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平成25年3月26日判決言渡
平成24年(行ケ)第1号選挙無効請求事件
主文
1平成24年12月16日に行われた衆議院議員選挙の小選挙区岡山県第
2区における選挙を無効とする。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,平成24年12月16日現在の公職選挙法で定める衆議院議員小
選挙区選挙の区割りに関する規定は,人口比例に基づいて選挙区割りされて
いないので,憲法(前文第1段落・第1文,56条2項,59条,67条,
60条2項,61条,44条但し書,13条,15条,14条)に違反し無
効であるとして,衆議院議員小選挙区岡山県第2区(以下「衆議院議員小選
挙区」の記載を省略する。)の選挙人である原告が,被告に対し,同規定に
基づいて同日施行された衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)の
岡山県第2区における選挙を無効とすることを求める事案である。
2前提事実(争いがない事実,証拠(甲1,5,7,18,21,乙10)及
び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)原告は,本件選挙の岡山県第2区の選挙人である。
(2)本件選挙のうち小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」とい
う。)は,公職選挙法(公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律
第95号)による改正後のもの。以下同じ。)13条1項,別表第1の選挙
区及び議員定数の定め(以下,これらを併せて「本件区割規定」といい,本
件区割規定に基づく選挙区割りを「本件選挙区割り」という。)に従って施
行された。
(3)本件選挙施行当時の衆議院議員の選挙制度は,衆議院議員の定数は48
0人,そのうち300人が小選挙区選出議員,180人が比例代表選出議員
とされ(公職選挙法4条1項),小選挙区選挙については,全国に300の
選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出し,比例代表選出議員の
選挙(以下「比例代表選挙」という。)については,全国に11の選挙区を
設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされ(以上,同法1
3条1項,2項,別表第1,別表第2),総選挙においては,小選挙区選挙
及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条,36条)(以
下「本件選挙制度」という。)。
なお,衆議院議員の選挙制度について,昭和25年に制定された公職選挙
法は,中選挙区単記投票制を採用していたが,平成6年1月に公職選挙法の
一部を改正する法律(平成6年法律第2号)が成立し,その後,平成6年法
律第10号,同第104号によりその一部が改正され,これらにより,小選
挙区比例代表並立制(本件選挙制度)に改められた。
(4)衆議院議員選挙区画定審議会設置法(平成6年2月4日成立,同年3月
11日施行。ただし,平成24年11月26日法律第95号による改正前の
もの。以下「区画審設置法」という。)によれば,内閣府に設置された衆議
院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選
出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,そ
の改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。
上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選
挙区の人口(官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準ずる全国的な人
口調査の結果による人口をいう。)のうち,その最も多いものを最も少ない
もので除して得た数が2以上にならないようにすることを基本とし,行政区
画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない
ものとされ(同法3条1項),各都道府県の区域内の小選挙区の数は,各都
道府県にあらかじめ1を配当した上で(以下このことを「1人別枠方式」と
いう。),これに,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数
を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると
されている(同法2項)(以下,同法3条に定める基準を「本件区割基準」
