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平成14年(ネ)第2648号 実用新案権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地
方裁判所平成12年(ワ)第22042号)
平成14年7月4日口頭弁論終結
判決
     控訴人          ヤーマン株式会社
     訴訟代理人弁護士     島 田 康 男
     補佐人弁理士       須 山 佐 一
     被控訴人         株式会社ベステック
      (以下「被控訴人ベステック」という。)
     訴訟代理人弁護士     鳥 海 哲 郎
     同            三 森   仁
     同            金 子 憲 康
     同            黒 岩 海 映
     被控訴人         コミー株式会社
      (以下「被控訴人コミー」という。)
     訴訟代理人弁護士     早 川 忠 孝
     同            小 倉 秀 夫
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)(主位的請求)
   被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,6500万円及びこれに対する
平成12年11月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)(予備的請求①)
   被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,3638万円及びこれに対する
平成12年11月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)(予備的請求②)
   被控訴人コミーは,控訴人に対し,1625万円及びこれに対する平成1
2年11月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
 主文と同旨
第2 事案の概要
 本件は,考案の名称を「下肢骨格矯正装置」とする登録実用新案(登録番号
第3014470号)に係る実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その考
案を「本件考案」という。)を有する控訴人が,被控訴人ベステックが製造・販売
し,被控訴人コミーが使用する原判決添付の別紙物件目録1及び2記載の各下肢部
矯正装置は本件考案の技術的範囲に属しており,同各下肢部矯正装置の製造・販売
及び使用は本件実用新案権を侵害する,と主張して,被控訴人ら各自に対して,実
用新案法29条1項(主位的請求)又は2項(予備的請求①)に基づき,被控訴人
コミーに対しては更に予備的に同条3項(予備的請求②)に基づき,損害賠償を請
求した事案である。原審が控訴人の上記各請求をいずれも棄却したのに対し,控訴
人が,上記の裁判を求めて控訴しているものである。
 当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の
「第2 事案の概要」欄記載のとおりであるから,これを引用する(以下,「本件
明細書」,「構成要件A,C」の語を,原判決の用法に従って用いる。)。
1 控訴人の当審における主張の要点
(1)本件考案は,医療用のものではなく,本件明細書の段落【0001】
(【産業上の利用分野】の項である。)に記載されているように,「美容処理装置
に関する」ものであるから,本件考案にいう「下肢骨格矯正」を実現するために
は,骨格の歪み(ひずみ)を直接矯正するほどの力を作用させる必要はなく,筋肉
をほぐしたり和らげたりきたえたりする程度の力を作用させることで十分である。
すなわち,本件考案における「下肢骨格矯正」は,下肢骨格そのものの矯正を意味
するのではなく,筋肉の引締め及び緩和による下肢骨格の矯正を意味するのであ
る。したがって,原判決が,本件考案の下肢骨格矯正を骨格そのものの矯正と考
え,本件考案の構成要件A及びCの「臀部」を「骨盤部分」と,「足先」を「足首
の関節部分」として,骨格そのものの矯正に関連する意義に解したのは誤りであ
る。
(2)原判決は,本件考案の構成要件Cの「締付ベルト」について,本件明細書
の段落【0014】等の記載を挙げ,それを根拠として,「単に両足を保持固定す
る機能を有するにとどまるものではなく,臀部と足先部分を含む下肢全体を外側エ
ヤークッションごと保持固定することによって,同クッションが圧搾空気により膨
張した際に,その外向きの移動を拘束し,骨盤部分及び足首部分を含む下肢全体を
締め付ける機能を有するものでなければならない」(原判決25頁2行~6行)と
認定している。しかし,①本件明細書の段落【0014】は,本件考案の実施例の
記載にすぎないのであるから,同段落の記載自体は本件考案の解釈の根拠になるも
のではない,②同段落の記載を参照することはできるとしても,同段落において
は,X脚の矯正の場合には,膝の間に入れた内側エヤークッションにだけ空気を入
れればよいことが記載されているのであり,この場合,外側エヤークッションには
圧搾空気が送られることはないことになる。また,本件明細書の段落【0016】
には,締付ベルトとシート10との関係について,種々の変形や改造が可能である
ことが記載されており,その一例としてシート10を両足が入る袋状に形成した例
も記載されていて,両足(臀部,膝,足先)を保持固定する締付ベルトとシートと
の関係が検討されていることが明らかであるのに,外側エヤークッションの保持固
定については全く記載されていない。これらのことからすれば,原判決が,本件考
案における構成要件Cの「締付ベルト」が常に外側エヤークッションを保持固定す
る機能を有するものであると解したことは,誤りというべきである。
2 被控訴人らの当審における反論の要点
(1)控訴人の上記主張1(1)は,本件明細書の段落【0006】,【0007】
の記載に明らかに反しており,失当である。
(2)控訴人の上記主張1(2)は,本件明細書の段落【0014】等の記載に明ら
かに反しており,失当である。
第3 当裁判所の判断
   当裁判所は,控訴人の請求は,いずれも理由がない,と判断する。その理由
は,以下のとおり付加するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」のとおりであ
るから,これを引用する。
1(1)控訴人の上記主張1(1)について
 控訴人は,本件明細書の段落【0001】(【産業上の利用分野】の項)
