弁護士法人ITJ法律事務所

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平成20年1月24日決定
平成20年(む)第22号
主文
1検察官に対し,A警部補が,犯罪捜査規範13条に基づき,被告人
の取調べについてその供述内容や取調べの状況等を記録した備忘
録で,捜査機関において保管中のものを平成20年2月5日までに開
示することを命じる。
2その余の本件証拠開示命令請求を棄却する。
理由
1本件請求の趣旨及び理由は,弁護人ら作成の平成20年1月8日付け
証拠開示命令請求書(3)記載のとおりであるから,これを引用
する。その要旨は,弁護人は,本件において,被告人の供述調書
の一部については,警察官や検察官が無理矢理筋書きを押し付け
て,被告人の言い分を聞くことなく,その意に反して作成された
もので,任意性がなく,その任意性の有無を判断するには,被告
人の取調べ時の状況等の全体を知ることが重要で,被告人の取調
べに係る検察官及び警察官の作成した取調べメモ(手控え),備
忘録等(以下「本件取調べメモ等」という)はすべてこの主張に
関連する上,取調べの録音・録画記録の無い本件では被告人の取
調べ状況に関する唯一の客観的資料であって被告人の防御の準備
のために必要であるから,開示されるべきというものである。
2これに対して,検察官の意見は,平成20年1月18日付け意見書記
載のとおりである。その要旨は,捜査官が作成した取調べメモ等
は,検察官手持ち証拠に含まれておらず,また,含まれるべきも
のではないから,証拠開示の対象とならない。弁護人は,被告人
の供述調書の任意性に関し具体的な主張をしておらず,刑事訴訟
法316条の17第1項に規定された主張明示義務を尽くしていないか
ら,弁護人の主張と開示を求める本件取調べメモ等との関連性は
不明であり,それらを開示する必要もなく,本件証拠開示請求は,
「証拠あさり」に該当する請求権を濫用したものである。取調べ
メモ等は,一般に,第三者のプライバシーに関する事項で供述調
書に記載されなかったもの,取調官の個人的感想や一般的捜査手
法等に関する事項が渾然一体として記載されていることも少なく
なく,これらが開示されれば,第三者のプライバシーが侵害され
たり,将来における円滑適正な捜査の実現が妨げられるおそれが
大きく,その開示による弊害は重大であり,相当性を欠く。取調
べメモ等は証拠開示命令の対象となるとした最高裁判所第三小法
廷平成19年12月25日決定は,法解釈を誤ったもので,違法であり,
変更されるべきである。以上から,本件証拠開示命令請求は,棄
却されるべきであるというものである。
3取調べメモ等は証拠開示の対象となり得ること
争点整理と証拠調べを有効かつ効率的に行うという,公判前整
理手続及び期日間整理手続における証拠開示制度の趣旨にかんが
み,刑事訴訟法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠
について,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,
当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,
公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易な
ものを含むとし,公務員がその職務の過程で作成するメモのうち,
専ら自己が使用するために作成し,他に見せたり提出することを
全く想定していないものは証拠開示命令の対象とするのは相当で
はないが,被疑者を取調べた警察官が,犯罪捜査規範13条に基づ
き,取調べの経過その他参考となるべき事項を記録し,捜査機関
において保管されている書面は,個人的メモの域を超え,捜査関
係の公文書といえ,これに該当する取調べメモ等については,当
該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが
行われる場合には,証拠開示の対象となり得るものと解した最高
