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平成25年10月17日判決言渡
平成25年(行ケ)第10107号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年10月3日
判決
原告旭産業株式会社
訴訟代理人弁理士保立浩一
被告有限会社フォーラム
訴訟代理人弁理士松尾憲一郎
市川泰央
大坪勤
主文
特許庁が無効2012-400003号事件について平成25年3月5日に
した審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
主文同旨。
第2事案の概要
本件は,実用新案登録無効審決の取消訴訟である。争点は,①本件考案と先願発
明との相違点認定の誤りの有無及び②当該相違点判断の誤りの有無である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件実用新案
原告は,名称を「管の表面に被覆した保温材を保護するエルボカバー」とする考
案についての本件実用新案(実用新案登録第3138583号)の実用新案権者で
ある。(甲1)
本件実用新案は,平成19年10月26日に出願した実願2007-8250号
に係るものであり(考案者・A及びB),平成19年12月12日に設定登録(請求
項の数3)された(ただし,登録料不納付により平成22年12月12日消滅)。(甲
1)
(2)無効審判請求
被告が,平成24年9月18日,本件実用新案登録の無効審判請求(請求項1~
3)をしたところ(無効2012-400003号),原告は,平成24年11月2
日,実用新案法14条の2第1項の訂正をしたが,特許庁は,平成25年3月5日,
「実用新案登録第3138583号の請求項1ないし3に係る考案についての実用
新案登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は同年3月15日原告に送達され
た。(甲3)
2本件考案の要旨
上記平成24年11月2日付け訂正後の本件実用新案の請求項1から3までの考
案(以下,番号順に「本件考案1」などのようにいう。)に係る実用新案登録請求の
範囲の記載は,次のとおりである。(甲1,2,6,25)
「【請求項1】
エルボカバーが,エルボ胴部(11)と該エルボ胴部の開口端に結合したエルボ
結合部(12)とからなり,上記エルボ結合部は,結合受け板(121)と結合差
込み板(122)とを有し,上記結合受け板は,先端部分を二つ折りに折り返して
第1の結合板(121a)を形成し,折り返された該第1の結合板は,上記結合受
け板の自由端に向って折り返して第2の結合板(121b)を形成し,該第2の結
合板は,折り返し部が上記第1の結合板に向うように折り曲げて係合片(121c)
を形成して当該第1の結合板との間に結合差込み口(123)を形成したものであ
って,上記第2の結合板及び上記係合片は全域に亘って一定の横幅を有してこの横
幅は上記第1の結合板よりも狭くなっており,上記結合差込み板の先端近傍に係止
爪(124)を設け,上記結合受け板の結合差込み口に上記結合差込み板を挿入し
て上記エルボ結合部を結合することを特徴とする管の表面に被覆した保温材を保護
するエルボカバー。
【請求項2】
結合差込み板(122)に形成した係止爪(124)は,複数列が形成されてい
ることを特徴とする請求項1に記載の管の表面に被覆した保温材を保護するエルボ
カバー。
【請求項3】
結合差込み板(122)に形成した係止爪(124)は,1列に3個が形成され
たものが3列形成されていることを特徴とする請求項2に記載の管の表面に被覆し
た保温材を保護するエルボカバー。」
なお,後記当事者の主張の理解の参考として,甲1の図1,図3及び図4を掲記する。
【図1】【図3】
【図4】
3審決の理由の要点
(1)先願発明について
本件実用新案の出願日よりも前の特許出願であって,本件実用新案の出願よりも
後に出願公開(甲4)がされた特願2006-275665号の願書に最初に添付
した明細書,特許請求の範囲及び図面(先願明細書等〔甲4の2〕)には,次の発明
(先願発明)が記載されている(発明者・C,出願人・被告)。
