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平成11年(行ケ)第387号 審決取消請求事件(平成13年1月24日口頭弁
論終結)
          判         決
   原      告   四国化工機株式会社
代表者代表取締役   【A】
訴訟代理人弁護士久 田 原   昭   夫
同          久   世   勝   之
同弁理士岸   本   瑛 之 助
   被      告   エービーテトラパック
代表者        【B】
訴訟代理人弁護士   日   野   修   男
同清   水   正   三
          主         文
特許庁が平成10年審判第35328号事件について平成11年9月3
0日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と
定める。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
主文第1、2項と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は、名称を「包装機における包装材料ウェブの長手方向縁部の溶着予熱
装置」とする考案(実用新案登録第2102350号、昭和62年6月12日出
願、平成7年8月17日設定登録)の実用新案権者である。原告は、平成10年7
月17日、本件実用新案登録につき無効審判の請求をし、被告は、平成11年4月
27日、本件実用新案登録出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」と
いう。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、上記無効審
判請求を平成10年審判第35328号事件として審理した結果、平成11年9月
30日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、そ
の謄本は、同年11月1日、原告に送達された。
 2 本件明細書の実用新案登録請求の範囲第1項の記載(以下、この考案を「本
件考案」という。)
  (1) 本件訂正前(平成5年12月6日付け手続補正書による補正後)のもの
    プラスチックコートされたロール状の包装材料ウエブから、充填され且つ
密封された包装物を製造するための包装機において、下部方向へ進行する予め一対
の長手方向縁部3a,3bが間隙をおいて相互に重なるごとく筒状に形成された包
装材料ウエブ3の未溶着状態の長手方向縁部3a,3bを溶着するための予熱装置
Aであって、前記筒状の包装材料ウエブ3の進行路に臨んで、該包装材料ウエブ3
の長手方向に所定距離の間設けられた加熱空気ノズル5と、筒状に形成された該材
料ウエブ3の外側の長手方向縁部3aを位置規制して該長手方向縁部3aの内面を
前記加熱空気ノズル5の空気吹出面5aに対面せしめるように軸線を該吹出面5a
に平行に上下方向に配置された複数個のガイドローラ6a,6b,…と、前記筒状
に形成された材料ウエブ3の内側の長手方向縁部3bを前記加熱空気ノズル5を挟
んで前記ガイドローラ6a,6b,…の反対側で支持するための複数個の小径ガイ
ドローラ7a,7b,…とを設けたことを特徴とする包装機における包装材料ウエ
ブの長手方向縁部の溶着予熱装置。
(2) 本件訂正に係るもの(訂正部分には、下線を付す。以下、この部分を「訂
正事項」という。)
    プラスチックコートされたロール状の包装材料ウエブから、充填され且つ
密封された包装物を製造するための包装機において、下部方向へ進行する予め一対
の長手方向縁部3a,3bが間隙をおいて相互に重なるごとく筒状に形成された包
装材料ウエブ3の未溶着状態の長手方向縁部3a,3bを溶着するための予熱装置
Aであって、前記筒状の包装材料ウエブ3の進行路に臨んで、該包装材料ウエブ3
の長手方向に所定距離の間設けられた加熱空気ノズル5と、筒状に形成された該材
料ウエブ3の外側の長手方向縁部3aを位置規制して該長手方向縁部3aの内面を
前記加熱空気ノズル5の空気吹出面5aに対面せしめるように軸線を該吹出面5a
に平行に上下方向に配置された複数個のガイドローラ6a,6b,…と、前記筒状
に形成された材料ウエブ3の内側の長手方向縁部3bを前記加熱空気ノズル5を挟
んで前記ガイドローラ6a,6b,…の反対側で支持するための複数個の小径ガイ
ドローラ7a,7b,…とを設け、予め筒状に長手方向縁部3a,3bが食違って
離間している材料ウエブ3はやがて内側の長手方向縁部3bが外側の長手方向縁部
3aに近づくように下降すべく前記複数個の小径ガイドローラ7a,7b,…が配
設されていることを特徴とする包装機における包装材料ウエブの長手方向縁部の溶
着予熱装置。
