弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は申立人の負担とする。
       理   由
第1 申立ての趣旨
 相手方がA、B、C及びD(以下「本件各申請者」という。)に対し、平成12
年12月7日付けした、公正取引委員会平成11年(判)第4号事件(以下「本件
審判事件」という。)の事件記録の閲覧謄写を許すとの各決定の効力は、いずれも
本案判決の確定に至るまで停止する。
第2 当事者の主張
1 申立人
 本件申立ての理由は、別紙記載のとおりである。
2 相手方
(1)ア 本件申立ての対象となる「処分」と見られる行為はされていない。
 イ 相手方が閲覧謄写に応ずる行為は、単なる事実行為であり、その行為により
直接国民の権利義務の形成又はその範囲の確定をもたらすものではないから、行政
訴訟の対象となる行政処分とはいえない。
 ウ 仮に相手方が本件各申請者に対して事件記録の閲覧謄写に応ずる行為(以下
「閲覧謄写許可処分」という。)が行政処分であるとしても、私的独占の禁止及び
公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)69条は、当該文書に含まれ
る第三者の権利利益の確保を目的として行政権の行使に制約を課している趣旨とは
認められず、申立人は、相手方の閲覧謄写申請に応ずる行為について取消しを求め
る法律上の利益を有していないから、本件申立てに係る申立人適格を有しない。
 エ 本件に係る本案訴訟は、上記の各理由により不適法であるから、本件申立て
につき適法な本案訴訟が係属しているということはできない。
(2) 相手方は、法69条の趣旨を踏まえ、合理的な裁量判断により、一定の者
を「被害者」に準ずる者として「利害関係人」と認めることができるところ、本件
各申請者は「利害関係人」に該当する。
(3) 相手方は、本件各申請者に対して、謄写した事件記録を本件審判事件に係
る損害賠償請求訴訟以外の目的に使用しないことを誓約させていること、また、事
業者の秘密や個人のプライバシー保護の観点から、事件記録中に秘匿を要する特段
の事項があれば抹消等の措置を講じることを念頭にしてかかる事項の有無等を申立
人に照会していることからすれば、相手方が本件各申請者に応ずることによる回復
困難な損害が生じるとはいえない。
3 争点
 以上によれば、本件の争点は、①本件申立ての対象となる「処分」と見られる行
為がなされたといえるか、②閲覧
謄写許可処分は行政処分といえるか、③申立人には閲覧謄写許可処分の執行停止を
求める申立適格が認められるか、④本件が「本案について理由がないとみえると
き」に当たるか否か、⑤本件が「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある
とき」に該当するか否かの各点である。
第3 当裁判所の判断
1 本件記録によれば、以下の事実が一応認められる。
(1) 本件各申請者は、それぞれ、平成12年6月30日付け、同年7月21日
付け、同年8月7日付け及び同年10月12日付けで、相手方に対して、法69条
に基づき、公正取引委員会平成11年(判)第4号事件の事件の審判記録の謄写の
申請をした。
 上記の事件は、申立人ほか4社のごみ焼却炉メーカーによる地方公共団体のごみ
焼却炉発注のための入札における談合の有無を審判対象事実とするものであり、申
立人ほか4社は、いずれも当該事実の存在を否認して争っている。
 また、本件各申請者は、いずれも上記のごみ焼却炉を発注した各地方公共団体の
住民であり、上記の審判対象事実に関連する住民監査請求を行い、地方自治法24
2条の2に基づき、申立人らを被告として住民訴訟を提起している者である。
(2) 本件各申請における謄写の対象は、審判記録(第1回ないし第4回)、書
証(査第1号証ないし第139号証)、③その他審査官・被審人双方から提出され
たすべての書面であった。
 また、本件各申請者は、相手方に対し、当該各申請に当たり、謄写した事件記録
を本件審判事件又はこれに係る損害賠償請求訴訟以外の目的に使用することはしな
いこと、閲覧・謄写した事件記録を申請者(代理人又は受任者が申請者の場合は本
人を含む。)以外の者に閲覧させたり、謄写させたりすることはしない旨の誓約を
した。
(3) 相手方は、申立人に対し、平成12年12月7日付けで、「審判に係る事
件記録について(照会)」と題する書面を送付した。この書面の内容は、相手方が
本件各申請者に対して審判調書、準備書面(釈明・求釈明を含み、未採用証拠の採
否についての意見に係るものを除く。)及び採用された証拠の閲覧謄写に応ずるこ
とに関して、申立人において秘匿を要する特段の事項があれば承知したいとして、
①秘匿を要する部分を特定し、その必要について具体的な理由を付して、同年12
月22日までに提出する旨を依頼するとともに、②同日までに回答がないときは、
秘匿を要する部分はない
ものと理解して、本件各申請者からの閲覧謄写に応ずる作業を進める旨を伝達する
ものであった。
(4) 上記の照会に対して、申立人は、平成12年12月28日付けで、事件記
録のすべてについて秘匿を要する旨の回答をした。
(5) 相手方は、以上のように閲覧謄写に応ずる事件記録の範囲について検討し
ているが、その結論を本件各申請者にも申立人にも明らかにしていない。
2 争点1(処分の存在)について
 前記1で認定した事実関係によると、被告においては、基本的に閲覧謄写に応ず
る旨決断しているものとうかがえないでもないが、その範囲については未だ確定し
ておらず、それを決するために申立人らに意見を求めるなどして検討している段階
にあるというべきである。そうすると、閲覧謄写に関する決定が一般に行政処分性
を有するとしても、現時点においては、せいぜい何らかの範囲で閲覧謄写に応ずる
との方針が決まっているにとどまり、その範囲が具体的に定まっていないのである
から、未だ具体的な行政処分としての閲覧謄写に関する決定はされていないのであ
って、本件申立ては、その余の争点を判断するまでもなく、その対象を欠くものと
して不適法なものというほかない。
 もっとも、本件申立ては、仮に対象となる行政処分がされていない場合には、そ
れが決定時までにされたならばその効力の停止を求めるとの趣旨を含むものと善解
できないでもないし、本決定に前後して閲覧謄写に関する決定がされる可能性もあ
るから、念のためにその余の争点についても判断を示す。
