PSGに関
しては,本件商品の販売ではなく,制作請負なので,甲が窓口となって行うものと
する。」
(イ)本件合意書の末尾には,被控訴人の社名,被控訴人代表者の氏名,控訴人
の社名,平成22年当時に控訴人代表者であった附帯被控訴人の氏名が印字されて
いるが,何らの印影も見られない。
(ウ)本件合意書中,「PSG」とは,イーエックス代表者が代表取締役を務める
株式会社ピーエスジーを指す。同社は,童話等のビデオの企画,制作,販売等を業
としており,イーエックスは,著作権の管理等を業としている。
両社とも,控訴人及び被控訴人とは,従前から取引関係にある(甲20)。
イ本件提案書(甲10)について
本件提案書は,被控訴人が平成22年8月30日付けで作成した「名作アニメD
VD制作に関するご提案『ミッキーマウス』『トムとジェリー』」と題する書面であ
り,以下の記載がある。
(ア)仕様:5巻,「ミッキーマウス」2巻1巻に8作品収録全16作品
「トムとジェリー」3巻1巻に10作品収録全30作品
日本語・英語字幕切替,日本語吹替え
(イ)支出
a原版映像代3万円*46作品138万円
b日本語翻訳代1万円*46作品46万円
c吹替え費用スタジオ費86万円
吹替え用翻訳台本作成54万円
声優代69万円
演出23万円
合計額232万円
d製作費合計544万円
(ウ)「製作費見積分544万円のうち,半額はアートステーションで負担する。
既に入手済みの原版映像の提供と日本語翻訳代と日本語字幕作成料は,アートス
テーションが先行投資する。
半額の272万円と枚数が確定していない為,製造費に関し,御社負担でお願い
したい。」
(エ)「利益分配は,実費(製造費他)をトップオフした純利益を折半する。」
(オ)「負担分の半額136万円を今月内に,残額をDLT納品時(9月中)に
振り込む必要あり,PSGには,契約時(8月中)半額,DLT素材納品時(9月
中)に残金を支払ってもらう予定。」
ウ平成22年8月31日付けの請求書(甲12。以下「本件請求書」という。)
について
本件請求書は,被控訴人が控訴人に宛てて作成したものであり,以下の記載があ
る。
(ア)本件請求書には,「項目」欄に「日本語吹替え制作費の半金」,「金額」欄に
「1,320,000」,「備考」欄に「『トムとジェリー』『ミッキーマウス』」と記
載されており,上記132万円に消費税(5%)に相当する6万6000円を加算
した138万6000円が請求金額とされている。
(イ)また,上記請求金額の振込先口座として,被控訴人代表者個人名義の普通
預金口座が指定されている。
エ被控訴人とヤマシロとの業務委託契約書(乙3)について
被控訴人とヤマシロとの業務委託契約書には,年月日欄には「平成22年9月」
とのみ記載され,また,両社いずれの捺印もされていないが,おおむね,以下の内
容が記載されている。
(ア)被控訴人は,ヤマシロに対し,外国アニメ・パブリックドメイン映画作品
(PDアニメ作品)の日本版の制作業務,①日本語吹替え版,②日本語字幕,③英
語字幕,④中国語字幕を委託する。
(イ)日本版の対象となるPDアニメ作品は,①「ミッキーマウス」16作品及
び②「トムとジェリー」30作品とする。
(ウ)被控訴人は,ヤマシロに対し,日本版制作に必要である,原版マスターを
提供する。
(エ)制作費は,日本語字幕,英語字幕及び中国語字幕制作費も含め,46話,
総額276万円(消費税別)とする。
オヤマシロが被控訴人宛てに平成22年8月25日付けで発行した見積書(乙
4)について
(ア)上記見積書には,①「『MICKEYMOUSE』日本語吹き替え版制作
費」及び②「『Tom&Jerry』日本語吹き替え版制作費」の内訳が各別に記載
されており,①の合計額は144万円,②の合計額は270万円である。
また,「字幕製作値引き」として,「数量46」,「単位15,000」,「金額-6
90,000」と,「音響製作費値引き」として,「数量46」,「単位15,000」,
「金額-690,000」と記載されている。
(イ)そして,上記①及び②の各合計額を加算したもの(414万円)から,「字
幕製作値引き」額及び「音響製作費値引き」額(合計138万円)を控除した27
6万円に,消費税5%に相当する13万8000円を加えた289万8000円が,
「税込合計金額」として記載されている。
カ本件コンテンツ提供契約書(乙2)について
本件コンテンツ提供契約書は,被控訴人とイーエックスとが平成22年9月10