「断熱材を被覆した管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体1と,該屈曲部
の内径周面を覆う内径カバー体2とを一体に連接して構成した管体の屈曲部保護カ
バーであって,内径カバー体2は,管体の屈曲部内径に対応する部分を管体周面と
交差する方向に分離離隔して形成した第1の内径カバー体2aと第2の内径カバー
体2bからなり,第1の内径カバー体2aと第2の内径カバー体2bの端部にそれ
ぞれ設けられた雌係合部3aと雄係合部3bによって,互いに係合接続自在に構成
され,雌係合部3aは,第1の内径カバー体2aの端部を内方へ折曲して形成した
一次折曲部7,一次折曲部7の延長部分を外方へ折返して形成した二次折曲部8及
び二次折曲部8の延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯9を備え,一次折曲
部7から二次折曲部8を経て係合受歯9に向かうにしたがって漸次幅狭となってお
り,雄係合部3bは,3列3段に整列した係合歯19を備え,雌係合部3aの一次
折曲部7と二次折曲部8との間に形成したV字状溝部内へ雄係合部3bを挿入し,
係合受歯9が係合歯19を乗り越えた状態となるまで差し込んで係合させるように
した管体の屈曲部保護カバー。」
なお,上記記述の参考として,甲4の2の図1及び図6を掲記する。
【図1】
【図6】
(2)本件考案1と先願発明との同一性について
ア相違点の認定
本件考案1と先願発明とを対比すると,①本件考案1では,第2の結合板及び係
合片は,全域にわたって一定の横幅を有し,この横幅は第1の結合板よりも狭くな
っているのに対して,②先願発明では,二次折曲部8と係合受歯9は,一次折曲部
7よりも幅が狭いものではあるが,一定の横幅を有するものではなく,二次折曲部
8から係合受歯9に向けて漸次幅狭となっている点で一応相違する。
イ相違点の判断
①[1]先願発明が二次折曲部8から係合受歯9に向けて漸次幅狭となっている
理由は,V字状溝部(雌係合部3aの一次折曲部7と二次折曲部8との間)の開口
側に近づくほど管体の屈曲部に近づく二次折曲部8が,管体の屈曲部を覆う断熱材
に接触しないようにするためであると考えられる。[2]このV字状溝部の開口側で必
要とされる最大の制限幅(最小幅)をもって二次折曲部8を一様な幅に形成した場
合でも,二次折曲部8が管体の屈曲部を覆う断熱材に接触しないことは明らかであ
る。
②本件実用新案の出願前に頒布された刊行物である実願平2-107659号
(実開平4-64692号)のマイクロフィルム(甲5刊行物〔甲5〕)には,二つ
の端部を周方向に繋ぐ配管カバー用エルボにおいて,嵌入溝を形成するように折り
曲げられる一方の端部を一定の横幅としたものが記載されており,エルボカバーの
エルボ結合部を一定の横幅とすること自体は,本件実用新案の出願前に周知の技術
であることが認められる。
③上記相違点の構成に係る本件考案1の構成のうち,第2の結合板及び係合片
の横幅が第1の結合板よりも狭くなっている点は,結合部と直管カバーとの間に段
差あるいは隙間が生じないようにするために必要な構成といえるが,[1]第2の結合
板及び係合片が全域にわたって一定の横幅を有する点は,そのような作用・効果と
は関係はなく,[2]そのようにした構成の技術的意義も不明であり,先願発明に比べ
て有利な効果を奏するとは限らない。
④①~③を総合すると,上記相違点は,設計上の微差にすぎないというべきで
あって,実質的な相違点とはいえない。
なお,上記記述の参考として,甲5の第1図及び第2図を掲記する。
(3)本件考案2及び本件考案3について
先願発明は,本件考案2における「結合差込み板(122)に形成した係止爪(1
24)は,複数列が形成されている」との要件及び本件考案3における「結合差込
み板(122)に形成した係止爪(124)は,1列に3個が形成されたものが3
列形成されている」との要件を備えるから,本件考案2と先願発明との相違点及び
本件考案3と先願発明との相違点は,いずれも,本件考案1と先願発明との相違点
と同じである。そして,上記(2)のとおり,この相違点は実質的な相違点とはいえな
い。
(4)審決判断のまとめ
本件考案1から本件考案3までは,いずれも,先願発明と実質的に同一である。
また,本件実用新案の考案者と先願発明の発明者とは同一の者ではなく,かつ,本