という。)。
選挙区の改定に関する上記の勧告は,統計法(平成19年法律第53号)
5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口
が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされ(区画審設置法
4条1項),さらに,区画審は,各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別
の事情があると認めるときは,上記の勧告ができるものとされている(同条
2項)。
(5)区画審は,平成12年10月に実施された国勢調査の結果に基づき,衆
議院小選挙区選出議員の選挙区に関し,区画審設置法3条2項に従って各都
道府県の議員の定数につきいわゆる5増5減を行った上で,同条1項に従っ
て各都道府県内における選挙区割りを策定した改定案を作成して内閣総理大
臣に勧告し,これを受けてその勧告どおり選挙区割りの改定(本件区割規
定)を行うことなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成1
4年法律第95号)が成立した。
(6)平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成21年選
挙」という。)についての選挙無効請求訴訟において,平成23年3月23
日最高裁判所大法廷は,以下のとおり判決した。すなわち,①本件区割基準
のうち1人別枠方式に係る部分は,遅くとも平成21年選挙時においては,
その立法時の合理性が失われたにもかかわらず,投票価値の平等と相容れな
い作用を及ぼすものとして,それ自体,憲法の投票価値の平等の要求に反す
る状態に至っていたものであり,本件選挙区割りについても,平成21年選
挙時において上記の状態にあった1人別枠方式を含む本件区割基準に基づい
て定められたものである以上,平成21年選挙時において憲法の投票価値の
平等の要求に反する状態に至っていたが,いずれも憲法上要求される合理的
期間内における是正がされなかったとはいえない旨判断し,②衆議院は,そ
の権能,議員の任期及び解散制度の存在等に鑑み,常に的確に国民の意思を
反映するものであることが求められており,選挙における投票価値の平等に
ついてもより厳格な要請があることから,必要とされる是正のための合理的
期間内に,できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し,投
票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要がある旨指摘した(最
高裁平成22年(行ツ)第129号・集民236号249頁及び同第207
号・民集65巻2号755頁。以下「平成23年大法廷判決」という。)
(7)平成24年11月26日,衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における
人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び区画審設置法の一部を改正
する法律(平成24年法律第95号。以下「緊急是正法」という。)が公布
された。緊急是正法により,衆議院議員の小選挙区選出議員の定数が300
人から295人と5人削減(いわゆる0増5減)されるとともに,1人別枠
方式の定める規定が削除された。
しかし,本件選挙は,本件選挙区割りの改定がなされないまま,平成21
年選挙及びその前の平成17年9月11日施行の衆議院議員総選挙における
区割規定と同様の,本件区割規定に基づいて施行された。
(8)本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も
少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対2.4
25であり,高知県第3区と原告の居住する岡山県第2区との間では1対1.
412であった(岡山県第2区の選挙人数は300選挙区中231番目に多
い選挙区であった。)。本件選挙当日における高知県第3区の有権者の選挙
権の価値を1票とすると,原告の居住する岡山県第2区の有権者の1票の価
値は,0.708票であった(選挙人数の最も多い千葉県第4区の1票の価
値は,0.4123票であった。)。また,高知県第3区と比べて較差が2
倍以上の選挙区は72選挙区であった。
本件区割規定に基づき施行された平成21年選挙における選挙当日の選挙
区間の選挙人数の最大較差は,高知県第3区と千葉県第4区との間で1対2.
304であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上の選挙区は45選挙区
であった。
3当事者の主張
(1)原告
ア憲法は,「主権は国民に存する」,「日本国民は,正当に選挙された
国会における代表者を通じて行動し,」と定めている。この「行動」と