 3 審決の理由
   審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本件訂正は、実用新案登録請
求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質
上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないものとした上で、
本件訂正後の本件考案が、長崎県経済農業協同組合連合会が昭和54年7月に大村
果汁工場に導入した「テトラブリックAB3」の包装機(甲第2号証の第5図、甲
第26号証、以下「引用例1」という。)の考案(本件明細書の[従来の技術]の
欄に記載された溶着予熱装置)、実願昭52-109130号(実開昭54-36
671号)のマイクロフィルム(甲第27号証、以下「引用例2」という。)に記
載された考案及び特開昭60-228133号公報(甲第28号証、以下「引用例
3」という。)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をするこ
とができたものとは認めることができないから、本件訂正は、平成5年法律第26
号附則4条2項において読み替えるものとされる実用新案法40条2項及び同条5
項で準用する平成5年法律第26号による改正前の実用新案法39条2、3項の規
定に適合するとして本件訂正を認め、訂正明細書に基づき本件考案の要旨を認定し
た上、本件実用新案権の専用実施権者である日本テトラパック株式会社が本件出願
前に本件訂正に係る本件考案(以下「訂正考案」という。)と同一の構成を有する
テトラ充填機AB9-200(以下、単に「AB9-200」という。)を納入し
て訂正考案を公然実施したとは認められず、被告が本件出願前に訂正考案と同一の
構成が開示されたAB9のスペアパーツカタログ(以下、単に「スペアパーツカタ
ログ」という)を雪印乳業株式会社神戸工場に交付したとは認められず、また、原
告が本件出願前に訂正考案と同一の構成を有するFUJI101の縦シールヒータ
ー(以下、単に「縦シールヒーター」という。)を公然実施したとは認められない
から、本件実用新案登録を無効とすることはできないというものである。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 取消事由1(新規事項の追加の看過)
  (1) 審決は、本件訂正が、「実用新案登録明細書(注、本件明細書)に記載さ
れた事項の範囲内において、小径ガイドローラ7a,7b,7cの配置構成を機能
的に限定したものといえるから、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当するもので
あって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張
し、又は変更するものではない。」(審決書9頁4行目~11行目)と判断した
が、誤りである。
  (2) 本件明細書において開示されている小径ガイドローラの構成は、複数個の
小径ガイドローラを順次ウエブの進行方向に向かうに連れて先端をより傾けて配置
するというものであるところ、訂正事項は機能的記載であり、上記のような小径ガ
イドローラの配置のみならず、例えば、複数個の小径ガイドローラの軸線がすべて
大径ローラの軸線と同じ角度となるものであっても、複数個の小径ガイドローラの
径をウェブの進行方向に連れてより小さい径にすることにより訂正事項の機能を奏
することができる。訂正事項は、このような本件明細書に開示のない構成を含むも
のであるから、新規事項を追加するものである。
 2 取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)
  (1) 相違点の認定の誤り
    審決は、訂正考案と引用例1の相違点について、「引用例1の包装機で
は、筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズルを挟んで
溶着部の内側となる他の長手方向縁部を加熱空気ノズルの吹出面の反対側に接近し
て支持案内するよう支持板を配設している点」(審決書14頁13行目~18行
目)と認定するが、誤りである。
    すなわち、訂正考案は、「筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向
縁部を加熱空気ノズルを挟んでガイドローラの反対側で支持するための複数個の小
径ガイドローラを設け、予め筒状に長手方向縁部が食違って離間している材料ウエ
ブはやがて内側の長手方向縁部が外側の長手方向縁部に近づくように下降すべく複
数個の小径ガイドローラが配設されている」のに対し、引用例1は、「筒状に形成
