弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 一 本件抗告の趣旨及び理由は別記の通りである。
 二 (1)記録によれば、抗告人は、差押債権者をA、差押債務者をB、第三債
務者を抗告人とする大分地方裁判所の昭和三二年一二月一一日附債権取立命令を不
服とし、強制執行の方法に関する異議を申し立て、同裁判所は、昭和三三年一月二
八日附で異議を理由なしと認め、申立却下の決定をなし(口頭弁論期日に決定を言
い渡しているのではない。)、ついで、同裁判所書記官補は、その翌日の二九日午
後四時抗告人に対し、右決定正本を書留郵便に付して発送しもつて、これが送達を
了した旨送達報告書を作成している(原決定原本に民訴第二〇四条第二項所定の付
記、押印がなく、決定告知の方法が決定文自体からは明らかでないが、右書記官補
作成の送達報告書の記載に徴すれば、右は同条第一項の相当と認める告知の一方法
として、書留郵便により発送到達されることとし決定正本が右日時に抗告人に到達
し、告知されたとして取り扱つているものでないことが明らかである。)のに対
し、抗告人は、同年二月三日その送達を受けたと主張し、同月六日本件即時抗告を
なしたことが認められる。よつて、これが適法に抗告期間内に申し立てられたもの
であるかどうかを職権をもつて調査するに、右の書留郵便に付して発送したのは、
民訴第二〇四条第一項の告知方法として、送達の方法によつたものと解すべきとこ
ろ、該送達は、民訴第一七二条に基くものでないことが記録に照らし明<要旨第一>
白である以上、同第一七〇条第二項に従つてなしたものと解するの外はないのであ
るが、本件のような金銭債権の執行手続においては、第三債務者に対
し、同条項により送達をなすことは許さるべきでない。すなわち、強制執行手続の
上で、執行債権者、配当要求債権者、最高価競買人らに、いわゆる仮住所を定めて
執行裁判所に届けでる義務を課した規定はある(民訴第五二七条、第五九〇条、第
六二〇条、第六四六条、第七〇九条、第六六九条、第七一七条等)けれども、第三
債務者に関しては、かかる規定が安いばかりでなく、同法第一七〇条第一項が裁判
所云々という一般的な立言をしないで、特に受訴裁判所という表現方法を用いて限
定的に規定していること(裁判長、裁判所という一般的表現を示す第一七五条、第
一七七条から第一七九条まで、第一八一条と右第一七〇条第一項とを比較対照せ
よ。)から推論すれば、第三債務者は、強制執行手続に関しては、それから派生す
る異議の申立及び抗告手続においても、当該裁判所の所在地に、住所、居所、営業
所、事務所等を有しない場合といえども、いわゆる仮住所や送達を受ける場所、送
達受取人を定めて届けでる義務を負うものではなく、したがつて、かかる義務のあ
ることを前提する民訴第一七〇条第二項及び同条項による発送の効果を規定するか
ぎりにおいて同第一七三条は、第三債務者に対しては適用ないし準用がないと解せ
ざるを得ない。(差押債権者が第三債務者を相手どる取立の訴、後者が前者を被告
とする債権不存在確認の訴のごときにおいて、その適用を見るは、論をまたな
い。)以上の説示に徴し、原裁判所書記官補の抗告人に対してなした原決定の送達
は、違法であることが明らかであるけれども、前示のように、抗告人は昭和三三年
二月三日原決定の送達を受けたことを主張し、これを自認するのであるから、(右
日時より前に前示書留郵便が到達し、抗告人が原決定の告知を受けたという証拠は
ない。)右送達の違法はここに責問権の喪失によつて治癒され、原決定正本は、右
二月三日抗告人に送達された効果を生ずるものというべく、本件抗告状が、同年同
月六日原裁判所に提出受理されていることは、記録上明白であるので、本件抗告は
即時抗告の期間内に申し立てられた適法なものと解すべきである。
 (2) よつて、進んで抗告理由について判断する。
 差押債務者Bが抗告人(第三債務者)に対して有する債権(以下本件債権と書
く)は、差押債権者Aにおいて、本件取立命令前に、同一の債務名義に基いて、本
件債権の転付命令を申請し、司命令が発せられたところ、当時既に本件債権は、そ
の全額につき、執行債務者Bの債権者Cから仮差押を受け、右転付命令の送達され