件実用新案の出願時における本件実用新案の出願人と先願発明に係る特許出願の出
願人とは同一の者ではない。
したがって,本件考案1から本件考案3までは,いずれも,実用新案法3条の2
の規定に違反して実用新案登録がされたものであり,その実用新案登録は,実用新
案法37条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(本件考案1と先願発明との相違点認定の誤り)
審決は,相違点の認定に当たり,先願発明につきその「二次折曲部8と係合受歯
9は,一次折曲部7よりも幅が狭いものではある」と認定しているが(8頁17~
18行),二次折曲部8は,一次折曲部7との境界部分において一次折曲部7と同一
の幅を有するから(先願明細書等【0012】【0042】【0043】【図6】),審
決の上記認定は誤りである。
2取消事由2(本件考案1における相違点判断の誤り)
(1)断熱材との接触の有無
①審決は,先願発明の「二次折曲部8は該V字状溝部の開口側に近づくほど一
次折曲部7から離間して管体の屈曲部に近づく」と認定しているが(8頁24~2
5行),二次折曲部8がV字状溝部の開口側に近づくほど一次折曲部7からは離間す
るものではあるとしても,管体に装着された状態において二次折曲部8がV字状溝
部の開口側に近づくほど管体の屈曲部に近づくという記載は先願明細書等にはない
し,実際にもそのような状態にはならない(先願明細書等【図6】(b))。
②審決は,「V字状溝部の開口側で必要とされる最大の制限幅(最小幅)をもっ
て,二次折曲部8を一様な幅に形成した場合でも,二次折曲部8が管体の屈曲部を
覆う断熱材に接触しない」と認定している(8頁28~30行)。
しかし,[1]審決がいう二次折曲部8の「最大の制限幅(最小幅)」を最も狭い幅
である係合受歯9との境界部分と同一の幅と解し,二次折曲部8をこの幅で一様な
幅に形成した場合,これに合わせて,二次折曲部8に連続する一次折曲部7や内側
カバー体2aも少し狭い幅で漸次幅狭となり,係合部3は全体にもとよりも幅狭と
なる。そうすると,かように係合部3の幅がもとよりも狭くなるにもかかわらず係
合部3の突出部15(係合部3の管体側)の厚みが同じであれば,突出部15が断
熱材に接触するが係合部3は断熱材に接触しない状態となる。
また,[2]審決のいう二次折曲部8の「最大の制限幅(最小幅)」を最も広い幅で
ある一次折曲部7との境界部分と同一の幅と解し,二次折曲部8をこの幅で一様な
幅に形成した場合,これに合わせて,二次折曲部8に連続する一次折曲部7や内側
カバー体2aが少し広い幅で漸次幅狭となり,係合部3は全体にもとよりも幅広と
なる。そうすると,突出部15の幅がもとよりも広くなるにもかかわらず係合部3
の突出部15の厚みが同じであれば,突出部15が断熱材に接触するが係合部3は
断熱材に接触しない状態となる。
すなわち,先願発明は,内側カバー体2aから,一次折曲部7,二次折曲部8に
かけて漸次幅狭とすることによって,係合部3に,その側端縁から内側方向へ略4
5度の角度をなして漸次的に厚みを形成する構成としたのであるから(先願明細書
等【0050】),審決がいう「二次折曲部8を一様な幅に形成した場合」には突出
部15が断熱材に接触してしまうことになる。
したがって,審決の上記認定は誤りである。
(2)周知技術認定の誤り
審決は,甲5刊行物には「二つの端部を周方向に繋ぐ配管カバー用エルボにおい
て,嵌入溝を形成するように折り曲げられる一方の端部を一定の横幅としたものが
記載されて」いるとし,「エルボカバーのエルボ結合部を一定の横幅とすること自
体は,本件実用新案の出願前に周知の技術事項である」と認定しているが(8頁3
1~35行),甲5刊行物に開示されているのは,嵌入溝28の形成部分がすべて
一定の横幅である形状である。
したがって,甲5刊行物に開示された事項を上位概念化した「エルボ結合部を一
定の横幅とすること」が周知なのではなく,甲5刊行物に具体的に開示された「エ
ルボ結合部において折り返して形成した各部が相互に同じ幅であって各部内でも一
定の横幅にすること」又は「一定の横幅のものをそのまま折り返してエルボ結合部
を形成すること」が周知であるにすぎない。
(3)作用効果との関係性
①審決は,「相違点に係る本件考案1の構成のうち,第2の結合板及び係合片の