された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズルを挟んでガイドローラの
反対側で加熱空気ノズルの吹出面の反対側に接近して支持案内するように支持板が
配設されている」点で、両者は相違する。
  (2) 相違点の判断の誤り
    審決は、「引用例2及び3の刊行物には、上記引用刊行物等の項で摘記し
たように、包装フィルムや切箔原反の移送手段としてガイドローラを使用すること
が記載されているにすぎないものであって、訂正明細書の考案の上記相違点に係る
技術事項のような小径ガイドローラの配設構成については、記載されておらず、示
唆する記載も見出すことができない。」(審決書14頁19行目~15頁6行目)
と判断したが、誤りである。
    すなわち、引用例2には、ベルトコンベヤー、ゴム回転体などの移送手段
を包装フィルムを通して案内筒に接する個所に、自由回転するローラの円周方向を
筒状包装フイルムの進行方向に沿って間隔をもって並設して、移送すべき筒状包装
フィルムの摩擦抵抗を少なくして円滑に進行させることが記載され、ローラにより
摩擦抵抗を少なくすることは、周知の技術である。
    訂正考案は、包装機における包装材料ウェブの長手方向縁部の溶着予熱装
置に係るものである。溶着は、予熱装置の下方において、材料ウェブの内側の長手
方向縁部と外側の長手方向縁部の間隙をなくして重ね合わせることによって行われ
るものである以上、訂正考案における小径ローラの配設構成は、技術常識上自明な
事項である。例えば、特開昭52-119685号(甲第7号証、以下「周知例」
という。)は、包装容器の製造方法及びその装置に関するものであるが、ウエブの
収縮及び支持ローラの扶助による案内により、平坦なウエブは円形の円筒形管を形
成するようになり、ウエブの長手方向端縁は相互に重なり、長手方向接合要素によ
り重なった領域が加熱され、このとき、重なった領域に向かい熱風が吹き出し、密
封温度に加熱され重なった領域は、加圧ローラによって一体に押圧され、円形の円
筒形断面を有する管を形成すると記載されている。このように、支持ローラによ
り、離間している包装材料ウエブの両長手方向縁部が相互に近づくように、ウエブ
を案内下降させる支持ローラの配設構成は、周知である。
  (3) 作用効果の判断の誤り
    審決は、「訂正明細書の考案(注、訂正考案)は、上記相違点に係る技術
事項によって、実用新案登録明細書中に記載された格別な作用効果を奏するものと
認める。」(審決書15頁7行目~9行目)と判断したが、誤りである。
    審決のいう訂正考案の格別な作用効果は、固定支持板に代えて周知のガイ
ドローラを採用したことに基づくものであって、何ら格別のものではない。また、
被告主張の、筒状の材料ウエブの内側の長手方向縁部に、あらかじめ貼着されたス
トリップテープが外側の長手方向縁部の内面に完全に溶着できるという効果は、実
施態様項である実用新案登録請求の範囲第4項に記載された構成によるものであっ
て、訂正考案の構成によるものではない。
 3 取消事由3(公然実施の認定の誤り)
  (1) 審決は、「昭和62年2月17日に日本テトラパック株式会社と雪印乳業
株式会社との間でAB9-200について賃貸借契約が締結され・・・AB9-2
00が据え付けを完了し稼働状態となった日は、昭和62年6月5日であることが
認められ・・・実際に機械が稼働されたのは昭和62年6月5日以後であると認め
られる。」(審決書26頁8行目~27頁1行目)と認定したが、訂正考案の実施
品であるAB9-200について、被告が守秘義務を合意せずに雪印乳業株式会社
に貸し渡したことで、訂正考案は公然実施されたこととなるから、審決の認定は誤
りである。
    審決は、AB9-200の据え付け完了の日が昭和62年6月5日である
としながら、公然実施を認定しなかった点でも誤りである。公然実施とは、装置が
稼動し得る状態となれば足り、これが実際に稼動しているかどうかとは関係がな
い。
  (2) 審決は、スペアパーツカタログについて、「それぞれの頁が異なる時期に
作成されたものであり、スペアパーツカタログとして、どのような形態でいつ神戸
工場に交付されたのか明らかではない。・・・スペアパーツカタログが神戸工場に
交付されたスペアパーツカタログとするには、合理的理由が認められない。」(審
決書28頁7行目~29頁4行目)と認定するが、誤りである。
    スペアパーツカタログは、弁護士法23条の2に基づく照会により上記工
場から直接取得したものであり、これが同工場に存在していたことには疑問の余地
がない。また、同工場において小径ローラ方式のものが納入されていない点につい
ても、スペアパーツカタログは、複数の種類の充填機についてとりまとめた形で作
られたカタログであるから、複数の方式のパーツが記載されていても不合理ではな
