弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告が原告に対して平成17年1月6日付けでした別紙目録の番号欄記載1か
ら34までの公文書の一部開示決定のうち,同目録の番号欄記載2及び4の公文書
について氏名を非開示とした部分並びに同目録の番号欄記載1から34までの公文
書について印影を非開示とした部分を取り消す。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担と
する。
事実及び理由
第1請求
被告が原告に対して平成17年1月6日付けでした別紙目録の番号欄記載1
から34までの公文書の一部開示決定のうち,同目録の番号欄記載2及び4の公
文書について次の1及び3の部分を非開示とした部分並びに同目録の番号欄記
載1から34までの公文書について次の2及び4の部分を非開示とした部分を取
り消す。
1氏名
2印影
3「契約目途額」欄に記載された金額
4「予定価格」欄に記載された金額
第2事案の概要
1本件は,原告が,平成16年12月24日,東京都情報公開条例(平成11
年東京都条例第5号。以下「本件条例」という。)に基づき,被告に対し,平
成16年に行われた警察官の制服の購入契約に係る予定価格,入札価格及び落
札価格が分かる公文書の開示を請求した(以下,この開示請求を「本件開示請
求」という。)ところ,被告が,本件開示請求の対象とされた公文書は別紙目
録の番号欄記載1から34までの公文書であるとした上,同17年1月6日付け
で,①同目録の番号欄記載2及び4の公文書(以下,これら2通の公文書を併
せて「契約締結起案文書」という。)中の「氏名」,②同目録の番号欄記載1,
3及び5から34までの公文書(以下,これら32通の公文書を併せて「入札経
過調書」という。)並びに契約締結起案文書中の「印影」,③契約締結起案文
書中の「契約目途額」欄に記載された金額,並びに④入札経過調書及び契約締
結起案文書中の「予定価格」欄に記載された金額を非開示とし,その余を開示
する旨の一部開示決定(以下「本件決定」という。)をしたため,原告が,被
告に対し,本件決定のうち非開示とされた部分の取消しを求める事案である。
2関係法令の定め
別紙1のとおり
3前提となる事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。なお,証拠若しくは弁論の全
趣旨により容易に認めることのできる事実又は当裁判所に顕著な事実は,その
旨付記しており,それ以外の事実は,当事者間に争いがない。
(1)当事者
ア原告は,東京都の区域内に法律事務所を有する弁護士である。(弁論の
全趣旨)
イ被告は,本件条例2条1項にいう実施機関である。
(2)本件開示請求から本件訴えの提起に至るまでの経緯等
ア原告は,被告に対し,平成16年12月24日,本件条例5条2号に基
づき,本件開示請求をした。
イ被告は,本件開示請求の対象とされた公文書は別紙目録の番号欄記載1
から34までの公文書であるとした上,原告に対し,平成17年1月6日付
けで,①契約締結起案文書中の「氏名」が本件条例7条2号に,②入札経
過調書及び契約締結起案文書中の「印影」が本件条例7条2号に,③契約
締結起案文書中の「契約目途額」欄に記載された金額が本件条例7条6号
に,④入札経過調書及び契約締結起案文書中の「予定価格」欄に記載され
た金額が本件条例7条6号に,それぞれ該当することを理由に,これらの
記載部分を非開示とする旨の本件決定をした。
ウ(ア)被告が契約締結起案文書中の「氏名」として開示しなかったのは,
契約締結起案文書をそれぞれ起案した警視庁の職員の氏名(以下,これ
らの職員の氏名を「本件各非開示氏名」という。)である。
(イ)被告が入札経過調書及び契約締結起案文書中の「印影」として開示
しなかったのは,①入札経過調書中の「被服係長」欄の各印影,②入札
経過調書中の「主査」欄の各印影,③入札経過調書の「担当者」欄の各
印影,④入札経過調書のうち,別紙目録の番号欄記載7の公文書(以下
「入札経過調書(文書番号第3号)」という。甲9)中の「P1㈱α営
業所」の「第1回入札金額」欄の数字の訂正印の印影,⑤入札経過調書
(文書番号第3号)中の「㈱P2」の「第1回入札金額」欄の数字の訂
正印の印影,⑥入札経過調書のうち,別紙目録の番号欄記載9の公文書
(以下「入札経過調書(文書番号第5号)」という。甲11)中の「P
3㈱」の「第1回入札金額」欄の数字の訂正印の印影,⑦契約締結起案
文書中の「起案」欄のうち,「主査」欄の各印影,⑧契約締結起案文書
中の「起案」欄のうち,「事務担当者」欄の各印影,並びに⑨契約締結
起案文書中の「審議」欄のうち,「係長」欄の各印影(以下,上記①か
ら⑨までの各印影を併せて「本件各非開示印影」という。)である。
(ウ)被告が契約締結起案文書中の「契約目途額」欄に記載された金額と
して開示しなかったのは,いずれも警視庁総務部装備課(以下「装備
課」という。)が実施した競争入札又は随意契約における契約目途額の
金額であり,また,被告が入札経過調書中の「予定価格」欄に記載され
た金額として開示しなかったのは,いずれも装備課が実施した競争入札
又は随意契約における予定価格の金額であり,また,被告が契約締結起
案文書中の「予定価格」欄に記載された金額として開示しなかったのは,
装備課が実施した競争入札又は随意契約における予定価格の金額及び同
欄に見積書比較価格として記載された金額である(以下,契約締結起案
文書中の「契約目途額」欄に記載されている契約目途額の金額,入札経
過調書中の「予定価格」欄に記載された予定価格の金額,契約締結起案
文書中の「予定価格」欄に記載された予定価格の金額及び契約締結起案
文書中の「予定価格」欄に見積書比較価格として記載された金額を併せ
て「本件各非開示金額」という。)
(エ)したがって,本件決定の非開示部分は,本件各非開示氏名,本件各
非開示印影及び本件各非開示金額である。
エ原告は,平成17年3月16日,本件決定の非開示部分の取消しを求める
訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実)
4争点
(1)本件各非開示氏名に含まれる情報が,本件条例7条2号所定の非開示情報
に該当するか(争点1)。
(2)本件各非開示印影に含まれる情報が,本件条例7条2号所定の非開示情報
に該当するか(争点2)。
(3)本件各非開示金額に含まれる情報が,本件条例7条6号所定の非開示情報
に該当するか(争点3)。
5争点に関する当事者の主張の要旨
(1)被告の主張
別紙2のとおり
(2)原告の主張
別紙3のとおり
第3争点に対する判断
1証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実を認めることができる(認定証
拠は,以下の認定事実の後に付記することとする。)。
(1)契約締結起案文書は,警視庁が警察官の制服を納入する業者との間で警察
官の制服を購入する旨の随意契約を締結するに当たり,警視庁で制服の購入
を取り扱う部署である装備課被服係において作成したものである。(甲4,
6,弁論の全趣旨)
(2)入札経過調書は,警視庁が警察官の制服を納入する業者との間で警察官の
制服を購入する際に行った競争入札の結果を明らかにするために,装備課被
服係において作成したものである。(甲3,5,7から36まで,弁論の全
趣旨)
(3)本件各非開示氏名は,契約締結起案文書の起案欄のうち主査欄に記載され
た装備課主査の職にある者の氏名であり,同人は,契約締結起案文書を起案
した者である。(甲4,6,弁論の全趣旨)
(4)本件各非開示印影として,
ア入札経過調書の「被服係長」欄には,それぞれ装備課被服係長の職にあ
る者が同欄に押印した際の印影があり,また,入札経過調書の「主査」欄
には,それぞれ装備課主査の職にある者が同欄に押印した際の印影があり,
また,入札経過調書の「担当者」欄には,それぞれ装備課入札担当者の職
にある者が同欄に押印した際の印影がある。(甲3,5,7から36まで,
弁論の全趣旨)
イ入札経過調書(文書番号第3号)の「P1㈱α営業所」の「第1回入札
金額」欄には,装備課入札担当者の職にある者が同欄中の訂正した数字に
訂正印を押印した際の印影があり,入札経過調書(文書番号第3号)の
「㈱P2」の「第1回入札金額」欄には,装備課入札担当者の職にある者
が同欄中の訂正した数字に訂正印を押印した際の印影があり,入札経過調
書(文書番号第5号)の「P3㈱」の「第1回入札金額」欄には,装備課
入札担当者の職にある者が同欄中の訂正した数字に訂正印を押印した際の
