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             主         文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
              事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
1 被告は,西いぶり廃棄物処理広域連合に対し,57万5500円及びこ
れに対する平成12年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要
  本件は,西いぶり廃棄物処理広域連合(以下「本件広域連合」とい
う。)を組織する地方公共団体のうちの室蘭市又は伊達市の住民である原
告らが,本件広域連合の進める西胆振地域廃棄物広域処理施設建設事業に
関し,室蘭市石川町住民5名による次世代型焼却施設の視察(以下「本件
視察」という。)につき,本件広域連合長である被告において,公金から
旅費を支給する決定をしたことは,概ね以下(1)ないし(5)の理由で違法で
あるとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,本件広域連合
に代位して,被告に対し,旅費相当額の損害賠償として57万5500円
及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
(1)目的及び効果が不明確で不必要な視察であること。
(2)事後に復命書の提出もされておらず不適法であること。
(3) 石川町住民5名を視察員として選定した基準等が不明確であり公平
の原則等に違反していること。
(4) 本件視察のため,石川町住民5名を課長職相当の嘱託職員として任
命したことが不合理であること。
(5) 本件視察のための予算補正が,専決処分としてなされたのは,不適
法であること。
2 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)
(1) 当事者等
ア 原告らは,いずれも本件広域連合を組織する地方公共団体のうちの
室蘭市又は伊達市の住民であり,被告は,本件広域連合の長である。
イ 本件広域連合は,平成12年3月8日,北海道知事により設立の許
可を受け,同年4月1日から広域連合業務を開始した地方自治法上の
広域連合であり,室蘭市,伊達市,豊浦町,虻田町,洞爺村,大滝村
及び壮瞥町の7市町村(以下「本件各市町村」という。)によって組
織されている。
(2) 西胆振地域廃棄物広域処理施設建設事業
ア ごみ処理施設の建設
 本件広域連合は,ごみ処理施設及び粗大ごみ処理施設の設置,管理
及び運営に関する事務等を処理する広域連合で(乙14),室蘭市石
川町34番地先において,本件各市町村から排出される一般廃棄物の
焼却施設(以下「本件施設」という。)の建設を進めている。
イ 建設計画に対する室蘭市石川町住民の対応
 建設予定地とされた室蘭市石川町においては,本件施設建設計画に
ついて,平成12年4月14,15日の両日にわたり住民投票が実施
され,建設について賛成43名,反対51名,白紙1名という結果と
なった。そこで石川町会は,一旦は本件施設の建設に反対する方針を
採り,本件広域連合との対応窓口とすべく,同町住民をもって組織す
る焼却炉問題対策委員会を設置したが,平成12年6月8日,対策委
員間の意見の相違等から同委員会は解散し,あらたに焼却炉施設建設
連絡協議会(以下「連絡協議会」という。)が設置された(甲23,
乙3,証人A)。
 ところが,石川町会は,平成12年7月2日に開催された同町会臨
時総会における議決が,条件付賛成43名,反対16名という結果と
なったため,翌3日,本件広域連合との間で,基本合意書を締結し
(乙5),石川町における本件施設の建設を容認する立場に転じ,同
年11月24日には,西胆振廃棄物広域処理施設建設に関する安全・
公害対策及び余熱利用施設に関する協定書(乙1の1)及び西胆振廃
棄物広域処理施設建設に関する生活環境整備確認書(乙1の2)をそ
れぞれ締結して,最終的な合意に達した。
(3) 本件視察に至る経緯
  本件広域連合は,前記基本合意書の締結後,石川町会との間で同基本
合意書記載の基本事項について調整を進める一方,本件施設の安全性に
