弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成19年10月19日決定
平成19年(む)第1490号
主文
検察官に対し,別紙の条件を付した上,弁護人が平成19年3月26日付け録
音・録画状況等報告書添付のDVD1枚を謄写する機会を与えることを命ずる。
理由
第1当事者の主張
1本件裁定請求の趣旨と理由
本件裁定請求の趣旨と理由は,主任弁護人A,弁護人B,同C作成の平
成19年8月13日付け裁定請求書,同主任弁護人作成の同年9月4日付け「平成
19年9月3日付意見書に対する反論書」,同年9月21日付け裁定請求補充書に
記載のとおりである。弁護人の主張は,要するに,検察官が,被告人の取
調状況を録音,録画した平成19年3月26日付け録音・録画状況等報告書添付
のDVD1枚(以下「本件DVD」という。)について,開示の方法を閲覧に限定
し,謄写を認めなかったのは不当であるから,検察官に対し弁護人がこれ
を謄写する機会を与えることを命ずるよう求めるというものである。
2検察官の意見
本件裁定請求に対する検察官の意見は,検察官D,同E作成の平成19年9
月3日付け意見書,同月21日付け意見書記載のとおりである。検察官の意見
は,要するに,弁護人が本件DVDを謄写する必要がない一方,電子データの
漏出などこれを認めることによる弊害が大きく,弁護人に謄写する機会を
与えるのは相当でないというものである。
第2当裁判所の判断
1本件DVDは,被告人に対する最終の公訴である殺人被告事件の公訴提
起当日,同殺人とこれに密接に関連する死体遺棄の訴因について,検察官
による被告人の取調状況を録音,録画したものであり,刑訴法316条の15
第1項7号に掲げる類型に該当するところ,弁護人において検察官請求の殺
人,死体遺棄被告事件に関する被告人の供述調書(検察官請求番号乙2から
8まで,10から12まで)の証明力を判断するためには,同DVDに録音,録画
された被告人の供述内容を検討する必要がある。また,同DVDは,検察官が
取調請求する被告人の供述調書がすべて作成された後の取調状況を1回限
り録音,録画したものにすぎないが,そこに記録された検察官の質問とこ
れに対する被告人の返答は,双方の語調,質問に対する返答の仕方,被告
人の態度やその場の雰囲気等と一体として,当該取調べだけではなく,そ
れまでに実施された取調状況をも推知させる重要な客観的証拠であるから,
検察官の請求する被告人の全供述調書の証明力を判断するために,その取
調状況を検討する必要があることも否定できない。そして,それらの必要
性の程度にかんがみれば,検察官が弊害について指摘する諸点を考慮して
も,本件DVDを弁護人に対して開示することが相当と認められる。
2そこで,開示の方法についてみると,検察官は,謄写を認めることに
よりデータの外部漏出等の弊害が生じるおそれがあり,その弊害が極めて
大きいから謄写を認めることはできないと主張する。しかし,弁護人が,
通常の供述調書と同様に手元に置いて随時検討する必要があることは否定
できず,また,被告人の面前で再生することにより被告人に視聴させる防
御上の必要があることも否定できない。なるほど,本件DVDが第三者の手に
渡るなどしていったんデータが外部に漏出した場合の関係者の名誉やプラ
イバシー等についての被害は計り知れず,その場合,文書と比較して質量
共に格段に大きな被害が生じることは,検察官の主張するとおりである。
しかし,そのような漏出が生じないことは,弁護士倫理と刑訴法の規定す
る目的外使用の禁止制裁(同法281条の3から5まで)によりある程度は担保
されているし,適切な条件を付することによりその危険性はほぼ除去でき
るものということができるから,検察官の主張する弊害の点は,開示の方
法として謄写を否定する理由にはならないと解される。
3以上のとおり,弁護人が本件DVDを謄写することを認めるのが相当で
あり,検察官に対し,別紙のとおりの条件を付した上,弁護人が本件DVD
を謄写する機会を与えることを命ずることとする。
第3適用した法条
刑訴法316条の26第1項
(裁判長裁判官・三好幹夫,裁判官・深沢茂之,裁判官・佐藤智彦)
別紙
1謄写枚数は1枚とする。
2謄写に係るDVDのデータを複写して更にDVDを作成し,又は,パソコン
のハードディスクに複写して記録するなどの一切の複写をしてはならない。
3謄写に係るDVDを再生するに際しては,インターネット等により外部
に接続したパソコンを使用してはならない。
4本被告事件についての弁護活動が終了した際には,謄写に係るDVDの
データを消去しなければならない。

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