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平成13年(ワ)第26362号 意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成14年5月22日
             判      決
原      告 株式会社サーメル
訴訟代理人弁護士   脇  田  輝  次 
補佐人弁理士       小  野  信  夫 
  被      告株式会社萬丸
被      告ナカバヤシ株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士白波瀬  文  夫
被告ら補佐人弁理士濱  田  俊  明 
        主      文
      1原告の請求をいずれも棄却する。
      2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1被告ナカバヤシ株式会社は,別紙物件目録記載の物件を輸入し,製造し,販
売してはならない。
 2被告ナカバヤシ株式会社は,その占有する別紙物件目録記載の物件を,その
仕掛品も含めて廃棄せよ。
 3被告株式会社萬丸は,別紙物件目録記載の物件を販売し,リースし,展示し
てはならない。
 4被告株式会社萬丸は,その占有する別紙物件目録記載の物件を廃棄せよ。
第2 事案の概要
本件は,座いすについての意匠権を有する原告が,座いすを販売等している
被告らに対して,当該意匠権に基づき,上記座いすの販売等の差止めを求めている
事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その意匠を「本件登録意
匠」という。)を有している。
    登録意匠番号    第1038537号
    意匠に係る物品   座いす
    登録意匠の範囲別紙意匠公報該当欄記載のとおり
(2) 本件登録意匠の審査経過は,次のとおりである。
平成6年7月22日    本件意匠登録出願
平成7年7月14日    同年6月20日付け拒絶理由通知発送
平成7年8月22日    意見書提出(乙2)
平成7年10月27日   同年10月27日付け拒絶査定発送
平成7年11月27日   審判請求
平成8年4月17日    審判請求理由補充書提出(乙3)
平成11年3月5日    登録
(3) 被告ナカバヤシ株式会社(以下「被告ナカバヤシ」という。)は,業とし
て,別紙物件目録記載の座いす(以下「被告製品」という。)を輸入し,製造し,
販売しており,被告株式会社萬丸(以下「被告萬丸」という。)は,業として被告
製品を販売している(ただし,被告ナカバヤシが被告製品を製造しているかどうか
については争いがある。)。
2 争点及び当事者の主張
被告製品の意匠(以下「被告意匠」という。)は,本件登録意匠に類似する
か。
(原告の主張)
(1) 本件登録意匠の要部は,次のとおりである。
A 平面視をほぼ逆T字状とした座部と,この側面の中程から立ち上がるア
ーチ状に形成した背もたれ部からなり,
   B この背もたれ部は,側面視において最初は一定の角度をもって立ち上が
り,途中でこの角度よりゆるやかな傾斜角となるよう形成されており,
   C 必要に応じて背もたれ部が折り畳み可能となる。
  (2) 被告意匠の構成は,次のとおりである。
   A′ 平面視をほぼ逆T字状とした座部と,この側面の中程から立ち上がる
アーチ状に形成した背もたれ部からなり,
   B′ この背もたれ部は,側面視において最初は一定の角度をもって立ち上
がり,途中でこの角度よりゆるやかな傾斜角となるよう形成されており,
   C′ 座部と背もたれ部は色分けがされており,
   D′ 座部底面には回転板が取り付けられており,
   E′ 必要に応じて背もたれ部が折り畳み可能となる。
