弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人福井盛太、同宮沢邦夫の上告趣意は、末尾に添えた書面記載のとおりであ
る。
 上告趣意第一点及び第二点について。
 論旨は、いずれも刑訴四〇五条に定める事由のあることを主張するものではない
ので、上告の適法な理由とならない。所論は、被告人がAの手から一旦拳銃を奪つ
たとしても、狭い自動車内で格闘が継続している以上危険は現在し侵害は継続して
いるのであるから、被告人の本件行為は正当防衛か少くとも過剰防衛に当り、また
危険ないし侵害が過ぎ去つたとしても、拳銃を発射した行為が恐怖、驚がく、興奮
又はろうばいにでたと認められる場合には過剰防衛に当るにかかわらず、原判決が
正当防衛又は過剰防衛の成立を否定し、或は盗犯等防止及び処分に関する法律一条
の趣旨に従い被告人を免責しなかつたのは、理由に食いちがいの違法があるという
に帰する。しかしながら原判決は、「被告人が原判示日時判示場所に停車中のA所
有の乗用自動車内において本件拳銃を以てAを射撃し、同人に左側頭部及び左胸部
貫通銃創等の傷害を与えたが、創傷が急所を外れたため、Aを死亡せしめるに至ら
なかつたこと、右射撃直前の車内における両者の位置は、被告人が前部座席の運転
手台の方(進行方向に向つて左側)におり、本件拳銃は被告人の手中にあり、被害
者は後部座席の前の床上に頭を進行方向に向つて右側、足を左側にし、前部座席の
背後に身体を低くしていたもので、即ち被告人からの射撃を免かれようとして、前
部座席に身を潜めるような姿勢をしていたものと認められ」ることを証拠によつて
確定しているのであつて、所論のように被告人がAの手から一旦拳銃を奪つた後に
おいても被告人とAとの間に格闘がなお継続していたことは少しも確定していない
のである。それ故、右格闘の継続したことを前提とする所論は、すべて原判決の確
定した事実に副わない主張であるから採用できない。そして原判決の確定した事実
によれば、所論正当防衛ないし過剰防衛の成立を認めず又盗犯等防止及び処分に関
する法律一条の趣旨に従い被告人を免責しなかつたからとて、所論のような理由に
食いちがいの違法の存することは認められない。
 同第三点について。
 論旨は、原判決が論旨引用の当裁判所の判例に違背すると主張する。しかしなが
ら、正当防衛が成立するか否かは、当該行為のなされた具体的状況の如何により個
々の行為について決せらるべきものであるところ、引用の判例の場合は、被害者が
生木を奪いとられた後にもなお「被告人に組付かうとする気勢を示した」という状
況の存したものであつて、本件の場合とは事情を異にするので、本件の上告理由に
引用することは適切でなく、原判決は少しも右判例と相反する判断をしたものでは
ないから、論旨は理由がない。
 同第四点及び第五点について。
 論旨は、原審に事実誤認又は量刑不当の存することを主張するものであつて、刑
訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。そして、原判決挙示の証拠によれば原判
示事実を認めることができ、記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認め
られない。
 よつて、刑訴四一四条、三九六条に従い、裁判官全員の一致した意見で主文のと
おり判決する。
 検察官 平出禾出席。
  昭和三〇年五月三一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    本   村   善 太 郎

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