弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由一について。
 所論は、原判決が、D商店が上告人に対してなした五八万九五八一円の弁済は、
債権者たる被上告銀行に対する詐害行為として取消を免れない旨判示したことにつ
いて、もともと弁済行為は準法律行為であつて民法四二四条の適用はなく、本件の
如き履行期の到来した債務の弁済にあつては尚更であり、また、上告人とD商店と
は通謀して被上告銀行の債権を害する目的をもって、右弁済をなしたものではない、
と主張するに帰するものである。しかし、債権者が、弁済期の到来した債務の弁済
を求めることは、債権者の当然の権利行使であつて、他に債権者があるからといつ
て、その権利行使を阻害されるいわれはなく、また、債務者も債務の本旨に従い履
行を為すべき義務を負うものであるから、他に債権者があるからといつて、弁済を
拒絶することもできない。そして債権者平等分配の原則は、破産宣告をまつて始め
て生ずるものであるから、債務超過の状況にあつて一債権者に弁済することが他の
債権者の共同担保を減少する場合においても、右弁済は、原則として詐害行為にな
らないものといすべきである。しかし、債務者が一債務者と通謀し、他の債権者を
害する意思をもつて弁済したような場合にあつては、詐害行為になるものと解する
のを相当とする(最高裁判所昭和三一(オ)第年四二〇号同三三年九月二六日第二
小法廷判決、民集一二巻一三号三〇二二頁参照)。原判決は、右と同旨の見解に立
つて判断したものであり、そして原判決がD商店が上告人になした前記五八万九五
八一円の弁済は、右両者において第二順位の根抵当権付債権者たる被上告銀行を害
することを十分知つていたのみならず、むしろそれを目的としていた旨の認定も、
その認定せる事実関係からこれを肯認し得るところである。原判決に所論の違法は
存せず、論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて、原判決を非難するか又は原審
の認定にそわない事実を主張して、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定
を非難するに帰し、採るを得ない。
 同二について。
 所論は、詐害行為取消債権者は、取消の結果として受益者又は転得者の受けた利
益を自己独り弁済を受けるために直接その請求をすることは許されず、本件におい
て、被上告銀行が、他の債権者とともに弁済を受けるために受益者たる上告人に対
し、その受けた利益又は財産を自己に直接支払をなすべきことを請求していること
は記録上うかがわれないのにかかわらず、被上告銀行の本訴請求を認容した原判決
は、理由不備、理由そごの違法があると主張するものである。
 しかし、詐害行為取消の結果として取消債権者は受益者又は転得者の受けた利益
を自己独り弁済を受けるために直接その請求をなし得ず、取消債権者は、ただ他の
債権者とともに弁済をうけるために受益者又は転得者に対しその受けた利益又は財
産を自己に直接支払又は引渡をなすべきことを請求し得るにすぎないことは、原判
決の判示するところでもあり、所論のとおりである(最高裁判所昭和三六年(オ)
第二四三号同三九年一月二三日第一小法廷判決、民集一八巻一号七六頁参照)。そ
して原審において、被上告銀行が右の趣旨に則り、受益者たる上告人に対しその受
けた利益を直接被上告銀行に支払うべきことを請求していることは記録上明らかで
ある。したがつて、所論は、その主張の前提を欠き、採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎

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