横幅が第1の結合板よりも狭くなっている点は,結合部と直管カバーとの間に段差
あるいは隙間が生じないようにするために必要な構成といえるが,第2の結合板及
び係合片が全域に亘って一定の横幅を有する点は,そのような作用・効果とは関係
がない」と認定している(9頁9~13行)。
しかしながら,本件考案1の第2の結合板及び係合片が全域にわたって第1の結
合板よりも狭いことによって,そのいずれの箇所においても,結合部と直管カバー
との間に段差あるいは隙間が生じないとの作用・効果をもたらすのである。
②仮に審決認定のとおりに「第2の結合板及び係合片が全域に亘って一定の横
幅を有する点」が「結合部と直管カバーとの間に段差あるいは隙間が生じない」と
の作用・効果とは無関係であるとしても,[1]二次折曲部8が一次折曲部7との境界
部分において一次折曲部7と不可避的に同一の幅を有する先願発明が,管体の屈曲
部の寸法形状によっては二次折曲部8と係合受歯9の境界部分で断熱材に接触しな
い場合でも二次折曲部8と一次折曲部7との境界部分では断熱材に接触する可能性
があるのに対し,[2]本件考案1は,第2の結合板121bと係合片121cとの境
界部分で断熱材への接触がなければ第2の結合板121bと第1の結合板121a
との境界部分においても断熱材への接触の可能性はないのであるから,本件考案1
には,先願発明にはない新たな効果がある。
もちろん,第2の結合板121b及び係合片121cが一定の横幅を有しなくて
も,その横幅が第1の結合板121aよりも狭いという態様はあり得るが,二次折
曲部8から一次折曲部7にかけて漸次幅狭となってその境界部分で必然的に両者が
同一の幅を有する先願発明との対比において,本件考案1の構成は,先願発明にな
い新たな効果を有しているのである。
したがって,本件考案1が新たな効果を奏する以上,本件考案1が先願発明と同
一であることはない。
(4)「一定の横幅」の技術的意義
審決は,本件考案1における第2の結合板及び係合片が一定の横幅を有する点の
技術的意義は不明であり,先願発明に比べて有利な効果を奏するとは限らないと認
定した(9頁14~22行)。
本件考案1における係合片121cと係止爪124による結合及び先願発明にお
ける係合受歯9と係合歯19による結合はカンチレバーフックと同様の結合構造で
あるが,カンチレバーフックでは,断面が一定である場合,結合の解除に要する力
はカンチレバーフックのはりの幅に比例するから,本件考案においては,係合片1
21cの幅を大きくすれば結合強度を高くすることができ,先願発明では,係合受
歯9の幅を大きくすれば結合強度を高くすることができ,このことは当業者におい
て技術常識であるか又は自明な事項である。
ところで,係合部のうち管の屈曲部にもっとも近接した箇所(最大厚み箇所)は,
本件考案1においては係合片121cを形成した箇所であり,先願発明においては
係合受歯9を形成した箇所であるが,管の屈曲部の寸法形状が同じであるならば,
本件考案においても先願発明においても,最大厚み箇所において許容される最大の
幅は同一である。そして,上記のとおり幅が大きい方が結合強度は高くなるから,
当業者としては,係合部の幅を管の屈曲部の寸法形状により許容される最大限度ま
で広くするのが合理的行動である。その場合,本件考案では,係合片121cの先
端の幅は最大厚み箇所の幅と同一の幅を有するが,先願発明では,係合受歯9の先
端の幅は最大厚み箇所の幅よりも狭くなる。したがって,本件考案1は,先願発明
に比べて結合強度を高くできるという新たな効果を奏する。
したがって,本件考案1における第2の結合板及び係合片が一定の横幅を有する
点の技術的意義が不明であり,先願発明に比べて有利な効果を奏するとは限らない
とした審決の認定は誤りである。
(5)技術思想の相違
本件考案1は,第2の結合板121bが全域にわたって第1の結合板121aと
横幅が異なるのであるから,全体が一定の幅である板材を折り曲げて係合部を形成
したものではなく,折り曲げる前の板材には横幅が不連続に変化する箇所が必ずあ
る。しかし,先願発明は,エルボカバーの結合部の形態として周知である漸次幅狭
の板材をそのまま折り返して一次折曲部7,二次折曲部8及び係合受歯9を形成し
たものにすぎない。すなわち,先願発明には,板材の幅を不連続に変化させるとい
