弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成12年(行ケ)第162号 商標登録取消決定取消請求事件
(平成12年12月19日口頭弁論終結)
判    決
   原      告      株式会社メイポール・エス・アー・ジャパン
  代表者代表取締役     【A】
  訴訟代理人弁理士    溝   上   満   好
   同    弁護士      溝   上   哲   也
   同             岩   原   義   則
   被     告     特許庁長官【B】
  指定代理人     【C】
   同             【D】
   被告補助参加人      ザ ポロ/ローレン カンパニーリミテッ
ド パートナーシップ
   代表者      【E】
   訴訟代理人弁理士      曾   我   道   照
   同             黒   岩   徹   夫
   同             岡   田       稔
   主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は参加によって生じたものも含め原告の負担とする。
事    実
第1請求
  特許庁が平成9年異議第90161号事件について平成12年3月29日に
した決定を取り消す。
第2前提となる事実(争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
原告は、別紙2記載のとおりの構成よりなり、指定商品を商品及び役務の区分第
18類の「毛皮、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘」とする登録第401
3244号商標(平成7年9月27日商標登録出願、平成9年6月20日設定登
録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 被告補助参加人は、平成9年10月17日、本件商標について登録異議の申立て
をし、特許庁は、この申立てを平成9年異議第90161号事件として審理した結
果、平成12年3月29日に「登録第4013244号商標の登録を取り消す。」
との決定をし、その謄本は同年4月17日に原告に送達された。
 2 決定の理由 
 別紙1の決定の写しのとおり、
 「本件商標は、疾走する右横向きの馬を描き、その馬の前に棒状のもの(マレッ
ト)を所持して立つ人物を描いてなるものであるが、該人物が特徴ある棒状のもの
(マレット)を所持していることにより、ポロ競技を人馬をもって象徴的に表して
なるものとみるのが相当といえるものであり、その全体構成より「ポロ」の称呼、
観念を生ずると認められる。他方、別紙3記載の各標章(以下「引用標章」とい
う。)の構成に係る「polo」「Ralph Lauren」、「Polo」
「by Ralph Lauren」等の文字と共に表されているマレットを振り
上げ騎乗してポロ競技を行っているポロプレーヤーを表示した図形部分(以下、
「ポロ図形」といい、これらの図形部分からなる標章について、「ポロ図形標章」
という。一番上の図形について、別紙4参照。)は、アメリカの著名なデザイナー
である【F】の考案によるもので、1970年ころにはアメリカでは著名になり、
ポロ図形、「Polo」「Ralph Lauren」の各文字及びこれらの組合
せよりなる商標を付した「ネクタイ」、「洋服」、「眼鏡」等が販売され、我が国
においても、少なくとも本件商標の出願前、既に著名になっていて、引用標章が
「ポロ」と略称されていたことが認められる。そうすると、本件商標をその指定商
品に使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、周知になっている【F】
にかかるポロ図形標章を連想し、該商品が【F】又は同人と組織的・経済的に何ら
かの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく出所の混同を生ずるおそれ
があるから、本件商標の登録は、商標法4条1項15号の規程に違反してされたも
のであり、取り消すべきである。」
旨認定、判断した。
第3 原告主張の決定の取消事由の要点
 決定は、被告補助参加人が使用する引用標章について、その周知性の認定を誤
り、また、本件商標より生じる称呼、観念の認定を誤っている。また、決定は、本
件商標と引用標章との間で出所の混同のおそれはないのに、本件商標について、被
告補助参加人又は同社と組織的、経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商
品であるかのごとく出所の混同を生ずるおそれがあると誤った判断をしている。し
たがって、決定は、違法なものとして取り消されるべきである。
 1 引用標章の周知性の認定の誤り
 決定は、「POLO」、「Polo」、「ポロ」の各商標について、【F】のデ
ザインに係る被服類及び眼鏡製品に使用する標章として、遅くとも昭和55年頃ま
でには既に我が国において取引者、需要者間に広く認識されるに至っていたものと
認められ、その状態は現在においても継続している旨、引用標章が我が国において
も本件商標の出願前に既に著名なものとなっていた旨認定しているが、到底認め難
い。
  (1) 被服の分野における「Polo」の商標は、我が国では古くから
【F】とは無関係の商標権者が有しており、被告補助参加人も「Polo」単独で
は使用せず、必ず「Polo by RALPHLAUREN」と表示して使用し
ている。また、インターネットをみると、有名な「楽天」のオークションサイトに
おけるブランド一覧には、「ポロ」の表示はなく、「ラルフローレン」だけであり
(甲第88号証)、週間ファッション情報の「BBCブランドデータ」についても
同様に、「ポロ」の表示はなく、「ラルフローレン」だけである(甲第89号
証)。すなわち、引用標章について、需要者は「ラルフローレン」と認識し、区別
しているのが実情である。
 また、ポロ図形標章が被服の分野において登録されたのは最近のことであり、ポ
ロ競技中のプレーヤーを表した図形については、被告補助参加人と関係のない商標