ついて,パンフレット,ビデオ等を利用しての説明会の開催,道内の新
しい焼却施設の視察,学識者の講演の実施,市民フォーラムの開催等の
住民対応を行ってきた。このような住民対応を進める中,住民の側から
の要望により,建設予定の次世代型焼却施設がどのようなものか,実際
に自分の目で確かめたいとの意見が出されたことから,本件視察が実施
されることとなった(乙4)。
(4) 本件視察の実施
 本件視察は,平成12年8月21日から同月24日までの4日間の日
程で,視察員を石川町住民5名(以下「本件視察員」という。),随行
者を本件広域連合事務局次長及び同施設課課長補佐の2名とし,福岡県
筑後市所在の八女西部広域事務組合,同県飯塚市所在の飯塚クリーンセ
ンター,熊本県宇土市所在のカーシュレッダーダスト熱分解ガス化溶融
発電システムを視察したものであった。各施設間の移動には,貸切りマ
イクロバスが利用され,視察員は,同月21日から23日までaホテル
に宿泊した(甲3,4,乙4)。
(5) 公金の支出
 本件広域連合は,当初予算において本件視察について積算していなか
ったことから,一般会計補正予算を調整することとしたが,議会定例会
又は議会臨時会を開催する時間的な余裕がなかったことから,地方自治
法179条1項に基づく長の専決処分により処理した。
 本件広域連合においては,職員の公務のための旅行についての旅費
は,「西いぶり廃棄物処理広域連合旅費条例」(甲6,15,以下「旅
費条例」という。)によって定められており,同条例によれば,旅行中
の車賃,日当,宿泊料及び食卓料の額については,職務に応じた別表所
定の等級ごとに定められ(旅費条例15条ないし18条,別表第1
号),また,「西いぶり廃棄物処理広域連合特別職の職員で非常勤の者
の報酬及び費用弁償に関する条例」(乙8,以下「報酬等に関する条
例」という。)の適用を受ける者については,旅費条例別表第1号の等
級に応じた旅費を費用弁償として支給するとされている(同条例1条,
2条,別表第1号)ところ,本件視察員については,報酬等に関する条
例の適用を受ける者のうち,各種委員会等の委員及び参与等(同条例2
条(7))に当たるので,広域連合長が定める旅費条例別表第1号の等級の
旅費を費用として支給されることになる。本件広域連合の事務局長は,
西いぶり廃棄物処理広域連合事務決裁規程(以下「広域連合事務決裁規
程」という。)に基づき,被告に代わって,平成12年8月11日,本
件視察員を嘱託職員として発令し,その費用弁償額について,旅費条例
別表第1号の等級のうち4級を適用することを決裁(専決)し(乙4,
12),同月14日付けで旅行命令を決裁(専決)した(乙6)。な
お,視察地変更のため変更決裁(専決)を同月18日に行った。(乙
7)。
 本件広域連合の総務課長は,被告に代わって,平成12年8月18
日,視察員1人あたりの旅費を11万5100円とする旅費精算書を作
成・決裁(専決)し(甲7,乙7),本件視察における本件視察員の旅
費として合計57万5500円が支出された。
(6) 職員の復命義務について
 本件広域連合においては,西いぶり廃棄物処理広域連合職員服務規程
(以下「広域連合服務規程」という。)により,室蘭市職員服務規程が
準用されているところ,同規程10条によれば出張を命じられた職員
は,帰庁と共に遅滞なく用務の顛末を復命書によってその庁に報告しな
ければならない(ただし,軽易なものについては口頭をもって報告をす
ることができる。)とされている(乙10,11)。
(7) 本件視察についての復命等
 本件視察に随行した本件広域連合職員2名は,本件視察終了後,平成
12年8月28日付復命書を被告宛に提出したほか(甲31),本件視
察員の1人は,「焼却炉クリーン稼働施設視察報告」と題する書面を作
成し(乙3),石川町住民に対して,本件視察の結果を報告した(証人
A)。
(8) 住民監査請求
 原告らは,平成12年11月2日,西いぶり廃棄物処理広域連合監査
委員に対し,被告(専決を含む。)による前記(5)の公金支出に対し,地
方自治法242条1項に基づく住民監査請求を行ったところ,監査委員
は,同年12月27日付で原告らの請求を棄却した。
第3 本件の争点
1 争点1(目的が不明確な不必要な視察であるか否か。)
(原告らの主張)
 本件視察は,目的が明確ではなく,不必要なものであり,本件視察に公
金を支出したことは違法である。