日付けで締結した契約に係るものであり,その内容は,おおむね,以下のとおりで
ある。
(ア)被控訴人は,イーエックスが指定する形で,本コンテンツ,すなわち,日
本語字幕及び日本語吹替えを付した本件各作品を,決定された期限までに滞りなく
納品しなければならない。
(イ)イーエックスは,被控訴人によって提供された本コンテンツにより利益を
上げる権利を許諾される。
被控訴人は,日本語字幕及び日本語吹替えを付した本件各作品の完パケ及びその
DLTを納品し,イーエックスは,そのDLTを使用してDVDを製造し,商品と
して販売する。
(ウ)被控訴人は,イーエックスに対し,本コンテンツの著作権等一切の権利が
被控訴人に帰属すること,又は,被控訴人が正当な権利者から必要な権利の許諾を
得ていることを保証する。
(エ)イーエックスは,被控訴人に支払う権利料を,「トムとジェリー」に対して
1作品につき2万円(税抜き)とし,合計60万円(税抜き)を支払うものとする。
イーエックスは,被控訴人に対し,権利金とは別に日本語吹替えの制作費として,
「トムとジェリー」に対して1作品につき3万円(税抜き),合計90万円(税抜き)
を支払うものとする。
イーエックスが被控訴人に支払う権利料と制作費の合計150万円(税抜き)の
支払方法は,契約時に半金,完パケ及びDLTの納品後2週間以内に半金を支払う
ものとする。
キ控訴人から被控訴人に対する支払について
控訴人は,被控訴人名義の口座に,平成22年9月21日に21万5000円を,
同月22日に69万円を,それぞれ振込送金した(乙5)。
ク本件メール(乙6)について
本件メールは,被控訴人代表者が,平成24年4月9日,附帯被控訴人に対して
送ったものである。被控訴人は,この頃,控訴人に対し,「ドナルドダック」3巻(2
4作品)を対象として,本件共同事業と同様の内容の共同事業を持ちかけており,
本件メール中,「ドナルドダック」に関する記載は,同共同事業のことを指している
(甲14~甲16,弁論の全趣旨)。本件メール本文には,以下の記載がある。
(ア)「前回提案してから,かなりの時間が経過してしまいましたが,『ドナルド
ダック』等の販売に関して,ビジネスチャンスを逃すことにならないかと懸念して
おります。
これはPSGとの問題になっている前回の『トムとジェリー』の件の教訓がなに
も活かされていないのではと判断します。」
(イ)「そこで,ついでにご説明しておくと私が作成した事業計画書と未締結の
ままになってしまった共同事業合意書で解るように,総額費用は544万円のプロ
ジェクトでした。
当初より,PSGへの権利販売は決まっていましたので,費用の内334万円は,
PSGからの入金で回収できました。
差引残額210万円が,本来なら御社と当社の負担ということになります。
御社は平成22年9月21日に215000円,22日に690000円を出資
しています。総額905000円です。
この時点での出資額は,本当は136万円の予定ですが,既に787000円の
PSGからの入金がありましたので,当初の約束通り純利益折半ということで,3
93500円の御社取り分で補填されました。
私の事業計画どおりにしていれば,あと145000円の出資で『トムとジェリ
ー』だけでなく『ミッキーマウス』も御社は入手できたことになります。しかも,
今回の様な問題にもなっていません。
計画通りで,まずは出資残額が,お互いに105万円になります。
これを本来の中国人観光客に販売すれば,各1000枚通しで卸値500円で2
50万円になりました。」
(ウ)「各3000枚通しで225万円の売り上げ,両方で475万円の粗利益
が見込め,出資額の回収も制作が完了した時点で終わっています。その上,あくま
でも権利は自社に残ります。」
(エ)「本来なら,当社との共同事業を一方的に解消した御社の行為により,当
社は210万円の損害と得られたであろう利益を御社に損害賠償として要求すべき
ところです。
何故なら,PSGからの売上金の半分を既に御社は受け取ったことになっており,
その途中で契約解除をしたことになります。」
ケ控訴人商品について
控訴人商品には,著作権者についての記載はなく,また,控訴人及び被控訴人い
ずれの名称も記載されていない(甲22の1~3)。
コ本件DVDについて
(ア)被控訴人代表者は,平成22年の秋以降,附帯被控訴人に対し,本件DV
Dを交付した(弁論の全趣旨)。