も多数登録され、かつ、現に使用されている事実がある(甲第13ないし第69号
証、甲第71ないし第73号証参照)。
  (2) また、本件商標と構成を同じくする商標が登録されている事実があ
り、これらの商標の指定商品は、本件商標の指定商品以上に被告補助参加人の業務
と密接な関係を有している。すなわち、商標登録第4211352号の商標(甲第
11号証)は、本件商標と同日に出願された本件商標と構成を同じくする商標であ
り、その指定商品を第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き
類、下着、エプロン、えり巻き、靴下、ショール、スカーフ、手袋、ネクタイ、ネ
ッカチーフ、マフラー、バンド、ベルト、靴類」等として、平成10年11月13
日に登録されている。また、商標登録第4211351号の商標(甲第12号証)
も、指定商品を第24類「織物(畳べり地を除く。)、布製身の回り品、布団、カ
ーテン」等として、平成10年11月13日に登録されている。このように、本件
商標と同日に出願され、その構成を同じくする商標が、第24類及び第25類の指
定商品においては登録を受けおり、【F】は服飾デザイナーであるから、本件商標
の指定商品が、これらの商標の指定商品以上に、被告補助参加人の業務と密接な関
係を有しているとは到底考えられない。
 2 本件商標から生じる称呼、観念についての認定の誤り
 本件商標は、疾走する右横向きの馬と、この馬の前に立つ人物を描いてなる独創
的な構図の商標であって、その特異な外観によってのみ取引者・需要者に認識され
るから、我が国におけるポロ競技の認識の薄さを前提にすれば、本件商標は、決定
のように「ポロ競技を人馬をもって象徴的に表してなるものとみる」ことは到底で
きないし、本件商標から「ポロ」の称呼、観念を生じることはないというべきであ
る。
  (1) 本件商標の特異な外観について
 決定は、本件商標は、ポロ競技を人馬をもって象徴的に表してなるものと認めら
れるから、その構成全体より「ポロ」の称呼、観念をも生ずると認定している。し
かし、我々が「ポロ競技」を象徴的に表す構図として真っ先に思い浮かべるのは、
馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」であって、本件商標のように、疾走する
右横向きの馬と、この馬の前に立つ人物を描いた構図が「ポロ競技」を表すのに普
通一般に用いられていることを示す事実は存在しない。
 これに対して、引用標章中のポロ図形標章は、馬に騎乗した人物が、右手に持っ
たマレットを振りかざしている様子を左斜め前方から描いた「競技中のポロプレー
ヤー」の図形である。そこで、本件商標とポロ図形標章を比較して見ると、両者を
対比的に観察する場合には、一見して明らかに構成の軌が異なるので、この判然と
区別し得る外観上の差異により、誤認混同されないことは明らかであり、したがっ
て、本件商標は、ポロ図形標章とは全く非類似の商標である。
 また、両者は、馬とポロ競技のプレーヤーと思わしき人物を描いている点で共通
するとしても、その構図、表現方法において根本的な差異があり、また、次のとお
り、本件商標から特定の称呼、観念は生じないと認められるから、市場において、
時と所を異にして隔離的に対比する場合についても、誤認混同されるおそれは全く
ない。すなわち、本件商標は、疾走する右横向きの馬と、この馬の前に立つ人物を
描くという極めて独創的な構図をとっており、本件商標は、この特異な外観によっ
て取引者、需要者に把握されるものであるから、馬に騎乗した「競技中のポロプレ
ーヤー」を左斜め前方から描いたポロ図形標章と誤認混同されるようなことはおよ
そ考えられない。また、本件商標は、人物の黒い帽子、半そでのポロシャツ、乗馬
靴と、白いズボン、腕、顔及び首が、コントラストをもって表現されているので、
馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」を、黒塗りの表現で描いた引用標章(別
紙4参照)とは、看者の受けるイメージとしても、全く異なるものというべきであ
る。
 このように、本件商標は、引用標章とは全く非類似の商標であって、決定が、ポ
ロ競技を人馬をもって象徴的に表してなるものとみることにより直ちにその構成全
体より「ポロ」の称呼、観念を生ずると認めている点には、重大な誤りがある。
  (2) 本件商標から生ずる称呼、観念について
    ア 本件商標は、ある人からは、「ウマノマエニタツジンブツ」と称呼
され、「馬の前に立つ人物」のイメージで取引きされるかも知れないし、別の人か
らは、「ヒトノハイゴヲカケルウマ」と称呼され、「人の背後を駆ける馬」のイメ
ージで取引きされるかも知れない。要するに、本件商標は、上記のとおりの特異な
外観によってのみ取引者、需要者に把握されるものであって、特定の称呼、観念を
生じさせるものとは認められない。過去の特許庁の判断の例をみても、馬とマレッ
トを所持した人物を構成中に含む図形商標であっても、看者の印象に強く残る特異
な構図よりなるものである場合には、「ポロ」の称呼及び観念は生じないと認定さ
れている(甲第2号証、第4号証、第6号証、第8号証)。本件商標は、人物が馬
に騎乗していないという点で、これらの商標以上に独創的な構成であることを鑑み
れば、「ポロ」の称呼及び観念が生じることがないことは明らかである。
     イ 本件商標が、「ポロ」の称呼、観念を生じさせるためには、まず、
①本件商標が「ポロ競技」を認識させること、すなわち、「ポロ競技」を人馬をも
って象徴的に表してなるものとみることができ、さらに、②「ポロ競技」を認識さ
せるとしても、「ポロ」の称呼、観念が生じさせるか否かが吟味されなければなら
ない。この観点から判断すると、「馬」と明らかにポロ競技者に特有な「マレッ
ト」をもった人物との組み合わせよりなる本件商標に接する需要者は「ポロ」と称
呼する旨の被告の主張は明らかに誤りである。
 そもそも、我が国における「ポロ競技」の認識の程度をみると、例えば、199
3年(平成5年)1月に発行された「イミダス」では、スポーツの項目として約7
0頁にわたり設け、平均的な一般人としてはマイナー競技といわれる競技まで解説
