弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人小林哲郎の上告理由について。
 手形交換所の取扱いとして、不渡届に対し支払銀行が手形金額に相当する現金を
提供して異議申立をなしたときは取引停止処分を猶予するものとされているが、こ
の異議申立における現金の提供は、支払銀行が該手形不渡をもつて手形債務者の信
用に関しないものと認め、手形債務者に支払能力のあることを証明するためのもの
であり、また右提供金はいずれは必らず交換所から支払銀行に返還されることにな
つているのであるから、これによれば、右提供金は不渡手形の後日の支払に充てら
るべき性質のものとはいえず、従つてまた、右提供金のための資金が手形債務者か
ら支払銀行に預けられた場合のその預け金も、手形債務者と手形債権者間に特別な
契約をしない限り、不渡手形の支払に充てらるべき性質のものであるとはいえない。
それ故に、支払銀行が、手形債務者に対して有する反対債権と右預け金返還債権と
を相殺することが、手形債権者との関係で制限されるものとすべき理由はない。し
かして、弁済期到来前に受働債権の転付があつた場合でも、債務者が右の転付命令
送達当時すでに弁済期の到来している反対債権を有する以上、転付債権者に対し相
殺をもつて対抗することができることは、当裁判所の判例(昭和三二年七月一九日
第二小法廷判決、民事判例集一一巻七号一二九七頁)とするところであり、本件の
場合原審確定の事実によれば、上告人は訴外有限会社Dの被上告人に対する預け金
返還債権の転付を受け、同債権の弁済期は昭和三二年三月一一日到来したものであ
るが、被上告銀行は右転付命令送達の同年三月七日当時すでに弁済期に達している
貸付金債権を前記訴外会社に対し有しており、上告人に対し同月一二日到達書面で
両債権について相殺する旨意思表示をしたというのであるから、右預け金が所持人
を上告人とする右訴外会社振出の約束手形不渡に関し異議申立提供金のための資金
として預けられたものであるからといつて、かかる預け金の前叙のような性質より
すれば、本件相殺を有効と認むべきことについては、別異に解しなければならない
ような理由とはならない。所論は右の異議申立提供金及びこれが資金をなす預け金
について独自の見解を立て、これを前提として原判決の違法をいうものであり、採
用し得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊

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