印影がある。(甲9,11,弁論の全趣旨)
ウ契約締結起案文書中の「起案」欄のうち「事務担当者」欄には,それぞ
れ装備課入札担当者の職にある者が同欄に押印した際の印影があり,また,
契約締結起案文書中の「審議」欄のうち「係長」欄には,それぞれ装備課
被服係長の職にある者が同欄に押印した際の印影がある。(甲4,6,弁
論の全趣旨)
エ契約締結起案文書中の「起案」欄のうち「主査」欄には,それぞれ装備
課主査の職にある者が同欄に押印した際の印影がある。(甲4,6,弁論
の全趣旨)
オ本件各非開示印影中には,その所有に係る印章の押印によって装備課被
服係長,装備課主査及び装備課入札担当者の各職にある者の姓が,鮮明に
顕出されている。(弁論の全趣旨)
(5)装備課被服係長の職にある者は,入札経過調書及び契約締結起案文書を決
裁した者であり,装備課主査の職にある者は,入札経過調書を決裁し,契約
締結起案文書を起案した者であり,装備課入札担当者の職にある者は,入札
経過調書を起案した者である。(甲3から36まで,弁論の全趣旨)
(6)ア警視庁は,都民との信頼関係を築き,警察活動を円滑に進めることを目
的として,慣行として,都民に対して,管理職又は同相当職の立場にある
職員(警視庁本部にあっては課長代理(管理官)以上,警察署にあっては
課長以上)の氏名,役職及び配置所属を公にすることとし,人事異動の際
には,その内容を主要な新聞において公表している。(乙7の1から6ま
で,弁論の全趣旨)
イ装備課被服係長,装備課主査及び装備課入札担当者の各職にある者は,
いずれも,管理職又は同相当職の立場にある職員ではない。(弁論の全趣
旨)
(7)ア入札経過調書及び契約締結起案文書中の「予定価格」とは,契約価格の
一応の基準となる価格として,普通地方公共団体が契約を締結する場合に
あらかじめ作成するものであり,その金額(消費税及び地方消費税の額を
含む。)は,契約目途額を基礎として金額が決定される。普通地方公共団
体は,競争入札に付する場合には,予定価格の制限の範囲内で最低の価格
をもって申込みをした者を契約の相手方とするものとされている(地方自
治法234条3項)から,予定価格は,実質的に契約予定金額の上限とし
ての性質を有する。(弁論の全趣旨)
イ契約締結起案文書中の「契約目途額」とは,契約を発注する普通地方公
共団体の担当者が,景気の動向や消費者物価指数,取引の実例価格,需給
の状況,履行の難易,数量の多寡,履行期間の長短等を考慮して,標準的
な業者から物品等を調達するのに必要と思われる適正な費用をあらかじめ
推測し算出した金額である。予定価格は契約目途額を基礎として決定され
るから,契約目途額は,契約における予算額であり,実質的に予定価格の
上限としての性質を有するとともに,予定価格と極めて近似した金額であ
る。(弁論の全趣旨)
ウ契約締結起案文書中の「予定価格」欄のうちの,見積書比較価格とは,
予定価格から消費税及び地方消費税の額を控除した残額である。(弁論の
全趣旨)
2争点1(本件各非開示氏名に含まれる情報が,本件条例7条2号所定の非開
示情報に該当するか。)について
(1)本件各非開示氏名の本件条例7条2号本文該当性について
ア本件条例7条2号本文に規定する「個人に関する情報」は,「事業を営
む個人の当該事業に関する情報」が除外されている以外には何ら限定され
ていないから,個人の思想,信条,健康状態,所得,学歴,家族構成,住
所等の私事に関する情報に限定されるものではなく,個人にかかわりのあ
る情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るものは,原則
として,同号本文に規定する「個人に関する情報」に該当すると解するの
が相当である(最高裁平成10年(行ヒ)第54号同15年11月11日第
三小法廷判決・民集57巻10号1387頁等参照)。
イこれを本件についてみるに,本件各非開示氏名は,契約締結起案文書の
起案欄のうち,主査欄に記載された装備課主査の職にある者の氏名である。
そうすると,契約締結起案文書に記録された本件各非開示氏名に含まれる
各情報は,個人にかかわりのある情報であって,特定の個人が識別され得
るものであるから,本件条例7条2号本文所定の非開示情報に当たるとい
うべきである。
(2)本件各非開示氏名の本件条例7条2号ただし書ハ該当性について
ア原告は,本件各非開示氏名に含まれる情報が本件条例7条2号ただし書
ハに該当する旨の明確な主張はしていない。しかし,原告が,「情報公開
法の制定運営に関する検討会報告」及び総務省取扱方針を根拠に,都の公
務員がその職務として作成した契約締結起案文書に記録された情報に含ま
れる当該公務員の氏名は,公務遂行に係る情報として開示すべきである旨
主張していることからすると,原告は,本件各非開示氏名に含まれる情報
が本件条例7条2号ただし書ハに該当する旨の主張を黙示的にしているも
のと解することができる。そこで,以下,判断する。
イ本件条例7条2号ただし書ハの規定は,個人に関する情報のうち,当該
個人が公務員である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報
であるときは,「当該情報のうち,当該公務員の職及び当該職務遂行の内
容に係る部分」を開示すべきものとしているものの,当該公務員の氏名を
開示すべきか否かについては明文の規定を置いていない。しかし,本件条
例が,「都が都政に関し都民に説明する責務を全うするようにし,都民の
理解と批判の下に公正で透明な行政を推進し,都民による都政への参加を
進めるのに資すること」を目的とし,そのために公文書の開示を請求する
都民の権利を明らかにして,都政に関する情報を広く都民に公開すること
を趣旨とするものであること(1条)からすれば,都の公務員の職務の遂
行に関する情報が記録された公文書については,当該情報に公務員個人の
私事に関する情報が含まれる場合を除き,本件条例が当該公務員の氏名を
非公開とすることができるものとしているとは解し難いというべきである。
ウ前記認定事実のとおり,契約締結起案文書は,警視庁が制服を納入する
業者との間で随意契約を締結するために,警視庁で制服の購入を取り扱う
部署である装備課被服係において作成されたものであり,本件各非開示氏
名は,契約締結起案文書の起案欄のうち主査欄に記載された装備課主査の
職にある者の氏名であり,同人は,契約締結起案文書を起案した公務員で
ある。
そうすると,契約締結起案文書に記録された本件各非開示氏名に含まれ
る情報は,都の公務員がその職務として作成した契約締結起案文書につい
てその起案者を明らかにする趣旨で契約締結起案文書に記録された情報で
あると解されるところ,これが都の公務員個人の私事に関する情報を含む
ものでないことは明らかであるから,本件条例がこのような公務員の氏名
を非公開とすることができるものとしているとはいえないというべきであ
る。被告は,警視庁の職員の氏名を公にすると,公務員の私生活に影響を
及ぼすおそれがあり得るから,個人情報として保護に値する旨主張するが,
既に判示したところに照らし,少なくとも本件各非開示氏名については,
上記主張を採用することはできない。
したがって,本件各非開示氏名に含まれる情報は,都の公務員の職及び
職務遂行の内容に係る情報として,本件条例7条2号ただし書ハ所定の情
報に当たるというべきである。
(3)小括
以上によれば,本件各非開示氏名に含まれる情報は,本件条例7条2号所
定の非開示情報には当たらないというべきである。
3争点2(本件各非開示印影に含まれる情報が,本件条例7条2号所定の非開
示情報に該当するか。)について
(1)本件各非開示印影の本件条例7条2号本文該当性について
本件条例7条2号本文にいう「他の情報と照合することにより,特定の個
人を識別することができることとなるもの」とは,その情報自体からは特定
の個人を識別することはできないが,当該情報と他の情報とを照合すること
により,特定の個人を識別することができることとなる情報をいうものと解
されるところ,公文書に押された印影には,通常その印影を顕出した印章の
所有者の姓が刻されているから,公文書に押された印影は,他の情報と照合
することにより特定の個人を識別することができることとなる情報であると
いうことができる。
したがって,本件各非開示印影に含まれる情報は,個人に関する情報で,
特定の個人を識別することができるものであるから,本件条例7条2号本文
所定の非開示情報に当たるというべきである。
(2)本件各非開示印影の本件条例7条2号ただし書ハ該当性について