をしているが、その中には、「ポロ競技」はない(甲第81号証)。また、198
7年(昭和62年)4月発行の「コンサイス外来語辞典」において、「ポロ」の項
には、「騎乗競技の1つ。馬に乗りスティックでボールを打って」とあり、「ポロ
競技」に「マレット」という「ポロ競技」に特有な道具が使われるという説明はな
い(甲第82証)。さらに、同じ辞典の「マレット」の項には、「ゲートボール・
クロッケー」と用途が書かれてあり、やはり、「ポロ競技」に「マレット」という
「ポロ競技」に特有な道具が使われるという説明はない。さらに、日本語大辞典に
おいては、そもそも「マレット」という用語が収録されていない(甲第83号
証)。
このように、我が国における「ポロ競技」の認識の程度としては、せいぜい引用
標章のように「馬に乗りボールを打つ競技」とぐらいしか認識されていないのであ
り、我が国における「ポロ競技」の認識からすると、「ポロ競技」と認識されるた
めには、「馬に乗った」人物が「ボールを打っている」状態でなければならない。
反対にいえば、「馬にも乗っておらず」、「ボールを打っている状態でもない」本
件商標が「ポロ競技」をしているものと認識されるとは到底考え難い。
 この点について、被告は、本件商標の描いた人物が有する棒状のものを明らかに
ポロ競技者に特有な「マレット」であると断定するが、以上のとおりの我が国にお
ける「ポロ競技」の認識からすると本件商標にある棒状のものをみて即座に「マレ
ット」であると断定されるとは到底考え難い。また、被告は、本件商標がその各構
成要素として、「ポロシャツ、乗馬ズボン、乗馬用帽子(ヘルメット)及び乗馬靴
と思われる身ごしらえの人物、その人物が肩上にかざしているT字型スティック
(マレット)及び疾走する馬」を有しているとするが、本件商標の図柄から明らか
にいえることは、「人物が棒状のものを持っている」点及び「疾走する馬」が存在
する点のみである。他の被告主張の事実は、本件図柄からは明確に読みとることは
できないし、「マレット」については、我が国におけるポロ競技の認識からすれ
ば、馬にも乗っていない人物が持つ棒状のものを「マレット」と認識することが困
難であることは、上記のとおりである。さらに、被告の主張で問題なのは、被告が
主張する本件商標の各構成要素は、まさに「ポロ競技」一般についての構成要素で
あることである。被告は、自ら「ポロ」と称されるのは、騎乗しマレットを振り上
げた図形であると主張しているにもかかわらず、スポーツ一般の図柄として本来誰
でも使用できるはずの「ポロ競技」一般の図柄について描けば、【F】の使用に係
る「ポロプレーヤーの図形」を想起、連想させると主張していることになり、矛盾
があるばかりか、従来被告補助参加人が主張してきた類似性判断をさらに広げる不
当な主張である。被告が引用する証拠や判例も「騎乗の競技中のポロプレーヤー」
に関するものであり、本件商標に描かれた馬と棒状のものを持った人物について論
じたものではない。
このように、我が国における「ポロ競技」の認識の程度を前提とすれば、本件商
標から「ポロ競技」を認識されることはあり得ないが、仮に、本件商標が「ポロ競
技」を認識させるとしても、本件商標が「ポロ」の称呼、観念を生じさせることは
ない。本件商標は、馬と棒状のものを持った人物が描かれているが、「ポロ競技」
を描いたものが全て「ポロ」と称呼、観念されるわけではない。我が国において
「ポロ競技」の認識が薄いとしても、「ポロ競技」は、ヨーロッパ上流階級のスポ
ーツであるから(乙第3号証)、「ポロ競技」を描いたものが全て「ポロ」と称
呼、観念されるはずはないからである。被告の主張は、我が国における「ポロ競
技」の認識の薄さを利用して安易に引用標章の類似性判断を広げるもので、被告の
主張はあたかも「馬」と「棒を持った人物」が描かれれば全て「ポロ」の称呼、観
念が生じるという乱暴な主張である。
本件商標から「ポロ」の称呼、観念が生ずるためには、被告が主張するように、
馬に乗ってポロ競技に特有な道具であるマレットを振りかざした「ポロプレーヤー
の図形」が周知、著名な標章であると認められるとするだけでは足りない。本件商
標のように、馬にも乗っておらず、単に棒状のものを持っている図形についてま
で、「ポロ」と認識させるほどの周知、著名な標章であることを認定する必要があ
る。
しかしながら、被告補助参加人の有する引用標章はそれほど強力な周知、著名な
標章と認定することはできないし、また、そう認定することは妥当でもない。なぜ
ならば、馬に乗ってポロ競技に特有な道具であるマレットを振りかざした「ポロプ
レーヤーの図形」は、本来誰でも認められるべきスポーツの特別な状態を描写した
に過ぎないからである。それを越えて、「ポロ競技」一般に、さらには、本件商標
のように馬にも乗っておらず、単に棒状のものを持っている図形についてまで「ポ
ロ」を認識させるほど周知、著名な標章と認定することはできない。仮に、馬に乗
ってポロ競技に特有な道具であるマレットを振りかざした「ポロプレーヤーの図
形」が「ポロ競技」一般よりよく知られた強力な周知、著名な標章であるとするな
らば、周知、著名な標章であればあるほど、本件商標のように全く異なる図柄の商
標とは全く非類似の商標として、混同されることなく区別されるはずである。
     ウ 以上のとおり、仮に、ポロ図形標章が、取引者、需要者の間で、
「ポロ」と称呼し、観念されているものだとしても、特定の称呼、観念が生じない
本件商標とは比較すべくもないし、仮に、ポロ図形標章につき、【F】が自己のデ
ザインした商品に使用する商標として需要者に知られているものだと仮定しても、
それは、「競技中のポロプレーヤー」を描いたものとして取引者、需要者に記憶さ
れているのであって、本件商標は、「競技中のポロプレーヤー」を描いたものでは
なく、「ポロ」の称呼及び観念が生じるものでもないから、本件商標によって、引
用標章が想起されるようなことは、全くあり得ないといわざるを得ない。
 3 混同のおそれについての判断の誤り
 本件商標は、上記のとおり、ポロ図形標章と異なる特異な構図からなるものであ
るところ、取引者、需要者は、【F】が、引用標章中のポロ図形標章とは全く別異
の商標を、自他の商品を識別する商標として採択することなどあり得ないことも充
