弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成13年9月19日判決言渡
平成13年(ネ)第135号 損害賠償請求各控訴事件(原審・仙台地方裁判所
平成11年(ワ)第1649号平成13年2月22日判決言渡)
主          文
1 第1審被告の控訴に基づき,原判決主文第1,2項を次のとおり変更す
る。
(1) 第1審被告は,第1審原告に対し,金1495万5589円及び
これに対する平成8年7月23日から支払いずみまで年5分の割合
による金員を支払え。
(2) 第1審原告のその余の請求を棄却する。
2 第1審原告の本件控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを3分し,その1を第1審原告
の,その余を第1審被告の各負担とする。
4 この判決は主文第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事          実
第1 当事者の求めた裁判
1 第1審原告の控訴の趣旨
(1) 原判決中第1審原告敗訴の部分を取り消す。
(2) 第1審被告は,第1審原告に対し,金2872万5211円及びこれ
に対する平成8年7月23日から支払いずみまで年5分の割合による金
員を支払え。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも第1審被告の負担とする。
2 第1審原告の控訴の趣旨に対する第1審被告の答弁
(1) 第1審原告の本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は第1審原告の負担とする。
3 第1審被告の控訴の趣旨
(1) 原判決中,第1審被告敗訴の部分を取り消す。
(2) 第1審原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも第1審原告の負担とする。
4 第1審被告の控訴の趣旨に対する第1審原告の答弁
(1) 第1審被告の本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は第1審被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の概要
 本件は,原動機付自転車を運転中に交通事故により負傷した第1審原告が,
加害車両を運転し,これを保有していた第1審被告に対し,自動車損害賠償保
障法(以下「自賠法」という)3条に基づき,当該交通事故により被った損害
賠償として金4710万2937円及びこれに対する事故発生日の平成8年7
月23日から支払いずみまで年5分の割合による遅延損害金を請求して提訴し
たところ,原審が,上記請求額のうち,金1837万7726円及びこれに対
する平成8年7月23日から支払いずみまでの遅延損害金の支払いを求める限
度で第1審原告の請求を認容したので,当事者双方が敗訴部分を不服として控
訴した事案である。
2 争いのない事実,当事者の主張等
 本件における争いのない事実,争点は,次のとおり付加・訂正するほかは,
原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」中の「1 争いのない事
実」,「2 争点」(原判決1頁25行目から同5頁10行目まで)と同一で
あるから,これを引用する。
 原判決3頁3,4行目の「53,111,213円」を「5711万121
3円」と,同4頁末行の「主張している。」を「主張し,当審において新たに,
第1審原告の後遺障害につき,自賠責調査事務所が,頸椎前方除圧固定術後に
残存する左上肢知覚障害,脱力感等の症状があることをもって,局部に頑固な
神経症状を残すものとして自賠責後遺障害第12級12号と判断している点に
つき,その症状の程度は第14級10号の「労働には差し支えないが,受傷部
位には常時疼痛を残すもの」に該当するにすぎない,また,同事務所が,これ
と頸椎前方固定術による脊柱変形の後遺障害(第11級7号)とを合わせて併
合第10級とした認定した判断は重きに失する,さらに第1審原告の後遺障害
自体は時間の経過によって軽快ないし治癒するものである等主張する。」とそ
れぞれ改める。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,第1審原告の本訴請求は,第1審被告に対し,1495万55
89円及びこれに対する平成8年7月23日から支払いずみまで年5分の割合
による金員の支払いを求める限度で正当としてこれを認容すべきであると判断
する。その理由は,次のとおり付加・訂正するほかは,原判決の「事実及び理