3 争点2(閲覧謄写許可処分の行政処分性)について
 抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、
公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち、この行為によって、直接国
民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているもの
をいう。
 しかるところ、法69条は、「利害関係人」に該当する者に対して、閲覧謄写の
申立権を付与しており、公正取引委員会が閲覧謄写申請に応ずる行為又は拒絶する
行為は、国民が当該申請に係る事件記録を閲覧謄写をする権利の有無を確定する行
為であるから、抗告訴訟の対象たる行政処分に該当するというべきである。
4 争点3(申立人の申立適格)について
 行政事件訴訟法9条は、処分の取消しの訴えは当該処分の取消しを求めるにつき
法律上の利益を有する者に限り提起すること
ができる旨定めており、「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の
権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれの
ある者をいうと解される。そして、上記において「法律上保護された利益」とは、
当該処分の根拠となった行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを
目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている個別的、具
体的利益をいうものであり、当該係争利益が当該処分との関係で法律上保護された
利益といえるか否かは、当該処分の根拠となった行政法規の趣旨、目的、当該処分
が当該係争利益に与える法律上の効果、当該係争利益の内容、性質等を考慮して判
断すべきものである。
 そこで本件について検討するに、確かに、法69条は、利害関係人が閲覧謄写す
ることができる事件記録の範囲や、事件記録を提出した被審人等への通知及び意見
聴取等の手続を定めてはいないものの、一般に、事件記録には、被審人たる事業者
の秘密やその従業員のプライバシーが含まれる可能性が高く、その無制限な開示が
認められれば、当該被審人の個人的法益が害される蓋然性が高いことは明らかであ
るところ、法が事件記録を閲覧謄写し得る者を利害関係人に限定しているのは、こ
のような被審人の利益を保護することをも目的とするものであると考えられる上、
事業者の秘密については、法39条により、公正取引委員会の委員長、委員及びそ
の職員等に対して、秘密保持義務が課せられており、当該規定は事業者の利益をも
保護する趣旨に出たものと解されること、一件記録によれば、相手方においては、
法69条に基づく閲覧謄写申請があった場合には、事実上、事件記録を提出した被
審人等への通知及び意見聴取を行い、その回答を得た上で閲覧謄写の範囲を決める
手続をとっており、本件においてもこの手続が行われていることが一応認められ、
この手続は、上記の法の趣旨に則ってなされているものと解されることに照らせ
ば、被審人は、利害関係人に閲覧謄写を認める処分の取消しを求めるにつき法律上
の利益を有する者に該当するというべきである。
5 争点4(「本案について理由がないとみえるとき」に当たるか否か)について
(1) 法69条が閲覧謄写を認めている「利害関係人」とは、当該事件の被審人
のほか、法59条、60条により審判手続に参加し得る者及び当該事件の対象をな
す違反行為の被
害者又はこれらに準ずる地位を有する者と解されるところ、当該事件の審判対象た
る行為によって損害を被る地方自治体の住民は、単に住民であるという地位におい
ては、審判手続に参加し得る者や当該違反行為の被害者又はこれらに準ずる者のい
ずれにも該当しないことが明らかであるが、当該違反行為と同一性を有する事実を
基礎として被審人を被告として地方自治法242条の2第1項4号後段が定める住
民訴訟としての損害賠償請求訴訟を提起し現にこれが係属している場合には、当該
住民は、当該地方公共団体を代位してその損害賠償請求権を行使する法的地位を付
与されているのであり、当該訴訟の帰すうによって当該地方公共団体自体が損害賠
償請求権を有するか否かが確定し、当該地方公共団体もその訴訟の結論に拘束され
るに至るのであるから、「被害者」に準ずる法的地位を取得した者として、「利害
関係人」に該当すると解するのが相当である。
 しかるところ、一件記録によれば、本件各申請者は、本件審判事件の審判対象た
る行為によって損害を被ることとなる地方自治体の住民であり、当該行為と同一性
を有する事実を基礎として被審人を被告として地方自治法242条の2第1項4号
後段が定める住民訴訟としての損害賠償請求訴訟を提起して現に係属していること
が一応認められる。
 したがって、本件各申請者は、「利害関係人」に該当するというべきであるとこ
ろ、仮に本件について閲覧謄写許可処分がなされたとしても、他に法69条に違反
する事由があることについて疎明がないから、これらについては、「本案について
理由がないとみえるとき」に当たるというべきである。
(2) なお、法39条は、公正取引委員会の委員長、委員及び職員等に対して、
職務に関して知得した事業者の秘密を他に漏し、又は窃用してはならない旨規定し
ているが、法69条はこれに対する例外規定と解すべきであり、しかも同条には民
事訴訟法92条のような秘密保護を義務付ける定めがないのであるから、相手方が
自らの責任の下に法69条に基づいて閲覧謄写を認めることは、法39条に違反す
るものでないことが明らかである。
6 よって、本件申立ては、現時点ではいまだされていない処分を対象とした点で
不適法といわざるを得ないし、今後、閲覧謄写許可処分がされたとしても、その余
の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを却下することとし、申
立費用の
負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり
決定する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 谷口豊
裁判官 加藤聡

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