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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2処分行政庁が控訴人に対し平成19年4月25日付けでした控訴人の平成
15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「平成15年
度」という。)の法人税の更正処分のうち,控訴人が平成17年5月30日付
けでした更正の請求に基づいて処分行政庁が同年6月29日付けでした更正
処分に係る翌期へ繰り越す欠損金額32億1715万8417円を下回る部
分(ただし,平成20年2月4日付け再更正処分により一部取り消された後の
もの)を取り消す。
3処分行政庁が控訴人に対し平成19年4月25日付けでした控訴人の平成
16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度(以下「平成16年
度」という。)の法人税の更正処分のうち,所得金額0円を超える部分及び翌
期へ繰り越す欠損金額4億8472万6722円を下回る部分(ただし,平成
20年2月4日付け再更正処分により一部取り消された後のもの)並びに同事
業年度の法人税に係る平成19年4月25日付け過少申告加算税賦課決定処
分(ただし,平成20年2月4日付け変更賦課決定処分により一部取り消され
た後のもの)を取り消す。
4処分行政庁が控訴人に対し平成19年4月25日付けでした控訴人の平成
17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度(以下「平成17年
度」という。)の法人税の更正処分のうち,所得金額0円を超える部分及び翌
期へ繰り越す欠損金額7325万8133円を下回る部分(ただし,平成20
年2月4日付け再更正処分により一部取り消された後のもの)並びに同事業年
度の法人税に係る平成19年4月25日付け過少申告加算税賦課決定処分(た
だし,平成20年2月4日付け変更賦課決定処分により一部取り消された後の
もの)を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,処分行政庁が,有料老人ホーム(老人福祉法29条1項所定のもの)
を運営する控訴人に対し,控訴人の平成15年度,平成16年度及び平成17
年度(以下「本件各事業年度」という。)の各確定申告(ただし,更正の請求
による一部更正後のもの)において,入居者から入居又は入居契約の更新に際
して受領する金員(以下「入居一時金」という。)の税務処理に誤りがあり,
所得の金額が過少に又は欠損金額が過大に申告されているとして,本件各事業
年度の法人税の各更正処分並びに平成16年度及び平成17年度の過少申告加
算税の各賦課決定処分をしたところ,控訴人が,控訴人の税務処理に誤りはな
く,上記各処分(ただし,いずれも再更正処分又は変更賦課決定処分による一
部取消し後のもの)には処分行政庁の税務処理の誤り及び理由付記の不備の違
法があると主張して,当該各処分の取消しを求める事案である。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却し,控訴人は,これを不服として控
訴した。
2事案の概要の詳細は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」
中「第2事案の概要」の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用
する。
(1)原判決7頁11行目の「入居日」を「契約締結日」と,同頁12行目の
「入居者の死亡」を「控訴人による契約の解除」と,同頁14行目の「本件
終身入居金」を「本件短期入居金」とそれぞれ改める。
(2)同8頁25行目の「入居者の死亡」を「控訴人による契約の解除」と改
める。
(3)同51頁(別紙1)12・13行目の「平成16年年度」を「平成15
年度」と改める。
(4)同12頁22行目以下の各「仮受消費税」をいずれも「仮受消費税等」と
改める。
(5)同15頁4行目末尾の次に改行して次のとおり加える。
「すなわち,控訴人は,入居者との合意に基づき,入居契約に定められた終
了事由を終期とする役務提供期間について継続的に役務を提供することの
対価として,入居一時金を取得しているものであり,入居一時金が控訴人の
入居者に対して提供する役務の対価であることは,入居契約ばかりでなく,
老人福祉法29条6項,同法施行規則20条の9も前提とするところであ
る。したがって,入居者死亡の場合,終身にわたり役務を提供するという契