ア原告は,本件各非開示印影に含まれる情報が本件条例7条2号ただし書
ハに該当する旨の主張を黙示的にしているものと解することができるので,
以下,判断する。
イ前記認定事実のとおり,①契約締結起案文書は,警視庁が制服を納入す
る業者との間で随意契約を締結するために,警視庁で制服の購入を取り扱
う部署である装備課被服係において作成したものであり,②入札経過調書
は,警視庁が制服を納入する業者との間で制服の購入契約の際に行った競
争入札の結果を明らかにするために,装備課被服係において作成したもの
であり,③本件各非開示印影は,装備課被服係長,装備課主査及び装備課
入札担当者の各職にある者が契約締結起案文書及び入札経過調書の所定の
欄にそれぞれ押印した際の印影であり,④本件各非開示印影中には,その
所有に係る印章の押印によって装備課被服係長,装備課主査及び装備課入
札担当者の各職にある者の姓が鮮明に顕出されており,⑤装備課被服係長
の職にある者は,それぞれ入札経過調書及び契約締結起案文書を決裁した
者であり,装備課主査の職にある者は,入札経過調書を決裁し,契約締結
起案文書を起案した者であり,装備課入札担当者の職にある者は,入札経
過調書を起案した者である。
そうすると,契約締結起案文書及び入札経過調書に記録された本件各非
開示印影は,都の公務員がその職務として作成した契約締結起案文書及び
入札経過調書について,その起案者又は決裁者を明らかにする趣旨で記録
された情報であると解されるところ,これが当該公務員個人の私事に関す
る情報を含むものでないことは,明らかである。
したがって,本件各非開示印影に含まれる情報は,都の公務員の職務の
遂行に関する情報であるから,本件条例7条2号ただし書ハ所定の情報に
当たるというべきである。
(3)小括
以上によれば,本件各非開示印影に含まれる情報は,本件条例7条2号所
定の非開示情報には当たらないというべきである。
4争点3(本件各非開示金額に含まれる情報が,本件条例7条6号所定の非開
示情報に該当するか。)について
(1)本件条例7条6号の意義について
本件条例7条6号は,都の機関又は国,独立行政法人等若しくは他の地方
公共団体が行う事務又は事業に関する情報を公にすることによって,同号イ
からヘまでに例示されたものを含め,およそ当該事務又は事業の適正な遂行
に支障を生ずることが予測される場合において,当該事務又は事業の性質に
照らして,当該事務又は事業に関する情報を公にすることによる利益と支障
とを比較衡量した結果,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそ
れが,公にすることの公益性を考慮しても,なお看過し得ない程度のもので
あり,かつ,それが,単なる抽象的な可能性にとどまらず,具体的なおそれ
であると認められるときは,当該事務又は事業に関する情報を開示しないこ
とができることとしたものと解するのが相当である。
(2)本件各非開示金額の本件条例7条6号該当性について
ア前記認定事実によると,契約締結起案文書中の「契約目途額」欄に記載
されている契約目途額の金額は,いずれも装備課が警察官の制服という物
品の購入のために実施した競争入札又は随意契約における契約目途額その
ものであり,また,入札経過調書中の「予定価格」欄に記載された予定価
格の金額並びに契約締結起案文書中の「予定価格」欄に記載された予定価
格の金額及び見積書比較価格の金額は,いずれも装備課が警察官の制服と
いう物品の購入のために実施した競争入札又は随意契約における予定価格
そのものである。したがって,本件各非開示金額は,いずれも都の機関で
ある警視庁が警察官の制服の購入のために実施した競争入札又は契約とい
う事務に関する情報に該当する。
そして,本件条例7条6号柱書にいう「当該事務又は事業」には,同種
の事務又は事業が反復される場合の将来の事務又は事業も含まれると解さ
れるから,本件各非開示金額に含まれる各情報を公にすることにより,将
来,警察官の制服等の購入のために実施する競争入札又は契約の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがあることを認めることができる場合には,本件
各非開示金額に含まれる情報は,本件条例7条6号所定の非開示情報に該
当するということができる。
イ被告は,物品の購入契約を競争入札の方法により締結しようとする場合
に,契約の締結後に予定価格,契約目途額及び見積書比較価格を公表する
と,その後に行われる当該物品と同一又は同種の物品の購入契約における
予定価格を容易に類推することができることになり,実質的には予定価格
を事前に公表するのと同様の結果となって,同額入札が増加する状況,高
止まりの落札価格で契約せざるを得ない状況及び談合を誘発する状況がそ
れぞれ生ずるおそれがあるが,上記の各状況をそのまま放置することは,
競争入札の参加者間の公正かつ真しな競争により地方公共団体にとって最
も有利な契約締結を保障しようとする競争入札という方式による契約の制
度趣旨が根本から否定されることにもなりかねない上,都の財産上の利益
を不当に害するおそれがあるから,本件各非開示金額に含まれる情報を公
にすることにより,警察官の制服等の購入のために実施する競争入札又は
契約に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある旨主張するの
で,以下,検討する。
ウ被告の主張する状況が生ずる具体的なおそれについて
(ア)a本件各非開示金額の一つである予定価格は,契約価格の一応の基
準となる価格として,普通地方公共団体が契約を締結する場合にあら
かじめ算出するものであるから,物品の購入契約を競争入札の方法に
より締結した後,上記競争入札の方法により購入された物品と同一又
は同種の物品の購入契約を再び競争入札の方法により締結しようとす
るとき(以下,既に行われた競争入札を「前の競争入札」といい,次
に行おうとする競争入札を「次の競争入札」という。)に,前の競争
入札における予定価格が前の競争入札に係る契約の締結後に開示され
ると,これに基づいて次の競争入札の予定価格を推察することができ
る。特に,物品の競争入札においては,公共工事等の場合と比べて予
定価格を算出する際に考慮される構成要素が少ないので,前の競争入
札からそれほどの時を経過していない時点において実施される次の競
争入札においては,その予定価格を相当の精度をもって容易に推察す
ることができると考えられる。殊に,警察官の制服のような物品は,
成果品を反復継続して購入するものであるから,当該物品の発注数や
品目(例えば,夏服上衣,冬服上衣など)が同様であれば,次の競争
入札における予定価格が前の競争入札における予定価格と同額又はそ
れに近い金額になることは容易に想定することができるのであり,そ
の上,過去数年間の当該物品の購入契約の予定価格の推移及び当該物
品の成果品の仕様書とを比較して調査分析した結果も加味すれば,次
の競争入札における予定価格が判明し,又は相当の精度をもって推察
されることになるということができる。
bまた,本件各非開示金額の一つである契約目途額は,取引の実例価
格,需給の状況,履行の難易,数量の多寡,履行期間の長短等を考慮
して適正に設定するものであるが,予定価格を算出する基準であり,
実質的に予定価格の上限としての性質を有するとともに,予定価格と
極めて近似した金額であることからすると,前の競争入札における契
約目途額が前の競争入札に係る契約の締結後に開示されると,予定価
格が開示された場合と同様の事態が生ずるというべきである。
cさらに,本件各非開示金額の一つである見積書比較価格は,予定価
格から消費税及び地方消費税の額を控除した残額であり,予定価格そ
のものといえるから,前の競争入札における見積書比較価格が前の競
争入札に係る契約の締結後に開示されると,予定価格が開示された場
合と同様の事態が生ずるというべきである。
dそうすると,物品の購入契約を競争入札の方法により締結した後に,
当該競争入札における予定価格,契約目途額又は見積書比較価格を開
示すると,その後に当該物品と同一又は同種の物品の購入契約を競争
入札の方法により締結しようとして行う際の競争入札においてその予
定価格を相当の精度をもって推察することができることになるという
べきである。
(イ)そして,このように次の競争入札における予定価格が相当の精度を
もって推察される場合においては,次の競争入札に参加する物品の納入
業者は,これによって次の競争入札において落札の可能な金額の目安を
入手することができることになり,その結果,真剣な見積り作業を行う
