弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月末日までの事業年度分の法人税
につき、被告が昭和五八年六月二三日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定
のうち、所得金額を二四億六〇九三万九三五七円として計算した額を超える部分を
取り消す。
2 原告の昭和五五年四月一日から昭和五六年三月末日までの事業年度分の還付金
につき、被告が昭和五八年六月二九日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定
のうち、欠損金の額を五億九九一九万四一七三円として計算した額に満たない部分
を取り消す。
3 原告の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月末日までの事業年度分の法人税
につき、被告が昭和五八年六月二九日付けでした更正(昭和五八年九月末日付けで
した減額更正後のもの)及び過少申告加算税賦課決定(昭和五八年九月末日付けで
した減額変更決定後のもの)のうち、所得金額を四億九八〇〇万八八五八円として
計算した額を超える部分を取り消す。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月末日までの事業年度(以下「昭
和五五年三月期」という。)、昭和五五年四月一日から昭和五六年三月末日までの
事業年度(以下「昭和五六年三月期」という。)及び昭和五六年四月一日から昭和
五七年三月末日までの事業年度(以下「昭和五七年三月期」という。)(以下、右
の各事業年度を「本件各事業年度」という。)の法人税について、原告のした確定
申告、これらに対する被告の各更正及び各過少申告加算税の賦課決定並びに国税不
服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表一ないし三に記載のとおりである。
2 しかし、請求の趣旨記載の各更正(以下「本件各更正」という。)には、原告
の所得金額を過大に認定した違法があり、本件各更正を前提としてされた請求の趣
旨記載の各過少申告加算税賦課決定(以下「本件各決定」という。)も違法であ
る。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2は争う。
三 被告の主張
1 原告の本件各事業年度の所得及びその内訳
原告の本件各更正に係る各事業年度の所得金額(欠損金額)及びその内訳は、次の
とおりである(ただし、△はマイナスを表す。)。
(一) 昭和五五年三月期
(1) 申告所得金額                           
 二四億四七一七万三七四五円
(2) 福利厚生費中損金不算入額                     
      一五万七二九六円
(3) 減価償却超過額                          
      五〇万九二五九円
(4) 期末為替換算差損中損金不算入額                  
      三〇万三〇五〇円
(5) 売上計上漏れ                           
      七五万六六七八円
(6) 仕入過大計上額                          
    一三二八万一四一五円
(7) 受取配当益金不算入過大額                     
     二九一万二八九八円
(8) 特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入額        
    二七二八万六四八六円
(9) 加算額合計(右の(2)ないし(8))               
    四五二〇万七〇八二円
(10) 貸倒引当金繰入超過額認容                    
       一万一九九六円
(11) 価格変動準備金積立超過額認容                  
     三七二万一六六七円
(12) 前受金認容                           
      一八万六六〇一円
(13) 事業税認定額                          
      二三万四七二〇円
(14) 減算額合計(右の(10)ないし(13))            
     四一五万四九八四円
(15) 所得金額(右の(1)+(9)-(14))            
 二四億八八二二万五八四三円
(二) 昭和五六年三月期
(1) 申告所得金額                           
 △六億〇二一九万八四三六円
(2) 受取配当益金不算入過大額                     
     三三〇万三一八三円
(3) 特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入額        
  一億六六五八万八三九八円
(4) 加算額合計(右の(2)及び(3))                
 
 一億六九八九万一五八一円
(5) 事業税認定損(一)                        