由」欄の「第3 争点に対する判断」(原判決5頁11行目から同10頁24
行目まで)と同一であるから,これを引用する。
(1) 原判決5頁12行目から同15行目までを,次のとおり改める。
「1 前記争いのない事実,証拠(原審及び当審における第1審原告
本人,甲1ないし5,7ないし11,12の1,13,14,1
5の1ないし4,16,乙2の6ないし9,13,17,4の2,
5の1ないし3)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実を認め
ることができる。」
(2) 原判決5頁22行目の「平成7年4月」を「平成7年5月」と,同6
頁6行目の「A町方面からB丁目方面に向かう」を「B丁目方面からA
町方面に向かう」とそれぞれ改め,同7頁1,2行目を次のとおり改め
る。
「第1審原告は,上記受傷後,次第に症状が悪化し,右上肢挙上不
可能となり,さらに四肢脱力,両上肢挙上不可能,両手握力低下等
の症状が認められるようになったため,平成9年4月9日に国立仙
台病院脳神経外科で第5,6頸椎前方除圧固定術を受けた。その結
果,両上肢挙上可能となったが,頭部疼痛,脱力感は依然として残
存していた。平成10年7月18日付けの同病院脳神経外科医師C
の診断結果によると,第1審原告にはMRI所見により,頸椎椎間
板ヘルニアが認められ,脊髄が圧迫されているとされ,同人の自覚
症状としては,頸椎付近の触覚,痛覚の低下,左上腕二頭筋等の反
射の低下,頸椎付近の筋力低下,頸部の運動制限(5割程度低下)
が認められるとされた。自賠責調査事務所は,平成11年2月15
日,第1審原告の後遺障害につき,「前記頸椎前方固定術について
脊柱に変形を残すものとして後遺障害第11級7号と,同手術後残
存した左上肢知覚障害,脱力感等の症状があることをもって,局部
に頑固な神経症状を残すものとして第12級12号と各判断し,両
後遺障害を合わせて併合第10級と判断した。
 第1審原告は,その後も平成11年5月になって,首の動きが良
くないため,東京医科大学病院整形外科で診察を受け,同月25日
付けの同病院整形外科医師Dの診断結果によれば,頸椎の可動域が
前屈20度,後屈0度,左右屈20度,左右回旋20度と制限され
ており,頸椎の不橈性が認められ,改善のためリハビリが必要であ
るとされている。また,第1審原告は,現在も首が回しにくく,雨
の日などに首が痛んだり,重いものを持つ作業には困難を伴うとい
うような自覚症状を訴えている。もっとも,第1審原告は現在リハ
ビリのための通院はしていない。
 第1審被告は,上記自賠責調査事務所が,頸椎前方除圧固定術後
に残存する左上肢知覚障害,脱力感等の症状をもって局部に頑固な
神経症状を残すものとして第12級12号と判断したが,その症状
の程度は,第14級10号に該当するにすぎない,また,頸椎前方
固定術による後遺障害第11級7号と合わせて併合第10級とした
同事務所の判断は重きに失する,さらに第1審原告の後遺障害自体
も時間の経過によって軽快ないし治癒するものである旨主張する。
 しかしながら,上記認定の事実によれば,第1審原告の後遺障害
である,頸椎椎間板ヘルニア,及びそれによる脊髄の圧迫はMRI
所見によっても認められる身体組織の障害というべきであり,また,
頸椎の可動域の制限や時によって生じる疼痛も上記機能障害に基づ
くものと認められるうえ,第1審原告には重いものを持つことが困
難である等の労働をするうえでの障害も生じているのであるから,
これらを総合して自賠責後遺障害併合第10級とした自賠責調査事
務所の判断が重きに失するということはできない。また,第1審原
告の後遺障害が時間の経過によって軽快ないし治癒するものである
と認めるに足りる証拠もない。結局,第1審被告のこの点について
の主張は採用できない。
 なお,第1審被告が当審において提出した乙6(医師Eの意見書)
中には,第1審原告の脊椎変形の後遺障害は単なる変形障害であり,
労働能力喪失期間は認められない,その神経症状は第14級10号
程度であり,労働能力喪失期間は手術後3年程度であるとする,第
1審被告の主張に副う部分がある。しかしながら,同意見書は,第
1審原告を直接診断せず,また,MRIやレントゲンによる写真等
も参照した形跡がなく,その信頼性に疑問があり,たやすく採用す
ることはできない。」
(3) 原判決7頁6行目から同10行目までを,次のとおり改める。
「(8) 第1審原告は,平成11年3月24日東北学院大学卒業後,
人文知識,国際業務という在留資格で在留許可を受けており,
現時点での在留期間は2001年3月25日から2004年
3月24日までとなっている。