  (3) 本件登録意匠の要部と被告意匠の構成との対比
ア 被告意匠の各構成は,本件登録意匠の要部AないしCをすべて具備し,
看者をして共通の美観を与えるものといえる。
イ 本件登録意匠と被告意匠とは,本件登録意匠が単色であるのに対し,被
告意匠が座部と背もたれ部が色分けされている点で相違する。しかし,本件登録意
匠は,形状の意匠として登録を受けているのであり,色分けするか否かは要部とは
いえない。したがって,色分けした被告意匠は本件登録意匠と美観において異なら
ない。
 また,両者は,被告意匠において座部底面に回転板が取り付けられてい
る点において,側方視,正面視,背面視及び底面視において相違する。しかし,被
告意匠の回転板を取り除いた場合は本件登録意匠そのものであるから,被告意匠は
本件登録意匠の本質的特徴を損なうことなく,本質的特徴を認識できる意匠という
ことができるから,両者は類似する。
 なお,原告は,本件登録意匠の審査経過において意見書(乙2)及び審
判理由補充書(乙3)を提出し,上記各書面において,公知意匠との対比に関し
て,本件登録意匠の要部は,座部の側面の中程から立ち上がり,途中でよりゆるや
かな傾斜角となるよう形成されている背もたれ部の形態にあると主張した。本訴に
おける主張は,上記各書面と整合する。
ウ したがって,被告意匠は本件登録意匠に類似する。
 (被告らの反論)
(1) 本件登録意匠の構成は,以下の(ア)AないしEのとおりであり,審査経過
等に照らすと,要部は(イ)の①ないし③のとおりである。
(ア) 構成
A 平面視をほぼ逆T字状とした座部と,この側面の中程から立ち上がる
アーチ状に形成した背もたれ部からなる。
Bこの背もたれ部は,側面視において,最初は細い付け根から徐々に太
くしながら一定の角度をもって立ち上がり,途中座部のほぼ5分の1の長さで,残
り背もたれ部がこの角度よりゆるやかな傾斜角に折れ曲がっているかのごとく低く
形成されている。
C 背もたれ部を全倒した状態の平面視において,座部と背もたれ部の間
に空隙部がない。
D 座部と背もたれ部は全体が単一色よりなる。
E 必要に応じて背もたれ部が折り畳み可能となる。
(イ) 要部
 座部とその側面から立ち上がるアーチ状に形成した背もたれ部からな
る座いすは,本件意匠登録出願時に数多く存在した(乙4ないし12)。これら多
数の公知意匠の存在に鑑みれば,本件登録意匠における要部,すなわち看者の注意
を引く部分は,公知意匠には存しない細部の形状や模様の部分のみにあると見るの
が相当である。
 そうすると,本件登録意匠の要部は,本件登録意匠に類似している公
知意匠が多数存在する(乙4,乙3の審判請求理由補充書の引用意匠)ことに照ら
すならば,細部の形状や模様の中で,次の点のみにあるというべきである。すなわ
ち,
① 背もたれ部が,最初は細い付け根から徐々に太くしながら一定の角
度をもって立ち上がり,途中座部のほぼ5分の1の長さで,残り背もたれ部がこの
角度よりゆるやかな傾斜角に折れ曲がっているかの如く低く形成されていること。
② 背もたれ全倒状態の平面視において,座部と背もたれ部の間に空隙
部がないこと。
③ 座部と背もたれ部の全体が単一色よりなること。
 なお,以上の3点が本件登録意匠の要部であることは,原告自身も,
意見書(乙2)及び審判理由補充書(乙3)において強調した。
(2) 被告意匠の構成は,次のとおりである。
A′ 平面視を底辺が円弧状に形成された略台形状とした座部と,この側面
の中程から立ち上がるアーチ状に形成した背もたれ部からなる。
   B′ この背もたれ部は,側面視において,太い付け根から立ち上がり先端
までほぼ均一の太さで,背もたれ部全体がなだらかな円弧状に形成されている。
   C′ 背もたれ部を全倒した状態の平面視において,座部と背もたれ部の間
に背もたれ部の径と同程度の空隙部がある。
