弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     検察官の無罪部分に対する控訴を棄却する。
     原判決中有罪の部分を破棄する。
     被告人Aを懲役十月及び罰金二万円に、
     被告人Bを罰金二万円に処する。
     右各罰金を完納することができないときは、いずれも金五百円を一日に
換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
     被告人Aに対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶了す
る。
     訴訟費用中原審の証人C、同D之、同Eに支給した分は、被告人両名の
連帯負担とし、原審の証人F、同Gに支給した分は、被告人Aの負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、東京地方検察庁検事正代理検事田中万一被告人Aの弁護人
岡田久恵、被告人Bの弁護人宇野要三郎、同竹内金太郎の各作成にかかる各控訴趣
意書記載のとおりであり、検察官の控訴趣意に対する答弁は、右弁護人竹内金太郎
作成名義の検事控訴に対する反駁要旨と題する書面記載のとおりであるから、これ
らをここに引用し、これに対して次のとおり判断する。 検察官の論旨について。
 原判決が、被告人両名に対する本件公訴事実中、「被告人両名は共謀して、昭和
二十六年八月二日東京都千代田区a町b丁目c番地のd株式会社H銀行I支店に於
てJの調達した金百万円をK株式会社の各株式引受数に応じた払込株金の全額であ
るとして預け入れさせ同銀行支店から株式払込金保管証明書の交付を受けさせた上
直に同金員を払戻させて預合を為した」旨の商法第四百九十一条違反の点につい
て、「ここにいわゆる『預合』とは会社の発起人(又は取締役以下同じ)が株金払
込を仮装するために払込行為を取扱う金融機関と通謀してなすところの偽装行為を
指称するものと解するのを相当とする。換言すれば本条所定の「預合」の罪が成立
するには、発起人と払込を取扱う金融機関との間に通謀の存することが必要である
といわねばならない。」と判示した上、「かかる通謀の事実の認むべき証拠のない
本件事案においては、被告人等が会社の取締役又は監査役として会社の資本金を個
人的債務に流用した点に対する刑責を負うは格別商法第四百九十一条違反罪は成立
しないものと断定せざるを得ない。」として無罪の言渡をしていることは、所論の
とおりである。しかして、所論は、右は原判決が商法第四百九十一条の解釈適用を
誤つたものであつて、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとし、その
理由として、先ず、商法第四百九十一条にいわゆる「預合」とは、資本充実の原則
に背馳する行為であり、真実(株金の)払込を仮装するため、真実(株金の)払込
がないのに、払込があつた如く払込株金を払込取扱者に預け入れたと仮装する行為
をいうものであつて、その仮装行為が金融機関と通謀してなされたものであるか否
かはその行為の成立にはなんら関係がないものである旨主張するにより、案ずる
に、商法が第四百九十一条の規定を設けた目的が、株式会社について、いわゆる資
本充実の原則を確保せんとする趣旨に出たものであること、及び「預合」という言
葉が、昭和十三年の商法改正に際し、それまで経済界において使用されていた言葉
を、そのまま法律上の用語として右規定に初めて採り入れたものであつて、立法当
時その意義が明確にされていなかつたことはいずれも所論のとおりであるが、しか
し、原判決も判示しているように、「預合」なる言葉が経済界において用いられて
来た沿革や、前示の商法改正に際し、商法第四百九十一条が同法第百八十九条に対
応して設けられたものであるという立法上の<要旨>経緯などをそう合して考えると
きは、商法第四百九十一条にいわゆる「預合」とは、株式会社の発起人(又は 旨>取締役以下同じ)が、株金払込を仮装するために、払込を取り扱う金融機関の役
職員と通謀してなす偽装行為をいうものと解するのが相当であると考えられる。所
論は、株金払込行為は売買のような典型的な有償双務の契約関係とは異り、単なる
義務の一方的な履行行為であるから、同条にいわゆる「預合」には、必ずしも相手
方のあることを要しない旨主張するけれども、右商法第四百九十一条がその後段に
おいて、「預合ニ応ジタル者亦同ジ」と規定している点と対照して考察するとき
は、同条所定の「預合」には、相手方のあることを前提とし、且つ相手方と通謀し
てなすことを要するものと解されるのであつて、かく解したからといつて、必ずし
も所論のように、徒らに法文の辞句の末に拘泥して、法解釈の目的を忘れたものと
いうことはできないものといわなければならない。
 次に所論は、「預合」なる語の意義内容が、世上既に一定のものとして確定され
ていない現在においては、商法第四百九十一条の解釈にあたり、目的論的に解する
必要がある旨主張するが、なるほど、資本充実の原則を徹底的に確保しようとする