う過程は存在しないのに対し,本件考案1には,板材の幅を不連続に変化させる過
程が存在する。この点において,本件考案は,先願発明と顕著にその技術思想を異
にする。
したがって,本件考案は,先願発明と実質的には同一とはいえない。
3取消事由3(本件考案2及び本件考案3における相違点認定判断の誤り)
審決は,本件考案1について認定判断したと同様の理由により本件考案2及び本
件考案3についても先願発明と実質的に同一であるとした。しかしながら,本件考
案1における審決の認定判断は上記1又は2のとおりに誤っており,本件考案2及
び本件考案3についての審決の認定判断も誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1(本件考案1と先願発明との相違点認定の誤り)に対して
審決の認定は,二次折曲部8と一次折曲部7との境界部分において同一幅を有す
る部分があることを否定するような厳密なものではなく,二次折曲部8の全体を一
次折曲部7の全体と比較した場合に,二次折曲部8が一次折曲部7より全体的に幅
が狭いという程度のものである。相違点の認定としてはこれで十分なものであり,
しかも,実質的な相違点といえるか否かの判断は,「V字状溝部の開口側で必要とさ
れる最大の制限幅(最小幅)をもって,二次折曲部8を一様な幅に形成した場合」
(8頁28~29行)について検討しているものであるから,上記認定は審決の結
論にも影響を及ぼさない。
したがって,審決の相違点認定には誤りがない。
2取消事由2(本件考案1における相違点判断の誤り)に対して
(1)断熱材との接触の有無について
①二次折曲部8はV字状溝部の開口側に近づくほど管体の屈曲部に近づいてい
るから(先願明細書等【図6】(b)),審決の認定に誤りはない。
②審決のいう「最大の制限幅(最小幅)」が二次折曲部8と係合受歯9との境界
部分の幅をいうことは,審決の該当部分の文脈から明らかである。そして,二次折
曲部8をV字状溝部の開口側に近づく程幅狭にすることで二次折曲部8が断熱材に
接触しないのであれば,二次折曲部8の全体をより狭いその先端部の幅で一様な幅
に形成した場合にも二次折曲部が断熱材に接触しないことは明らかである。
なお,審決の説示は,二次折曲部8を一様な幅に形成したとした場合に尽きるの
であり,これに伴い一次折曲部7の形状が変更されることを前提にした説示ではな
いし,二次折曲部8の形状を変更したことにより直ちに一次折曲部7の形状が変更
されなければならないとする合理性もない。
したがって,審決の認定に誤りはない。
(2)周知技術認定の誤りについて
甲5刊行物の実用新案登録請求の範囲及び第2図には,2つの端部を周方向に繋
ぐ配管カバー用エルボ16において,嵌入溝28を形成するように折り曲げられる
一方の端部を一定の横幅としたものが記載されており,「エルボカバーのエルボ結合
部を一定の横幅にすること」は周知の技術である。
そして,この審決の認定した周知技術である「エルボカバーのエルボ結合部を一
定の横幅とすること」と,原告の主張する『エルボ結合部において折り返して形成
した各部が相互に同じ幅であって各部内でも一定の横幅にすること』又は『一定の
横幅のものをそのまま折り返してエルボ結合部を形成すること』との相違は不明確
である。
したがって,審決の認定に誤りはない。
(3)作用効果との関係性について
本件考案1の第2の結合板及び結合片がいずれの箇所においても第1の結合板よ
りも幅が狭いことと,第2の結合板及び結合片が全域にわたって一定の横幅を有す
ることとには関連性がない。なぜならば,第2の結合板及び結合片が一定の横幅を
有しない場合であってもそのようになり得るからである。すなわち,第2の結合板
及び係合片が全域にわたって一定の横幅を有する点は,結合部と直管カバーとの間
に段差あるいは隙間が生じないようにするという作用・効果とは関係のないもので
ある。
したがって,審決の認定に誤りはない。
(4)「一定の横幅」の技術的意義について
本件考案1において第2の結合板及び係合片が「一定の横幅」を有する点に関し,
本件実用新案に係る当初明細書(甲2の【0010】【0012】【0018】参照)
には当該構成を説明する記載がなく,その訂正明細書(甲6の【0018】)を参酌