は,主権者たる国民が,正当に選挙された国会における代表者を通じて,
国会での議事を多数決で可決・否決して国家権力(立法権・行政権・司
法権)を行使する行為を意味し,「国会における代表者を通じて」とは,
主権者たる国民が,正当に選挙された「国会における代表者」を自らの
「特別な代理人」として用いて,同「国会における代表者」を通じて国
民に代わって,国民のために,国会議員の多数決という手続を踏んで,
国会での議事の可決・否決を実際的に国民の多数意見で決めることによ
り,国家権力を実質的に国民の多数意見で行使すること(すなわち両議
院の議事の賛否について,国会議員を介して投票し,国民の多数意見で
その可決・否決を決すること)を意味する。そして,憲法56条2項は,
「両議院の議事はこの憲法に特別の定のある場合を除いては,出席議員
の過半数でこれを決し」と定めるが,その正当性の根拠は,国会議員の
多数意見と国民の多数意見が等価であることに求められるところ,国会
議員の多数意見と国民の多数意見を等価とするためには,国会議員が国
民の人口比例選挙により選出されることが必須である。憲法は,投票価
値の可能な限りでの平等の実現を要請している。
本件区割規定は,人口比例に基づいて選挙区割りがされていないので,
①憲法前文,第1段落,第1文の「日本国民は,正当に選挙された国会
における代表者を通じて行動し,」,「ここに主権が国民に存すること
を宣言し,」の定め,②憲法56条2項,③同59条,④同67条,⑤
同60条2項,⑥同61条,⑦同44条但し書,⑧同13条,⑨同15
条,⑩同14条の各条項に違反し,無効である。
イ国会は,憲法上要求される合理的期間内に本件区割規定を是正しなか
った。すなわち,平成23年大法廷判決から本件選挙の施行日である平
成24年12月16日まで,既に1年8か月以上が経過しており,平成
23年大法廷判決が違憲状態であると明言した本件区割規定の改正に1
年8か月の期間では不十分であるということはあり得ない。
ウ緊急是正法は,1人別枠方式の廃止と小選挙区選挙の議員定数につい
て「0増5減」を内容とするものであるが,選挙区間最大較差2倍未満
となるように改定案を作成することが基本とされており,合理的な必要
が認められないにもかかわらず1票に1票を超える価値を与えることを
意図するような制度であること,また,平成23年大法廷判決において
地方配慮論について疑義有りとされたにもかかわらず,地方にも配慮し,
都道府県単位で最小選挙区数を2とし,1人別枠方式による定数配分方
式を基礎としていることから,国会に与えられた裁量権の行使として合
理的な理由が存在しない。憲法は,直接的であれ,間接的であれ,都道
府県を選挙区割りの単位としない人口比例の選挙区割りであることを要
請している。
エ本件について違憲無効判決がなされたとしても,岡山県第2区から選
出された議員は将来にわたってその身分を失うのであるから,日本国が
混乱に陥ることはない。よって,本件に事情判決の法理を適用すべきで
ない。
(2)被告
ア憲法上要求される合理的期間について
平成23年大法廷判決は,1人別枠方式を含む本件区割基準が平成2
1年選挙の時点で憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至ってい
たと判断したが,平成19年6月13日最高裁判所大法廷判決(最高裁
平成18年(行ツ)第176号・民集61巻4号1617頁)が,1人
別枠方式を含む本件区割基準及び本件選挙区割りについて特段の留保を
付すことなく合憲である旨の判断を示したことを考慮すると,国会が,
1人別枠方式について合理性を失ったと認識し,その改廃等の立法措置
に着手すべきことが要求されるのは,平成23年大法廷判決の言い渡さ
れた時点であるから,同時点から本件区割基準是正のための合理的期間
が起算される。
そして,1人別枠方式を廃して,あらかじめ各都道府県に1ずつ配分
された定数を再配分するほか,選挙区割り自体の見直しを含む本件区割
規定の抜本的な改正にはかなりの時間を要し,平成23年大法廷判決か
ら本件選挙当日までは約1年9か月にすぎず,この期間は,1人別枠方
式を廃止して各都道府県にあらかじめ配分された定数を再配分するなど,
本件選挙区割り全体の見直しを行うという困難な立法措置を講ずるには,
期間的に不十分というべきである。
イ国会においては,平成23年大法廷判決後,投票価値の最大較差是正
に向けて選挙制度の改革が論議され,本件選挙施行前の平成24年11
月16日には,1人別枠方式の廃止と小選挙区選挙の議員定数について
「0増5減」を内容とする緊急是正法が成立し,1人別枠方式の廃止に
係る部分については施行されたが,区画審が区割りの改定案を作成し,
それを勧告するまでには一定の期間を要するため,本件選挙までに本件
区割規定を改定するには至らなかった。
ウ以上のように,国会は,平成23年大法廷判決以降,較差是正に対す
る議論及び措置を講じており,憲法の要求に反する状態にあるとされた