約の目的が達せられたことによって契約が終了するものであり,終身にわた
る役務提供の対価として入居一時金を受領している以上,入居一時金を返還
することは必須ではないことになるといって過言ではない。しかし,入居一
時金の額は,平均余命等に基づき一定期間(想定入居期間)を前提とした上
で,その間の原価を合理的に算定して割り出しているため,あまりに短期間
に死亡し終身を迎えた場合には,一定の不公平感が残ることは否定できない
ところであって,そのような不公平感を払拭するため,一定期間を返済保証
期間として設定して,その間の期間の経過に応じて,一定額を返済する旨の
条項を定めており,これが返済保証期間の定めなのである。
そして,控訴人の事業のスキームは,入居一時金の基礎となった一定期間
と返済保証期間とを一致させないことによって,短命な人の入居一時金をも
って,長命な人の運営資金を確保し,それによって入居者の追加負担を回避
するという相互扶助の仕組みを採用し,それによって,全ての入居者の入居
一時金を廉価に押さえるという事業モデルを前提にしたものであって,有料
老人ホームの経営という観点から極めて合理的な内容なのである。
また,本件終身入居金は賃貸借契約における返還を要しない保証金とは性
質を異にするものである。
以上によれば,返済保証期間の設定や返済保証期間経過後は入居一時金の
返還を要しないという点は,控訴人と入居者間の契約の本質的部分というこ
とはできないのであるから,本件終身前受金に係る権利の内容を判断する上
で,この点を重視するのは相当ではない。」
(6)同16頁16・17行目の「返済保証金期間」を「返済保証期間」と,同
頁18行目の「法人税法基本通達」を「法人税基本通達」と,同頁19行目
の「直資」を「直審」とそれぞれ改める。
(7)同17頁2行目の「想定入居期間内」を「終身」と改める。
(8)同19頁17行目の「企業会計原則では」から同頁18行目の「られてい
る。」までを「実現主義における実現とは,通常,財貨又は役務が,現金・
受取手形・売掛金などの貨幣性資産に形を変えることと解されている。」と,
同頁21行目の「なお」から同頁25行目末尾までを「なお,本件終身入居
契約は終身の契約であるから,控訴人が役務の提供をした時点においては役
務提供の期間に応じた収益の額は算出できないのであり,役務提供をした時
点を実現の時として収益計上するという処理は適切な処理ではない。」とそ
れぞれ改める。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断す
る。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中
「第3当裁判所の判断」の1ないし4に記載のとおりであるから,これを
引用する。
(1)原判決23頁9行目の「中途終了返済条項の」から同頁10行目の「実
際に」までを削除する。
(2)同25頁2行目以下の各「仮受消費税」をいずれも「仮受消費税等」と
改める。
(3)同30頁22行目の「本件終身入居金は」から同31頁3行目の「そう
すると,」までを「本件終身入居契約は,入居者に対し,本件各施設入所
前に,本件終身入居金を控訴人に支払うことを義務づけており,控訴人は,
入居者に対する施設の利用及び各種サービスの提供を行う前に,本件終身
入居金を取得するとの契約内容になっている上,控訴人は入居者に対し施
設の利用及び各種サービスなどの役務を終身にわたり提供することを義務
づけられる契約内容となっているため,本件終身入居金がこの提供される
べき役務全体に対する対価であると仮定しても,入居者の死亡等による契
約終了前には,契約上役務提供を義務付けられる全期間を把握して役務提
供の期間に応じた対価の額を適正に確定させることは不可能である。そし
て,控訴人が本件終身入居金額算出の前提としたとする想定入居期間の経
過前に契約が終了した場合であっても,短期解約返済条項の適用があると
きを除き,中途終了返済条項の定める額以外の額は,控訴人が契約上その
返還義務を負うものではなく,また,想定入居期間の経過後も入居者の死
亡等により契約が終了するまでの間は,控訴人は引き続き入居者に対し役
務の提供を契約上義務付けられているのであって,本件終身入居契約にお
いて,想定入居期間が,同契約に係る権利の発生とその内容を左右する旨
を定める条項は存在しないのである。このような契約内容に基づいて本件
終身入居契約に係る権利が発生し,権利の内容が定まることに照らすと,」
と改め,同頁7行目の「法人税法基本通達」を「法人税基本通達」とそれ
ぞれ改める。
(4)同35頁4行目の「(前記(2)ウ」を「(前記(3)ウ」と,同頁6行目の