      二九万八九二〇円
(6) 事業税認定損(二)                        
     三二七万四三二〇円
(7) 減算額合計(右の(5)及び(6))                
     三五七万三二四〇円
(8) 所得金額(右の(1)+(4)-(7))              
 △四億三五八八万〇〇九五円
(三) 昭和五七年三月期
(1) 申告所得金額                           
  四億八二二六万〇〇四二円
(2) 特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入額        
  一億〇九一四万四九七九円
(3) 雑収入計上漏れ                          
    一四七三万六〇二七円
(4) 交際費等の損金不算入額                      
     一〇三万四五〇一円
(5) 加算額合計(右の(2)ないし(4))               
  一億二四九一万五五〇七円
(6) 減算額(交際費等の損金不算入額認容)               
       二万一七一二円
(7) 所得金額(右の(1)+(5)-(6))              
  六億〇七一五万三八三七円
2 タックスヘイブン課税とその適用除外要件
(一) 租税特別措置法(昭和六〇年法律第七号による改正前のもの。以下「措置
法」という。)六六条の六第一項は、内国法人等が租税の軽課税国(タックスヘイ
ブン)に子会社等を設立して租負担を不当に回避することを防止するため、タック
スヘイブンに本店等を有する特定外国子会社等の発行済株式等を一定割合以上保有
している内国法人等について、特定外国子会社等の各事業年度に係る未処分所得の
金額から留保したものとして政令(同法施行令三九条の一五第一項)で定める金額
(以下「適用対象留保金額」という。)のうち、右内国法人の有する当該特定外国
子会社等の保有株式等に対応するものとして政令(同条二項)で定めるところより
計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。
)を右各事業年度終了の日以後二月を経過した日を含む右内国法人の各事業年度の
所得の金額の計算上益金の額に算入する旨規定している(以下、この規定による課
税を「タックスヘイブン課税」という。)。
(二) ところで、同条三項は、特定外国子会社等が、次に掲げる要件(以下「適
用除外要件」という。)のすべてを充足している場合には、右のタックスヘイブン
課税に関する規定を適用しないものとしている。
(1) その事業が株式(出資を含も。)若しくは債権の保有、工業所有権等若し
くは著作権等の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たるものとしていないこ
と(以下、これを「非持株会社等基準」という。)
(2) その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(以下「本店所在地国」
という。)において、その主たる事業を行うのに必要と認められる事務所、店舗、
工場その他の固定施設を有していること(以下、これを「実体基準」という。)
(3) 本店所在地国において、その事業の管理、支配及び運営を行っていること
(以下、これを「管理支配基準」という。)
(4) その主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業及び
航空運送業である場合には、その事業を主として同法四〇条の四第一項各号、同法
六六条の六第一項各号及び同法施行令三九条の一六第三項各号の定める関連者以外
の者との間で行っている場合として政令(同法施行令三九条の一六第四項)で定め
る場合に該当すること(以下、これを「非関連者基準」という。)
(5) その主たる事業が右(4)以外の事業である場合には、その事業を主とし
て本店所在地国において行っていること(以下、これを「所在地国基準」とい
う。)
(6) 他の特定外国子会社等から受ける利益の配当又は剰余金の分配の額(ただ
し、同法六六条の六第一項の規定の適用による事業年度の未処分所得金額から充て
られたものに限る。)が、各事業年度の総収入金額の五パーセントを超えていない
こと(以下、これを「配当基準」という。)
3 原告の本件各事業年度における特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益
金算入
(一) 大蔵大臣から軽課税国として指定されている香港に本店を有するATAK
A LUMBER HONGKONG LIMITED(安宅木材有限公司。以下
「ALH社」という。)は、その発行済株式のすべてを内国法人である原告に保有
されていたから、措置法六六条の六第一項に規定する原告に係る特定外国子会社等
に該当する。
(二) ALH社は、木材の卸売業を営んでいたが、以下に述べるとおり、前記の
タックスヘイブン課税の規定の適用除外要件の内の管理支配基準を充足していなか
った。
すなわち、措置法六六条の六第三項の管理支配基準の充足の有無の判定に当たって
