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平成12年(行ケ)第96号 審決取消請求事件(平成13年1月24日口頭弁論
終結)
          判           決
       原      告  ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
       代表者        【A】
       訴訟代理人弁理士   松 本 研 一
       被      告   特許庁長官 【B】
       指定代理人      【C】
       同          【D】
       同          【E】
       同          【F】
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
      この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成9年審判第19579号事件について平成11年10月20日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、1987年(昭和62年)10月9日にアメリカ合衆国においてし
た特許出願に基づく優先権を主張して、昭和63年10月6日、名称を「安定化ポ
リフェニレンエーテル-ポリアミド組成物」とする発明につき特許出願をした(特
願昭63-251038号)が、平成9年8月1日に拒絶査定を受けたので、同年
11月25日、これに対する不服の審判の請求をした。
 特許庁は、同請求を平成9年審判第19579号として審理した上、平成1
1年10月20日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄
本は同年11月29日原告に送達された。
 2 平成9年12月24日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本件
明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項(1)に記載された発明(以下「本願
発明」という。)の要旨
 (a)5乃至95重量部のポリフェニレンエーテル樹脂と95乃至5重量部のポ
リアミド樹脂との相溶化ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンド、及び
 (b)樹脂組成物(a)100重量部あたり0.001乃至0.5重量部の式:
    
(式中Mは銅、ニッケル、スズ及びセリウムから成る群から選ばれる金属イ
オンを表わし、XはCl、Br、F、I、ステアレート及びアセテートイオンから
成る群から選ばれるイオン基であり、nは1乃至6の整数を表わし、yはMの正イ
オン電荷を表わす整数であり、そしてzはXの負イオン電荷を表わす整数である)
の金属塩
を含む、熱老化後の物理的特性の保持性が改良された熱可塑性樹脂組成物。
(上記(b)記載の金属塩を以下「成分(b)」という。)
 3 審決の理由
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特表昭61-5021
95号公報(甲第3号証、以下「引用例1」という。)及び昭和61年に日本国内
において頒布された刊行物である「プラスチックエージ」32巻5号掲載の「ポリ
アミド系樹脂の最近の用途開発のための安定化処方」(【G】、【H】)(甲第4
号証、以下「引用例2」という。)に記載された各発明に基づいて、当業者が容易
に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を
受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決の理由中、本願発明の要旨の認定(審決書2頁4行目~3頁14行
目)、引用例1、2の記載事項の認定(同4頁10行目~7頁末行)、本願発明と
引用例1記載の発明との一致点及び相違点の認定(同8頁2行目~9頁9行目)は
認める。
 審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点(1)、(2)についての判断
を誤った(取消事由1、2)結果、本願発明が、引用例1、2記載の各発明に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるか
ら、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(相違点(1)についての判断の誤り)
   審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点(1)(本願発明は成分
(b)を含むのに対し、引用例1は含有する具体的な添加剤を明記していない点)
について、引用例1(甲第3号証)に、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂
ブレンド熱可塑性樹脂組成物に添加する安定剤として「特に好ましいのはポリアミ
ドに使用するのに好適な安定剤である。例えば・・・ヒンダードフェノールおよび
カリウムおよび第一銅塩の組合せを含む安定剤パッケージを使用しうる」(9頁右