   D′ 座部のうち左右端部を除く主要部は淡色とし,背もたれ部を含むその
他の部分は濃色とする濃淡2色よりなる。
   E′ 正面視,背面視,側面視,底面視において,座部底面に回転板が不可
分に取り付けられている。
   F′ 必要に応じて背もたれ部が折り畳み可能となる。
(3) 本件登録意匠と被告意匠の対比
 被告意匠は,本件登録意匠と個々の構成を対比してみても相違しているの
みならず,本件登録意匠の要部を具備しないので,いずれの理由からも類似しな
い。
   ア 各構成の対比
(ア) 本件登録意匠の構成Aと被告意匠の構成A′
      本件登録意匠の構成Aでは,座部は平面視をほぼ逆T字状であるのに
対し,被告意匠の構成A′では,座部は平面視を底辺が円弧状に形成された略台形
状である点で相違する。
(イ) 本件登録意匠の構成Bと被告意匠の構成B′
    側面視において,本件登録意匠の構成Bでは,背もたれ部は,最初は
細い付け根から徐々に太くしながら一定の角度をもって立ち上がり,途中座部のほ
ぼ5分の1の長さで,残り背もたれ部がこの角度よりゆるやかな傾斜角に折れ曲が
っているかの如く形成されているのに対し,被告意匠の構成B′では,背もたれ部
は,太い付け根から立ち上がり,先端まで均一の太さで,背もたれ部全体がなだら
かな円弧状に形成されている点で相違する。
    (ウ) 本件登録意匠の構成Cと被告意匠の構成C′
背もたれ部の平面視において,本件登録意匠の構成Cでは,座部と背
もたれ部の間に空隙部がないのに対し,被告意匠の構成C′では,座部と背もたれ
部の間に背もたれ部の径と同程度の空隙部がある点で相違する。
    (エ) 本件登録意匠の構成Dと被告意匠の構成D′
本件登録意匠の構成Dでは,座部と背もたれ部の全体が単一色よりな
るのに対し,被告意匠の構成D′では,座部のうち左右端部を除く主要部は淡色と
し,背もたれ部を含むその他の部分は濃色とする濃淡2色よりなる点で相違する。
    (オ) 本件登録意匠の構成E
      被告意匠では,正面視,背面視,側面視,底面視において,座部底面
に回転板が不可分に取り付けられているが,本件登録意匠には回転板は存しない点
で相違する。
    (カ) なお,本件登録意匠の構成Fと被告意匠の構成F′は共通する。
   イ 本件登録意匠の要部と被告意匠の構成との対比
(ア) ①の背もたれ部の形状
 側面視において,本件登録意匠の背もたれ部は,最初は細い付け根か
ら徐々に太くしながら一定の角度をもって立ち上がり,途中座部のほぼ5分の1の
長さで,残り背もたれ部がこの角度よりゆるやかな傾斜角に折れ曲がってるかの如
く低く形成されているのに対し,被告意匠の背もたれ部は,太い付け根から立ち上
がり,先端までほぼ均一の太さで,背もたれ部全体がなだらかな円弧状に形成され
ている点で,両意匠は相違する。
(イ) ②の座部と背もたれ部の空隙部の有無
 背もたれ全倒状態の平面視において,本件登録意匠は,座部と背もた
れ部の間に空隙部がないのに対し,被告意匠は,座部と背もたれ部の間に背もたれ
部の径と同程度の空隙部がある点で,両意匠は相違する。
(ウ) ③の座部と背もたれ部の色彩
 本件登録意匠は,座部と背もたれ部の全体が単一色よりなるのに対
し,被告意匠は,座部のうち左右端部を除く主要部は淡色とし,背もたれ部を含む
その他の部分は濃色とする濃淡2色よりなる点で,両意匠は相違する。
   ウ 結論
 本件登録意匠と被告意匠とは,本件登録意匠と個々の構成を対比してみ
ても相違するのみならず,本件登録意匠の要部を具備しない。したがって,両意匠
は,看者に異なる美観を与えるものであり,類似しない。
第3 当裁判所の判断
1 本件登録意匠について
(1) 本件登録意匠の構成
 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,本件登録意匠の構成は,次のと
