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         主    文
     原決定を取り消す。
         理    由
 一 抗告の趣旨及び理由は別記のとおりである。
 二 (1) 記録によれば、執行債権者たる抗告人は、調停調書の執行力ある正
本に基き、貸金債権一六万円の弁済を求めるため、昭和三二年四月一一日熊本地方
裁判所に、執行債務者A所有の別紙目録記載の田に対し、強制競売の申立をなし、
同裁判所は、翌一二日付で強制競売開始決定をなし、同月一八日その田につき強制
競売申立の登記がなされ、(本件田には、先取特権・質権・抵当権の登記は存在し
ない。)ついで、本件田は農地法第一五条及びその準用する規定により、昭和三二
年七月一日の買収の期日に国において買収によりその所有権を取得し、昭和三三年
二月四日農林省名義をもつて右買収による所有権取得の登記がなされ、続いて、農
地法第三六条の規定による昭和三二年七月一日付売渡を原因として、昭和三三年二
月四日相手方Bのために所有権移転登記がなされていること、一方、抗告人は、原
審のなした民事訴訟法第六六二条の二による売却条件変更決定に副い、熊本県知事
の農地買受適格証明書を提出し、昭和三三年一月二四日の競売期日において、最高
価競買人となり、所定の保証金を納めた上、同年同月二九日付をもつて、あらかじ
め、熊本県知事から、本件田の所有権を取得するにつき、農地法第三条第一項の規
定による許可を受け、該許可書を原裁判所に提出したので、同裁判所は、同年同月
三〇日午前一〇時の競落期日において、抗告人に対し本件田の競落を許す決定を言
い渡したところ、相手方Bにおいて、これに対し即時抗告を申し立てたため、原審
は、いわゆる再度の考案に基き、「農地法に基く買収処分による国の農地所有権取
得についても、民法第一七七条の適用があるけれども、強制競売開始決定による農
地の差押は、債務者(所有者)の任意の処分を制限するにとどまり、農地買収処分
のように、債務者の処分行為(意思)とは無関係に、第三者(国)がその所有権を
強制的に取得する場合は、差押の効力はこれに及ばず、第三者は完全に有効に所有
権を取得する。従つて、本件不動産は、競落許可決定の言渡後に、確定的に債務者
の所有圏外へ逸しさつて、本件強制競売手続は、続行し得ざるに立ちいたつた。」
旨説明し、先になした本件田の競落許可決定を取り消し、競落を許さない旨の更正
決定をなしたことが明らかである。
 よつて、本件において、法律上競落不許の原因があるか否かを検討しなければな
らない。
 (2) ところで、抗告人は、論旨第二・三点記載のような事由により、本件田
の買収及び売渡は、ともに違法無効な処分であつて、これにつき、農地法の定める
効果を付与すべきものではない旨主張するので、考察するに、記録中の執行吏の賃
貸借取調報告書、相手方B提出の抗告状の記載並びにそれに添付の証拠書類と右
(1)の認定事実とをかれこれ合わせ考えると、本件田は、旧自作農創設特別措置
法(以下自創法と称する)第一六条の規定により、Aが昭和二五年三月頃、国から
売渡を受け、所有権取得の登記を経た上、昭和三〇年五月頃所定の許可を受けない
で、その世帯員以外の者である相手方Bに売却して引き渡し、Bは所有権取得を経
ないまま、以来これを耕作してきたので、国は、所有者A及びその世帯員以外の着
たるBが、本件田を耕作の事業に供したものと認定の上、農地法第一五条及びその
準用する規定により、Aの所有として、昭和三二年七月一日を買収の期日と定め、
同年五月一八日頃買収令書を同人に交付し、買収の期日までに対価を支払つて、こ
れを買収し、同法第三六条以下の規定にしたがい、Bに売り渡したものであること
は推認するに難くないけれども、論旨のような事由により右買収・売渡が違法無効
なものであるという証拠は、記録上存在しないので、これが、違法無効であるとの
所論は、採用に値しない。 (3) しかし、論旨全体の趣旨を善解すれば、その
言わんとするところは、要するに、右の買収・売渡は、本件田の差押債権者たる抗
告人の権利に消長をきたさないので、執行裁判所は、強制競売手続を続行しうるの
であるから、原審が、先になした競売許可決定を取り消し、競落不許の更正決定を