(イ)検証版DVD-Rは,メーカー等のクライアントが提供した映像,音声,
データ等の素材につき,映像及び音声の圧縮作業(エンコード)を行った上,その
結果得られたデータにメニュー画面の付加やチャプター設定等の作業(オーサリン
グ)を実施して作成するものである。検証版DVD-Rは,コピープロテクトが施
されていない。また,リージョンコードが施されていないので,市販の再生装置を
用いて再生することができる。
マスターは,オーサリング済みのデータにリージョンコード,コピープロテクト
を施したものを,DLT(デジタルリニアテープ)又はプラントダイレクト形式の
DVD-Rに書き出したものをいう。マスターは,上記のとおりリージョンコード
が施されているので,市販の再生装置では再生することができず,再生には特別の
機器を要する。
サコスミック出版との契約について
控訴人は,平成23年4月22日付けで,コスミック出版との間で,本件各作品
に係るDVDの複製,頒布に関する契約を締結した。
同契約においては,①控訴人は,コスミック出版に対し,上記DVDを複製した
上,コスミック出版が制作したパッケージ,価格,販売ルートにより,頒布,販売
することを許諾すること,②控訴人は,コスミック出版に対し,以後,いかなるロ
イヤルティー,対価等も発生しないことを,保証すること,③コスミック出版は,
控訴人に対し,本映像使用の対価として,1タイトル10万円の対価を支払うこと
が定められている(甲13,弁論の全趣旨)。
⑵控訴人の主張について
控訴人は,被控訴人に対し,本件各作品に係る共同事業にのみ出資する旨を連絡
した上で,本件各作品の制作費の半額として90万5000円を振込送金したこと
をもって,本件各作品に係る共同事業の合意が成立している旨主張する。
ア控訴人の被控訴人に対する振込送金について
(ア)確かに,前記⑴キのとおり,控訴人は,被控訴人名義の口座に,平成22
年9月21日に21万5000円,同月22日に69万円の合計90万5000円
を振込送金している。
この90万5000円の送金は,被控訴人が本件請求書において振込先として指
定した被控訴人代表者個人名義の普通預金口座(前記⑴ウ)ではなく,被控訴人名
義の口座に振り込まれたものである。しかし,本件メール中,本件共同事業に関す
ることとして「御社は平成22年9月21日に215000円,22日に6900
00円を出資しています。総額905000円です。」と記載されていること(前記
⑴ク)に鑑みれば,前記90万5000円は,少なくとも最終的には控訴人が本件
共同事業に関して拠出した負担金の一部とされていることが認められる。
(イ)もっとも,本件共同事業に係る費用に関する記載がある本件合意書,本件
提案書,本件請求書,被控訴人とヤマシロとの業務委託契約書,ヤマシロが発行し
た見積書及び本件メール(前記⑴ア~オ,ク)のいずれによっても,前記90万5
000円が「トムとジェリー」及び「ミッキーマウス」の両方の制作費として支払
われたものか,いずれか一方のみの制作費として支払われたものかさえ,判然とし
ない。
そして,たとえ前記90万5000円全額が控訴人の主張するとおり本件各作品
の制作費の半額の趣旨で支払われたものであるとしても,以下のとおり,被控訴人
と控訴人との間において,本件各作品に係る共同事業の合意の成立を認めることは
できない。
イ本件共同事業の内容について
(ア)本件共同事業は,本件合意書に基づくものであるところ,前記⑴アのとお
り,本件合意書に控訴人及び被控訴人のいずれも押印していない。したがって,控
訴人と被控訴人とは,本件合意書の締結には至らなかったものと認められる。
そして,本件証拠上,ほかに,本件共同事業に関し,控訴人と被控訴人との合意
の存在を直接裏付ける書面等の客観的な証拠は,存在しない。
他方,前記⑴カのとおり,被控訴人は,イーエックスとの間で,両社が捺印した
本件コンテンツ提供契約書に基づき,概要,①被控訴人においてイーエックスに対
し,コンテンツ,すなわち,日本語字幕及び日本語吹替えを付した本件各作品の完
パケ及びそのDLTを納品する,②イーエックスは,そのDLTを使用してDVD
を製造し,商品として販売する,③被控訴人は,イーエックスに対し,上記コンテ
ンツの著作権等の一切の権利が被控訴人に帰属することなどを保証するという内容
の契約を締結している。
加えて,被控訴人は,イーエックスとの間で,本件各作品とは別の,「トムとジェ