分認識しているので、本件商標は、商標権者によってその指定商品に使用されて
も、被告補助参加人あるいは同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であ
るかのごとく、その商品の出所について、取引者、需要者に誤認混同させるおそれ
は全くないというべきであり、これを肯定した決定の判断は明らかに誤りである。
  (1) ポロプレーヤーを描いた図形を含むブランドの存在について
 馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」の図形を構成中に含む商標は、近時、
各種商品において実際に採択されており、これらの商標を付したブランドの商品
は、しばしば市場で見かけられるものである(甲第75ないし第77号証参照)。
そのため、取引者、需要者が、本件商標に接するとき、馬とポロプレーヤーと思わ
しき人物を描いているというだけで、【F】に関係する商品であるかのように誤っ
て直感することは考え難い。すなわち、取引者、需要者は、市場には馬とマレット
を所持したポロプレーヤーを描いた図形を含むブランドがあることを流通している
実際の商品を見て知っており、これらのブランドの商品を、【F】とは出所が異な
ることも充分認識した上で、支持しているのであり、【F】のブランドと他のブラ
ンドは、市場において出所の混同を生じることなく共存している。このことは、1
996年度の年商30億円以上のライセンスブランドの売上高ランキング(甲第7
8号証)において、「ポロ・ラルフローレン」及び「ラルフローレン」のブランド
が、19位から20位にランクされる一方、「ポロクラブ」(甲第37ないし第4
0号証)のブランドは、年商161億5千万円で第24位、「ビバリーヒルズポロ
クラブ」(甲第26ないし第36号証)のブランドは、年商130億円で第34
位、「サンタバーバラポロ&ラケットクラブ」(甲第13ないし第25号証)のブ
ランドは年商48億円で第82位にランクされている事実からも首肯することがで
きる。
 このように、【F】のブランドと馬とマレットを所持したポロプレーヤーを描い
た図形を含むブランドは、市場において、出所の混同を生じることなく共存してい
る状況の中で、本件商標が、その構成中に、馬とポロプレーヤーと思わしき人物を
描いてなる図形を含むというだけで、引用標章との関係で商標法4条1項15号に
違反して登録されたものであると断定することは、市場における取引の実態にはそ
ぐわず、相当ではないといわざるを得ない。
 ましてや、極めて独創的な構図である本件商標が、その指定商品に使用されたと
しても、引用標章が想起されることはないから、被告補助参加人に関係する商品で
あるかのように出所の誤認混同を生じるようなことは、全く考えられないのであ
る。
 (2) 取引者、需要者の年齢層等と引用標章の認識の状況について
 引用標章の指定商品の取引者、需要者は、いわゆるおしゃれに敏感な年齢層であ
ることを指摘することができる。そして、上記のとおり、外観において全く異にす
る本件商標と引用標章、しかも「polo」等の引用標章を連想させる文字が全く
ない本件商標に接したときに、取引者、需要者が「ポロ」の称呼及び観念が生じ誤
認混同が生じるということは全く考えられない。
 また、被告の主張は、現在における取引者、需要者の程度を低く見積もりすぎて
いる点で問題である。現在、特にファッション関連の商品に接する取引者、需要者
の認識程度は、相当高いものである。例えば、ある有名なブランドが、兄弟ブラン
ドないしファミリーブランドを新たに作り出せば、その情報は雑誌、テレビ、イン
ターネットなどを通じてあっという間に伝わり、取引者、需要者は兄弟ブランドな
いしファミリーブランドの存在を知るのである。また、そのような者にとって、真
実、有名ブランドの兄弟ブランドないしファミリーブランドであるか否かというの
は最も重視する情報であり、情報が氾濫しているからといって、誤解に基づき購入
することはあり得ない。また、製造メーカーにとっても、ブランドを維持すること
について注意を払わなければ生き残ることができないのであるから、兄弟ブランド
ないしファミリーブランドを新たに作り出せば、取引者、需要者にいち早く伝える
努力をし、万一、兄弟ブランドないしファミリーブランドと誤解されているなら
ば、いち早く訂正の情報や注意を呼びかける情報を取引者、需要者に提示するので
ある。被告の主張は、時代の流れに全く沿っていない主張であり、現在における取
引者、需要者の能力を低く見積もりすぎている主張である。
これらの取引者、需要者は、【F】が、引用標章とは全く別異の商標を、自他の
商品を識別する商標として採択することなどあり得ないことも充分認識しているの
で、本件商標は、商標権者によってその指定商品に使用されても、被告補助参加人
あるいは同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとくその商
品の出所について誤認混同させるおそれはない。
第4 被告の反論の要点
  原告が指摘する決定の認定、判断はいずれも正当であり、決定に原告主張の違
法はない。
 1 ポロ商標の周知性について
 決定で認定したとおり、昭和53年7月20日発行の「男の一流品大図鑑」(乙
第2号証)、昭和58年9月28日発行の「舶来ブランド事典’84ザ・ブラン
ド」(乙第3号証)、昭和63年10月29日付日経流通新聞(乙第4号証)等に
よれば、以下の事実が認められる。
 すなわち、米国在住のデザイナーである【F】が、1967年に幅広ネクタイを
デザインして注目され、1968年にポロ・ファッションズ社を設立して、ネクタ
イ、シャツ、セーター、靴、かばん等のデザインをはじめ、ファッション関連の商
品について、トータルな展開を図ってきたこと、同人は、1971年には婦人服デ
ザインに進出し、また、1970年と1973年に「コティ賞」を受賞したほか、
数々の賞を受賞し、1974年には映画「華麗なるギャツビー」の主演俳優【G】
の衣装デザインを担当して、米国を代表するデザイナーとしての地位を確立したこ
と、そのころから、同人の名は我が国服飾業界にも広く知られるようになり、その
デザインに係る一群の商品には、引用標章(乙第1号証)中の横長四角形中に記載
