弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     (一) 原判決を破棄する。
     (二) 被告人を懲役七年に処する。
     (三) 押収にかかる清酒「井筒長」二合入空瓶一本(長野地方裁判所
昭和二十九年領第二三号の一)及び二合瓶入ホリドール混入酒若干(前同押号の
二)はいづれも没収する。
     (四) 原審ならびに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とす
る。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人関川寛平提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここ
にこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。
 一、 論旨第一について
 原判決摘示の証拠によると、被告人は原判決摘示のような事情から、原判示Aを
殺害する目的をもつて、昭和二十八年十月十七日農薬ホリドール乳剤を日本酒に混
入した上、これを原判示A方の隣人を介して右Aに供与したが、同人はこれを飲用
せずして自宅に放置しておいたところ、約半年を経過した昭和二十九年四月七日同
人の妻Bは知人のCが酒好きであるところから同人に対し前記日本酒を毒酒と知ら
ないで贈与したが、これを貰受けたCは同夜これを飲用したため、ホリドール服用
による内因的窒息により死亡した事実を認定するに十分である。所論は「被告人は
Aを殺害する意思はもつていたが、Cを殺害する意思はなかつた。Cの死亡はひと
えにBの行為に基因するものであるから、被告人はAに対する殺人未遂罪の責任の
他に、本件毒酒をA以外の者が飲用するかも知れないということを認識しなかつた
点において過失致死の責任を負わねばならないのは格別、Cに対<要旨>する殺人既
遂罪の成立する余地はない。」と主張するが、およそ殺人の罪は故意に人を殺害す
るによつて成立するものであつて、その被害者の何人であるかは毫もその成
立に影響を及ぼすものではないから、原判示のように、いやしくも人を殺害する意
思をもつて他人に毒酒を供与し、因つてこれを飲用した者を死亡せしめた以上は、
仮令その飲用死亡者が被告人の意図した者と相違していたとしても、なを被告人に
殺人罪の刑責の存することは論をまたないところである。もつとも被告人がAに毒
酒を贈つてからCがこれを飲用して死亡するまでの間には約六ケ月の期間があり、
またCに毒酒を贈つた直接の当事者はBであつて、被告人はそのことを全然予想し
ていなかつたことは原判決も認定しているところであるけれども、一件記録に徴す
ると、本件の毒酒は当初から致死量の有毒物を含有していたものであつて、六ケ月
の期間の経過により特に毒性が発生したものでないことが明らかであるから、右期
間の経過は、被告人の行為とCの死亡との間の因果関係を中断せしめるものではな
く、また原判示のような毒酒による殺人罪の実行行為は、これを相手方に提供する
ことにより終了し、それ以後の経過、即ちこれを誰が飲用するかというようなこと
は、専ら犯人の意思以外の外的条件の推移によつて決定されるものであるから、犯
人が殺害しようと意図した者以外の者は絶対に飲用することがないというような特
殊の事例の場合は、格別、本件のようにA以外の者が飲用する可能性の多分に存す
る場合においては、被告人の毒物提供の行為と、Cの飲酒死亡との間には因果関係
の存するものと認めるのを相当とし、仮令その間にBの行為が介在したとしても、
なお右の因果関係は中断されるものではないと解するのを相当とする。してみれば
原裁判所が原判示事実を認定したうえ、刑法第百九十九条を適用処断したのはまこ
とに相当であつて、原判決には所論のような事実誤認もしくは法令適用の誤りは存
しない。論旨は理由がない。
 一、 同第二について
 本件は計画的な犯罪であり、その犯行の方法は猛毒物の使用であつて、しかも殺
人の実害が発生していることなどに鑑みると、被告人の責任は決して軽微なもので
はない。けれども記録を査閲し、かつ当裁判所で施行した証拠調の結果に徴する
と、本件犯行の動機にはやや憫諒すべきものがあり、その犯行の手段も良識ある者
には直ちに看破されるような幼稚な方法であつて、現に被告人が殺害しようとした
A自身は贈られた毒酒の外見、味覚等から不審を抱いてこれを飲用せず放置してお
いたこと、同人の妻Bはその約半年後前記酒の品質等について何等確認の方法をと
らず漫然とこれをCに与えたため、同人はこれを飲用し死亡するに至つたこと、即
ち被告人の犯行と被害の発生との間には約六ケ月の期間が存し、かつその間には前
記のようなBの過失的行為が介在していること、被告人は本件犯行後改悛の情が顕
著であり、被害者の遺族に対し慰籍料四万円を贈つて謝罪し、右遺族においても被
告人を宥恕していることが認められるが、これに被告人の経歴、家庭の状況その他
諸般の事情を斟酌考量すると、被告人を懲役十年に処した原判決の刑はやや重きに
過ぎると認められるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由が
ある。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条、第三百八十一条に則り原判決を破棄し、同法
第四百条但書によつて当裁判所において直ちに判決するところ、原判決が証拠に基
いて認定した事実に法律を適用すると被告人の所為は刑法第百九十九条に該当する
から所定刑中有期懲役刑を選択しその刑期範囲内で被告人を懲役七年に処し、押収
にかかる主文第三項掲記の物件は被告人が本件犯行の用に供した物で被告人以外の
者に属しないから、同法第十九条第一項第二号第二項本文によつてこれを没収すべ
く、原審ならびに当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条に則り全部被告
人に負担させることとする。
 なお、本件起訴状には罰条として「刑法第二百三条、同第百九十九条及び同法第
百九十九条」と記載されており、これを公訴事実の記載と対照すると検察官は原判
示のような被告人の行為を目してAに対する殺人未遂罪と、Cに対する殺人既遂罪
の二つの罪が成立するものとして起訴しているようにみえるが、前に説示したう
に、原判示被告人の所為は被告人の目的には関わりなく、Cに対する殺人既遂罪で
あると解する以上、Aに対する殺人未遂罪の成立する余地は存在しないから右検察
官の見解は相当ではないが、右は単なる法律上の意見の相違に皈するからこの点に
ついては特に主文において判断を示さない。
 よつて主文のように判決する。
 (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 山岸薫一 判事 下関忠義)

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