弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人日高理四郎の上告趣意(後記)第一点及び第三点について。
 論旨は、原判決が被告人の職務に関しない事項(権限外の事項)を職務に関する
ものとして収賄の事実を認定したと争うのであつて、刑訴四〇五条の上告理由にあ
たらない。そして被告人の職務につき原判決が証拠として引用する山林局林産課事
務分担、林野局設置等に関する件、林野局官制、林野局分課規程、林政部企画課資
材係分担表を具さに検討した上、なお職権をもつて関係の事務分掌について説明し
ている農林省林政部林野局企画課長Bの二回にわたる検事聴取書、同じく国有林野
部長Cの聴取書の内容を精読すれば、被告人Aは割当資材の現物化に対する手配等
についても職務権限を有していたことが認められる。のみならず官庁内部における
各分課の諸規程等の文理上からは、厳密にいえばその職務の範囲に属するといえな
いとしても、その権限に属する職務を執行するに当り、その職務執行と密接な関係
を有する行為をすることによつて相手方より金品を収受すれば、賄賂罪の成立を妨
げるものでないとする趣旨は、当裁判所の判例とするところでもある(昭和二四年
(れ)第八五六号同二五年二月二八日第三小法廷判決、昭和二五年(れ)第一二四
九号同二六年一月一八日第一小法廷判決参照)。従つてこの点についても論旨の理
由は認められない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決の判示第一の五の所為につき法令違反又は事実誤認を主張するの
であつて、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。なお原判決の証拠として引用す
る共同被告人Dに対する検事聴取書には、所論のように右Dが被告人に交付した金
六万円の中金一万六千三百九十円が、被告人の職務に関する賄賂なることを直接認
めるに足る供述はないが、他の挙示の証拠の記載を詳細に照合すれば原判決の判示
認定に到達することができないとはいえないのみならず、さらに職権をもつて記録
によりDの原審第二回公判廷における供述を検討して見ると、Dは前記金額につい
て贈賄の意思があつたことが認められるから、前記挙示の各証拠と合せ被告人の判
示第一の五の事実を認めることをなんら妨げるものではない。従つて原判決には所
論のような違法はなく、論旨は理由がない。
 同第四点について。
 所論は、原判決の判示第一の三について法令違反又は事実誤認を主張するのであ
つて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして論旨は、判示所為は職務外の行
為によるいわゆる儲けの配分に過ぎないという趣旨であるが、本来の職務行為に含
まれないとしても、職務に密接な関係にある行為をすることによつて相手方より金
品を収受することは、賄賂罪の成立を妨げないこと第一点及び第三点について説明
したとおりであるのみならず、原判決の挙示する証拠中、贈賄者たるEの原審公判
廷における供述記載、及び職権をもつて調べて見ると、同人の第一審第一回公判調
書の供述記載においても、同人は卒直に贈賄の事実を認めているから、原判決にな
んら証拠によらずして事実を認定した違法はなく、事実誤認を認めることもできな
い。
 同第五点及び第六点について。
 論旨は、原判決の判示第一の一、二及び四の所為について、第四点と同趣旨の理
由のもとに法令違反又は事実誤認を主張するのであつて、刑訴四〇五条の上告理由
にあたらない。そして判示認定の事実は、挙示の証拠によつて充分にこれを認める
ことができるから、第四点について説明したと同じ理由を合せて、法令違反も事実
誤認も認めることはできない。
 同第七点について。
 論旨は、原判決の採証法則違反を主張するのであつて刑訴四〇五条の上告理由に
当らない。そして原判決が被告人の判示第一の一ないし五の事実の証拠として所論
摘示の各公判請求書を証拠に引用していることは所論のとおりであるが、右各公判
請求書は原審公判において、右公判請求書記載の公訴事実を読み聞けた後被告人が
そのとおり相違なき旨を供述したのと相まつて証拠に引用した趣旨であること明ら
かであるから、前記各公判請求書のみに基いて所論のような主張をするのはあたら
ず、原判決になんら採証法則の違反はない(昭和二三年(れ)第一五四号同二三年
五月六日第一小法廷判決、集二巻五号四六五頁参照)。