してもその技術的意義は不明である。そして,本件考案1においては「一定の横幅」
の大きさに限定もない。そうすると,本件考案1の係合片121cの幅と先願発明
の係合受歯9とが同一の幅であることを前提とする必然性はないのであり,本件考
案1の係合片121cの幅が先願発明の係合受歯9の幅よりも小さい場合も含まれ
る。そして,その場合には本件考案1の係合部の方が先願発明の係合部よりも結合
力が弱くなる。
したがって,審決の認定に誤りはない。
(5)技術思想の相違について
本件考案1は,先願発明に比べて有利な効果を奏するとは限らないものであり,
先願発明との間に実質的な相違点はない。
したがって,審決の認定に誤りはない。
3取消事由3(本件考案2及び本件考案3における相違点認定判断の誤り)に
対して
先願発明と本件考案1との相違点に係る審決の認定判断には誤りがなく,本件考
案2及び本件考案3に係る審決の認定判断にも誤りはない。
第5当裁判所の判断
1本件考案について
(1)本件明細書等の記載
本件実用新案に係る明細書等(本件明細書等)には,次の記載がある(甲1,2,
6)。
「【考案が解決しようとする課題】【0009】本考案が解決しようとする課題は、エルボ結
合部が折り畳み形成された結合受部とこれに結合差込部を差し込んで両者を結合するものにお
いて、エルボカバーを管の屈曲部分に装着した時に、直管部分との間に段差又は隙間が生じな
いようにしたエルボカバーを提供することである。」
「【課題を解決するための手段】【0010】解決手段の第1は、エルボカバーが、エルボ胴
部と該エルボ胴部の開口端に結合したエルボ結合部とからなり、上記エルボ結合部は、結合受
け板と結合差込み板とを有し、上記結合受け板は、先端部分を二つ折りに折り返して第1の結
合板を形成し、折り返された該第1の結合板は、上記結合受け板の自由端に向って折り返して
第2の結合板を形成し、該第2の結合板は、折り返し部が上記第1の結合板に向うように折り
曲げて係合片を形成して当該第1の結合板との間に結合差込み口を形成したものであって、上
記第2の結合板及び上記係合片は上記第1の結合板よりも横幅を狭く形成し、上記結合差込み
板の先端近傍に係止爪を設け、上記結合受け板の結合差込み口に上記結合差込み板を挿入して
上記エルボ結合部を結合することを特徴とするものである。」
「【考案の効果】【0013】請求項1は、エルボカバーのエルボ結合部が、結合受け板と結
合差込み板とを有し、上記結合受け板は部材を折り曲げて結合差込み口を形成し、上記結合差
込み板は上記結合受け板に設けた係止片と係合させる係合爪を設けたものであって、上記係止
片を設けた第2の結合板の横幅を上記第1の結合板よりも狭く形成したものであるから、エル
ボカバーを管の屈曲部分に装着した時、上記結合受け板の第1及び第2の結合板の両端部が直
管カバーに隙間なく当接され、従来技術の問題点であった結合部と直管カバーとの間に段差あ
るいは隙間が生じることが解消でき、エルボカバーの内部に雨水が浸入することが防止できる
ものである。」
「【考案を実施するための最良の形態】・・・・・【0018】上記エルボ結合部12は、結合受
け板121と結合差込み板122とからなり、結合受け板121は、二つ折りに折り返した第
1の結合板121aを形成するとともに、該第1の結合板121aは、先端に向って折り返し
て第2の結合板121bを形成し、さらに、第2の結合板121bは、折り返し部が上記第1
の結合板121aに向うように折り曲げて係合片121cを形成し、これにより第1の結合板
121aとの間に結合差込み口123を形成したものである。ここで、第2の結合板121b
及び係合片121cは、全域に亘って一定の横幅を有してこの横幅は上記第1の結合板121
aよりも狭くなっており、この点が本考案の主題となるものである(図3参照)。即ち、図3に
示すように、第2の結合板121bの左側の縁121dと、第2の結合板121bの右側の縁
121eとは、平行に延びている。また、図5に示すように、係合片121cは、第2の結合
板121bと同じ横幅を有している。したがって、第2の結合板121b及び係合片121c
は、全域に亘って一定の横幅を有している。そして、図3に示すように、この横幅は第1の結
合板121aよりも狭くなっている。【0019】上記結合差込み板122は、上記結合受け板
