弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人表権七の上告趣意第一点は、原審が何ら事実の取調をしないで第一審の科
刑(懲役一年)を被告人の不利益に変更(懲役一年六月)したことについて、違憲
を主張する。しかし控訴裁判所が、何ら事実の取調をしないで、検察官の控訴趣意
を容れ第一審判決を量刑不当として破棄し、みずから訴訟記録および第一審で取り
調べた証拠のみによつて、本件の如く第一審より重い刑を言い渡しても、憲法三一
条及び刑訴第四〇〇条但書に違反しないことは、当裁判所判例の趣旨とするところ
であり(昭和二六年(あ)第一六八八号、同三〇年六月二二日大法廷判決、刑集九
巻八号一一八九頁判決要旨第六点。同二七年(あ)第四二二三号、同三一年七月一
八日大法廷判決、刑集一〇巻七号一一七三頁判決要旨第二点。同三〇年(あ)第一
九八四号、同三二年二月一五日大法廷決定、刑集一一巻二号七五六頁。同三一年(
あ)第三五九六号、同三二年四月一七日第二小法廷決定、刑集一一巻四号一三八五
頁各参照)、また控訴裁判所が、第一審の有罪判決の刑より重い刑の判決を求める
検察官の上訴に基いて、第一審の科刑を被告人の不利益に変更することが刑訴第四
〇二条に違反しないのは勿論のこと、憲法第三九条に違反して、同一犯罪について、
重ねて刑事上の責任を問うものでもないことも当裁判所の判例とするところである
(昭和二四年新(れ)第二二号、同二五年九月二七日大法廷判決、刑集四巻九号一
八〇五頁参照)。論旨は採ることができない。第二点は、違憲をいうも実質は重く
科刑を変更したことについての原判決の理由は不備であるとの訴訟法違反の主張を
でず、第三点は、量刑不当の主張であつて、これらはいずれも刑訴四〇五条の上告
理由に当らない。
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官小谷勝重同河村大助の少数意見を除き裁判官一致
の意見で主文のとおり判決する。
 論旨第一点に対する裁判官小谷勝重の少数意見は、前掲昭和三〇年六月二二日言
渡しの大法廷判決に附した同裁判官の少数意見をここに引用する。
 裁判官河村大助の少数意見
 原判決は、第一審が被告人を懲役一年に処する旨言い渡した判決を破棄自判し、
被告人を懲役一年六月に処する旨の言渡をなしたのであるが、記録によれば原審は
自ら何等事実の取調をなしていないこと明らかである。右のように原審が第一審で
言い渡した刑よりも重い懲役刑に改めるには、自ら事実の取調を行うことを要し、
さもなければ第一審に差し戻すべきものである。この点において原判決は刑訴四〇
〇条但書の解釈を誤つた違法があり破棄を免れない。
  昭和三三年六月二七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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