は、その特定子会社等の株主総会及び取締役会等の開催、役員としての職務の執
行、会計帳簿の作成及び保管等が行われている場所並びにその他の状況を勘案の上
判断されるべきところ、本件では、次のような事実があったから、ALH社がその
本店所在地国である香港においてその事業の管理支配及び運営を自ら行っていると
はいえないものであった。
ア ALH社の業務執行に関する重要な意思決定機関である取締役会及び株主総会
は、すべて原告の本店所在地において開催されていた。
イ ALH社の取締役四名は、いずれも原告の取締役を兼任しており、また、AL
H社に常勤している取締役はA一名だけであった。
ウ ALH社が買い付ける南洋材の売買の取引条件の決定、輸送、クレームの処理
などはすべて原告が行い、ALH社は、原告の指示に従い、外形的に契約の当事者
となって右南洋材の売買契約を締結し、代金の決済、差金と称する金員の支払及び
融資に伴う諸手続を行っていたに過ぎない。
エ 原告は、ALH社の原木の輸出業者(以下「シッパー」という。)に対する前
渡金又は貸付金及び船積みごとの取引金額等すべての取引内容をノートに記帳し、
各シッパーごとの債権債務を管理していた。
オ ALH社の役員の人事は、すべて原告の取締役会で審議され、決議されてお
り、その取締役会には、ALH社の現地駐在取締役Aは出席していなかった。
カ ALH社の現地駐在取締役Aの給与改訂が原告の社内の稟議で決定されてい
た。
キ ALH社の事務所の借り換えに係る許諾、新事務所の内装の内容及び予算、新
事務所の披露等について、その都度ALH社から原告に対して稟議の申し出があ
り、原告のもとで決定されていた。
ク 原告は、ALH社が原告以外の者との木材取引によって得た利益から「ノーハ
ウ利用料」の名目で金員を得ていた。
(三) (1)仮に、ALH社が卸売業ではなく原告主張のとおりサービス業を営
むものであったとしても、ALH社は、やはり右管理支配基準を充足していなかっ
た。
すなわち、原告の南洋材の取引にALH社を介在させるか否かは南洋材の輸入業務
にとって不可欠の条件ではなく、本件で原告がALH社を介在させてシッパーに対
するサービスを行わせていたのは、原告がシッパーの要望に応えてALH社をして
そのようなサービスを行わせていたに過ぎないものである。また、ALH社の行う
サービス業務の内容は、いずれも原告とシッパーとの間で取り決められる木材輸入
契約の内容により自動的に確定し、定型的に処理できるものばかりであった。
したがって、ALH社が原告から独立して行う業務というものは全く存在しなかっ
たというべきであり、ALH社が本店の所在する香港でその事業の管理、支配及び
運営を自ら行っていたものとはいえない。
(2) また、ALH社がサービス業を営もものであったとした場合、同社は所在
地国基準をも充足していなかった。
すなわち、措置法六六条の六第三項二号に定める所在地国基準の趣旨とするところ
は、特定外国子会社等がその本店所在地国において資本投下を行い、その地の経済
と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地(本店所在地国)に本店
を置く経済的合理性があることとなるから、そのような場合については、タックス
ヘイブン課税の規定を適用しないとするものである。
しかし、原告の主張によれば、ALH社は、香港に本店を置いて原告の南洋材輸入
に関するサービス業務を行っていたものであるとするが、右サービスの提供先は原
告及びシッパーであり、原告は日本国に本店を有し、シッパーはジャカルタ、サン
ダカン、ミリ等に居住するものであることからすれば、ALH社はその本店所在地
国である香港の経済と密接に関連して事業活動を行っていたとは認められず、した
がって香港に本店を置く経済的合理性はないこととなる。
そうすると、ALH社がサービス業を営もものであるとしても、所在地国基準を充
足していなかったというべきである。
(四) 結局、いずれにしても、ALH社については、前記のタックスヘイブン課
税規定の適用除外要件が充たされていなかったこととなるから、タックスヘイブン
課税規定が適用されることとなるところ、その本件各事業年度の適用対象留保金額
(原告はALH社の全株式を保有しているので、その全額が課税対象留保金額とな
る。)を措置法施行令三九条の一四第一項の規定に基づいて計算すると、次のとお
りとなる。
(1) 昭和五五年三月期
(税引後当期利益)(減価却超過額)(法人税等引当金)(未処分所得)
521.964+2.839.50+108.000=632.803.50(香
港ドル)
円換算=632、.803.50(香港ドル)×43.12円(為替換算レ-トT
TM)=27.286.486円
(2) 昭和五六年三月期
(税引後当期利益)(減価償却超過額)(法人税等引当金)(未処分所得)
3.025.757+599.37+620.500=3.646.856.37
(香港ドル)
円換算=3.646.856.37(香港ドル)×45.68(為替換算レ-トT
TM)=166.588.398円
(3) 昭和五七年三月期
(税引後当期利益)(減価償却超過額)(法人税等引当金)(適用対象留保金額)
2.223.115+3.608.54+434.700=2.661.423.