 被告人F弁護人河村範男の上告趣意(後記)第一点について。
 所論は、法令違反又は事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由にあたら
ない。そして原判決の判示第二の所為について、被告人の職務権限に関する主張は、
被告人A弁護人の上告趣意第一点及び第三点について説明したとおりであつて論旨
自体も理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決の判示第二の一の所為について法令違反又は事実誤認を主張し、
かつ憲法三八条一項二項三項に違反するというのである。(論旨(一)ないし(五)
及び(七)(八)について。)しかし被告人の自白が真実であることを認めるに足
りる以上補強証拠の種類については法律に格別の制限はないから、共同被告人の供
述を補強証拠とすることはなんら違法でなく、この趣旨は当裁判所のしばしば判示
するところである。(昭和二三年(れ)第一一二号同二三年七月一四日大法廷判決、
集二巻八号八八〇頁、昭和二四年(れ)第一二六七号同二四年一二月二四日第二小
法廷判決、昭和二四年(れ)第一九一号同二四年六月二一日第三小法廷判決参照)。
そして原判決の判示事実について、被告人の自白に共同被告人D同Gの検事に対す
る聴取書の供述記載を補強証拠として総合すれば、被告人の犯罪事実は優にこれを
認めることができるのであり、原判決の事実認定に違法はなくまた採証法則の違反
もない。従つて所論憲法三八条三項違反の主張は、証拠法則に関する独自の見解を
根拠とするのであつてその前提を欠き適法な上告理由と認められない。次に(論旨
(六)について。)所論は、被告人F同D同Gに対する検事の各聴取書の判示に相
応する供述は、捜査官の強要による自白であると主張するが、記録を調べて見ても
論旨主張のような事実は認められない。従つて所論憲法三八条一項違反の主張はそ
の前提を欠くことに帰着する。また被告人Fは一一〇日間拘束されていたからその
供述は不当に長く拘禁された後の自白であると主張するけれども、本件事案の内容
と関係被告人の数からいつて、当裁判所の判例に徴し必しも不当の長期拘禁と認め
ることはできないから、論旨は採用することはできない。(昭和二二年(れ)第三
〇号同二三年二月六日大法廷判決、集二巻二号一七頁、昭和二四年(れ)第一四〇
号同年一一月二日大法廷判決、集三巻一一号一七三二頁参照)。
 同第三点について。
 論旨は、原判決の判示第二の二について憲法違反があるのみならず法令違反又は
事実誤認があると主張するが、原判決のいかなる点が憲法のいかなる条項に違反す
るかの記載がなく、単に法令違反又は事実誤認を主張するものと認められるから、
刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。そして所論は被告人の判示第二の二の所為
につき各被告人の供述中独自の見解に副う部分を摘示し、よつて被告人の職務に関
しない事項であると結論するのであるが、被告人の職務権限は被告人A弁護人上告
趣意第一点及び第三点の説明のように解すべきものであるから、原判決が挙示の証
拠によつて判示事実を認定したのは正当であつて、採証法則違反も事実誤認も認め
ることはできない。所論中その余の部分は、原判決の認定していない事実に基き独
自の主張をするのであつて、もとより理由は認められない。
 被告人D同G弁護人吉弘基彦の上告趣意(後記)について。
 所論前段の、原判決が判示第八の一第九の事実を認定したことは憲法三八条三項
に違反するという論旨については、被告人A弁護人の上告趣意第二点及び被告人F
弁護人の上告趣意第二点について説明したとおりであるから、主張の前提を欠くこ
とに帰し適法な上告理由にあたらない。所論後段の理由にくいちがいがあるという
主張は、これまた被告人A弁護人の上告趣意第二点に説明したとおりであつて、原
判決に所論のような違法はない。
 その他各被告人について記録を調べて見ても刑訴四一一条を適用すべき事由は認
められない。
 よつて刑訴施行法三条の二刑訴法四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見である。
  昭和二八年九月二二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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