弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁錮六月に処する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、静岡地方検察庁沼津支部検察官検事斎藤巌名義の控訴趣意書
に記載されたとおりであり、これに対する答弁は弁護人小沢浩提出の答弁書に記載
されたとおりであるから、いずれもこれを引用し、これに対し、記録を精査し、か
つ、当審における事実の取調の結果を参酌して、次のとおり判断する。
 控訴趣意第一について。
 所論は、原判決は道路交通法七二条一項後段の解釈適用を誤り有罪たるべきもの
を無罪とした違法があるというのである。
 そこで考えてみるのに、道路交通法七二条一項後段の規定が交通事故が発生した
場合において運転者等に対しその発生の日時・場所・死傷者の数・負傷の程度・損
壊した物および損壊の程度ならびに当該交通事故について講じた措置の報告を義務
づけている法意は、警察官をして交通事故の発生を知り、被害者の救護・交通秩序
の回復につき適切な措置を執らしめ、もつて道路における危険とこれによる被害の
増大とを防止し、交通の安全を図る等のためのものであつて、その交通事故の原因
となつた犯罪の捜査を目的としたものではなく、したがつてその報告すべき事項も
交通事故の態様に関する客観的な事項のみに限られ、いやしくも事故発生者が刑事
責任を問われるおそれのある事故の原因その他の事項を含んでいないことは、同条
項の文意に徴しても明らかである。それゆえ、同条項は、犯人に対し自己の犯罪事
実そのものの申告を義務づけるという意味においていわゆる黙秘権を規定した憲法
三八条一項に違反しているといえないことは明らかである(旧道路交通取締法施行
令六七条に関する昭和三七年五月二日に言い渡された最高裁判所大法廷判決(刑集
一六巻五号四九五頁)および現行の道路交通法七二条一項後段・一一九条一項一〇
号について昭和四五年七月二八日に言い渡された同裁判所第三小法廷判決(刑集二
四巻七号五六九頁)参照)。
 しかしながら、たとえ右の条項が運転者等に対し同人が事故を発生させたこと、
その際の過失の有無などについて報告義務を課していないとしても、交通事故発生
の日時・場所・死傷者の数・負傷の程度等交通事故の態様を具体的に報告すること
を義務づけることは、実際問題として報告者が当の事故発生者であることをおのず
から判明させることになる場合がきわめて多く、このことに報告の相手である交通
警察官が同時に司法警察職員でもあることをも合わせ考えると、右報告によつて間
接に警察官に犯罪発覚の端緒を与えることすなわち報告者を刑事責任に導く証拠連
鎖の一環を提供することになるおそれのあることは否定しえないところである。
 したがつて、右の規定が直接自己の犯罪事実の申告を求めていないとはいつて
も、それだけの理由で自己に不利益な供述を強要するものでないといい切るにはな
お躊躇されるものがあるといわざるをえない。
 そこでこの点をさらに考えてみるのに、憲法三八条一項によつて保障される自己
負罪拒否の特権といえどももとより絶対無制限なものでないことは氏名の黙秘につ
き判例の示すとおりであるところ(昭和三二年二月二〇日大法廷判決・刑集一一巻
二号八〇二頁)、元来道路における車両の運転は公共の施設である道路を広い範域
にわたつて占有・利用し、しかも高速度で走行するのが常であるため、歩行者・他
の車両等に重大な危害を及ぼす高度の危険を伴う行為であることは、そのため運転
免許の制度がとられ一定水準以上の技術と知識を会得した有資格者でなければ運転
が許されていないことからみても明らかである。そこで、このことにかんがみる
と、いやしくもこのように一般に対し重大な危害を及ぼす高度の危険を伴う車両運
転を自らあえてする者としては、免許の有無を問わず、これに相応する義務を負担
するのもやむをえないところであつて、かかる運転者に対し、その者に関係ある交
通事故発生をみた場合、道路交通の安全の保持・事故発生の防止・被害増大の防
止・被害者救護の措置に万全を期するため、その態様に関する客観的事項を警察官
に報告させることは、たとえそのことが前記のように間接には自己負罪拒否の特権
すなわち黙秘権をなにがしかは侵害する結果になる場合があるとしても、許さるべ
きものであり、その程度の黙秘権の制限は、車両を運転する者の黙秘権に内在する
制約として是認されなければならないところである。
 <要旨>ところで、前記道路交通法七二条一項後段の規定をみるのに、同条項は、
交通事故があつたときはその運転者等は所定の事項を警察官に報告しなけれ