裁第三小法廷平成19年12月25日決定は,適法かつ相当であり,こ
れが,法解釈を誤った違法なものであり,変更されるべきもので
あるとする検察官の主張は,全く容認できない。取調べメモ等は
証拠開示の対象となり得る。
4本件取調べメモ等について
(1)本件の経過と弁護人による自白の任意性を争う旨の主張
検察官は,公判前整理手続において,被告人の警察官調書8通,
検察官調書1通及び被告人作成書面2通を証拠請求した。弁護人は,
被告人の警察官調書1通(乙2号証)及び検察官調書(乙3号証)の
任意性を争う旨主張したため,検察官は,それらの任意性を立証
するために,被告人の供述経緯等を立証趣旨として,被告人の弁
解録取書2通,勾留質問調書2通,警察官調書4通,検察官調書2通,
被告人作成書面24通及び被告人の取調べを担当した警察官A警部
補の証人請求(主尋問30分)をし,加えて,死体損壊,遺棄の動
機,準備状況等を立証趣旨として警察官調書2通(乙37号証,41
号証)を請求した。弁護人は,この警察官調書2通及び当初請求さ
れていた警察官調書4通(乙4ないし7号証)についてもさらに任意
性を争う旨主張した上,被告人の取調べ状況,被告人が取調べに
おいて侮辱されたこと等を立証趣旨として被告人の取調べを担当
した検察官Bの証人請求をした。当裁判所は,以上の全書面及び
Bの証人尋問の採否を留保し,第6回公判期日(平成20年2月7日)
に被告人質問を開始し,第8回公判期日(平成20年2月18日)にA
の証人尋問を行う旨決定するなどして,公判前整理手続を終結し
た。
弁護人は,任意性を争う被告人の自白調書に関する取調官をA
及びBとそれぞれ特定し,任意性を疑わせる事情としての各取調
べ内容について,Aの取調べでは,「勝手にストーリーを変える
んじゃない,話は後で聞く」などと一方的な筋書きを押し付けら
れて,否定しても応じてもらえず,威圧された,Bの取調べでは,
「汚いやつだ。囲いもんが」などと罵倒,侮辱され,「お前さん
の事件なんか簡単なんだよ」などと言われて一方的な筋書きを押
し付けられて,否定しても応じてもらえず,罵倒された,などと
主張する。
検察官は,以上の弁護人の主張は,問題となる取調べの日時が
特定されておらず,検察官の任意性立証計画を具体的に策定でき
ないとして,弁護人は主張明示義務を尽くしていないとする。た
しかに,弁護人としては,開示された取調べ状況報告書等を活用
して被告人と接見し,検察官の任意性の立証計画が具体的なもの
となるよう,自白調書の任意性が関連する被告人の取調べの日時
を「できる限り」特定して主張するべきであるが,その特定の程
度も,事案の性質,任意性を争う主張の内容,接見時の被告人の
対応等に応じて多様なものである。個々の調書と取調べとの関係
を全て弁護人が明示しなくてはならないとするのは,取調べによ
り調書を作成するのは捜査官であることからすれば相当でなく,
弁護人に無理を強いるものである(実際後記のとおり,本件では,
検察官ですら現段階で同関係についての回答が不可能としてい
る。)。
本件では,当裁判所が任意性を争う主張について釈明した末,
結局弁護人の主張が前記のようなものに帰したもので,弁護人は,
第5回公判前整理手続において「裁判所において,任意性を疑うに
足りる主張が不足していると判断されれば仕方がないと考えてい
る。」とまで述べるに至っている。その上で,第7回公判前整理手
続において,検察官は,捜査段階における被告人の取調べ状況及
び被告人の自白が任意になされたものを立証するために必要とし
て,A証人の尋問及び前記の各書証を請求し(弁護人がBの証人
尋問請求をしているが,検察官は当時の段階でBの証人尋問は任
意性立証に必要ないと判断し,請求していない。今後「やむを得
ない事情」がない限り,同人の証人尋問請求はできない。),A
証人が採用されるに至っている。
以上の経過にかんがみれば,本件では,弁護人の前記任意性に
関する主張は主張明示義務を尽くしたものといえ,その主張は証
拠開示の対象となるものとの関連性を判断するのに足りる程度に
明らかにされているものと認める。
(2)本件取調べメモ等と弁護人主張の関連性と開示の必要性