おりであると認められる(以下,座いすの正面側を「前方」,背面側を「後方」と
いう場合がある。)。なお,意匠に係る物品は,「座いす」であるが,その背もた
れ部を倒すことができるものである。
A 平面視において,形状をほぼ上下逆T字状とした座部(以下,逆T字状
の横棒に相当する部分を「座部前方部分」,縦棒に相当する部分を「座部後方部
分」という。また,本件登録意匠に限らず,略逆T字状の座部を有する座いすの意
匠についても同様に表す。)と,座部前方部分の後方側辺の両端部分から立ち上が
る太さがほぼ均一のアーチ状に形成した背もたれ部からなる。
B 背もたれ部を立てた状態の側面視において,背もたれ部は,所定の角度
をもって立ち上がり,立ち上がり部から背もたれ部全体の約3分の1の長さの位置
で水平方向に折れ曲がり,立ち上がり部の角度よりゆるやかな傾斜角になるように
形成されている。
C 背もたれ部は,側面視において,立ち上がる付け根部が細く,折れ曲が
り部まで徐々に太くなり,折れ曲がり部から先端までの太さはほぼ均一である。
D 背もたれ部を立てた状態での平面視において,座部前方部分の前後方向
の長さと左右方向の長さの比が約3対7であり,座部前方部分の前後方向の長さと
座部後方部分の左右方向の長さの比は約3対4である。平面視における座部後方部
分の形状は略正方形である。
E背もたれ部を全倒した状態での平面視において,座部後方部分は背もた
れ部の内側に収まり,座部後方部分と背もたれ部との間には,左右方向にわずかな
空隙部があり,前後方向には,それよりわずかな空隙部がある。
F 背もたれ部を全倒した状態での側面視において,背もたれ部は,座部の
中程から上方にわずかに傾斜して分かれ出て,同分離部分から背もたれ部全体の約
3分の1の長さの位置で下方に傾斜し始め,背もたれ部の先端部は,座部と同じ高
さに位置する。
G 座部と背もたれ部は全体が濃色の単一色よりなる。
(2) 本件登録意匠の要部
ア 証拠(甲6,乙2,3,4の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,以下
の事実が認められる。
(ア) 本件登録意匠の登録出願前に株式会社オレンジページが発行した雑
誌「オレンジページ」には,背もたれ部が全倒可能な座いすが掲載されていた。
(イ) 上記座いすの意匠(以下「本件公知意匠」という。)における構成
は,次のとおりである。
① 平面視において,形状をほぼ逆T字状とした座部と,座部前方部分
の後方側辺の両端部分から立ち上がる全体の太さがほぼ均一のアーチ状に形成した
背もたれ部からなる。
② 背もたれ部を立てた状態の側面視において,背もたれ部は所定の角
度をもって,真直ぐに立ち上がっている。
③ 背もたれ部は,側面視において,付け根部から先端までの太さがほ
ぼ均一である。
④ 背もたれ部を全倒した状態の平面視において,座部後方部分が背も
たれ部の内側に収まり,背もたれ部と座部後方部分との間に空隙部がある。
⑤ 背もたれ部を全倒した状態の側面視において,座部及び背もたれ部
は一直線上にある。
イ 要部の認定判断
意匠登録出願前に公然知られた意匠,刊行物に記載された意匠又はこれ
らと類似する意匠は意匠登録を受けることができないのであるから,本件登録意匠
の要部を認定する際には,本件公知意匠の存在を斟酌すべきである。そして,本件
登録意匠の基本的な構成は,平面視において,形状をほぼ逆T字状とした座部と,
座部前方部分の後方側辺の両端部分から立ち上がるアーチ状に形成した背もたれ部
からなるという構成であると解されるところ,本件公知意匠の基本的な構成もこれ
と同じであるから,同構成は本件登録意匠の要部ということはできない。
そして,①本件登録意匠に係る物品は,その性質から,背もたれ部を立
てて,床の上に置いて使用されるため,使用状態における形態は特に重要であると