本件視察は,住民の不安解消等にどのように結びついているか不明であ
り,目的が明確ではない。そもそも,焼却炉の機種選定については,専門
委員会,評価委員会に委ねられており,住民は機種選定については一切意
見を述べる機会を与えられていないから,本件視察は無意味である。
(被告の主張)
 本件視察は,百聞は一見にしかずとの格言にもあるように,石川町住民
の次世代型焼却施設建設の推進に対する理解と協力を得るために実施され
たもので,その目的は明確である。また,本件視察結果が石川町住民に対
して広く周知され,施設の安全性等についての不安や懸念が払拭され,次
世代型焼却施設の機種選定や焼却炉建設のための協定書の締結・調印に向
けた足がかりとなったものであり,効果も明瞭である。
2 争点2(事後に復命書の提出がないのは不適法であるか否か。)
(原告らの主張)
 本件視察は事後に復命書の提出もなされていない不適法なものであるか
ら,本件視察に公金を支出したことは違法である。
 本件視察員は,視察結果並びに資料及びデータの提示もしていない。ま
た復命書も提出していない。したがって,視察結果に基づいて研究し,そ
の成果を機種選定に反映させることはできない。また,本件視察の結果に
ついても,西胆振地方の全住民を招集しての説明会ないしは全住民に対し
ての報告があって然るべきであるところ,石川町住民に対してしか報告が
なされていない。しかも,これは報告書の提出であって復命書の提出では
なく,報告書の提出をもって,復命書の提出に代えられるものではない
し,本件広域連合の随行職員が復命書を提出していることをもって,本件
視察員の復命書不提出が容認されないことは明らかである。さらに,復命
書は命令者に対して提出するもので,本件視察員が石川町住民に対して報
告書を提出したことによって代替されるものではない。
(被告の主張)
 本件視察員は,平成12年8月26日付け「焼却施設建設連絡協議会会
長名」で「焼却炉クリーン稼働施設視察報告」という題名の報告書(以下
「本件報告書」という。)を石川町会全世帯に回覧して本件視察の結果を
公表している。また,本件広域連合が住民説明会等で何度も住民視察を要
請してきた事実があり,これらを併せ考えると,本件広域連合は,石川町
会住民に対して,事前に本件視察の趣旨,必要性を提示していたものであ
る。さらに復命書については,広域連合職員が出張を命ぜられた際,広域
連合服務規程に基づいて復命義務があるが,嘱託職員についてはその適用
がない。
3 争点3(視察員選定の基準等が不明確・不適正であり公平の原則等に違
反しているか否か。)
(原告らの主張)
 視察員の選定基準が不明確であり,どのような過程で石川町住民5名が
選任されたのか不明である。さらに,その選任が,平等,公平の各原則に
違反しているから,本件公金支出は違法である。
 視察員を石川町会の住民だけとするのは不当である。本件視察が本件広
域連合の公金を支出して実施されるものであり周辺住民の利益に直接結び
つくものである以上,被告は,視察員選任に際し,少なくとも焼却炉建設
予定地近隣の室蘭市白鳥台,崎守町,伊達市南黄金町の住民も対象に加え
て公募すべきであったにもかかわらず,上記各住民には事前に連絡するこ
とさえなく,周辺住民中最も人口の少ない石川町住民の中からのみ視察員
を選定したものである。しかも,本件視察は,同町会で本件施設建設につ
いての賛否が二分する中で,賛成派の住民だけが派遣されたものである。
このように,本件視察員の選任は,その基準や経緯,手続が不明確で適正
なものとはいえないばかりか,石川町会の本件施設建設賛成派のみを特別
扱いするもので,行政の公平の原則,地方自治法,さらには憲法14条の
平等原則に違反するものである。
(被告の主張)
 本件視察は,本件施設建設予定地である石川町住民の施設に対する不
安・懸念を払拭し,本件施設の安全性に理解を得ることを目的とするもの
であり,そのため,石川町住民が視察実施の対象として選定された。視察
員の人選については,本件広域連合が,視察の目的を承知している石川町
会と連絡協議会に対し,人数を5,6名とする条件でこれを依頼し,その
人選結果の報告を受けて,これを検討して適切と認めて受け容れたもので
ある。したがって,手続面においても実体面においても視察員の人選は適
切妥当なものであり,選定基準が不明確であるとか,人選が不合理なもの
