弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件申立を棄却する。
     申立費用は申立人の負担とする。
         理    由
 申立代理人は、「申立人(被告)被申立人(原告)間の和歌山地方裁判所昭和三
二年(ワ)第七六号事件の仮執行宣言付判決に基き、別紙目録(一)記載の家屋
(以下本件家屋という。)のうち階上全部、階下四畳半の部屋及び玄間脇板間(別
紙図面中赤斜線部分、以下本件執行部分という。)に対してなした強制執行は本案
判決をするに至るまでこれを取消す。」との決定を求め、その理由は、「被申立人
は、昭和三四年二月三日前記事件の仮執行の宣言付判決正本に基き、執行吏に委任
して、申立人居住の本件家屋の明渡執行に着手し、同日右家屋のうち本件執行部分
のみの明渡執行をしたが、残余の玄関土間、階下奥の居間、炊事兼食事室、炊事
室、浴場、便所に対する執行は中止となり、右未執行の部分は、申立人の申立によ
りなされた強制執行停止決定により、その執行は停止されている。本件家屋の間取
は、別紙図面のとおりで、そのうち赤斜線の部分が執行された部分である。強制執
行調書によると、執行吏は、本件家屋のうち本件執行部分につき明渡の執行をし、
債権者(被申立人)に引き渡した旨の記載があり、執行の翌日人夫数名が右執行部
分に泊り込み、その後被申立人の従業員数名が入り居住している。しかし、本件家
屋は、申立人が昭和二六年三月住家用として新築し、当初から家族六人が居住して
使用しているもので、その一部分を区分して経済の目的に供したことがなく全体が
一個の物件として所有権、占有権の目的となつているのであるから、執行吏は本件
家屋一棟全部の申立人の占有を解いた上でなければ、被申立人にこれを引き渡すこ
とができないのである。従つて、執行吏が前記のように本件執行部分を引き渡した
のは違法であつて、本件家屋の明渡執行は未だ完了していない。申立人は、前記の
ように強制執行をされたため、階下奥六畳の居間と炊事兼食事室、炊事室、浴場、
便所を使用し、右居間に妻と末子とともに起居し、執行を受けるまで二階居間で起
居し勉強していた子供三人は、やむなく近所の人の物置に臨時に起居させてもらつ
ている。そして、本件執行部分に起居している被申立人の従業員らは、玄関脇板間
の壁を破つて作つた出入口から出入し、便所がないので表道路で放尿し、夜間及び
雨天の際は、二階物干場のベランダに放尿し、その下は申立人が現在使用している
炊事室に当つているため、申立人は不衛生で困つている。右の実情であるから、控
訴審の判決があるまでこのままの状態を続けることはできないし、将来勝訴の判決
を得ても、申立人は到底償うことのできない財産上の損害のみならず、精神上多大
の苦痛を被ることは明らかである。
 よつて、控訴審の本案判決あるまで前記強制執行の取消を求める。」というので
ある。
 申立人は、前記仮執行宣言付判決に対し控訴の申立をし、民訴法第五一二条の規
定により本件家屋の執行部分に対する執行処分の取消を求めるものであることは、
その主張に徴し明白であるところ、同条の規定により執行処分の取消を求めるため
には、強制執行がなされしかもその執行処分が存続することを要し、全部又は一部
の強制執行が完結した後においては、その完結した部分の取消をすることはできな
いものと解するのを相当<要旨第一>とする。そして、一棟の建物全部の明渡を命ず
る債務名義に基いて、建物の一部につき明渡の執行をすること</要旨第一>が許さ
れるかどうかにつき考えるに、不動産の引渡又は明渡の執行方法を定めた民訴法第
七三一条の規定がこれを禁じていないのは勿論、執行法上これを禁ずる規定はな
く、社会観念上からみても、このような明渡の方法が不能であると解することはで
きないばかりでなく、住宅難のなお解消されていない現在の社会状勢を併せ考える
と、建物の一部の執行部分が他の部分と分離して使用することができる場合には、
その部分のみについても明渡の執行ができるものと解するを相当とする。そして、
不動産明渡の強制執行は債務者が不動産を明け渡すべきときは、執行吏は、債務者
の占有を解き、債権者にその占有を得させることによりこれをなすべきであり、右
執行は債権者又はその代理人が受取のため出頭したときに限りこれをすることがで