54(香港ドル)
円換算=2.661.423.54(香港ドル)×41.01円(為替換算レ-ト
TTM)=109.144.979円
4 本件各処分の適法性
よって、原告の本件各事業年度の法人税につき、それぞれ右の特定外国子会社等に
係る課税対象留保金額を益金に算入して算出した前記の各所得金額に誤りはなく、
これを前提とした本件各更正及び国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前
のもの)六五条一項の規定に基づく本件各決定も適法である。
四 被告の主張に対する原告の認否
1 (一)被告の主張1一(一)のうち、(8)の金額を加算すべきであることは
争い、その余は認める。したがって、(9)の加算額合計は一七九二万〇五九六円
であり、(15)の所得金額は二四億六〇九三万九三五七円である。
(二) 被告の主張1(二)のうち、(3)の金額を加算すべきであることは争
い、その余は認める。したがって、(4)の加算額合計は三三〇万三一八三円であ
り、(8)の所得金額は、△六億〇二四六万八四九三円である。
(三) 被告の主張1(三)のうち、(2)の金額を加算すべきことは争い、その
余は認める。したがって、(5)の加算額合計は一五七七万〇五二八円であり、
(7)の所得金額は四億九八〇〇万八八五八円である。
2 被告の主張2は認める。
3 (一)被告の主張3(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の事実のうち、アないしクの事実は認めるが、ALH社が木材の
卸売業を営んでいるとの事実は否認し、また同社が香港において自らその事業の管
理支配を行っていないとの主張は争う。
(三) (1) 同(三)(1)の主張は争う。
(2) 同(三)(2)の主張は争う。
(四) 同(四)の事実のうち、被告主張の各金額及び計算結果は認めるが、AL
H社について適用除外要件が充たされていないこと及び右の課税対象留保金額を原
告の益金に加算すべきであるとの主張は争う。
4 同4は争う。
五 原告の主張
ALH社は、次のとおり、措置法六六条の六第三項に規定する管理支配基準あるい
は所在地国基準を充たしていた。
1 管理支配基準について
(一) ALH社の主たる業務は、原告が東南アジア諸国で原木の買付けを円滑に
行うことができるようにシッパーからの要請に応じた種々のサービスを提供するこ
とにあり、その具体的な業務内容は、原告の東南アジア諸国からの南洋材買付けに
当たっての売買契約書の作成、シッパーへの融資、信用状の開設・決済、船積み書
類の作成・受領・決済等の貿易・金融に関するサービス業務及びこれらの業務に関
連してALH社を訪れるシッパーへの対応、シッパーへの情報提供等の付随業務で
あった。そして、原告が右の南洋材の買付けを円滑に行うためにはALH社を香港
に設置せざるを得ない経済的合理性が存していたものである。
(二) ALH社は、右サービス業務に係る事業計画を自ら決定し、香港におい
て、常勤取締役Aを中心にその独自の判断でこれを実行していたものであり、AL
H社が、同社の事業の管理支配運営を自ら行っていたことは、次の諸点から明らか
である。
ア ALH社は、定期に株主総会を開催して、重要事項の決議、承認の手続を履践
し、必要に応じて取締役会を開催し、業務運営の重要事項の審議決定を行い、これ
らの議事録を作成保管していた。
イ ALH社は、香港に賃借事務所を設置し、ALH社専任の常勤取締役であるA
がその裁量で固有の従業員を雇用し、これを指揮監督して業務を遂行し、会計帳簿
に記録して保管し、自ら税務申告を行い、住友銀行香港支店に固有の口座を設けて
金銭の出納を行わせていた。
ウ ALH社は、原告との間では、サービス契約を締結して受託事務の内容、受託
事務に対する報酬算定基準を明確化し、契約条項を厳格に履践、実行していた。
(三) なお、ALH社の取締役会及び株主総会の開催場所が原告の本店所在地で
あること、ALH社の取締役全員が原告の取締役を兼ねていること、ALH社の常
勤取締役が一名に過ぎないことは、子会社においては常態ともいうべき事態であっ
て、これによって管理支配が否定されるとすれば、およそ子会社については管理支
配基準を充足することはなくなるものといわなければならない。また、ALH社の
業務は、原告の木材輸入の取引に必要なサービスを提供することにあり、貿易取引