「(前記(1)ウ)を「(前記(2)ウ」とそれぞれ改める。
(5)同39頁3行目の「返済保証基準」を「返済保証期間基準」と,同40
頁4行目の「返却金指針」を「返済金指針」とそれぞれ改め,同頁18行
目の「,④」から同頁19行目の「証拠もないこと」までを削除する。
(6)同41頁6行目の「(イ)」の次に「甲第39号証及び第40号証の1,
2によれば,想定入所期間基準を採用する控訴人以外の有料老人ホームの
存在が窺われるものの,そのことから直ちに想定入居期間基準による会計
処理が税務上の会計処理として税法上適法であるということはできない
し,また,それが大多数の有料老人ホームにおいて行われている一般的な
税務上の会計処理であることまで認めるに足りる証拠はない。そして,」
を加える。
(7)同41頁25目末尾の次に改行の上,以下のとおり加える。
「カ控訴人は,入居一時金が控訴人の入居者に対して提供する役務の対価で
あることは,老人福祉法29条6項,同法施行規則20条の9も前提とす
るところであり,控訴人の事業のスキームが,返済保証期間を想定入所期
間より短く設定することによって,短命な人の入居一時金をもって,長命
な人の運営資金を確保し,それによって入居者の追加負担を回避するとい
う相互扶助の仕組みを採用したものであって,有料老人ホームの経営とい
う観点から極めて合理的な内容であり,本件終身入居金は賃貸借契約にお
ける返還を要しない保証金とは性質を異にするものであるから,返済保証
期間の設定や返済保証期間経過後は入居一時金の返還を要しないという
点は,控訴人と入居者間の契約の本質的部分ということはできず,本件終
身入居金に係る権利の内容を判断する上で,この点を重視すべきでない旨
主張する。しかし,本件終身入居金に係る権利の発生原因であり,その権
利の内容を定める控訴人と入居者間の各契約の内容等前判示の各点を総
合すれば,同法,同規則の上記条項が,法人税法上,本件終身入居金の収
益計上時期について想定入居期間基準を採用すべき旨まで定めていると
解することはできないし,控訴人が上記のような事業モデルを採用してい
るとしても,そのことによって上記判断が左右されるものではなく,控訴
人が本件終身入居金と賃貸借契約における返還を要しない保証金との違
いとして主張するところなど控訴人の他の主張を考慮しても,上記判断を
左右するには足りないというべきである。」
(8)同41頁26行目の「カ」を「キ」と改める。
(9)同42頁17行目の「短期解約返済条項は」から同頁22・23行目の
「解すべきものである。」までを以下のとおりに改める。
「短期解約返済条項は,期間の経過によって当然に入居一時金中返還を要す
る部分を逓減させる条項ではなく,当該条項に基づく解約がされなければ,
入居一時金の一部又は全部の返還がされないことになるのである。その上,
短期解約返済条項が,前記「有料老人ホームの設置運営標準指導指針につい
て」において「一時金のうち返還対象とならない部分の割合が適切であるこ
と。ただし,入居後の短期間の解約については,滞在日数に応じた費用及び
居室の原状回復のための費用等を除き,一時金を全額返還することが望まし
いこと。」とされていること(乙8の5枚目・9(1)ウの第2段参照)を受
けて設けられた契約条項であると認められること,本件終身入居契約,本件
短期入居契約,本件京都入居契約のいずれの契約類型においてもこの条項を
定めた契約が存在すること,控訴人自身,短期解約返済条項に基づく解約を
クーリングオフとする主張をしていること(控訴人原審準備書面(第6回)
の別紙冒頭部分)を総合考慮すると,短期解約返済条項は,入居契約が契約
後3か月以内という短期で解約された場合には,入居一時金の全額を返済す
るものとして,入居者に対し入居契約締結後再考の上契約を解約して入居一
時金全額の返還を受ける機会を保障する旨を定めた規定と解するのが相当
である。」
(10)同43頁3行目の「控除されることになること」の次に「及び短期解約
返済条項の前判示の趣旨」を,同頁5行目の「解約された場合に,」の次に
「入居一時金の全額を返還することを前提として,これから」をそれぞれ加
える。
(11)同46頁11・12頁の「更生」を「更正」と改める。
2以上によれば,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本
件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官大竹たかし
裁判官山﨑まさよ
裁判官林俊之

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