弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中の被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人Aを懲役一年六月および罰金一万五、〇〇〇円に処する。
     原審における未決勾留日数中一八〇日を右懲役刑に算入する。
     被告人において右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇
円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
     但し、本裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
     押収にかかる白色粉末(覚せい剤粉末)一包(東京高等裁判所昭和四六
年押第五五七号の一)は、被告人からこれを没収する。
     当審における訴訟費用は、すべて被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、もと当審の弁護人Bおよび被告人本人作成名義の各控訴趣意
書ならびに弁護人秋本英男、同荒木勇作成名義の控訴趣意補充書(三枚目表一三行
目の「既に」を「新たに」と訂正したもの)に記載されたとおりであるから、これ
をここに引用し、これに対して、次のとおり判断する。
 被告人本人の控訴趣意および弁護人秋本英男、同荒木勇の同補充のうち訴訟手続
の法令違反を主張する部分について。
 所論は、いずれも、原審裁判官は、被告人に対して懲役刑の執行を猶予する判決
の宣告を終了した後に、検察官の申立により、不当にも更めて執行猶予を削除した
判決を言い渡したのであつて、現行法上このようなことが許容されないことは勿論
であるから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反が
あると主張する。
 そこで、記録を調査し当審における事実取調の結果を加えて、所論の当否につい
て検討するに、当審証人B、同C、同Dに対する受命裁判官の各尋問調書によれ
ば、被告人に対する頭書被告事件の判決宣告期日である昭和四六年六月一八日の第
六回公判における判決言渡の経過は次のとおりであると認められる。すなわち、原
裁判所は、被告人および共同被告人Eの両名に対する判決の宣告を主文の朗読から
はじめたのであるが、被告人について「懲役一年六月、未決勾留日数全部算入、三
年間懲役刑の執行猶予、保護観察に付す」旨の主文(なお、罰金刑、労役場留置お
よび没収の部分もあるが、ここでは暫らくこれを論外とする。)を朗読し、つづい
て、罪となるべき事実、証拠の標目、法令の適用の順に、その理由を告げている
裡、折柄法令の適用を述べていた際に、立会の検察官が被告人には累犯前科があつ
て執行猶予の要件を欠いている趣旨の発言をしたため、原審裁判官は、直ぐ判決理
由の告知を一時中断し、被告人を後方の長椅子に着席させて、即座に問題の点につ
きなおよく記録を調べた後に、出頭の弁護人に対し、いまの判決は間違つていたか
ら異存がなければこれを取り消して言い直したいと弁護人の意見を求めたところ、
同弁護人は被告人と相談のうえ異議ない旨答えたので、裁判官は再び被告人を起立
させ、改めて被告人に対し「懲役一年六月、未決勾留日数中二一一日算入」(罰金
刑、労役場留置、没収の部分は初めと同じ。)の判決を言い渡したのである。被告
人は、当審第三回公判において、判決の後裁判官から保護観察についての注意も受
け、退つてよいといわれて着席した後に、検察官から前記のような発言があつたも
ののように供述するけれども、該供述は前掲各証人に対する尋問調書と対照してた
やすく信用することができず、他に右の認定を左右するに足る証左は何もない。
 ところで、判決の宣告をするには、主文および理由を朗読し、または主文の朗読
と同時に理由の要旨を告げなければならないと定められている(刑訴規則第三五条
第二項)ことからも明らかなように、主文の由つて来たる事実上、法律上の根拠を
明らかにする理由の告知も当然判決宣告の手続に含まれ、主文と理由の両方を告知
しなければ、判決の宣告は未だ完了しないものと解するのが相当である。これを本
件についてみるに、原裁判所は、前記のとおり、法令の適用を告げている段階で、