であるということはない。
4 争点4(課長職相当の嘱託職員を任命したことが不合理であるか否
か。)
(原告らの主張)
嘱託職員であるにもかかわらず,本件視察員を課長職としたことは不合
理であるから,本件公金支出は違法である。
 被告は,嘱託職員の課長職採用は前例がないにもかかわらず,本件視察
員を課長職と偽って不当に本件広域連合の公金を支出したものである。こ
の採用については,嘱託職員任命の基準,任命期間の基準等が明確ではな
いし,嘱託職員でありながら課長職相当という取扱いは不合理である。課
長職相当の取扱いが被告の裁量行為だとしても,その基準となった随行職
員との均衡ということがそもそも不明確である。社会通念の範囲内として
了承できるのは一般職としての参加であり,課長職待遇とした裁量は明ら
かに社会通念から逸脱している。
また,課長職の者が課長職の嘱託職員の任命につき決裁できるとする根
拠はなく,被告が,石川町住民5名を本件視察員に任命したことは明らか
に違法である。
(被告の主張)
 石川町住民5名に対する嘱託は,地方自治法172条1項及び2項並び
に広域連合事務決裁規程4条に基づいて発令され,これらの者に対する旅
費は,報酬等に関する条例2条7号及び5条並びに旅費条例2条,4条及
び5条に基づいて支給されたものであり,いずれも法に基づいて適法にな
されたものである。支給旅費の額については,報酬等に関する条例別表に
基づき,本件視察員が石川町会役員等の職にあること,本件広域連合の随
行職員とのバランス等を考慮して,被告の裁量として,課長職相当の4級
としたものであって,その判断には正当な理由があり裁量権の逸脱や濫用
もなく,社会通念上相当の範囲内のものである。
5 争点5(長の専決処分の不当性)
(原告らの主張)
 本件視察の予算補正を長の専決処分としたことは違法であり,本件視察
に公金を支出した行為は違法である。
 本件視察は,緊急性かつ重要性が認められないばかりか,目的効果が不
明瞭であり,長の専決処分とすることは違法である。したがって,本件視
察に対する公金支出は法の手続に反し違法である。
(被告の主張)
 本件視察は,広域連合議会議員の視察に合わせて視察したいという石川
町住民の要望と,視察先の日程等の条件から,本件視察実施のために臨時
議会を開催する時間的余裕がない状況にあったこと,本件事業が広域連合
にとって重要かつ緊急性の認められるものであったことから,補正予算を
審議するために臨時議会を開催することが,時間的にみて困難な状況にあ
ったので,長の専決処分とされたものであり,専決処分による予算補正も
やむを得ないものであったし,上記専決処分については,平成12年9月
1日に議会に報告し承認を得たものであって,適法有効なものである。
 第4 争点に対する判断
1 争点1(目的が不明確であり,不必要なものであること)について
(1) 前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
ア 本件広域連合は,本件視察を実施するに際し,平成12年8月10
日,本件視察実施に至る経緯,実施年月日,視察員,広域連合随行
者,予算措置,視察員に対する嘱託発令及び旅費の適用について記載
した起案文書を作成し,翌11日,広域連合事務決裁規程(乙12)
4条(2)において準用される室蘭市事務決裁規程(甲29,乙13)4
条(2)別表第2に基づき,被告に代わって部次長に準じる職の事務局長
が決裁(専決)した(乙4)。同起案文書には,視察員に対しては平
成12年8月14日付けで,本件視察を実施する同月21日から24
日までの間,嘱託職員に任命することが明記され,同起案文書のとお
り,発令された(証人A)。また,同起案文書には,辞令交付は旅費
支給にかかる透明性の確保からも行うこととすると記載されている
(乙4)。
イ 本件広域連合は,石川町会の住民に対する説明会のなかで,次世代
型焼却施設の視察を提案していたが,平成12年8月,石川町会住民
から,同月に視察に行く本件広域連合所属市町村の議員団と対等の立
場で議論ができるようにするため,次世代型の施設を実際に見てみた
い旨の要望があったことに加え,視察先の八女西部広域事務組合にお
いては,見学者が多く日程等の調整が困難であるという事情もあっ
て,本件視察を上記議員団による視察と同一の日に行ったが,両者の
視察目的が異なることから時間を分けて実施した(乙20,証人