 第1審原告は,平成11年3月に同大学を卒業後,茨城県
の野菜輸出入関係の会社に就職し,同社の工場で働いていた
が短期間で辞めて,平成11年8月ころから東京都品川区内
のF株式会社に就職し,輸入したテープ等の商品の入った荷
物の運搬,上げ下ろし,在庫管理等の仕事に従事し,月額2
5万円の給料(甲11)を得ている。また,同社では,会社
の規定に従い年2回賞与が支払われることになっているが,
現在のところは支払われていない。
 第1審原告は,現在,肩書住所地において,中国籍の妻と
同人との間の子1人と生活し,将来は永住権を得て,できれ
ば日本に帰化したいと希望している。一方,第1審原告は,
来日後8年近く日本に滞在しているが,日本語による会話は
堪能とはいえず,日本語の理解力は不十分であり,また,日
本で大学の卒業資格を得てはいるが,格別の専門的な技能や
知識を有しているとまでは認められない。」
(4) 原判決9頁14行目から25行目までを次のとおり改める。
「(8) 傷害慰謝料
 前記事実関係によれば,第1審原告は,本件事故により,
頭部外傷,頸椎捻挫,頸椎椎間板ヘルニア,全身打撲の傷害
を被り,入院延べ2か月,通院1年7か月の治療を要したこ
とが認められ,その傷害の内容,程度に照らせば,その傷害
慰謝料は200万円が相当である。
(9) 逸失利益について
 前記事実関係によれば,第1審原告は,労働能力の27パ
ーセントを喪失したこと,今後,在留期間を更新し,できれ
ば永住許可をとるなどして,将来にわたって所得水準の高い
日本で働いて生活することを希望していること,また,第1
審原告の生活歴等からみてその蓋然性の高いことが認められ
る。
 もっとも,第1審原告の今後の収入を検討するにあたって
は,前記事実関係のとおり,日本の大学の卒業資格を有して
いるとはいえ,格別の専門的な技能や知識を有しているとは
認められず,また,日本語の会話能力は未熟であり,専門性
を要する業務に就くことは容易ではないと思料されるところ,
実際にも,単純作業に近い作業現場での労働に従事した実績
しかないことを考慮すると,形式的に大学卒業者の平均年収
を根拠に逸失利益を算出することは相当ではない。
 したがって,第1審原告の逸失利益を算定するに当たって
は,賃金センサス平成8年男子大学卒年齢平均680万96
00円から2割を減じた額を基本として,平成11年3月2
4日の大学卒業時から67歳までの33年間につきライプニ
ッツ係数16.0025を用いて逸失利益を算出すべきであ
る。そうすると,第1審原告の逸失利益は2353万765
4円となる。
(計算式)6,809,600×0.8×0.27×16.0025=23,537,654円」
(5) 原判決10頁8,9行目の「A町方面からB丁目方面に向かう」を「
B丁目方面からA町方面に向かう」と改め,同17行目から24行目ま
でを次のとおり改める。
「(12)弁護士費用について
 前記(1)ないし(10)のとおり認められる損害額合計
3200万9874円に前記治療費172万4219円を加
えた損害の合計は3373万4093円であるのに対し,そ
こから前記(11)の過失相殺による30パーセント分を控
除すると2361万3865円が残り,そこからさらに既払
分1000万8276円を控除すると1360万5589円
が残る。
 そうすると,上記1360万5589円の10パーセント
以内である135万円を本件と相当因果関係ある弁護士費用
としての損害と認めることができる。
(13) 第1審原告の被った損害額
 第1審原告が本件交通事故により被った損害額の合計は前
記(12)に算出した1360万5589円に弁護士費用1
35万円を加算した合計1495万5589円となる。」
2 以上によれば,第1審原告の本訴請求は,第1審被告に対して1495万5
589円及びこれに対する事故発生日である平成8年7月23日から支払いず
みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で認容す
べきであり,その余は失当として棄却すべきであるから,第1審被告の控訴に
基づきこれと一部異なる原判決をこの趣旨に変更し,第1審原告の本件控訴は
理由がないから棄却することとする。
 よって,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法67条2項,64条,61条を
  適用し,仮執行の宣言につき,同法259条1項を適用して,主文のとおり判
  決する。
仙台高等裁判所第三民事部
裁判長裁判官喜多村 治 雄
裁判官小 林   崇
裁判官片 瀬 敏 寿

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