判決の誤りを悟り、その場において、最初に朗読した執行猶予の主文を実刑の主文
に変更したのであるから、右猶予の判決は未だ宣告を完了せず、原審の前記公判に
おいて宣告されたのは、改めて言い渡された懲役刑の実刑判決であるということが
できる。このことは、現に、被告人自身も同年七月一日附控訴申立書には「懲役一
年六月の判決に対して控訴する」旨記載していることに徴しても明らかである。右
のような次第で、被告人に対する執行猶予の判決の宣告が既に完了していることを
前提として、原審の訴訟手続に法令違反があると主張する所論は、その前提におい
て採用し難い。もとより、判決の宣告は、裁判所の被告事件についての最終的な判
断を宣明するものであるから、その途中で裁判官が軽々に判決の内容、殊に主文を
変更するようなことは厳にこれを戒めなければならないけれども、君子の誤りは炳
として日月の蝕の如かるべく、その誤りは即刻これを改めることを憚つてはならな
いのであり、本件の場合、即刻誤りを訂正したことによつて直ちに法的な明確性や
安定性が損われたとは認められず、また訴訟経<要旨>済の見地からも、その訂正の
方法は上訴に限ると解さなければならない理由は存しないから、原裁判官が判決 要旨>理由の告知中に、検察官に指摘されたためとはいえ、誤りに気づいて、前叙の
ような経過で、即刻前記のような訂正をしたことを深く咎めることはできない。そ
れ故に、原審の措置に訴訟手続に関する法令違反があるということはできず、した
がつて、所論憲法第三一条違反の主張も理由がない。
 しかしながら、次に、職権をもつて調査すると、原判決は、法令の適用欄におい
て累犯の加重をしたうえで、併合罪の処理をするにあたり、原判決添付別紙犯罪一
覧表番号8の罪すなわち同判示第一の三の営利目的でした覚せい剤譲渡の罪の刑を
もつとも重いものとしてこれに併合罪の加重をしているけれども、刑法第二五六条
第二項、覚せい剤取締法第四一条の二、刑法第一〇条によれば、これよりも同判示
第一の一の賍物牙保罪の刑の方が重いから、当然これに併合罪の加重をすべき筋合
であり、また既に累犯加重がなされている以上、ここには当然に刑法第一四条の規
定もまた適用があるのである。原判決は、刑の軽重の判断を誤り、且つ刑法第一四
条の適用を遺脱した点において、法令の適用を誤つた違法があり、それが判決に影
響を及ぼすことは明らかであるから、この点において破棄を免れない。
 それで、前記被告人本人および秋本、荒木両弁護人のその余の論旨ならびにもと
弁護人Bの控訴趣意(いずれも量刑不当の主張)に対する判断を省略し、刑事訴訟
法第三九七条第一項・第三八〇条により、原判決中の被告人に関する部分を破棄
し、同法第四〇〇条但書に従い、更に自ら次のとおり判決する。
 原判決が確定した事実および法令の適用(但し、併合罪の処理につき、「もつと
も重い原判示第一の一の(一)の罪の刑に刑法第一四条の制限内で加重」と訂正す
る。)に従い、その処断刑期および合算額の範囲内において、本件各犯罪の性質、
態様、被告人の性行、経歴、前科および犯罪後の情況、今日では前刑の執行終了後
既に五年以上を経過し執行猶予の要件を充すに至つていることおよび原判決言渡の
経過等被告人にとつて有利不利な諸般の事情を考量して、被告人を懲役一年六月お
よび罰金一万五、〇〇〇円に処し、刑法第二一条により、原審における未決勾留日
数中一八〇日を右懲役刑に算入し、被告人において右罰金を完納することができな
いときは、同法第一八条により、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労
役場に留置し、同法第二五条第一項第二号を適用して、本裁判確定の日から四年間
右懲役刑の執行を猶予することとし、押収にかかる白色粉末(覚せい剤粉末)一包
(東京高裁昭和四六年押第五五七号の一)は、原判示第一の五の罪にかかり被告人
の所有するものであるから、覚せい剤取締法第四一条の五本文に従い、被告人から
これを没収することとし、当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項
本文により被告人に負担させる。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 龍岡資久 判事 沼尻芳孝 判事 桑田連平)

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