A)。
(2) 以上の事実に加え,本件視察に至る経緯についての前記第2の2(3)
及び(4)の事実に鑑みると,本件視察の目的が,建設予定地である石川
町住民に対し,本件施設の安全性や環境に与える影響等について不安を
解消し,本件施設について正確な情報を分かりやすく提供することによ
り,その理解を求めることにあったことは明らかであるところ,本件広
域連合において,石川町を始めとする本件各市町村から,本件施設建設
についての最終合意を取り付けるに当たり,建設予定地の石川町民を対
象として,すでに稼働している施設の視察を行って周辺住民の理解を深
めようとすることには,十分にその意義が認められることであって,本
件視察をもって,その目的が不明確で不必要な視察であると言うことは
できない。本件視察の目的が,本件施設の安全性等に対する住民の理解
促進にあるのであるから,高度に専門的技術的知見を要する焼却施設の
機種選定に住民が直接関与できないからといって,本件視察の目的がそ
の意義を失うものではない。
2 争点2(事後に復命書の提出がないことの適否)について
 本件広域連合服務規程の準用する室蘭市服務規程は,地方公務員の服務
について規定する地方公務員法第3章第6節を具体化したものであり,地
方公務員法が,原則として特別職の地方公務員には適用されないこと(同
法4条2項)に照らすと,室蘭市職員服務規程10条の復命義務は,臨時
の職員である嘱託職員には適用はないと解するのが相当である。したがっ
て,本件視察員には復命義務はなく,その違反があったとする原告らの主
張は,前提を欠き,採用することはできない。
3 争点3(視察者選定の基準等が不明確・不適正であり公平の原則等に違
反しているか否か)について
(1) 前記前提事実に加えて,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下
の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
ア 本件広域連合は,次世代型焼却施設の現地視察に当たって,視察員
は協議会等の団体の構成員であることを条件としていたが,これは,
このような条件を課すことによって,当該団体への視察結果の還元が
担保されるからであり,行政機関としては,このような情報の還元が
当然には担保されない個人を対象とする現地視察は,実施困難と考え
ていた。さらに,本件視察は,石川町会との間で基本合意を締結した
平成12年7月3日以降,施設の具体的な安全対策,公害対策を協議
する中で,視察結果を協議に反映させるために実施されたものであっ
た(乙20,証人A)。
イ 本件視察は,本件広域連合が,連絡協議会又は石川町会による次世
代型焼却装置の視察を行いたいとの要望に応えて実施されたものであ
る。視察員の選任については,本件広域連合から人数を5,6名と指
定して,石川町会会長に口頭で依頼して,石川町会に一任した。これ
に対して,石川町会は,連絡協議会から3名,石川町会から2名を選
任し,本件広域連合に推薦したところ,本件広域連合は,各団体への
視察結果の還元が可能であると判断してこれを受け容れた。
ウ 本件広域連合は,崎守町会及び白鳥台町会が,石川町会の焼却炉に
ついての考え方に従うという意向だったため,崎守町会及び白鳥台町
会に対しては,現地視察の提案をせずにいたところ,石川町会との間
で,平成12年11月,最終的な合意に至ったため,両町会住民を対
象とした視察実施の必要はないと判断した(乙20,証人A)。
  また,平成12年8月当時,伊達市黄金地区においては,本件広域
連合に対応する協議会の結成には至っておらず,前記アの条件から,
視察を依頼することができなかった(証人A)。なお,伊達市黄金地
区においては,平成12年12月20日に広域廃棄物処理施設黄金地
区環境保全協議会が発足し,施設の安全対策,余熱利用及び黄金地区
生活環境整備等について,市民の立場から市に対して意見を述べる団
体が結成されたが(乙2の1,2),同協議会は,平成13年3月5
日に,本件広域連合との間で,本件施設建設を容認する「広域廃棄物
処理施設に係る環境の保全に関する協定書」を締結し,最終合意に達
したため(乙2の3),本件広域連合は,伊達市黄金地区住民の現地
視察の必要性はなくなったと判断した(証人A)。