きるのであるから<要旨第二>(民訴法第七三一条第一、二項)、右方法により家屋
の一部につき明渡の執行が行われた以上、たとえ家屋全体</要旨第二>の執行とし
てはまだ終了していなくても、既に債権者に引き渡された部分については、執行は
完結(一部完結)したものと解すべきであり、この場合には右執行の完結した部分
の執行の取消をすることができないものというべきである。本件につきこれをみる
に、記録中の和歌山地方裁判所執行吏A作成の昭和三四年二月三日及び同月一二日
付家屋明渡執行調書、B作成の陳述書によると、被申立人は、右執行吏に対し、申
立人主張の仮執行宣言付判決に基く別紙目録記載の家屋明渡の強制執行を委任し、
右執行吏は右委任に基き右家屋の明渡の強制執行のため昭和三四年二月三日目的物
件所在地に臨んだところ、申立人(債務者)が不在であつたので、その妻Bに出会
し、供託書の謄本を送達し、執行力ある正本、供託証明書、判決送達証明書を示
し、家屋明渡を催告し、申立人の妻は本人が不在であるから、猶予されたいと述べ
たが執行に立ち会つた被申立人(債権者)代理人Cがこれを承諾しなかつたので、
強制執行に着手し、本件家屋のうち本件執行部分に対する申立人の占有を解いて被
申立人に引き渡し、目的物外物件を取り除き申立人の家族に引き渡し、残余の部分
については被申立人の承諾により執行を中止した。右執行吏は、同月一二日別紙目
録記載の家屋中前記のように既に執行した右執行部分を除いた残余の部分の強制執
行のため申立人方に臨み、被申立人代理人C立会の上申立人本人に出会し、右強制
執行をする旨告げたところ、申立人は、昭和三四年二月九日付当裁判所昭和三四年
(ウ)第四八号強制執行停止決定正本を提出し執行の停止を求めたので、右執行吏
は、右決定正本と執行調書とを対照調査し、本件執行部分は既に執行ずみであるか
ら、その余の部分については控訴審の判決あるまで執行を停止し、その旨口頭で申
立人に告知した。被申立人の従業員ら数名は、右執行がなされた日の翌日の同月四
日夜から右執行部分に入り現在に至るまで居住を続けていることを認めることがで
きる。申立人は、本件家屋は、別紙図面記載のような構造の家でその一部分を区分
して経済の目的に供したことがなく、全体が一個の物件として所有権、占有権の目
的となつているものであるから、執行吏は右家屋全部に対する申立人の占有を解い
た上でなければ、被申立人にこれを引き渡すことができないのに、本件執行部分を
被申立人に引き渡したのは違法で、明渡執行はまだ完了していないと主張するが、
一棟の家屋の一部分の執行が許されることは既に説明したとおりであり、本件家屋
が別紙図面記載の構造であるからといつて、必ずしも本件執行部分を分離して使用
することが不能であるということはできないから、執行吏が前認定のように右執行
部分を被申立人に引き渡したのが違法であるということはできない。申立人の右主
張は採用できない。そうすると、本件執行部分に対する執行は、既に昭和三四年二
月三日完結したことが明らかであるから、本件家屋のその余の部分の執行が完結し
ていなくても、右完結した部分の執行の取消を求めることはできないものといわな
ければならない。従つて、その取消を求める申立人の本件申立は理由がないから、
これを棄却することとし、申立費用の負担につき、民訴法第九五条第八九条を適用
して主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 熊野啓五郎 裁判官 岡野幸之助 裁判官 山内敏彦)
 (別紙)
       目録
 (一)、 和歌山市a町b丁目c番地のd
      家屋番号同所第e番のf
      第一号
      一、木造瓦葺二階建居宅一棟
        建 坪   一八坪五合五尺
        外二階  一二坪五合
 (二)、 付属建物
      第二号
      一、木造瓦葺平屋家建炊事場、浴場及び便所
        建 坪   三坪四合三勺
 (三)、 同所家屋番号同所第e番のg
      第一号
      一、木造ルーヒング葺平屋建工場
        建 坪   三一坪
(別 紙 図 面)
<記載内容は末尾1添付><記載内容は末尾2添付>

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