リー」の30作品についても,両社が捺印したコンテンツ提供契約書(甲17)に
基づき,前記契約と同様の契約を締結しており,また,他社との間でも,両社が捺
印したコンテンツ提供契約書(甲8,甲9)に基づき,本件各作品を含むコンテン
ツを提供し,一定の権利料,ロイヤルティーの支払を受けるという内容の契約を締
結している。
このように,被控訴人は,当事者双方の捺印のある契約書に基づき,本件各作品
を含むコンテンツを提供する契約を締結している。この点に鑑みれば,被控訴人に
おいて,それらのコンテンツ提供契約とは異なり,本件商品に関する著作権等の権
利を共同で所有するという重要な事項を含む取引につき,それに関する合意の事実
を明示する両者の捺印がされた書面等を取り交わすこともなく,合意に至ることは,
考え難い。
(イ)前記⑴アのとおり,被控訴人が原文を作成した本件合意書においては,対
象とする「本件商品」につき,「『ミッキーマウス』2巻(16作品),『トムとジェ
リー』3巻(30作品)で,英語・日本語・中国語の字幕切替,並びに原語・日本
語吹替えの音声切替が可能なもの」と明記されている。そして,その後に列記され
ている条項は全て「本件商品」を対象とするものである。本件合意書中,「ミッキー
マウス」か「トムとジェリー」のいずれか一方に係る商品に関する事業のみを共同
で行うことを想定したとうかがわれる記載は,見られない。
前記⑴イのとおり,被控訴人が平成22年8月30日付けで作成した本件提案書
は,「名作アニメDVD制作に関するご提案『ミッキーマウス』『トムとジェリー』」
と題するものである。また,商品の「仕様」として,「5巻」と記載され,その内訳
として,「『ミッキーマウス』2巻1巻に8作品収録全16作品」と「『トムとジェ
リー』3巻1巻に10作品収録全30作品」が併記されている。そして,「支出」
中,吹替え費用の内訳を成すスタジオ費,吹替え用翻訳台本作成費,声優代及び演
出費は,いずれも「ミッキーマウス」に係る作品及び「トムとジェリー」に係る作
品に要する費用の総額を記載したものと解され,被控訴人は,これらの作品を並行
して制作することを意図していたものと推認することができる。
作品の制作に要する費用に関し,前記⑴ウのとおり,被控訴人が控訴人に宛てて
同月31日付けで作成した本件請求書において,「トムとジェリー」及び「ミッキー
マウス」の「日本語吹替え制作費の半金」として138万6000円(消費税込み)
を請求する旨が記載されている。また,前記⑴エのとおり,被控訴人とヤマシロと
の業務委託契約書においても,被控訴人がヤマシロに対し,「ミッキーマウス」16
作品及び本件各作品の日本語版の制作業務を委託する旨が記載されている。
以上に鑑みると,本件共同事業は,あくまでも「ミッキーマウス」16作品及び
本件各作品の両方につき,被控訴人と控訴人が共同で日本語吹替え版DVDを制作,
製造,販売するというものであり,「ミッキーマウス」又は「トムとジェリー」のい
ずれか一方のみを対象とすることは,想定されていないものというべきである。
ウ本件DVDについて
(ア)本件DVDの性質について
前記⑴コによれば,本件DVDは,検証版DVD-R又はプラントダイレクト形
式のDVD-Rのいずれかであったものと考えられる
そして,前記⑴カのとおり,被控訴人が本件各作品のコンテンツをイーエックス
に提供する本件コンテンツ提供契約書においては,被控訴人は,日本語字幕及び日
本語吹替えをした本件各作品の完パケ及びそのDLTを納品し,イーエックスは,
そのDLTを使用してDVDを製造し,販売する旨規定されており,この点に関し,
被控訴人は,自らが作成した本件各作品に係るマスターは上記DLTのみであり,
プラントダイレクトディスクは作成していない旨主張している。
被控訴人が他社に本件各作品を含む作品のコンテンツを提供し,他社がそのコン
テンツをDVDとして商品化するコンテンツ提供契約書(甲8,甲9)においては,
被控訴人が他社に「マスターテープ」を渡すという条項が設けられており,この「マ
スターテープ」は,デジタルリニアテープであるDLTを指すものと推認できる。
また,本件提案書にも,「DLT納品時」という文言が見られる。他方,本件コンテ
ンツ提供契約書,被控訴人が他社との間で締結したコンテンツ提供契約書及び本件
提案書のいずれにも,マスターとしてのDVD,プラントダイレクトディスク形式
のDVD-Rを指すものと解される記載は,見当たらない。