検察官は,当裁判所が,本件取調べメモ等の存否を明らかにす
る旨の釈明をし,同メモ等の一覧表の提示を求め,さらには刑事
訴訟法316条の27第1項により同メモ等の提示を命じたのに対し,
検察官手持ち証拠でないとしてこれに応じず,また,取調べ済み
の取調べ状況報告書に従って各取調べと各調書の関係を釈明した
ところ,検察官は,一般論としては各調書と各取調べが一対一で
対応していない,現段階では回答不可能とした。
この状況では,当裁判所としては,上記メモの存否及び具体的
記載を確認できないし,任意性を争われている各自白調書と各取
調べとの関係も不明である。
この状況下でおよそ開示が不可能とするのは,前記3で述べた証
拠開示制度の制度趣旨を没却する。当裁判所としては,本件取調
べメモ等が存在し,同メモ等に犯罪捜査規範13条の要請に応じた
取調べ状況等に関する一般的な記載がなされていること,及び立
証責任を負う検察官が各調書と各取調べが一般論として一対一で
対応していないという以上の説明をしないことから,各調書と全
ての取調べが関係あること,この二つを前提に判断するべきと考
える。
本件取調べメモ等のうち,Aが,犯罪捜査規範13条に基づき,
被告人の取調べについてその供述内容や取調べの状況等を記録し
た備忘録で,捜査機関において保管中のもの(以下,「A作成取
調べメモ等」という。)には,同条の要請からすれば,Aと被告
人との具体的な会話のやりとり,特に,被告人がある事項を供述
する契機となった事項を含め,被告人が発言したが調書に記載さ
れなかった事項や,取調中の被告人の様子等が記載されているも
のと合理的に推知され,しかも作成者及び作成経緯にかんがみれ
ばその証明力は高く,前記の任意性に関する弁護人の主張の内容
及び検察官の任意性立証予定に照らすと,同メモ等は弁護人にと
って任意性を争うための比較的客観的な証拠として極めて重要と
考えられ,弁護人の主張との関連性が強く,検察官が任意性立証
のためAの証人尋問を請求し,これが採用されている現段階にお
いては,開示の必要性が高い。
また,被告人の取調べに係るB作成の取調べメモ等は,本件で
は,同検察官に対する被告人の供述調書が請求され,その一部に
ついて任意性が争われていることから,A作成取調べメモ等と同
じ趣旨のB作成の取調べメモ等が存在するとすれば,A作成取調
べメモ等と同様の高い証明力を有し,任意性が争われている調書
に関する弁護人の主張との関連性を有するものと考えられる。し
かし,現段階では検察官が任意性立証のためにBの証人尋問請求
をしていないことを考えると,B作成の取調べメモ等は未だ被告
人の防御のために開示する必要性があるとは認められない。
その余の本件取調べメモ等は,弁護人の主張との関連性の程度
は低く,またその開示の必要性も低い。
(3)A作成取調べメモ等の開示の相当性
検察官は,前記2のとおり,取調べメモ等を開示した場合の一般
的弊害について主張する。この点,証拠を開示した場合の弊害に
ついては,当該証拠の開示の必要性等をも勘案して,個別的,相
対的に検討されるべきであるが,検察官が当裁判所の提示命令等
に応じないため,本件取調べメモ等の具体的記載が確認できない
以上,開示によって重大な弊害を生じる部分を除外して開示を命
じることはおよそ不可能といわざるを得ない。
A作成取調べメモ等には,前記(2)のとおり弁護人の主張と
の関連性及び開示の必要性が認められる以上,具体的弊害が明ら
かにされない状況で,一般的弊害のおそれのみを理由として証拠
開示を命じることができないとするべきではない。
5よって,本件証拠開示請求は,A作成取調べメモ等の開示を求め
る限度で,刑事訴訟法316条の20所定の理由があり,その余につい
ては,理由がない。
よって,同法316条の26により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・河本雅也,裁判官・深野英一,裁判官・國井香里)

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