弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件控訴、附帯控訴および附帯控訴に基き原判決添付別紙二記載の取締
役会決議の取消を求める附帯控訴人の請求を棄却する。
     控訴費用は控訴および附帯控訴を通じこれを二分してその一を控訴人
の、爾余を附帯控訴人の負担とする。
         事    実
 一、 当事者双方の求めた裁判
 控訴人(附帯被控訴人)は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の
請求を棄却する。本件附帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の
負担とする。」との判決を求めた。
 被控訴人(附帯控訴人)は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担と
する。」との判決および附帯控訴に基き「第一次的請求として、原判決をつぎのと
おり変更する。控訴人の原判決添付別紙一記載の昭和三九年三月一三日午後八時の
臨時社員総会決議、同じく別紙二記載の同日午後九時の取締役会決議および同じく
別紙三記載の同月二三日午前一〇時の臨時社員総会決議がいずれも無効であること
を確認する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、
「第二次的請求として、原判決をつぎのとおり変更する。右各決議を取消す。訴訟
費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 二、 当事者双方の主張、証拠の提出・援用・認否はつぎのとおり附加・訂正す
るほか原判決事実の摘示のとおりであるのでそれをここに引用する。
 控訴人(附帯被控訴人)(以下控訴人という)はつぎのとおり述べた。控訴人
は、かねて被控訴人(附帯控訴人)(以下被控訴人という)に対し五三万二八八〇
円の貸金債権を有していたが、Aが被控訴人から持分一一〇口を譲受け被控訴人へ
支払らべき譲受代金一一万円をAから預つたことにより控訴人は被控訴人に対しそ
の債務者となつた。そこで控訴人は昭和三七年二月五日被控訴人に対し内容証明郵
便で、右貸金債権のうち一一万円と右譲受代金債務とを相殺する旨の意思表示を
し、右意思表示はその頃被控訴人に到達した。よつてAの持分譲受代金債務は弁済
されたことになる。
 被控訴人はつぎのとおり述べた。被控訴人が控訴人に対しその主張の如き貸金債
務を負担していたことは争う。かえつて被控訴人は当時控訴人に対し債権を有して
いたものである。
 原判決二枚目裏六行目に「無効」とあるのを「無効ないし取消しうるもの」と、
同じく九行目および同じく三枚目表一行目に「無効な」とあるのを「無効ないし取
消しうる」とそれぞれ訂正する。
 被控訴人は当審における被控訴本人尋問の結果を援用した。
         理    由
 一、 原判決添付別紙一の決議無効確認請求について。
 (一) 有限会社社員総会決議の内容が法令又は定款に違反する場合にはその決
議は無効であり、有限会社法四一条、商法二五二条に基きその無効確認の訴を提起
しらるものであるが、被控訴人が右決議の無効原因として主張するところは、当該
社員総会における議決権の数の算定に誤りがあり右決議は定款所定の定足数を欠く
ものであるというにある。しかしこのような暇疵は決議の成立手続に関するもので
あるにすぎず、これをもつて決議無効の理由とすることはできないので、右決議の
無効確認を求める被控訴人の請求は失当である。
 <要旨第一>(二) 被控訴人の右請求が、予備的に右決議取消の請求を含むもの
であることについて。有限会社法四一条が準用する商法二四七条は決議
の成立手続に関する暇疵を原因とする決議取消の訴を認め、同じく同法二五二条は
決議の内容が法令又は定款に違反することを原因とする決議無効確認訴訟を認め、
その間に原告適格、出訴期間等の手続において若干の差異を設けているものの、も
ともと総会決議は、その招集手続又は決議方法が法令又は定款に違反するにすぎな
いときにおいても当然無効のものというべきであるが、時の経過を問わず無条件に
何びとにおいてもその無効を主張しうるものとすれば、その決議を前提とする会社
の取引関係は錯雑を来たし関係当事者の利害に重大な影響を及ぼすこととなるし、
右のような決議成立過程における手続的暇疵はその重要性が比較的少いところか
ら、法は、会社関係における法的安定の要請を考慮して、これを決議取消原因と
し、出訴期間、原告適格等に制限を設けたものである。このように総会決議の無効
と言い或いは取消と言い、それはいずれも決議に存する暇疵を原因としてその効力
を否定しようとするものであり、その間の差異は暇疵の軽重などを考慮して法政策
上設けられたものにすぎないと解するので、当事者が総会決議に存する或る暇疵を
捉えてこれを決議無効原因としてその無効確認を求めている場合、右瑕疵が決議無
効原因には当らないが、取消原因に当りしかも取消訴訟の原告適格、出訴期間の遵
守等を充しているときは、無効確認請求は予備的に取消請求を含むものと解するの
を相当とする。
 (三) そこで右決議取消原因の存否について判断する。
 被控訴人及びAが控訴人の社員であり、被控訴人が一四二口、Aが六八口の各出
資者であつたことは当事者間に争いがないところ、控訴人はAが被控訴人からその
持分のうち一一〇口の譲渡をらけたと主張する。成立に争いのない甲第二号証、乙
第四、八号証、原審における控訴人代表者本人尋問の結果(第一回)により成立の
真正を認める乙第五、七号証、原審における被控訴本人尋問の結果及び弁論の全趣