なしたのは違法であるというにあるので、以下この点について判断する。
 (一) 農地法第一三条(第一五条において準用する場合また同じ)は、農地の
買収によつて、買収地の上にある先取特権・質権・抵当権が消滅し、国は、この三
担保物権の負担をともなわない農地の所有権を取得する旨明定するにとどまり、未
墾地等の買収の効果を規定する同法第五二条(第五五条第四項・第五八条第二項・
第五九条第五項・第七二条第四項において準用する場合を含む)や、自創法第一二
条(同法第三四条・第四〇条の五等において準用する場合を含む)に見るように、
買収によつて、買収地等に関する所有権以外の権利が、消滅する旨規定していな
い。すなわち、未墾地等の買収にあつては、農地法第五四条所定の権利を除くの
外、買収当時存する未墾地等に関する権利例えば、各種制限物権・買戻権・仮差押
仮処分並びに差押上の権利・所有権移転請求権保全の仮登記権利者の権利等は、す
べて消滅すべきことは未墾地等買収制度の目的に照らし明瞭であるけれども(この
点土地収用法における収用の効果に類する。同法第一〇一条参照)、農地の買収に
あつては、買収当時存する農地の上の先取特権・質権・抵当権の三種の担保物権に
かぎつて消滅せしめるをもつて足るとの立前をとり、しかも、これら権利者の物上
代位権の行使を容易ならしめるとともに、買収手続の便宜のため、市町村農業委員
会は、これら権利者に対し、買収の代価供託の要否を二〇日内に都道府県知事に申
し出るべき旨を通知すべく(農地法第一〇条第二項・同法施行規則第一二条)、こ
れら権利者は、農地の代位物たる供託された対価に対し、権利を行うことができる
ことを明らかにしている(第一二条・第一三条・民法第三〇四条・第三五〇条・第
三七二条参照)。したがつて、これら権利者の申立に基いて、農地の競売手続進行
中、買収処分がなされたときは、利害関係人は、競売の基本たる担保物権が消滅し
た一般の場合と等しく、その消滅を理由として、競売開始決定に対する異議、競落
の許可についての異議、競落許可決定に対する抗告を申し立てうるし、買収による
国の所有権取得登記がなされた場合は、執行裁判所は民事訴訟法第六五三条によ
り、競売手続を取り消すこともまた、妨げないのてある。すなわち、右のような担
保物権に基く農地の競売手続は、その農地の買収によつて、続行し得ないこととな
るので、もし、本件競売手続がこれら担保物権に基いて開始されたものであるとす
れば、前説示の理由により、農地所有権は供託された対価に転化代表されることと
なるので、まさに、原審のように、一旦言い渡した競落許可決定を取り消し、競落
不許の更正決定をなすべきものである。
 (二) しかし、競売の目的たる農地に、前記の担保物権の存しない、本件のよ
うな強制競売にあつては、以上と<要旨第一>趣を異にするものがある。農地法第一
三条第一項に「その土地の所有権は、国が取得する。」というのは、国
は農地所有者(被買収者)の意思に基く場合である(同法第一六条参照)と否とを
問わず、農地所有者から買収地の所有権を承継取得するという趣旨であつて、いわ
ゆる原始取得ではなく、この点において、強制・任意競売や公売処分による所有権
移転におけると選を異にするところはない。(民事訴訟法第六四九条・第七〇〇<要
旨第二>条・競売法第二条・国税徴収法第二八条・不動産登記法第二九条・第一四八
条)しかも農地に対し強制競売申立の記入登記をなして差押の効力を生
じた後は、たとえ、第三者が差押農地につき権利を取得するも、これをもつて差押
債権者に対抗することができず(民事訴訟法第六五〇条)、右第三者の取得した権
利が執行債務者の任意処分に基くと否とにかかわらないのは、同条が差押債権者の
利益を計るために設けられた趣旨並びに差押の法的性質よりして容疑の余地がな
い。しかして、差押農地に対する農地法の規定による買収・売渡処分によつて、善
押の効力が消滅する旨の規定はなく、また消滅すると解すべき合理的理由も存しな
いので、本件におけるがごとく、差押農地に対し、買収及び売渡処分がなされ、買
収・売渡を原因として、順次国及び売渡の相手方(B)のため所有権移転登記がな
されても、差押の効力は依然存続し、差押農地の第三取得者たる国及び相手方B
は、いずれもその所有権の取得をもつて、差押債権者たる抗告人に対抗できず、か