下欄11行目~15行目)と記載されていることから、「ポリアミド樹脂の安定剤
がポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の安定剤として使用できるもの
であるから、ポリアミド樹脂に使用されている安定剤をポリフェニレンエーテル-
ポリアミド樹脂組成物の安定剤として採用することは当業者であれば容易に想到し
得ることである」(審決書10頁2行目~8行目)とした上、「引用例2に、ポリ
アミド樹脂の安定化剤としてハロゲン化銅化合物が使用できることが示されている
以上、本願発明がポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に添加する安定
剤として式・・・の金属塩(注、本願発明の成分(b))を採用することは容易に
想到し得たものといえる」(同10頁17行目~11頁4行目)と判断するが、誤
りである。
   すなわち、特開昭49-99599号公報(甲第5号証)、特公昭53-4
5360号公報(甲第6号証)、特開昭53-92898号公報(甲第7号証)、
米国特許第4496679号明細書(甲第8号証)、米国特許第4536567号
明細書(甲第9号証)、Makromol.Chem.180,351-360(1979)(甲第10号
証)及びMakromol.Chem.182,1961-1971(1981)(甲第11号証)には、銅化
合物がポリフェニレンエーテルの安定性を損なって変色及び熱分解の原因となるこ
とが示されており、銅化合物がポリフェニレンエーテルの熱酸化分解を促進するこ
とを裏付ける実験結果も報告されている。そうすると、銅化合物をポリフェニレン
エーテルからできる限り取り除いておくことは当該技術分野における技術常識であ
って、本願発明の阻害要因であったというべきである。
   なお、刊行物1は、上記のとおり、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹
脂組成物に添加する安定剤として「ヒンダードフェノールおよびカリウムおよび第
一銅塩の組合せを含む安定剤パッケージ」を例示しているが、この記載は、3種の
熱安定剤の組合せから成る「安定剤パッケージ」全体としての有効性をいうもので
あって、第一銅塩単独での有効性を示唆するものではない。
   また、本願発明の効果に関して、審決の引用する引用例1の上記記載から
は、イルガノックス1076のようなヒンダードフェノール系酸化防止剤を使用し
た場合とヨウ化銅のようなハロゲン化銅を使用した場合とで物理的特性の保持性と
いう効果に顕著な差が生ずることを予想できないことは後述するとおりであり、こ
の点でも本願発明を想到することは困難である。
   したがって、上記の引用例1の記載を考慮したとしても、甲第5~第11号
証で示した技術常識から、ポリフェニレンエーテルの熱安定性に有害な作用を与え
るハロゲン化銅を相溶化ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドに配合
すればその熱安定性が損なわれるおそれがあると予想されたことに変わりはなく、
本願発明の成分(b)を想到することは困難であったというべきである。
 2 取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)
   審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点(2)(本願発明が熱可塑性
樹脂組成物について「熱老化後の物理的特性の保持性が改良された」と規定するの
に対し、引用例1には添加剤の有する熱老化後の物理的特性の保持性の改良効果が
明記されていない点)について、「ポリアミド樹脂に配合された安定剤の熱安定化
試験として、引用例2では、ポリアミド樹脂のオーブン老化後の物理的特性を測定
して比較検討しているものである。そうすると、熱老化試験は熱安定化試験といえ
るから、結局、熱老化後の物理的特性の保持性と熱安定化とに実質的差異は認めら
れず、また、たとえそうではなくとも、本願発明における熱老化後の物理的特性の
保持性は、少なくとも引用例2の手段を引用例1の組成物に適用することにより得
られることが当業者において容易に想到できる物性にすぎない」(審決書12頁3
行目~13行目)とするが、誤りである。
   すなわち、本件明細書の表4(甲第2号証の1、7頁)には、成分(b)と
してヨウ化銅(CuI)を配合した本願発明の組成物では、フェノール系酸化防止
剤であるイルガノックス1076のみを配合したものに比べ、180°Cで1時間
の熱老化した後の室温及び-30°Cでのノッチ付アイゾット衝撃強さ並びに室温
及び-30°Cでのシャルピー衝撃強さの保持性が格段に改善され、酸素摂取量も
格段に低減することが記載されており、同表2(6頁)には、成分(b)としてヨ
ウ化銅(CuI)を配合した本願発明の組成物では、イルガノックス1076とヨ
ウ化カリウム(KI)の組合せを配合したものに比べて、400°F~425°F
で1~2時間熱老化処理した後の室温ダイナタップ衝撃強さの保持性が格段に改善
されたことが明記されている。ここで、対照安定剤として用いられたイルガノック
ス1076は慣用のフェノール系酸化防止剤であり、ハロゲン化銅と同様にポリア