い。スペアパーツカタログのそれぞれの頁が異なる時期に作成された点について
も、これらの頁はいずれも1986年(昭和61年)1月以前のものであるから、
審決の理由に合理性はない。
  (3) 審決は、「『請求人(注、原告)の従業員は、・・・雪印乳業株式会杜の
協力によって、AB(注、APは誤記と認める。)9-200の装置構造について
知りうる機会を得て・・・FUJI101に小径ガイドローラを取り付ける改良を
実施したものである』旨の被請求人(注、被告)の主張には、合理的理由が認めら
れる。」(審決書31頁15行目~32頁5行目)と認定するが、雪印乳業株式会
社は、原告の製品のテストに協力していただけであり、このような協力とAB9-
200の装置構造を知り得る機会の付与とは全く異なるものであるから、審決の認
定は誤りである。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(新規事項の追加の看過)について
  (1) 本件明細書には、小径ガイドローラの先端部はウエブの長手方向縁部の内
面に順次近接するように配置されており、材料ウエブは下降するに従い順次内側の
長手方向縁部が外側の長手方向縁部に近づくように下降すると記載されている。
  (2) 訂正事項は、本件訂正前の本件明細書の実用新案登録請求の範囲において
限定されていなかった小径ガイドロ一ラの配設構成を限定したものであるから、実
用新案登録請求の範囲を減縮したものであり、その小径ガイドローラの配設構成
は、本件訂正前の本件明細書において開示されていたものであるから、本件訂正
は、新規事項を追加するものではない。
 2 取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)について
  (1) 相違点の認定の誤りについて
    訂正考案と、訂正明細書の[従来の技術]の項に記載されている溶着予熱
装置に相当する引用例1とは、「筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁
部を加熱空気ノズルを挟んでガイドローラの反対側で支持するための複数個の小径
ガイドローラを設け、予め筒状に長手方向縁部が喰違って離間している材料ウエブ
はやがて長手方向縁部に近づくように下降すべく前記複数個の小径ガイドローラが
配設されている点」において相違するものである。これと同旨の審決の認定に誤り
はない。
  (2) 相違点の判断の誤りについて
    訂正考案は、単に従来の支持板に代えて小径ガイドローラを採用したもの
ではなく、訂正事項のようなガイドローラの配設も構成としている。訂正考案は、
支持板を小径ガイドローラに代えたことに加え、小径ガイドローラの配設構成を想
到したものであるところ、進歩性の判断は、相違点全体について、当業者がきわめ
て容易に考案をすることができたかどうかの判断であり、引用例との相違点を分割
して個々の相違点ごとに容易想到性を判断すべきものではない。したがって、この
点に関する審決の判断に誤りはない。
  (3) 作用効果の判断の誤りについて
    訂正考案は、本件明細書の考案の詳細な説明中に記載されているとおり、
その構成によって、擦れによりウエブ表面が荒れることを防止し、ポリエチレンの
かすがウエブ表面に付着するなどしてウエブの外観を損ねることを防止し、溶着部
にポリエチレンの粉などが噛み込むことを防止し、筒状の材料ウエブにおける未溶
着の内側長手方向縁部が円滑に移動し、筒状の材料ウエブの内側の長手方向縁部に
あらかじめ貼着されたストリップテープが外側の長手方向縁部の内面に完全に溶着
するという、格段の作用効果を奏する。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
 3 取消事由3(公然実施の認定の誤り)について
  (1) 考案に係る物品について譲渡契約又は賃貸借契約を締結することは、実用
新案法における実施に当たらない。原告は、AB9-200が昭和62年6月5日
に据え付けを完了し稼働状態となったことを主張するのみであって、貸渡しの事実
を主張立証していない。
  (2) 日本テトラパック株式会社と雪印乳業株式会社との間で昭和62年2月1
7日に締結された、AB9-200の賃貸借契約書に付属する賃貸借普通約款に
は、賃借人が機械の設置準備完了の通知をしたときには賃貸人は合理的期間内に機
械を設置し引き渡すと記載されており、機械設置確認書に設置完了日が昭和62年
6月5日である旨の記載がある。AB9-200のように高額な無菌充填機の賃貸
借における目的物の引渡しは、梱包をした機械本体の相手方工場への納入、相手方
工場における開梱、相手方工場における初期調整等のプロセスを経て設置完了を確
認し、その後に賃借人に貸し渡すものである。原告は、審判において、本件出願前
にAB9-200の貸渡しがあったかどうか主張立証をしていないから、本件出願