以上に鑑みると,被控訴人の前記主張のとおり,被控訴人が作成した本件各作品
に係るマスターは,DLTのみであったと推認できる。
加えて,前記⑴アのとおり,本件合意書には,マスターに関する記載はない。ま
た,本件合意書においては,「販売に関しては,共同で行う」と記載されているのに
対し,「制作に関しては,甲(被控訴人)が主体となり,責任を持って行う。」と記
載されており,本件共同事業においては,控訴人が商品制作に携わることは予定さ
れていなかったものと推認することができる。そのような控訴人に対し,被控訴人
がマスターとなるプラントダイレクト形式のDVD-Rを渡すことは,考え難い。
以上によれば,本件DVDは,検証版DVD-Rであったと推認すべきである。
(イ)なお,控訴人は,検証版DVD-Rには,リージョンコード,コピープロ
テクトが施されていないものであるから,プレスして製品化することは不可能であ
る旨主張する。
しかし,前記⑴コ(イ)のとおり,検証版DVD-Rは,コピープロテクトを施さ
れていないものであるから,その内容をコピーすることは可能である。また,リー
ジョンコードを施されていないことから,市販のDVDで再生することができる。
以上に鑑みれば,検証版DVD-Rをコピーして一般視聴者が再生可能な商品を制
作すること自体は,法的問題が生ずるおそれはあるものの,技術的には可能である
と考えられる。
したがって,控訴人が本件DVDを複製(プレス)して控訴人商品を製造したこ
とをもって,必ずしも,本件DVDがマスターとなるプラントダイレクト形式のD
VD-Rであったということはできない。
(ウ)また,控訴人は,当審において,証明書(乙10)及び陳述書(乙12)
を,本件DVDがマスターである旨を立証する証拠として提出する。
しかし,上記証明書には,被控訴人から控訴人に対して「DVDマスター3種
類」,すなわち,トムとジェリーのVOL.1からVOL.3を手渡したことを証明
する旨が記載されているにすぎず,しかも,作成者のBは,平成27年1月4日に
死亡しており(乙11),上記記載の内容等を確認することはできない。また,上記
陳述書は,控訴人によれば,控訴人代理人が生前のBから聴取した内容を記載した
ものとのことであるが,Bの署名も捺印もない。
以上に鑑みると,前記証明書及び陳述書は,本件DVDが検証版DVD-Rであ
ったという前記推認を揺るがせるものではない。
エ本件メールについて
控訴人は,本件メールの内容は,①被控訴人と控訴人との間において,本件各作
品に係る共同事業の合意が成立しており,本件合意書3項に基づき,イーエックス
から入金された額の半額に相当する39万3500円が控訴人の取り分となり,②
これを,本件共同事業のうち,「ミッキーマウス」16作品に関する共同事業につい
ての控訴人の負担分に充当したことによって,控訴人において更に14万5000
円を出資すれば,上記共同事業の合意も成立していたが,上記出資がされなかった
ために,成立しなかったという趣旨に解釈するのが自然である旨主張する。
この点に関し,前記⑴クのとおり,本件メールには,本件共同事業に関し,「この
時点での出資額は,本当は136万円の予定ですが,既に787000円のPSG
からの入金がありましたので,当初の約束通り純利益折半ということで,3935
00円の御社取り分で補填されました。私の事業計画どおりにしていれば,あと1
45000円の出資で『トムとジェリー』だけでなく『ミッキーマウス』も御社は
入手できたことになります。」との記載がある。
しかし,本件メールには,特に本件共同事業に関する出資額につき,控訴人自身,
根拠不明を認める「あと145000円の出資」のほか,「この時点での出資額は,
本当は136万の予定です」,「計画通りで,まずは出資残額が,お互いに105万
円になります。」など,算定根拠不明な記載が散見される。上記の「『トムとジェリ
ー』だけでなく『ミッキーマウス』も御社は入手できたことになります。」という記
載についても,入手の対象は示されていない。
以上に鑑みると,本件メールの内容につき,控訴人の前記主張のとおりの趣旨で
あるとは,必ずしもいうことができない。
オ控訴人商品について
(ア)前記⑴ケのとおり,控訴人商品には,控訴人及び被控訴人いずれの名称も
表示されておらず,そもそも著作権者についての記載自体,見られない(甲22の
1~3)。控訴人が,その主張するとおり,本件各作品に係る共同事業の合意に基づ