エ 本件施設建設に反対する住民から,本件広域連合に対して,現地視
察の要望があったが,本件広域連合は,その視察要望の趣旨が,反対
意見を維持するためであるとのことであり,また,前記ア記載の視察
の条件にも合致しなかったため断った(証人A)。
(2)以上の事実によると,本件視察は,本件広域連合が,本件施設の建設
が予定されている石川町の町会との間で,平成12年7月の基本合意成
立後,最終合意に向けてさらに協議を進める中で,町会側にも,本件施
設についての正確な理解を得てもらうために実施されたもので,住民側
からの申し出によるものであることが認められ,そうすると,石川町会
と連絡協議会が本件視察員の人選を行うことが,本件視察の趣旨に最も
適合するものと認められる。したがって,広域連合が,本件視察員の選
任を石川町会に一任したことは妥当であり,手続及び実体面での不当性
は見いだせない。
  また,本件視察当時,周辺住民中室蘭市崎守町会及び白鳥台町会にお
いては,石川町会に従うとの意向であったこと,伊達市黄金地区におい
ては,本件広域連合に対応するための協議会が結成されておらず,その
後,住民による協議会が結成されたが,その後3か月余りで,本件広域
連合と最終合意に達したことなど,上記各市町村においては,石川町会
に比し次世代型焼却施設の視察を行うべき必要性が相対的に乏しく,ま
た,直ちに視察を行えない状況にあったことに加え,本件施設の円滑な
建設,運営のためには,何よりも建設予定地である石川町の住民に対
し,本件施設の安全性等について正しい情報を提供し,その理解を得る
ことが必要であると判断することは,合理性が認められることに鑑みる
と,石川町住民のみを対象として,本件視察の視察員の選定を進めたと
しても,石川町会住民のみを不当に特別扱いし,石川町以外の周辺住民
を合理的な理由なく差別的に取り扱ったとはいえない。
  さらに,本件広域連合は,現地視察を実施するについて,視察結果の
還元を担保できる団体の存在を重視しているが,これは,公金を利用し
ての視察である以上,効率的により大きな効果を得ようとするもので,
必要最小限の経費により最大の効果を得ようとする行政原則にも合致す
る妥当なものである。したがって,本件広域連合が,現地視察について
このような基準を設け,住民個人を対象とした視察を予定していなかっ
たことも,不当であるとはいえない。
 そうすると,視察員選定の基準が不明確・不適切であって,公平の原
則等に違反している旨の主張は採用することはできない。
4 争点4(嘱託職員としての任命に不明確な点があるか否か。)について
(1) 本件視察に至る経緯とその実施状況は前記第2の2(3)及び(4)並びに
第4の1(1)記載のとおりである。
(2) 以上の事実によると,本件広域連合による本件視察員の任命手続はす
べて法の手続に則って行われており,何ら違法な点はない。
(3) 原告らは,本件広域連合は,本件視察員を課長職として採用したと
か,課長職と偽ったとしてその不当性をるる主張するが,前記認定のと
おり,本件広域連合が本件視察員に対して発した辞令は,単に本件広域
連合の嘱託職員に任命するというものであって,課長職に任命するもの
ではなく,本件広域連合は,その旅費の費用弁償の点において,本件視
察員を課長職等と同等に扱ったものにすぎないから,原告らの上記主張
は前提を欠き,採用できないといわざるを得ない。
  この点について,原告らは,被告の平成13年5月28日付け準備書
面に,嘱託職員は,課長職にある者が専決処分して任命できる旨の記載
があることから,本件視察員は,課長職の者の専決処分によって任命さ
れたと主張するが,本件広域連合の総務課長である証人Aは,上記準備
書面の記載は誤りであることを供述しており,室蘭市事務決裁規程(甲
29,乙13)には,嘱託の任用は「部次長職以下」の決裁事項である
旨,不動文字により明記されており,被告も後の準備書面においてその
旨訂正していることに照らすと,同証人の供述には合理性が認められる
し,そもそも,前記起案文書(乙4)においては部次長職に相当する事
務局長の決裁が行われているのである。原告らの上記主張は採用できな
い。
  また,本件視察員の旅費の費用弁償については,前記のとおり本件広
域連合長である被告の裁量に委ねられているところ,本件視察員は,当
時51歳から70歳までという年齢であり(乙4),社会生活上然るべ