前に訂正考案が公然実施されたかどうかは不明であるとした審決の認定に誤りはな
い。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)について
  (1) 相違点の認定の誤りについて
    引用例1の包装機が訂正明細書(甲第4号証)の[従来の技術]の項に記
載されている溶着予熱装置に相当するものであることについては、当事者間に争い
がない。訂正考案と引用例1の包装機を対比すると、訂正考案では、「筒状に形成
された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズルを挟んでガイドローラの
反対側で支持するための複数個の小径ガイドローラを設け、予め筒状に長手方向縁
部が喰違って離間している材料ウエブはやがて内側の長手方向縁部が外側の長手方
向縁部に近づくように下降すべく前記複数個の小径ガイドローラが配設されてい
る」(審決書14頁6行目~13行目)のに対し、引用例1の包装機では、「筒状
に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を、前記加熱空気ノズルを挟んでガ
イドローラの反対側で加熱空気ノズルの吹出面の反対側に接近して支持案内するよ
うに支持板を配設している」点で相違するものと認められる。
    したがって、審決が、訂正考案と引用例1の相違点について、「引用例1
の包装機では、筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズ
ルを挟んで溶着部の内側となる他の長手方向縁部を加熱空気ノズルの吹出面の反対
側に接近して支持案内するよう支持板を配設している」(審決書14頁13行目~
18行目)と認定したことは誤りである。
  (2) 相違点の判断の誤りについて
    引用例2(甲第27号証)は、考案の名称を「包装フィルムの移送装置」
とするものであり、「この案内筒の外側にただフィルム移送手段としてベルトコン
ベヤーやゴム回転体を設けることも考えられるが、筒状包装フィルムと案内筒との
摩擦抵抗があるので円滑にフィルムを進行させることが困難であるためこの考案装
置では、前述したように更にベルトコンベヤー、ゴム回転体などの移送手段を包装
フィルムを通して案内筒に接する個所に自由回転するローラーの円周方向を筒状包
装フイルムの進行方向にそって間隔をもって並設して移送すべき筒状包装フィルム
の摩擦抵抗を少くして円滑に進行させるものである。」(明細書2頁12行目~3
頁3行目)、「円筒形の案内筒1の外周に筒状となった包装フィルム2が密着しな
い程度に接し、その外側に一対のベルトコンベヤー8,8を設け、図の矢印方向に
と回転進行させる。一対のベルトコンベヤー8,8が包装フィルム2を通して案内
筒1に接する位置には案内筒1の外側の一部溝部分1aに多数のローラー3aを間
隔をもって並設し、包装フィルム2の進行方向に対し直角方向にローラーユニット
3として構成せしめる。かくてこの適度の間隔をもったローラー3aを案内筒1の
外側適所に取付けることにより包装フィルム2の進行は案内筒1の外側との摩擦抵
抗が少くなり円滑に移送することが可能となる。」(同3頁6行目~19行目)、
「その移動にしたがい各ローラー3aが回転するので包装フィルム2と案内筒1と
の接触抵抗は非常に少くなり、僅かな回転力で楽に矢印方向の下方に移送すること
ができる。」(同4頁3行目~7行目)との記載がある。これらの記載及び第1図
ないし第4図によれば、包装フィルムが案内筒面によりガイドされることに代え
て、ローラによりガイドされることにより、摩擦抵抗を少なくする技術が開示され
ている。
    また、周知例(甲第7号証)は、発明の名称を「包装容器の製造方法及び
その装置」とするものであり、「本発明は、熱収縮性材料からの包装容器の製造方
法と、該方法を実施する装置とに関する。包装技術では、安価で、合理的な態様に
おいて容易に多量生産可能であり、更に、保護と、密封性と、取扱いの容易さとの
製品の要件に適合する包装構造を作るのに努力が払われている。」(3頁左上欄1
行目~6行目)、「熱収縮性の材料の特性は、材料の成形工程中に利用可能である
が、これは材料が、その一側に沿い加熱されたとき、所望の形状を作る如く変形す
るからであり、これは、熱影響を受ける側部が収縮するが、加熱されない側部が認
められる程度の如何なる収縮もしないからであることが判明した。発泡樹脂材料の
収縮によるこの様な成形方法は、それ自体既に公知であるが、これは、既に出来上
った容器体部または容器体部の部分の成形方法であった。・・・本発明は、収縮性
材料のウエブまたはブランクが、その一側部の全体または一部に沿い加熱され、こ
れによって、円筒形管の形状を与えられ、その端縁領域が、相互に対して耐久的に