意欲を失わせることになり,適正な競争が阻害されて,落札価格が予定
価格に近接して高止まりの金額になるという事態の発生が十分に予想さ
れるところであり,また,談合を誘発するおそれも考えられるところで
ある。
(ウ)そうすると,物品の購入契約の予定価格,契約目途額及び見積書比
較価格を契約締結後に公表することにより弊害が生ずるおそれは,単な
る抽象的な可能性にとどまらず,具体的なおそれであると認めることが
できるのであり,また,上記弊害によって,競争入札の参加者間の公正
かつ真しな競争により普通地方公共団体にとって最も有利な契約締結を
保障しようとする競争入札という方式による契約の制度趣旨が根本から
否定されることにもなりかねず,その結果,都の機関である警視庁の財
産上の利益を不当に害するおそれがあるということができるのであって,
競争入札における透明性を向上させることによって予算の効率的な執行
を図ることができるという,物品の購入契約の予定価格を契約締結後に
公表することの利点を考慮しても,上記弊害は,なお看過し得ない程度
のものであると認めることができる。
(エ)a原告は,47都道府県のうち20府県が警察官の制服の予定価格
を公表していること(甲37)からすると,予定価格の公表によって
何ら具体的な支障がないことは明らかである旨主張する。
b確かに,入札手続の透明化のためには予定価格が事後発表されるべ
きであるという考え方が有力になってきており,談合その他の不正行
為を誘発するおそれについては,その監視及び取締体制の強化によっ
て対処すべきであるということもできる。
しかし,物品の購入契約の予定価格,契約目途額及び見積書比較価
格を契約締結後に公表することによって弊害が生ずる具体的なおそれ
があることは,前示のとおりであって,これを考慮すれば,普通地方
公共団体は競争入札に係る物品の購入契約の予定価格を必ずその競争
入札後に公表しなければならないとまでいうことはできず,開示によ
る弊害を重視してこれを非開示とした被告の判断にも相当の理由があ
るのであって,直ちにこれを違法と断ずることはできないというべき
である。
(3)小括
以上によれば,本件各非開示金額に含まれる情報は本件条例7条6号所
定の非開示情報に該当するということができる。
5結論
よって,原告の請求は,前記判示の限度で理由があるからその限度でこれを
認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につ
き,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
杉原則彦裁判長裁判官
鈴木正紀裁判官
松下貴彦裁判官
別紙1
(1)本件条例1条
この条例は,日本国憲法の保障する地方自治の本旨に即し,公文書の開示
を請求する都民の権利を明らかにするとともに情報公開の総合的な推進に関
し必要な事項を定め,もって東京都(以下「都」という。)が都政に関し都
民に説明する責務を全うするようにし,都民の理解と批判の下に公正で透明
な行政を推進し,都民による都政への参加を進めるのに資することを目的と
する。
(2)本件条例2条
1項この条例において「実施機関」とは,…(略)…警視総監…(略)…
をいう。
2項この条例において「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成し,
又は取得した文書,図画,写真,フィルム及び電磁的記録(…(略)…)であ
って,当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有
しているものをいう。(以下省略)
(3)本件条例5条
次に掲げるものは,実施機関に対して公文書の開示を請求することができ
る。
1号(省略)
2号都の区域内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体
3号から5号まで(省略)
(4)本件条例7条
実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る公文書に次の各号
のいずれかに該当する情報(以下「非開示情報」という。)が記録されてい
る場合を除き,開示請求者に対し,当該公文書を開示しなければならない。
1号(省略)
2号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除
く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合す
ることにより,特定の個人を識別することができることとなるものを
含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすること
により,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次
に掲げる情報を除く。
イ法令等の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが
予定されている情報
ロ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必
要であると認められる情報
ハ当該個人が公務員等(国家公務員法(…(略)…)第2条第1項に規
定する国家公務員(独立行政法人通則法(…(略)…)第2条第2項に
規定する特定独立行政法人及び日本郵政公社の役員及び職員を除
く。),独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関
する法律(…(略)…)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。
以下同じ。)の役員及び職員並びに地方公務員法(…(略)…)第2条
に規定する地方公務員をいう。)である場合において,当該情報がそ
の職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員
等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分
3号から5号まで(省略)
6号都の機関又は国,独立行政法人等若しくは他の地方公共団体が行う事
務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げる
おそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な
遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ監査,検査,取締り又は試験に係る事務に関し,正確な事実の把握
を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しく
はその発見を困難にするおそれ
ロ契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等又は地
方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するお
それ
ハ調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻
害するおそれ
ニ人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及
ぼすおそれ
ホ国若しくは地方公共団体が経営する企業又は独立行政法人等に係る
事業に関し,その企業経営上又は事業運営上の正当な利益を害するお
それ
ヘ大学の管理又は運営に係る事務に関し,大学の教育又は研究の自由
が損なわれるおそれ
7号(省略)
以上
別紙2
1争点1(本件各非開示氏名に含まれる情報が,本件条例7条2号所定の
非開示情報に該当するか。)について
(1)本件各非開示氏名の本件条例7条2号本文該当性について
ア本件条例7条2号本文にいう「特定の個人を識別することができ
る」とは,氏名,住所,生年月日その他の記述等により特定の個人で
あると明らかに識別することができ,又は識別される可能性がある場
合をいい,同号本文にいう「他の情報と照合することにより,特定の
個人を識別することができるもの」とは,その情報自体からは特定の
個人を識別することはできないが,当該情報と他の情報とを照合する
ことにより,特定の個人を識別することができることとなる情報をい
い(乙6),公務員の氏名は,公務員の職務遂行に係る情報に含まれ
る場合であっても,これを公にした場合,公務員の私生活に影響を及