の実質的主体は原告であるから、取引に必要な書類の作成、代金の決済、融資に関
する手続をALH社が原告の指示に従って行い、また、輸入船積みの手続、クレー
ム処理、シッパーに対する債権債務の管理を原告が行っているのは当然のことであ
る。
2 所在地国基準について
(一) ALH社は、香港に事務所を設け、同事務所において原告あるいはシッパ
ーとの間で電信を授受し、これらに基づいて原告の貿易関連契約書を作成し、株式
会社住友銀行香港支店に対して貿易関連信用状の開設の依頼をし、同支店を通じて
輸入代金の授受決済ないしシッパーに対する各種金融をし、同支店を通じて差金の
保管、授受等のスイッチ業務を行っていたから、所在地国基準を充たしている。
(二) 被告は、ALH社が香港の経済と密接性がないとして所在地国基準を充た
していなかったと主張するが、措置法六六条の六第三項二号では、特定外国子会社
の業務とその所在地国の経済との密接性は要求されておらず、仮にそれを要求する
趣旨が含まれているとしても、それは特定外国子会社を設置する経済的合理性の一
徴憑として考えられるべきである。そして、ALH社を香港に設置すべき経済的必
要性として次のような点が存在していた。すなわち、原告は、従前南洋材の輸入に
ついてもATAKA LUMBER AMERICA INC(以下「ALA社」
という。)からサービス業務の提供を受けていたが、同社はアメリカ合衆国ポート
ランドに所在するため、東京との間では、一七時間の時差があり、メール日数は二
日を要し、これらの点は、商機の獲得ないし為替相場変動時における為替損の回
避、原告との緊急連絡、南洋材のシッパーの便宜の点から問題であった。これに対
し、香港は、東京との時差は一時間であり、メール日数は一日と、地理的に優れて
いる。また、南洋材のシッパー主宰者の大部分は中国系の華僑であって、その大部
分が香港に拠点を置いているため、頻繁に香港を訪れることから、香港においてシ
ッパー主宰者から情報等を引き出せたり、シッパー主宰者を招宴して意思疎通を行
うのに好都合であるという事情があったのである。
六 原告の主張に対する被告の認否
1 原告の主張五の柱書の主張は争う。
2 同1(一)の事実は否認する。ALH社は南洋材の貿易業を営む会社である。
同1(二)の事実のうち、ALH社が会計帳簿を保管していたこと、株主総会及び
取締役会が原告の本店所在地である東京で開催されていたことは認めるが、その余
の事実は否認する。
同1(三)の主張は争う。
3 同2のうち、ALH社が香港に事務所を設け、住友銀行香港支店を取引銀行と
していた事実は認め、その余の事実は知らない。その主張は争う。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 被告が本件各更正及び本件各決定をしたこと及び原告の本件各事業年度におけ
る所得金額の計算の基礎となる各項目のうち被告主張の特定外国子会社等に係る課
税対象留保金額を益金に加算すべきであるとの点を除く部分が被告主張のとおりで
あることについては、いずれも当事者間に争いがない。
二 1本件の争点は、専ら、被告主張の特定外国子会社等に係る課税対象留保金額
を原告の各事業年度の益金に算入すべきか否かの点にあるところ、原告が大蔵大臣
から軽課税国として指定されている香港に本店を有するALH社の発行済株式のす
べてを保有しており、同社が原告に係る措置法六六条の六第一項所定の特定外国子
会社等に該当することについては当事者間に争いがないから、以下、ALH社がタ
ックスヘイブン課税規定の適用除外要件を充たしていたかどうかを検討する。
2 措置法六六条の六第三項の規定によれば、タックスヘイブン課税規定の適用が
除外されるためには、特定外国子会社等が非持株会社等基準、実体基準、管理支配
基準、所在地国基準(特定外国子会社等の主たる事業が卸売業等である場合には、
非関連者基準)及び配当基準のすべてを充足することが必要であり、右基準のいず
れか一つでも充足していない場合はタックスヘイブン課税に関する規定が適用され
るものとされているところ、本件では、まず、ALH社が右の管理支配基準を充た
していたか否かが争われているので、この点について判断することとする。
(一) そもそも、前記のようなタックスヘイブン課税の適用除外規定は、特定外