接合されることを特徴とする。」(3頁右上欄14行目~左下欄11行目)、「円
筒形管へのウエブの成形は、こゝでは概略においてのみ示されている外側と内側の
支持ローラ13の扶助で案内される。ウエブの収縮と、支持ローラ13の扶助での
案内とにより、平坦なウエブは、円形の円筒形管を形成する様になり、ウエブの長
手方向端縁は、相互に重なり、長手方向接合要素15により重なった領域が加熱さ
れ、このとき、重なった領域に向い要素15のノズルから熱風が吹出る。前述の場
合の如く、密封温度に加熱される重なった領域は、加圧ローラ18によって一体に
押圧され、この場合には円形の円筒形断面を有する管22を形成する。」(4頁右
下欄1行目~13行目)との記載があり、第3図には、支持ローラがガイドローラ
としてウエブの両長手方向縁部が相互に近づくようにウエブを案内下降させている
技術が開示されている。
    以上によれば、ウエブ等の搬送に複数個のガイドローラを用いることで摩
擦抵抗を少なくして円滑に移送すること、そして、支持ローラがガイドローラとし
てウエブの両長手方向縁部が相互に近づくようにウエブを案内下降させることは、
当業者にとって周知慣用の技術にすぎないものと認められ、訂正考案は、当業者が
この周知慣用手段を引用例1の包装機に適用することによりきわめて容易に想到し
得たものというべきである。
    この点について、被告は、訂正考案が単に従来の支持板に代えて小径ガイ
ドローラを採用したものではなく、訂正事項のようなガイドローラの配設も構成と
していることを主張するが、周知例(甲第7号証)の第3図に訂正事項に相当する
技術の開示があることは上記のとおりであるから、訂正考案がガイドローラの配設
を構成としていることは、訂正考案の容易想到性に係る上記判断を左右するもので
はない。
    また、被告は、考案の進歩性の判断が相違点全体についての判断であるこ
とを主張するが、支持板を小径ガイドローラに代えること、訂正事項のように小径
ガイドローラを配設することは、上記のとおり、いずれも当業者にとって周知慣用
の技術にすぎないものと認められ、その技術内容に照らしても、当業者がこれら相
違点全体について想到することはきわめて容易であるというべきである。この点に
おいても、被告の主張は採用することができない。
  (3) 作用効果の判断の誤りについて
    審決は、訂正考案が、相違点に係る技術事項によって、本件明細書中に記
載された格別な作用効果を奏する旨(審決書15頁7行目~9行目)判断してい
る。そして、本件明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明中には、訂正考案の作
用として、①材料ウエブの筒状の内側長手方向縁部が小径ガイドローラに規制案内
されて転がり接触で移動するため、接触面における摩擦の影響を受けることがな
く、接着部近傍の表面の荒れを防止できること、②小径ガイドローラの表面にポリ
エチレンのかすがたまり、これがはがれてウエブ表面を汚すことを防止できるこ
と、③接着部へのポリエチレンの粉のかみ込みを防止し良好な接着を行うことがで
きること、④筒状の材料ウエブの内側の長手方向縁部にあらかじめ貼着されたスト
リップテープが外側の長手方向縁部の裏面に完全に溶着できることが記載されてい
るところ(4欄42行目~5欄21行目)、被告は、これらを訂正考案の格別の作
用効果として主張する。
    しかしながら、まず、④についてみると、訂正考案は、あらかじめ貼着さ
れたストリップテープの構成を有しないから、上記④の作用効果は、訂正考案の構
成に基づくものではない。また、その他の作用効果については、結局のところ、引
用例1の包装機における固定支持板の構成に代えて周知慣用技術であるガイドロー
ラ及び訂正事項に相当する構成の配設を採用したことによるものにすぎず、その程
度も、当業者の予測を超えた格別のものということはできない。
 2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由2は理由があり、この誤
りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき判断す
るまでもなく、審決は取消しを免れない。
   よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担並びに
上告及び上告受理申立てのための付加期間の付与につき行政事件訴訟法7条、民訴
法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   石   原   直   樹
            裁判官   長   沢   幸   男

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