ぼすおそれがあり得ることから,個人情報として保護に値すると位置
付け,本件条例7条2号ただし書により開示及び非開示の判断を行う
こととなる。
イ本件各非開示氏名は,契約締結起案文書の起案者の氏名であり,個
人に関する情報で特定の個人を識別することができる情報であるから,
本件条例7条2号本文に該当する。
(2)本件各非開示氏名の本件条例7条2号ただし書非該当性について
ア(ア)警察活動は,一般に権力的に人の行為の自然の自由を制限する
ものであり,具体的には犯罪の捜査,被疑者の逮捕,交通の取締り,
行政処分の執行,職務質問など,諸々の形態の職務執行を通じて公
共の安全と秩序の維持に当たるものである(警察法2条1項)から,
警察活動としての職務執行の相手方の中には,警視庁の職員が正当
な職務執行をしているにもかかわらず,これを逆恨みして,様々な
手段と態様で報復等をする場合がある。
他方,警視庁の職員といえども,家庭に入れば,一市民として平
穏かつ安全な生活を送り,プライバシーを含めてその私生活を脅か
されない権利を有する。
仮に,本件条例に基づく情報公開制度を通じて警視庁の職員の氏
名のみならず警視庁全体の組織構成等を知り得ることになると,氏
名を公にされた警視庁の職員及びその家族が無用の不安と恐怖を感
じざるを得ない事態にもなり,これによって個々の職員の職務執行
がい縮し,ひいては公共の安全と秩序の維持に当たる警視庁の活動
が停滞し,又は低調となり,公共の安全と秩序の維持に支障が生ず
るおそれがある。
そのため,警視庁は,その職員及び家族に対するテロ又はゲリラ,
脅迫,嫌がらせ等の行為を防止して,その生命,身体及び財産の安
全を確保し,職員が安心して警察活動に従事することができるよう
にするために職員録の類を作成せず,また,慣行として都民との信
頼関係を築き,警察活動を円滑に進める上で,都民に対して,管理
職又は同相当職の立場にある職員(警視庁本部にあっては課長代理
(管理官)以上,警察署にあっては課長以上)の氏名,役職及び配
置所属を公にすることとし,人事異動の際には,その内容を主要な
新聞において公表している(乙7の1から6まで)ものの,それ以
外の職員の氏名については公にしておらず,公にすることを予定し
ていないのであり,また,警視庁の職員の氏名をその階級等にかか
わらずこれを一般公開することを定めた法令等の規定も存在しない
のである。
(イ)したがって,管理職又は同相当職の立場にある職員以外の警視
庁の職員の氏名は,本件条例7条2号ただし書に該当しない。
イ本件各非開示氏名は,契約締結起案文書の起案者の氏名であり,同
人の役職は装備課主査,すなわち,管理職又は同相当職の立場にある
職員以外の警視庁の職員であるから,本件条例7条2号ただし書には
該当しない。
2争点2(本件各非開示印影に含まれる情報が,本件条例7条2号所定の
非開示情報に該当するか。)について
(1)本件各非開示印影の本件条例7条2号本文該当性について
警視庁の職員が公文書に押印したり,決裁を押印によって行ったりし
た場合には,上記押印の際に用いた印章に刻まれた職員の姓が鮮明に印
影となって公文書に顕出されるため,その印影自体又は他の情報と照合
することにより,押印をした職員を容易に識別することができる。
本件各非開示印影のうち,入札経過調書中の「被服係長」欄の各印影
は,装備課被服係長の職にある者の印影であり,また,入札経過調書中
の「主査」欄の各印影は,装備課主査の職にある者の印影であり,また,
入札経過調書中の「担当者」欄の各印影は,装備課入札担当者の職にあ
る者の印影であり,また,入札経過調書(文書番号第3号)中の「P1
㈱α営業所」の「第1回入札金額」欄の数字の訂正印の印影,入札経過
調書(文書番号第3号)中の「㈱P2」の「第1回入札金額」欄の数字
の訂正印の印影及び入札経過調書(文書番号第5号)中の「P3㈱」の
「第1回入札金額」欄の数字の訂正印の印影は,いずれも装備課入札担
当者の職にある者の印影であり,また,契約締結起案文書中の「起案」
欄のうち,「主査」欄の各印影は,装備課主査の職にある者の印影であ
り,また,契約締結起案文書中の「起案」欄のうち,「事務担当者」欄
の各印影は,装備課入札担当者の職にある者の印影であり,また,契約
締結起案文書中の「審議」欄のうち,「係長」欄の各印影は,装備課被
服係長の職にある者の印影である。
そして,本件各非開示印影中には,装備課被服係長,装備課主査及び
装備課入札担当者の各職にある者の姓が,鮮明に顕出されているため,
本件各非開示印影,開示されている装備課被服係長,装備課主査及び装
備課入札担当者の各職及びその他の情報を総合すれば,高い確率におい
て装備課被服係長,装備課主査及び装備課入札担当者の氏名を特定する
ことができる。
そうすると,本件各非開示印影を含む入札経過調書及び契約締結起案
文書の決裁者及び起案者の起案に関する情報は,入札経過調書及び契約
締結起案文書の決裁者及び起案者の個人に関する情報で,かつ,入札経
過調書及び契約締結起案文書の決裁者及び起案者の印影により当該決裁
者及び起案者を識別することができるものであるから,本件条例7条2
号本文に該当する。
(2)本件各非開示印影の本件条例7条2号ただし書非該当性について
本件各非開示印影は,入札経過調書及び契約締結起案文書の決裁者及
び起案者の印影であり,同人らの役職は,装備課被服係長,装備課主査
又は装備課入札担当者,すなわち,管理職又は同相当職の立場にある職
員以外の警視庁の職員であるから,本件条例7条2号ただし書イには該
当せず,本件各非開示印影に含まれる情報は,同号ただし書には該当し
ない。
3争点3(本件各非開示金額に含まれる情報が,本件条例7条6号所定の
非開示情報に該当するか。)について
(1)契約目途額,予定価格及び見積書比較価格の意義について
ア契約目途額とは,契約の発注者である普通地方公共団体の担当者が,
景気の動向や消費者物価指数,取引の実例価格,需給の状況等を勘案
して,標準的な業者から物品等を調達する場合に必要と思われる適正
な費用をあらかじめ推測し算出した金額,すなわち,契約における予
算額であり,実質的に予定価格の上限としての性質を有するとともに,
予定価格と極めて近似した金額である。
イ予定価格とは,普通地方公共団体が契約を締結する場合にあらかじ
め算出する契約価格の一応の基準となる価格である。普通地方公共団
体は,競争入札に付する場合には,予定価格の制限の範囲内で最低の
価格をもって申込みをした者を契約の相手方とすると定められている
(地方自治法234条3項)から,予定価格は,実質的に契約予定金
額の上限としての性質を有している。予定価格は,取引の実例価格,
需給の状況,履行の難易,数量の多寡,履行期間の長短等を考慮して
適正に計算した金額,すなわち,契約目途額を基礎として,金額(消
費税及び地方消費税の額を含む。)が決定される。
ウ契約締結起案文書中の「予定価格」欄のうち,見積書比較価格とは,
予定価格から消費税及び地方消費税の額を控除した残額である。これ
は,契約の相手方の見積金額が消費税及び地方消費税の額を含まない
金額であることから,契約の相手方の見積金額(税抜き)と予定価格
(税込み)との比較を容易にするためのものである。
(2)本件各非開示金額の本件条例7条6号該当性について
ア本件条例7条6号柱書にいう「当該事務又は事業」には,同種の事
務又は事業が反復される場合の将来の事務又は事業も含まれる。
イ契約締結起案文書中の「契約目途額」欄に記載されている契約目途
額の金額は,いずれも装備課が実施した競争入札又は随意契約におけ
る契約目途額そのものであり,また,入札経過調書中の「予定価格」
欄に記載された予定価格の金額並びに契約締結起案文書中の「予定価
格」欄に記載された予定価格の金額及び見積書比較価格の金額は,い
ずれも装備課が実施した競争入札又は随意契約における予定価格その
ものであるから,都の機関である警視庁が行う競争入札又は契約とい
う事務に関する情報に該当する。
ウ次のとおり,本件各非開示金額を公開することには弊害があり,こ
れを回避する必要がある。
(ア)a物品の予定価格は,取引の実例価格,需給の状況,履行の難
易,数量の多寡,履行期間の長短等を考慮して適正に設定するも
のであり,入札の前後を問わず,予定価格を公表すると,予定価
格と落札価格から「落札価格の予定価格に対する割合」を算定す
ることができ,以後の同種物品の調達における予定価格が類推さ
れる可能性がある。
また,物品の入札の場合には,公共工事の場合と比べて予定価
格を算出する際に考慮される構成要素が少ないため,予定価格を