国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その所在地国で事業活動を行う
ことにつき十分な経済的合理性がある場合にまでタックスヘイブン課税規定を適用
することは、我が国企業の正常な海外投資活動を阻害する結果を招くことになるの
で避けるべきであるとの趣旨で設けられたものと解されるから、右の管理支配基準
は、右のような場合に当たるかどうかを事業の管理運営の面から判断する基準をい
うものと考えられる。したがって、右の基準を充足しているといえるか否かは、当
該外国子会社等の重要な意思決定機関である株主総会及び取締役会の開催、役員の
職務執行、会計帳簿の作成及び保管等が本店所在地国で行われているかどうか、業
務遂行上の重要事項を当該子会社等が自らの意思で決定しているかどうかなどの詣
事情を総合的に考慮し、当該外国子会社等がその本店所在地国において親会社から
独立した企業としての実体を備えて活動しているといえるかどうかによって判断す
べきものと解される。
ところで、本件各事業年度においてALH社の行っていた主たる事業が卸売業ある
いはサービス業のいずれの範疇に属するものと見るべきかについては、当事者間に
争いがあり、原告は、ALH社の行っていた事業が貿易関連のサービス業に当たる
ものであるとし、そのような事業内容を前提とすれば、ALH社を香港に設置する
ことには十分な経済的合理性が認められ、また、ALH社がその本店所在地国たる
香港においてその業務に対する管理、支配を行っていたこととなるから、右の管理
支配基準が充足されていたと主張する。しかしながら、措置法六六条の六第三項の
規定の文言からすれば、少なくとも管理支配基準を充足しているか否かの判断に関
する限りでは、ALH社の業務が卸売業とサービス業のいずれに該当するかという
ことは、直接的にはさほど決定的な意味を持たないものというべきである。すなわ
ち、同項の規定からすれば、この管理支配基準を充たし本店所在地国で独立した企
業の実体を備えて事業活動を行っていると見られる特定外国子会社等であっても、
その行う事業の内容に応じて要求される非関連者基準や所在地国基準を充たしてお
らず、所在地国に本店を置く経済的合理性が認められない場合には、なおタックス
ヘイブン課税の規定が適用されることとなっており、他方、本店所在地国で事業活
動を行うことに十分な経済的合理性が認められる場合であっても、およそ管理支配
基準が充たされていない限り、なおタックスヘイブン課税規定が適用されることに
なっているのである。このような規定の仕方からすれば、同項にいう管理支配基準
は、当該特定外国子会社等の業務の種別とは一応無関係に、その子会社等が独立企
業としての実体を備えて、その本店所在地国において、自らの決定、判断に基づい
てその事業の管理、支配及び運営を行っていると見られるか否かを問題としている
ものと考えるのが相当である。したがって、本件においてALH社がこの管理支配
基準を充足していたか否かも、ALH社が親会社たる原告の管理支配を離れ実質的
に原告から独立した法人としての立場で本店所在地国たる香港においてその事業活
動を行っていたと見られるか否かを、その事業活動の実態に即して直載に判断すれ
ば足りるものと考えられる。
(二) 成立(甲二号証については原本の存在を含む。)に争いがない甲二号証及
び乙一五号証の一、証人Aの証言により成立が認められる甲一号証、証人Bの証言
により成立が認められる同三号証、証人A及び同Bの各証言並びに弁論の全趣旨に
よれば、原告によるALH社設立の経緯等は次のようなものであったことが認めら
れる。
(1) 原告は、マレーシア、インドネシア、フイリッピン等東南アジア諸国のシ
ッパーとの間で継続的に南洋材の取引を行っている者であるが、これらの国のシッ
パーは、自国による為替管理が厳しく、資金の海外持ち出しが不自由であること、
使途を公にしたくない資金を海外に貯留し、かつ、課税所得を低く押さえようとす
ることなどの理由から、輸出代金の一部(以下、これを「差金一という。)を海外
に貯留することを希望することが多く、また、原告の方で南洋材の買付けを有利に
進めるためには、これらのシッパーに対して金融の便の供与を行う必要があった。
しかし、我が国の為替管理の状況からして、原告自身が直接シッパーの右のような
要請に応えることが困難であったため、原告は、為替管理の緩やかな第三国の法人
