弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護士高橋正雄の上告趣意は、憲法三七条三項違反を主張するが、本件記録及び
当裁判所が職権により調査した結果によれば、原審は、昭和三二年一一月二〇日控
訴趣意書差出最終日を同年一二月一七日と指定し、同年一一月二一日被告人本人に
対し、控訴趣意書差出期間通知費と共に弁護人選任に関する通知が送達されたこと、
右弁護人選任に関する通知においては、「被告人はこの通知を受領したときは直ち
に弁護人選任に関する回答書に該当事項を記入し、昭和三二年一一月二七日までに
当裁判所宛にこれを送付せられたい」旨附記されていたこと、被吉人は右回答期限
までに何ら回答をすることなく、又弁護人を私選することもなく、自ら控訴趣意書
を作成し、家庭貧困のため国選弁護人の選任を請求する旨の回答書と共に、原審に
提出し、前者は一二月一七日、後者は翌一八日原審第一刑事部に受理されたこと、
原審は即日同庁訟廷事務室事件係に国選弁護人選任依頼の連絡をとり、同月二七日
第一回公判期日を昭和三三年一月二四日午前一〇時と指定したこと、原審裁判長は
同三三年一月七日弁護人小川常臣を国選弁護人に選任したこと、次いで右一月八日
被告人本人に第一回公判期日の召喚状が送達され、同月一一日右国選弁護人に第一
回公判期日の通知書が送達されたことが、それぞれ明らかである。そこで本件は窃
盗、住居侵入被告事件であるから必要的弁護事件であることはいうまでもない。さ
れば原審裁判長は、刑訴規則二五〇条により控訴審にも準用されるものと解すべき
同一七八条一項前段、三項の規定に従い、前記の如く弁護人選任に関する通知に対
して所定の期限までに回答がなく且つ弁護人の選任がなかつた以上、直ちに被告人
のため弁護人を選任しなければならなかつたものといわなければならない。しかる
に原審裁判長は、ことここに出です控訴趣意書差出最終日を経過してから初めて国
選弁護人を選任したのであるから、その措置は右条項に違反すること明らかである。
そうしてこの結果本件の国選弁護人が控訴趣意書提出の機会を得なかつたことは、
まさに所論のとおりである。しかし、本件国選弁護人の選任は、前掲回答期限を経
過すること一月余りであつて、原審第一回公判期日まで半月位の期間があり、この
間国選弁護人から控訴趣意書差出最終日の指定替等の申出はなかつたし、第一回公
判期日には、被告人、弁護人共に出頭し、弁護人は被告人作成提出の控訴趣意書に
基いて異議なく弁論し、その儘結審となつていることは記録に徴し明白である。か
かる場合原審の以上措置をもつて所論のように憲法三七条三項に違反するものとな
し得ないことは、当裁判所昭和二五年(あ)第二一五三号、同二八年四月一日大法
廷判決、刑集七巻四号七一三頁、昭和三一年(あ)第三八四八号、同三二年六月一
九日大法廷判決、刑集一一巻六号一六七三頁の趣旨とするところであるから、論旨
は理由がないのみならず、前記法令違反があつても、原判決を破棄しなければ著し
く正義に反するものとは認められないこと、これまた当裁判所昭和三〇年(あ)第
四〇五六号、同三三年五月九日第二小法廷決定の趣旨とするところである。また記
録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条、一八一条一項但書により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り判決する。
  昭和三三年七月一八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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