本件区割規定が,本件選挙までの間に改正されるには至っていないが,
それでもなお憲法上要求される合理的期間内に是正されなかったと評価
することはできない。
第3当裁判所の判断
1憲法は,「主権が国民に存する」,「日本国民は,正当に選挙された国会
における代表者を通じて行動し,」とし,国民主権及びこれに基づく代表民
主制の原理を定めている。国民主権の下において,主権者としての国民は,
1人1人が平等の権利をもって国政に参加する権限を有するところ,国民主
権に基づく代表民主制においては,国民は,その代表者である国会の両議院
の議員を通じてその有する主権を行使し,国政に参加する。したがって,そ
の代表者の選出に当たっては,国民1人1人が平等の権利を有するというべ
きである。また,国民1人1人が平等の権利でもって代表者を選出するから
こそ,国民の多数意見と国会の多数意見が一致し,国民主権を実質的に保障
することが可能となる。このように,国政選挙における投票価値の平等は,
国民主権・代表民主制の原理及び法の下の平等の原則から,憲法の要求する
ところである。
2国民の代表者である両議院の議員の選挙については,憲法は,議員の定数,
選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(4
3条2項,47条),両議院の議員の各選挙制度をどのような仕組みにするか
について国会に裁量を認めている。上記1のような国民主権・代表民主制の原
理の趣旨にかんがみれば,投票価値の平等は,最も重要な基準とされるべきで
あり,国会は,選挙に関する事項を法律で定めるに当たり,選挙区制を採用す
る際は,投票価値の平等(すなわち,選挙区(国民の居住する地)によって投
票価値に差を設けないような人口比例に基づく選挙区制)を実現するように十
分に配慮しなければならない。したがって,投票価値の平等に反する選挙に関
する定めは,合理的な理由がない限り,憲法に違反し無効というべきである。
3前提事実をもとに,上記のような見地から,本件区割規定の合憲性につい
て検討・判断する。
(1)本件区割規定に基づいて平成21年8月30日に施行された平成21年選
挙に係る選挙無効請求訴訟において,平成23年大法廷判決は,本件区割基
準のうち1人別枠方式に係る部分は,遅くとも平成21年選挙時においては,
その立法時の合理性が失われたにもかかわらず,投票価値の平等と相容れな
い作用を及ぼすものとして,それ自体,憲法の投票価値の平等の要求に反す
る状態に至っていたものであり,本件選挙区割りについても,平成21年選
挙時において上記の状態にあった1人別枠方式を含む本件区割基準に基づい
て定められたものである以上,平成21年選挙時において憲法の投票価値の
平等の要求に反する状態に至っていた旨判断した。
そして,本件選挙当日の選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最
も少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対2.
425であり,平成21年選挙時の最大較差1対2.304よりも較差が拡
大している。また,高知県第3区と比べて較差が2倍以上の選挙区は,本件
選挙当日において,300選挙区のうち72選挙区もあり,平成21年選挙
時の45選挙区と比べて,較差が2倍以上の選挙区の数も増加している。
以上によれば,本件区割基準及びこれに基づく本件区割規定は,本件選挙
時,憲法の投票価値の平等の要求に著しく反する状態に至っていたことは明
らかである。
(2)もっとも,憲法は,上記のとおり,選挙に関する事項の定めを国会の裁
量に委ねていることから,本件区割規定が違憲状態に至っても,このことが,
直ちに憲法に違反するということはできず,違憲状態になった後,国会が合
理的期間内にこれを是正しないときに初めて,憲法に違反するということが
できる。
国会は,遅くとも,本件区割基準が投票価値の平等に反する状態に至って
いる旨判断した平成23年大法廷判決が言い渡されたときには,本件区割規
定が違憲状態にあると認識することができたと認められるところ,平成23
年大法廷判決から本件選挙までは,1年9か月弱(634日)の期間が存在
した(顕著な事実)。
被告は,抜本的な選挙制度改革のためには時間を要し,平成23年大法廷
判決から1年9か月弱の期間は立法措置を講ずるには不十分でこの期間内に
本件選挙制度を是正することは困難であり,国会は1人別枠方式の廃止と議
員定数について「0増5減」を内容とする緊急是正法を成立させるなど本件
選挙制度是正のために努力したから,憲法上要求される合理的期間内に是正
されなかったと評価することはできない旨主張する。
しかし,国会議員は憲法擁護義務を負っており(憲法99条),平成23
年大法廷判決により,本件区割規定が違憲状態であると判断されたのである
から,国会は,直ちに是正措置を講ずるべきといえる。しかも,衆議院議員
