弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を福岡高等裁判所宮崎支部に差し戻す。
         理    由
 上告代理人利岡晴樹名義の上告理由第一点ないし第三点について。
 建物所有を目的とする借地契約において、その借地上の建物に対し通常の修繕の
域をこえる大修繕をした場合には、その建物の築造後の経過、修繕前の状況、修繕
の実態、修繕当時の老朽の度合、賃貸人の修繕についての態度、その他諸般の事情
があるときには、その借地契約は、右建物が現実に朽廃していなくても、その修繕
前の建物が朽廃すべかりし時期に、終了するものと解されることのあることは、当
裁判所の判例(当裁判所第一小法廷判決昭和四一年(オ)第三〇〇号、同四二年九
月二一日民集二一巻七号一八五二頁参照)とするところである。したがつて、原判
決の判示するように、本件各家屋の敷地の一部が建設省に買収された当時本件各家
屋は建築後三〇年余も経過して外観上かなり老朽化している部分が看取されるよう
な状態であり、また、本件記録、とくに、甲二・四号証の各一ないし三、同三号証
の一ないし五、同五・六号証の各一ないし四ならびに鑑定人Dの鑑定の結果に添付
された図面によると、本件各家屋の構造と移転前の各家屋(以下旧家屋という)の
構造とはかなり異なり、かつ、本件旧家屋の老朽の度合は概して非常に進んでいた
ような事情がうかがわれるのであり、このような事情のもとでは、事実審たる原審
としては、ただ単に本件旧家屋が朽廃したかどうかにとどまらず、前記判例の趣旨
に従い、本件各旧家屋の移築前の状況、本件旧家屋の構造と本件家屋の構造の異同
とその異同の生じた事由、移築にさいし修繕・増改築された本件各家屋の材料関係
(たとえば旧家屋の材料および新材料の用いられている範囲・部位およびそうしな
ければならなかつた事由)本件各家屋の移築のさいの賃貸人たる上告人の態度その
他諸般の事実関係を確定したうえで、果たして本件借地契約が本件各旧家屋の朽廃
すべかりし時期に終了するかどうかを慎重に決して判断しなければならないところ
である。
 しかるに、原判決は、移築後の本件各家屋の材料、移築関係の事実の一部を確定
しただけで、本件各家屋に、前記買収の当時、修繕・増改築がされたけれども、い
ずれも建物の移築に伴うもので、その同一性を失わせまたは新築に近いほどの大改
造・大修繕といえるものでなく、その耐用年数も経過していないから、本件各家屋
は借地法二条一項但書にいう朽廃にあたらないとして、上告人の借地契約の終了に
伴う本訴請求をすべて否定したのは、法令の解釈・適用をあやまつた結果、審理不
尽の違法をおかしたものというべく、この点の違法をいう論旨は理由があり、原判
決は破棄を免れない。
 なお、付言するに、本件は、国道建設という公共の目的のためにされた土地の買
収に伴い、本件各家屋が移転を余儀なくされたというのであるから、その移転に伴
う通常の修繕などをすることは当然許されるべきものであるが、本件各家屋の修繕・
増改築が通常の修繕といえるかどうか、さらに本件各家屋の構造・朽廃その他前記
説示した事実関係に基づき、その朽廃または朽廃すべかりし時期を認めるかどうか、
これを認めるとしてもその朽廃すべかりし時期が同一であるかどうかについて、慎
重に考慮されなければならない。
 よつて、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すことにし、民訴法四〇七条に従
い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    関   根   小   郷

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