弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 一 抗告の趣旨及び理由 別記のとおり
 二 当裁判所の判断
 本件の債務名義たる山口地方法務局所属公証人A作成第二三・四四八号限度取引
契約公正証書正本には、債権者たる抗告人を甲とし、債務者たる株式会社六倉石油
店を乙として、つぎの各条項が記載されている。
 第一条 甲は乙に対し、取引限度額を金二〇〇万円と定め、甲の営業にかかる石
油を乙に供給する。
 第二条 取引期間は予めこれを定めない。
 第三条 甲より買い受けた石油代金は、乙の振り出した約束手形をもつて支払
う。ただし、買い入れた日から四五日払の約束手形とすること。
 第四条 乙は後記船舶に甲の承認する会社と二〇〇万円以上の保険契約をなし、
甲を受取人とする証書を甲に交付すること。継続保険もまた同じ。
 第六条 乙が約束手形の支払期間に、その支払を履行しなかつた場合は、その時
において第一条の金二〇〇万円の債務を無因的に負担したものとして、該金額を即
時支払う。
 第七条 乙が債務の履行を怠つた場合は、直ちに強制執行を受けても異議のない
ことを認諾した。 (第八条以下第一五条まであるが省略する。第五条は第一五条
で削除されている。)
 本件公正証書の全規定の中から、第六条のみを分離して抽出し、形式的かつ個別
的に考察すると、本件石油取引上、乙が甲に対し負担する約束手形債務を、その満
期に弁済しないことを停止条件として、甲は乙に対し確定的に二〇〇万円の無因的
請求権を取得する合意が当事者間に成立し、本件公正証書は一応民訴第五五九条第
三号の要件を具備しているかのように見えるけれども、右は正当の見方ではない。
右公正証書第八条の「債務金全額」、第一〇条の「本債務」というのは、第一条第
三条により、乙が甲に対し実際負担する石油取引上の債務を指し、第六条の二〇〇
万円の無因的債務を指すものでないことは疑がなく、したがつてまた、第一〇条を
受ける第一一条及び本公正証書のうち「債務」を意味する文言を有する諸規定たる
第一二条以下第一四条の「債務」も、第一〇条におけると同様に解するを相当とす
る。ところで以上の諸規程と異なり、実際の取引上の債務額のいかんにかかわりな
く、約束手形の満期に不履行あるときは、第一条の限度額二〇〇万円の債務を無因
的に負担したものとして、即時これを支払う旨規定する第六条が前示諸規定中に介
在するのは、根担保設定契約の公正証書は、その債務名義たる要件の一である一定
金額の支払を目的とする具体的請求に関する証書ではないため、債務名義となり得
ないところから、できうれば、これを救済し該証書に執行力を具有させようとして
考案され、挿入されるにいたつたものであることは周知の事実である。とはいうも
のの、公正証書に表示される契約当事者の意思表示は個別的形式的に解することな
く、前後脈絡ある全一体として、事の実体に即して解釈すべきであり、第六条を前
示第八条、第一〇条ないし第一四条の外、第一条ないし第四条と比照の上綜合<要
旨>して観察すれば、要するに第六条は、乙が満期に約束手形債務を弁済しないとき
は、乙は甲に対し石油取引上の限度額たる二〇〇万円の債務を一応無因的に
負担するものとして完済すべきであるけれども、手形債務の額が二〇〇万円に達し
ない場合において、二〇〇万円を皆済したときは、その差額の返還を請求しうると
いう趣旨の条項であつて、直言すれば、同条に「第一条の金二〇〇万円の債務を無
因的に負担したものとして」とは「第一条の金二〇〇万円の債務を無因的に負担し
たものと仮定して」の意に外ならず、本件公正証書に示されている請求は清算をま
つて始めて確定するもので、甲が乙に対し確定的かつ終局的に前記限度全額の請求
権を取得することを示していると解するのは正当でない。したがつて、すでにこの
点において本件公正証書は、債務名義たりえないといわなければならない。
 また、かりに第六条を字義どおりにとつて、実際の約束手形債務の額の多少を問
うことなく、たとえば、その額が極めて少額で限度額との差額が莫大な場合におい
ても、甲は常に乙に対し確定的かつ終局的に限度額二〇〇万円の請求権を取得する
ものとせんか、第六条に表示される当事者の合意は、特別の事情のないかぎり暴利
行為に当り、公序良俗に反し無効というべきであるから、これを取引の実際、実務
の面から考えると、第六条のような合意にたやすく執行証書たるの効力を肯認する
ことは極めて心すべきことである。
 そればかりでなく、第一条ないし第四条に徴し明らかなとおり、本件甲乙間の石
油取引には期間の定めがなく、乙の石油買入の申込に応じて、甲は限度額二〇〇万
円の範囲内で乙に石油を供給し、これに対し乙は買入の日から四五日内の日を満期
とする約束手形を振り出し甲に交付する約定であるから、格別の事情のないかぎ
り、乙は石油取引の都度甲に対し約束手形を振り出し交付すべきであり、従つて取
引の回数多きを加うるにともない、約束手形の通数も増加するのが当外であるか
ら、抗告人所論のように第六条を形式的個別的に観察せんか、もし、初回に満期の
到来しに約束手形の債務不履行あるときは、乙は甲に対しただちに二〇〇万円を即
時に支払うべき債務を負担すべく、さらに第二回目に支払うべき約束手形債務を弁
済せざる場合においては、乙は甲に対しさらに即時に弁済するを要する二〇〇万円
の債務を負担するにいたるべく、かくて、第三・四・五回と債務不履行の回数を重
ねるに従い、たとえ、現実の手形債務の合計額が二〇〇万円に達しないときにおい
ても、乙の負担する債務の合計額は二〇〇力円に債務不履行の回数を乗じて得る積
と同一額になるのであるが、契約当事者がかくのごとき結論になる合意を真面目に
締結したとはほとんど解するに由なく、かりに右のような合意がなされたとすれ
ば、右合意はあるいは暴利行為として無効たるべく、然らずとするも、、いわゆる
二〇〇万円の請求権は初回の債務不履行によるそれであるか、あるいは第二回以後
の債務不履行によつて生じたものであるか公正証書の上において特定せずまた特定
するに由なき規定と解するにおいて、以上いずれの点よりするも、本件公正証書は
一定の金額の支払を目的とする具体的な確定的請求につき作りたる証書(民訴第五
五九条第三条参照)と解することはできず、有効の債務名義たり得たいといわなけ
ればならない。
 原審が本件公正証書を債務名義として抗告人のなした債権差押及び転付命令の申
請を却下したのは、もとよりそのところであつて、抗告は理由がない。よつて、主
文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)

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