弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定及び原裁判所が言渡した被告人Aに対する詐欺被告事件につき昭
和三五年一二月一六日午前一〇時の判決宣告期日を昭和三六年一〇月三一日午前一
〇時と変更する旨の決定は、これを取消す。
         理    由
 大阪地方検察庁検事正橋本乾三の特別抗告の趣意は末尾添付のとおりである。
 職権を以て調査するに、被告人Aは、何れも一個の詐欺に当る公訴事実記載ある
昭和三四年一月二七日付、同年二月一一日付及び同年七月三日付の起訴状により、
計三個の犯罪につき、原裁判所に起訴され、共同正犯者として起訴されたB、Cと
共同審理を受けた。原裁判所は、同年五月一四日の第一回公判期日より同三五年一
二月七日の第一八回公判期日まで審理を重ね、当事者請求の証拠をすべて取調べ、
右第一八回公判期日に弁論を終結し、判決宣告期日を同三五年一二月一六日午前一
〇時と指定告知した。右指定の判決宣告期日には、被告人A及び前記共同被告人B、
同C並びに被告人Aの弁護人華園信由等が出頭し、原裁判所は、右共同被告人B、
同Cに対し、何れも全部無罪の判決を言渡したけれども、被告人Aに対してのみは、
職権により判決宣告期日を昭和三六年一〇月三一日午前一〇時に変更する旨告知し
た。以上の事実は記録によつて明らかである。また前記共同被告人B、同Cに対す
る判決書によれば、原裁判所は結局右両名については実行者としても共謀者として
も犯罪の証明がないとしているのであるが、その結論に至る過程的説明として、理
由中特に「第二、Aの行為と責任」と題する項を設け、両名と共同正犯者として起
訴された被告人Aの前記公訴事実につき、若干の判断を示している。それによれば、
前記昭和三四年一月二七日付、同年二月一一日付各起訴状記載の公訴事実について
は、被告人Aの罪責を肯定し、昭和三四年七月三日付起訴状記載の公訴事実につい
ては、被告人Aについても証明不十分であると説示している。
 しかも全記録によるも、証拠調その他犯罪事実及び情状そのものについての審理
を更に続行し或は再開する必要上被告人Aに対する判決宣告期日を延期したものと
認むべき事迹は、全くこれを見出し得ない。
 一般的にいえば、判決前において、事実審の心証をたやすく推測し得るものでな
く、また濫りにこれを為すべきものでもないが、前叙の公判審理の経緯、右共同被
告人に対する判決並びに原決定によつても認め得る如く、被告事件についての審理
が判決に熟して居るのであつて、原審も亦更に審理の続行、再開を要する点のある
ことを公判期日変更の理由としているものではないこと、その他記録にあらわれた
一切の事情を綜合勘案するときは、本件の場合においては、被告人Aについても他
の共同被告人の場合と同様、一旦指定した判決宣告期日に判決を言い渡し得る段階
にあつたものと推定せざるを得ない。それにも拘らず原裁判所は、判決宣告期日を
一挙に約一〇月半後の期日に変更したのである。原決定によれば、その変更の理由
について、原裁判所は、「適正、公正なりと信ずる裁判をするため、前記のような
期日の変更を行つた」「刑事訴訟法及び同規則の各一条が表明しているように、刑
事裁判というものは、迅速になされることのみをもつて最良とされているわけでは
なく、更にそれが適正、公正なものでなければならないのである。そして何が適正、
公正であるかについては、もとより種々の観点から考えなければならないことであ
るが、少くとも法規の明文に合致するかどうかによつてそれが判断されるというこ
とだけでは足りず、更に一歩を進めて、それに加えその法規の具現する精神にかな
つたものでなければならないと思われる。従つて、迅速に事件を処理することが、
ある種の事情により、被告人にとつて苛酷な結果を招来する虞あると考えられるが
如き場合にあつては、その公判期日を指定するに当り、通常の事件以上の期間をお
くこともまた許されるものと考えている。」「このことは、ただに公判期日を指定
するに当り考慮さるべき事柄ではなくして、公判期日が指定された後において、さ
ような配慮を用うべきであると確信づけられた場合にあつても、また妥当するもの
と考えられ、それは正に刑事訴訟規則第一八二条第一項にいわゆる『やむを得ない
』事情に当るものと解される」と説示しているのである。
 原決定のいうところは、これを本件具体的事案に即して考えると、先に指定した