された「Polo」の文字と共に「by RALPH LAUREN」の文字及び
「ポロプレーヤーの図形」(ポロ図形)の各標章が用いられ、これらは「ポロ」の
略称でも呼ばれていること、我が国では、昭和51年に西武百貨店が、ポロ・ファ
ッションズ社から使用許諾を受けて、昭和52年より【F】のデザインに係る紳士
服、紳士靴、サングラス等の、昭和53年からは婦人服の輸入販売を開始したこと
が認められる。
 そして、これらの事実に基づけば、ポロ図形標章が、被服類等において、本件商
標の出願前に既に周知、著名な標章であったことは明らかであって、その状態は現
在おいても継続していると認められる。この主張が正当であることは、例えば、
「ポロプレーヤーの図形」が著名なものであること、それが「ポロ」と称され、
【F】のデザインに係る紳士服、紳士靴、婦人服、サングラス等に使用されて、現
在に至っていると認定した判決(東京高等裁判所平成11年(行ケ)第298号・
平成12年2月1日判決)があり、また、「ポロプレーヤーの図形」は、【F】の
考案によるもので、これが好評を得て、・・・世界的にも有名になり、・・・日本
において、文字としての「RALPHLAUREN」以上に高い著名性と識別性を
有していたことも認められると認定した判決(東京地方裁判所平成8年特(わ)第
151号・平成9年3月24日判決)があることからも裏付けられる。
 したがって、【F】の使用に係る「ポロプレーヤーの図形」(ポロ図形)及び
「POLO」、「Polo」、「ポロ」等の各標章の著名性を否定する原告の主張
は失当である。
 なお、原告は、【F】の「POLO」、「Polo」等の標章が本件商標の出願
時までに著名なものとなっていないとする根拠の1つとして、本件商標と構成を同
じくする商標登録第4211352号及び同第4211351号の各商標が存在す
る旨主張するが、これらの商標は、いずれも登録異議の申立てがあった結果、本件
商標と同様の取消理由通知が発せられ、現在審判において審理中のものである。
 2 本件商標から生じる称呼、観念について
 【F】の「ポロプレーヤーの図形」の標章(ポロ図形標章)は、騎乗し、マレッ
トを手にしたポロ競技者を表す図形として、ファッション関連の商品分野において
著名であり、これが単に「ポロ」と称されて本件商標出願前、既に我が国において
取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたこと、及びその状態は現在にお
いても継続していることは、上記のとおりである。
 他方、本件商標は、右横向きに疾走する馬と、この馬の前方に、明らかにポロ競
技に特有なマレットを手にし、乗馬用帽子をかぶった競技者を表す図形を描いてな
るものである。そして、本件商標の指定商品は、ファッションに関係するものであ
ることを考えると、馬とマレットをもった人物との組合わせよりなる本件商標に接
する需要者は、「ポロ」と称されて、本件商標出願前、既に我が国において取引
者、需要者間に広く認識されるに至っている「ポロプレーヤーの図形」を想起、連
想するとみるのが自然であるから、本件商標は、「ポロ」の称呼、観念を生じるもの
というべきである。
 原告は、我が国における「ポロ競技」の認識の程度を前提とすれば、本件商標か
ら「ポロ競技」が認識されることはあり得ず、また、仮に、本件商標が「ポロ競
技」を認識させるとしても、本件商標が「ポロ」の称呼、観念を生じさせるという
ことはできない旨主張する。
 しかしながら、「ポロ競技」が我が国においては知名度の低いスポーツであると
しても、我が国のファション関連の商品分野において、【F】の使用に係る引用標
章中の「ポロプレーヤーの図形」(ポロ図形)は、騎乗しマレットを振り上げた図形
として、「ポロ」と称され、その取引者、需要者に極めて広く認識されているもの
であることは、上記のとおりであるから、本件商標に接する取引者、需要者は、そ
の各構成要素であるポロシャツ、乗馬ズボン、乗馬用帽子(ヘルメット)及び乗馬
靴と思われる身ごしらえの人物、及びその人物が肩上にかざしているT字型スティ
ック(マレット)及び疾走する馬から、【F】の使用に係る「ポロプレーヤーの図
形」を想起、連想し、これと関連した図形を表現したと理解することは極めて容易と
いうべきである。
 してみると、本件商標は、ファッション関連の商品といえる「かばん類」等につ
いて使用された場合、その需要者等は、【F】の「ポロプレーヤーの図形」に倣い、
「ポロ」の称呼、観念をもって、商品の取引に当たる場合が多いのみならず、
【F】の「ポロプレーヤーの図形」の兄弟ブランドないしファミリーブランドと誤
解し、該商品が【F】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有するものの業
務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるも
のというべきである。
 したがって、本件商標より、「ポロ」の称呼、観念が生じ、【F】の使用に係る各
標章との間に出所の混同を生ずるおそれがあるとした決定に誤りはない。
 3 混同のおそれの存在について
 原告は、構成中に馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」の図形を含む商標
は、近時、各種商品に実際に採択使用されており、本件商標と引用標章とは外観上
非類似であること、本件商標より「ポロ」の称呼、観念が生じないことからすれ
ば、本件商標が、その構成中に、馬とポロプレーヤーと思わしき人物を描いてなる
図形を含むというだけで、引用標章との関係で商標法第4条第1項第15号に違反
して登録されたものであると断定することは、市場における取引の実態にそぐわ
ず、相当ではない旨、また、引用標章の使用商品の取引者、需要者は、いわゆるお
しゃれに敏感な年齢層であり、【F】が引用標章とは全く別異の商標を、自他の商
品を識別する商標として採択することなどあり得ないことを認識している旨主張す
る。
 しかしながら、「ポロプレーヤーの図形」(ポロ図形)が「ポロ」とも略称さ
れ、ファッション関連の商品分野において、極めて高い著名性及び顧客吸引力を有
していることは、例えば、本件商標の登録出願前より【F】の使用に係る「ポロプ