き職等にあること,嘱託内容が,夏の最中の焼却施設の視察であるこ
と,嘱託期間が4日間と短期間であること,事務局次長,課長補佐であ
る随行職員との均衡にも配慮されたこと,定められた等級も旅費条例別
表第1号の6等級中中間に位置し,不当に高額な支給とはいえないこと
に照らすと,被告に上記裁量権の逸脱があったなどとはいい難い。
5 争点5(長の専決処分の不当性)について
 前記第2の2(3)及び第4の1(1)イの本件視察の経緯によれば,本件視
察は,すでに平成12年8月21日から24日までと日程の決まっていた
議員団による視察と合わせて実施してほしいという住民の要望によって実
施されたものであり,本件視察についての起案文書は同月10日に起案さ
れ,同月11日に決裁され,旅行命令の決裁については視察先の変更のた
め,最終的には同月18日になされたことが認められる(乙4,6,
7)。そうすると,本件広域連合が本件視察の詳細を定めたのは,平成1
2年8月11日であり,その段階では,地方自治法292条,101条2
項に基づき,議会開会の7日前までに招集の告示をして議会を開催するこ
とは,時間的に困難であったと認められる。したがって,本件視察のため
の予算の補正について,地方自治法179条1項の「議会を招集する暇が
ない」場合に当たるとして,長の専決処分として処理されたことには違法
な点はない。
6 原告らのその余の主張について
  原告らは,上記以外にも本件視察が違法であるとの主張をするが,以下
のとおりいずれも理由がない。
(1) 本件監査請求において,監査委員は,本件視察の起案文書には正確な
事実の記載が不足し,今後改善を要する点が見受けられる旨指摘し,原
告らは,この点も本件視察が違法であることの根拠の1つとして主張す
るものであるが,上記指摘は,今後の情報公開に配慮した事務処理を行
うべきことを指摘するものであり(甲1),内部文書についても一般市
民が内容を十分確認することができるようにすべきことを注意的に示し
たものであり,上記起案文書が違法であるとするものではない。したが
って,このことが,本件視察の違法をもたらすものとはいえない。
(2) 原告らは,本件視察に対する公金支出が,広域連合の経費の支弁方法
として「広域連合の実施のために必要な連絡調整及び広域計画に基づく
総合的かつ計画的な事務の処理に資するため」と規定している地方自治
法291条の4第1項9号及び同法291条の9に違反すると主張する
が,同条項号は,広域連合を構成する地方公共団体の分賦金についての
規定であって,予算の執行を定めたものではないから,原告らの主張は
主張自体失当である。
(3) 原告らは,監査委員のうち1名が議員団による前記視察に同行してい
たものであるから,本件監査が不公正であると主張するが,本件視察
は,議員団による視察とは時間の重複を避けて実施されたものであるか
ら,監査の不公正の問題は生じない。そもそも,本件視察後に行われた
本件監査が本件視察の当不当に影響することはありえない。
(4) また,原告らは,本件視察後に石川町会と広域連合及び室蘭市との間
で締結された協定書・確認書は町会長の越権行為であり,さらに買収行
為である本件視察に基づいて締結されたものであるから,本件視察は違
法であると主張するが,本件視察後に行われた協定書・確認書の締結行
為が本件視察に影響を及ぼすことはないし,本件視察が協定書・確認書
締結のための買収行為であることを認めるに足りる証拠はなく,原告ら
の憶測にとどまるものというほかない。
(5) 原告らは,ごみ処理広域化を目指して本件広域連合を設立したことが
市町村の固有事業に対する権限を逸脱していて違法であると主張する
が,地方自治法の関連法規に照らし,採用することはできない。
7 結論
 以上の認定判断によれば,原告らの請求は理由がないから,これを棄却
することとし,訴訟費用については行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61
条を適用して,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第5部
裁判長裁判官   佐  藤  陽  一
裁判官   村  田  龍  平
裁判官   片  山  博  仁
   

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