に本件考案が,「美容処理装置に関する」ものであると記載されていることを根拠
に,本件考案における「下肢骨格矯正」は,下肢骨格そのものの矯正を意味するの
ではなく,筋肉の引き締め及び緩和による下肢骨格の矯正を意味する,と主張す
る。しかし,本件明細書の段落【0001】の内容は「【産業上の利用分野】この
考案は,美容や健康の維持に利用できる下肢骨格矯正装置,特にO脚あるいはX脚
を矯正する美容処理装置に関する。」というにすぎないものであって,【産業上の
利用分野】の項である同項の記載中に,本件考案が「美容処理装置に関する」もの
であることが含まれているからといって,それだけのことから,本件考案の「下肢
骨格矯正」が医療の領域に入ることはおよそあり得ない,などということになるも
のではないから,段落【0001】の記載をもって本件考案が控訴人の主張のよう
なものであるとの解釈の根拠とすることはできない。他にも,控訴人主張の解釈の
根拠となる資料は,本件明細書の記載を中心に本件全証拠を検討しても,見いだす
ことができない。本件明細書には,【従来の技術】の項の一部として,「一般に,
O脚あるいはX脚のような下肢の骨格の不正規な状態は,単に下肢の骨格のみでな
く,骨盤あるいは足関節等にも不自然な歪みがある。…解説書には,O脚により他
の部位の骨格に歪みが生じることが指摘されている。代表的なものとして「骨盤の
歪み」,「股関節の歪み」,「膝関節の歪み」,「足首の歪み」および「足根骨の
出っ張り」である。これ等の不整骨格状態は単独に生じていたり,場合によって
は,複合状態で生じている。それ故,O脚を矯正するため,脚の曲がり部分にのみ
機械的な力を加えて,正規な姿勢に強制的に矯正することでは十分ではない。つま
り,骨盤部分や足首部分にも同時に機械的な力を適切な向きに適切な強さで加えて
矯正する必要がある。」と記載された上で(甲第2号証段落【0006】),【考
案が解決しようとする課題】の項に,「それ故,この考案の課題は,使用が容易
で,構造・構成が単純で,身体の種々の部位に機械的な力を適切な向きに適切な強
さで加えてO脚あるいはX脚を総合的に矯正できる下肢骨格矯正装置を提供するこ
とにある。」(同段落【0007】)と記載されているのである。控訴人の上記主
張は,本件明細書のこのような記載に,むしろ明白に反するものというべきであ
る。控訴人の上記主張は,到底採用することができない。
(2)控訴人の上記主張1(2)について
(ア)①の主張について
 本件明細書の段落【0010】に,「以下では,添付図面を参照しなが
ら好適実施例に基づきこの考案をより詳しく説明する。」と記載されていることか
ら明らかなように,本件明細書の段落【0014】は,本件考案の実施例の説明で
あると同時に,本件考案の説明ともなっているものである。原判決は,本件明細書
の段落【0014】の「締付ベルト…の当たっていないところでは,締付ベルトに
よる外向きの移動が拘束されていないため,例えば,外側エヤークッション…に圧
縮空気を導入しても,内向きに力を与えないか,あるいは極めて弱い力しか与えな
い。」との記載,及び,段落【0015】の「O脚あるいはX脚の人の臀部や足先
の骨格は不整があるため,これを臀部の締付ベルト…および足先部の締付ベルト…
により加圧印加を与える。」との記載を参照した上で,本件考案の「構成要件C
が,「少なくとも臀部,両方の足および足先をそれぞれ脱着可能に保持固定でき
る」締付ベルトの存在を要求しているのは,少なくとも臀部と足先部分において,
締付ベルトにより外側エヤークッションの外向きの移動を拘束し,その上で同クッ
ションを膨張させることによって,骨盤部分や足首の関節部分に内向きの力を加え
ることが,本件考案の作用効果を達成するために必要である」(原判決24頁21
行~26行)と認定した上,構成要件Cの「「締付ベルト」とは,単に両足を保持
固定する機能を有するにとどまるものではなく,臀部と足先部分を含む下肢全体を
外側エヤークッションごと保持固定することによって,同クッションが圧搾空気に
より膨張した際に,その外向きの移動を拘束し,骨盤部分及び足首部分を含む下肢
全体を締め付ける機能を有するものでなければならない」(同25頁2行~6行)
と解釈したものである。
 本件明細書の上記のような段落【0014】及び【0015】の記載
は,実施例についてのものであると同時に,単なる実施例そのものの説明としてで
はなく,本件考案自体の「締付ベルト」の作用について説明したものでもあること
は,その記載自体から明らかである。したがって,控訴人の上記1(2)①の主張は,
失当であり,採用することができない。
(イ)②の主張について
 本件明細書の段落【0014】においては,X脚の矯正の場合に,内側
エヤークッションに圧搾空気を送り,膝,臀部及び足先の部分に締付ベルトを巻き
付けることが記載されており,外側エヤークッションについての直接的な記載はな
いものの,この場合においても,外側エヤークッションにあまり強い圧を加えない
程度に圧搾空気を入れてその上から締付けベルトを巻き付けてX脚の矯正を行う程
度のことは,その記載がなくとも,本件考案が外側エヤークッションを必須の要件
としているものであること,及び,本件明細書の段落【0014】の前記記載か
ら,十分に読み取ることができるというべきである。また,本件考案が,外側エヤ
ークッション,内側エヤークッション及び締付ベルトをその必須の要件としている
こと,及び,本件明細書の段落【0014】には前記のように記載されていること
からすれば,締付ベルトと外側エヤークッションとの関係については,原判決のと
おり解釈するのが相当であり,本件明細書の段落【0016】の記載も,締付ベル
トとシート10との関係において,種々の変形や改造が可能であることを示唆して
いるとはいえ,上記解釈の妨げとなるものではないというべきである。
控訴人の上記1(2)②の主張も採用することができない。
2 以上のとおりであるから,控訴人の主張はいずれも理由がなく,控訴人の本
訴請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。そこで,本件控訴
を棄却することとして,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条,6
1条を適用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
           裁判長裁判官    山  下  和  明
              裁判官     設  樂  隆  一
 
              裁判官    阿  部  正  幸

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