旨によればつぎの事実を認めることができる。
 被控訴人は、大正末期ごろから自動車整備業を営んでいたが、娘の夫であつたA
に右事業を譲るべく、昭和二九年一一月九日控訴会社を設立し、Aが代表取締役
に、被控訴人が取締役にそれぞれ就任した。被控訴人はその後Aとの間が不和とな
り、控訴会社の運営につき自己の友人五名を社員に迎えてその意見を求めようと考
え、昭和三七年一月二〇日控訴人に対し、有限会社法一九条二項に基き、書面をも
つて、被控訴人の持分一一〇口を右五名に対し代金合計一一万円で譲渡したい旨の
通知をした。控訴人は次のような事情で右一一〇口の持分は被控訴人からAに移転
したとしてその社員名簿にその旨記載した。すなわち、同法一九条三項に基き、同
月二七日開催の臨時社員総会で右持分一一〇口の譲受人をAに指定する旨の決議が
なされAから被控訴人に対し適法な譲受の申出があつたので、Aが同法所定の申出
期間の経過とともに譲受人となり、控訴人は、かねて被控訴人に対し五三万二八八
〇円の貸金債権を有していたが、Aから右持分譲受代金一一万円を預り、被控訴人
に対し右譲受代金債務を負担するに至つたので、同年二月五日被控訴人に対し、前
記貸金債権五三万二八八〇円を自働債権とし、持分一一〇口の譲受代金債務一一万
円を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をし、それはその頃被控訴人に
到達したので被控訴人からAへ一一〇口の持分が移転した。控訴人は右のような前
提に基いてその社員名簿にその旨記載した。
 以上の事実が認められる。
 しかしながら、控訴人がAから、同人の被控訴人へ支払うべき持分譲受代金を預
つたからといつて、被控訴人が控訴人に対し右持分譲渡代金債権を取得するいわれ
はなく、控訴人は被相殺者である被控訴人が第三者であるAに対して有する代金債
権を受働債権として相殺することは許されない。したがつて、仮に有限会社法一九
条三項に基く前記社員総会の決議が有効になされたとしても、右持分譲受代金の支
払方法としてなされた相殺が無効である以上、被控訴人からAへの持分の移転は代
金の支払いがないためその効力を生ぜず、被控訴人およびAの出資口数は従前どお
り前者が一四二口、後者が六八口ということになる。
 ところで控訴人の出資総口数が三〇〇口であることは当事者間に争いがないとこ
ろ、成立に争いない甲第一号証、乙第一号証および弁論の全趣旨によれば控訴人の
社員総会における決議は代理人によつて行使される議決権を含み出席社員の議決権
の過半数をもつて決する旨定款に定められており、昭和三九年三月一三日午後八時
の臨時社員総会において行使された議決権の数は二七〇口であつたが、本件決議事
項につき被控訴人は賛成しなかつたことが認められるから、右決議は成立に至らな
かつたものというべきである。ところが、右決議は議決権の数の算定の誤りによつ
て成立したものとされているのであるから取消を免れない。
 したがつて右社員総会決議の取消を求める被控訴人の請求は理由がある。
 二、 原判決添付別紙二、三の各決議の無効確認ないし取消を求める請求につい
て。(三の決議無効確認請求がその取消請求を含むものと解することは前述のとお
りである。)
 前記社員総会決議の無効を前提とする右二、三の各決議の無効確認ないし取消請
求は、すでに述べたとおり右社員総会決議を無効ということができないのであるか
ら失当である。
 つぎに前記決議取消の効果として右二、三の決議の無効確認ないし取消を求める
請求について考えるに、法は、社員総会決議の場合と異り、取締役会決議の効力の
否認方法につき、もともと決議の無効原因となるべき決議に関する暇疵のうちその
成立過程についての暇疵を取りあげ法的安定の見地からこれを決議取消原因として
異別に扱う立前をとつておらず、したがつて訴において右決議の暇疵をとらえてそ
の効力を争う場合には決議不存在確認ないし無効確認の訴によるべきものであり、
取締役会決議取消なる訴訟型態は認められていないから、右請求のうち前記二の取
締役会決議取消を求める部分は失当である。
 <要旨第二>右請求のうちその余の部分について判断するに、社員総会決議取消の
判決があつたときは、一般には一応有効であつた決議が遡つて無効とな
ると解されているが、右決議の対象たる事項がそれ自体完了的意味を有するもので
あるときは別として、右決議を前提として幾多の社団的或いは取引的行為が進展す
る場合、たとえば役員の選任決議等にあつてその取消に遡及効を認めるときは、外
部的には決議を信頼した第三者の利益を害し、内部的には決議を前提として積み重
ねられた法律関係が一瞬にして崩壊のうきめを見ることとなり、会社の法的生活秩
序の安定は到底望みうべくもないこととなので、この場合は会社関係の法的安定の
見地から取消の遡及効を否定するのを相当と解する。そうであれば取締役解任なら
びに選任および監査役選任を決議事項とする右社員総会決議の取消はその遡及効を
否定すべきであるから、これを肯定すべきことを前提として右二の決議の無効確認
および三の決議の無効確認ないしは取消を求める被控訴人の右請求は失当でありこ
れを棄却すべきである。
 三、 結語
 したがつて本件控訴、附帯控訴およびこれに基き原判決添付別紙二記載の取締役
会決議の取消を求める附帯控訴人の請求はいずれもこれを棄却すべく、訴訟費用の
負担につき民訴法九二条、九五条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 林歓一 判事 中原恒雄 判事 西内英二)

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