公表すると,積算の考え方がより分かりやすくなり,今後,反復
継続して行われる同種契約の予定価格が判明し,又は高い精度で
推測されるおそれがある。殊に,警察官の制服のような物品の場
合には,成果品を反復継続して購入するものであるから,入札後
に予定価格を公表すると,次回に発注する制服の発注数や品目
(夏服上衣,冬服上衣など)がほとんど変わらない場合には,そ
の予定価格が前回の予定価格と近い金額になることは容易に類推
することができ,また,過去数年間の予定価格の推移及び成果品
の仕様書を比較して調査分析すれば,かなり高い精度で予定価格
を類推することができることになり,実質的には予定価格を事前
に公表するのと同様の結果となる。
b契約目途額は,予定価格を算出する基準であり,実質的に予定
価格の上限としての性質を有するとともに,予定価格と極めて近
似した金額であることからすると,入札の前後を問わず,契約目
途額を公表すると,予定価格を類推される可能性が大であるから,
予定価格の公表と同様の弊害を誘発することになる。
c見積書比較価格は,予定価格から消費税及び地方消費税の額を
控除した残額であり,予定価格そのものといえるから,予定価格
の公表と同様の弊害を誘発することになる。
(イ)a入札後に予定価格,契約目途額及び見積書比較価格を公表す
ることによって,第1に,同額入札が増加し,落札業者がくじで
決まるケースが増加する(乙2の1)。
b入札後に予定価格,契約目途額及び見積書比較価格を公表する
ことによって,第2に,落札価格が高止まりとなり,適正な競争
が阻害されるおそれがある。
すなわち,入札実施前に予定価格,契約目途額及び見積書比較
価格がほぼ正確に類推することができる場合,入札参加者は,入
札可能な積算の目安を入手する結果,業務の効率化,経費の縮減
を図るなど,価格競争を勝ち抜くための企業努力をしなくなるば
かりか,その価格が目安となって,競争が制限されて落札価格が
高止まりとなるおそれがあり,入札業者が公表された金額にとら
われて自身で真剣な見積作業を行う意欲を失うことになって,企
業努力が行われなかったり,技術的競争が失われたりするなど,
結果として適正な競争が阻害されるおそれがある。したがって,
現在の警視庁の警察官の制服の契約事務は,公正で自由な競争の
下で行われているということができるが,予定価格,契約目途額
及び見積書比較価格を公表すれば,上記のような入札価格のばら
つきがなくなり,落札価格の高止まりが生ずるおそれがあるので
ある。
c入札後に予定価格,契約目途額及び見積書比較価格を公表する
ことによって,第3に,次のとおり,他の入札参加者との価格調
整,すなわち,談合を誘発するおそれがあり,ひいては,予定価
格直下への入札価格の集中をもたらすおそれがある。
(a)一般競争入札であれ,指名競争入札であれ,入札とは,入
札参加者のうち最も普通地方公共団体に有利な価格を表示した
者,すなわち,落札者と契約を締結する方法であり,入札参加
者の間において談合が成立していなければ,入札参加者は,他
の入札参加者との競争上,独自に積算を努力し,経営判断等を
加味した入札価格を設定することになるが,他の入札参加者と
競争すれば,入札価格が下がり,そのため落札することができ
たとしても,当該入札から得られる利潤は少なくなる。そこで,
入札参加者が談合してより有利な価格で談合した入札参加者の
だれかが落札することが将来にわたって望ましいという意識が
芽生えるのであり,ここに談合が生ずる契機がある。
(b)予定価格の金額が幾らであるかに関する情報を入手するこ
とができないまま談合を行った場合には,談合した入札参加者
のうち,落札する予定であった者(以下「本命の入札参加者」
という。)が当該入札において設定されていた最低制限価格を
下回る入札をして失格し,談合した入札参加者のうち,落札す
る予定ではなかった他の入札参加者が落札したり,本命の入札
参加者の入札価格が予定価格を上回って指名替えの措置がとら
れ,談合した入札参加者以外の入札参加者が落札したりする事
態が生ずる可能性があるが,予定価格が事前に判明していれば,
上記の事態を回避して確実に本命の入札参加者が落札すること
ができるというメリットが生ずるものと考えられる。
(c)しかも,予定価格が事前に判明していれば,本命の入札参
加者の入札価格を予定価格直下に設定することができ,これに
よって談合した入札参加者の得る利益を最大限確保することが
容易になる。
(d)したがって,入札後に予定価格,契約目途額及び見積書比
較価格を公表することは,談合を誘発するおそれがあるばかり
か,入札参加者による談合を維持し,拡大させる誘因となり,
談合をより生じさせやすくなるおそれがあるというべきである
(乙2の2から2の4まで)。
(ウ)そして,同額入札が増加する状況,高止まりの落札価格で契約
せざるを得ない状況及び談合を誘発する状況をそのまま放置するこ
とは,入札参加者間の公正かつ真しな競争により地方公共団体にと
って最も有利な契約締結を保障しようとする競争入札という方式に
よる契約の制度趣旨が根本から否定されることにもなりかねない上,
都(警視庁)の財産上の利益を不当に害するおそれがある。したが
って,以上のような状況を回避して適正な競争の維持を図ることは,
契約事務の適正な執行,ひいては税の公正な執行にもつながる。
エ以上によれば,本件各非開示金額に含まれる各情報は,都の機関で
ある警視庁が行う入札又は契約事務に関する情報であって,公にする
ことにより当該事務又は将来の同種の事務の適正な遂行に支障を及ぼ
すおそれがあるから,本件条例7条6号所定の非開示情報に該当する。
(3)原告の主張に対する反論について
ア原告は,「公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関
する指針」(以下「適正化指針」という。甲39)を論拠として,予
定価格は公表されるべきである旨主張する。
イしかし,適正化指針は,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に
関する法律(以下「適正化法」という。)の基本原則である,①入札
及び契約の過程並びに契約の内容の透明性の確保,②入札に参加しよ
うとし,又は契約の相手方になろうとする者の間の公正な競争の促進,
③入札及び契約からの談合その他の不正行為の排除の徹底,④契約さ
れた公共工事の適正な施行の確保を明らかにするために定められたも
のであって,無制限に入札及び契約に関する情報を公表することを義
務付けたものではない。
そして,適正化指針は,予定価格が類推されるおそれがないと認め
られる場合に限って,予定価格の事後公表を認めているにすぎない。
ウ警察官の制服の入札では,前述のとおり,公共工事の場合と比べて
予定価格を算出する際に考慮される構成要素が少ないため,予定価格
を公表すると,積算の考え方がより分かりやすくなり,今後,反復継
続して行われる同種契約の予定価格が判明し,又は高い精度で推測さ
れるおそれがあるから,適正化指針に従ったとしても,入札後に予定
価格を公表すべきではない。
以上
別紙3
1争点1(本件各非開示氏名に含まれる情報が,本件条例7条2号所定の
非開示情報に該当するか。)について
(1)本件各非開示氏名の本件条例7条2号本文該当性について
ア本件条例7条2号本文所定の非開示情報とは,①個人に関する情報
(事業を営む個人の当該事業に係る情報を除く。)で,かつ,②特定
の個人を識別することができる情報(他の情報と照合することにより,
特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)である
ものをいう。
しかし,そもそも本件条例7条2号がプライバシー保護型ではなく,
個人識別型を採用したのは,プライバシーの具体的内容が法的にも社
会通念上も必ずしも明確ではないので,個人のプライバシーを最大限
に保護するために,個人のプライバシーに関する情報であると明らか
に判別することができる場合はもとより,個人のプライバシーに関す
る情報であると推認することができる場合も含めて,個人に関する一
切の情報を原則として非開示とするという考え方に基づくものであり,
そうであるとすれば,個人のプライバシーに関係のない情報は本件条
例7条2号による保護の対象とはならないと解するのが合理的である
から,個人に関する情報とは,個人の私生活ないし私的事項に関する
情報を指し,公にされてしかるべき情報はこれに該当しないと解する
のが相当である。
そして,公務員の氏名は,特定の個人を識別することができる情報