えつて抗告人は、右第三取得者(農地買収による国の所有権の取得は、前示のとお
り、承継取得であるから、差押債権者たる本件抗告人に対する関係においては、一
般第三取得者と選を異にしない。)の権利を無みして、有効に競売手続を続行しう
るものと解すべきである。このことは、未墾地等に対する強制競売の場合におい
て、その未墾地等につき差押の効力を生じた後に、右差押の日時前の買収処分を原
因とする国の所有権取得登記並びに売渡処分に因る国から売渡の相手方への所有権
移転登記がなされた場合、買収当時に存する差押の効力は、消滅するが、買収後に
なされた差押の効力は農地法第五二条の適用を受けないので消滅することなく依然
存続し、競売手続を続行することの妨げとならないことと対比することによつても
領解しうべきところである。
 (三) 農地法第一七条の規定を援いて、買収令書の交付は、交付後の買収さる
べき農地所有権の一般及び特定承継人に対してもその効力を有するので、本件の事
案においては、競落人は、右の特定承継人に当ると解し、国したがつて国から売渡
を受けた相手方Bは、農地所有権の取得を、競落人に対抗できると説く者があるか
<要旨第三>もしれない。しかし第一七条は、農地買収手続の過程において、農業委
員会が買収すべき農地の上にある三種の担保権利者に対し、対価供託の
要否を申し出るべき旨を通知した後、または、知事が農地所有者に買収令書を交付
した後に、通知を受けた担保権利者または交付を受けた所有者に承継(一般及び特
定承継)があつても、その通知・交付は、承継人に対しても効力を有することを定
めたもので、それは買収手続の敏速簡易化のため、その進行中に権利者が変つたか
らといつて、手続を最初からやり直すことを要しないとする趣意以上に出ない規定
であつて、これを買収令書の交付と承継人との関係について説明すれば、買収令書
交付の日と買収の期日との間には、相当の日時を要する(農地法第一一条・第一三
条参照)ため、右期間中に所有者に承継があつて新所有者が所有権移転の登記を経
たとしても、改めて新所有者に買収令書を交付することなく、(買収の期日までに
対価の支払または供託をしたときは)、国は、買収の期日に、買収地の所有権を取
得するという点に意義があるのであつて、右期間経過後換言すれば、買収期日に国
が所有権を取得した後の承継人をも、同条の適用を受ける承継人と解することはで
きないのである。強制競売申立人(差押債権者)が、第一七条の承継人でないこと
は、同条及び第一〇条第二項・第一一条の文理解釈上容疑の余地がないばかりでな
く、未墾地等の買収手続において、第五二条の外に、第一七条に相当する第六〇条
の規定の存することからも確論されうるところである。
 (四) されば、(1)に認定のように、農地につき、強制競売の申立の記入登
記により差押の効力を生じた後に、農地法第一五条及びその準用する規定により国
が差押農地を買収し、相手方にこれを売り渡し、国及び相手方において順次所有権
移転登記を経由したとしても、かかる第三取得者の存在は、差押農地について、執
行裁判所が強制競売手続を続行するの妨げとなるものではなく、適法な最高価競買
人が、当該農地の所有権を取得するについての、同法第三条第一項所定の知事の許
可を受け、その許可書を提出した本件においては、執行裁判所は、最高価競買人た
る抗告人に対し、競落を許す決定を言い渡すべきである。
 (4) 原審が相手方のなした抗告に基いて、一度正当に言い渡した競落許可決
定を取り消し、競落を許さない旨更正決定したのは、競落不許の原因がないのに、
競落を許さないとした違法があり、論旨は結局理由があるので、原更正決定を取り
消すべく、当裁判所のこの取消決定により、本件強制競売事件は、原審の更正決定
がなかつたと同一の状態に復帰するので、原裁判所のなした競落許可決定及びこれ
に対し、相手方が原裁判所になした抗告は、ともに存続している筋合であるけれど
も、右抗告事件は、いまだ当審に係属するにいたつていないので、当裁判所は、こ
れについて判断をなすべき限りでない。
 よつて主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)
 (別紙目録は省略する。)

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