121の結合差込み口123に挿入して当該結合受け板121と結合するものであって、横幅
を第1の結合板121aと略同一に形成するとともに、先端近傍に複数列の係止爪124が設
けられている。なお、当該係止爪124は1列に3個が形成されたものが3列形成されている。
ここで、係止爪124は、線状に切断したのち一方の板材を上方に突出させることにより係合
面とこれに繋がる傾斜面を形成したものであって、結合差込み板122を結合差込み口123
に差し込む時は自由であるが、引き抜き方向には係止爪124の係合面が係合片121cと係
合して結合差込み板122の脱出が阻止され、両者の結合が保持されるものとなる。」
「【0022】エルボカバー10は、管1の口径ならびに管に被覆した保温材2の厚さによっ
て大きさを選択するものであって、エルボ結合部12を結合した状態で、図5に示すように結
合受け板121の第1及び第2の結合板121a,121bの両端部が直管カバー3に隙間な
く当接し、従来技術の問題点であった結合部と直管カバーとの間に段差あるいは隙間が生じる
ことが解消できたのである。」
「【図5】

(2)本件考案1の認定
本件実用新案の実用新案登録請求の範囲並びに本件明細書等の図1,図3及び図
4(前記第2の2)と上記(1)の認定によれば,本件考案1は,①エルボカバーを管
の屈曲部分に装着した時に直管部分との間に段差又は隙間が生じないようにするた
めに,②[1]エルボ結合部の結合受け板については2度の折り返しにより第1の結合
板と第2の結合板と係合片とを形成し,第2の結合板及び係合片は全域にわたって
一定の横幅を有し,かつ,その横幅が第1の結合板よりも狭く形成し,[2]エルボ結
合部の結合差込み板については,先端に係止爪を設けたものであり,③第2の結合
板及び係合片が第1の結合板よりも横幅を狭く形成したことから,エルボカバーを
管の屈曲部に装着した時に,第1の結合板と第2の結合板との両端が直管カバーに
隙間なく当接することができるとしたものということができる。
2取消事由1(本件考案1と先願発明との相違点認定の誤り)について
原告は,審決が相違点の認定に当たり,先願発明の「二次折曲部8と係合受歯9
は,一次折曲部7よりも幅が狭いものではある」と認定したことに対し,二次折曲
部8は一次折曲部7との境界部分において一次折曲部7と同一の幅を有するので上
記認定は誤りである旨を主張する。
しかしながら,二次折曲部8と一次折曲部7との折曲した境界部分は,二次折曲
部8に属するとも一次折曲部7に属するともいい得るのであり,上記審決の説示か
ら二次折曲部8とも一次折曲部7とも断定できない両箇所の境界部分が除かれてい
るのは自明のことである。したがって,一次折曲部から二次折曲部を経て係合受歯
に向かうにしたがって漸次幅狭となっている先願発明の構成において,二次折曲部
8が一次折曲部7よりも幅が狭いといえ,審決の相違点の認定には誤りはない。
また,「管体への装着性を向上させて管体の屈曲部を効果的に保護する」(先願明
細書等【0016】)との先願発明の作用・効果を奏するのについては,少なくとも
一次折曲部7と二次折曲部8との境界部分中に生じ得る同一幅の線部分は関係せず,
最大限でも当該部分を除く二次折曲部8部分なのであるから,厳密さを求めて相違
点の認定に「一次折曲部7と二次折曲部8の境界部分を除き」といった事項を追加
したところで,相違点の判断に実質的な影響を与えるものでもない。
したがって,原告の上記主張は採用することができず,取消事由1は理由がない。
3取消事由2(本件考案1における相違点判断の誤り)について
(1)周知技術認定の誤りにつき
ア周知技術の認定
原告は,審決が甲5刊行物の記載に基づき「エルボカバーのエルボ結合部を一定
の横幅とすること自体は,本件実用新案の出願前に周知の技術事項である」と認定
したことに対し,甲5刊行物から上記周知技術を認定することは誤りである旨の主
張をする。
そこで,検討するに,甲5刊行物には,次の記載がある。
「・・・・・〔産業上の利用分野〕この考案は,給湯管等の配管の屈曲部を被覆するエルボに係り,
繋ぎ作業を改善できる配管カバー用エルボに関するものである。〔従来の技術〕・・・・・配管カバ
ー用エルボの繋ぎ側部分24,26は,最初,ほぼ真っ直に延びており,・・・・・配管カバー用エ