に該当するが,当該公務員の氏名が公務に関する職務上の公文書に記
録されている場合には,当該公文書に当該公務員個人の私生活ないし
私的事項が含まれていることはないから,公務に関する職務上の公文
書に記録されている公務員の氏名は,本件条例7条2号本文には該当
しない。
イ本件各非開示氏名は,契約締結起案文書の起案者の氏名であるから,
本件条例7条2号本文には該当しない。
(2)本件各非開示氏名の本件条例7条2号ただし書該当性について
ア本件条例7条2号ただし書イにいう「法令等の規定により又は慣行
として公にされ…(略)…ている情報」とは,法令等の規定や慣行によ
り,現に何人も容易に入手することができる状態に置かれている情報
をいう。
しかし,平成11年に本件条例を制定した際に本件条例7条2号を
プライバシー保護型ではなく個人識別型としたことによって,本件条
例の制定前から公にすることが適切ではなかった情報若しくは本件条
例の制定後に公にすることが適切ではなくなった情報を開示せず,又
は本件条例の制定前は公にされていなかった個人情報でも本件条例の
制定後は慣行又は公にすることが予定されていればこれを開示すると
いう事態が生じ得るわけであるが,上記事態が適法であるというには,
そもそも本件条例7条2号において開示の対象となる情報が個人のプ
ライバシーに関する情報ないしはこれに類する情報ではないから,こ
れを公にすることが正当化されると説明する方が,プライバシーを最
大限に保護するために本件条例7条2号を個人識別型とした趣旨に合
致するというべきである。
そうすると,「慣行として公にされ…(略)…ている情報」とは,プ
ライバシー保護と公共性との比較考量の結果,単に長年にわたって公
にされていたということだけでなく,公にされてしかるべき公共性が
あるか,又は,プライバシーの侵害性が極めて低いか,いずれかを備
えている情報をいうものと解するのが相当である。
イまた,本件条例7条2号ただし書イにいう「法令等の規定により又
は慣行として…(略)…公にすることが予定されている情報」とは,開
示請求の時点では公にされていないが,将来公にすることが予定され
ている情報をいう。
しかし,上記アに照らせば,「公にすることが予定されている情
報」とは,実施機関において公にすることが具体的に予定されている
場合だけでなく,本件条例の制定前は公にされていなかったが,公共
的な見地から公にされてしかるべき場合も,これに含まれると解すべ
きである。なぜなら,そのように解しないと,一方で,通例公にされ
る情報であっても,公文書の作成者が当該公文書に作成者個人を特定
することができる情報が記録されていることを理由に当該公文書の公
開を拒み,又は,実施機関が当該公文書の作成者の意図をおもんぱか
って当該公文書の公開を拒みさえすれば,多くの行政情報が恣意的に
不開示とされることになり,都政の説明責任は到底全うすることがで
きなくなってしまい,他方で,公文書の作成者の意図はどうあれ,当
該公文書に記録された情報がその性質上通例公にされる情報に当たる
ならば,作成時に個人の思想信条等といったプライバシー権の根幹に
触れるような記載はしないはずであるから,公開によるプライバシー
権の侵害の程度も必ずしも大きくはなく,受忍限度内にとどまるとい
うことができるからである。
そうすると,「公にすることが予定されている」か否かは,当該情
報の客観的な性質上,通例公にされるものであるか否かによって判断
すべきである。
ウ入札経過調書及び契約締結起案文書は,いずれも入札手続の処理に
関する公文書であるから,そこに記録されている情報は,本来公金の
適切な執行がされているかどうかを確認するための情報であり,都民
に対して説明すべき情報である。また,入札経過調書及び契約締結起
案文書に記録された警視庁の職員の氏名は,当該入札手続に関与した
警視庁の職員が入札経過調書及び契約締結起案文書の作成又は決裁等
の手続の処理に際して記載されるものであり,当該入札手続の責任者
として,その責任主体を明示するために記載されたものである。
そうすると,入札経過調書及び契約締結起案文書に記録された警視
庁の職員の氏名は,たとえ現時点においては公開を予定されていなく
ても,その性質上,都政に関する説明責任の一内容として都民に対し
て開示し,その責任主体を明確にするために,これを公開することは,
都民の理解と批判の下に公正で透明な行政を推進するために必要不可
欠であるということができる。
また,入札経過調書及び契約締結起案文書に記録された警視庁の職
員の氏名を公開すれば,警視庁の職員のだれが当該入札経過調書及び
契約締結起案文書の作成に関与したかが明らかとなるが,当該入札手
続に関する処理が適切であれば公務員として賞賛されるかもしれず,
反対に不適切であれば公務員としてしかるべき責任を果たすことにな
ろうが,これは,そもそも警視庁の職員のだれが当該入札経過調書及
び契約締結起案文書の作成に関与したかが明らかとなることによるプ
ライバシー権の侵害などではなく,当該職員の公務遂行に関する評価
であるから,そもそも受忍限度論以前の問題である。また,それ以上
に当該職員の氏名が明らかになったことによって,何か回復不可能な
プライバシー権の侵害が招来されるとは,入札手続処理上,想定し難
いところである。
また,実際にも,行政における情報公開の要請の高まっている今日
においては,既に全国の自治体で入札手続の処理に関する公文書の公
開が進んでおり,入札経過調書及び契約締結起案文書のみを例外的に
取り扱うべき理由は,全く見当たらない。
さらに,情報公開法の制度運営に関する検討会が平成17年3月2
9日付けでした「情報公開法の制度運営に関する検討会報告」(以下
「検討会報告」という。甲43)は,公務員の職務遂行に係る情報に
含まれる当該公務員の氏名については,私事にわたる部分を除き,原
則公開とすべきであるとし,また,総務省取扱方針は,公務員の職務
遂行に係る情報に含まれる当該公務員の氏名については,氏名を公に
することにより情報公開法5条2号から6号までに掲げる不開示情報
を公にすることとなるような場合又は氏名を公にすることにより個人
の権利利益を害することになるような場合を除き,開示することとし,
今後情報公開法に基づく開示請求がされた場合には,「慣行として公
にされ,又は公にすることが予定されている情報」(情報公開法5条
1号ただしイ)に該当するものとして,開示されることになる。
以上によれば,入札経過調書及び契約締結起案文書に記録された氏
名は,その性質上通例公にされるべき情報に当たるというべきであり,
本件条例7条2号ただし書イに該当する。
エ本件各非開示氏名は,契約締結起案文書中の「起案」欄のうち,
「主査」欄に記録された氏名であるが,これは,契約締結起案文書の
作成に関する責任主体を明らかにするために記載されたものであり,
当該随意契約を適切かつ妥当に行ったか否か,当該随意契約の結果を
適切に記録しているか否か等を確認するためには,その性質上通例公
にされるべき情報であるというべきであるから,本件条例7条2号た
だし書イに該当する。
2争点2(本件各非開示印影に含まれる情報が,本件条例7条2号所定の
非開示情報に該当するか。)について
(1)本件各非開示印影の本件条例7条2号本文該当性について
ア通常,印影は,氏名と組み合わせることによって,初めて当該個人
による作成の真正を法律上推定させる機能を有するものである(民事
訴訟法228条4項)。実際にも印影は,姓のみのものが大部分であ
り,公務員が職務上使用する印鑑も,三文判等の普及品であることが
多く,同一又は類似の印影も多数使用されており,さらには,公務員
が職務上使用する印影は実印ではないから,印鑑登録されていること
もあり得ない。
そうすると,一般的には,姓のみから成る印影だけでは,当該個人
の姓が識別されるだけであり,名までは識別されないから,特定の個
人を識別することができるとはいえない。
イ本件各非開示印影は,決裁印又は訂正印として印影しかなく,印影
に対応する氏名が記載されていないから,特定の個人を識別すること
ができる情報には該当しない。
したがって,本件各非開示印影は,個人に関する情報で特定の個人
が識別される得るものには該当しない。
(2)本件各非開示印影の本件条例7条2号ただし書イ該当性について
ア前述したところによれば,入札経過調書及び契約締結起案文書に記
録された本件各非開示印影は,その性質上通例公にされるべき情報に
当たるというべきであり,本件条例7条2号ただし書イ所定の例外的
開示情報に該当する。
イ本件各非開示印影のうち,契約締結起案文書中の「起案」欄の「主
