弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人奥村文輔の上告趣意第一点について。
 しかし公判廷における自白は憲法第三八条第三項及び刑訴応急措置法第一〇条第
三項の「自白」の中に含まれないことはしばしば当裁判所の判例(昭和二三年(れ)
第一六八号同年七月二九日大法廷判決、昭和二三年(れ)第一五四四号同二四年四
月二〇日大法廷判決)に示されている通りである。従つて原判決が被告人の公判廷
における自白のみを証拠として判示の犯罪事実を認定したからとて所論のような違
法はない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 昭和二二年政令第一六五号にいわゆる「収受」とは、同令第一条所定の財産につ
き所持即ち実力的支配関係(昭和二三年(れ)第九五六号同二四年五月一八日最高
裁判所大法廷判決参照)を承継的に取得する意味に解すべきである。そうして原判
決が証拠として採用している原審公判廷における被告人の供述(これを唯一の証拠
として犯罪事実を認定しても違法でないことは第一点について説明した通りである)
によれば、同人が判示煙草につきともかく一応所持を承継的に取得した趣旨が推断
できる。(同人は、判示煙草を「買受けて所持し」と判示されている第一審判決記
載の犯罪事実につき問われて、「その通りであります」、と答えているのみならず、
買受けた煙草の一部分は貸席業者に「一包百四十円で買つて百五十円か百六十円で
売り」残余は自ら「闇市や立売りをした」と供述している。)それ故原判決が、被
告人は判示煙草を収受したものであるとしたことには、所論のような違法はなく、
論旨は理由がない。
 同第三点について。
 原審公判廷において弁護人から、被告人の性格、生活状態等を立証するために、
証人として在廷のAの訊問を申請したことは記録の上で明らかであるが、原審がこ
れを却下したのは、原審としては一件記録や被告人の供述等によつてこれ等の点に
つき既に充分心証を得たためであつたと思われる。裁判所は当事者から申請された
凡ての証人を取調べなければならないというものではなく、健全な合理性に反しな
い限り、その自由裁量によつて適当に証人申請の取捨選択をなし得るものである(
昭和二三年(れ)第八八号同年六月二三日大法廷判決参照)から、原審が右のよう
な事情の下において所論の証人申請を却下したからとて、これを以て憲法第三七条
第二項に違反するものとする論旨は採用できない。
 また憲法第三七条第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、構成その他に
おいて偏頗のおそれなき裁判所の裁判という意味である(昭和二二年(れ)第一七
一号同二三年五月五日大法廷判決参照)から、原審が所論の証人申請を却下したか
らとて、これを以て憲法の右の条項に違反するものということはできない。要する
に論旨はすべて理由がない。
 同第四点について。
 執行猶予を言渡すか否かは結局量刑の問題に帰着し、事実審裁判所の自由裁量に
委ねられているところである。従つて原判決が執行猶予を言渡さなかつたからとて、
法律違背の問題は生じない。論旨は適法な上告理由とならないものである。
 右の理由により旧刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は、公判廷の自白に関する裁判官井上登及び同穂積重遠の少数意見(上
記第一点についての説明に引用の判決文所載)を除く外、裁判官一致の意見による
ものである。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二五年三月七日
     最高裁判所第三小法廷
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠
 裁判長裁判官長谷川太一郎は差し支えにつき署名押印することができない。
            裁判官    井   上       登

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