ミドの熱安定化剤として周知であった。したがって、審決のいう「引用例2の手段
を引用例1の組成物に適用」(審決書12頁11行目~12行目)したとしても、
安定剤の選択いかんによって、本願発明で問題とする熱老化後の物理的物性の保持
性という効果に格段の差異が生ずるのであり、引用例1、2からは、イルガノック
ス1076のようなヒンダードフェノール系酸化剤を使用した場合とヨウ化銅のよ
うなハロゲン化銅を使用した場合との顕著な効果の差は予測することができず、本
願発明を想到することは困難であったというべきである。
   引用例1は、変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に任意成
分として添加し得る安定剤には概してポリアミド用の熱安定剤が含まれる旨が示さ
れているにすぎず、変成ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定
化が具体的課題として提示されているわけでも、変性ポリフェニレンエーテル-ポ
リアミド樹脂組成物の熱安定化のためにポリアミド用の熱安定剤を採用する旨が明
示されているわけでもなく、まして、すべてのポリアミド用熱安定剤が有効である
と保証したものでもない。
   引用例2には、ポリアミド樹脂用の安定剤でポリアミド樹脂のオーブン老化
後の破断時伸びの保持性に改善が見られたとの記載があるとしても、同様の効果が
変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に対する熱安定剤の配合でも
得られるとは限らず、むしろ、前述のとおり、ポリフェニレンエーテルの熱安定性
に銅化合物が有害な影響を及ぼし、変色及び熱分解の原因となることが周知であっ
たことにかんがみれば、ハロゲン化銅を変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド
樹脂ブレンドに配合するとポリフェニレンエーテル成分の熱分解が起こって変性ポ
リフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドの熱安定性を損なうことが予想さ
れる。したがって、ポリアミド樹脂についての熱老化後の物理的特性の保持性とポ
リフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂に対する熱安定剤の配合とを実質的に同一
に考えることはできない。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(相違点(1)についての判断の誤り)について
   原告は、甲第5~第11号証に基づいて、ポリフェニレンエーテルから銅イ
オンをできるだけ除去することが本願発明出願当時の技術常識であって、本願発明
の阻害要因であった旨主張する。確かに、甲第5~第11号証は、ポリフェニレン
エーテルの製造時に使用した触媒化合物である銅塩化合物が存在するとポリマーの
変色及び分解が起こるとして、金属触媒残留物を除去することの必要性を述べたも
のであるが、以下に述べるとおり、これらは本願発明の阻害要因となるものではな
い。
   まず、引用例1(甲第3号証)には、「本発明の実施に当たって使用するの
に好適な安定剤には一般にポリアミドまたはポリフェニレンエーテルの何れかと使
用するのに好適な既知の任意の熱および酸化安定剤を殆んど含む。特に好ましいの
はポリアミドに使用するのに好適な安定剤である。例えば・・・ヒンダードフェノ
ールおよびカリウムおよび第一銅塩の組合せを含む安定剤パッケージを使用しう
る。」(9頁右下欄8行目~15行目)と記載されており、ポリアミドに通常使用
されている代表的な安定剤であるヒンダードフェノール、カリウム及び第一銅塩を
使用すれば、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の安定剤として十分
その効果が得られることが述べられている。また、引用例1の実施例70には、ポ
リフェニレンエーテルが30、ポリアミド6.6が40、安定剤(ヒンダードフェ
ノール酸化防止剤と熱安定剤としてのカリウムおよび第一銅塩を含有する安定剤パ
ッケージ)が0.3を含む組成物が開示されている(15頁表14)。そうする
と、変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドに対しては、ポリフェ
ニレンエーテルと第一銅塩との関係は考慮する必要がないことを示しているのであ
って、仮に、原告の主張するような阻害要因があったとしても、それは引用例1に
おいて払拭されているのである。
   当業者がこれらの記載に接した場合、すなわち、引用例1において第一銅塩
を含むポリアミドの安定化剤が変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレ
ンドの熱安定剤として有効であるとの教示を得た場合には、変性ポリフェニレンエ
ーテル-ポリアミド樹脂ブレンドの安定化に当たって、少なくとも第一銅塩は有効
であると考えるのであって、上記甲号各証の知見は本願発明の阻害要因とはなり得
ないのである。
 2 取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)について