ならば、所論のように、金融機関との間における通謀の有無にかかわらず、いやし
くも、実質的に払込を仮装する行為は、すべてこれを同条所定の「預合」に該当す
るものとして、処罰の対象とすべきであるとの論は、刑事政策的見地よりすれば、
一応理由があるもののようにも考えられない訳ではないが、しかし、原判決も論じ
ているように、従来の用例によるときは、一般に「預合」とは、相手方と通謀して
なす偽装行為を汎称するものと解されるところであり、且つ、罪刑法定主義の建前
から、刑罰法規の拡張解釈は、つとめてこれを避けるべきであることは論を待たな
いところであるから、若し、これをもすべて処罰の対象としようとするならばすべ
からく関係法規を改正する等の立法手段によるべきであつて、所論のように、法律
上「預合」の意義がいまだ確定されていないからといつて、甚だしく従来の用例と
異つた拡張解釈によつてこれを取締ろうとするが如きは、その当をえないものとい
わなければならない。
 次に、所論は、法規は、立法者の意思を離れて、独自の存在生命を有するに至る
ものであり、社会に日々新たに生起する事象に対し、具体的妥当性を以て、不断に
正しく解釈適用されて行かなければならないものであるから、本件事案の如き「み
せ金」による株式会社の設立が、立法当時全然予想だにしえなかつたといいなが
ら、全国的に行われ、名のみの群小会社が税金逃れのため、或は詐欺的行為を認識
して濫立されている現在においては、立法の経緯を盾にとつて、商法第四百九十一
条の適用を拒否するが如き解釈は、正鵠をえたものでない旨主張するのであつて、
所論の前段は、もとよりその当をえたものと考えられるのであるが、しかし、刑罰
法規の拡張解釈の避くべきことは、前述のとおりであり、もし、時勢の推移に伴
い、かつて予想だにしなかつたような新たな事象が生起し、その取締の忽にできな
いような状態に立ち至つたときは、徒らに、法規の拡張解釈にのみよることなく、
かつて昭和十三年の改正に際し、前示商法第百八十九条、第四百九十一条の規定を
設けたときのように、よろしくこの点に関する法規の改正によつて、その目的の達
成を図るべきものと考えられるのである。
 次に所論は、会社成立前、募集設立に当つて、株式引受人が第一回の株金払込を
なすのは、株式引受人たる地位において、発起人(団体)(或は設立中の会社以下
同じ)に対して負担する株金払込義務の履行として払込をなすものであるから株金
払込の相手は発起人(団体)であつて、払込を取り扱う金融機関は、発起人(団
体)より払込取扱の委託を受けて、その代理人としてこれを取り扱うに過ぎないも
のであり、金融機関に対して右の払込取扱を委託し、或は代理権限を授与するの
は、発起人(代表)である旨を主張し、この見解を前提として、被告人らの本件払
込に関する所為は、一方において、株式引受人たる地位において払込をなすと同時
に、他方において、発起人代表たる資格地位において払込取扱の委託をしたもので
あり、しかも、被告人らは、本件の百万円がいわゆる「みせ金」であることを知悉
していたのであるから、その払込行為は、法律上無効であるばかりでなく、仮り
に、原判示のように、商法第四百九十一条所定の「預合」が、相手方と通謀してな
すことを要件とするものとしても、本件被告人らの所為は、右「預合」に該当する
ものである旨主張するのであるが、しかし、このような所論は、商法が株式会社に
おける資本充実の原則を確保するため、株金の払込について、特に金融機関をして
その取扱をさせることとした立法の趣旨に照らし、到底首肯しえないところであ
る。
 以上要するに、商法第四百九十一条にいわゆる「預合」の意義についての各所論
は、いずれもこれを採用しがたいところであつて、この点に関する原判決の解釈は
正当であると考えられる。よつて、これを前提として、記録を調査し、前掲商法違
反の点に関する公訴事実を検討するに、被告人両名が、原判示K株式会社の発起人
として、真実株式引受人全員から株金の払込がなかつたのにかかわらず、設立登記
を完了する方便として、他人から金借し、形式上株金の払込があつたように仮装し
て、前掲株式会社H銀行I支店に払い込み、株式払込金保管証明書の交付を受けた
上、その設立登記手続を完了するや、直ちに該金員の払戻を受けて貸主に返済して
いることは、記録上これを認めえられるのであつて、従つて、被告人両名に株金払
込を仮装する目的のあつたことは明らかであるけれども、被告人らと払込取扱機関
たる前示銀行支店の役職員との間に通謀のあつた事実は、記録上これを肯記するの
資料を発見することができないのであるから、原判決が、これを理由として右商法
違反の公訴事実につき無罪の言渡をしたことは相当であつて、原判決には、この点
について、所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の解釈適用を誤つ
た違法があるものということはできない。論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)

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