等を介してシッパーとの間での南洋材取引の代金の決済を行ういわゆるスイッチ取
引及び金融サービスを行う必要があった。
(2) 原告は、従前、右のようなスイッチ取引等を同社の子会社でアメリカ合衆
国ポートランドに本店を置くALA社を通して行っていたが、同社は東南アジア詣
国のシッパーとの南洋材取引に関しては地理的に不便な場所にあったので、東京と
の時差が少なく為替管理も緩やかで東南アジアのシッパーの主体である華僑の事業
の拠点でもある香港にALH社を設立することとし、昭和五三年七月七日、ALH
社を設立した。
ALH社は、設立時から昭和五九年八月までの間は、香港セントラル、ドウボーロ
ード六所在の広東銀行ビル二〇階の一部(約二〇坪)を、同年九月以降は香港セン
トラル、クイーンズロード一五所在のエデインバータワー一七階の一部(約四〇
坪)を賃借して事務所を開設し、本件各事業年度当時は、常勤取締役Aのほか現地
採用の従業員二名がそこに勤務していた。
(三) また、前掲の甲一号証、原本の存在及び成立に争いがない乙三号証及び同
四号証、証人Aの証言により成立が認められる甲四号証の一及び二、同五号証の一
及び二、同六号証の一ないし五、同七号証、同八号証の一ないし四、同九号証、同
一〇号証、同一一号証の一ないし四並びに同一二号証の一ないし三並びに証人A及
び同Bの各証言によれば、ALH社の行っていた事業の内容等は次のようなもので
あることが認められる。
(1) ALH社は、原告の南洋材の取引について、専ら原告がシッパーと交渉し
て取り決めた内容に従い、自らが右取引の形式上の買主となってシッパーとの間で
売買契約を締結し、これに関する信用状の条件により必要とされる送り状、輸出許
可状、原木明細書、船荷証券その他の関連書類にも買主としての名義を提供して、
取引に必要な書類を整え、更に、原告の指示に従って代金支払のための信用状の決
済を行っていた。その際、原告とシッパーとの間で取り決められた差金について
は、その支払を留保しておき、後日、シッパーの要請に基づく原告の指示があり次
第、これをシッパーに交付していた。
(2) 更に、ALH社は、原告の南洋材の輸入取引を有利に行うため、住友銀行
香港支店からレッドクローズ信用状の開設を受け、これをもってシッパーに対して
輸出前貸金融(木材集荷資金等に係る短期金融)の便を供与し、また、同支店から
スタンドバイクレジットの発行を受け、これをもってシッパーに対して輸出関連中
長期金融の便の供与を行っていた。
(3) ALH社は、シッパーから買い付ける南洋材について形式的に自らが買主
となることから、原告に対しては更にこれを転売する形を取り、したがって、AL
H社の会計処理上も、シッパーから南洋材を仕入れて原告に売却したような処理を
していた。
しかし、シッパーとの間での南洋材の取引の交渉及び契約内容の決定のほか、右の
取引に係る南洋材の輸送、クレームの処理などは、専ら原告が独自に行い、また、
ALH社のシッパーに対する代金の支払についても、すべて最終的には原告がこれ
を負担し、前渡金、貸付金及び船積みごとの取引金額などシッパーに対する債権債
務も原告において管理していた。
(4) ALH社と原告との間では、右のような一連の事務処理に対する対価とし
て原木FOB価格の一・五パーセント相当の手数料を原告からALH社に支払う旨
の基本契約が結ばれ、これに基づいて、各取引ごとに右金員が原告からALH社に
支払われていた。
(5) また、ALH社は、原告の指示に従って、原告が自ら買主にはならないで
シッパーから買い入れて第三者に転売することとした南洋材の取引についても、原
告に代わって形式上の契約当事者となり、前記(1)及び(2)と同様の事務を行
って原告からこれに対する手数料相当額の対価を得ていた。
(四) 更に、ALH社の業務執行に関する重要な意思決定機関である取締役会及
び株主総会は、ALH社の本店所在地である香港ではなく、 すべて原告の本店所
在地において開催されていたこと、ALH社の取締役四名は、いずれも原告の取締
役を兼任しており、ALH社に常勤の取締役はA一名だけであったこと、ALH社
の役員の人事は、すべて原告の取締役会で審議され、決議されていたこと、右Aの
給与改訂が原告の社内の稟議で決定されていたこと、本件各事業年度以降の出来事
ではあるが、ALH社は、その事務所の借り換えに係る許諾、新事務所の内装の内