の任期は4年で,任期満了前に解散される可能性もあること(憲法45条),
平成23年大法廷判決は,できるだけ速やかに立法的措置を講ずる必要があ
る旨指摘したこと等も併せかんがみれば,衆議院議員の任期の約2分の1に
相当する期間である1年9か月弱は,本件区割規定ないし本件選挙制度を改
定するための合理的な期間として,不十分であったと認めることは到底でき
ない。国会は,本件選挙の約1か月前にいわば駆け込み的に緊急是正法を成
立させたのみで(なお,緊急是正法は,都道府県単位で最小選挙区数を2と
しており,平成23年大法廷判決が違憲であると判断した1人別枠方式に
よる定数配分を基礎としたものにすぎず,投票価値の較差是正のための立法
措置を行ったとは到底いいがたい。),本件選挙施行までに改定された選挙
区割りを作成し,これに基づいて本件選挙を施行しなかったことは,国会の
怠慢であり,平成23年大法廷判決など司法の判断に対する甚だしい軽視と
いうほかない。
したがって,国会は,合理的期間内に本件区割規定を是正しなかったとい
うべきであるから,本件区割規定は,憲法の投票価値の平等の要求(憲法が
定める国民主権・代表民主制の原理,憲法14条,44条但し書など)に違
反し,違憲といわざるをえない。
(3)なお,本件区割規定は,議員総数と関連させながら,複雑,微妙な考慮の
下で決定され,一定の議員総数の各選挙区への配分として相互に有機的に関
連するものであり,その意味で不可分一体をなすと考えられるから,全体と
して違憲の瑕疵を帯びるものと解される(最高裁昭和49年(行ツ)第75
号昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁参照)。した
がって,高知県第3区と原告が居住する岡山県第2区との間の較差は1対1.
412で,2倍未満であるが,岡山県第2区における選挙も憲法に違反する
本件区割規定に基づいて施行されたのであるから,違憲というべきである。
4本件選挙の効力について
公職選挙法に定める本件区割規定は,上記のとおり憲法に違反し,無効とい
うべきであるから(憲法98条1項),憲法に違反する本件区割規定に基づい
て施行された本件選挙のうち岡山県第2区における選挙も無効とするべきであ
る。
選挙を無効とする旨の判決の効果については,憲法に違反する法律は原則と
して当初から無効であり(憲法98条1項),これに基づいてなされた行為の
効力も否定されるべきであるから,無効判決の対象となった選挙により選出さ
れた議員がすべて当初から議員としての資格を有しないと解する余地がある。
しかし,このように解すると,既にこれらの議員によって組織された衆議院の
議決を経た上で成立した法律等の効力にも問題が生じ,今後における衆議院の
活動も不可能となり,本件区割規定等を憲法に適合するように改定することさ
えできなくなるという憲法が所期しない著しく不都合な結果を招くことになる
から,このような解釈は採用し得ない。本件選挙訴訟は,将来に向かって形成
的に無効とする訴訟である公職選挙法204条に基づくものであることにかん
がみれば,無効判決確定により,当該特定の選挙が将来に向かって失効するも
のと解するべきである。
なお,本件選挙において,無効判決が確定した一部の選挙区における選挙の
み無効とされ,他の選挙区における選挙はそのまま有効とされる結果,本件区
割規定等の改定を含むその後の衆議院の活動が,選挙を無効とされた選挙区か
ら選出された議員が選出されないままの状態で行われることになるところ,言
うまでもなく,このような状態は,憲法上望ましい姿ではない。しかし,投票
価値の平等は,上記のとおり,国民主権・代表民主制のもとにおいて,最も重
要な基準とされるべきであること,無効判決がなされても,上記のように,無
効判決が確定した選挙区における選挙の効力についてのみ,判決確定後将来に
わたって失効するものと解されることなどにかんがみれば,長期にわたって投
票価値の平等に反する状態を容認することの弊害に比べ,無効と判断すること
による政治的混乱が大きいと直ちにいうことはできない。したがって,国会が
平成23年大法廷判決後に緊急是正法を成立させたことや,現在国会において
較差是正のための立法措置について検討されていることを十分に考慮しても,
本件選挙を違憲としながら,選挙の効力については有効と扱うべきとのいわゆ
る事情判決の法理を適用することは相当ではない。
5結論
以上検討したところによれば,本件区割規定は憲法に違反し無効であり,本件
区割規定に基づいて施行された本件選挙のうち岡山県第2区における選挙も無効
であるといわざるを得ないから,原告の請求は理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
広島高等裁判所岡山支部第2部
裁判長裁判官片野悟好
裁判官檜皮高弘
裁判官濱谷由紀

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