ばならないと規定しているのであるから、いやしくもそこにいう「交通事故」が発
生した以上その具体的状況のいかんにかかわらず報告の義務を課した趣旨のものと
解される。これに対し、原判決は、当該事故の具体的状況上警察官が負傷者の救
護、交通秩序の回復につき適切な措置をとるため報告を求める必要が現実に存在す
る場合にかぎり報告義務を認めるのが同条項を合憲に解する所以であるというので
ある。しかしながら、もし原判決のように解するならば、報告を要する場合かどう
かは客観的に決定される問題だとはいつても、実際の問題としては同条項所定の報
告をすべき場合であるかどうかを当該運転者等の判断に委ねることになるといわざ
るをえないが、本来被害者の救護、交通秩序の回復につき警察官に適切な措置を執
らせるため情報を得させる目的で報告を必要とする法の趣旨からすれば、このよう
に報告の要否を当該運転者等の判断に任せることは全く適当でなく、具体的状況の
いかんに関係なく一応警察官に報告させるということには十分な合理性があるとい
わなければならない。そして、一律に報告義務を課することに右のような合理性の
あることと前述したような車両の運転者等の報告義務と憲法三八条一項所定の黙秘
権との関係とをあわせ考えると、たとえ具体的、結果的には報告の必要のない場合
にも報告義務を課することになつたからといつて、それはやむをえない黙秘権の制
約であり、憲法の右条項に違反するものとは考えられない。したがつて、これとは
異なり、事故の状況を個々具体的に観察し、当該交通事故により交通秩序が混乱し
たことがなく、事故発生後に負傷者の救護がなされたような場合には運転者等は報
告義務を免れると解して本件につき無罪を言い渡した原判決は道路交通法七二条一
項後段の解釈適用を誤つたもので、この誤りが判決に影響を及ぼすことはいうまで
もないから、論旨は理由があるといわざるをえない(しかも、本件の具体的状況に
ついてみるに、一件記録によれば、A運転の普通乗用自動車は本件交通事故により
県道から海岸に通ずる幅員約三・九メートルの小路の入口付近に停止し、右小路の
約半分をふさいだため自動車が右入口を通行することが不可能な状態になつたこと
が認められるのであるから、右小路の海岸までの長さが約二〇メートルに過ぎず、
海岸から他の道路を通つて県道に達することが容易であつたとしても、右交通事故
により付近の交通に重大な支障がなかつたとはいいきれないし、自動車の窓ガラス
が割れて破片が県道上に散乱したこともある以上、そのまま放置しておいてよいわ
けはないから、かりに原判決の見解を前提としても、報告義務がない場合にあたる
とはいえない。)。
 よつて、他の論旨に対する判断をするまでもなく刑訴法三九七条一項・三八〇条
により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書にまり当裁判所においてさらに次のとお
り判決する。
 (罪となるべき事実)
 原判決が認定した事実のほか、三として「右二記載の日時・場所において右二記
載のとおり自己の自動車の交通による事故のため、Aを負傷させたのに、その事故
の発生の日時・場所等法令の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告し
なかつたものである。」を認定する。
 (右の認定事実に対する証拠の標目)(省略)
 (法令の適用)
 被告人の原判示所為中一の所為は道路交通法六四条・一一八条一項一号に、二の
所為は刑法二一一条前段・罰金等臨時措置法三条一項一号に、当裁判所の認定し
た、前記三の所為は道路交通法七二条一項後段・一一九条一項一〇号にそれぞれ該
当するので、所定刑中一および三につき各懲役刑を、二につき禁錮刑を各選択し、
以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文・但書・一〇条により最
も重い二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、一件記録および当審における
事実の取調の結果により認められる本件無免許運転の経過、過失行為の態様、被告
人の一方的な過失てあること、被害の程度、報告義務を尽さなかつた経過その他諸
般の情状を勘案のうえ被告人を禁錮六月に処し、原審および当審における訴訟費用
を被告人に負担させないことにつき刑訴法一八一条一項但書を適用して、主文のと
おり判決する。
 (裁判長判事 中野次雄 判事 寺尾正二 判事 粕谷俊治)

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