レーヤーの図形」等の標章を真似た偽物商品が市場に多数出回っている事実(乙第
5号証ないし第8号証)からも、容易に認め得るところであり、このような取引の
実情よりすれば、「ポロ」の称呼、観念が生ずる本件商標をその指定商品について
使用した場合は、これに接するこの種商品の需要者は、【F】の使用する著名な引
用標章の一種であって、兄弟ブランドないしファミリーブランドと誤解して、その
出所について混同を生ずるおそれがあるというべきものである。
 さらに、原告の提出した「ヤノニュース」(甲第78号証)中の「1996年度
30億円以上ライセンスブランド売上高ランキング(1)」(66頁)をみても、
「ポロ・ラルフローレン」のブランドが、「ポロクラブ」及び「ビバリーヒルズポ
ロクラブ」のブランドより上位にランク付けされていることが認められる。
 また、「ポロクラブ」や「ビバリーヒルズポロクラブ」のブランドの年商が原告
主張のとおりであるとしても、需要者が「POLO」、「Polo」、「ポロ」の
文字商標や「競技中のポロプレーヤーの図形」を含むブランドを【F】の著名な標
章と何らかの関係があるものと誤解している可能性は否定することができない。
 したがって、【F】以外の者が「POLO」、「Polo」、「ポロ」の文字標
章や「競技中のポロプレーヤーの図形」を含むブランドを使用している事実がある
としても、本件商標をその指定商品について使用した場合は、これに接する需要者
が、その商品の出所について混同を生じていないと断ずることはできないから、こ
の点に関する原告の主張も失当というべきである。
 4 結論
 以上のとおり、本件商標は、その構成全体から「ポロ」の称呼、観念が生ずるも
のであり、ファッション関連の商品分野において、極めて著名な「ポロプレーヤー
の図形」及び引用標章とその称呼、観念において相紛らわしく、これをファッショ
ン関連商品といえるその指定商品について使用した場合は、需要者をして商品の出
所について混同を生じさせるおそれがあるものというべきであるから、本件商標が
商標法4条1項15号に該当するとして、その登録を取り消した決定の判断に何ら
違法の点はなく、決定が取り消されるべき理由はない。
  理    由
1 本件商標の構成及び指定商品等
 本件商標が別紙2記載のとおりの構成よりなる図形標章であり、指定商品を商品
及び役務の区分第18類の「毛皮、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘」と
して、平成7年9月27日に登録出願されたものであることは争いがない。
 これに対し、引用標章は、別紙3記載のとおりの構成からなるものであり、その
構成に係る「polo」「Ralph Lauren」、「Polo」「by R
ALPH LAUREN」、「Polo」「by Ralph Lauren」の
各文字と共にポロ図形が表されている標章である。
2 ポロ図形標章の周知性の存否
 (1) 甲第78号証(「ヤノニュース」1998年5月号)、乙第2号証(昭
和53年7月20日発行の「男の一流品大図鑑」)、第3号証(昭和58年9月2
8日発行の「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」)、第4号証(昭和63年1
0月29日付け「日経流通新聞」)、第5号証(平成元年5月19日付け「朝日新
聞」)、第7号証(平成4年9月23日付け「読売新聞」)、乙第8号証(平成5
年10月13日付け「読売新聞」)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認め
られる。
    ア アメリカの服飾等のデザイナーである【F】は、1967年(昭和4
2年)に、幅広ネクタイをデザインして若者の圧倒的な支持を受けて注目され、翌
1968年(昭和43年)に、ポロ・ファッションズ社を設立し、ネクタイ、スー
ツ、シャツ、セーター等のほかに、靴、かばん、ベルトのデザインを手がけるなど
ファッション関連の商品についてトータルな展開を図り、1971年(昭和46
年)には、婦人服のデザインにも進出し、1970年(昭和45年)と1973年
(昭和48年)の2回にわたり、アメリカのファッション界で最も権威があるとさ
れる「コティ賞」を受賞したほか、「アメリカ・ファッション賞」、「トミー
賞」、「ウール・ニット賞」を受賞するなど高い評価を受けた。さらに、1974
年(昭和49年)に、映画「華麗なるギャツビー」の主演男性俳優「【G】」の衣
装のデザインを担当し、アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立すると
共に、世界的に知られるようになった。
    イ 我が国の服飾業界においても、昭和49年ころから【F】の名前が知
られるようになり、西武百貨店は、昭和51年に、ポロ・ファッションズ社から使
用許諾を受け、翌昭和52年より、【F】のデザインに係る紳士服、紳士靴、サン
グラス等の商品、昭和53年からは婦人服の商品の輸入を開始し、全国各地の店舗
で販売するようになり、多額の売り上げを計上するに至っており、「ヤノニュー
ス」(甲第78号証)による平成8年度(1996年度)の30億円以上のライセ
ンスブランド売上高ランキングには、【F】に係るブランドの商品が、年商173
億円として第19位に挙げられている。
    ウ 【F】のデザインに係る一群の商品には、「Polo」の文字と共に
「by RALPH LAUREN」、「by Ralph Lauren」の各
文字及び【F】のトレードマークとしてポロ図形が使用されている。この図形標章
は、【F】が、自らのファッションイメージに合致するものとして、ヨーロッパ上
流階級のスポーツのポロ競技をデザイン化したものである。我が国において、これ
らの各標章は「ポロ」とも称されており、【F】のデザインに係る商品について、
昭和53年7月20日発行の「男の一流品大図鑑」の掲載記事「一流ブランド物
語」(乙第2号証)において、ポロ図形標章を含む引用標章が表示され、【F】が
「ポロ・ブランド」を世界に通用させるに至るまでの経緯等が詳しく紹介され、同
誌に西武百貨店の広告として、【F】のデザインの服が「ポロ」というブランド名