いて控訴人商品を製造,販売しているのであれば,控訴人商品について上記のとお
りの体裁とすることは,不自然といわざるを得ない。
(イ)この点に関し,控訴人は,本件各作品に係る共同事業の合意に基づき,取
り付けることができた契約は,コスミック出版への使用許諾及びサイドエーネット
ワークへのOEM供給であり,その結果,コスミック出版及びサイドエーネットワ
ークのいずれが販売する商品においても,控訴人の名称等さえ記載されていなかっ
たにすぎない旨主張する。
しかし,上記主張は,控訴人が本件各作品に係る共同事業の合意に基づいて控訴
人商品を製造,販売していながら,控訴人商品に控訴人及び被控訴人いずれの名称
も表示せず,著作権者について何ら記載しなかったことについての合理的な説明と
はいい難い。
カ第三者との契約について
前記⑴サのとおり,控訴人は,コスミック出版との間で,本件各作品に係るDV
Dの複製,頒布に関する契約を締結した。
同契約の内容は,控訴人が,コスミック出版に対し,①上記DVDを複製した上,
コスミック出版が制作したパッケージ,価格,販売ルートにより,頒布,販売する
ことを許諾する,②以後,いかなるロイヤルティー,対価等も発生しないことを保
証するというものである。
この点に関し,前記⑴アによれば,本件共同事業の内容は,被控訴人が主体とな
って制作した商品を,控訴人と被控訴人が共同で販売するというものであるから,
前記契約内容は,明らかに本件共同事業の範ちゅうを超えるものということができ
る。控訴人が,被控訴人との間で本件各作品に係る共同事業について合意している
のであれば,被控訴人に無断で(弁論の全趣旨)このような契約を締結することは,
考え難い。
⑶小括
以上によれば,本件において,被控訴人と控訴人との間において,本件各作品に
係る共同事業の合意の成立を認めることはできない。
2争点⑵(附帯被控訴人に対する請求の可否)について
⑴前記第2の1のとおり,原判決は,被控訴人が原告となり,控訴人及び附帯
被控訴人を被告として提起した訴えに係る通常共同訴訟について言い渡されたもの
である。前記第2の1のとおり,原判決は,被控訴人の控訴人に対する請求を一部
認容し,附帯被控訴人に対する請求を全て棄却した。原判決が被控訴人に対しては
平成27年8月28日に,控訴人及び附帯被控訴人に対しては同月31日に,それ
ぞれ送達されたことは,記録上明らかである。
⑵本件においては,控訴人のみが控訴を提起しているところ,共同訴訟人独立
の原則(民訴法39条)により,上記控訴によって被控訴人の控訴人に対する請求
のみが移審して控訴審の審判対象となる。
他方,附帯被控訴人に対する請求が全て棄却された被控訴人は,原判決の送達を
受けた平成27年8月28日から2週間の控訴期間が満了するまでの間,控訴を提
起しなかったことから,被控訴人の附帯被控訴人に対する請求は移審せず,前記控
訴期間の満了をもって,確定した。
したがって,被控訴人の附帯被控訴人に対する請求は,そもそも控訴審における
審判の対象となり得ないものであるから,被控訴人の附帯控訴のうち,附帯被控訴
人に対する部分は,不適法というべきである。
3争点⑶(被控訴人の損害額)について
本件著作権侵害に係る著作権法114条2項による損害の算定に当たっては,被
控訴人において本件著作権侵害によって得た利益の額及び販売数量を立証すべきで
あるところ,控訴人において自認する控訴人商品1枚当たりの利益額17円及び販
売数量合計9000枚という以上の立証はない。
よって,その利益の総額は,15万3000円(17円×9000枚)と認めら
れる。
4結論
以上によれば,被控訴人の控訴人に対する請求を一部認容した原判決は相当であ
るから,控訴人による控訴及び被控訴人による控訴人に対する附帯控訴は,いずれ
も理由がない。また,被控訴人による附帯被控訴人に対する附帯控訴は,不適法で
あるから,却下する。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官田中芳樹
裁判官鈴木わかな

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独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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