判決宣告期日に被告人Aに対し判決を言渡すことは、原裁判所自らの見解に立てば、
「或る種の事情により」苛酷な結果を招来する虞があり、裁判の適正、公正を所期
する法の精神にかなわないと認められるのであり、適正、公正なりと信ずる裁判を
するために、判決宣告を右の期間延期したものであり、かかる事由は刑訴規則一八
二条一項にいわゆる「やむを得ない」事情に当るというに帰着する。而して、原決
定のいう「或る種の事情」とは、原決定自体によつても明らかなように、時の経過
によつて除去される性質を持つ法律上の制限をいうものと解せられるのであつて、
その時の経過の間に原審において、何等かの審理を試みようとしているのではない
点等から見るときは、前記の約一〇月半の期間は、審理に必然に伴う時の経過では
なくして、原裁判所自らの見解が以つて適正、公正であるとする判決を宣告しよう
としても、時の経過という必要条件の具備する事実関係が、昭和三五年一二月一六
日の判決宣告期日当時において確立せられるに至らない所から、原裁判所は、こと
さらその条件の具備する事実関係を創り上げ、その事実関係に基いて右見解に適合
する判決を宣告する意図の下に、専ら時の経過を計る目的を以つて、右期日を昭和
三六年一〇月三一日に変更したものであり、かゝる措置を敢えてしてもなお、原決
定にいう適正、公正な裁判を為すべきであるとしているものと解するの外はない。
 然し刑事裁判においては、訴訟法規の軌道に乗つた上での実体法規の正当な適用
こそが、裁判の適正、公正を保障するものであつて、原決定のいう「裁判の適正、
公正」の内容なるものは前叙によつて明らかなように、第一に、既に判決を宣告し
得る訴訟段階にあるのに、一挙に約一〇月半も言渡のみを延ばしたという通常な手
続とは到底解されないものがある点において、第二に、原決定が、弁論終結時に指
定した期日に判決を宣告すれば、「被告人に苛酷な結果を招来する」云々としてい
るのは、実定刑法法規に従つた法律適用の結果が、原裁判所自らにとり被告人に対
し苛酷な観があることを以て、直ちに恰もその法律適用が裁判の適正の要請にかな
わないものとする原裁判所独自の見解に基くものである点において、容認し得ない。
従つて、原決定の説明する如き理由で公判期日を変更して約一〇月半の期間経過自
体を待つことは、明らかに刑事訴訟における迅速な裁判の要請に反し、刑訴一条の
趣旨を没却する訴訟の遅延を招来するものといわなければならない。それ故亦、原
決定の説明する如き事由は、審理の促進、継続を図る趣旨に出た刑訴規則一八二条
一項にいわゆる「やむを得ないと認める場合」に当るものでないこと明らかである。
 本件公判期日変更について、立会検察官及び被告人又はその弁護人の意見を聴か
なかつたことは、原裁判所が原決定中自ら認める所である。此の手続上の瑕疵(そ
れが原決定のいう様に、異議申立当時既に治癒されていたものとは認められない)
を経由として、検察官から、右公判期日変更は刑訴規則一八二条一項等に違反する
とし、速かに相当な新期日に変更することを求めるため為された異議申立を棄却し
た原決定は、前叙の様に、刑訴規則一八二条一項の解釈を誤つた違法があるものと
考えられる。従つて原決定を破棄しなければ著しく正義に反するものと認むべきで
あり、かかる場合には、最高裁判所は、刑訴四一一条を準用して職権破棄権を発動
し得るものと解すべきである(昭和二五年(し)第六四号同二六年四月一三日第二
小法廷決定、集五巻五号九〇二頁、昭和三一年(し)第二五号同年八月二二日第二
小法廷決定、集一〇巻八号一二七三頁参照)から、本件特別抗告における他の理由
を判断するまでもなく、所論期日変更決定に対する異議申立を棄却した原決定及び
所論変更決定は取消を免れない。原裁判所は、速かに本決定の趣旨に従つた処置を
執るべきである。
 よつて、刑訴四三四条、四二六条二項に則り、裁判官全員一致の意見で主文のと
おり決定する。
  昭和三六年五月九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    島           保
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔
 裁判官 河村又介は公務出張中につき記名押印することができない。
         裁判長裁判官    石   坂   修   一

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