としてポロ図形標章を含む引用標章と共に記載されるなど、各種雑誌等において一
流ブランドの商品として紹介されてきており、昭和58年9月28日発行の「舶来
ブランド事典’84ザ・ブランド」(乙第3号証)には、「ポロ」の文字からなる
標章が【F】のブランド名として表題に使用されて、ポロ図形標章を含む引用標
章、ブランド品の特徴、沿革、マークの由来等が記載されている。
    エ このように、【F】のデザインに係る商品は、我が国においてもファ
ッション関連の商品における一流のブランド品としてその需要者の間に定着し、新
聞記事においても、平成元年5月19日付け「朝日新聞」(乙第5号証)は、
【F】のブランドが「Polo(ポロ)」の商標で知られていることを記載し、平
成4年9月23日付け「読売新聞」(乙第7号証)は、アメリカの人気ブランドと
して「ポロ」と表記し、平成5年10月13日付け「読売新聞」乙第8号証)は、
ポロ競技のマークで知られる米国のファッションブランドとして「Polo(ポ
ロ)」と表記しており、いずれも我が国で「ポロ」の偽ブランド商品が出現してお
り、これらが摘発されたことを報じている。
 (2) 以上の事実によれば、我が国において、引用標章を構成する「Pol
o」「by RALPH LAUREN」、「Polo」「by Ralph L
auren」の各文字標章及びポロ図形標章は、その略称である「Polo」、
「ポロ」の各文字標章と共に、ネクタイ、スーツ、シャツ、セーター、靴、かば
ん、ベルト等のファッション関連の商品において、【F】がデザインし、その創設
した会社の業務に係る商品に使用される商標として広く知られ、強い顧客吸引力を
取得するに至っていることが認められるのであって、本件商標の出願(平成7年9
月)前に既に需要者の間で周知となっていたことは、明らかであるというべきであ
る。
 (3) 原告は、「Polo」等の文字標章の周知性を否定し、被服の分野にお
ける「Polo」の商標は、我が国では古くから【F】とは無関係の商標権者が有
しており、被告補助参加人も「Polo」単独では使用せず、必ず「Polo b
y RALPHLAUREN」と表示して使用しており、また、インターネットの
ホームページ上のブランド名には「ポロ」の表示はなく、「ラルフローレン」と表
記されていることから、引用標章について、需要者は「ラルフローレン」と認識
し、区別している旨主張している。
 確かに、上記(1)の事実及び甲第88、第89号証により認められる原告指摘
のホームページ上の表記によれば、我が国の需要者が、【F】のデザインに係る商
品に付された引用標章から、「ラルフローレン」という著名なデザイナー名を想起
し、また、当該商品を「ラルフローレン」という人名によって、他の商品と識別す
ることがあることを肯定することができるのではあるが、他方では、我が国におい
て、引用標章を構成する「Polo」「by RALPH LAUREN」、「P
olo」「by Ralph Lauren」の各文字標章及びポロ図形標章が
「Polo」、「ポロ」とも称されて、ファッション関連の商品の分野において、
【F】がデザインし、その創設した会社の業務に係る商品に使用される商標とし
て、その需要者の間で周知性を獲得し、これらの各商標によって他の商品と識別さ
れていることも優に認めることができるのであって、この認定を覆すに足りる証拠
はないから、原告の上記主張は採用することができない。
 また、原告は、ポロ図形標章の周知性を否定する根拠として、ポロ図形標章と同
様にポロ競技中のプレーヤーを表した図形について、被告補助参加人と関係のない
商標が多数登録され、使用されていることや本件商標と構成を同じくする商標が登
録されている事実を挙げている。
 しかしながら、原告主張の事実があるとしても、それらによって、【F】に係る
ポロ図形標章の自他商品の識別機能が損なわれ、あるいは希釈されるなどして、そ
の商標としての周知性の獲得が阻害されているという事実は本件全証拠によっても
認められず、むしろ、上記認定のとおり、ポロ図形標章は、【F】が自らのファッ
ションイメージに合致するものとしてそのデザインに係るファッション関連の商品
に使用し、各種雑誌、広告等においても表記され、我が国の需要者の間で、【F】
がデザインし、その創設した会社の業務に係る商品に使用される商標として周知性
を獲得したことが認められるのであって、原告の主張は採用することができない。
3 混同のおそれの存否
 (1) 引用標章中のポロ図形標章は、別紙3に表示するとおり、疾走する馬に
乗り、ポロ競技用のスティック(マレット)を斜め上方に構え、帽子と被服を身に
した一騎のポロプレーヤーを斜め前方から表したものであるところ、ポロ図形標章
は、【F】が自らのファッションイメージに合致するものとしてそのデザインに係
るファッション関連の商品に使用し、我が国の需要者の間で、「ポロ」と略称され
て、【F】がデザインし、その創設した会社の業務に係る商品に使用される商標と
して周知性及び高い顧客吸引力を獲得していることは、上記認定のとおりである。
 他方、本件商標は、別紙2に表示されているとおり、横向きに疾走する一頭の馬
と、この馬の前方に、ポロ競技用のスティック(マレット)を斜め上方にかざし
て、乗馬用の帽子、被服、靴を身にした一名のポロプレーヤーを表したものである
ことは明らかである。
 そして、本件商標の指定商品は、第18類の「毛皮、かばん類、袋物、携帯用化
粧道具入れ、傘」というファッションに関係する商品であり、また、少なくとも、
かばんの商品において【F】に係るポロ図形標章が使用されている商品と共通して
いるから、上記の構成からなる本件商標に接する一般的な需要者は、上記の構成か
らなり「ポロ」と称されているポロ図形標章や「ポロ」の観念を想起し、本件商標
が使用された商品について、【F】又は同人と組織的、経済的に何らかの関係があ
る者の業務に係る商品であるかのように誤解したり、あるいは、本件商標につきポ
ロ図形標章と同じく「ポロ」と称呼、表記し、この称呼をもって商品の取引に当た
ることもあるであろうと推認することができ、これらの需要者の間で、その商品の
出所について混同を生ずるおそれが十分にあると認めることができる。
 したがって、本件商標より「ポロ」の称呼、観念が生じ、【F】の使用に係る引用