ルボを被してから,・・・・・相互に繋ぎ合わせられる。すなわち,繋ぎ側部分24,26は,掴み
工具等により端部を折り返され,折り返し部において相互に引っ掛けあわされている。〔考案
が解決しようとする課題〕・・・・・作業者が,工具を使用して,繋ぎ側部分24,26の端部を曲
げる必要があり,煩雑であるとともに,配管カバー用エルボの取付位置が壁や他の構造物に近
接しているときは,それらに邪魔されて,工具を適切な位置で操作することができず,作業能
率が低下する。請求項1の考案の目的は,工具を省略して配管カバー用エルボを周方向へワン
タッチで繋ぎ合わせることができるようにして,作業能率を改善することである。・・・・・〔課題
を解決するための手段〕・・・・・配管カバー用エルボ(16)は,板金から成り,2個の端部を周
方向へ繋がれて,配管屈曲部を被覆する。・・・・・配管カバー用エルボ(16)では,一方の端部
は,拡開自在な嵌入溝(28)を形成するように折り曲げられるとともに,端縁(30)を嵌
入溝(28)の奥の方へ折り返されている。また,他方の端部は,嵌入溝(28)へ嵌入され
て引き抜き方向へは端縁(30)との当接により変位を阻まれる凸部(32)を備えている。・・・・・
〔実施例〕・・・・・繋ぎ側部分24,26は,配管カバー用エルボ16の周方向における外側湾曲
部18の端部に一端側を固定される板金から成り,それら板金は繋ぎ合わせ前の状態ではほぼ
真っ直ぐに延びている。・・・・・繋ぎ側部分24は,端部において3回折り返されて,嵌入溝28
を形成する。・・・・・〔考案の効果〕・・・・・配管カバー用エルボによる被覆作業では工具や工具に
よる加工を必要とせず,嵌入のみでワンタッチで繋ぎ合わせることができるので,作業能率が
向上する。・・・・・」
また,甲5刊行物の第1図及び第2図には,実施例として,本件考案の第1の結
合板,第2の係合板及び係合片に相当する「繋ぎ側部分24の端部において3回折
り返された」部分がすべて同一幅であることが看て取れる。
上記認定によれば,甲5刊行物に係る考案は,繋ぎ側部分の一方に嵌入溝をあら
かじめ形成しておくことによって,配管カバー用エルボによる配管の被覆作業時に
おいて,嵌入溝を形成するための折り曲げ作業を不要とすることにあり,繋ぎ側部
分の端部がすべて同一の横幅で一定であることを看て取ることはできるものの,繋
ぎ側部分の端部の幅を部分ごとに変えて各々を一定の横幅とすることについては何
ら開示されておらず,その示唆もない。
したがって,審決が「エルボカバーのエルボ結合部を一定の横幅とすること」が
周知技術であると認定したこと自体は誤りではないが,それは本件考案における第
1の結合板,第2の結合板及び係合片の各々が一定の横幅であることに相応するに
すぎない。
イ周知技術の適用
以上のとおり,甲5刊行物から認められる周知技術が,繋ぎ側部分の端部がすべ
て同一の横幅で一定であるという事項にとどまる以上,当該周知事項が,第2の結
合板及び係合片だけを第1の結合板とは異なる(狭い)一定の横幅にするといった
事項に及ぶものとはいえない。そうすると,審決が認定した周知技術は,本件考案
1とは直接の関連性がないものであって,これを先願発明に適用しても本件考案と
実質的に同一となるものではない。
なお,審決が周知技術の例示として挙げたのは甲5刊行物のみであり,本件証拠
上も,第2の結合板及び係合片に相当する部分のみを一定の横幅にする周知技術の
存在を認めるに足りる証拠はない。
(2)小括
以上のとおりであるから,相違点判断に関する審決の判断過程には誤りがあり,
その余の点について判断するまでもなく,取消事由2には理由がある。
4取消事由3(本件考案2及び本件考案3における相違点認定判断の誤り)に
ついて
上記認定判断のとおり,本件考案1についての審決の認定判断には誤りがあるか
ら,本件考案1におけるものと同一の認定判断をした本件考案2及び本件考案3に
おける審決の認定判断にも誤りがある。
したがって,取消事由3は理由がある。
第6結論
以上によれば,原告が主張する取消事由2及び3はいずれも理由があるから,審
決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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