査」欄に記録された印影については,「主査」欄には,当該印影を印
章によって顕出した警視庁職員の氏名も記録されているから,これと
相まって,特定の個人を識別することができる情報に該当するという
ことができる。しかし,上記印影は,契約締結起案文書の作成責任者
を明示するために警視庁職員が印章によって顕出したものであり,入
札手続を適切に行ったか否か,入札手続の経過及び結果を適切に記録
しているか否か等を確認し,これらを明らかにするためには,その性
質上通例公にされるべき情報であるというべきであるから,本件条例
7条2号ただし書イ所定の例外的開示情報に該当する。
3争点3(本件各非開示金額に含まれる情報が,本件条例7条6号所定の
非開示情報に該当するか。)について
(1)本件条例7条6号が情報の非開示によって保護される法益を事務又は
事業の適正な遂行と規定していることに照らせば,情報の開示によって
発生する支障は,名目的なものではなく実質的なものに限る趣旨であり,
支障が生ずるおそれも,抽象的可能性では足りず,具体的支障が生ずる
蓋然性を要する趣旨であると解すべきである。
(2)しかし,次のアからカまでによると,本件各非開示金額の開示は,都
の機関である警視庁が行う競争入札若しくは契約事務又は将来の同種の
事務の適正な遂行にいかなる実質的又は具体的な支障も及ぼすおそれが
あるものではない。
ア警察官の制服の入札では入札参加者が毎回ほとんど同じであり,入
札参加者が仕入れる制服の生地の仕入先は同一であるといわれている
から,制服の生地の仕入価格はどの入札参加者でもほとんど同じにな
るはずであるから,入札価格に差が出るのは,人件費くらいである。
そして,同じ品質の同じ規格の製品について毎年入札に参加していれ
ば,予定価格が事後に公表されなくても,次回に警視庁が発注する警
察官の制服の予定価格をほぼ正確に予測することができるようになる。
したがって,予定価格を事後に公表するか否かによって,入札参加
者が予定価格をかなり高い精度で類推することができるか否かが左右
されるものではない。
イ反復継続的な物品購入,例えば,A4版コピー用紙の予定価格は,
47都道府県のうち31府県がこれを公表しており,また,警察官の
制服の予定価格は,20府県がこれを公表していること(甲37)か
らすると,予定価格の公表によって,何ら具体的な支障がないことは,
明らかである。
ウ予定価格を公表すると,最低制限価格での同額入札が増え,落札者
がくじ引きで決まることが激増していると評価することができるよう
な事実があるとはいえない。
むしろ最低制限価格での同額入札によりくじ引きがされるケースが
ある(乙2の1)というのは,予定価格,契約目途額及び見積書比較
価格の公表によって,談合を防止することができる効果を期待するこ
とができることを意味する。
また,入札制度は,入札参加者間の公正かつ真しな競争により普通
地方公共団体にとって最も有利な契約締結を保障しようとする制度で
あるから,発注者である普通地方公共団体が定めた最低制限価格での
発注が確保されることは,普通地方公共団体にとって最も有利な契約
締結を実現することができることとなるのであって,入札契約制度な
いしその事務にとって何ら支障となるものではない。
エ予定価格が公表されても,落札しようとする入札参加者は,他の入
札参加者よりも入札金額を低くしなければ,落札することはできない
から,予定価格が公表されたからといって,直ちに入札参加者が競争
意欲を失って,競争せずに予定価格に極めて近い価格で入札するなど
という事態が生ずるわけがない。
また,契約金額自体及び各入札参加者の各入札価格は,事後に公表
されているから,事前又は事後に予定価格が公表されることによって,
入札参加者が真剣な見積作業を行う意欲を失う等の弊害が生じること
は,あり得ない。
オ入札参加者が他の入札参加者と談合していない場合には,予定価格
が事前に公表されていても,他の入札参加者の入札行動が読めなけれ
ば,落札することは不可能であるから,予定価格の公表が談合の誘因
にはなり得ない。
また,入札参加者が談合している場合には,予定価格があらかじめ
把握されていると否とに関係なく,本命の入札参加者は,予定価格に
密接した水準で受注することが可能である。なぜなら,入札参加者全
員の入札価格が数回入札を繰り返しても,予定価格を超えている場合
には,相対的な最低入札者との間で随意契約を締結することが認めら
れている(地方自治法施行令167条の2第1項6号)ので,本命の
入札参加者の予定入札価格を常識的な水準よりも高めに設定し,かつ,
他の入札参加者の予定入札価格を本命の入札参加者の予定入札価格よ
りも相対的に高く設定すれば,最終的には本命の入札参加者が落札す
ることができ,目的を達することができるからである。
したがって,予定価格の公表が談合を誘発することはない。
カ(ア)建設業法に基づく建設大臣の諮問機関であった中央建設業審議
会の平成5年12月建議における多数意見は,予定価格を公にする
ことにより,今後,反復,継続して行われる同種契約の予定価格が
判明し,又は高い精度で推測されることから,適正な入札や契約事
務等の遂行に支障を及ぼすおそれがあるというものであった。しか
し,行政改革委員会法に基づく内閣総理大臣の諮問機関であった行
政改革委員会は,平成9年12月に発表した「最終意見」において,
「予定価格の事後発表には,発注者がコスト縮減努力をしているか,
コスト縮減に反することをしていないかについて,納税者等が関心
を持ち,監視することを可能とする条件を整えるというメリットが
ある」と指摘し,同月20日に上記「最終意見」を「最大限尊重し
…(略)…所要の施策を実施に移す」ことが閣議決定されると,中央
建設業審議会は,平成10年2月4日建議において,「予定価格の
事後公表が,不正な入札の抑止力となり得ることや,積算の妥当性
の向上に資することから,これに踏み切り,その具体的な方法等に
ついて検討を開始すべきである」とし,建設省建設経済局長と自治
省行政局長は,連名で,上記建議等の趣旨を踏まえた入札手続の透
明化をすべての地方公共団体に要請するに至り,平成12年11月
27日には適正化法が制定され,適正化法15条に基づく適正化指
針が平成13年3月9日に閣議決定された。
適正化指針は,「入札及び契約に関する透明性の確保は,公共工
事の入札及び契約に関し不正行為の防止を図るとともに,国民に対
してそれが適正に行われていることを明らかにする上で不可欠であ
ることから,入札及び契約に係る情報については,公表することを
基本とし,法第2章に定めるもののほか,次に掲げるものに該当す
る者がある場合においては,それについて公表することとする。」
として,適正化法第2章で定める情報(入札金額,契約金額等)の
ほか,「予定価格及びその積算内訳」が公表すべき情報に指定され
(甲39),公表の時期について,「地方公共団体においては,法
令上の制約はないことから,各団体において適切と判断する場合に
は,事前公表を行うこともできるものとする。」と明言した。
平成15年度には,公共工事の予定価格を事後的にも公表しない
という団体は,都道府県及び政令指定都市では皆無であり,47都
道府県のうち42団体及び13政令指定都市の全部は,全案件又は
一部の案件について予定価格を入札執行前に公表している(甲4
0)。
(イ)予定価格が公表されることによって,初めて当該予定価格の設
定水準自体の適否を広く国民又は識者の吟味の対象とすることがで
き,また,入札者の入札行動の一貫性の有無をチェックすることが
可能となる。そのため適正化指針は,「予定価格及びその積算内
訳」の公表を奨励しているのである。
(ウ)本件非開示金額は,警察官の制服という物品の購入契約の予定
価格,契約目途額及び見積書比較価格であって,適正化指針で取り
上げられている工事請負契約とは別種の類型の契約である。しかし,
地方自治法234条に定める入札制度及び予定価格制度は,契約の
種類の別なく適用され,また,予定価格の事前開示によって入札参
加者の談合が誘発されるという因果関係が存在しないことも,すべ
ての種類の契約に通じて共通に確認し得ることであるから,上記イ
は,本件各非開示金額にも当てはまるというべきである。
(3)以上によれば,本件各非開示金額を公にすることにより当該事務又は
将来の同種の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるということ
はできない。
以上

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