標章との間に出所の混同を生ずるおそれがあるとした決定に誤りはない。 (2)
 原告は、我が国における「ポロ競技」の認識の程度を前提とすれば、本件商標が
描いた人物が有する棒状のものをポロ競技に特有な「マレット」であると断定する
ことはできず、本件商標から「ポロ競技」が認識されることはあり得ない旨、ま
た、仮に、本件商標が「ポロ競技」を認識させるとしても、本件商標が「ポロ」の
称呼、観念を生じさせるということはできない旨主張する。
 しかしながら、我が国において、球技としての「ポロ」が馴染みが薄く、国民に
普及してはいないスポーツであるとしても、「ポロ(polo)」について、我が
国における一般的な辞典である岩波書店発行の「広辞苑(第4版)(1995年発
行)」(当裁判所に顕著)に、「ペルシア起源の騎乗球技。現今のものは、4人ず
つ2組に分かれ、1個の木のボールを馬上から長柄の槌(マレット)で相手側のゴ
ールへ打ち込み合って勝負を争う。」と登載され、講談社発行のカラー版「日本語
大辞典(1989年発行)」(甲第10号証)に、「球技の1つ。馬上にまたがっ
て行うホッケーに似た競技。1チーム4人で2チームに分かれマレット(槌)でボ
ールを打ち、相手ゴールに入れて得点を争う。」と登載され、馬に乗って競技をし
ている2名のポロプレーヤーのカラー写真も掲載されており、三省堂発行の「コン
サイス外来語辞典(第4版)(1987年発行)」(甲第82号証)にも、「騎乗
競技の1つ。馬に乗り、スティックでボールを打って、相手のゴールに入れ、得点
数を競うもの。1チームは4人。」と登載されていることが認められる。
 そして、【F】に係るポロ図形標章は、馬に乗り、スティックでボールを打つ競
技である「ポロ(polo)」を、上記のとおりの一対の人馬の構成によって端的
に表現しており、我が国でも、これが「ポロ」と称されて、ファッション関連の商
品の需要者の間で周知なものとなっていることからすれば、ファッション関連の商
品に付された本件商標に接した需要者は、上記のように一対の人馬をもって構成さ
れている本件商標の全体から、当該容姿の人物について、馬に乗ってその手にする
スティックでボールを打つ競技者であると容易に把握することができ、本件商標の
図形全体をポロ図形標章と同じく「ポロ」と認識して、称呼し、観念するであろう
ことは優に推認することができる。なお、当該スティックの形状についてみると、
これがポロ図形標章と同じT字状のスティックとして表されていることから、これ
に接する需要者は、本件商標の全体の構成から「ポロ」の競技に使用されるもので
あると明らかに看取することができると認められるのであり、これが「マレット」
と称されていることまで認識し得るか否かは問うところでないことは明らかであ
る。
 このように、原告の上記主張は採用することができない。
 (3) また、原告は、構成中に馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」の図
形を含む商標は、近時、各種商品に実際に採択使用されていて、【F】のブランド
と馬とマレットを所持したポロプレーヤーを描いた図形を含むブランドは、市場に
おいて出所の混同を生じることなく共存している状況の中で、本件商標が、その構
成中に、馬とポロプレーヤーと思わしき人物を描いてなる図形を含むというだけ
で、引用標章との関係で商標法4条1項15号に違反して登録されたものであると
断定することは、市場における取引の実態にはそぐわず、相当ではない旨、また、
引用標章の使用商品の取引者、需要者は、いわゆるおしゃれに敏感な年齢層であ
り、【F】が引用標章とは全く別異の商標を、自他の商品を識別する商標として採
択することなどあり得ないことを認識している旨主張している。
 しかしながら、上記認定のとおり、我が国において、引用標章を構成する「Po
lo」「by RALPH LAUREN」、「Polo」「by Ralph 
Lauren」の各文字標章及びポロ図形標章は、その略称である「Polo」、
「ポロ」の各文字標章と共にファッション関連の商品において、【F】に係る商標
として広く知られ、強い顧客吸引力を取得するに至っており、我が国で「Polo
(ポロ)」の偽ブランド商品が度々出現し、摘発されたことが認められるのであ
り、他方、原告が主張する馬とマレットを所持したポロプレーヤーを描いた図形を
含むブランドを付した商品が市場で流通していることは認められるが、ファッショ
ン関連の商品の需要者の間において、これらの商品がすべて【F】に係る商品と出
所の混同を生じることなく共存しているものと認めるに足りる的確な証拠はない
(被告が指摘するとおり、原告主張の他のブランドの年商が原告主張のとおりであ
るとしても、需要者がそれらのブランドの標章を【F】と何らかの関係があるもの
と誤解している可能性は否定することができない。)。これらに照らすと、本件商
標がポロ図形標章との関係で商品の出所の混同を生ずるおそれがあることを否定す
ることはできない。
 したがって、原告の上記主張も採用することができない。
4 総括
 以上のとおり、ファッション関連の商品分野において、【F】に係るポロ図形標
章は「ポロ」とも称され、本件商標の出願前に既に【F】に係る商品の商標として
周知となっており、他方、本件商標は、これをファッション関連商品といえるその
指定商品について使用した場合は、その構成の全体から「ポロ」の称呼、観念が生
じて、需要者をして商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものという
ことができるから、本件商標が商標法4条1項15号に該当するとして、その登録
を取り消した決定の判断に誤りはない。
5 結論
 このように原告主張の決定の取消事由はすべて理由がなく、その他決定にはこれ
を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 塩  月  秀  平
    裁判官 橋  本  英  史
別紙2 本件商標      (訴状別紙2)
別紙3 引用標章      (乙第1号証)
別紙4 ポロ図形標章の拡大例(訴状別紙3)

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