   原告は、引用例1、2からはイルガノックス1076のようなヒンダードフ
ェノール系酸化防止剤を使用した場合とヨウ化銅のようなハロゲン化銅を使用した
場合とで物理的特性の保持性という効果に顕著な差が生ずることは予想することが
できず、本願発明を想到することはできない旨主張するが、引用例1の特許請求の
範囲の請求項27、28には、「27 更に難燃剤、着色剤および安定剤からなる
群から選択した少なくとも1種の添加剤を有効量含有する請求の範囲第1項の組成
物/28 安定剤をヒンダードフェノール、ホスファイトおよびホスフェート、カ
リウム塩および第一銅塩およびそれの組み合わせからなる群から選択する請求の範
囲第27項記載の組成物」とあり、第一銅塩単独の使用も含む安定剤の態様が明確
に記載されている。そうすると、これに接した当業者は、上記のとおり示された安
定剤の成分を単独で又は組み合わせて実施し、安定化効果の比較をするなどして、
好適な安定剤の選択を決定するのであり、本願発明を想到するのに格別のことはな
い。
   また、原告は、甲第5~第11号証に基づいて、ハロゲン化銅を変性ポリフ
ェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドに配合するとポリフェニレンエーテル
成分の熱分解が起こって変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドの
熱安定性を損なうことが予想され、ポリアミド樹脂についての熱老化後の物理的特
性の保持性とポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂に対する熱安定剤の配合と
を実質的に同一に考えることはできない旨主張する。
   しかし、甲第5~第9号証において、ポリフェニレンエーテルの熱安定性に
有害な影響を及ぼす旨記載されている銅化合物は、ポリフェニレンエーテルを製造
する際に触媒として用いられる銅-アミン錯体化合物である。したがって、引用例
2に記載のポリアミド樹脂の安定剤として使用できる銅塩までがポリフェニレンエ
ーテルの熱安定性に有害な影響を及ぼすことを意味するものではない。また、甲第
10、第11号証において、ポリフェニレンエーテルの分解に影響を与える旨記載
されているのは、塩化第二銅塩化合物及びCu+2イオンについてであり、引用例
1記載の第一銅塩化合物、引用例2記載のハロゲン化銅(第一銅塩化合物の一種)
の影響についてまで示しているものではない。したがって、甲第5~第11号証の
上記記載は、引用例2の第一銅塩であるヨウ化銅を引用例1の第一銅塩として採用
することに対して、何ら阻害要因となるものではない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点(1)についての判断の誤り)について
   原告は、甲第5~第11号証に基づいて、ポリフェニレンエーテルから銅化
合物をできるだけ除去することが本願発明の特許出願当時の技術常識であって、本
願発明の阻害要因であった旨主張する。
   確かに、甲第5号証の「ポリマーが金属残留物で汚染されていると変色およ
び分解をもたらすので反応溶液(およびポリマー)から金属触媒残留物を除去する
ことが重要である」(1頁右下欄14行目~17行目)との記載を初めとして、甲
第5~第9号証には、ポリフェニレンエーテルを製造した場合、銅-アミン錯体そ
の他の触媒残留物が除去されないと、変色や分解の原因となることが記載されてお
り、また、甲第10、第11号証には、塩化第二銅塩化合物及びCu+2イオンの
存在がポリフェニレンエーテルの分解に影響を与えることを実験によって示す記載
のあることが認められる。そして、ポリフェニレンエーテル製造のための触媒の代
表例として第一銅塩が引用例1(甲第3号証6頁右上欄末行~左下欄15行目)に
明示されていることからすると、甲第5~第11号証からは、第一銅塩であるハロ
ゲン化銅についても、ポリフェニレンエーテルの熱安定性に有害な影響を与える存
在として、これをできるだけ除去することが技術常識であったものと認めることが
できる。
   しかし、第一銅塩とポリフェニレンエーテルとの関係における上記の知見
を、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物について類推することの妥当
性については、第一銅塩とポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物との関
係を直接示す具体的な知見が本願発明の出願当時示されていたかどうか等を踏まえ
て、更に検討する必要がある。
   このような観点から見るに、まず、引用例1(甲第3号証)の(ポリフェニ
レンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンド熱可塑性樹脂組成物に添加する安定剤とし
て)「特に好ましいのはポリアミドに使用するのに好適な安定剤である。例え
ば・・・ヒンダードフェノールおよびカリウムおよび第一銅塩の組合せを含む安定
剤パッケージを使用しうる」(9頁右下欄11行目~15行目)との記載は、ヒン
ダードフェノール、カリウム及び第一銅塩の組合せによる「安定剤パッケージ」に