考えるべきであること,②収納等のために全倒状態にする場合,平面視における形
状も,看者の注意を引く部分と解すべきであること,③部屋全体及び他のインテリ
アとの調和という観点から,色彩も看者の注意を引く要素であると解すべきことな
ど総合考慮して判断すると,本件登録意匠における要部は,以下のとおりとなる。
(ア) 背もたれ部を立てた状態の側面視において,背もたれ部は,所定の
角度をもって立ち上がり,立ち上がり部から背もたれ部全体の約3分の1の長さの
位置で水平方向に折れ曲がり,立ち上がり部の角度よりゆるやかな傾斜角になるよ
うに形成されている。
(イ) 背もたれ部は,側面視において,立ち上がる付け根部が細く,折れ
曲がり部まで徐々に太くなり,折れ曲がり部から先端までの太さはほぼ均一であ
る。
(ウ) 背もたれ部を立てた状態の平面視において,座部前方部分の前後方
向の長さと左右方向の長さの比が約3対7であり,座部前方部分の前後方向の長さ
と座部後方部分の左右方向の長さの比は約3対4である。
(エ) 背もたれ部を全倒した状態の平面視において,座部後方部分は背も
たれ部の内側に収まり,座部後方部分と背もたれ部との間には,左右方向にわずか
な空隙部があり,前後方向には,それよりもわずかな空隙部がある。
(オ) 座部と背もたれ部は全体が濃色の単一色よりなる。
2 被告意匠の構成
 証拠(検甲1)及び弁論の全趣旨によれば,被告意匠の構成は,次のとおり
であることが認められる(なお,被告製品は,背もたれ部が全倒可能な座いすであ
る。)。
A′ 平面視において,形状をほぼ逆T字状とした座部と,座部前方部分の後
方側辺の両端部分から立ち上がる全体の太さがほぼ均一のアーチ状に形成した背も
たれ部からなる。
  B′ 背もたれ部を立てた状態の側面視において,背もたれ部は,所定の角度
をもって立ち上がり,立ち上がり部から背もたれ部全体の約2分の1の長さのとこ
ろで水平方向に折れ曲がり,立ち上がり部の角度よりゆるやかな傾斜角になるよう
に形成されている。
  C′ 背もたれ部は,側面視において,付け根部から先端までの太さがほぼ均
一である。
  D′ 背もたれ部を立てた状態の平面視において,座部前方部分の前後方向の
長さと左右方向の長さの比が約1対4であり,座部前方部分の前後方向の長さと座
部後方部分の左右方向の長さの比は約4対9である。平面視における座部後方部分
の形状は略正方形である。
  E′ 背もたれ部を全倒した状態の平面視において,座部後方部分は背もたれ
部の内側に収まり,座部後方部分と背もたれ部の間には,左右方向に空隙部があ
り,前後方向にはそれよりも大きな背もたれ部の径の約2分の1ほどの空隙部があ
る。
  F′ 背もたれ部を全倒した状態の側面視において,背もたれ部は,座部の中
程から上方にわずかに傾斜して分かれ出て,同分離部分から背もたれ部全体の約2
分の1の長さの位置で下方に傾斜し始め,背もたれ部の先端部は,座部と同じ高さ
に位置する。
  G′ 平面視において,座部後方部分及び座部前方部分の左右両端部を除く部
分の淡色と,座部前方部分の左右両端部及び背もたれ部の濃色との濃淡2色からな
る。
  H′ 座部底面に回転板が取り付けられている。
 3 本件登録意匠と被告意匠の対比
(1)本件登録意匠の要部と被告意匠の構成とを対比検討する。
ア 被告意匠は,背もたれ部を立てた状態の側面視において,背もたれ部が
所定の角度をもって立ち上がり,途中でよりゆるやかな傾斜角になるように形成さ
れている点において本件登録意匠と共通する。しかし,水平方向に折れ曲がる箇所
が,本件登録意匠では,立ち上がりの部分から背もたれ部全体の約3分の1の長さ
に位置するのに対し,被告意匠では,立ち上がりの部分から背もたれ部全体の約2
分の1の長さに位置し,そのため,本件登録意匠は被告意匠に比べてより姿勢の低
い平たい印象を看者に与える点で相違する。