容及び予算についての承認、新事務所の披露等について、その都度、原告に対して
稟議を申し出て、その決定を得ていたことについては、いずれも当事者間に争いが
なく、しかも、成立に争いがない乙一五号証の一ないし三によれば、右の事務所の
借り換え、新事務所の内装及びその披露晩餐会の開催についての稟議の内容には、
これらに要する費用額を示してこれに対する予算について原告の承認を求める趣旨
が含まれていたことが認められる。
(五) 右の(二)ないし(四)で認定した各事実を総合すると、ALH社は、取
締役会や株主総会による同社の重要な意思決定を専ら原告の本店所在地で行い、役
員も全員が原告との兼務であってA以外はALH社には常勤しておらず、ALH社
の役員の選任など人事に関する事項から新事務所の内装、披露晩餐会の開催等に至
るまでの各種のALH社の事務処理の方針を原告において最終的に決定し、また、
これらに要する費用の支出についてもALH社では独自のその支出を決定するので
はなく原告の決済を仰ぐといった方法で、その事業の管理、運営を行っていたもの
と考えられる。しかも、ALH社の業務の範囲やその具体的な内容自体も、専ら原
告が自らの決定、判断によって各シッパーとの間で行う南洋材の取引によっていわ
ば自動的に決定されてくるという仕組みになっており、ALH社の独自の判断によ
ってこれを決定するというものではなかったものと考えられる。このような事実関
係からすれば、ALH社は、その本店所在地国たる香港において独立した法人とし
ての立場でその事業を自ら管理、支配及び運営していたものとは到底いえず、むし
ろ、その親会社たる原告がその本店所在地国たる我が国においてその管理、支配を
行っていたものといわなければならない。
これに対し、原告は、ALH社の例でも前記のスイッチサービスやシッパーへの金
融などの業務を自ら決定し、香港において常勤取締役Aを中心にこれを実行してい
たのであるから、同社は管理支配基準を充たしていたと主張するが、これらの業務
は、いずれも原告がシッパーとの間で取り決めた輸入契約の内容に従って定型的に
処理されるべき内容のものばかりであり、右業務の遂行上とりたててALH社の独
自の重要な判断等が要求されるものでなかったと解されることは前記のとおりであ
るから、右の主張は採用できない。
また、原告は、株主総会や取締役会が親会社の本店所在地で開催されたり、役員が
親会社の役員を兼務し常勤役員が一名程度であることなどは、いずれも子会社の場
合には常態ともいうべき事態であり、このことを根拠に管理支配基準が充たされて
いないとすることは相当でないと主張する。しかし、措置法六六条の六第三項の規
定は、タックスヘイブン課税規定の適用除外を受けるための要件として、当該外国
子会社等が自らその本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を行っている
ことを要求しているのであり、当該軽課税国に子会社を設立することに経済的な合
理性があり、右のような事態が子会社においては一般に行われているとしても、右
の要件を備えていない限り、タックスヘイブン課税規定の適用を除外しないものと
していることは前記のとおりであるから、原告の右の主張も採用できない。
3 したがって、右のとおり本件各事業年度においてALH社が管理支配基準を充
たしていない以上、その余の点について判断するまでもなく、ALH社の課税対象
留保金額は原告の所得の金額の計算上益金の額に算入されるべきこととなる。そし
て、被告主張の本件各事業年度における原告の特定外国子会社等に係る課税対象留
保金額の基礎となるべき各金額及びその計算結果については当事者間に争いがない
から、原告の本件各事業年度の所得金額の計算において、被告がその主張の金額を
益金に算入すべきものとして本件各更正及び本件各決定を行ったことには、何ら違
法はないものというべきである。
三 よって、原告の本件各請求は理由がないから、これをいずれも棄却することと
し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、
主文のとおり判決する。
(裁判官 涌井紀夫 市村陽典 小林昭彦)
別表一~三(省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