関する記載であって、第一銅塩自体としての熱安定化の効果を示すものとしては必
ずしも十分とはいえないものの、その特許請求の範囲の請求項28は、ポリフェニ
レンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に添加する安定剤を「ヒンダードフェノー
ル、ホスファイトおよびホスフェート、カリウム塩および第一銅塩およびそれらの
組合せからなる群から選択する」と記載しており、第一銅塩の単独又は組合せによ
る使用が明記されていることが認められる。すなわち、第一銅塩がポリフェニレン
エーテル-ポリアミド樹脂組成物に添加する安定剤として有用であることが明らか
に示されているということができるから、引用例1記載のポリフェニレンエーテル
-ポリアミド樹脂組成物の安定剤として、引用例2記載のハロゲン化銅を組み合わ
せることに格別の困難はないというべきである。他方、甲第5~第11号証によっ
て示される前記技術常識は、第一銅塩とポリフェニレンエーテルとの関係に関する
ものにすぎず、第一銅塩をポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の安定
剤として使用することを直接開示している引用例1の上記記載を踏まえると、ポリ
フェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物についてまで類推することはできない
といわざるを得ず、したがって、本願発明の阻害要因となるものではない。そし
て、他に刊行物1、2記載の各発明の組合せを困難とする格別の事情も見当たらな
いから、これに基づいて、本願発明の成分(b)を想到することが容易であるとし
た審決の相違点(1)に係る判断に誤りはないというべきである。
 2 取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)について
   原告は、引用例1、2からは、イルガノックス1076のようなヒンダード
フェノール系酸化剤を使用した場合とヨウ化銅のようなハロゲン化銅を使用した場
合との顕著な効果の差は予測することができず、本願発明を想到することは困難で
ある旨主張する。しかし、引用例1記載のポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹
脂組成物の熱安定化のために、ヒンダードフェノールや第一銅塩等が単独で又は組
み合わせて使用することができるという知見が示されていることは前示のとおりで
ある。そして、本願発明の要旨が規定する「熱老化後の物理的特性の保持性が改良
された」との要件が、原告主張のように、ヒンダードフェノール系酸化剤を使用し
た場合とヨウ化銅のようなハロゲン化銅を使用した場合との顕著な効果の差につい
ての具体的な開示がなければ想到することができないとは考えられず、ポリフェニ
レンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定化のためにポリアミド樹脂に配合さ
れる安定剤を使用するとの引用例1の記載及びポリアミド樹脂の安定剤としてハロ
ゲン化銅化合物を採用して、オーブン老化後の物理的特性を測定して比較した引用
例2の記載から容易に想到することができる程度のものというべきである。
   また、原告は、ポリフェニレンエーテルの熱安定性に銅化合物が有害な影響
を及ぼすことは甲第5~第11号証に記載のとおり周知であるから、ハロゲン化銅
をポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドに配合するとポリフェニレン
エーテル成分の熱分解が起こってポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレン
ドの熱安定を損なうことが予想される旨主張する。しかし、前示のとおり、引用例
1に、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定剤として第一銅塩
を使用することができるとの明らかな記載がある以上、この記載は、甲第5~第1
1号証に基づく上記知見がポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に類推
されるのではないかとの予想を覆す確かな技術情報として受け入れることができる
ものであって、結局、原告の主張に係る上記の周知の知見は、ポリフェニレンエー
テル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定剤として第一銅塩が有効であると考えること
に対し、何ら障害となるものとはいえない。
   よって、相違点(2)についての審決の判断に誤りはないというべきである。
 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並
びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7
条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 長  沢  幸  男
    裁判官 宮  坂  昌  利

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