イ 側面視において,本件登録意匠では,背もたれ部の立ち上がり付け根部
が細く,折れ曲がり部まで徐々に太くなり,そこから先端まではほぼ均一の太さで
あるのに対し,被告意匠では,背もたれ部の太さは付け根部から先端まで均一であ
る。
ウ 本件登録意匠では,背もたれ部を立てた状態の平面視において,座部前
方部分の前後方向の長さと左右方向の長さの比が約3対7であり,座部前方部分の
前後方向の長さと座部後方部分の左右方向の長さの比が約3対4であるのに対し,
被告意匠では,それらが約1対4と約4対9であり,このため,本件登録意匠で
は,看者に対し,座部が横長の略長方形と略正方形とからなる略逆T字状の形状を
有し,どっしりと安定感のある印象を与えるのに対し,被告意匠では,座部が横長
の棒形状と略正方形とからなる略逆T字状の形状を有し,座部前方部分が窮屈な印
象を与える。
エ 背もたれ部を全倒した状態の平面視において,本件登録意匠では,座部
後方部分と背もたれ部との間の空隙部がわずかしか存在しないため,極めて機能的
な印象を与えるのに対し,被告意匠では,座部後方部分と背もたれ部の間に,左右
方向の空隙部と前後方向のそれよりも大きな背もたれ部の径の約2分の1ほどの空
隙部があり,余裕のある印象を与える。
オ平面視において,本件登録意匠は,全体が濃色の単一色であるのに対
し,被告意匠は,座部後方部分及び座部前方部分の左右両端部を除く部分の淡色
と,座部前方部分の左右両端部及び背もたれ部の濃色との濃淡2色からなる。
カ 被告意匠では,座部底面に回転板が取り付けられているが,本件登録意
匠では回転板は取り付けられていない。
(2) 以上のとおり,被告意匠を本件登録意匠の要部(前記1(2)イ(ア)ないし
(オ))と対比すると,被告意匠は,本件登録意匠の要部を具備しないといえる。さ
らに,前記のとおり,被告製品の座部底面には回転板が取り付けられているのに対
し,本件登録意匠には回転板がないことを併せ考慮すると,本件登録意匠と被告意
匠とは全体として看者に与える美観を異にするものと認められるから,被告意匠は
本件登録意匠と類似しない。
 これに対し,原告は,被告意匠は,本件登録意匠においては,背もたれ部
が座部の側面の中程から立ち上がり,途中でよりゆるやかな傾斜角となるよう形成
された点が本質的特徴であり,被告意匠はこの特徴を損なうことなく,看者がその
特徴を認識できる状態で存在するので類似すると解すべきであり,色彩及び回転板
の有無という相違点は,類否の判断に影響を与えないと主張する。しかし,本件登
録意匠の要部は前記1(2)イ(ア)ないし(オ)のとおりであるから,単に,被告意匠に
おいて,座部の側面の中程から立ち上がり,途中でよりゆるやかな傾斜角となるよ
う形成された背もたれ部があるという共通点が存在するだけでは,被告意匠が本件
登録意匠と類似するということはできない。したがって,原告の上記主張は採用で
きない。
4 よって,原告の本訴請求はいずれも理由がないから,これを棄却する。
    東京地方裁判所民事第29部
        裁判長裁判官 飯  村  敏  明
           裁判官 榎  戸  道  也
           裁判官 佐  野     信
別紙 物件目録
別紙写真のとおり,平面視をほぼ逆T字状とした座部と,この側面の中程から立ち
上がるアーチ状に形成した背もたれ部からなり,この背もたれ部は,側面視におい
て最初は一定の角度をもって立ち上がり,途中でこの角度よりゆるやかな傾斜角と
なるよう形成されており,座部と背もたれ部は色分けがされており,座部底面には
回転板が取り付けられており,必要に応じて背もたれ部が折り畳み可能となる座椅

平面、底面、正面図背面、左側面、右側面図

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