た当時において、仮差押の執行が存続していたことは、原審が証拠によつて適法に
認定したところである以上、Aの申請に基いて発せられた、右転付命令は、その本
来の効力を生ずるに由なく、その取消をまつまでもなく、実質上無効と解されるの
で、かような場合、転付債権者は、転付命令を得たのと同一の債務名義に基いて、
被転付債権たる執行債務者の第三債務者に対して有する債権を目的として、取立命
令を申請しうるものというべきであるから、Aが、本件債権を転付した後、同一の
債務名義に基いて、本件債権を対象とする取立命令を申請し、原審が申請に副う取
立命令を発したのは、もとよりそのところであつて、所論は、これに反する独自の
見解を主張するもので、採用に値しない。その他、原決定に違法の点はなく、原審
が、抗告人の申し立てた異議を、すべて理由がないと認めて却下したのは相当で抗
告は理由がない。(原決定三枚目表三行から四行にかけて「債権差押命令」とある
のは「債権取立命令」の誤記であることは、決定の前後を通覧して明白である。)
 (3) なお、付言すれば、第三債務者は債権差押及び取立命令に対し異議を申
し立て得ないとの古い大審院判決の傍論があり(明治三八年一一月三〇日判決録一
五九二頁等参照)、今なおこれが一部裁判実務の上に反映して右傍論に従う裁判例
もあるのて、ここに当裁判所の見解を陳べておきたい。右判決の理論に従えば、第
三債務者の申し立てた異議は、理由の有無を問わず、不適法として却下すべきて、
理由なしとして排斥すべきではない。(この点当事者適格の不存在の場合、訴却下
の判決をなすべきかと関連し、周知のとおり争はある。)
 <要旨第二>しかし、当裁判所は原審とひとしく右判決の傍論は相当でないと認め
る。けだし、第三債務者は、差押、取立命令の対象となつた債権が、法
律上差押、譲渡禁止の債権である(大正一五年三月二二日大審院判決、昭和四年五
月八日同決定参照)とか、あるいは、差押、取立命令が強制執行開始の要件を欠く
(昭和一〇年四月二三日大審院決定参照)など執行手続上の違法があるにもかかわ
らず、取立命令が発せられた場合においては、該命令に対し、執行債務考と離れ独
自の立場で、異議を申し立てる利益を有するものというべく(この点異説の少ない
日、独における通説であろう)、しかして、第三者が執行債務者所有の動産を適法
に占有し、(いずれは、執行債務者に返還弁済すべき関係にあること、第三債務者
の執行債務者に対する関係に類似する。)その提出を拒絶しえにもかかわらず(民
訴五六七条参照)、執行吏がこれを差し押えたときは、第三者は執行手続上の違法
を理由として、異議の申立をなしうると共に、右動産の占有権という実体上の理由
を主張して、第三者異議の訴を提起しうるとの判例(大正一〇年二月三円大審院決
定、二九三頁)、また、第三考の所有かつ占有する動産を、執行債務者の所有に属
するとして、第三者が提出を拒絶したにもかかわらず、執行吏がこれを差し押えた
ときは、第三者は執行の方法に関する異議を申し立てうるし、また、第三者異議の
訴も提起する、ことができる、必ず後者の訴によらなければならないという道理は
ないとの判例(昭和一〇年三月二六日大審院決定、四九五頁)がある。これら判例
の趣旨から推度すれば、取立命令に対し、異議及び抗告を許さないとする説が、取
立命令に対する異議または抗告につき、なされる決定は、既判力を有しないという
ことを根拠とし、あるいは取立命令は、第三債務者に対し強制執行力を有しないの
で、第三債務者は、差押債権考との訴訟において、差押命令、取立命令の違法もし
くは、その実質的無効を主張して、争を解決しうるので、第三債務者に異議、抗告
を許す必要がないということを主たる根拠とするのは、理由のない見解だと言わざ
るを得ない。消極説は帰するところ、訴訟において解決する救済手段があろかぎ
り、強制執行の方法に関する異議は許されないという結論に達せざろを得ないであ
ろうし、到底組しがたい見解である。
 三 よつて、民訴第四一四条第三八四条第九三条第八九条に従い主文の通り決定
する。
 (裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)

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