弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一の上告趣意第一点及び第二点について。
 しかし、食糧管理法三条一項違反の生産米不供出の罪は、定められた割当数量相
当の生産米を、所轄地方長官により決定公布された供米期日に供出しなかつたこと
によつて成立するのである。即ち地方長官の供米期日の決定とその期日の公布とに
よつて、生産者の供米義務は具体的に発生し、所轄市町村長の所論の如き売渡時期
の通知は、右犯罪の成否にかかわりのないことはさきに本件について当裁判所が言
渡した判例の示すところである。(昭和二三年(れ)一四〇六号同二五年七月一日
大法廷判決)原判決には所論の如く、食糧管理法令の適用を誤つた違法はない。従
つてかかる違法あることを前提とする憲法違反の論旨はいずれもとるを得ない。
 同第三点について。
 供米の割当数量が実収高を超過する場合には、その超過部分については供出の義
務のないのは当然であるが、論旨自体からみても本件割当数量が被告人の実収高の
範囲内であることは明白である。ところで本件犯罪当時における食糧管理法一条一
項には「米穀、大麦裸麦又ハ小麦(以下米麦ト称ス)ノ生産者又ハ土地ニ付権利ヲ
有シ小作料トシテ之ヲ受クル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ生産シ又ハ小作料トシ
テ受ケタル米麦ニシテ命令ヲ以テ定ムルモノヲ政府ニ売渡スベシ」と規定し、同法
施行規則において、供米割当の方法、売渡の手続等につき詳細に定めているのであ
るが、所定の手続を経て一旦決定された割当数量から所論の如く自家保有米に相当
する数量を控除し、その残額を供出すれば足るとなすが如き規定は全然ないのであ
る。即ち食糧管理法の建前としては、割当数量が実収高を超過するが如き場合を除
き、正規に決定された割当数量は、一応その全量を供出せねばならないものと解す
るの外ない。してみれば、被告人の実収高が、かりに所論のとおりであつたとして
も、これによつて被告人の本件割当数量の全量を供出する食糧管理法上の義務を免
かれしめるものではないから、原判決にはこの点に関し、所論の如き法令違反はな
い。論旨は要するに、本件供米の割当は過大不当であるから、その割当全量を供出
する義務はないとの独自の見解に基き、その義務ありとした原判決は食糧管理法に
違反すると前提して憲法違反を主張するのであるが、その前提の誤れること前記の
如くであるから、本論旨も採用できない。
 同第四点について。
 論旨は、刑訴四〇五条の主張に当らない。また記録を精査しても、所論の如き事
情を肯定して同法四一一条を適用すべきものとは認められない。
 同第五点について。
 論旨は、原判決に添わない事実を前提として憲法一四条違反を主張するものであ
るが、所論前提事実は、原判決にかかわりのないことであるから、論旨は適法な上
告理由として認めることはできない。
 同第六点について。
 しかし憲法二五条一項の法意は、国家は国民一般に対して、概括的に健康で文化
的な最低限度の生活を営ましめる責務を負担し、これを国政上の任務とすべきであ
るとの趣旨であつて、この規定により、直接に個々の国民は国家に対して具体的現
実的にかかる権利を有するものでないことは、当裁判所の判例とするところである
(昭和二三年(れ)第二〇五号同二三年九月二九日大法廷判決)から、論旨はとる
を得ない。
 よつて刑訴施行法三条の二刑訴法四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見である。
  昭和二六年一二月七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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